KISS『ROCK AND ROLL OVER』(1976)
1976年11月にリリースされたKISSの5thアルバム。
ライブアルバム『ALIVE!』(1975年)およびシングルカットされた「Rock And Roll All Nite」がスマッシュヒットを記録(前者が全米9位、後者が同12位)。続くスタジオアルバム『DESTROYER』(1976年)も全米11位まで上昇し、シングルカットされ「Beth」が最高7位を記録するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時のKISSは、前作から8ヶ月という短いスパンで次作を届けます。そういう時代だったとはいえ、この頃のKISSの創作意欲(というか創作能力)には相当なものがあったように感じます。
ボブ・エズリンをプロデューサーに迎え、鉄壁なスタジオワークでまとめあげた『DESTROYER』での反動からか、続く今作ではプロデューサーに『ALIVE!』を手掛けたエディ・クレイマー(ジミ・ヘンドリクス、デヴィッド・ボウイ、LED ZEPPELINなど)を迎え、ライブ的な生々しさと躍動感を重視した作風で仕上げられています。そのレコーディングも通常のレコーディングスタジオではなく、ニューヨークの劇場を借り切って行われたとのこと。KISSが本作に何を求めていたかがよくわかるエピソードではないでしょうか。
前作に見受けられたシアトリカルな要素はここでは払拭され、ポップさはそのままに、初期のシンプルなスタイルによりハードさを加えたサウンドに進化。楽曲のキャッチーさ、RAMONESが“パンクロック版BEACH BOYS”だとしたら、本作はそのハードロック版と言えなくもないかな。それくらい1曲1曲の個が立っており、歌、コーラスワーク、演奏どれもが無駄のないアレンジで固められている。だけど、そこには作り込まれた感は皆無で、程よいラフさがライブバンドらしさを見事に表現しているわけです。
シングルカットされた「Calling Dr. Love」(全米16位/ジーン・シモンズ歌唱)や「Hard Luck Woman」(同15位/ピーター・クリス歌唱)のほか、「I Want You」や「Makin' Love」(ともにポール・スタンレー歌唱)などのライブ映えする代表曲、「Take Me」や「Ladies Room」「Love 'Em And Leave 'Em」「Mr. Speed」など隠れた名曲も多く、全編を通してダレることが一切ない完璧な1枚。アイコン的なアートワーク含め、1stアルバム『KISS』(1974年)や前作『DESTROYER』同様、入門者に最適な1枚ではないでしょうか。
実は筆者も、70年代のKISSオリジナルアルバムで最初に手にしたのが、このアルバムでした。自分に中での「初期のKISSらしさ」がもっとも感じられる1枚はこれなのかな……なんて、最近聴き返すたびに感じています。
▼KISS『ROCK AND ROLL OVER』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)
« FEAR FACTORY『AGGRESSION CONTINUUM』(2021) | トップページ | ENUFF Z'NUFF『PEACH FUZZ』(1996) »
「KISS」カテゴリの記事
- BLACK SABBATH『THE ETERNAL IDOL』(1987)(2024.04.09)
- BLACK SABBATH featuring TONY IOMMI『SEVENTH STAR』(1986)(2024.04.07)
- KISS『ALIVE! THE MILLENNIUM CONCERT』(2006)(2022.12.06)
- KISS『KISS SYMPHONY: ALIVE IV』(2003)(2022.12.05)
- KISSのベストアルバムを総括する(2022年版)(2022.12.04)
「1976年の作品」カテゴリの記事
- DAVID BOWIE『STATION TO STATION』(1976)(2023.01.07)
- AC/DC『DIRTY DEEDS DONE DIRT CHEAP』(1976)(2022.11.10)
- SCORPIONS『VIRGIN KILLER』(1976)(2022.03.02)
- KISS『ROCK AND ROLL OVER』(1976)(2021.06.20)
- RAMONES『RAMONES』(1976)(2021.01.15)