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2021年10月20日 (水)

TEARS FOR FEARS『THE SEEDS OF LOVE』(1989)

1989年9月25日にリリースされたTEARS FOR FEARSの3rdアルバム。

「Shout」「Everybody Wants to Rule The World」という2つの全米No.1ソングを輩出し、アルバム自体も全米1位獲得、500万枚超えのセールスを記録した前作『SONGS FROM THE BIG CHAIR』(1985年)から4年半ぶりの新作。同作での大成功がもたらしたローランド・オーザバル(Vo, G)とカート・スミス(Vo, B)の不和により、しばらく活動が停滞していましたが、オリータ・アダムス(Vo)との出会いにより受けた刺激から、それまでのスタイル/サウンドからの脱却を図ります。

過去2作を手がけたクリス・ヒューズから新たにデイヴ・バスコム(DEPECHE MODEGENESIS、トム・ヴァーラインなど)をプロデューサーに迎え、3年にもわたる難産の末に完成した本作は、前作で垣間見えたジャズからの影響に加え、ソウルやブルース、中期ビートルズ的なサイケデリックロックの色合いが散りばめられた、非常に音楽的幅の広がった1枚に。ニューウェイヴの流れから誕生したTEARS FOR FEARSですが、作品を重ねるごとにスタート地点からどんどんと離れていき、この3作目からはジャンルにとらわれずに“音楽”を心底楽しんでいる様子が伝わってきます。

また、1stアルバム『THE HURTING』(1983年)時点ですべての楽曲をローランドが手がけていたものの、リードボーカルに関してはローランドとカートが半々だったボーカル体制も、今作ではほぼローランドのソロプロジェクト体制に(前作の時点でその予兆はありましたが)。カートは「Sowing The Seeds Of Love」での一部パート、および「Advice For The Young At Heart」でその透明感の強い歌声を聴けるのみ。オリータが加わったことで前作にはなかった多様性も少々増えていますが、基本的にはローランドのシンガーとしての成長や表現力の向上を存分に味わえる作品集なのかな。そう考えると、次作以降のカート脱退/ローランドのソロプロジェクト化も頷けるものがあります。

全体を通して前作以上に大人びた印象が強く、ワールドミュージック的な側面もありつつ、視点を変えるとプログレッシヴロック的にも聴こえてくる、そんな多彩さ/多面性を持つ傑作。ひとつのバンドが短い期間で急成長を遂げ、ひとつの頂点に到達した瞬間を克明に記録した、奇跡的な1枚と言えるでしょう。その結果、ローランド/カート体制はここで燃え尽きてしまうわけですが。そこから10数年を経て、ローランドがバンドに復帰したものの、2021年10月時点では初期3作に匹敵する作品は生み出せていません。

しかし、2022年2月25日に約17年ぶりのニューアルバム『THE TIPPING POINT』のリリースが決定。現在タイトルトラックが先行公開されており、初期2作の作風を現代的にブラッシュアップさせたような良曲ですが、これ1曲ではなんとも判断が難しいところ。ぜひともTFF本格復活!と声高に宣言したくなるような1枚に期待したいところです。

なお、本作からは日本でもさまざまなCMソングに起用された「Sowing The Seeds Of Love」(全米2位/全英5位)のほか、「Woman In Chains」(全米36位/全英26位)、「Advice For The Young At Heart」(全米89位/全英36位)、「Famous Last Words」(全英83位)といった個性的かつ斬新なヒットシングルが生まれています。シングル曲以外の4曲(本作のオリジナル仕様は全8曲と非常にコンパクト)も個性的な良曲ばかりなので、ぜひアルバムを通してじっくり向き合ってほしいところです。

 


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