CHRIS CORNELL『NO ONE SINGS LIKE YOU ANYMORE』(2020)
2020年12月11日にリリースされたクリス・コーネルの5枚目にして最後のスタジオアルバム。同日のデジタル配信に続き、2021年3月19日にはフィジカル(CD、アナログ)での発売も予定されています。
本作はクリスが生前(2016年)、プロデューサーのブレンダン・オブライエンとの共同作業で制作していたカバーアルバムで、演奏はすべてクリスとブレンダンが担当。クリスが多大な影響を受けた10曲が選ばれており、彼の意図した曲順どおりに並べられています。
クリスが亡くなったのが2017年5月なので、おそらく同年後半には本作を正式にリリースしていたんだろうな……そう思えるほど、このアルバムは完璧な形で仕上げられているんです。クリス亡き後、ブレンダンが多少付け足した箇所はあるのかもしれませんが、基本的には2016年当時とほぼ変わりないんだろうなと(まったく付け足していないと言われても“死人に口なし”。当のクリスは否定できないですから)。それくらいあの当時(2015年前後)の彼のスタイルに通ずる作風なので、最初から最後まで安心して聴くことができるはずです。
いわゆるハードロック的なアーティストからピックアップされたのは、今年夏に先行配信されたGUNS N' ROSES「Patience」のみ。といっても、この曲自体もともとアコースティックナンバーなので、ハードロックとはかけ離れていますが。それ以外は本当に“いわゆる”ルーツ的な存在ばかり(ジャニス・ジョプリン、ハリー・ニルソン、ジョン・レノン、ELO、テリー・リードなど)。そんな中、シネイド・オコナーのカバーでおなじみのプリンス作「Nothing Compares 2 U」あたりは比較的最近の楽曲といえるのかな(といっても30年前ですが)。この曲のカバーは2018年発売のコンピレーションアルバム『CHRIS CORNELL』にライブバージョンで収録されていましたが、スタジオ版はこれが初出。今回のアルバムでは直前に配置された「Patience」から続く良い流れを作っており、本作におけるクライマックスのひとつと言えるでしょう。
そのほかにもSOUNDGARDENでの表現にも通ずるアレンジの「You Don't Know Nothing About Love」(原曲はカール・ホール)や、ソロ3作目『SCREAM』(2009年)でのテイストを彷彿とさせる「Showdown」(原曲はELO)など、注目すべきポイントは本当に満載。ただ、本作における最大の聴きどころは、ラストナンバーとして用意された名曲「Stay With Me Baby」のカバーではないでしょうか。
「Stay With Me」とも呼ばれるこの曲は女性ソウルシンガーのロレイン・エリソンが歌う原曲のほか、ベット・ミドラーやテリー・リードなどさまざまなアーティストによって取り上げられており、HR/HM系でもWHITESNAKEが9thアルバム『RESTLESS HEART』(1997年)でカバーしていたので、こっち側のリスナーでも知っているという方は少なくないのでは。クリスのバージョンはテリー・リード版を元にしているようですが、晩年のクリスのしゃがれ切った歌声が非常にマッチした、最高のカバーバージョンと言えるでしょう。すでにアメリカのドラマ『VINYL』のサウンドトラックに提供済みだった既発テイクですが、この曲がラストに置かれる意味含め、これ1曲のために本作を手にしてもいいくらい、というのは言い過ぎでしょうか。
もちろん、それ以外のカバーもアコースティックサウンドをベースにしつつ、現代的な味付けが随所に施されており、今の耳で聴いてもしっかり楽しめる1枚に仕上がっています。晩年のクリスがこんな穏やかなアルバムを制作していたという事実にちょっと寂しさも感じますが、最後の最後にこのような素敵なアルバムを届けようとしていた彼の意思に敬意を評しつつ、本作をじっくり堪能したいと思います。
▼CHRIS CORNELL『NO ONE SINGS LIKE YOU ANYMORE』
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