MUSE『SIMULATION THEORY』(2018)
初の全米No.1を獲得した前作『DRONES』(2015年)から約3年ぶりに発表される、MUSEの通算8枚目のスタジオアルバム。ロバート・ジョン・マット・ラング(DEF LEPPARD、ブライアン・アダムス、AC/DCなど)とタッグを組んだ前作から一変、本作では旧知の仲間であるリッチ・コスティ(FOO FIGHTERS、THE MARS VOLTA、AT THE DRIVE-INなど)に加え、マイク・エリゾンド(ドクター・ドレー、エミネム、MAROON 5など)、シェルバック(テイラー・スウィフト、アデル、アダム・ランバートなど)、ティンバランド(ジャスティン・ティンバーレイク、ミッシー・エリオット、ONE REPUBLICなど)という異色のプロデューサー/ソングライターを多数迎えた、バラエティ豊かな内容に仕上げられています。
本作は昨年5月に発表されたシングル「Dig Down」からスタートしたと言っても過言ではないでしょう。当初は単発シングルであり、これが次作への序章とはまた異なるものであるようなアナウンスもあったかと思いますが、年が明けてから2月に「Thought Contagion」、7月に「Something Human」と不定期に新曲が届けられると、ようやくニューアルバム発売情報も発表され、秋には「The Dark Side」や「Pressure」といったリードトラックも解禁。どの曲も完成度は高いものの、アルバムとしてまとまったときの方向性がボンヤリしていたような気がして少々モヤモヤしたものがありました。そう、曲単位では本当に素晴らしいんですけどね。
先週末に届けられたニューアルバム。デラックス盤やスーパーデラックス盤などボーナストラックが複数含まれるバージョンがあるものの、今回はアルバム本編11曲(トータル42分程度)について話を進めたいと思います。
まず、40分台のコンパクトなアルバムはずいぶん久しぶりだなと。振り返ると、全米ブレイクのきっかけとなった4thアルバム『BLACK HOLES AND REVELATIONS』(2006年)以来(トータル45分)でした。最近は50分強で、本編中に大作が含まれていたり、曲数が13曲くらい入っていたりしましたからね。
ですが、この11曲42分という内容、先に書いたようにトータリティに関しては過去イチで薄いものと言えるでしょう。従来のMUSEらしい変態的ギタープレイをフィーチャーしたロック/ポップチューンを含みつつも、モダンなエレクトロポップの要素を強めたシングル向き楽曲、ヒップホップ色濃厚なナンバーなど、かなり斬新な楽曲も複数含まれています。ですが、それらは決して「MUSEらしくない」ものではなく、しっかりとMUSEのフォーマットの中でギリギリのラインをはみ出したりはみ出さなかったりしながら、ジワジワとその許容量を広げているのです。ぶっちゃけ、曲単位で聴いたら(例えば先行リリースされた「Dig Down」みたいに)若干拒否反応を示すかもしれませんが、アルバムの流れで聴くと意外と馴染んでしまうのだから、不思議です。
そうなんです。トータリティは薄いんだけど、不思議と「MUSEの作品集」としては当たり前のように楽しめる。これまでの「アルバム」というフォーマットを重要視したスタイルとは明らかに異なるものの、この流れで聴けば抵抗なく聴き進められるのです。そんなマジックみたいなアルバムがこの『SIMULATION THEORY』なのかもしれません。
アルバム冒頭の2曲(「Algorithm」「The Dark Side」)は確かにアルバムというフォーマットを想定した構成だと思いますし、ラスト2曲(「Dig Down」「The Void」)も同様でしょう。それを意図して作られたものなのか否かはわかりませんが、ストリーミング主流時代に突入した今、アルバムというフォーマットの意味が薄まりつつある中でMUSEというバンドがこんな作品を提示してきた。これ自体がある意味現実を表すと同時に、挑戦でもある。そう受け取ることはできないでしょうか。
ぶっちゃけ、アルバムとしての思い入れは過去作ほど強いものにはならないかもしれない。だけど、聴く頻度は異常に高くなりそうな気がする。そんな新時代の代表作になりそうな1枚の登場です。
だからこそ、デラックス盤、スーパーデラックス盤に別バージョンを複数収録したというのも頷ける話。とはいっても、個人的には受け付けませんけどね、アルバムの流れとしては。こちらは単体で聴いて楽しんでいます、出来が良いものも多いので。

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