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2021年1月 7日 (木)

DAVID BOWIE『TONIGHT』(1984)

1984年9月にリリースされたデヴィッド・ボウイの16thアルバム。

前作『LET'S DANCE』(1983年)および同名シングルの大ヒットを受け、前作から1年半という短いスパンで届けられた本作。方向性的には間違いなく前作の延長線上にあるのですが、いざ収録内訳を確認すると全9曲中5曲がカバー(前作における「China Girl」同様、イギー・ポップへの提供曲セルフカバー3曲含む)という事実に驚かされます。

プロデューサーは前作でのナイル・ロジャースからデレク・ブラブル&ヒュー・パジャムに交代。デレクはファンクバンドHEATWAVEの元メンバーで、ジャッキー・グラハムやフェイス・ヒルなどを手がけたことで知られる人。ヒュー・パジャムは80年代前半にTHE POLICEやフィル・コリンズ、HUMAN LEAGUE、XTCなどで名を馳せたご存知の方。前作でやろうとしたことを、各分野のトップランナーを迎えることでより濃く表現しようとした結果なのでしょうか(単にナイル・ロジャースが売れっ子すぎて捕まらなかった説もありますが)。

オープニングを飾る「Loving The Alien」は儚くも美しい世界観を持つ良曲ですが、ベースラインが「Let's Dance」をなぞっていたりして、なるほどと納得されられます。また、この曲が本作で最長の7分強というのも、なんとなく「Let's Dance」の二番煎じ的な……そこと重ねてしまうと「う〜ん」と思ってしまいがちですが、過去を切り離して曲単位で考えると非常によくできた1曲ではないでしょうか。

イギー程曲曲のカバー「Don't Look Down」や「Tonight」は、意外と落ち着いた雰囲気で好印象。後者はティナ・ターナーをデュエット相手に迎えており、このレゲエテイストの緩やかな曲調で暑苦しい歌声を響かせます(笑)。「God Only Knows」はご存知THE BEACH BOYSの名曲カバー。このスタンダード感もまた良し。ブラックミュージックやスタンダードナンバー的な楽曲をカバーすることで、ポップスター感をより強めることに成功しています。

後半には前作における「Modern Love」的なスタジアムロック「Neighborhood Threat」(イギー提供曲のカバー)があったり、当時ノエビア化粧品(懐かしい……笑)のCMソングとしておなじみだった「Blue Jean」(全英6位/全米8位)、ボウイ&イギーの共作によるファンキーな「Tumble And Twirl」があったり、そのイギーをデュエット相手として迎えた「Dancing With The Big Boys」があったりと、なかなかバラエティに富んだ構成となっています。そんな中、個人的に印象深いのは60年代に活躍したR&Bシンガー、チャック・ジャクソンのカバー「I Keep Forgettin'」がお気に入り。いかにもヒュー・パジャム的なタムタムドラムの音色はさすがに今聴くと苦笑してしまいますが、全体を通して悪くないんじゃないかな。いや、かなり良いと思うんですが……。

前作での成功の余波もあり、本作は全英1位/全米11位と大健闘。ですが、二番煎じ感が強かったためか、前作以上に低評価なんですよね。だけど、改めて聴き込むと……実は『LET'S DANCE』よりよく作り込まれた良作じゃないかと気づくわけです。これを聴いちゃうと、『LET'S DANCE』はこのアルバムの習作だったんじゃないか……とすら思えてくるのですが、ふと冷静になって考えると、収録曲の半数以上がカバーという事実にぶち当たる。これが低評価の要因のひとつでもあるのかな。

だけど、個人的な好みで言えば確実にこっち。ここはぜひ“もっとも再評価されるべき1枚”だと断言させてください。

 


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