ST. VINCENT『DADDY'S HOME』(2021)
2021年5月14日にリリースされたセイント・ヴィンセントの6thアルバム。
オリジナルアルバムとしては『MASSEDUCATION』(2017年)以来、3年7ヶ月ぶり。プロデュースは前作から引き続きジャック・アントノフ(テイラー・スウィフト、ロード、ラナ・デル・レイなど)のほか、セイント・ヴィンセントが本名のアニー・クラーク名義で共同プロデューサーとして名を連ねています。
今作はそのタイトルからも想像できるように、アニーが幼少時代に父親から教えられた1970年代初頭から半ばのロックを下地にした、自身のルーツを振り返るような1枚。オープニングトラック「Pay Your Way In Pain」からはソウル〜ニューウェイヴ期のデヴィッド・ボウイが透けて見えるし、以降も同時代のロックやソウル、ポップスと印象が重なる楽曲がずらりと並ぶ。「The Laughing Man」からはTHE ROLLING STONESのアルバム『GOATS HEAD SOUP』(1973年)が持つ質感と通ずるものがあるし、「Down」は70年代前半のスティーヴィー・ワンダーとも重なり、「Daddy's Home」や「Somebody Like Me」のようなフォーキーでソウルフルな楽曲はジョニ・ミッチェルやドリー・パートンのような女性シンガーのイメージともリンクする。なるほど、と随所で納得されられる内容なわけです。
とはいいつつも、本作は単なる音楽的な原点回帰作とも言い切れない、不思議な魅力を秘めている。というのも、このアルバムへと向かっていくひとつの原動力に、長く刑務所に勾留されていた実父が2019年に出所したことがあるからです。そのタイミングに、彼女は本作収録曲の制作を開始。歌詞の面では、彼女の幼少期に受けた周りからの差別や拒絶なども表現されており、そういった言葉の重み/強さが現代的にリメイクされたルーツミュージックに乗ることでより迫力を増しているのではないでしょうか。
また、「Pay Your Way In Pain」のパフォーマンス映像を観ると、彼女の武器のひとつであるギターを抱えずに歌に専念しているところにも驚かされる。ギタリストとしても非凡な才能を発揮するセイント・ヴィンセントですが、ヴィジュアルコントロールや演出方法の変化にも本作ならではのこだわりが伝わってきます。
彼女は今作リリースにあわせて、Spotify上に『Daddy's Home Inspiration』と題したプレイリストを公開していますが、そこにはスティーヴィー・ワンダーやドリー・パートン、ルー・リード、ボウイ、ジェイムズ・ブラウン、ジョニ・ミッチェル、PINK FLOYD、THE ROLLING STONES、STEELY DAN、WAR、WINGS、YESなどの名曲群を見つけることができる。アルバムを聴き終えたあとにこのプレイリストに触れると非常に腑に落ちるものがあるんですよね。今作の音楽的源泉をたどる上では、このプレイリストは副読本として非常に重要だと考えています。
過去のどのアルバムも非常に個性的で非凡さに満ち溢れていましたが、本作はまたそれらとも違った魅力を放っている。かつ、わかりやすいようで実は相当奥深い。時間をかけてじっくり反芻した1枚です。
なお、本作の日本盤には昨年デジタルリリースされたYOSHIKI(X JAPAN)とのコラボ曲「New York feat. YOSHIKI」を追加収録。おそらくこれが初CD化なので、ファンとしてはぜひ入手しておきたいところ……ですが、この日本盤。3,300円もするんですよね……同じメーカーから発売されたTHE OFFSPRINGの新作も同価格でしたが、この値段設定はどうにかならないものでしょうか。ますます日本人の洋楽離れを引き起こしそうな気がするのですが……。
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