POPPY『I DISAGREE』『I DISAGREE (MORE)』『ALL THE THINGS SHE SAID』(2020)
2020年1月10日にリリーされたPOPPYの3rdアルバム。日本盤未発売。
POPPYはアメリカ出身のアーティスト/エンターテイナー/YouTuberで、THAT POPPY名義にて2011年頃から活動開始。2015年からは音楽活動も始めており、『POPPY.COMPUTER』(2017年)、『AM I A GIRL?』(2018年)に続く本作はレーベルをモダンメタル/ラウド系老舗レーベルSumerian Recordsに移しての第1弾作品となります。
それも影響してか、本作では前作『AM I A GIRL?』以上にメタル/ラウド度を高めており、我々のようなリスナーにもとっつきやすい内容に仕上がっています。トガったモノクロのアートワークにこそブラックメタル寄りの邪悪さを感じますが、その内容はモダンメタルのアグレッションとエレクトロポップ風可愛らしさ、さらにインダストリアルやアンビエントの味付けも施されており、メタルと意識しなければ「こういう激しさを伴うポップスもアリだよね?」で済まされてしまいそうな、そんなナチュラルさすら伝わってきます。
例えば、アヴリル・ラヴィーンがパンクからモダンメタル寄りになったら。マイリー・サイラスがエレクトロベースの邪悪なヘヴィロックに挑んだら。そんなたとえ、もっと出てきそうですが、要するにいろんなジャンルの枠を取っ払った聴きやすさは、“村外”のリスナーにこそアピールするものではないかと思うのです。もっと言ってしまえば、BABYMETALで“ヘヴィでメタリックな領域”に片足を突っ込んだメタルビギナーにこそ触れていただきたい1枚だなと。
そういう“カワイイ”と“クール”が並列され、実はよく聴くと尖った要素満載な音と楽曲群(タイトルトラック「I Disagree」に登場する〈わたしはあなたにどういしませんん。〉という日本語詞含む)は、完全に2020年の“今”を捉えたものであり、先のBABYMETALを筆頭にBRING ME THE HORIZON、あるいはCODE ORANGEあたりが見せた進化の“もうひとつの新しい形”とも言えるのではないでしょうか。3分前後のコンパクトなスタイルは完全に今のそれだし、曲ごとにさまざまなスタイルを見せつつもポップネスとアグレッションが共存するアレンジ、キャッチー以外の何ものでもないPOPPYのボーカルスタイル、すべてが完璧な配分で調合されており、気づけば全10曲、あっという間に聴き終えているという完全無欠な1枚。本作収録の「Bloodmoney」がグラミー賞のメタル部門にCODE ORANGEらとともにノミネートされたのも納得です。
▼POPPY『I DISAGREE』
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そして、本作は2020年8月24日に新曲を追加したリイシュー盤『I DISAGREE (MORE)』もデジタルリリース(アナログ盤は2021年1月29日発売予定)。直前にデジタル配信されたリードトラック「Khaos x4」のほか全4曲が本編10曲のあとに収められています。また、アートワークも一新され、ブラックメタル調からどこかエイリアンチックな人物(生物?)がフィーチャーされたモノクロ写真に差し替えられています。一瞬『MECHANICAL ANIMALS』(1998年)あたりのMARILYN MANSONかと思った(笑)。
この新曲4曲でも本編『I DISAGREE』の延長線上にある、モダンメタル/エレクトロ/インダストリアル影響下のポップスが展開されており、個人的にはNINE INCH NAILSマターな「Bleep Bloop」やBABYMETALリスナーなら問題なく受け入れられるであろう“カワイイメタル”な「Khaos x4」、浮遊感の強い「Don't Ask」がお気に入り。要するに、全部良いということです。アルバム本編の延長線上にありながらも、さらなる広がりを感じさせるテイストはPOPPYというアーティストの可能性をさらなる未知数に導いてくれたのではないでしょうか。
実は、先日某雑誌で年間ベストアルバム10枚を提出したのですが、その際に当サイトで過去に紹介したアルバムをもとに選出していたんですね。ところが、こちらではまだPOPPYを取り上げていなかったため、「あ、そういえばPOPPY忘れてた!」とあとになってから気づいたという。なので、今後紹介する年間ベストには間違いなく本作を選んでいると思います!
それくらい、2020年という時代を象徴する1枚だと断言させてください。
▼POPPY『I DISAGREE (MORE)』
(amazon:海外盤アナログ / MP3)
最後に。どちらのアルバムにも未収録ですが、今年6月に配信リリースされた「All The Things She Said」もオススメです。ご存知のとおり、この曲はロシア出身の2人組ガールズユニットt.A.T.u.が2000年代初頭に世界中で大ヒットさせた名曲カバー。
原曲の構成、イメージそのままに、現代的なサウンドと味付けが付け加えられており、POPPYというアーティストのテイストにも非常にぴったりな仕上がり。この夏、延々とリピートし続ける時期があったほどお気に入りの1曲です。確かにアルバム本編に(および『I DISAGREE (MORE)』のボーナストラックとして)加えるにはちょっと色が違うのかもしれませんが、それでも『I DISAGREE』以降の流れに非常にフィットした仕上がりなので、上記のアルバムに触れる際にはぜひあわせてチェックしていただきたい重要な1曲です。
▼POPPY『ALL THE THINGS SHE SAID』
(amazon:MP3)
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