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2020年7月19日 (日)

NINE INCH NAILS『YEAR ZERO』(2007)

2007年4月にリリースされたNINE INCH NAILS通算5作目のオリジナルアルバム。

前作『WITH TEETH』(2005年)が約6年ぶりのオリジナルアルバムだったこともあり、この『YEAR ZERO』までの2年というインターバルはNINE INCH NAILSにとって非常に短いもので、当時かなり驚かされた記憶があります(その驚きは、続く『GHOST I-IV』や『THE SLIP』でさらに更新されるのですが)。全米1位を獲得した『WITH TEETH』からの流れで、今作も最高2位という好記録を樹立しています。

作風としては、前作『WITH TEETH』が生音を軸に“インダストリアル・ロックバンドNINE INCH NAILS”を表現したものだとするならば、今作は“トレント・レズナーのインダストリアル・ユニットNINE INCH NAILS”をより濃く表したものかなと。事実、ジョシュ・フリース(Dr)による生ドラムによるトラックは2曲のみで、それ以外は打ち込み主体の、良い意味で初期NINを彷彿とさせる楽曲ばかり。もっと言えばデビューアルバム『PRETTY HATE MACHINE』(1989年)を約20年後に、最新の技術を用いて焼き直した、そんな印象すら受けます。

言い方は正しくないかもしれませんが、前作を「ロックバンドとしての初期衝動を、大人になったトレント・レズナーなりの表現で手堅くまとめた」ものだとしたら、今回は「アーティストとしての初期衝動を、大人になったトレントが今の知識・技術を用いて手堅くまとめた」……そう受け取ることはできないでしょうか。

「手堅く」と書くと、ちょっとネガティブに受け取られるかもしれませんが、これはもちろん褒め言葉。アーティスティックな側面は前作よりも本作のほうが色濃く表れているものの、しっかり「プロダクツ」としての完成度も考えられている。そのへんを「手堅く」と言い表したのですが……理解していただけますか?

ぶっちゃけ、NINE INCH NAILSとしてやるべきこと、やりたいことって90年代のうちに(1999年発売の大作『THE FRAGILE』で)やり尽くしてしまったわけで、そこを踏まえて『WITH TEETH』や『YEAR ZERO』を聴くと改めて“NINの再生”というテーマが見えてくる……のではないでしょうか。その“再生”が果たしてうまくいったのか、失敗だったのかはわかりません。しかし、新しい“何か”を見つけることができなかったから、この数年後にトレントはNINとしての活動を一度止めることになるわけでして。

とはいいつつ、本作にはブラックミュージックからの影響も見え隠れする。ファンクというよりはヒップホップ以降のリズム感が、エレクトロニック・ボディ・ミュージック(EBM)とミックスすることで生まれる、歪なインダストリアル感……そこに関しては、ひとつ新たな発見や成長を得られたのかな。NINがここで終わらずにもう数年延命したのは、そういった影響も少なくないと思います。

終始安心して楽しめる1枚だけど、作り手としてはそういう作品は求めていなかったのかな。個人的には先の『WITH TEETH』とあわせて二部作的なポジションで楽しむべき、NINの集大成的1枚だと思っています。

 


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