« 2018年8月 | トップページ | 2018年10月 »

2018年9月30日 (日)

2018年9月のお仕事

2018年9月に公開されたお仕事の、ほんの一例です。随時更新していきます。
(※9月27日更新)


[紙] 9月27日発売「ヘドバン presents 月刊 伊藤政則(仮)」にて、「俺たち(私たち)のセーソク・アンケート2018」に寄稿しました。(Amazon

[WEB] 9月23日、「リアルサウンド」にて新譜キュレーション記事「U.D.O.、Mantar、Annisokay……ジャーマンメタル&ラウドシーンの過去と未来をつなぐ新作10枚」が公開されました。

[紙] 9月22日発売「TV Bros.」2018年11月号にて、EMPiRE『EMPiRE originals』、yonige『HOUSE』、THE LEMON TWIGS『GO TO SCHOOL』の各ディスクレビューを執筆しました。(Amazon

[紙] 9月18日発売「別冊カドカワ 総力特集 欅坂46 20180918」にて、夏の全国アリーナツアー全11公演 完全レポート&メンバーコメンタリー、土生瑞穂 巻末インタビュー、線香姉妹(小林由依、土生瑞穂)インタビュー、今泉佑唯インタビュー、アートディレクター米澤潤×フォトグラファー神藤剛 インタビュー、新宮良平監督インタビューを担当・執筆しました。(Amazon

[WEB] 9月6日、けやき坂46主演舞台「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」特設サイトにて推薦文を提供しました。

[紙] 9月4日発売「日経エンタテインメント!」2018年10月号にて、欅坂46菅井友香の連載「菅井友香のお嬢様はいつも真剣勝負」を構成・執筆しました。(Amazon

[WEB] 9月3日、「BUBKA WEB」にて乃木坂46斉藤優里×新内眞衣インタビュー「女社会を10倍楽しむ方法」の序文が公開されました。

[WEB] 9月1日、けやき坂46主演舞台「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」特設サイトにて公開中の公演ダイジェスト映像にコメントを提供しました。

=====

また、8月に当サイトで紹介したアルバムから各1〜2曲程度ピックアップして、30曲程度のプレイリストを制作しました。題して『TMQ-WEB Radio 1808号』。一応曲の流れなんかも考慮しつつ曲順を考えておりますので、レビューを読む際のBGMにするもよし、何も考えずにダダ流しするもよし。おヒマなときに聴いていただけると嬉しいです。

投稿: 2018 09 30 12:00 午後 [「仕事紹介」] | 固定リンク

LENNY KRAVITZ『RAISE VIBRATION』(2018)

ここ数作、古巣のVirgin Recordsを離れ、アルバムごとに所属レーベルが変わっているレニー・クラヴィッツ。前作『STRUT』(2014年)はソニー系列からのリリースでしたが、4年ぶりの新作『RAISE VIBRATION』はBMG(ワーナー配給)からの発売となります。

通算11枚目のスタジオアルバムとなる本作は、レニー本人のプロデュースのもと、長年のコラボレーターであるクレイグ・ロス(G)&デヴィッド・バロン(Key)との共同作業の末完成。ロックンロール色が後退し、初期の作品からプンプン匂っていたファンク色が濃厚になった、異色の1枚となっています。

まるで賛美歌のような厳かさと力強いビートがミックスされた「We Can Get It All Together」から始まると、その後は「Low」「Who Really Are The Monsters?」とファンク攻め。特に前者にはマイケル・ジャクソンのような抜けの良さがあり、後者はプリンス的な密室ファンク的要素が感じられる。「マイケルもプリンスも亡き今、俺が引き継ぐ!」とは考えていないでしょうけど、なんとなくその覚悟が感じられる……と思ったのは僕だけでしょうか。

その後もファンクロック的粘っこさがカッコいい「Raise Vibration」があったかと思うと、セクシーなソウルバラード「Johnny Cash」、もの悲しげなピアノバラード「Here To Love」など、歌をしっかり聴かせる曲が続きます。

8分近くあるラテン調ファンクの大作「It's Enough!」や、ディスコロックという表現がぴったりな「5 More Days 'Til Summer」、ブラスの音が気持ちいいグルーヴィーなミディアムチューン「The Majesty Of Love」、中期ビートルズ的サイケデリック感の強い「Gold Dust」、アコギが印象的なミドルナンバー「Ride」、そしてラストを締めくくる密室系ソウルバラード「I’ll Always Be Inside Your Soul」で幕を降ろします(日本盤ボーナストラック「Low」デヴィッド・ゲッタ・リミックスは除く)。

さまざまな苦悩を経て到達した本作は、テーマ的にはデビュー作『LET LOVE RULE』(1989年)の頃に立ち返った1枚と言えるかもしれません。来年でデビュー30周年を迎えるタイミングだけに、そこを見つめ直したのはある意味では正解と言えるでしょう。そこに加え、ポリティカルな主張も忘れていない。音楽的には大きな成長が感じられるし、と同時に温故知新も忘れていない。原点回帰とはいえ、むしろあの頃と同じものではない。そこらへんから、ようやくレニーが真の意味で復活を果たしてくれたのでは……と感じているのですが、いかがでしょう?

2015年の来日公演が中止になり、過去にも同様の件があったことから「やっぱりな……」と残念に感じていましたが、ここらでひとつ本気の姿を日本でも見せてほしい。そう願っております。



▼LENNY KRAVITZ『RAISE VIBRATION』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外デラックス盤CD / MP3

投稿: 2018 09 30 12:00 午前 [2018年の作品, Lenny Kravitz] | 固定リンク

2018年9月29日 (土)

GARBAGE『GARBAGE』(1995)

NIRVANAの『NEVERMIND』(1991年)やTHE SMASHING PUMPKINSの『SIAMESE DREAM』(1993年)などで知名度を上げたプロデューサー/エンジニアのブッチ・ヴィグ(Dr, EFX)が、仕事仲間のスティーヴ・マーカー(B)、デューク・エリクソン(G)、そして紅一点シャーリー・マンソン(Vo)とともに結成したUSバンドGARBAGE。彼らが1995年8月にリリースしたデビューアルバムが、バンド名を冠したタイトルの本作です。

本作は全米20位(200万枚以上)、全英6位とこの時点ではイギリスでの人気が高く、シングルもアメリカでは「Vow」(全米97位)、「Only Happy When It Rains」(同55位)、「Stupid Girl」(同24位)という結果に対し、イギリスでは「Vow」(全英138位)、「Only Happy When It Rains」(同29位)、「Queer」(同13位)、「Stupid Girl」(同4位)、「Milk」(同10位)とヒットに恵まれています。また、アルバム未収録曲「Subhuman」もイギリスではシングルヒット(同50位)と、かなり景気が良いのがわかります。

さて、気になるサウンドですが、“グランジらしさ”をところどころに感じさせつつも、実際にはもっとクラブミュージックのカラーが強い作風。ギターを軸に曲作りをしているわけではなく、あくまで芯にあるのはシャーリーの歌。そこにスタジオワークに長けたメンバーたちがグランジやオルタナティヴロック、シューゲイザー、トリップホップなどさまざまな装飾を付け加えていくわけです。

ちょうどアメリカではグランジが死に、ベックなどヒップホップけと傾倒したダウナーなサウンドが人気を博し、イギリスではOASISBLURを筆頭としたブリットポップブームが勃発し、同時にUNDERWORLDMASSIVE ATTACKをはじめとするダンスミュージックが盛り上がり始めていた。そんな中登場したGARBAGEのサウンドは、まさしく“ちょうどいい”加減の内容だったのではないでしょうか。

また、シャーリー・マンソンのルックス……女性的な美しさと、どこかドラァグクイーン的な側面も持ち合わせた、カリスマ的な佇まいと歌声も、その“ちょうどよさ”に拍車をかけたような気がします。

今聴いても、本当にカッコいいアルバムですよね。オープニングの「Supervixen」のイントロやグランジならではの強弱法を用いたアレンジ、「Queer」の気怠さ、「Only Happy When It Rains」の切なさ、「Not My Idea」のデジロックっぽさ、「Stupid Girl」のポップさ、そして「Milk」のトリップホップ的チルアウト感……寸分の隙もない、完璧なデビューアルバムだと思います。

が、こんなのはほんの序の口。彼らは続く『VERSION 2.0』(1998年)でさらなる音楽的飛躍を遂げることになります。



▼GARBAGE『GARBAGE』
(amazon:国内盤2CD / 海外盤CD / 海外盤2CD / MP3

投稿: 2018 09 29 12:00 午前 [1995年の作品, Garbage] | 固定リンク

2018年9月28日 (金)

SKUNK ANANSIE『PARANOID & SUNBURST』(1995)

1995年9月リリースの、SKUNK ANANSIEのデビューアルバム(日本では同年11月にリリース)。プロデューサーはシルヴィア・マッシー(TOOLSYSTEM OF A DOWNRED HOT CHILI PEPPERSなど)が担当。「Selling Jesus」(全英46位)、「I Can Dream」(同41位)、「Charity」(同40位/1996年の再発時は20位)、「Weak」(同20位)とヒットシングルが多数生まれ、アルバム自体も全英8位まで上昇するヒット作となりました。

当時のメンバーはスキン(Vo)、エース(G)、キャス(B)の3人。レコーディングまでロビー・フランスというドラマーが参加していましたが、発売を前に脱退。なので、ジャケットには3人しか写っていないわけです。ちなみに、本作発表後に元LITTLE ANGELS、のちにFEEDERにも加わるマーク・リチャードソンが加入しています。

このバンドはRAGE AGAINST THE MACHINE以降のファンクがかったヘヴィロックをベースに、ときにダブやレゲエ、エレクトロの要素も加えてバリエーションを出すサウンドスタイルと、スキンの圧倒的な歌唱力とその存在感の強いヴィジュアルが魅力。デビュー作の時点ではサウンド的にもっと焦点が定まっているというか、ヘヴィロック色が全作品中もっとも高い1枚かと思います。

かつ、歌詞は非常にポリティカルであったり、宗教問題を扱ったりと、サウンドともども攻撃的。アルバムのオープニングからして「Selling Jesus」ですしね。この曲を筆頭に、ベースがバキバキいいながらグルーヴィーにのたうちまわるサウンドは、本当に気持ちいい。

かと思えば、「Charity」のようにソウルフルなバラード、「Weak」みたいに比較的落ち着いたートーンのミディアムナンバーも収められている。攻撃一辺倒ではなく、ちゃんと音楽として聴かせることも忘れていない(当たり前か)。落ち着いたトーンからジワジワと熱量が上がっていく「100 Ways To Be A Good Girl」も素晴らしい。

RATMみたいにラップで表現しているわけではなく、スキンという女性シンガーが圧巻の歌唱力で表現することで伝わるものもあるはず。残念ながら歌詞・対訳を読まねばその詳細まで理解することは、我々日本人には難しいことかもしれません。だからこそ、本作を含む一連の作品が廃盤状態なのは非常に惜しいところ。もちろん中古店をくまなく探せば見つかると思いますが、本作リリース当時はここ日本ではブリットポップブーム。同じイギリス出身でもこの手のバンドは敬遠されていた記憶があるので、とにかくじっくり探してみることをオススメします。

で、本作が気に入れば次作『STOOSH』(1996年)はもっと気にいるでしょうし、3rdアルバム『POST ORGASMIC CHILL』(1999年)ではその音楽的成長に驚くはずです。



▼SKUNK ANANSIE『PARANOID & SUNBURST』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 28 12:00 午前 [1995年の作品, Skunk Anansie] | 固定リンク

2018年9月27日 (木)

THERAPY?『INFERNAL LOVE』(1995)

1995年6月にリリースされた、THERAPY?のメジャー3rdアルバム(日本では同年7月、アメリカでは翌1996年1月発売)。チャート/セールス的に大成功を収めた前作『TROUBLEGUM』(1994年)から1年半という短いスパンで制作された本作では、プロデューサーにアル・クレイ(THE WiLDHEARTSREEFフランク・ブラックなど)を迎え、さらに曲と曲をつなぐサウンドエフェクトをクラブ系アーティストのデヴィッド・ホルムスが担当。ポスト・グランジ的なザクザク感と疾走感が印象的だった前作とは異なる、ムーディで閉塞感の強いダークな作品を作り上げることに成功しています。

イギリス国内ではブリットポップ・ムーブメントが勃発し、猫も杓子も“第二のOASIS”、“新たなBLUR”を求め続けた1995年。そんな中、THERAPY?はもうひとつの新たなムーブメント……UNDERWORLDTHE PRODIGYが築き上げようとしていたエレクトロミュージックの世界へと接近……というほどでもないですが、旬なDJ(デヴィッド・ホルムス)を迎えることで、彼らの根底にあるダークでゴシックな世界観をより強化させました。もともと、彼らのメロディにはそういった影の部分が備わっていましたし、そこに特化したアルバムを作ろうと考えることは、ごく自然な流れだったのでしょう。

前作で得た手応えから、バンドはストリングスやホーンセクションを導入することにもまったく躊躇しません。リードシングル「Stories」のブラスなんて、最初に聴いたときはひっくり返りましたけど(笑)、今では「これがないと物足りない」と感じるくらいには馴染みましたし、「Bowels Of Love」や「Diane」のストリングスも絶対に必要な要素だと断言できるくらい重要ですしライブでの再現よりも、アルバムとしての完成度を考えた結果の選択肢。僕は全面支持したいな。

楽曲面でも、前作にあった陽の要素は完全に消え失せ、全編マイナーコードの切ないメロディばかり(メジャーコードの「Bad Mother」ですら物悲しく聴こえてくるし)。そういった楽曲を盛り上げる曲間のサウンドエフェクトは、確かに賛否あると思います。実はこれ、日本盤ではすべてカットされているんですよね。普通に1曲終わったらすぐ次の曲という具合に。リリース当時、僕は日本盤を購入して、ずっとそれを聴いてきたものですから、数年前にデラックスエディションが発売された際にリマスター盤の『INFERNAL LOVE』で初めてサウンドエフェクト入り(オリジナルのイギリス盤)を聴いたときには「……えっ?」と驚いたものです。

もちろん、日本盤のような聞かせ方も悪いわけではなく、最初に聴いたのがこっちだったらこれが当たり前になるわけですし。でも、作者の意図を考えたら、正解はイギリス盤のエフェクトありのほうなんですよね。最近はもっぱらオリジナル盤のほうばかりを聴いているので、完全にそっちに馴染みましたが(ストリーミングに置かれているのは、オリジナル盤のほう)。

ちなみに、本作でチェロを弾いていたマーティン・マッカリック(ex. SIOUXSIE AND THE BANSHEES)はそのまま本作のツアーに参加し、のちにギター&チェロ担当でバンドに加入。THERAPY?は次作『SEMI-DETACHED』(1998年)から4人編成バンドとして活動していくことになります。



▼THERAPY?『INFERNAL LOVE』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤2CD / MP3

投稿: 2018 09 27 12:00 午前 [1995年の作品, Therapy?] | 固定リンク

2018年9月26日 (水)

BLUR『PARKLIFE』(1994)

1994年4月はイギリスの音楽シーンにとって大きな分岐点となりました。それはOASISがシングル「Supersonic」でデビューを果たし、BLURが通算3作目のアルバム『PARKLIFE』を発表したから……このブリットポップ2大バンドが、その後を大きく変えてしまうスタイルでシーンのど真ん中に立とうとした、そんな記念すべき瞬間でした。

BLURはデビュー作『LEISURE』(1991年)の時点で全英7位を記録し、マッドチェスターやらシューゲイザーやらが流行りつつある英国シーンの中で大健闘します。ですが、続く“very british”な2ndアルバム『MODERN LIFE IS BUBBISH』(1993年)がセールス的には前作に及ばず(全英15位)、このまま人気を落としていくのかと思いきや、『MODERN LIFE IS BUBBISH』での“very british”路線をさらに濃くした『PARKLIFE』というアルバムでキャリア最大の成功を収めることになります。

チープな打ち込みリズムにグルーヴィーなベースライン、途中から加わるオルタナティヴロック色の強いザラザラしたギター。そんな中、デーモン・アルバーン(Vo)はサビでシンプルなフレーズをひたすら繰り返す。この中毒性の強い「Girls & Boys」が全英5位を記録したのを筆頭に、ひと昔前のポップス的アレンジで聴き手を惹きつける「To The End」(同16位)、映画『さらば青春の光』で主演を務めた俳優フィル・ダニエルズをフィーチャーした“90年代の英国国家”「Parklife」(同10位)、前作からの延長線上にありながらもよりBLURらしさが極まった「End Of Century」(同19位)と、とにかくインパクトの強いヒットシングル満載。アルバムは当然1位を獲得し、本国イギリスだけで100万枚を超える大ヒット作となりました。

もちろんこのほかにも、イギリスのバンドらしいひねくれ感満載の「Tracy Jacks」や「Jubilee」、グレアム・コクソン(G, Vo)のオルタナ感がストレートに表れた「Bank Holiday」や「Trouble In The Message Centre」、ファンキーなリズム&ギターフレーズが心地よい「London Loves」、そしてアルバム終盤を劇的に盛り上げる「This Is A Low」など、とにかく名曲目白押し。さらに、「The Debt Collector」などアルバムの合間に用意されたインスト/インタールードも良い味を出しており、アルバムを通して聴く際の箸休め的役割を果たしています。

前作『MODERN LIFE IS BUBBISH』と本作、そして続く『THE GREAT ESCAPE』(1995年)がBLURにおける“ブリットポップ3部作”と呼ばれており、デーモンの「ブリットポップは死んだ」宣言が記憶に残る『BLUR』(1997年)以降の作品と一線が引かれています。にしてもさ、『MODERN LIFE IS BUBBISH』から『THE GREAT ESCAPE』までのBLURって、年に1枚アルバムを出しているんですよね……そりゃあ燃え尽きますよ。しかも、周りからはOASISとの比較でいろりろ焚きつけられたわけですから、「ブリットポップは死んだ」と宣言する権利は彼らにこそあると思います。そんな、良くも悪くも“時代”を作ってしまった1枚です。



▼BLUR『PARKLIFE』
(amazon:国内盤CD / 国内盤2CD / 海外盤CD / 海外盤2CD / MP3

投稿: 2018 09 26 12:00 午前 [1994年の作品, Blur] | 固定リンク

2018年9月25日 (火)

OASIS『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』(2000)

リアム・ギャラガーのソロ活動も、そしてノエル・ギャラガーのHIGH FLYING BIRDSも、おそらくこのアルバム以降の音楽性がベースになっているんじゃないか、と勝手に思っています。ということで、名盤中の名盤である初期2作を差し置いて、このアルバムをピックアップします。

2000年2月にリリースされた、OASIS通算4作目のオリジナルアルバム『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』。ボーンヘッド(G)もギグジー(B)も脱退し、残ったのはリアム(Vo)&ノエル(G, Vo)のギャラガー兄弟と、2枚目『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』(1995年)から参加のアラン・ホワイト(Dr)のみ。この3人が中心となって(ノエルがベースを兼務)、新たなプロデューサーとしてマイク・スパイク・ステント(U2ビョークDEPECHE MODEマドンナなど)を迎えて制作された、従来のイメージを覆すような(それまでのファンからしたら)異色作。

前作『BE HERE NOW』(1997年)で顕著になり始めたサイケデリック感が急増。中期ビートルズ感をさらに強めることに成功しただけでなく、適度に打ち込みと同期させることで当時主流だったダンスミュージック側にも接近し、“遅れてきたマッドチェスター”感なんかもにじみ出しちゃったりして、「僕たち、思いっきり売れちゃったから好き放題しまーす」的な意思表示にも感じられる。そんなやりたい放題なアルバムが、この4作目なんじゃないかなと。

だって、5人だったバンドが3人になり、もはやギャラガー兄弟のイエスマンしか残っていない状況なんですから(まあそれ以前も似たようなもんでしたが)、前の3枚である意味一生分稼いだわけだし、ここからは趣味としてOASISを続けていけばいいや……と思ったかどうかは知りませんが、もし本当にそうだとしたら良くも悪くもプレッシャーを一切感じさせない内容に思えてきませんか?

オープニングのインスト曲「Fuckin' In The Bushes」から自信に満ち溢れており、続くシングル曲「Go Let It Out」「Who Feels Love?」での“らしさ”と“新しさ”の融合。前作でのドーピング感を引き継ぐハードロック「Put Yer Money Where Yer Mouth Is」「I Can See A Liar」、リアムが初めて書き下ろしたオリジナル曲「Little James」、6分超えのプログレッシヴな「Gas Panic!」や「Roll It Over」に、ノエル印の哀愁バラード「Where Did It All Go Wrong?」に新境地的アレンジの「Sunday Morning Call」と、聴けば真新しさだけでなく今までのOASISらしさもしっかり残されている。なんだ、ちゃんと気を遣ってるんじゃないの?と思ったり思わなかったり。

まあ、確かに初期2作と比べればパンチが弱いですし、尺の長い曲ばかりで濃厚な前作のあととなると薄味といった印象の本作ですが、それでも嫌いになれない。彼らのアルバムの中でも比較的上位に入るくらい好きな1枚です。

きっと、本作の印象が悪いのはこのアルバムでの来日時のリアムの行動(全然声が出てない→それによるライブ短縮、もしくは5曲で離脱→残りを全部ノエルが歌う)が記憶に強く残っているからかもしれませんね(詳しくは当時のライブレポート参照)。

あ、追記。アルバム完成後に元HEAVY STEREOのゲム・アーチャー(G)と、元RIDE&元HURRICANE #1のアンディ・ベル(B)が加入。このメンツでツアーを重ねることで、次作『HEATHEN CHEMISTRY』(2002年)で再びバンドらしさが復活することになります。



▼OASIS『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 25 12:00 午前 [2000年の作品, Oasis] | 固定リンク

2018年9月24日 (月)

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS『WHO BUILT THE MOON?』(2017)

リアム・ギャラガーについて書いたのだから、ここはフェアにノエル・ギャラガーの新作についても書いておかねばいけませんね。

ということで、2017年11月にリリースされたNOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS名義による3作目のアルバムです。ノエルはさすがOASISのメインソングライター(そして「Don't Look Back In Anger」の歌い手)ということもあってか、ここまでの3作すべて全英1位を獲得しています。が、シングルは「Holy Mountain」(全英31位)、「It's A Beautiful World」(同77位)、「She Taught Me How To Fly」(同71位)と、リアム同様低調です。

レコーディングは相変わらず豪華で、ジェイソン・フォークナーがベースギターでほぼ全面参加しているほか、ポール・ウェラーがオルガンで、ジョニー・マーがギター&ハーモニカでゲスト参加しております。

打ち込みを積極的に導入しつつも、ベースになるのはやはりロックバンドによる生演奏。そのバンド感をしっかり活かしつつ、派手なロックンロールナンバーやグルーヴィーなソウルチューン、涙腺を刺激するバラードなど、いかにも“OASISのノエル”らしい仕事ぶりで従来のリスナーを楽しませてくれます。

特にこの新作では、プロデューサーのデヴィッド・ホルムスの影響もあってか、ロックンロール色よりもダンス色が強まっているような。「It's A Beautiful World」なんて、その色が顕著に表れた例ですよね。そこに中期〜後期OASISのサイケでリアが加わることで、「まだOASISが続いていたら、こんなスタイルのアルバムも作っちゃったのかも……」と思わされたり。それが良いか悪いかは別として。

ただ、考えてみたらノエルってOASIS在籍時からTHE CHEMICAL BROTHERSやゴールディとコラボしたり、昨年もGORILLAZのアルバムに参加したりと、意外とそっち方面にも積極的に踏み込んでいるんですよね。そりゃあ、こんな音に前向きだったとしても当たり前といいますか。ファンならそのへん、わかってあげたいという気持ちも無きにしも非ず。

従来のリスナー/ファンからは本作、過去2作ほど評価は高くないようですね。実際、セールス的にもどんどん落ちているようですし。が、個人的にはやっと“OASISの幻影を払拭できた”意欲作ではないかと考えています。もちろん“OASISらしさ”は自然とそこに残っているのですが、意識せずにそこを消すことをしなくても今のノエルがちゃんとにじみ出る。それが3作重ねることでようやく無意識でできるようになった。そんな過渡期にある1枚なのではないでしょうか。

個人的にはマンチェスター出身の自分のルーツをストレートに表した「She Taught Me How To Fly」と、“消せないものは消せないんだ”と実感させられる「The Man Who Built The Moon」が好き。ボーナストラックの「Dead In The Water」もOASIS時代のシングルカップリング曲の“隠れた名曲”感があって、お気に入りです。

そういえば、このアルバムのツアーからOASIS時代の盟友ゲム・アーチャー(G)が参加しているんですよね。サマソニ、観ておけばよかったかな(日程的に無理だったけど)。



▼NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS『WHO BUILT THE MOON?』
(amazon:国内盤CD / 国内盤CD+DVD / 海外盤CD / 海外デラックス盤CD / MP3

投稿: 2018 09 24 12:00 午前 [2017年の作品, Noel Gallagher's High Flying Birds, Oasis] | 固定リンク

2018年9月23日 (日)

LIAM GALLAGHER『AS YOU WERE』(2017)

リアム・ギャラガー、つい数日前まで来日公演を行ってましたね。昨年8月のサマソニ以来で、あのときはフェスと東京での単発ライブのみ(こちらは行きました)、しかもアルバム発売前だったから、これが初の本格的なジャパンツアー。直前になって13日の武道館公演(なんと、1998年のOASIS以来20年ぶり!)に行こうかなと思ったら、なんとその日は夜からインタビュー。仕方ないよね、そういうこともあるか。

というわけで、今日は昨年のリリース時に取り上げ忘れていたリアム初のソロアルバム『AS YOU WERE』を紹介します。

2017年10月にリリースされた本作は、OASIS〜BEADY EYEを経て届けられた正真正銘の初ソロアルバム。BEADY EYE時代に成し遂げられなかった全英1位を見事獲得しております(アメリカでも最高30位にランクイン)。「Wall Of Glass」(全英21位)を筆頭に、「Chinatown」(同56位)、「For What It’s Worth」(同33位)、「Gready Soul」(同56位)と、OASIS時代ほどではないものの、それなりにヒットシングルも生まれています。

THE BIRD AND THE BEEのグレッグ・カースティン(アデル、リリー・アレンFOO FIGHTERSなど)、そしてダン・グレック・マーグエラット(THE VACCINES、ラナ・デル・レイ、KEANEなど)、アンドリュー・ワイアット(カール・バラー、デュア・リパ、ロードなど)といったヒットチャートを賑わすアーティストの楽曲を手がけるプロデューサー陣と、ソングライティング含め本格的にタッグを組んだ本作は、一聴すると似通ったテンポ感で単調に思えますが、聴き込むと1曲1曲の作り込みがしっかりしていることに気づかされる、玄人好みの力作に仕上げられています。

もちろん、“OASISのリアム”の幻影を追い求める人もある程度納得させるだけのポテンシャルは保たれています。さすがにアッパーでドーピングマシマシ感の強いアップチューンは皆無ですが(一番それに近いのが、デラックス版のみ収録の「Doesn't Have To Be That Way」程度)、ミディアムテンポで独特のグルーヴ感でじわじわ攻めるロックチューンや、男臭さ満載で涙腺を刺激するスローナンバーで“OASISのリアム”の幻影を楽しむことができるはず。いや、それ必要なのかなぁ……と個人的には疑問なんですが(どうせライブではOASISの楽曲を披露するんだから)。

そういった楽曲でさえも、モダンなサウンド&トラックメイキングで現代的なポップスへと昇華されている。ずっと同じ場所で戦おうとせず、しっかりポップシーンのど真ん中に飛び込んでいこうとする姿勢はさすがだなと思います。デビュー作としても及第点だと思いますし、あとはOASIS時代並みにとはいわないまでも、今の時代のど真ん中をえぐるような名曲がひとつでも欲しいところ。この人はそういう歌を歌ってこそ、生き生きとするシンガーなんだから。地力がダメなら、一緒に時代を作れるソングライターとどんどんタッグを組むといい。それがノエル・ギャラガーを失った今のあなたにしかできないことなんだから。

別にOASIS再結成は望まないけど(したらしたで嬉しいか)、バンドを2つ潰して最後の砦=ソロにたどり着いたんだから、ぜひでっかい成功を収めてほしいものです。次は本作以上の“傑作”に期待してます。



▼LIAM GALLAGHER『AS YOU WERE』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 23 12:00 午前 [2017年の作品, Liam Gallagher, Oasis] | 固定リンク

2018年9月22日 (土)

SANTANA『GUITAR HEAVEN: THE GREATEST GUITAR CLASSICS OF ALL TIME』(2010)

2010年9月にリリースされた、SANTANA通算20枚目のスタジオアルバム。全米2位を記録した前作『ALL THAT I AM』(2005年)から5年ぶりの新作は、全曲60〜90年代のロッククラシックスのカバーで占められた意欲作。もちろん、メガヒットした『SUPERNATURAL』(1999年)以降の作品同様に、全曲異なるボーカリストがフィーチャーされた豪華なカバー集となっています。

その組み合わせも興味深いところで、クリス・コーネルSOUNDGARDEN)とLED ZEPPELIN「Whole Lotta Love」をコラボしたかと思えば、もはやおなじみのロブ・トーマス(MATCHBOX TWENTY)とはCREAM「Sunshine Of Your Love」で再共演。かと思うと、ラッパーのNASとAC/DC「Back In Black」で異色共演を果たしたり、ビートルズ「While My Guitar Gently Weeps」ではインディア・アリー(本作唯一の女性ボーカル)の歌声とヨーヨー・マのチェロとコラボ。もう無茶苦茶なわけですよ。

選曲もカルロス・サンタナが気に入ったものというより、アメリカで人気のロッククラシックスといった印象が強く、DEF LEPPARD「Photograph」(クリス・ドートリーが熱唱)やVAN HALEN「Dance The Night Away」(TRAINのパトリックが担当)あたりは確実に別の思惑が働いている気がする(笑)。

かと思うと、ストーンズが「Can't You Hear The Knocking」(スコット・ウェイランドがいい味出してる!)だったりTHE DOORSが「Riders On The Storm」(LINKIN PARKのチェスター・ベニントンと本家レイ・マンザレクが参加)だったりと、ちゃんとこだわりも感じられるから本当に不思議。

もちろんDEEP PURPLE「Smoke On The Water」(PAPA ROACHのジャコビー)やT. REX「Bang A Gong (Get It On)」(BUSHのギャヴィン)、ジミヘン「Little Wings」(ジョー・コッカー御大!)といったスタンダードも忘れてない。

デラックスエディションのみ、CCR「Fortunate Son」(CREEDのスコット)とレッチリ「Under The Bridge」(SANTANAのバンドメンバー)が追加されているんですが、日本盤は「Under The Bridge」の代わりにベンジー(浅井健一)が歌うZZ TOP「La Grange」が収録されています。いかにも日本仕様といったボートラですが、これもなかなかの出来なので機会があったらチェックしてみてください。

全体的にサンタナらしいラテンアレンジが加えられており、それがどの曲においても良いフレイバーになっているから不思議。もちろん、そんなアレンジに合いそうな曲を選んでいるんでしょうけど、ツェッペリンにしろストーンズにしろドアーズにしろ、これがオリジナルなんじゃないかと錯覚してしまうほどの出来栄え。原曲レイプで終わらず、しっかりサンタナらしいプレイ(=個性)が加えられているので、彼のファン以外でもちゃんと楽しめるはず。まあ、遊びとしては最高に贅沢ですわな。



▼SANTANA『GUITAR HEAVEN: THE GREATEST GUITAR CLASSICS OF ALL TIME』
(amazon:国内盤CD / 海外CD / MP3国内仕様 / MP3海外仕様

投稿: 2018 09 22 12:00 午前 [2010年の作品, Bush, Chris Cornell, Creed, Daughtry, Doors, The, Johnny Winter, Linkin Park, Matchbox Twenty, Papa Roach, Santana, Scott Weiland, Soundgarden, Train, 浅井健一] | 固定リンク

2018年9月21日 (金)

THE ROLLING STONES『STEEL WHEELS』(1989)

1989年8月にリリースされた、THE ROLLING STONESの19thアルバム(イギリスにて。アメリカでは21枚目)。前作『DIRTY WORK』(1986年)から3年ぶりの新作にあたり、全英2位、全米3位を記録(アメリカでは200万枚を超えるヒット作に)。本作からは「Mixed Emotions」(全英36位、全米5位)、「Rock And A Hard Place」(全英63位、全米23位)、「Almost Hear You Sigh」(全英31位、全米50位)というシングルヒットも生まれましたが、この結果からですと“アメリカ>イギリス”寄りなアルバムということになるのでしょうか。アルバム発売直後の8月31日からはワールドツアーもスタート。その一環で、1990年2月には東京ドーム10回公演という、今では考えられないような規模感の、待望の初来日公演も実現しました(僕もこのうちの1公演に足を運び、アリーナ最前ブロックでノックアウトされました)。

ミック・ジャガー(Vo, G)キース・リチャーズ(G, Vo)の不仲でストーンズ活動再開が絶望的となり、ミックは『PRIMITIVE COOL』(1987年)、キースは『TALK IS CHEAP』(1988年)とそれぞれソロアルバムを発表。ミックなんてストーンズより先に、1988年春に東京ドームで初来日公演をやっちゃいましたからね。

そんな中、1989年に入ってから2人の仲が修復に向かい、そのままバンドでスタジオ入り。プロデュースをミック&キースとクリス・キムゼイ(過去にプロデューサーとして『UNDERCOVER』、エンジニアとして『STICKY FINGERS』『SOME GIRLS』『EMOTIONAL RESCUE』に参加)を手がけ、チャック・リーヴェル(Key)といったおなじみのメンツに加え、マット・クリフォード(Key)やサラ・ダッシュ(Cho)、リサ・フィッシャー(Cho)、バーナード・ファウラー(Cho)などその後のツアーにも参加する面々が新たに参加しています。

サウンド的には“産業ロック版ストーンズ”と揶揄したくなるくらい、モダンで硬質な音作り。かなりミックのカラーが反映されているのかなと思いきや、楽曲面ではキースらしいリフやメロディも至るところに感じられ、良い具合に2人の色がミックスされているのかなと。それこそ「Mixed Emotions」という楽曲のタイトルどおりに(本来は困惑のほうの意味ですけどね)。

ミックにしろキースにしろ、歌声がすごくみずみずしくて、それぞれのソロアルバムのときより若返っているような印象すら受けます。また、チャーリー・ワッツ(Dr)のドラムも冴えているし、ロニー・ウッド(G)もミックとキースをうまいことサポートしながら自分の色を出している。ビル・ワイマン(B)に至ってはある意味いつもどおり変なフレーズ弾きまくりで、「Break The Spell」では個性出しまくり。

そうそう、本作って王道な曲がたくさんある一方で、変な曲も含まれているアルバムでもありますよね。ツアーのオープニングSEに使われた「Continental Drift」の民族音楽っぽさや、どす黒いブルースロック「Break The Spell」とか。「Almost Hear You Sigh」もストーンズというよりはキースのソロっぽいしね(変な曲ではないけど)。

ストーンズが90年代に突き進むために、改めて足並みをそろえた。そのために必要なドーピングがここに施されている……そう考えると、非常に納得のいく作品ではないかと。個人的には、やっぱり初来日の思い出が強いので忘れられないアルバムです。

が、このアルバムと続くライブアルバム『FLASHPOINT』(1991年)がビル・ワイマン最後のアルバムになるとは、この頃は考えてもみなかったですけどね。



▼THE ROLLING STONES『STEEL WHEELS』
(amazon:国内盤CD / 海外CD / MP3

投稿: 2018 09 21 12:00 午前 [1989年の作品, Rolling Stones] | 固定リンク

2018年9月20日 (木)

PAUL McCARTNEY『EGYPT STATION』(2018)

2018年9月発売の、ポール・マッカートニー通算18枚目のソロスタジオアルバム。前作『NEW』(2013年)からもう5年も経っていたんですね。ここ最近、2年おきに来日している気がして、そこまで時間が経っていると思いませんでした(よく調べたら、来日公演自体は2013年、2015年、2017年に実施していて、2014年は中止になった国立競技場公演があったのでした。実質4回も来てたのか。そりゃ来過ぎた! しかも2018年にもやってきますし)。

6月に先行リリースされたシングル「I Don't Know」「Come On To Me」は、良くも悪くも“いつもの”ポール節。安心安定で、今回も水準以上の作品にはなるんだろうなと信じていました。

で、8月には新しいシングル「Fuh You」が先行カットされたのですが……これがモダンな、“イマドキの”サウンドによるポップチューンでびっくり。おお、こりゃちょっと楽しみかも!と思っていたところに、アルバム到着。全体的には“いつもの”と“イマドキの”が程よくミックスされた、非常によくできた1枚だと思います。

全体のプロデュースはTHE BIRD AND THE BEEのグレッグ・カースティン(アデル、リリー・アレン、シーア、リアム・ギャラガーFOO FIGHTERSなど)、1曲のみライアン・テダー(ONEREPUBLICのシンガー)が担当しています。そう聞くと「なるほどな」と頷けてしまう、そんな内容ではないでしょうか。

ちなみに、僕が非常に気になった「Fuh You」はライアンとの共作&プロデュース曲。これも「なるほどな」と腑に落ちました。キャリアを総括するような作品であると同時に、しっかり“今”と向き合っている。それは手慣れたメンツとタッグを組むのではなく、グレッグ・カースティンやライアン・テダーといった現在のポップシーンを代表するトップアーティストとコラボする姿勢に表れていますし、自身の持ち味をどうモダンに昇華するか、それが2018年に通用するのか。ある意味、これはポールから今のポップシーンに対する“最後の挑戦状”なのかもしれません。

年齢的にも、おそらくこれが最後になってもおかしくないわけで、だからこそここまでゴッタ煮感がありながらも不思議と統一感がある内容になっているのではないかと。ポールが書く楽曲に一度でも心奪われたことがある人なら、絶対にどれか1曲、いや、どこか1ヶ所でもひっかかるパートがあるのではないでしょうか。そんな、76歳のおじいさんが今できることをすべて詰め込んだ、渾身の1枚だと思います。

終盤の「Do It Now」から「Caesar Rock」への流れ、そこからドラマチックな「Despite Repeated Warnings」へと続き、インタールード「Station II」から組曲「Hunt You Down / Naked / C-Link」で幕を下ろす構成は、涙なしには語れません。間違いなく、あのポール・マッカートニーのアルバムです。



▼PAUL McCARTNEY『EGYPT STATION』
(amazon:国内盤CD / 海外CD / MP3

投稿: 2018 09 20 12:00 午前 [2018年の作品, Paul McCartney] | 固定リンク

2018年9月19日 (水)

SPIRITUAL BEGGARS『AD ASTRA』(2000)

2000年春にリリースされた、SPIRITUAL BEGGARSの4thアルバム。もともと、CARCASSを脱退したあとにマイケル・アモット(G/ARCH ENEMYBLACK EARTH)が最初に結成したのがこのバンド。当初はトリオ編成でしたが、現在はシングルギター&キーボード(OPETHのペル・ウィベルイ)を含む5人編成で活動を続けています(ARCH ENEMYのベーシスト、シャーリー・ダンジェロも参加)。

この『AD ASTRA』の頃はアモットやペルのほか、現在も在籍するオリジナルメンバーのラドウィッグ・ウィット(Dr)、そしてスパイス(Vo, B/2001年脱退)という4人編成でした。プロデュースは“北欧メタルにこの人あり”なフレドリック・ノルドストローム(ARCH ENEMY、IN FLAMES、HAMMERFALLなど)が担当。フレドリックは「Let The Magic Talk」でシンセサイザーも担当しています。また、「On Dark River」ではマイケル・アモットの実弟、クリストファー・アモットがスライドギターでゲスト参加。普段の彼とはまた異なるプレイがー楽しめます。

こういうサウンドはジャンル的にストーナーロックに括られるのでしょうか……それにしてはメタリックなので、普通にハードロック/ヘヴィメタルでいいような気がしますが。実際、アモットもストーナーロックやろうぜ!と思ってこのバンドを始めたわけではないでしょうし。

それに、ストーナーロックにしてはギター、弾き過ぎですしね。ギターソロの音数、本当に多いですし(笑)。

ストーナーロックというよりは、90年代以降の感覚で70年代の埃っぽいハードロックを表現してみたら、こうなりました……そのほうが近い気がします。当時のBLACK SABBATHDEEP PURPLEよりも“らしい”楽曲なんだけど、それを構築するサウンドや楽器のプレイは完全に現代的。その落差が面白いし、だからこそリリース当時も普通に楽しめたわけですよね。

アモットは自身のルーツをできる限りここで表現しようと、かなりそれっぽいフレージングを聴かせてくれるんだけど、ときどき素が出てしまう(=速弾きをかましてしまう)というお茶目な一面も見せています。まあ、だからこそモダンなんですけど。

あと、スパイクというボーカリストが歌うことで変にサバスっぽくもパープルっぽくもなっていないところも大きいのかな。だって、これをリー・ドリアンが歌ったらCATHEDRALになっちゃいそうだし(苦笑)。アクが強過ぎないというのも大事なんですね。

彼らの作品の中ではこれと、ひとつ前の『MANTRA III』(1998年)をよく聴きました。近作ももちろん聴いてはいますけど、お気に入りとなるとやっぱりこのへんになります。特に本作はひたすら爆音で楽しみたい、2000年代前半の名盤のひとつです。



▼SPIRITUAL BEGGARS『AD ASTRA』
(amazon:国内盤CD / 海外CD / MP3

投稿: 2018 09 19 12:00 午前 [2000年の作品, Arch Enemy, Opeth, Spiritual Beggars] | 固定リンク

2018年9月18日 (火)

THE ATOMIC BITCHWAX『FORCE FIELD』(2017)

過去何度か名前が挙がったTHE ATOMIC BITCHWAX。これを機にちゃんと聴いてみようと思い、2017年12月にリリースされた最新アルバム『FORCE FIELD』を聴いてみることにしました。

いろいろ調べてわかったことですが、このバンドはもともと(当時)MONSTER MAGNETのギタリストだったエド・マンデルを中心に結成されたサイドプロジェクトだったらしく、その後クリス・コスニック(Vo, B)が現在までバンドを引き継いでいるようです。現在のメンバーはクリス&ボブ・パンテラ(Dr)の現MONSTER MAGNET組と、エドと交代して加入したフィン・ライアン(G, Vo)の3人。

さて、過去の音源を一切聴いていない状況でこの新作から入っていったのですが……めっちゃカッコいいじゃないですか! パワフルでインパクトのあるギターリフを軸に、ぶっといリズム隊が疾走感のあるビートを刻み、そこにメロウでシャウト気味のボーカルが入る。ストーナーロックというよりは、ガレージロックに近いような印象を受けました。例えばTHE HELLACOPTERSみたいな、ああいうグルーヴ感の強いガレージロック。そりゃあ嫌いになれるわけがない。

楽曲も非常にコンパクトかつ、変なひねりなしのド直球。全曲2〜3分台で、全12曲34分という潔さもまたよし。シングルギターバンドですが、要所要所に挿入されるフィン・ライアンのメロウなフレーズや、のたうちまわるようなギターソロがまたたまらない。ドラムの上に重なるタンバリンが、また独特のグルーヴ感を生み出していて、そこがTHE HELLACOPTERSあたりに通ずるものがある。って、結局自分がTHE HELLACOPTERS大好きなもんだから、どうしてもそこと重ねたくなってしまうわけですが。

この、常にテンション高めで突っ走るビート。ラスト1曲くらいですからね、若干落ち着くのは。それでもテンションは常にMAX気味で、落ち着く暇なんて与えてくれない。そのラストの「Liv A Little」はオルガンも前面にフィーチャーされており、ブギー的なリズム感含めどこかDEEP PURPLE的なカラーも。このへんでようやくサイケデリック感が強めに表れ、なんとなくルーツが垣間見えるといいますか。

で、ここまで聴いて……クリス・コスニックがMONSTER MAGNETに与えた影響ってなんなんだろう?と考えたわけです。う〜ん……直線的なロックンロール? いや、そういう意味ではあまり強くは影響出てないですよね。やっぱりあっちはあっちでデイヴ・ウィンドルフ(Vo, G)主導だから、そんなに影響はないわけか。う〜ん、バンドって難しい。

ていう話はさておき。これ、本当にストーナーロックなんですか? もはやストーナーロックの定義がわからなくなってきましたが……カッコよければそれでよし。いやあ、もっと早くに知っておけばよかったと思わされる1枚です。爆音でお楽しみいただきたいですね。



▼THE ATOMIC BITCHWAX『FORCE FIELD』
(amazon:海外CD / MP3

投稿: 2018 09 18 12:00 午前 [2017年の作品, Atomic Bitchwax, The, Monster Magnet] | 固定リンク

2018年9月17日 (月)

MONSTER MAGNET『MINDFUCKER』(2018)

2018年3月に発表された、MONSTER MAGNET通算10作目のオリジナルアルバム。前作『LAST PATROL』(2013年)から4年半ぶりとだいぶ間が空いたように思えますが、その間には『LAST PATROL』の再構築アルバム『MIKING THE STARS: A RE-IMAGINING OF LAST PATROL』(2014年)や、前々作『MASTERMIND』(2010年)の再構築アルバム『COBRAS AND FIRE (THE MASTERMIND REDUX)』(2015年)が立て続けに発表されているので、実はそこまで空いた感がないという。

プロデュースは前作同様、メンバーのデイヴ・ウィンドルフ(Vo, G)とフィル・カイヴァーノ(G)が担当。コ・プロデューサーとしてモーガン・ストラットン(WOLFMOTHER、BIFFY CLYRO、ノラ・ジョーンズなど)とジョー・バレッシ(MELVINS、QUEENS OF THE STONE AGECLUTCHCOHEED AND CAMBRIAなど)の名も連ねられており、ジョー・バレッシはミックスも担当しております。

まあ、そんなデータはどうでもいい話ですが(苦笑)、内容ですよね。

実は、MONSTER MAGNETのアルバムをまともに聴くのって、2000年代前半以来なんですね。それこそ、アルバムで言ったらメジャー時代最後の『GOD SAYS NO』(2001年)が最後かもしれない。それくらい彼らに対して積極的なリスナーではなかったですし、ぶっちゃけ『DOPES TO INFINIGY』(1995年)と『POWERTRIP』(1998年)と『GOD SAYS NO』ぐらいしかまともに聴いたことがない、そんな浅いリスナーであることを最初にお断りしておきます。

「ハードロックと21世紀のパラノイアを祝う作品」と謳われている本作ですが、基本的な路線はそこまで変わっていないのかなと。埃っぽくてブルージー、どこかサイケデリックなハードロック。ストーナーロックってことでいいんだろうけど、本作からはもっと直線的な印象も受けます。王道感といいましょうか……良くも悪くもド直球。それを「肝が座っていてカッコいい」と受け取るか「2018年にしては古臭い」と切り捨てるかで、本作に対する評価も大きく変わりそうな気がします。

また、本作ではHAWKWINDのシンガーだったロバート・キャルバート(1988年死去)のカバー「Ejection」も収録。この選曲もストレートすぎて、笑ってしまうといいますか。まあ、それでこそ彼らなんでしょうけどね。

そういえば、オリジナルアルバムとしては本作から初めてクリス・コスニック(B/ex. GODSPEED、現THE ATOMIC BITCHWAX)が参加。2004年に加入したボブ・パンテラ(Dr)も現在までTHE ATOMIC BITCHWAXと活動を兼任しているようですし、そのへんの影響も強くなっているのかもしれません。そういえば、THE ATOMIC BITCHWAXにはエド・マンデル(G/1992年から2010年までMONSTER MAGNETに在籍)も過去に参加していたので、このへんの交流をいろいろ調べていくと、サウンドの微妙な変化にも気づけるのかもしれません。

個人的評価としては、「肝が座っていてカッコいい」と「2018年にしては古臭い」の中間なんですよね……やっていること自体決して新しくはないし、だけど首尾一貫しているところはカッコよくて、そもそもこのサウンド/スタイル自体は嫌いじゃない。まあ、彼らに革新的なものを求めること自体が間違いだし、頭空っぽにして素直に楽しめばいいだけなんですけどね。

あ、ラストの「When The Hammer Comes Down」はBLACK SABBATHっぽくてかなりお気に入りです。途中の節回しや歌声もまんまオジー・オズボーンですし(笑)。このへんに、彼らのファン気質が感じられて、ちょっと嬉しかったりして。



▼MONSTER MAGNET『MINDFUCKER』
(amazon:海外CD / MP3

投稿: 2018 09 17 12:00 午前 [2018年の作品, Monster Magnet] | 固定リンク

2018年9月16日 (日)

CLUTCH『BOOK OF BAD DECISIONS』(2018)

アメリカ・メリーランド州出身の4人組バンド、CLUTCHによる通算12枚目のオリジナルアルバム。前作『PSYCHIC WARFARE』(2015年)から3年ぶりの新作となり、プロデューサーを初期作や前2作を手がけたマシーン(LAMB OF GODFALL OUT BOY、SUICIDE SILENCEなど)からヴァンス・パウエル(THE WHITE STRIPES、KINGS OF LEON、ジャック・ホワイトなど)に代えた意欲作となっています。

90年代はワーナー系やソニー系のレーベルに所属していたことから、ここ日本でも国内盤がリリースされていたCLUTCHですが、2000年代半ば以降はインディーズで細々と活動しているようです。が、最近は前々作『EARTH ROCKER』(2013年)が全米15位、前作『PSYCHIC WARFARE』は全米11位と、メジャーで活動していた頃よりも好成績を残しています。本作はまだリリースされたばかりなので、これを書いている時点ではBillboardチャートの成績も発表前ですが、もしかしたら前よりも良い記録を残せるのでは……と思えるくらい、面白い内容に仕上がっているんじゃないでしょうか。

CLUTCHというとサザンロック流れのストーナーロックやブルースロックという印象が強いですが、本作はその集大成的な傾向が強まっている気がします。大半の楽曲が3分台というのは変わらず、楽曲のバリエーションも前作までに近いのですが、なぜかその聴かせ方いつも以上に冴えているといいますか。

ブラスをフィーチャーしたファンキーな「In Walks Barbarella」、軽快なピアノサウンドとの相性も抜群なアップチューン「Vision Quest」あたりは、ヴァンス・パウエルというプロデューサーの手腕発揮と言わんばかりの力作。ギターやベースのファズの効かせっぷりも絶妙で、音の温かみや厚みも“ちょうどよい”。そのまま演奏したら古臭いと片付けられそうな楽曲を、独特のセンスで現代にも通ずるようにうまく昇華させているし、もはやハードロックだとかストーナーロックだとか、そういった枠組みさえも飛び出している気がします。

で、こうやって聴いてみるみると、先に挙げたヴァンス・パウエルがプロデューサーやエンジニアとして携わったアーティスト群……THE WHITE STRIPES、KINGS OF LEON、ジャック・ホワイト、それにジュエルやリアン・ライムス、BIG & RICHといったカントリー系など……の名前を見て、妙に納得するものがあるんですよね。前作までのスタイルとそこまで大きく変化はないはずなのに、ここまで進化したように思えるのは、彼のアイデアも多少は含まれているということなんでしょうか。

こんなアルバムを聴かせられちゃったら、そりゃあ生で観たいと思っちゃうわけですよ。ところが彼ら、もう15年くらい来日していない。しかも、しばらく日本盤も出ていないわけですから……単独では厳しいですね。ぜひ来年あたり、苗場あたりが呼んでくれたらなあ……。



▼CLUTCH『BOOK OF BAD DECISIONS』
(amazon:海外CD / 海外限定盤CD / MP3

投稿: 2018 09 16 12:00 午前 [2018年の作品, Clutch] | 固定リンク

2018年9月15日 (土)

SUICIDAL TENDENCIES『STILL CYCO PUNK AFTER ALL THESE YEARS』(2018)

前作『WORLD GONE MAD』(2016年)からちょうど2年ぶりに発表された、SUICIDAL TENDENCIESの通算13枚目となるオリジナルアルバム。前作から加入したデイヴ・ロンバード(Dr/ex. SLAYERDEAD CROSSなど)が叩く2枚目のアルバムとなります。本作の前には、今春に10曲入りEP『GET YOUR FIGHT ON!』が発売されており、そちらには本作にも収められている「Nothin' To Lose」が先行収録されています。

このアルバムは、マイク・ミューア(Vo)が1996年にCYCO MIKO名義でリリースしたソロアルバム『LOST MY BRAIN! (ONCE AGAIN)』を現メンバーでリメイクしたもの。基本的にはオリジナルに近いアレンジで、軽いサウンドメイクと疾走感が気持ちよかったオリジナル版に、デイヴ・ロンバードのドラミングにより重さが加わり、よりハードコア感が増したような印象を受けました。

また、オリジナル版がプロジェクト色の強いものだったこともあり、今回のリメイク版はよりバンド感が増しているのも特徴。そのへん、本作にはこの布陣ならではのタイトさも表れており、どちらが好きかと尋ねられたら迷わず今回のリメイク版を挙げることでしょう。

また、本作は完全リメイクというわけではなく、「Ain't Mess'n Around」は未収録(こちらのみEP『GET YOUR FIGHT ON!』にリメイク版が収録されています)。また、オリジナル版では「Cyco Miko Loves You」というタイトルだった楽曲がバックトラックはオリジナルの雰囲気を再現しつつ、歌詞とメロディラインを変え、「Sippin’ From The Insanitea」と題して収録されています。

本作に対して、マイク・ミューアはこんなコメントを残しています。


「デイヴ・ロンバードがSUICIDAL TENDENCIESにいる今、SUICIDAL TENDENCIESのレトロではないモダンなサイコ・パンク・レコードとして、このアルバムはリリースされなくてはならない。何年もの間、俺はこのアルバムの曲が好きだった。おそらく、30才であった当時より、今のほうが俺はこのアルバムの曲が好きだ。そして皮肉なことに、SUICIDAL TENDENCIESの作品ではなかったアルバムが俺をよりSUICIDAL TENDENCIESにした」


前作『WORLD GONE MAD』ではメタリックな楽曲も含まれており、曲によっては6分もあったりと持ち前のミクスチャー感を全面にアピールしていましたが、今作はそういうわけでど直球のパンク/ハードコア。そんななので、全11曲で41分というトータルランニングになっています。これ、10曲入りだった前のEP(45分)より短いんですけどね。まあ、潔くて良いじゃないですか。

まあ、これをデイヴ・ロンバードがいる編成でやらなくてもいいじゃないか……という声も聞こえてきそうですが、これはこれで楽しいのでよろしいのでは。何も考えずに楽しめる1枚ですし。

なお、本作のレコーディングをもってジェフ・ポーガン(G)が脱退。ツアーには昨年解散した THE DILLINGER ESCAPE PLANのベン・ワインマンが参加するそうです。それはそれで見てみたいぞ。



▼SUICIDAL TENDENCIES『STILL CYCO PUNK AFTER ALL THESE YEARS』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 15 12:00 午前 [2018年の作品, Suicidal Tendencies] | 固定リンク

2018年9月14日 (金)

THE ALMIGHTY『POWERTRIPPIN'』(1993)

グラスゴー出身の4人組バンドTHE ALMIGHTYが1993年春にリリースした、通算3作目のオリジナルアルバム。前作『SOUL DESTRUCTION』(1991年)リリース後に脱退したタントラム(G)に代わり、元ALICE COOPER BANDのピート・フリージン(G)が加入して初のアルバムになります。プロデューサーはマーク・ドッドソン(JUDAS PRIESTANTHRAXSUICIDAL TENDENCIESなど)が務め、「Addiction」(全英38位)、「Over The Edge」(同38位)、「Out Of Season」(同41位)などのシングルヒットもあり、アルバム自体も全英5位というキャリア最高位を記録しました。

前2作をして“MOTÖRHEADよりもMOTÖRHEADらしい”などと言わしめた(いや、そんなことないですけど)バンドが、このアルバムで大きな変化を迎えます。それは、いわゆる“爆走ロックンロール”的なスタイルが影に潜み、代わりに当時主流だったグランジやヘヴィロック的側面を強めていくのです。

オープニングを飾る「Addiction」なんてALICE IN CHAINSあたりがやっていたとしても不思議ではないテイスト/サウンドだし、続く「Possession」もPANTERA的と言われれば確かにそれっぽい。MOTÖRHEADのモの字もありゃしない。

けど、軸にある哀愁味あふれるメロディとボーカリゼーションは変わっておらず、モダンなサウンドになっているものの「Over The Edge」のようにガッツはあるけどどこか悲しげなメロのヘヴィチューン、「Jesus Loves You… But I Don't」というもの悲しげなヘヴィバラード、「Out Of Season」というグルーヴィーかつブルージーなミディアムナンバーなど、前作までのファンも納得できる(させる)だけの佳曲も揃っております。

そして、少ないながらも「Powertrippin'」という爆走ロックンロールも残されているし、その後のライブでオープニングを飾る機会の多かったアップチューン「Takin' Hold」もある。決してただスピードを緩めただけではなく、そのバリエーションを横に広げただけなのだ、と。

後半に進むにつれてディープなミディアムヘヴィチューンが並びますが、「Instinct」あたりはちょっと退屈かな……続く「Meathook」はリフとグルーヴ感で乗り切ってますけど、ラストの「Eye To Eye」もちょっと弱い。全12曲ではなく10曲程度に絞っておけば、かなりの名盤になったはずなんですが……そこだけが残念でなりません。ま、これがあったからこそ、続く超傑作『CRANK』(1994年)が生まれたわけですけどね。

ちなみに本作、日本盤限定で『LIVE FROM DONINGTON '92』と題した7曲入りEPが付いた2枚組仕様も発売されました。こちらではすでに発売前の「Addiction」をやっていたりして、非常に興味深い内容です。中古店を探せば今でもよく見つかるので、ぜひトライしてみてはどうでしょう。



▼THE ALMIGHTY『POWERTRIPPIN'』
(amazon:日本盤CD / 日本盤2CD / 海外盤CD

投稿: 2018 09 14 12:00 午前 [1993年の作品, Almighty, The] | 固定リンク

2018年9月13日 (木)

LITTLE ANGELS『YOUNG GODS』(1991)

1991年春にリリースされた、LITTLE ANGELSの2ndフルアルバム。プロデュースを担当したのはジェイムズ・“ジンボ”・バートン(ゲイリー・ムーアQUEENSRYCHEスティーヴ・ペリーなど)とアンディ・ジュリアン・ポール(元SKIN組によるb.l.o.w.など)が担当し、「Boneyard」(全英33位)、「Product Of The Working Class」(全英40位)、「Young Gods (Stand Up, Stand Up)」(全英34位)、「I Ain't Gonna Cry」(全英26位)といったヒットシングルを多数生み出しました。アルバム自体も全英17位という好成績を残しており、彼らの出世作と呼べる1枚となっています。

メジャーデビューフルアルバム『DON'T PREY FOR ME』(1989年)の頃は“イギリスからのBON JOVIへの回答”的な触れ込みもあったような記憶がありますが、それはサウンドがポップでライトなハードロックだったこと、編成が同じ5人組だから、というのも大きかったのかもしれません。

ですが、この2枚目のアルバムではそういった比較は馬鹿馬鹿しいぐらい、彼ららしいオリジナリティとイギリスのバンドとしてのアイデンティティを掴み取った、そんな印象を受けます。とはいえ、ミックスはアメリカでスティーヴ・トンプソン&マイケル・バルビエロ(GUNS N' ROSESMETALLICAマドンナデヴィッド・ボウイなど)に任せているので、うまい具合に英米の良いところをミックス……なんて思惑もあったのかも(アメリカでの成功はレーベル側の思惑かもしれませんが)。

アップテンポのハードロック「Love Is A Gun」や派手なブラス系シンセのリフがいかにもな「Natural Born Fighter」など前作の延長線上にある楽曲含まれているものの、基本的にはミディアムテンポのロックンロールやポップロックをメインとした作風。そのミディアムの中でも若干アップめ、若干スローめというふうに強弱を付け、聴き手を飽きさせない工夫が施されています。

オープニングの「Back Door Man」からグルーヴィーな「Boneyard」への流れ、軽やかなアコースティックギターが心地よい「Young Gods (Stand Up, Stand Up)」、泣きのギターフレーズが涙腺を刺激するバラード「I Ain't Gonna Cry」と、この冒頭4曲を聴いただけで、前作以上の完成度かつオリジナリティに驚かされるはずです。

また、「Young Gods」や「Product Of The Working Class」「The Wildside Of Life」などではブラスセクションも導入され、そのへんが一介のハードロックバンドとは異なることを感じさせます。キーボーディストもピアノを中心にした音作りで、独特のグルーヴ感を生み出しているし、ところどころに入るボーカルの高音シャウトやギターの速弾きが入らなかったらTHE QUIREBOYSをもっと派手にしたようなイメージ止まりで、ハードロックバンドだとは思わないんじゃないでしょうか(それが良いか悪いかは別として)。

あ、僕は大好きですよ、このアルバム。ただ、日本盤はボーナストラック3曲追加で、トータル68分と長いのが玉に瑕ですが。日本国内ではApple Musice、Spotifyどちらもストリーミング配信されていないのが残念極まりない(海外では配信されています、念のため)。

ここでの成功があったからこそ、彼らは次作『JAM』(1993年)でさらなる“深化”の道をたどり、全英1位を獲得することになるのですが、それはまた別の機会に。



▼LITTLE ANGELS『YOUNG GODS』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD

投稿: 2018 09 13 12:00 午前 [1991年の作品, Little Angels] | 固定リンク

2018年9月12日 (水)

MANIC EDEN『MANIC EDEN』(1994)

1994年3月に日本でリリースされた、エイドリアン・ヴァンデンバーグ(ex. VANDENBERG、ex. WHITESNAKE、VANDENBERG'S MOONKINGS)率いるMANIC EDEN唯一のアルバム。メンバーはヴァンデンバーグ(G)、LITTLE CAESARのロン・ヤング(Vo)、WHITESNAKE時代に活動をともにしたルディ・サーゾ(B)&トミー・アルドリッジ(Dr)の4人。

もともと1993年に、エイドリアンがルディ&トミーのリズム隊と、ジェイムズ・クリスチャン(ex. HOUSE OF LORDS)とで行ったセッションが結成のきっかけ。そこからボーカルがロン・ヤングに替わり、そこから正式にバンドとして活動開始。全11曲中6曲がエイドリアンとロンの共作で、残り5曲はエイドリアンが単独で書いたものになります。

WHITESNAKE時代に本格的に関わるはずだったアルバム『SLIP OF THE TONGUE』(1989年)ではほぼ全曲をデヴィッド・カヴァーデイルと共作したものの、腕の不調でレコーディングにはまったく参加できず。そういう意味では、彼が丸々関わったアルバムとしては、本作はVANDENBERGの3rdアルバム『ALIBI』(1985年)以来9年ぶりとなります。

聴く前から、このメンツを確認してなんとなく「WHITESNAKE以降の、ブルースベースのハードロックになるんだろうな」と思ってましたが、本当にそのとおりの音で、VANDENBERGはどこへ行った……と古くからのファンは嘆きたくなる内容だったのではないでしょうか。

実際、エイドリアンの(我々が想像する)ギタープレイの良さはここには全く反映されておらず、ジミヘンみたいなギタープレイで、ジミヘンみたいな曲やLED ZEPPELINみたいな曲やジャニス・ジョプリンみたいな曲を作ってみたらこうなったよ、と言わんばかりの内容。いや、そんなにひどくはないんですけどね。でもね……。

ただ、LITTLE CAESARおよびロン・ヤング側の視点でこのアルバムを語ると、彼のシンガーとしての色気や魅力は存分に伝わるものになっているのではないかなと。オープニングの「Can You Feel It」や「When The Hammer Comes Down」といったソウルフル/ブルースフィーリングを漂わせたロックナンバー、「Ride The Storm」や「Do Angels Die」のようなバラードナンバーはカヴァーデイルでは歌えなかったでしょうからね。そういう意味ではナイス人選だったのかも。

ただ、こういう音楽性にこのリズム隊はないな。残念ながら。この2人を使うなら、もっとメタリック寄りにしてもよかったのに(そのほうが個性が生きたような)。そこも踏まえて、非常に中途半端な作品だなと。うん。

ただ、それでも忘れた頃に引っ張り出して聴きたくなってしまうのは、僕がVANDENBERGもWHITESNAKEもLITTLE CAESARも好きだからでしょうね。よかった、そんな人生で(笑)。



▼MANIC EDEN『MANIC EDEN』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD

投稿: 2018 09 12 12:00 午前 [1994年の作品, Little Caesar, Manic Eden, Whitesnake] | 固定リンク

2018年9月11日 (火)

SKIN『SKIN』(1994)

1994年に発表された、イギリスの4人組バンドSKINによる1stアルバム。オリジナル盤はメジャーのEMI / Parlophone Recordsからリリースされ、プロデュースはキース・オルセン(オジー・オズボーンWHITESNAKEHEARTなど)が担当。本国では最高9位まで上昇する、ヒット作となりました。

この時期、イギリスではHR/HMに新たな波が訪れ始めたタイミング。THUNDERの2ndアルバム『LAUGHING ON JUDGEMENT DAY』(1992年)が全英2位を記録したのを筆頭に、LITTLE ANGELSの3rdアルバム『JAM』(1993年)が全英1位、THE ALMIGHTYの3rdアルバム『POWERTRIPPIN'』(1993年)が全英5位と、1990年前後にデビューしたバンドたちがこぞって好成績を残していました。

この波に乗らんとばかりに、SKINもデビューするのですが、彼らのサウンドはTHUNDERとLITTLE ANGELS(主に初期)の中間といった印象。適度にブルージーなブリティッシュハードロックをベースに、聴きやすく思わずシンガロングしたくなるキャッチーさを持った楽曲がずらりと並びます。オープニングを飾る「Money」のカッコよさは言うまでもなく、続く「Shine Your Light」や「House Of Love」はTHUNDERにも通ずるロックンロール感がある。「Colourblind」のおおらかなリズムはどこかモダンだし、かと思えば「Which Are The Tears」みたいなソウルフルな王道バラードもある。

THUNDERほどルーツ重視というわけでもなく、LITTLE ANGELSほどポップでもない。だけど、しっかりモダンさも兼ね備えている。そのへんは、本作リリース当時からよくカバーしていた「Unbelievable」(EMFが1990年に発表したシングル。全米1位、全英3位を記録)など、そのセンスにも表れているのではないでしょうか(そのへんのセンスは、続く2ndアルバム『LUCKY』で一気に爆発するのですが)。

当時、HELLOWEENのマネジメントに所属していたことで、初来日が彼らのオープニングアクトだったというのも、今思えば「なるほど」とも思えるし、逆に「だから日本でブレイクできなかったのかな」とも思える。本作は今聴いても優れたハードロックアルバムだと思うし、そのわりにここ日本ではあんまり“届いて”気もするし。そういう歯がゆさを持った1枚、ぜひこの機会に触れてみてはいかがでしょう。しっかりストリーミングにも入ってるしね。



▼SKIN『SKIN』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 11 12:00 午前 [1994年の作品, Skin] | 固定リンク

2018年9月10日 (月)

GODSPEED『RIDE』(1994)

アメリカ・ニュージャージーの5人組バンド、GODSPEEDが1994年に発表した唯一のオリジナルアルバム。プロデュースを手がけたのは、SKID ROWのベーシスト、レイチェル・ボラン。デビュー時にその色が着いちゃったことで、HR/HMファンには「野暮ったい」と言われ、オルタナ界からは「SKID ROW流れ」と揶揄され。不幸というかなんというか。

ベーシストが2人、ギターが1人という珍しい編成のバンドで、サウンド的には時代もあってか非常にグランジ/ヘヴィロックからの影響が強いスタイル。グランジといってもMUDHONEYとかMELVINSとか、あるいはHELMETあたりの流れにあるバンドかなと。非常にグルーヴィーなミドルテンポのヘヴィロックが次々と繰り出されます。

ベースが2人ってことは、普通にベースラインを弾くメンバーと、リズムギター的にパワーコードを弾くメンバーがいるってことですかね(生で観たことないのでわからないし、MVではそのへんがわかりにくいので)。サウンドはめっちゃぶっとくてダーティ。爆音で聴くと、本当に気持ち良いんですわ。トリップするってやつですかね。ああ、あの時代がよみがえってきます。

今となると、こういうサウンドってBLACK SABBATHの影響下にあるストーナーロックということになるんでしょうか。事実、このバンドが解散したあと、メンバーの何人かはSOLACE、THE ATOMIC BITCHWAXというストーナー界隈ではそこそこ名の知れたバンドに参加しているので(さすがに僕もSOLACEぐらいは知っていましたが)。GODSPEEDとしてはAtlantic Recordsからメジャーデビューしているものの、むしろ解散して以降のほうが出世している気がします。

良く言えばヘヴィで気持ちいい、悪く言えばどの曲もリフやテンポが似通っている(ラストの「My Brother」は16分もあって、さすがに退屈します)。聴く人によって評価が大きく分かれるアルバム/ジャンルかもしれませんが、2018年に聴いても特に古臭さは感じません(元から古臭かったという話もありますが)。ラップメタル以前の、ゴリゴリでグルーヴィー、引きずるようなリズム感のヘヴィロックを堪能したい方にはぜひ触れてほしい1枚かもしれません。

こうやって久しぶりに聴いてみると、いかにこのへんのジャンルがのちのSKID ROWのアルバム『SUBHUMAN RACE』(1995年)に影響を与えたかが、おわかりいただけるかと思います。元凶はお前だったのか、レイチェル。

にしても、今思うとバンド名がよろしくなかったですよね。検索するとき、GODSPEED YOU! BLACK EMPERORばかりが引っかかって、このバンドにたどり着けないったらありゃしない(苦笑)。



▼GODSPEED『RIDE』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 10 12:00 午前 [1994年の作品, Atomic Bitchwax, The, Godspeed, Skid Row] | 固定リンク

2018年9月 9日 (日)

ELLIOTT SMITH『XO』(1998)

自分と誕生日が同じ(8月6日)こともあり、昔から親近感を持っていたエリオット・スミス。残念ながら2003年に自ら命を絶ってしまいましたが、彼が残した作品の数々は今も“後追いリスナー”含め多くのファンに愛され続けています。

本作は1998年8月にリリースされた、通算4作目のオリジナルアルバムにしてメジャー1作目のアルバム。前年に公開された映画『グッド・ウィル・ハンティング』に「Miss Misery」を提供し、この曲がアカデミー賞にノミネートされるなど、同年2月に発表された『EITHER/OR』(1997年)含め、エリオットはメジャー移籍前から高く評価されてきました。

そんな中発表された本作『XO』。バンドサウンドを取り入れたポップな楽曲も含まれているものの、ベースになるのはアコースティックギターで表現される内省的な世界観。美しいメロディラインや随所に登場するハーモニーは、確かにビートルズを彷彿とさせるものがあります。シングルカットされた「Baby Britain」なんてまさに中期ビートルズのそれでしょうし、多重録音を多用したスタイルはある種60年代後期のTHE BEACH BOYSにも通ずるものがあります。

かと思えば、アメリカの古き良き時代のカントリーやフォークもしっかり引き継いでおり、それを90年代的感覚でオルタナティヴロック風に昇華させている。ベックのようなエンタメ色を兼ね備えたシンガーソングライターとはまた異なる、この人にしか作り得ないサウンドスケープが終始展開されています。

「Independence Day」のようなモダンさもあれば、「Bled White」みたいにサイケデリック感を併せ持つロックナンバーもある。「Amity」なんてジョン・レノンだし、「A Question Mark」は中期ビートルズとグランジの融合だもん。悪いわけがない。自分は最初に聴いたのが本作だったので、エリオット・スミスといえばここで聴ける楽曲こそがすべてなんです。

リスナーによっては『EITHER/OR』のほうが優れていると断言するでしょうし、実際素晴らしいアルバムだと思います。が、思い入れでは本作なんですよね。このアルバムを制作した頃にはすでにうつ病だったエリオットですが、少なからずそういった病状もこの質感に影響を与えているのかもしれません。そこも含めて、彼を語る上ではやはり重要な1枚と言わざるを得ません。

なお、日本盤には先の「Miss Misery」がボーナストラックとして追加収録されているので、ぜひこちらを購入してみてはいかがでしょう。



▼ELLIOTT SMITH『XO』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 09 12:00 午前 [1998年の作品, Elliott Smith] | 固定リンク

2018年9月 8日 (土)

BRYAN ADAMS『ON A DAY LIKE TODAY』(1998)

1998年10月発売の、ブライアン・アダムス通算8枚目のスタジオアルバム。プロデューサーにブライアン本人のほか、ボブ・ロック(METALLICAMOTLEY CRUEBON JOVIなど)、フィル・ソーナリー(元THE CURE、元JOHNNY HATES JAZZ。ナタリー・インブルーリアなどをプロデュース)、フィル・ウェスターン(バンクーバー出身のミュージシャン)と複数迎えて制作された意欲作です。

前作『18 TIL I DIE』(1996年)で“死ぬまで青春”を宣言したブライアン。実際、大ヒット作『RECKLESS』(1984年)以降の作品は『INTO THE FIRE』(1987年)を除き、ほぼすべて“死ぬまで青春”を地でいくスタイルを貫いてきました。が、この『ON A DAY LIKE TODAY』はそこから一転し、非常に内省的な作風を貫いています。

そう、上に挙げたボブ・ロックやフィル・ソーナリーといった大御所が携わっているのに、地味で静かなんです。思わず「どうした、何かあった? 疲れたの?」と聞きたくなるくらいに。

オープニングの「How Do Ya Feel Tonight」からして、声を張り上げることなく、囁くように歌うブライアン。それは続く「C'mon C'mon C'mon」やタイトルトラック「On A Day Like Today」まで変わらず、アコースティックベースのゆったりとしたミディアムテンポが続くわけです。

これ、1998年という時代性を考えると非常に納得いくと思うんですが、当時ブライアンが活動の基盤を置いていたのはカナダではなくイギリス。そう、OASISRADIOHEADといったバンドがメガヒットを飛ばしていたタイミングなんですね。それこそ、THE VERVEもそうだし、BLURもそう。なんて考えると、ブライアンがこのスタイルに挑んだとしても不思議ではないわけです。

ただ、個人的にはボブ・ロックとの組み合わせからBON JOVIの『KEEP THE FAITH』(1992年)的な作品を期待していたんですが……(苦笑)。

ミディアムテンポの5曲目「Fearless」あたりでようやくシャウトが飛び出したりするものの、彼らしい溌剌としたロックナンバーは11曲目「Before The Night Is Over」まで登場しません。続く「I Don't Wanna Live Forever」もアップテンポのポップロックですし、中盤には軽やかな「When You're Gone」(SPICE GIRLSのメラニー・Cとのデュエット曲)もありますが、こういったロックチューンはこの程度。あとはひたすら地味で、ひっそり楽しむのがお似合いな楽曲ばかり。『INTO THE FIRE』ともまた違った“大人の雰囲気”を漂わせていますが、10年周期でこういう作品って作りたくなるものなんですかね?

ここまでネガティブなことも書いてきましたが、ただアルバムのクオリティは非常に高いものだと思います。曲順にやや難あり(似たようなテンポが続く、アップテンポが終盤に固まっている、など)ですが、ブライアン・アダムスのバラードサイドが大好物というリスナーなら間違いなくハマる1枚だと思います。

ちなみに本作、アメリカでは最高103位と大コケ。本国カナダでは3位、イギリスでも過去2作の1位には及ばない11位止まり。ただ、イギリスでは「When You're Gone」が3位のヒットを記録しています。



▼BRYAN ADAMS『ON A DAY LIKE TODAY』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 08 12:00 午前 [1998年の作品, Bryan Adams] | 固定リンク

2018年9月 7日 (金)

THE OFFSPRING『AMERICANA』(1998)

1998年11月にリリースされた、THE OFFSPRING通算5作目のスタジオアルバム。3rdアルバム『SMASH』(1994年)が全米4位、アメリカだけで600万枚を超え、全世界でトータル1000万枚を突破するセールスで、GREEN DAYとともに一躍トップバンドの仲間入りを果たしましたが、この『AMERICANA』もそれに匹敵する全米2位、アメリカのみで500万枚、全世界では1000万枚も売り上げるメガヒット作になりました。特に本作からは「Pretty Fly (For A White Guy)」(全米53位)、「Why Don't You Get A Job?」(同74位)というシングルヒットも生まれ、パンクの域を超えた国民的バンドへと登りつめたのでした。

日本で言うところのメロディック・ハードコア(いわゆるメロコア)的スタイルのバンドだった彼らですが、前作『IXNAY ON THE HOMBRE』(1997年)から引き続きデイヴ・ジャーデン(JANE'S ADDICTIONALICE IN CHAINSANTHRAXなど)をプロデューサーに起用した本作は、非常に芯の太いリズムとメタリックなバンドアレンジを取り入れたことで、メロディックパンクやポップパンクの枠をはみ出し、メタル寄りのリスナーにも親しみやすいサウンドに仕上げられています。

そこにメロコア特有のキャッチーなメロディが乗り、さらにHR/HMファンには馴染み深いDEF LEPPARD「Rock Of Ages」冒頭のセリフがサンプリングされた「Pretty Fly (For A White Guy)」があったりと、何かと入口がたくさん用意されているんですよね。

リフの刻み方やギターソロの運び、メロディラインは確かにメタルのそれとは異なるものの、似て非なるものとして楽しめるだけの“遊び”がたくさん用意されているし、「The Kids Aren't Alright」みたいな曲はIRON MAIDENライクで入っていきやすいのでは。それ以外の楽曲も適度に力が入っていたり、かと思えば抜けていたりと、L.A.メタル以降のバカロックが好きな人なら文句なしに楽しめると思うんですよ。

あと、メタルファンにはお約束の“スタンダード曲のカバー”も本作には含まれています。それがモーリス・アルバートの名曲「Feelings」のメロコアカバー。このドラマチックさはもともとメタルのそれなので、パンクならではの疾走感と合間ってより親しみやすくなっているはずです。

本作での大ヒットを機に、以降の彼らの作品はメタリックな色合いを常に備えたものになってるので(ボブ・ロックをプロデューサーに迎えたりしてるしね)、このアルバムを起点にいろいろ聴いてるのもいいかもしれません。



▼THE OFFSPRING『AMERICANA』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 07 12:00 午前 [1998年の作品, Offspring, The] | 固定リンク

2018年9月 6日 (木)

PLACEBO『WITHOUT YOU I'M NOTHING』(1998)

1998年10月発売の、PLACEBOにとって2作目のオリジナルアルバム。デビューアルバム『PLACEBO』(1996年)も全英5位と大成功を収めていますが、続く本作のほうが“ここでブレイクした”というイメージが強いかもしれませんね。チャート上では今作、全英7位なんですが、前作がイギリスとフランス(50位)でチャートインした程度だったところ、今作はフランス(7位)、オーストラリア(14位)、ニュージーランド(15位)、ノルウェー(31位)、オーストリア(43位)、ドイツ(55位)、オランダ(64位)、スイス(95位)とヨーロッパを中心にスマッシュヒットを記録。これが“ブレイクした”というイメージにつながったんでしょうね。

それに、前作は「Nancy Boy」の印象が強かったけど、今作はオープニングトラック「Pure Morning」(全英4位)のほか、「You Don't Care About Us」(同5位)、「Every You Every Me」(同11位)といったヒットシングルが多数生まれ、さらにアルバムタイトルトラック「WITHOUT YOU I'M NOTHING」に関してはシングル化の際にデヴィッド・ボウイとのデュエットバージョンまで制作されているのですから……そりゃあこのアルバムの印象、強いわな。

本作は結成初期のドラマー、スティーヴ・ヒューイットが復帰してから初のアルバムということもあり、リズム面でかなり強化された印象があります。特に「Pure Morning」でのカッチリとしながらもダンサブルなビートは、以降このバンドのひとつの持ち味になったと思います。

また、前作が90年代初頭のオルタナティヴロック/グランジ以降の影響下にある作品だとしたら、今作はブライアン・モルコ(Vo, G)のルーツであるグラムロックと向き合った1枚と言えるでしょう。ボウイとの共演もその一環でしょうし、そういった耽美な色合いはこのアルバムの至るところから感じられるはずです。

そういったサウンドと甘美な恋愛ソングの数々が、ブライアンの特徴的な歌声で表現されることにより、90年代半ば以降のブリットポップとは一線を画する、“古くも新しい”個性的なものへと昇華されたわけです。デビューアルバムのときはそこまでのめり込まなかった自分も、このアルバムで一気に引き込まれたのは、そういった要因も大きいと思います。

あと、このアルバム発売タイミングにグラムロック映画『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』が公開されたのも大きかったなと。ブライアンとスティーヴは映画にも出演しているし、サントラにT. REX「20th Century Boy」のカバーも提供していますし。この曲、日本盤のみのボーナストラックとして追加収録されているので、気になる人はあわせてチェックしてみてください。ま、原曲まんまのコピーなんですけど、どハマりしてますので。



▼PLACEBO『WITHOUT YOU I'M NOTHING』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 06 12:00 午前 [1998年の作品, David Bowie, Placebo] | 固定リンク

2018年9月 5日 (水)

PEARL JAM『YIELD』(1998)

998年2月にリリースされた、PEARL JAMの5thアルバム(日本では同年1月末に先行発売)。プロデューサーは過去3作同様にブレンダン・オブライエンとバンド自身。3作連続で続いた全米1位の記録は、本作で途絶えることに(最高2位)。また、セールス的にも初期3作のマルチプラチナムには程多く、前作『NO CODE』(1996年)同様に100万枚程度にとどまっております。

グランジブームの終焉を経て、いろいろな呪縛から解き放たれたのが前作だとすると、本作は「PEARL JAMとは?」というシンプルな命題と向き合った意欲作のように思えます。

より大らかな土着的アメリカンロックへと進化した『NO CODE』の延長線上にある作品と言えなくもないですが、この『YIELD』ではもっと“PEARL JAMらしさ”や“PEARL JAMっぽさ”を俯瞰で見た作品ではないかと思うのです。それは言い換えると、メンバー自身が“PEARL JAMであることを、引き受ける決意をした”と解釈することができるかもしれません。

前作の要素を踏まえつつも、バンドとして肩の力が抜けた状態で我々のイメージするPEARL JAMを演じる……いや、“演じている”は違うな。PEARL JAMであることを楽しんでいる、そんなアルバムのような気がするのですが、いかがでしょう。

オープニングの「Brain Of J.」こそシリアスモードですが、2曲目「Faithful」以降はかなりリラックスモードですし、シングルカットされた「Given To Fly」や「Low Light」の王道感、ちょっとおふざけ気味な「Do The Evolution」、スティールパンをフィーチャーした1分程度の「」(「The Color Red」や「Red Bar」などと呼ばれています)、実験的な「Push Me, Push Me」など、新しくもあり、と同時に他のアルバムに入っていても不思議ではない雰囲気もある。そう、聴けばやはり「あ、PEARL JAMだ」と瞬時に理解できる楽曲ばかりなんですよね。

『NO CODE』よりも親しみやすく大衆的、だけど過去の焼き直しになっていない。『NO CODE』以降の彼らは「いかにグランジから距離を置くか」という現実と常に対峙し続けたわけですが、この『YIELD』はそういった不遇の期間を突き抜ける糸口になった重要な1枚だと思っています。



▼PEARL JAM『YIELD』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 05 12:00 午前 [1998年の作品, Pearl Jam] | 固定リンク

2018年9月 4日 (火)

ULTRAPHONIX『ORIGINAL HUMAN MUSIC』(2018)

相変わらず次々に新しいバンド/プロジェクトを立ち上げる多作振りを発揮中のジョージ・リンチ。今度はLIVING COLOURのシンガー、コリー・グローヴァーと新たなバンドULTRAPHONIXを結成、今年8月に初のアルバム『ORIGINAL HUMAN MUSIC』をリリースしました。

メンバーはジョージ、コリーのほか、スタジオセッションなどで活躍するクリス・ムーア(Dr)、ファンクバンドWARやデイヴ・ロンバード(元SLAYER、現SUICIDAL TENDENCIES)とのトリオバンドPHILMなどでしられるパンチョ・トマセリ(B)の4人。このバンド、もともとはコリーではなくFISHBONEのアンジェロ・ムーア(Vo)と別の名前でライブを行っていたはずですが……まあ細かいことは気にしないことにしましょう。

ジョージがここでやりたかったことは、上のシンガー変遷とリズム隊のカラーからもわかるように、ハードロックとファンクの融合。ソウルフルだけどハードロック的なコリーのボーカルと、適度にグルーヴィーでタイトなリズム隊、その上でジョージが好き放題弾きまくるという、ファンならなんとなく想像できてしまう構図が、このアルバムの中で展開されているわけです。ここまで聴く前から内容がイメージできてしまうアルバム……さすがジョージ・リンチ。

さて、ジョージのプレイですが、思っていた以上にユルいです。リフもそこまでメタリックではないし、印象に残るものも少ない。ただ、ソロになるといきなりハメを外すんですよ。その落差が面白い。まあ、特に目新しいことはやってないですし、近年のジョージそのものかなと。

楽曲自体はコリーが歌ってることもあって、どこか LIVING COLOUR的。ただ、残念ながらヴァーノン・リードみたいな変態チックなプレイはありません。その“制御された狂気”こそがジョージそのものなんでしょうけど、これはこれで悪くない。個人的にはジョージのほかのバンド(特にKXM)よりは楽しめたかな。

プレスリリースでは、このバンドが目指す方向性について「初期RED HOT CHILI PEPPERS meets JUDAS PRIEST & KING CRIMSON」と記されていますが……後者2つの色、弱くない? KING CRIMSONなんて本編ラストの「Power Trip」ぐらいじゃ(ていうか、まんまなアレンジですけど)……まあ、本人がそう言ってるんだから、そうなんでしょう。たぶん、ライブではそういった要素が強まるんだろうなと、前向きに考えておきます。

このボーカルに対して、もっとメタリックなリフをバシバシぶつければよかったのに、といのが本作に対しての唯一の不満。それ以外は想定内であり、ジョージ・リンチのファンとしては心を広く持っているほうなので、純粋に楽しめる作品でした。



▼ULTRAPHONIX『ORIGINAL HUMAN MUSIC』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3

投稿: 2018 09 04 12:00 午前 [2018年の作品, George Lynch, Living Colour, Ultraphonix] | 固定リンク

2018年9月 3日 (月)

U.D.O.『STEELFACTORY』(2018)

2018年8月末にリリースされた、ウド・ダークシュナイダー(Vo/ex. ACCEPT)率いるU.D.O.の通算16作目となるオリジナルアルバム。気づけば『ANIMAL HOUSE』(1987年)でデビューしてから、昨年で30周年を迎えていたんですね。途中、ACCEPTの再結成があって活動休止していたとはいえ、すでにウドはこちらでのキャリアのほうが長いことになるのか……。

真面目な話をすると、僕は熱心なU.D.O.リスナーではありません。むしろ、リアルタイムでしっかり追いかけていたのは、最初の活動休止前まで。つまり、4作目『TIMEBOMB』(1991年)までなんです。その後も『THUNDERBALL』(2004年)あたりは聴いていたけど、毎作必ず聴いていたかと問われると……ごめんなさい、というタイプのリスナーです。

そんな浅いリスナーの僕が聴いても、この『STEELFACTORY』は「これぞウド、ダークシュナイダー!」と力説したくなるくらいの、とても彼らしい王道ヘヴィメタルが展開されています。

オープニングの「Tongue Reaper」での疾走感、気持ち良いテンポ感の「Make The Move」、そして勇ましいヘヴィチューン「Keeper Of My Soul」と、冒頭の3曲だけで「今、自分はU.D.O.の新作を聴いているんだ」と理解できる/納得できる仕上がり。レコーディングはギタリスト1人のみですが、「In The Heat Of The Night」などで聴けるツインリードはACCEPT時代からのトレードマーク的なものだし、そこにウドの声やシンガロングしたくなるコーラスが乗れば、どこからどう聴いてもU.D.O.やACCEPTの楽曲になるわけです。

随所随所にきめ細やかなメロディラインが用意されており、昔のウドがらみの作品以上に聴きやすさが増している印象もあり、そのへんはアーティストとしての成長と受け取ります。プロデューサーであるジェイコブ・ハンセン(昨日のTHE WiLDHEARTSを筆頭に、VOLBEAT、PRETTY MAIDS、AMARANTHEなどヨーロッパ出身のバンドを多数担当)の手腕によるところも大きいのかもしれませんが、するする聴き進めてしまえる好盤だと思います。

全13曲で58分(日本盤は14曲で62分、海外限定盤および配信版は15曲で68分)と思っていた以上に長いし、ミディアムテンポ中心だから最初は「途中で飽きちゃうんじゃ……」と不安でしたが、飽きずに聴けたのも意外でした。それって、過去の作品よりもメロディラインやアレンジが凝っているからなんでしょうかね。とにかく、古き良きヘヴィメタルやHELLOWEENらそはじめとする“ジャーマンメタル”以前の王道ジャーマンヘヴィメタルを楽しみたいという人にうってつけの1枚だと思います。



▼U.D.O.『STEELFACTORY』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / 海外限定盤CD / MP3

投稿: 2018 09 03 12:00 午前 [2018年の作品, U.D.O.] | 固定リンク

2018年9月 2日 (日)

THE WiLDHEARTS『¡CHUTZPAH!』(2009)&『¡CHUTZPAH! JNR.』(2009)

2009年8月にリリースされたTHE WiLDHEARTSの6thオリジナルアルバム。不完全かつ不本意な形で発売された『FISHING FOR LUCKIES』(1994年)、カバーアルバム『STOP US IF YOU'VE HEARD THIS ONE BEFORE, VOL. 1』(2008年)を含むと、通算8枚目のスタジオアルバムということになります。

また、本作は海外盤と日本盤とで仕様が異なったり、アルバムのアウトテイクで構成されたEP『¡CHUTZPAH! JNR.』(2009年)があったりといろいろ複雑なので、この項でひとまとめに解説していきたいと思います。

まず、本作はジンジャー(Vo, G)、C.J.(G, Vo)、リッチ(Dr, Vo)、そしてスコット・ソーリー(B, Vo)という『THE WILDHEARTS』(2007年)、『STOP US IF YOU'VE HEARD THIS ONE BEFORE, VOL. 1』と同じ布陣で制作。レコーディングはデンマークで行われ、ジェイコブ・ハンセン(VOLBEAT、PRETTY MAIDS、AMARANTHEなど)がプロデューサーを務めました。

本作の特徴は、前作『THE WILDHEARTS』で少しだけ復活した“バンド感”が一気に向上していること。これは同じメンツで長い時間を過ごしてきたことと、直近のカバーアルバムで原点回帰したところも大きかったのかもしれません。

そして、もうひとつ。これまでの半音下げ(E♭)から全音下げ(C)にチューニングを変更したこと。これにより、楽曲の質感がよりヘヴィかつモダンで(どことなく)シャープになった印象を受けます。特にオープニングを飾る「The Jackson Whites」や「Plastic Jebus」「Time Smith」といった楽曲は、このダウンチューニングの恩恵をもろに受け、独特の輝きを見せています。

さて、ここからは各アルバムの仕様についてです。


①『¡CHUTZPAH!』オリジナル盤

全10曲入りでトータル36分。上に書いたように「The Jackson Whites」からスタートし、エレクトロでハードコアでドラマチックなタイトルトラック「Chutzpah」で幕を下ろす構成です。確かに全体的にヘヴィでモダンですが、メロディラインは前作『THE WILDHEARTS』のそれよりもかなり練られている印象が。「You Are Proof That Not All Woman Are Insane」みたいに“いかにも”なひねくれアレンジもあれば、ピアノバラード!?と驚かせておいてハードな展開をみせる「Low Energy Vortex」、軽快なポップロック「You Took The Sunshine From New York」、ストレートなロックンロール「Mazel Tov Cocktail」など“らしい”楽曲満載です。

先に“バンド感”に触れましたが、その要因として作曲にジンジャー以外のメンバーも積極に携わっていること、「The Only One」ではスコット・ソーリーがリードボーカルを担当していることが挙げられるでしょう。個人的にはスタンスが『ENDLESS, NAMELESS』(1997年)にもどこか似ている印象を受けました。もっとも、サウンドの質感や表現したいことは似ているようで異なるんですが。

THE WiLDHEARTSがバンドとして、いよいよ本気を出した……と当時はワクワクしたものですが、ご存知のとおり彼らはこのアルバム以降、新作をリリースしていません。そこも『ENDLESS, NAMELESS』に似ていたりして(苦笑)。

コンパクトで聴きやすく、ヘヴィだけどポップ。このバンドの真髄が現代的な形で表現された、後期の良盤ではないでしょうか。


②『¡CHUTZPAH!』日本盤

イギリス(オリジナル)盤とほぼ同時期にリリースされた日本盤は、全14曲入りで48分というボリューム。オープニングに1分にも満たないアップチューン「Chutzpah Jnr.」が配置され、そこから「The Jackson Whites」「Plastic Jebus」へと続きます。それ以外はオリジナル盤8曲目「You Took The Sunshine From New York」と9曲目「Mazel Tov Cocktail」の間に、「Zeen Requiem」「All That Zen」「People Who Die」(THE JIM CARROLL BANDのカバー。原曲はGUNS N' ROSESがライブ開演前に流していたり、映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』のエンディングテーマにも使用されました)の3曲が追加されています。

これらの新曲4曲は同年12月にバンドのUKツアー会場で販売されたEP『¡CHUTZPAH! JNR.』収録曲。僕は日本盤をまず最初に購入したので、この②の曲順を当たり前のように受け入れ、「おおっ、ショートチューンから入ってヘヴィでモダンな楽曲へと続く構成、カッコいい!」と素直に感じていました。この曲順も悪くない。

ただ、後半……特に追加された3曲が余計だと思ってしまったのも事実。のちに①を購入して聴いてみたら、こっちのほうがスッキリしていて聴きやすい。まあ一長一短ありますよね。

曲数が多い日本盤のほうがいいか、コンパクトなオリジナル盤を選ぶかは、その人次第。まあ機会があったら、両方試してみてください。

ちなみに、ストリーミング(Spotify、Apple Music)には①のみ置かれています。



▼THE WiLDHEARTS『¡CHUTZPAH!』
(amazon:日本盤CD / 海外盤CD / MP3


③『¡CHUTZPAH! JNR.』

上に書いたように、海外では2009年末にライブ会場およびオフィシャルサイト限定で、ここ日本では『¡CHUTZPAH!』のオリジナル盤(①)との2枚組仕様で『¡CHUTZPAH! –DELUXE EDITION-』と題して2010年5月にリリースされています。

収録曲は②に追加された新曲4曲のほか、オフィシャルサイトで無料配信された「The Snake, The Lion, The Monkey And The Spider」や、「Vernix」「Under The Waves」「Some Days Just Fucking Suck」の全8曲。トータルで26分、EPというよりはミニアルバムと呼んだほうが正しいかもしれません。

まあ、アルバム本編からは漏れた8曲ということで、曲順などはそこまで練られていません。オープニングこそ②と同じショートチューン「Chutzpah Jnr.」始まりですが、続いて彼らならではのヘンテコアレンジな「The Snake, The Lion, The Monkey And The Spider」、さらにポップなメロディのロックナンバー「All That Zen」、8分の6拍子かと思いきや、途中で何度も転調を迎える「Vernix」、BOOM BOOM SATELLITESを思い出させてくれるデジロック「Under The Waves」など、アルバム『¡CHUTZPAH!』以上にクセの強い楽曲ばかり。ああ、確かにこれはあのアルバムに入れたら浮くわな。

アルバム単位では印象的な作風ではないものの、1曲1曲は非常に考えられた“らしい”ものばかり。彼らに一度でもハマったことがあるリスナーなら聴いておいて間違いない1枚です。


▼THE WiLDHEARTS『¡CHUTZPAH! JNR.』
(amazon:MP3


以上、長くなりましたが、これが『¡CHUTZPAH!』に関連する一連の作品群となります。良い子は最後に触れた『¡CHUTZPAH! –DELUXE EDITION-』を購入しておけば間違いないと思うよ。けどこれ、限定リリースなので現在は廃盤。店頭で新品を見つけたら即買いですし、中古でもときどき見かけるので根気よく探してみてください。


▼THE WiLDHEARTS『¡CHUTZPAH! -DELUXE EDITION-』
(amazon:日本盤CD

投稿: 2018 09 02 12:00 午前 [2009年の作品, Wildhearts, The] | 固定リンク

2018年9月 1日 (土)

THE SMASHING PUMPKINS『ADORE』(1998)

1998年6月発売の、THE SMASHING PUMPKINS通算4作目のスタジオアルバム。前作『MELLON COLLIE AND THE INFINITE SADNESS』(1995年)が初の全米No.1を獲得したほか、トータルで1000万枚を超えるメガヒット作になりました(2枚組作品なので、実質500万セット販売)。しかし、こうした好状況とは相反し、同作のツアー中にサポートメンバーのジョナサン・メルビン(Key)がドラッグの過剰摂取で死亡。この際、同じ現場にいたジミー・チェンバレン(Dr)も逮捕され、結果的にバンドを解雇されることに。

そんな中でも、ビリー・コーガン(Vo, G)はバンドの歩みを止めることなく、新作のレコーディングに突入します。プロデューサーにフラッドとブラッド・ウッドを迎えて制作されたアルバムは、マット・ウォーカー(FILTER)やマット・キャメロン(SOUNDGARDENPEARL JAM)、ジョーイ・ワロンカー(ベックR.E.M.、ATOMS FOR PEACEなど)といったセッションドラマーが参加しつつも、基本的には打ち込みリズムを基盤としたサウンドメイキングが施されています。

前作で「1979」というニューウェイブの影響をあらわにしたスマパンおよびビリーは、このアルバムでそうしたニューウェイブ魂を一気に爆発させたのです。オープニングの「To Sheila」や一部の楽曲はこれまでにもあったアコースティックの耽美な楽曲ですが、シングルカットされた「Ava Adore」や「Apples + Oranjes」など大半はシンセを主体としたエレクトロ/ニューウェイブ調の楽曲。「1979」の延長線上にある「Perfect」なども含まれているものの、ここには「Cherub Rock」も「Today」も「Bullet With Butterfly Wings」も「Zero」もありません。轟音ギターは鳴りをひそめ、ギター自体があくまでニューウェイブ調楽曲の味付けとしての役割にとどまっているのです。

そりゃあ、“あの”スマパンが好きな人は驚いただろうし、ショックだったことでしょう。しかし、前作でその片鱗を見せていたニューウェイブからの影響、また本作と同時期にリリースされたDEPECHE MODEのトリビュートアルバム『FOR THE MASSES』(1998年)での「Never Let Me Down Again」カバーを聴いた人なら、この路線は納得のいくものだったのではないでしょうか。

パーマネントのドラマー不在によって訪れた転機。これを吉と受け取るか凶と受け取るか……世の中的には凶とみなし、チャート的には全米2位を記録したものの、セールス的には100万枚程度と前作から一気に落とす結果に。残念でなりません。

でも、アルバムとしては非常に優れたものだと思いますし、本作以降のビリーの活動を見ていればこの作風はもはやスタンダードなものなんじゃないでしょうか。なんてことも、リリースから20年経った今だから言えるんですけどね。アルバム単位で言えば、僕個人彼らの作品で一番好きな1枚です。



▼THE SMASHING PUMPKINS『ADORE』
(amazon:日本盤CD / 日本盤6CD+DVD / 海外盤CD / 海外盤6CD+DVD / MP3

投稿: 2018 09 01 12:00 午前 [1998年の作品, Smashing Pumpkins] | 固定リンク