KISS『ALIVE III』(1993)
1993年5月発売の、KISS通算3作目のライブアルバム。当時のメンバーはポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、ブルース・キューリック(G)、エリック・シンガー(Dr)の4人。前年1992年に発表したスタジオアルバム『REVENGE』を提げたUS公演から厳選された16曲(日本盤およびデジタル盤は1曲追加の全17曲)で構成されています。
ライブ盤としての前作『ALIVE II』(1977年)から16年ぶりのライブ作品ということで、実は80年代のKISSって1枚もライブ作品を残していないんですよね。だから、ノーメイク時代の正式なライブアルバムは本作のみという(1996年に『KISS UNPLUGGED』も発売されていますが、あれはアンプラグドライブなので割愛します)。
というのも、80年代、特にKISSがメイクを落とし活動していた80年代半ばはMTVの時代。音のみから映像ありきの時代へと移行していったこともあり、KISSもあの時代にしてはいち早くライブビデオ『ANIMALIZE LIVE UNCENSORED』を1985年に発売しているのです。また、1987年にはMVと70年代〜80年代のライブ映像をミックスした『EXPOSED』も発表していますし、そういう意味ではこの2作品を“80年代流の『ALIVE』シリーズ”と捉えることができるかもしれません。
そうやって時代に敏感なKISSが、90年代に入り再びライブアルバムをリリースしたというのが興味深いところなのですが、派手なヴィジュアルを推した80年代からそういったヴィジュアルありきの時代が終わりを告げ、再び音で勝負みたいな世界に戻っていった。特に1993年なんて時代はNIRVANAやPEARL JAMがバカ売れしていた時代です。KISS自身も『REVENGE』でヘヴィかつ生々しいサウンドへとシフトチェンジしましたし、ビデオ作品からこうやって再びライブアルバムという手法に変えたのは、ある意味正解だったのかなと。そういう嗅覚だけは異常に冴えてますからね、この人たち(とはいえ、同時期には『ALIVE III』のライブ映像に70年代の秘蔵映像を追加したビデオ作品『KISS DONFIDENTIAL』も発売されているのですが、それはそれということで)。
さて、その本作ですが内容的には『REVENGE』の楽曲を軸にしつつ、70〜80年代のKISSの名曲を織り交ぜた、実にグレイテスト・ヒッツ的な選曲となっています。「Deuce」や「Rock And Roll All Nite」「Detroit Rock City」といった過去の『ALIVE』シリーズにも収録されていたヒット曲はもちろんですが、『ALIVE II』以降に発表された「I Was Made For Lovin' You」や「I Love It Loud」「Heaven's On Fire」「Lick It Up」「Forever」といったヒット曲/代表曲に加え、「I Still Love You」や「Watchin' You」といったレア曲もあったりと、なかなかこの時代らしいセレクト。KISSがヘヴィメタル化した『CREATURES OF THE NIGHT』(1982年)から3曲も選ばれているのも、90年代前半のKISSのモードを物語っているのではないでしょうか。
あと、ご存知のとおりKISSはライブ作品のオーバーダブをしたりボーカルやギターを差し替えたりすることで知られていますが(そんなのファンしかしらないって。笑)、本作のサウンドの質感がまさに「スタジオライブ音源にスタジアムでの完成を被せた」ような仕上がりでして。本当に純粋なライブアルバムとは言い難い、非常に“整理された”サウンドなのです。そこを良しとするか否かで、本作に対する評価もまた変わってくるのかなと。ただ、このアルバムが発売された当時、KISSは1988年以来の来日公演がまったく実現していなかったため、日本のファンにとってはあの頃のライブの雰囲気に触れるという意味で非常に重要な役割を果たした1枚だったのではないかと思います(あの頃、誰もが海賊盤に手を出せたわけではないしね)。
僕ですか? そんな小難しいこと考えず、夢中になって聴きまくってましたが(笑)。KISSに関しては、そういう楽しみ方が正しいのではないかと思うのです。踊らされてナンボでしょ?
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