BON JOVI『2020』(2020)
2020年10月2日にリリースされた、BON JOVIの15thアルバム。
本作は当初今年の5月15日に、『BON JOVI 2020』というタイトルで発表予定でした。しかし、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大、およびそれが影響した音楽産業の動きの鈍化(プレス工場の閉鎖やプロモーションの遅れなど)などが影響し約5ヶ月後に延期されることに。これに加えて、BON JOVIの場合はメンバーのデヴィッド・ブライアン(Key)が3月、実際にコロナに感染するという事件もありました。その後、サポートメンバーのエヴェレット・ブラッドリー(Per)や、ジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)の息子も感染し、バンドに大きな影を落とします。
当初、『BON JOVI 2020』という作品は以下の10曲が収録される予定でした。
01. Beautiful Drug
02. Unbroken
03. Limitless
04. Luv Can
05. Brothers In Arms
06. Story Of Love
07. Lower The Flag
08. Let It Rain
09. Shine
10. Blood In The Water
ここから昨年末に「Unbroken」が、今年2月に「Limitless」がシングルカットされています。
しかし、ジョンはこの世界的に深刻な状況に対して、そのときに感じた言葉を綴り新曲を2曲制作します。それが7月に公開された「American Reckoning」と「Do What You Can」でした。アルバムはこの2曲と「Luv Can」「Shine」を差し替え、新たな曲順でアルバムを再構築(同時に別4曲の歌詞を一部加筆)。こうして我々の手元に届けられたのが『2020』とシンプルなタイトルに改題された本作になります(日本盤のみ、カットされた「Luv Can」「Shine」がボーナストラックとして追加収録)。
日本盤をもとに、当初の『BON JOVI 2020』の曲順で聴いてみると、前作『THIS HOUSE IS NOT FOR SALE』(2016年)の作風をさらに一歩推し進めつつ、かなりダークでシリアスなトーンに統一された地味なアルバムという印象を受けます。過去作でいうと『THE CIRCLE』(2009年)や『BOUNCE』(2002年)に近いのでしょうか。ただ、前者ほどロック然としていないし、後者ほど派手さやハードロック感はありません。『THE CIRCLE』で片足突っ込んでいた、U2的スタイルにより近づいたのかな、という感じです。
ところが、新曲2曲を加え、曲順を変えた『2020』はもうちょっと希望を感じさせる前向きなアルバムという変化を受けます。アップテンポの「Limitless」がオープニングに置かれたことで聴く側の気持ちも上がるし、そこに朗らかなカントリーロック「Do What You Can」が続くことで、2000年代後半のレイドバックし始めたBON JOVIとイメージが重なる。冒頭2曲の効果は非常に大きいと思います。
そこからシリアスで穏やかだけど力強さもしっかり伝わる「American Reckoning」、前作の延長線上にあるハードテイストの「Beautiful Drug」、優しいアコースティックバラード「Story Of Love」という前半の流れはデビューから40年近く経ち良い意味で老成したBON JOVIの深みを感じさせます。
後半がポジティブなロックチューン「Let It Rain」から始まるのも、本作をポジティブなものへと昇華させるうえで重要ではないでしょうか。ただ、そこから「Lower The Flag」「Blood In The Water」と内省的なスローナンバーが続くのですが(苦笑)。さらに「Brothers In Arms」というロックチューンで再びアゲていき、ラストは本作の始点である「Unbroken」で締めくくる。オープニング、中盤、エンディングとすべてにおいて今回の曲順のほうが聴き手をポジティブにさせる効果が強と思います。
で、何度か聴いて気づきました。本作は名盤『THESE DAYS』(1995) の後日譚なのではないかと……同作の主人公が大人になり、家庭を持ち、子供を持ち、社会の不条理に翻弄される。だけど、そんな苦難に負けじと何度でも立ち上がって前に進もうとする。『THESE DAYS』では世の中の不平等、不条理に嘆くことしかできなかった“私(=I)”が、ここでは“私たち(=We)”になったんじゃないか、と。歌詞から伝わる今のアメリカ&世界情勢を通じて浮かび上がる我々の日常という意味でも、2作は(25年という時間の流れはあるものの)兄弟作のような気がします。
80年代のBON JOVIから完全に脱却した『THESE DAYS』と、リッチー・サンボラ(G, Vo)が抜けたBON JOVIを新しい形にまとめあげた『2020』。本作は間違いなくBON JOVIにとって新たなターニングポイントになるはずです。もはやハードロックとは一切関係ない音だし、なんなら地味すぎて聴き手を選びそうな内容ですが、芯がしっかりしていてコンパクトにまとめられた本作を僕は支持したいと思います。
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