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2021年12月

2021年12月31日 (金)

1991 in HR/HM & Alternative Rock

ハードロックやヘヴィメタルにとって大きな転換期となった1991年。この年はMETALLICAやGUNS N' ROSESのビッグタイトルが発表されたほか、SKID ROWやVAN HALENがBillboardで初登場1位を記録する快挙を成し遂げた、HR/HMシーンにとってインパクトの強い1年でした。しかし、それと同時にNIRVANAやPEARL JAMがメジャーデビューを果たし、同年末から1992年にかけて全米チャートを席巻。彼らやALICE IN CHAINS、SOUNDGARDENなどシアトル中心バンドによるグランジ・ムーブメント勃発元年としても記憶されています。

そういった音楽シーンにとって転機であると同時に、湾岸戦争やソ連崩壊など世界情勢でも大きな転換期を迎えた1年でもあります。この年を境に、日本ではバブル崩壊を迎え、不景気に拍車がかかるなど、いろんな意味で1991年は変化の1年でもあるわけです。

そんな1991年から今年で30年。当サイトで取り上げた同年リリース作品をひとまとめにしたいという思いが、かなり前から芽生えており、少しずつ作業に取り掛かっていたのですが……気づいたら12月後半(苦笑)。非常に中途半端な形ではありますが、ひとまず公開してみようと思います。

以下、月別に「リリース作品」「主なトピック(出来事)」をまとめています。リリースアイテムは発売日が明確でないものもあるため、アルファベット順に並べています。また、トピックに関しては、●:音楽、■:政治・情勢、▲:スポーツ、※:映画、ドラマ、エンタメなど、とカテゴリー分けを施してあります。

とにかく、記録として残しておきます。2021年が過ぎても、随時1991年リリース作品のレビューは続けていく予定なので、その都度このエントリーに追加していく予定です。当時を振り返るもよし、何かを考える題材にするでもよし。あなたにとって、なんらかの参考になることを願っています。

※2022年1月11日0:00更新:THE ALLMAN BROTHERS BAND『SHADES OF TWO WORLDS』追加

 

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2021年11月のアクセスランキング

2021年上半期総括はこちらから

ここでは2021年11月1日から11月30日までの各エントリーへのアクセスから、TOP30エントリーを紹介します。内訳は、トップページやアーティスト別カテゴリーへのアクセスなどを省いた上位30記事。まだ読んでいない記事などありましたら、この機会に読んでいただけたらと。

ちなみに記事タイトルの後ろにある「(※XXXX年XX月XX日更新/↑●位)」の表記は、「更新日/2021年10月のアクセスランキング順位」を表しています。

 

1位:楠木ともり『narrow』(2021)(※2021年11月13日更新/NEW!)

2位:LIMP BIZKIT『STILL SUCKS』(2021)(※2021年11月1日更新/NEW!)

3位:RADIOHEAD『KID A MNESIA』(2021)(※2021年11月10日更新/NEW!)

4位:BULLET FOR MY VALENTINE『BULLET FOR MY VALENTINE』(2021)(※2021年11月12日更新/NEW!)

5位:ビートルズの初期作品を振り返る①(1963年編)(※2021年11月8日更新/NEW!)

6位:MASTODON『HUSHED AND GRIM』(2021)(※2021年11月3日更新/NEW!)

7位:BLACK VEIL BRIDES『THE PHANTOM TOMORROW』(2021)(※2021年11月4日更新/NEW!)

8位:ABBA『VOYAGE』(2021)(※2021年11月9日更新/NEW!)

9位:SLIPKNOT『THE CHAPELTOWN RAG』(2021)(※2021年11月11日更新/NEW!)

10位:L.A. GUNS『CHECKERED PAST』(2021)(※2021年11月19日更新/NEW!)

 

11位:MOTLEY CRUE『TOO FAST FOR LOVE (40TH ANNIVERSARY REMASTERED)』(2021)(※2021年11月18日更新/NEW!)

12位:ICE NINE KILLS『WELCOME TO HORRORWOOD: THE SILVER SCREAM 2』(2021)(※2021年11月6日更新/NEW!)

13位:THE QUIREBOYS『A BIT OF WHAT YOU FANCY (30TH ANNIVERSARY EDITION)』(2021)(※2021年11月14日更新/NEW!)

14位:THE HEARTBREAKERS『L.A.M.F.』(1977/2021)(※2021年11月15日更新/NEW!)

15位:EXODUS『PERSONA NON GRATA』(2021)(※2021年11月26日更新/NEW!)

16位:STARSET『HORIZONS』(2021)(※2021年11月5日更新/NEW!)

17位:JERRY CANTRELL『BRIGHTEN』(2021)(※2021年11月2日更新/NEW!)

18位:BLACK LABEL SOCIETY『DOOM CREW INC.』(2021)(※2021年11月28日更新/NEW!)

19位:KORN『THE PARADIGM SHIFT』(2013)(※2021年11月16日更新/NEW!)

20位:ENUFF Z'NUFF『HARDROCK NITE』(2021)(※2021年11月22日更新/NEW!)

 

21位:NAILBOMB『POINT BLANK』(1994)(※2018年5月12日更新/↑29位)

22位:MØL『DIORAMA』(2021)(※2021年11月17日更新/NEW!)

23位:BULLET FOR MY VALENTINE『TEMPER TEMPER』(2013)(※2021年11月13日更新/NEW!)

24位:CRAZY LIXX『STREET LETHAL』(2021)(※2021年11月20日更新/NEW!)

25位:BULLET FOR MY VALENTINE『VENOM』(2015)(※2021年11月13日更新/NEW!)

26位:MELVINS『FIVE LEGGED DOG』(2021)(※2021年11月7日更新/NEW!)

27位:BANG TANGO『DANCIN' ON COALS』(1991)(※2021年11月22日更新/NEW!)

28位:QUEEN『LIVE AT THE RAINBOW '74』(2014)(※2021年11月24日更新/NEW!)

29位:QUEEN『QUEEN ROCK MONTREAL』(2007)(※2021年11月24日更新/NEW!)

30位:OBSCURA『A VALEDICTION』(2021)(※2021年11月29日更新/NEW!)

2021年12月のお仕事

2021年12月に公開されたお仕事の、ほんの一例です。随時更新していきます。(※12月27日更新)

 

[WEB] 12月27日、楠木ともりファンクラブサイト「TOMOROOM」にて「Kusunoki Tomori Birthday Live 2021『Reunion of Sparks』」ライブレポートが公開されました。

[WEB] 12月26日、「リアルサウンド」にてライブレポート日向坂46、2年ぶり有観客で実現した『ひなくり2021』レポ パフォーマンスの進化も感じるストイックなステージにが公開されました。

[WEB] 12月23日、「音楽ナタリー」にてインタビュー 高橋洋子「Final Call」インタビュー|エヴァンゲリオンと共に歩んだ26年「ありがとう」を、君にが公開されました。

[紙] 12月23日発売「TV Bros.」2022年2月号年末年始オススメコンテンツ号にて、ザ・リーサルウェポンズのインタビューおよびライブレポートを担当しました。(Amazon

[WEB] 12月22日、「リアルサウンド」にてインタビュー伊藤美来、5年の音楽活動で確立した“自分らしさ” ゼロから試行錯誤で進めた初作曲の苦労もが公開されました。

[WEB] 12月21日、「音楽ナタリー」にてインタビュー「JACK IN THE BOX 2021」座談会|原点回帰をノスタルジックに。そして次世代へのエールを! 盛大な宴を前にTetsu(D'ERLANGER)、逹瑯(MUCC)、SORA(DEZERT)、団長(NoGoD)が語り合う。が公開されました。

[WEB] 12月21日、「ぴあ」にてインタビュー【ネタバレあり】『あなたの番です 劇場版』、西野七瀬が黒島ちゃんの“あのシーン”について語る!が公開されました。

[WEB] 12月17日、「リアルサウンド」にてコラムペンタトニックスが彩るホリデーシーズン アカペラの奥深さ際立つXmasソングカバーの魅力が公開されました。

[WEB] 12月16日、「リアルサウンド」にてライブレポート“乃木坂46の生田絵梨花”を全力でまっとうしたエネルギッシュなステージ 10年分の愛と感謝が溢れた卒業コンサートが公開されました。

[WEB] 12月15日、「リアルサウンド」にてインタビュー乃木坂46 樋口日奈&鈴木絢音が考える、グループのターニングポイントとこれから 生田絵梨花の存在やシングル曲への本音もが公開されました。

[WEB] 12月14日、「Rolling Stone Japan」にてライブレポートLiSA武道館ライブレポ、「10年前のわたし」に向けた最高のプレゼントが公開されました。

[WEB] 12月11日、「リアルサウンド」にてライブレポート櫻坂46、さらなる成長の期待高まる完璧なパフォーマンス 守屋茜&渡辺梨加が有終の美を飾った1周年記念ライブが公開されました。

[WEB] 12月11日、「Pop'n'Roll」にてライブレポート櫻坂46[ライブレポート]日本武道館のステージに圧倒的なパフォーマンスを刻み込んだ1周年記念公演「一丸となってこれからも歩み続けます」が公開されました。このほかにもさまざまな媒体で掲載中です。

[WEB] 12月8日、「リアルサウンド」にてインタビューLittle Glee Monster MAYU&かれん、「透明な世界」で届ける新たなリトグリの歌声 激動の2021年も振り返るが公開されました。

[紙] 12月3日発売「日経エンタテインメント!」2022年1月号にて、櫻坂46菅井友香の連載「いつも凛々しく力強く」、日向坂46渡邉美穂の連載「今日も笑顔で全力疾走」の各構成を担当しました。(Amazon

[紙] 12月2日発売「日経エンタテインメント!乃木坂46 Special 2022」にて、山下美月、遠藤さくら、秋元真夏、星野みなみ、樋口日奈、新内眞衣、弓木奈於の各インタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 12月1日、「リアルサウンド」にてライブレポートMAN WITH A MISSION、オーディエンスとの絆とバンドの原点を再確認した『Merry-Go-Round Tour 2021』初日が公開されました。

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2021年11月に当サイトで紹介したアルバムから各1〜2曲程度ピックアップしたプレイリストをSpotifyにて制作・公開しました。題して『TMQ-WEB Radio 2111号』。レビューを読む際のBGMにするもよし、何も考えずにダダ流しするもよし。おヒマなときに聴いていただけると嬉しいです。

2021年総括:HR/HM、ラウド編

2017年から2020年まで、「リアルサウンド」にて掲載してきたメタル/ラウド系年間ベストアルバム企画。2021年は同サイトにて同企画を実施されないので、場所をこちらに移して行うことにしました。ただ、無理な順位付けはせず、印象的なアルバム/EP 20枚をアルファベット順に紹介していくことにします。

 

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(Apple Music)(レビュー

 

THE ARMED『ULTRAPOP』(Apple Music)(レビュー

 

CARCASS『TORN ARTERIES』(Apple Music)(レビュー

 

CONVERGE『BLOODMOON: I』(Apple Music)(レビュー

 

DEAFHEAVEN『INFINITE GRANITE』(Apple Music)(レビュー

 

DREAM THEATER『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』(Apple Music)(レビュー

 

EVERY TIME I DIE『RADICAL』(Apple Music)(レビュー

 

EXODUS『PERSONA NON GRATA』(Apple Music)(レビュー

 

GATECREEPER『AN UNEXPECTED REALITY』(Apple Music)(レビュー

 

GOJIRA『FORTITUDE』(Apple Music)(レビュー

 

JINJER『WALLFLOWERS』(Apple Music)(レビュー

 

KHEMMIS『DECEIVER』(Apple Music)(レビュー

 

LEPROUS『APHELION』(Apple Music)(レビュー

 

MASTODON『HUSHED AND GRIM』(Apple Music)(レビュー

 

NEMOPHILA『REVIVE』(Apple Music)(レビュー

 

SeeYouSpaceCowboy『THE ROMANCE OF AFFLICTION』(Apple Music)(レビュー

 

SPIRITBOX『ETERNAL BLUE』(Apple Music)(レビュー

 

TO KILL ACHILLES『SOMETHING TO REMEMBER ME BY』(Apple Music)(レビュー

 

TRIVIUM『IN THE COURT OF THE DRAGON』(Apple Music)(レビュー

 

TURNSTILE『GLOW ON』(Apple Music)(レビュー

 

年明け発売の某雑誌には、この20枚の中から10枚をセレクトして順位を付けて掲載予定です。

2020年初頭から流行拡大しだした新型コロナウイルスは、2021年も引き続き大きな影響を及ぼし続け、ロックダウンによるフィジカル(CD、アナログなど)製造遅延およびそれに伴うリリース順延、さらにはツアーやフェスの翌年以降への順延などが重なります。当然、ここ日本への海外メタル/ラウド勢の来日公演も2年近く実現しておらず(一部、小規模のライブハウス公演は行われたようですが、大規模なジャパンツアーやメジャーアーティストの来日公演に関しては皆無)。この年末にKING CRIMSONのジャパンツアーが行われたのは、奇跡に近いものがありました。

しかし、コロナが及ぼした影響は決して悪いことだけではありません。インターネットを使ったリモート作業が以前よりもやりやすい環境になったこともあり、バンドメンバーがバラバラな場所に住んでいても制作自体は行えるようになり、結果として思いがけずに新作が届けられるなんていうサプライズも多々ありました。今回挙げた20枚の中にも、TRIVIUMのように前作から2年経たずしてニューアルバムが到着するというケースも少なくありません。

日本では夏頃と比べて、若干の落ち着きを見せている昨今ですが、海外ではまだまだ予断を許さない状況。イギリスなどの様子に恐怖を覚える一方で、アメリカでは大規模なライブ/ツアーも再開されている。国によって対策や対応は異なるものの、2020年から続くこの生活はもう少し続くことになりそうです。おそらく2022年も国内での大規模野外フェス開催(特に海外アーティストを多数招聘して実施するケース)は現実的ではないのかもしれません。

僕自身、すべてが元通りに戻るとは思っておらず、むしろ少しずつ元の生活に近づけつつ、新たなスタンダードを確立・浸透させなければ、この文化はどんどん先細りしていくんじゃないかと感じています。送り手も受け手も、この新たなスタンダードを前向きに受け取りつつ、過去の日常生活と並列させていくことでこの文化を維持し、さらに成長・進化させていくはず……僕自身はそう信じています。

さて、明日はジャンル分け隔てなく総括した1年のまとめ記事を公開する予定です。この記事と併せてお楽しみいただけると幸いです。

 

2021年12月30日 (木)

MARILLION『HOLIDAYS IN EDEN』(1991)

1991年6月24日にリリースされたMARILLIONの6thアルバム。日本盤は『楽園への憧憬』の邦題で、同年7月26日発売。

前作『SEASONS END』(1989年)からバンドに加入したスティーヴ・ホガース(Vo)参加作第2弾。本国イギリスでは常にTOP10にアルバムを送り込んできたMARILLIONですが、ことアメリカに関しては3作目『MISPLACED CHILDHOOD』(1985年)が最高47位を記録した以外、これといった成功を収めていません。これに痺れを切らしたアメリカのレーベル側から「MTVやラジオでヒットするコンパクトな曲を」のオーダーがあったとか、なかったとか(1991年という時代にそうしたオファーを出す自体が、時代遅れという気が)。結果、今作は3〜4分台の楽曲を中心に構成された、非常にコンパクトで聴きやすい1枚に仕上がっています。

確かに、シングルカットされた「Cover My Eyes (Pain & Heaven)」(全英34位)、「No One Can」(同33位)、「Dry Land」(同34位)などのポップさは前任ボーカルのフィッシュ時代と比べたら別モノに映るかもしれません。しかし、このきめ細かいポップネスは他の誰に真似できるものではない。もともとGENESISのフォロワーなんて言われてきた彼らですが、ここにきてMARILLIONは80年代以降のGENESISにも匹敵する大衆性を手に入れた……と解釈することはできないでしょうか。プロデューサーにポップス畑のクリストファー・ニール(A-HA、MIKE + THE MECHANICS、セリーヌ・ディオンなど)を迎えたことも、本作のシルキーなポップサウンド化に拍車をかけたことは間違いないでしょう。

しかし、すべてがすべてポップになったわけではありません。オープニングを飾る「Splintering Heart」やタイトルトラック「Holidays In Eden」で聴くことがでいるスリリングな演奏は、従来の彼らならではの魅力・個性を感じ取ることができる。こういったバランス感で成り立っている事実も忘れてはなりません。

だけど、先のシングル曲で見せた劇的な変化のほうが聴き手に強い印象を与えたのも、また間違いのない事実。本作で彼らに見切りをつけたなんてリスナーも少なくありません。僕自身はこのバンドに対して強い印象やこだわりを持っていなかったため、むしろ80年代の諸作品以上にリピートした記憶があります。だって、素直にいいアルバムじゃないですか。この半年後にリリースされたGENESISの『WE CAN'T DANCE』(1991年)と同じ感覚で触れていたのかもしれませんね。

ホガースのクセの強くない歌声と、それに相反して変幻自在な音色で聴き手を魅了するスティーヴ・ロザリー(G)のプレイ&フレージングの相性も抜群。ハードロックとかプログレッシヴロックとかそういうジャンルを超越し、普遍性の強いロック/ポップスとして成立させた本作は、以降の活動においてひとつの基盤になっていきます。本国では全英7位と、前作同様のヒットを記録したものの、アメリカでは曲順まで変えたにもかかわらず完全に惨敗。結果、バンドは次作『BRAVE』(1994年)で今作でのポップ化を踏まえた上で再びコンセプチュアルなアルバム作りにトライすることになります。

残念ながら本作、1991年の初版以降再発されていません。名盤として謳われている『BRAVE』の影に隠れがちですが、その完成度の高さ含め再評価されるべき1枚ではないでしょうか。

 


▼MARILLION『HOLIDAYS IN EDEN』
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SAVATAGE『STREETS: A ROCK OPERA』(1991)

1991年10月4日にリリースされたSAVATAGEの6thアルバム。日本盤は同年11月28日発売。

全米134位まで上昇した前作『GUTTER BALLET』(1989年)から1年10ヶ月ぶりの新作。プロデューサーのポール・オニールが書き下ろした物語に基づいて、メンバーのジョン・オリヴァ(Vo, Key)&クリス・オリヴァ(G)、そしてポールが書き下ろした楽曲で構成されたキャリア初のコンセプトアルバムです。

サブタイトルにもあるように、まさに“ロックオペラ”と呼ぶに相応しい壮大な内容ですが、1曲1曲と単独で取り上げても成立するような作りとなっているので、変に構えることなる接することができるはず。物語自体はニューヨークでドラッグに溺れるミュージシャンを中心に進行しており、そのへんは対訳の付いた日本盤にてしっかり追っていただけると本作の魅力をより深く理解することができることでしょう。

オープニングトラック「Streets」やアルバムからのリード曲「Jesus Saves」のように、ジョン・オリヴァのしゃがれ声が生かされたメタルチューンもあれば、ドラマチックな「Tonight He Grins Again」、どことなくAOR的な軽やかさも伝わる「Strange Reality」や「You're Alive」、ブギーっぽいノリを持つアップチューン「Sammy And Tex」、吟遊詩人という表現がぴったりハマるピアノバラード「A Little Too Far」や「Believe」と、とにかくバラエティに富んだ内容。しかし、これらがバラバラに並ぶわけではなく、ちゃんとひとつの流れを作りながらうねうねと進行していくのです。

ジョンのボーカルは好き嫌い分かれるタイプかもしれませんが、幅の広い楽曲群を巧みに歌いこなしており、結果としてこの人でなければ成立しないことが実感させられる。パワフルな特に「St. Patrick's」や「Can You Hear Me Now」のようにオペラと呼ぶに相応しい楽曲や、先のバラード群のようなスローナンバーでこそ彼の味わい深いボーカルは効果を発揮。歌唱力で感動させるとかそういう形ではなく、歌から伝わる熱で聴き手の心を動かす、そういうタイプの歌い手だなと改めて実感させられます。

そして、何より素晴らしいのがクリス・オリヴァのギタリストとしての非凡さ。リフワークはもちろんですが、そのメロディアスなフレーズの組み立て方や感情のアップダウンを表したフレーズングの数々は特筆すべきものがあり、これぞギターヒーローと呼ぶに相応しいプレイヤーだなと思うはず。しかし、実際には彼がメジャー進出したタイミングやこうした名盤が1991年という時代に発表されたことから、思うほどの評価を得ることはできませんでした。

事実、この大作はBillboard 200にチャートインすることなく、Billboard Heatseekers Albumsで最高31位を記録したのみ。続く『EDGE OF THORNS』(1993年)ではジョンは一度表舞台から退き、新たなシンガーにザッカリー・スティーヴンスを迎えます(ジョンは作曲やプロデュース、キーボーディストとしてレコーディングに参加)が、同作リリースの半年後となる1993年10月、クリスは交通事故でこの世を去ってしまいます。

ジョン&クリスのオリヴァー兄弟が全面的にフロントメンバーとして活動した作品は、この『STREETS: A ROCK OPERA』が最後。そういった事実もあってか、クリスの墓石には「Believe」の一節が刻まれているんだとか。また、クリス逝去後にはOVERKILLが当時の最新作『W.F.O.』(1994年)にトリビュートソング「R.I.P. (Undone)」を書き下ろし、VICIOUS RUMORSは『WORD OF MOUTH』(1994年)、TESTAMENT『LOW』(1994年)をクリスに捧げています。

まあ、そうした事実は差し置いても、本作は1991年のHR/HMシーンにおいて絶対に欠かすことのできない1枚だと断言したい。時代が違っても大きなヒットにつながる内容ではないかもしれないけど、メタルリスナーにとっては絶対に押さえておきたい1枚です。

 


▼SAVATAGE『STREETS: A ROCK OPERA』
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FATES WARNING『PARALLELS』(1991)

1991年10月29日にリリースされたFATES WARNINGの6thアルバム。日本盤は翌1992年2月25日発売。

Billboard 200(全米アルバムチャート)で最高141位を記録した前作『PERFECT SYMMETRY』(1989年)から約2年ぶりの新作。新たなプロデューサーとしてテリー・ブラウン(RUSHVOIVODCUTTING CREWなど)を迎えた、80年代から90年代へと移行する過渡期らしい内容に仕上がっています。

RUSHの名プロデューサーを引っ張ってきたことから、なんとなく70年代後半から80年代にかけてのRUSHのようなことがやりたいのかな?という印象を受けますが、いざ聴いてみるとその楽曲や音のアプローチはQUEENSRYCHEのそれに似ており、中でも『OPERATION: MINDCRIME』(1988年)でのメタリックな質感に一番近いような気がしてなりません。楽曲が持つダークな空気感はまさに同作が発していたそれと共通するものもあり、なんだか兄弟作みたいだなという印象すら受けます。かつ、レイ・アルダー(Vo)のハイトーンを駆使した歌唱スタイルもどことなくジェフ・テイト(現SWEET OBLIVION)そっくりですしね。

しかし、QUEENSRYCHEの同作が正統派ヘヴィメタル的な方向性だったのに対して、今作にはもうちょっとモダンな質感が強く備わっているような気がする。実は、そのモダンな質感というのが、DREAM THEATERや同時期のVOIVODあたりと共通するものだったのかなと、30年経った今はそう感じています(ちなみに、「Life in Still Water」にはそのDTからジェイムズ・ラブリエがコーラスでゲスト参加)。

プログメタルの枠で括られるものの、意外と仰々しいプログレッシヴロックっぽさは皆無。むしろ、中期RUSHと初期QUEENSRYCHEっぽさを掛け合わせ、そこにモダンな味付けを施すことでプログメタルよりも普遍的なヘヴィメタルに近づいてしまった。それに加え、前作『PERFECT SYMMETRY』までにあったテクニカルメタル的方向性も若干後退し、必要最低限に押さえたことでその普遍性はより強まった。さらに、「Eye To Eye」や「We Only Say Goodbye」のようなポップさを強めた楽曲を含むことで、アルバムとしてのとっつきやすさも非常に強い。HR/HMアルバムとしてはかなりバランス感に優れた1枚と言えるでしょう。

しかし、そういったアルバムが1991年という歴史の節目に発表された。本作は日本を含めWarner Bros.経由でメジャー流通されたにもかかわらず、発売からしばらくして契約破棄となってしまい、ほとんどプロモーションされることなくヒットにつなげることができませんでした。かつ、同時期のツアーではPANTERAのサポートという、なんとも食い合わせの悪い組み合わせがさらにマイナス方向に作用してしまった。それもこれもすべて、1991年という時代のせいなんでしょうか……。

ただ、個人的には初めて手にしたFATES WARNINGのアルバムなだけに、思い入れも強いんですよね。久しぶりに聴いてみたけど、やっぱり良い内容ですし。若干味付けに80年代味を感じる箇所もありますが、そこも含めて愛すべき1枚だと思っています。

 


▼FATES WARNING『PARALLELS』
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SIAMESE『HOME』(2021)

2021年12月10日にリリースされたSIAMESEの6thアルバム。日本盤未発売。

SIAMESEはデンマーク出身のメタルバンドで、メンバーにバイオリン奏者を含む5人編成。2014年まではSIAMESE FIGHTING FISHというバンド名で活動し、2枚のアルバムを制作後に現在のSIAMESEに改名。セルフタイトルの3rdアルバム『SIAMESE』をクラウドファンディング経由でし、続く4thアルバム『SHAMELESS』は日本盤化もされています。

前作『SUPER HUMAN』(2019年)から約2年半ぶりに発表された今作は、前作の延長線上にある作風で、Djentなどのモダンメタルのテイストに加え、EDMをはじめとするダンスミュージック/エレクトロの味付けも随所に施された挑戦的な内容。一方で、各楽曲の軸となるメロディラインは非常に流麗で美しいものがあり、その重低音を効かせたサウンドに反して非常にポップで聴きやすいものがあります。

オープニングを飾る「Heights Above」でのドラマチックなバンドアレンジと、Djentやメタルコアをミックスさせたモダンなサウンド、キャッチーなメロディとシンガロングパートなど、1曲の中にさまざまな要素を詰め込みつつ散漫になることなくしっかりまとめ上げるその能力は、前作以上に高まっているように感じます。

ドリュー・ヨーク(Vo/STRAY FROM THE PATH)をゲストに迎えた続くタイトルトラック「Home」も同系統の流れにあるものの、EDMなどのエレクトロ色を強めることで聴き手を飽きさせることがまったくない。「Holy」ではBPMを一気に上げたかと思えば、「Honest」ではダークポップ風バラードで聴き手の心を鷲掴みにする。

以降も緩急に富んだアレンジでリスナーを惹きつけ、ローリー・ロドリゲス(Vo/DAYSEEKER)をフィーチャーした「Enough Ain't Enough」や、ドラムンベースのリズムを取り入れた「Numb」、ビョークの名曲をメタルコアアレンジでカバーした「Joga」などフックとなる楽曲が随所に用意されている。同系統の曲が多くサラッと聴き進められるわりには、味付けが工夫されていることから途中で飽きることもなく、最後まで集中力が途切れることもない。1曲1曲をじっくり聴き込むと、実はそれぞれかなり手の込んだメロディの作り込み、多彩なアレンジが施されていることに気づかされます。

それもそのはず、アンドレアス・クルーガー(G)はシガーラやエラ・エアといったポップアーティストたちに楽曲提供し、それらが大ヒットを記録しているのですから。このポップセンスは稀有なものであることが、こういった事実からも伺えます。と同時に、ひとつの形に固執しないサウンドスタイルやアレンジの手法、自由な発想にも目を見張るものがあり、結果として本作をこのバンドにとっての最高傑作にまで到達させることができた。納得の結果ですね。

個人的な感想ですが、本作はモダンメタルというよりは「モダンポップがモダンメタルに接近した」1枚という印象も。むしろ、そういった視点で受け入れられることによって、普段メタルやヘヴィな音楽を聴かない層にまで届いてほしい……そう思わずにはいられません。

 


▼SIAMESE『HOME』
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2021年12月29日 (水)

CORROSION OF CONFORMITY『BLIND』(1991)

1991年11月5日にリリースされたCORROSION OF CONFORMITYの3rdアルバム。日本盤は翌1992年2月21日発売。

フルアルバムとしてはMetal Blade Recordsから発表された前作『ANIOSITY』(1985年)から実に6年ぶりの、Relativity Records移籍第1弾作品。RelativityはインディーズながらもSony流通だったこともあり、日本でも無事日本盤が発表されています(なお、正式なメジャーデビューは続く『DELIVERANCE』(1994年)より)。

このアルバムはカール・エイゲル(Vo)、ペッパー・キーナン(Vo, G)、ウッディ・ウェザーマン(G)、ピル・スウィッシャー(B)、リード・ミューリン(Dr)という、マイク・ディーン(Vo, B)不在の異色な布陣で制作。基本は専任ボーカルのカールが歌っていますが、「Vote With A Bullet」のみペッパーも歌っており、続く『DELIVERANCE』以降の布石を残しています(1995年にメジャーのColumbiaから再発された際には、ペッパーVo曲はもうひとつ「Jim Beam And The Coon Ass」が追加されています)。

サウンド的にはハードコアパンクからの影響が強く表れた前作やその後のEP『TECHNOCRACY』(1987年)から脱却し、スラッシュメタルやハードロック/ヘヴィメタルの側面が強まったイメージが強い。ザクザク切り刻むようなギターリフと、グルーヴィーなリズムセクション、ハードコア以降のボーカルスタイルという要素の融合は、当時“クロスオーヴァー”なんて呼ばれていましたが、一方では次作で本格的に開花するレイドバックしたスラッジメタルスタイルの片鱗も随所から感じ取ることもできる。ある意味過渡期と言えなくもないですし、バンドが首謀者(マイク)を欠いたことで新たなステップに進もうともがいていると見ることもできます。

しかし、それを抜きにしても、ミクスチャーやクロスオーヴァーなどのカテゴライズで括るには勿体ないくらいにクールなサウンドは、2021年の耳で聴いても非常にカッコよく聞こえます。カールのボーカルはペッパーほどガッツがあるというわけではなく、時々ヘロヘロな様子も伺わせますが、逆にこのタッチがミクスチャー/クロスオーヴァーっぽいと言えなくもない(偏見かな?)。これをガッツリ歌い上げちゃうと、普通のスラッシュメタルになっちゃいますものね。

とはいえ、オープニングの「These Shrouded Temples...」や中盤の「Shallow Ground」、本編ラストの「...Remain」といった短尺のインストナンバーから次曲に流れるドラマチックな構成は、なんとなく旧来のスラッシュメタル的でもあり、音的には従来のメタルやスラッシュとは質感が多少異なるものの、そういった点に親しみを覚えてしまう。特に「Shallow Ground」から「Vote With A Bullet」へと続く構成はゾクっとするものがあり、カールのヘロヘロ声との違いもあって気が引き締まります。

スラッジを軸にした路線は、その後の『DELIVERANCE』へと引き継がれ、次々作『WISEBLOOD』(1996年)で完全に開花。特に後者は日本でも好セールスを記録し、1997年に初来日も実現したほどの結果を残しており、80年代のハードコアスタイルからの脱却という意味でもこの『BLIND』は数年後のブレイクへ向けた助走がスタートした、重要なターニングポイントだったと言えます。これも、1991年らしい空気を漂わせる、“らしい”1枚ですね。

なお、本作リリースから30年後の2021年11月5日には、1988年および1991年のデモ音源6曲を追加したエクスパンデッド・エディションもデジタルリリース。1988年のデモはマイク脱退後/カール加入前という貴重な時期によるものです。

 


▼CORROSION OF CONFORMITY『BLIND』
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KYUSS『WRETCH』(1991)

1991年9月23日にリリースされたKYUSSの1stアルバム。日本盤未発売。

KYUSSは米・カリフォルニア州パームデザート出身のストーナーロックバンド。前身バンドでの活動を経て、1989年にバンド名をSONS OF KYUSSに変更、翌1990年に初のEP『SONS OF KYUSS』を自主制作で発表しました。その後、ジョン・ガルシア(Vo)、ジョシュ・ホーミ(G)、ニック・オリヴェリ(B)、ブラント・ビョーク(Dr)という布陣が揃い、Dali Recordsから1stアルバムをリリースすることになります。

KYUSSというと『BLUES FOR THE RED SUN』(1992年)以降の作品のイメージが強く、実際同作やメジャー移籍後の『WELCOME TO SKY VALLEY』(1994年)でその個性が開花した印象があります。それは間違いない事実であり、この1stアルバムではまだ前進バンド時代からの空気を残した、ハードコアパンクの影響下にあるハードロック/ヘヴィメタルが中心となっています。

ストーナーロックというと、ヘヴィで引きずるようなミドル/スローテンポというパブリックイメージがあるかもしれませんが、本作で聴くことができる楽曲の大半は性急なビートで若干前のめりなアップチューン。オープニングを飾る「(Beginning Of What's About To Happen) Hwy 74」や続く「Love Has Passed Me By」と、2曲連続でガレージパンク以降の疾走感を伴う楽曲が続き、良い意味でストーナーロックの印象を覆してくれます。

もちろん、「Son Of A Bitch」などミドルチューンも複数存在しますが、BPM的には通常のストーナーロックよりは速いものが多数で、ジョン・ガルシアのボーカススタイルや歌声の作用して、どこかMETALLICAにも通ずる空気感を感じ取ることができます。タイミング的にはブラックアルバム(『METALLICA』)の1ヶ月後に発売されているので、このタイム感はこの時代ならではのものだったのかもしれません。

ハードコア的な側面も随所から見つけることができるという点では、同時代に活躍し、のちにストーナー色を強めていった先輩格のCORROSION OF CONFORMITYにも似たところも多い。そういえば、彼らもMETALLICA的な空気をはらんでいますものね(しかも、ペッパー・キーナンと、KYUSSの2代目ベーシストのスコット・リーダーはのちにMETALLICAの新ベーシストオーディションも受けていますし)。

全11曲の収録曲の中には、自主制作EP『SONS OF KYUSS』から「Black Widow」「Deadly Kiss」がそのまま流用されたほか、「Love Has Passed Me By」「Katzenjamme」「Isolation(EP収録時のタイトルは「Isolation Desolation」)」の3曲は再レコーディングされている。そういった点を考慮すると、本作は結成からここまでの集大成としてまとめられたもので、ある意味では続く2ndアルバム『BLUES FOR THE RED SUN』がKYUSSとしての本格的デビュー作と言えるのかな。なので、このアルバムはそれ以前のSONS OF KYUSS時代とそれ以降のKYUSS時代の過渡期でもあると。そう考えると、次作での劇的変化も納得いくものがあります。

『BLUES FOR THE RED SUN』以降とは別モノかもしれませんが、1991年の時代性が強く反映されたという点においてはHR/HMリスナーにとって外せませんし、ジョシュ・ホーミおよびQUEENS OF THE STONE AGEのリスナーにも聴いておいてもらいたい、良質な1枚です。

 


▼KYUSS『WRETCH』
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MONSTER MAGNET『SPINE OF GOD』(1991)

1991年12月6日にリリースされたMONSTER MAGNETの1stアルバム。日本盤未発売。

バンドとしては続くメジャーのA&M Recordsと契約した2ndアルバム『SUPERJUDGE』(1993年)、特に4作目の『POWERTRIP』(1998年)以降に日本でもその知名度を高めていったと記憶しています。が、インディーズのCaroline Recordsから発表された唯一のアルバムである本作はバンドの歴史を語る上では欠かせない、原点的な1枚であり、2006年には現在のアートワークに変更されてSteamhammer Recordsからの再発も実現。いまだに日本盤化は実現していないものの、現在はストリーミングサービスを通じて気軽に触れることができるようになっています。

現在まで在籍するメンバーはフロントマンのデイヴ・ウィンドーフ(Vo, G)のみ。プロデュースはウィンドーフと当時のギタリスト、ジョン・マクベインが共同で手がけています。作風、内容的には現在まで踏襲され続けているストーナーロック/サイケデリックロックをベースに、時代を超越した音・曲作りを展開。1991年というとTROUBLEがメジャーリリースを続けていたり、KYUSSも1stアルバム『WRETCH』をリリースしたりと、ストーナーロック界隈に注目が集まり始めていた時期と言えるかもしれません。メジャー感の強い一般的なハードロック/ヘヴィメタルから一歩踏み込んで、よりマニアックかつ新たなヒーローが求められていたタイミングとも言えるのかなと。

そういった意味では、ウィンドーフのカリスマ性やBLACK SABBATHをよりUSガレージロック的に表現したバンドサウンド、マニアックなようで意外にもキャッチーな楽曲群は“新たな波”としてシーンで高く評価されたようです。その結果が、次作でのメジャー進出につながるわけですからね。思えば、SOUNDGARDENALICE IN CHAINSのようなシアトル産バンドがすでにメジャー進出していた時期であり、MONSTER MAGNETのようなバンドが持て囃されるのは時間の問題だったのかもしれません。

インディーズだからとか1作目だからとか、そういった枕詞がいならいほどにすでに個性が完成されており、以降の作品と比較しても引けを取らない内容。もちろん2作目以上はメジャーのプロダクションで制作されていることもあり、音の質感やお金のかけ方に違いはありますが、楽曲面に関してはこの荒々しさをはらむアレンジ含め、この時期にしか出せない個性も楽しむことがでる。中でも、「Node Scene」や「Black Mastermind」「Spine Of God」「Ozium」といった長尺曲で展開されるスペーシーさやサイケデリック感は特筆すべきものがあり、リリースから30年経った今聴いても素直にカッコいいと思える仕上がりです。

あと、ほかのストーナー勢と比較するとMONSTER MAGNETの楽曲や演奏には“華”が感じられ、それはこの1作目の時点からすでに備わっていることにも気付かされます。危うさや妖しさの中に存在する、このメジャー感の強い華がのちのブレイクにもつながっていくんでしょうね。GRAND FUNKの「Sin's A Good Man's Brother」をカバーしている点も、そのへんにつながっているような気がしてなりません。

どんどん骨太になっていくメジャー進出後はもちろんですが、本作も初心者にマストで聴いていただきたい良作。特にカバー曲中心の最新アルバム『A BETTER DYSTOPIA』(2021年)との共通点もたくさん見つけられるので、同作とあわせてチェックしていただきたい1枚です。

 


▼MONSTER MAGNET『SPINE OF GOD』
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NEMOPHILA『REVIVE』(2021)

2021年12月15日にリリースされたNEMOPHILAの1stアルバム。

NEMOPHILAは2019年に結成された女性5人組メタルバンドで、メンバーはmayu(Vo)、SAKI(G/Mary's Blood、AMAHIRU)、葉月(G/ex. Disqualia)、ハラグチサン(B)、むらたたむ(Dr)の5人。YouTubeでの“演奏してみた”動画などで注目を集めつつ、2020年にはシングル「OIRAN」「雷霆 -RAITEI-」をリリースし続けます。僕自身、「OIRAN」リリースのタイミングだったか、それと前後してYouTubeでIRON MAIDEN「The Trooper」の“演奏してみた”動画を偶然見つけたかでNEMOPHILAを知り、以降音源とYouTubeを追いかけ続けて今日に至ります。

待望のフルアルバムとなる本作は「OIRAN」「雷霆 -RAITEI-」、そして今年発表された「DISSENSION」という3枚のシングルからの5曲に、新曲6曲を加えた全11曲を収録。マスタリングにはスウェーデンの人気エンジニア、イェンス・ボグレン(SOILWORKOPETHDIR EN GREYなど)を起用し、既存の「DISSENSION」「SORAI」「雷霆 -RAITEI-」には新たにリマスタリング、「Life」「OIRAN」はボーカルとギターを再録&リマスタリングと、新曲に合わせた音作りが施されています。

2010年代のモダンメタルをベースにしつつ、国内ラウドロックからグランジまでハード&ヘヴィなサウンドを落とし込んだ楽曲群はどれもクール。かつ、メロディも非常にキャッチーなものが多く、そのモダンな音像含め非常に“今の耳”にジャストなものばかりで好感が持てます。その楽曲群もヘヴィを軸にしつつ、非常にバラエティに富んだ内容となっており、かつ「Life」のようなじっくり歌を聴かせる曲も含まれていることから、聴き手をまったく飽きさせることがありません。

これまで発表されてきた楽曲は作詞をmayuが手がけているものの、作曲はサウンドプロデューサーの秋山健介が担当したものが大半でしたが、新曲群では葉月が作詞、作曲がハラグチサンという「HYPNOSIS」や、mayu&むらたたむ作詞による「GAME OVER」、SAKI作曲の「Rollin' Rollin'」も含まれており、当初のプロジェクト感が少しずつ払拭され、よりバンドとしての色合いを強め始めています。すべての楽曲をメンバーが手がける必要はないかもしれませんが、今後はそのバランス感にも注目していきたいと思います。

楽器隊のバカテクぶりは相変わらずですが、やはりこのバンドはmayuの圧倒的なボーカル力に注目してもらいたいところ。オープニングを飾る「RIVIVE」での性別を超えたスクリームや、随所で聴くことができる野太さと、それと相反するスウィートさ、時には艶やかさ漂う歌声は近年登場したガールズメタルバンドの中でも随一の個性&テクニックの持ち主ではないでしょうか。

「REVIVE」から始まり「OIRAN」で締め括る構成にも強い意図が感じられるし、1stアルバムとしては純粋によく作り込まれた良作だと思います。上出来すぎでしょ。むしろ、このバンドの場合は2作目以降で持ち味のうちのどこを特化させるかで、その後の方向性が変わっていきそうな気がします。どんな方向に進んでも対応できるだけの実力の持ち主が揃っていますし、ハード&ヘヴィかつメロウという地盤さえ失わなければ大丈夫のような気もしますが……まあ、まずは本作ですよね。普段メタルは聴かないというラウド系リスナーにも十分響く内容なので、ぜひ広く伝わってほしいものです。

年明け1月9日には早くもLINE CUBE SHIBUYA(旧・渋谷公会堂)でのワンマンライブも決まっていますし、海外展開も気になるところ。ここからどう化けていくのか、見守っていきたいと思います。

 


▼NEMOPHILA『REVIVE』
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2021年12月28日 (火)

HAREM SCAREM『HAREM SCAREM』(1991)

1991年8月6日にリリースされたHAREM SCAREMの1stアルバム。日本盤は本邦デビュー作となった2ndアルバム『MOOD SWING』(1993年)のヒットを受け、1994年5月25日に発売されました。

『MOOD SWING』で広く知られることになったHAREM SCAREMですが、もちろん原点はこのアルバム。ピート・レスペランス(G)のテクニカルで派手なギタープレイと、DEF LEPPARDにも匹敵する厚みのあるコーラスワークが良いアクセントとなっていた2ndアルバムをイメージして本作に触れると、若干地味に聞こえるかもしれません。

楽曲の完成度は『MOOD SWING』にも匹敵する、良質なメロディアスハードロック/AOR的ハードロックといったところで、この路線が好きというリスナーにはたまらないものがあるはず。ですが、全体的に少々落ち着いた印象が強く、デビュー作のわりに“大人しすぎ”というイメージは否めません。特に派手さやダイナミックさが際立つ『MOOD SWING』と比べたら、そりゃあ(人によっては)見劣りするかもしれません。

実際、本作は外部ライターの手を借りて制作した楽曲も複数含まれています。職業ライターとのコライトでヒットを飛ばす手法は80年代後半から盛んだったので、このデビュー作もメジャーレーベルのそういう意思が働いたのでしょう。それ自体はまったく悪いことではないですし、実際「Hard To Love」や「Slowly Slipping Away」などの代表曲も同様の手法で完成したわけですから、否定できませんよね。

「Honestly」や「Something To Say」のような素晴らしいバラードも用意されているし、「Love Reaction」みたいに少々“時代”を感じさせるアレンジの楽曲もあれば、軽快な「All Over Again」や「Don't Give Your Heart Away」もある。全体のバランスは間違いなく良いんです。ただ、ここに1曲だけアップチューン(言ってしまえば「Change Comes Around」的なフックとなるナンバー)が含まれていたら、さらにインパクトが強まったのではないか……そんな気がしてなりません。

なんとなくですが、タイミング的にもNELSONのデビューアルバム『AFTER THE RAIN』(1990年)がアメリカでバカ売れしたことで、レーベルが同系統の作風を押し付けた……なんて想像も難しくありません。老舗レーベル(WEA)ならではの考えですよね。ところが、当のNELSONを送り出したGeffen Recordsはこの頃、すでにNIRVANAを仕込んでいたのですから、いかに先を読む力が大切かが伺えます。

良くも悪くも職人的作風で、ライブ云々よりもラジオやMTVでのヒットを狙ったかのような品の良さは、1991年という時代においてはマイナス方向に働いてしまったことは否めません。ですが、続く『MOOD SWING』が日本やアジア諸国で謎のヒットを飛ばすことになろうとは、この1stアルバムの時点では想像もできていなかったと多います。その結果、この良質なデビューアルバムも遅れて広まることになるのですから……リリースから3年を経て、ようやく報われたわけですね。

音楽に刺激を求める層には不向きかもしれませんが、純粋に良い曲、良い演奏、良い歌を楽しみたいというリスナーには最適な1枚。安心・安定を欲する方にこそ触れていただきたい良作です。

 


▼HAREM SCAREM『HAREM SCAREM』
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ALCATRAZZ『V』(2021)

2021年10月15日にリリースされたALCATRAZZの5thアルバム。日本盤は同年11月24日発売。

昨年7月にグラハム・ボネット(Vo)、ゲイリー・シェア(B)やジミー・ウォルドー(Key)のオリジナルメンバーにジョー・スタンプ(G)、マーク・ベンケチェア(Dr)という新たな布陣で、実に34年ぶりの新作『BORN INNOCENT』(2020年)をリリースしたALCATRAZZ。充実した新作と携え、その活動も順調に進むものと思われましたが、同年12月にグラハムが突如バンドを脱退。グラハムはARCH ENEMYのジェフ・ルーミス(G)とともにGRAHAM BONNET'S ALCATRAZZを名乗って新たな活動を始め、残された本家ALCATRAZZは新たなシンガーにドゥギー・ホワイト(MICHAEL SCHENKER FEST、ex. RITCHIE BLACKMORE'S RAINBOW、ex. YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE、ex. TANKなど)を迎えて早くも次のステップに入ります。

3rdアルバム『DANGEROUS GAMES』(1986年)から『BORN INNOCENT』が34年空いたのに、続く今作までのスパンが1年3ヶ月という短さなのは、もはやギャグとしか思えませんが(笑)、こうして早くも新作を楽しめるのはうれしい限り。バンドの顔=グラハムを失ったALCATRAZZは果たして本当にALCATRZZと言えるのか、早速アルバムを購入して確認してみました(日本ではサブスク未配信なもので)。

基本的な作風、楽曲の方向性は前作の延長線上にあるネオクラシカルスタイルで、その『BORN INNOCENT』での経験を生かしてより磨きをかけた印象が強いかな。『BORN INNOCENT』を好きなリスナーなら間違いなく気に入る内容かと思います。多くの楽曲はジョー・スタンプが中心となって書き下ろされたもので、彼の派手なギタープレイが最良の形で活かされた楽曲ばかり。かと思えば、ドゥギーのカラーが反映された楽曲も含まれており、ドゥギーがTANKのクリフ・エヴァンス(B)と共作したミディアムナンバー「Sword Of Deliverance」はこの布陣ならではと言えるのではないでしょうか。

そんな中、DIO「We Rock」まんまなギターリフを持つ「Turn Of The Wheel」には、イントロの時点で思わず苦笑してしまいますが。さすがにこれはグラハムがいたらできないよね(笑)。

前作同様、今作にもゲストプレイヤーが複数参加しており、前作から引き続きドン・ヴァン・スタヴァン(B/RIOTRIOT V)に加え、ナイジェル・グロックラー(Dr/SAXON)、先のクリフ・エヴァンスと今回は渋めの人選。日本のレコード会社の意見が多分に反映されたであろう前作と比べると、今回のほうがバンドのカラーに合っている気がします。

さて、楽曲面ではなんの不満もない本作。気になるのはドゥギーのボーカルでしょう。正直に言いますが、曲には合っているものの、ALCATRAZZという冠には似合わない気がします。というのも、老いてもなおアタックの強いグラハムの存在感と比較すると、ドゥギーの歌は少々ヌルッとしたイメージで、ちょっとだけ物足りなさを感じてしまう。かつ、ピッチもジャストというよりは若干下にズレており、そこが気持ち悪さ、心地悪さにもつながっている。これ、キーの問題とそういった次元ではなく、彼の歌唱スタイルの問題だと思うのです。なもんで、曲は良いんだけど歌を聴いているとなんとも言えない感覚に陥る……如何ともし難いものです。

あと、前作もそうでしたが、とにかく曲数が多い。海外盤は12曲/62分ですが、日本盤はボーナストラック1曲を含む全13曲/66分と非常に長尺。前作もそれくらいの尺があって、確か「絞りに絞って、全10曲くらいのコンパクトな内容だったら、もっと手放しで喜べたんですけどねえ」と書いたはず(ってそのままコピペしてますが)。本作もあと2曲削って50分前後のコンパクトさだったら、さらに良いと思えたんじゃないかな(とはいえ、ドゥギーが歌ってる時点で気持ち悪さは変わらないのですが)。

なんにせよ、こうやってバンドを存続させて新作を発表し続けてくれるのは、古くからのファンとしてありがたい限り。なかなか来日もままならない状況ですが、どうせなら生でドゥギー・ホワイトが歌う「Jet To Jet」や「Hiroshima Mon Amour」「God Blessed Video」「The Witchwood」などを聴いてみたいものです。

 


▼ALCATRAZZ『V』
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2021年12月27日 (月)

ENTOMBED『CLANDESTINE』(1991)

1991年11月12日にリリースされたENTOMBEDの2ndアルバム。日本盤は『密葬』の邦題で、1992年5月21日発売。同日に1stアルバム『LEFT HAND PATH』(邦題『顚落(てんらく)への道』)も本邦初リリースされ、リアルタイムではこの2ndアルバムが日本デビューアルバムとなります。

結成時からのフロントマンであるLG・ペトロフ(Vo)が一時的にバンドを脱退。彼に代わりオルヴァル・サフストロムをゲストに迎えてEP『CRAWL』(1991年)を制作するものの、続く今作のレコーディングではニッケ・アンダーソン(Dr/THE HELLACOPTERSIMPERIAL STATE ELECTRICLUCIFERなど)がボーカルも兼任する形で進んでいきます。

サウンド的には北欧デスメタルの真骨頂といった内容。スラッシュメタルやハードコアからの影響が伝わる疾走感の強いテイストと、ドゥームメタル的なミドルヘヴィパートをバランスよく織り交ぜた構成や、のちのメロディックデスメタルとは異なる、1曲の中のアレンジ/曲構成でドラマチックさを演出する作風からは、当時のUSデスメタルとは一線を画する個性を見つけることができます。

また、本作からはグルーヴィーなロックンロール的側面も見つけることができ、これがのちに“Death 'N' Roll”と呼ばれる独自のスタイルへと昇華され、続く3rdアルバム『WOLVERINE BLUES』(1993年)での個性へつながっていきます。そう考えると、本作はピュアにデスメタルを表現した1stアルバムと個性を確立する3rdアルバムへの橋渡し的作品、あるいは過渡期の1枚とも言えるのかなと。

そんな作品でボーカルを担当するのがペトロフではなく、ドラマーのニッケというのも興味深いところ。ニッケのボーカルはデスメタルのそれというよりは、ハードコア寄りのボーカルスタイル。それもあってか、本作はデスメタルのアルバムを聴いているというよりは、スラッシュ/ハードコア経由のエクストリームメタルという印象が強いかもしれません。ボーカルの個性という点においてはペトロフには敵いませんが、この暴力的でぶっきらぼうなニッケの歌唱も嫌いになれない。むしろ、この粗暴なボーカルだからこそ『CLANDESTINE』の楽曲群が活きたとも受け取れないでしょうか。個人的にはそう前向きに解釈しています。

ENTOMBEDのオリジナルアルバムで、唯一ペトロフが歌っていないアルバム。もし、彼のボーカルで本作をリレコーディングしていたらどんな仕上がりになったのか……のちに本作を完全再現したライブアルバムも制作されていますが、同作では別のシンガーが歌っているので……。

残念ながらペトロフは2021年3月7日に、49歳の若さでこの世を去ってしまいました。ペトロフは“もうひとつのENTOMBED”ことENTOMBED A.D.として活動していましたが、本家でも分家でもいいのでペトロフが歌う『CLANDESTINE』のスタジオ録音版は聴いてみたかったな。

改めて、故人のご冥福をお祈りいたします。

 


▼ENTOMBED『CLANDESTINE』
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SeeYouSpaceCowboy『THE ROMANCE OF AFFLICTION』(2021)

2021年11月5日にリリースされたSeeYouSpaceCowboyの2ndアルバム。日本盤未発売。

SeeYouSpaceCowboyは米・カリフォルニア州サンディエゴ出身の5人組バンド。バンド名は日本の人気アニメ『カウボーイビバップ』からの引用で、そのサウンドはハードコアパンクをベースにメタルコア、マスコア、サスコアなどのサブジャンルを飲み込んだ変幻自在なもの。今年5月に発表されたIF I DIE FIRSTとのスプリットEP『A SURE DISASTER』も、収録曲「Bloodstainedeyes」のMVともども一部界隈で話題となりました。

1stアルバム『THE CORRELATION BETWEEN ENTRANCE AND EXIT WOUNDS』(2019年)から2年2ヶ月ぶりのフルアルバムとなる本作は、前作以上にカオティックな内容。各曲に付けられたその複雑かつ意味深な長尺タイトルもさることながら、1曲1曲の際立った個性は特筆に値するものがあります。なにせオープニングを飾る「Life As A Soap Opera Plot, 26 Years Running」(素晴らしいタイトル!)からして一筋縄でいかない展開が用意されており、全13曲/40分というトータルランニングがその事実以上にボリューミーで濃厚に感じられるのですから。

M-3「The End To A Brief Moment Of Lasting Intimacy」のようなエモ寄りの楽曲もあるにはあるものの、その多くは奇想天外で先の読めない展開が用意されたアレンジで、聴き手をまったく飽きさせることなく(むしろ、異様な集中力の高さを保ちつつ)最後まで到達させる。ものすごい構成力/爆発力で、ここまで正直最初はついていくのがやっと。しかし、何度も聴いているうちにその複雑怪奇な世界観に引き込まれ、夢中になっている自分に気づくはずです。

カオス以外に最適な表現が見当たらない彼らの楽曲/サウンドの数々は、確かに聴き手を選ぶ類のものかもしれません。しかし、キャッチーなメロディも要所要所に用意されており、そういった甘めのメロディが突如飛び込んできたときの心を鷲掴みにされる感覚も気持ち良い。そうすると、知らぬ間に軸となるカオティックな部分にも惹かれ始めていることに気づく。言ってしまえば、THE DILLINGER ESCAPE PLANMY CHEMICAL ROMANCEあたりとコラボしたような、そんな贅沢さすら感じられるのではないでしょうか。

また、プロデュースをKNOCKED LOOSEのアイザック・ヘイル(G)、ミックスをウィル・パットニー(EVERY TIME I DIETHE GHOST INSIDE、KNOCKED LOOSEなど)という強力な布陣が手がけており、そういった作品にキース・バックリー(Vo/EVERY TIME I DIE)、アーロン・ギレスピー(Dr, Vo/UNDEROATH)、SHAOLIN Gといった豪華な面々が華を添えているのも本作の聴きどころのひとつ。しかも、アルバムラストを飾るタイトルトラック「The Romance Of Affliction」では先のIF I DIE FIRSTとの再コラボも実現しており、ダーク&ゴシックかつカオティックなサウンドスケープが展開されており、最後の最後に響き渡るスクリームの残響まで気を抜けない、聴きどころ満載の傑作に仕上がっています。

言葉で表現するのが非常に難しいタイプのサウンド/音楽性ではありますが、だからこそハマったときの気持ちよさは一段と強いものがある。そのヴィジュアルから伝わるカリスマ性含め、個人的にも今年後半に聴いたこの手の作品の中ではダントツの1位だと断言しておきます。

 


▼SeeYouSpaceCowboy『THE ROMANCE OF AFFLICTION』
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2021年12月26日 (日)

CARCASS『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』(1991)

1991年10月30日にリリースされたCARCASSの3rdアルバム。日本盤は『屍体愛好癖』というクセの強い邦題で、1992年4月21日発売。

ジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)、ケン・ウォーエン(Dr)というデビュー時からのトリオ編成に、現ARCH ENEMYのマイケル・アモット(G)が加入(1990年)し、ツインギター編成になったCARCASS最初のアルバム。このアルバムで彼らのことを知ったというリスナーも少なくないかもしれません(筆者も本作の日本盤リリースを機に、初めてCARCASSに触れたクチです)。

サウンド的には初期のグラインドコア〜ゴアグラインドから、次作『HEARTWORK』(1993年)で本格的開花するメロディックデスメタル路線への過渡期にある内容。その独特の雰囲気・曲構成は最初こそ好き嫌いが分かれそうですが、一度ハマってしまうとクセになる不思議な魅力が備わっています。

1曲の中で何度も繰り返される強引なテンポチェンジには、やや唐突さを感じずにはいられませんが、実はその突拍子のなさこそがこの時期のCARCASSの魅力。ある意味ではプログレッシヴとも受け取ることができ、このへんの複雑なアレンジはNWOBHM期のUKメタルバンドと共通するテイストを感じずにはいられません。

しかも、バンドの土台となるケン・ウォーエンのドラミングのクセが強すぎて、リズムの独特な“揺れ”や“スウィング感”が唯一無二のグルーヴを作り上げている。もちろんこれは前向きに捉えた表現ですが、ネガティブな表現をすれば……いや、やめておきましょう(苦笑)。結果として、ケンのドラミングを見事に生かしたからこそ、こうした独自性の強いアンサンブルが生まれたわけで、それこそが90年代前半のCARCASSにとって大きな武器になったわけですから。

この時期はまだビルも要所要所でボーカルを披露していましたが、次作以降はギタリストに専念。音楽性のみならず、バンドスタイルとしても本作は過渡期にある1枚でした。だけど、マイケルが加入したことで迎えた転換期は、のちの彼らにとって非常に大きなチャンスになるわけですから。世の中何が起こるかわかりません。

「Corporal Jigsore Quandary」や「Incarnated Solvent Abuse」など現在まで演奏され続けている名曲を多く含む本作ですが、曲間にナレーションを挟むことで若干テンションが落ちるという声もあります。確かに、あのSEなしで曲が次々に続いていく構成のほうが緊張感が途切れることなく楽しめるかもしれません。だけど、個人的にはあのSEあってこそ、彼らならではの不穏な空気を終始纏うことができているのではないか、とポジティブに解釈しています。特に、本作の収録曲はそれまでの彼らから考えると1曲の尺が非常に長くなっており、6〜7分台の楽曲が過半数を占めます。そういった楽曲を飽きさせずにリスナーを惹きつけるという点でも、あのナレーション/SEは必要だったと信じています。

聴きやすさ/入門編としては次作『HEARTWORK』が最適だと思いますが、CARCASSの真髄を知るという点においてはまず今作を聴くべきではないでしょうか。そこから『HEARTWORK』以降の作品に進むもよし、逆に勇気を持って初期のグロ路線に一歩踏み出してみるもよし(笑)。

 


▼CARCASS『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』
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BOSTON MANOR『DESPERATE TIMES DESPERATE PLEASURES』(2021)

2021年10月29日にリリースされたBOSTON MANORの最新EP。日本盤未発売。

2015年以降Pure Noise Recordsに所属してきたBOSTON MANORですが、2021年夏にSharpTone Recordsと契約したことを発表したBOSTON MANOR。NECK DEEPとの欧州/USツアーを経て届けられた移籍第1弾アイテムが、この5曲入りEPとなります。

昨年5月に発表された3rdアルバム『GLUE』(2020年)で本格的な変貌を遂げた彼らですが、今作ではそこで得た手応えをさらに強く、1曲1曲に異なる味付けで反映させることに成功。もはやエモやポップパンクの枠では語りきれない存在へと進化しています。

1曲目の「Carbon Mono」や3曲目「Desperate Pleasures」は完全にBRING ME THE HORIZONの影響下にあるモダンメタルチューン。デジタルエフェクトの導入の仕方は前々作『WELCOME TO THE NEIGHBOURHOOD』(2018年)、前作と比べて格段とナチュラルなものとなり、最初からこういうバンドだったのではないかと錯覚するほど。楽曲自体はまだまだ亜流感が否めませんが、それでもメロディラインやアレンジの作り込みの完成度は目を見張るものがあります。

かと思えば、90年代のUS&UKオルタナティヴロックからの影響が随所に感じられるM-2「Algorithm」では、バンドの新たな魅力/個性が伝わる。このテイストは前作でも見え隠れしていたものではありますが、ここにきてひとつの武器として確立し始めているように映り、今後は先のモダンメタル色との2軸として勝負していくことでBOSTON MANORらしさがより色濃くなるのではないか、という気がします。

M-4「I Don't Like People (& They Don't Like Me)」もどちらかといえば、そっち側の1曲ですよね。メロディラインからは先のBMTHとの共通点も見つけられますが、味付けが完全に90's US&UKオルタナのそれで好印象。いいぞもっとやれ。

そして、EPのラストを飾る「Let The Right One In」は浮遊感の強いゴシックメタルナンバー。アルバムでいったら中盤(A面ラスト)か最後(B面ラスト)に置かれるタイプのミディアムスローナンバーで、前作『GLUE』でいうところの「On A High Ledge」や「Stuck In The Mud」あたりで試したスタイルを深化させた1曲かな。かつ、それら2曲ともメロディの質感が少々異なることもあり、新鮮に響くのではないでしょうか。

と、駆け足で5曲振り返ってみましたが、このEPでの実験がこの先控えているであろうフルアルバムにどう作用するのか。期待を煽るという意味では非常に良い役割を果たしていると思います。おそらく次作は『GLUE』の延長線上にある、よりディープな1枚になりそうですが、ここ最近の実験の成果がいよいよ開花するという点でもかなり大きな期待を寄せておきたいと思います。

 


▼BOSTON MANOR『DESPERATE TIMES DESPERATE PLEASURES』
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2021年12月25日 (土)

VOLUMES『HAPPIER?』(2021)

2021年11月19日にリリースされたVOLUMESの4thアルバム。日本盤未発売。

VOLUMESは2000年代末に結成された、ロサンゼルス出身のメタルコアバンド。Djentやプログメタルの影響下にある硬質サウンドと、プログメタルのわりに1曲が2〜3分台と非常にコンパクトな作風が魅力といえる存在です。ここ数年は大幅なメンバーチェンジがあり、2021年現在は2016年に加入した元BURY YOUR DEADのマイク・テリー(Vo)、そのマイクと入れ替わりで2015年に脱退したものの2020年に再加入したマイケル・バー(Vo)、そしてラード・サウンダニ(B, Programming)とニック・ウルシック(Dr)という変則的な4人。というのも、結成時からの一員であるガス・ファリアス(Vo)が2019年末、彼の兄弟であるディエゴ・ファリアス(G, Programming)が2020年1月に相次いでバンドを脱退し、その直後の2月にディエゴがこの世を去る悲劇に見舞われるのです。

そういった困難を前にしても、バンドはマイケル・バー再加入を祝して新曲「Holywater」を2020年1月末に発表。同タイミングに、coldrain主催フェス『BLARE FEST.2020』出演のため来日を果たしています。その後、世界は新型コロナウイルスの感染拡大により未曾有の事態に突入しますが、VOLUMESは歩みを止めることなく、同年9月に新曲「Weighted」を配信リリース。共同制作者としてマックス・スカッド(G, Programming)を迎え、前作『DIFFERENT ANIMALS』(2017年)から約4年半ぶりとなる新作アルバムを完成させるのでした。

Djent〜プログメタル経由のパーカッシヴなリフ&リズムが心地よい従来の彼ららしい楽曲も多数存在しますが、例えば先の「Weighted」はKORNを筆頭とするサイケデリックなモダンメタルのテイストも散りばめられているほか、「Into You (Hurt)」あたりからはDEFTONESとの共通点も見つけられる。これらの新規軸がアルバム中で浮いてしまうことなく、非常に彼ららしい味付け(主にギター面でのアレンジ)にて並べられ、1枚のアルバムを通して気持ちよく楽しむことができるのです。

適度なデジタルエフェクトを織り交ぜながらも、Djentを通過したメタルコアらしいグルーヴィーさが展開されるオープニングトラック「FBX」を筆頭に、キャッチーな歌メロが乗せられた「Bend」、カオティックなサウンド&アレンジがとことん気持ち良い「Man On Fire」など、どれもが平均点以上の仕上がり。2人のボーカリストの個性もそこそこ伝わってきますし、この手のアルバムとしては非常に聴きやすい仕上がりではないでしょうか。

ただ、このバンドならではの突出した個性は若干乏しいものがあり、先のKORNやDEFTONESからの影響を露わにしたことは良い形で作用したものの、そういった要素は彼らだけの特徴とは言い難いものがある。また、ギタリストがセッションメンバーということも大きく、なんとなくこれまでのスタイルをなぞっているだけという印象も。そういった点は多少なりともマイナスポイントに働いているかもしれません。

とはいえ、この手の作品としては75〜80点と平均点超えの仕上がり。ここにVOLUMESならではの個性やキメの1曲が加われば、プラス10点といったところでしょうか。そういった意味では、過渡期の1枚かな。サウンドプロダクションなどの完成度は非常に高いだけに、ぜひ次作での“二度目の開花”に期待したいところです。

 


▼VOLUMES『HAPPIER?』
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2021年12月24日 (金)

PAUL GILBERT『'TWAS』(2021)

2021年11月26日にリリースされたポール・ギルバートのホリデーシーズン・アルバム。日本盤は同年11月24日に先行発売。

今年6月に最新オリジナルアルバム『WEREWOLVES OF PORTLAND』(2021年)を発表したばかりのポールですが、これに続く今作は10曲のクリスマスソングおよびそれに付随するウィンターシーズンならではの名曲群に、新たに書き下ろされたオリジナルクリスマスソング2曲(日本盤はさらに1曲追加の3曲)を加えた全12曲(日本盤は13曲)入りのインストゥルメンタルアルバム。アートワークの作風含め、『WEREWOLVES OF PORTLAND』の延長線上に位置する1枚です。

カバーされた楽曲はフランク・シナトラ「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」やナット・キング・コール「Frosty The Snowman」「The Christmas Song」など著名アーティストが歌いヒットさせたオリジナルソングや、「Rudolph The Red-Nosed Reindeer(赤那覇のトナカイ)」「We Wish You A Merry Christmas(おめでとうクリスマス)」「Winter Wonderland(すてきな雪景色)」などのスタンダードなど、誰もが一度は耳にしたことがある名曲ばかり。前作ではすべての楽器をポールひとりで担当したものの、今回はポール(G)、ダン・バルマー(G)、ティマー・ブレイクリー(B)、クレイ・ギバーソン(Key)、ジム・ボット(Dr)というバンド編成で、時にハードロックテイストで、時にソウルやジャズの色合いで表現し、聴き手を楽しませてくれます。

ポールの超絶テクニックも随所にフィーチャーされているものの、やはり軸になるのはメロディラインの忠実なる再現。もちろんただ真っ直ぐメロディをなぞるだけではなく、そこには彼らしいウィットに富んだアレンジも味付けとして加えられており、原曲のイメージを大幅に変えることなくポールらしさが見事に表現されているように感じます。なので、多くの楽曲は既存ナンバーとはいえ、ポールのギタリストとしての非凡さもしっかり楽しめるはずです。

本作のために書き下ろされた新曲についても触れておきます。今作も事前に歌モノと想定してポールが作詞した歌詞が用意されており(ボーナストラックの「Down The Chimney Blues」以外の2曲はブックレットに歌詞を用意)、改めてその意図を踏まえてから触れると印象も変わるのではないでしょうか。「Every Christmas Has Love」のスタンダードなポップス色といい、エネルギッシュなギタープレイが炸裂するアップテンポの「Three Strings For Christmas」といい、それぞれクリスマスならではの陽気さ、朗らかさに満ち溢れており、これらがポールならではのポップセンスと相まってよりキャッチーさを増している。既存のクリスマスソングと並んでもなんら違和感がないほどに、このアルバムに馴染んだ仕上がりです。

そして、ボーナストラックの「Down The Chimney Blues」はこれら2曲とは若干一線を画する、スタジオジャム色の強い仕上がり。トラック冒頭に残されているポールの声(バンドメンバーへの楽曲説明やちょっとした歌声)含め、即興性の強いブルースナンバーはおまけとしては十分すぎるほどの1曲で、クリスマスソングという枠からは少々ズレているのかもしれませんが、これはこれで全然アリ。ポールの派手さとディープさが混在したギタープレイも聴きどころではないでしょうか。

こういった類のアルバムは年に一度、このシーズンにしか引っ張り出す機会はないものの、本作に関しては純粋にギターインストゥルメンタルアルバムとして季節を超えて楽しめる気がしてなりません。HR/HM界隈アーティストによるクリスマスアルバム、ホリデーシーズン・アルバムは多々あるものの、この『'TWAS』はジャンルの枠を超えた、聴き手を選ばない良質の1枚だと断言できます。年間ベストなどに選ぶタイプではありませんが、ぜひこの時期だからこそ手に触れてほしい良作です。

 


▼PAUL GILBERT『'TWAS』
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2021年12月23日 (木)

MUDHONEY『EVERY GOOD BOY DESERVES FUDGE』(1991)

1991年7月26日にリリースされたMUDHONEYの2ndアルバム。日本盤は海外リリースから約1年後の1992年6月1日に、『良い子にFUDGE』(1998年の再発時は『良い子にファッジ』)の邦題を冠して発売。

Sup Pop Recordsから発表した1stアルバム『MUDHONEY』(1989年)から約1年9ヶ月ぶりの新作。セルフプロデュース作だった前作に対し、このアルバムでは前作でエンジニアを務めたコンラッド・ウノ(THE POSIES、THE PRESIDENTS OF THE UNITED STATES OF AMERICA、SONIC YOUTHなど)がプロデューサーとして携わり、以降数多くの作品に関わり続けることになります。

NIRVANA『NEVERMIND』(1991年)以降に勃発する“グランジ・ムーブメント”前夜の1988年から活動し、Sup Pop Recordsの立役者の1組としても知られるMUDHONEYですが、本作はメジャー進出する前に発表された最後の1枚であり、その録音方法含めインディーズならではのこだわりが伝わる内容となっています。

まず、レコーディングは8チャンネルのミキサーを使った非常にローファイな手法で実施。非常にドライで生々しい質感は、まだまだウェル・メイドなサウンドが中心だった1991年の音楽シーンにとってはオルタナティヴな存在でした。でも、だからこそこの「無駄なものが一切存在しない音の真空パック」のようなアルバムはアンダーグラウンドシーンで高く評価され、初版で5万枚ものセールスを上げたのではないでしょうか。

当時の音楽誌では、本作に対してBLACK SABBATHのような最重量ヘヴィメタルを少しだけスピードアップさせ、さらにユーモアを加える。それがMUDHONEY」というような評価がありましたが、この「BLACK SABBATHのような最重量ヘヴィメタルを少しだけスピードアップ」させたものこそのちのNIRVANA『NEVERMIND』であり、以降のグランジの軸になっていったのではないでしょうか。ところが、MUDHONEYがその他のグランジ勢と異なったのは、ユーモアセンスが備わっていたこと。どんなにダーク&ヘヴィな音像を表現しようとしても、そこには必ずといっていいほどの脱力感とユーモアも散りばめられていた。「だからMUDHONEYは苦手」というリスナーもいるかもしれませんが、逆にこのユーモアセンスのおかげで彼らは良くも悪くもグランジ・ムーブメントに飲み込まれることなく、今日に至るまでマイペースな活動を継続できているのではないかと思うのです。

軽快さとタイトさが程よく混在したクールなバンドサウンドと、マーク・ムーア(Vo, G)の最高にカッコいいんだけど“どこまでいってもカッコいいとは言い難い”ちょっと間の抜けたボーカルスタイル。実は緊張感あふれる楽曲なはずなのに、隙の多いアンサンブルを筆頭にハーモニカやオルガン、ピアノを交えたアレンジのおかげで、常にユルさがつきまとってくる。80年代後半のインディーシーンの良い点を引き継ぎつつ、(本人たちにはその気はまったくなかっただろうけど)90年代に新たなうねりを生み出そうとするその(音から伝わる)姿勢は、30年後の2021年でも最高にカッコよく感じられるものです。そりゃあ『死ぬまでに聴きたいアルバム1001枚』(同タイトルの書籍)にも選出されるわけですよ。

なお、2021年7月23日には本作の30周年アニバーサリー・エディションも発売に。多数のレアトラックが用意されているのですが、この中には24チャンネルミキサーで録音されたアルバム収録曲のデモも含まれています。バンドがあえて8チャンで正規レコーディングした理由が透けて見えてくるので、ぜひ聴きくらべてみることをオススメします。

アルバムの随所からNIRVANAなどに与えた影響も見え隠れするものの、本作はグランジというよりはガレージパンクの傑作として捉えたほうが評価を間違わないような気が。ジャンルやムーブメントを踏まえて接することも大切ですが、まずは1枚の良質なロックアルバムとして触れてみてはどうでしょう。

 


▼MUDHONEY『EVERY GOOD BOY DESERVES FUDGE』
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CAN'T SWIM『CHANGE OF PLANS』(2021)

2021年10月22日にリリースされたCAN'T SWIMの3rdアルバム。日本盤未発売。

CAN'T SWIMは2015年に結成された、米・ニュージャージー出身の5人組バンド。結成からまもなくしてPure Noise Recordsと契約し、2016年に初EP『DEATH DESERVES A NAME』を発表。翌2017年には1stアルバム『FAIL YOU AGAIN』をリリースし、以降定期的に作品を届け続けています。

アルバムとしては『THIS TOO WON'T PASS』(2018年)からほぼ3年ぶりとなる今作。その間にはヘヴィサウンドやEDM、アコースティックなど作品ごとに異なる実験にトライしたEPが3作続きましたが、今作では本来のエモ/ポストハードコア/オルタナティヴロック路線へと回帰。と同時に、ソングライティング力もより高まっていることが伝わる、ガッツがありながらも非常にメロディアスという意欲作に仕上げられています。

オープニングを飾る「Standing In The Dark」の、冒頭での穏やかでメロディアスなテイストに少々驚かされるも、曲が進むにつれて“らしさ”が見え始めるという構成はEPでの経験が見事に活かされたものと言えるでしょう。その後も親しみやすいメロディを軸に、極端に突っ走ることなく、かといって重く引きずることもないという適度なBPMで進行。BEARTOOTHのケイリブ・ショーモ(Vo)をゲストに迎えた「See The Room Ablaze」をはじめ、「10 Years Too Late」「Deliver Us More Evil」など程よいヘヴィさを備えた楽曲も多いですが、ヘヴィ/ラウド系というよりはメロディックパンクにより近いテイスト/作風かもしれません。

「Opposite Of God」や「Better Luck Next Time」「Altamonte Explode」などアルバムが後半に進むにつれて、序盤のどこか抑制された勢い、躍動感が少しずつはみ出し始めた気がしますが、それも「気がした」程度のままで、終始感情の抑揚がコントロールされたような感覚を味わいながら、全11曲/36分におよぶアルバムは幕を下ろします。

「ケイリブをフィーチャーしているんだから、もっと弾けてもいいのに」とか「この曲調にスクリームやシャウトが被せられたら、もうちょっと爆発力が伝わるんじゃないか」なんていう消化不良も少なからず感じる本作ですが、実はこの煮え切らなさや寸止め感こそが、今のCAN'T SWIMの魅力なのかなという視点もなきにしもあらず。楽曲の完成度が高まっていることは紛れもない事実ですが、そこに抑揚のコントロールを加えることで独自性を高めているのだとしたら……本作は原点回帰というよりは、EP3作から続く実験の過程に過ぎないのかな。

このバンドが今後どんなスタイルを確立させていくのか、あるいは作品ごとに常に異なるスタイルを見せていくのか。今はわかりませんが、今作はCAN'T SWIMにとって到達点ではなく、いくつかある通過点のひとつでしかないんでしょうね。そういう意味では、本作の評価ってこの先発表されるであろう次作や次々作の時点で決定するのかもしれませんね。

 


▼CAN'T SWIM『CHANGE OF PLANS』
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2021年12月22日 (水)

GAMMA RAY『SIGH NO MORE』(1991)

1991年9月21日にリリースされたGAMMA RAYの2ndアルバム。日本盤は同年10月19日発売。

カイ・ハンセン(G, Vo/当時ex. HELLOWEEN)のソロプロジェクトとして始動した前作『HEADING FOR TOMORROW』(1990年)のレコーディングですが、その後ライブを行うためにバンド編成へと移行。カイ、ラルフ・シーパース(Vo)、ウヴェ・ヴェッセル(B)、ディルク・シュレヒター(G)、ウリ・カッシュ(Dr)という布陣で日本を含むツアーを成功させます。

そのままの編成で、早くも次作レコーディングに突入。新たなプロデューサーにHELLOWEENでお馴染みのトミー・ニュートンを迎え、HELLOWEENの延長線上にあった前作とな異なるタッチでアルバムを仕上げています。それもあってか本作はリリース当時、問題作として賛否が分かれたことをよく覚えています。

アルバムのオープニングをミディアムヘヴィな楽曲「Changes」からスタートさせるというのも異色っちゃあ異色です。しかしこの曲、約6分の曲中で徐々にテンポを上げていくというドラマチックな構成で、何度も聴き返すうちにこういう幕開けもアリなんじゃないかと思わされます。そこから、いかにもカイ・ハンセンらしい「Rich & Famous」へと続き、従来の路線(といっても、まだ2ndアルバムなんですけどね。笑)を取り戻していきます。

そのまま疾走感の強いメタルチューン「As Time Goes By」でテンションがさらに高まっていくと、若干ファンキーなノリを持つミディアムヘヴィの「(We Won't) Stop The War」で空気が変わり、王道メタルバラード「Father And Son」でアルバム前半のクライマックスを迎えます。あれ、ヘヴィメタルアルバムとしてはすごく綺麗な流れじゃないですか。誰だよ問題作とか言ったの!

アルバム後半は、本作からのリードトラックとしてMVも制作されたドラマチックなミドルヘヴィナンバー「One With The World」から開始。そうか、日本では「Rich & Famous」がシングルカットされたけど、海外ではこの曲がリード曲だったから、前作でファンになったリスナーから疑問を持たれたのかな。僕は初めてこの曲を聴いたときから好きだったし、このMVを観て「2ndアルバムを聴かないと」と思ったクチです。ひねくれてますかね。

そこからアップチューン「Start Running」で再びギアが入るも、リフでひたすら引っ張るAC/DCACCEPTタイプのハードロック「Countdown」で再びテンポダウンし、ヘヴィな大作「Dream Healer」で後半のクライマックスを迎えます。この1曲のためだけに本作を聴いてもいいんじゃないか?ってくらい、この『SIGH NO MORE』を代表する1曲ですし、初期GAMMA RAYのスタイルがここでひとつ完成したんじゃないか、という気もします。そして、アルバムラストを飾るのはIRON MAIDENをはじめとするブリティッシュHR/HMからの影響が強い「The Spirit」。この2曲の流れは、確かにそれまでのHELLOWEEN〜『HEADING FOR TOMORROW』の流れからすると異色かもしれませんが、こういう実験に取り組めたのも前作で得た手応えが大きかったから。そう言った意味でも、本作はカイ・ハンセンというアーティストの表現の幅を一気に広げるきっかけとなった、重要な1枚と言えるでしょう。

そんな作品だからこそ、賛否の声が大きいのもわかります。しかも、本作がHR/HMにとって大きな転換期となった1991年に発表されているという点も、そういう気運に拍車をかけたのかもしれません。しかし、リリースから30年経った今聴いてみると、実はよく練り込まれたHR/HMアルバムであることに気づかされる。これがあったから、続く『INSANITY AND GENIUS』(1993年)で開き直ることができた(笑)わけですからね。

 


▼GAMMA RAY『SIGH NO MORE』
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TOM MORELLO『THE ATLAS UNDERGROUND FLOOD』(2021)

2021年12月3日にデジタルリリースされたトム・モレロの、ソロ名義では3作目のオリジナルアルバム。海外でのフィジカルリリースは2022年1月7日、日本では同年1月26日発売予定。

2021年10月15日に『THE ATLAS UNDERGROUND FIRE』を発表したばかりのトムですが、そこから1ヶ月強で届け届けられた本作は『THE ATLAS UNDERGROUND』(2018年)からスタートした“THE ATLAS UNDERGROUND”シリーズの第3弾。過去2作同様、すべての楽曲に異なるコラボレーターをフィーチャーし、楽曲ごとに異なる世界観/音楽性を展開してたコンピレーションアルバム/プレイリスト風な内容に仕上げられています。

前作『THE ATLAS UNDERGROUND FIRE』ではブルース・スプリングスティーンエディ・ヴェダーPEARL JAM)、BRING ME THE HORIZON、デニス・リクセゼン(REFUSED)など比較的派手なロックスターも多数フィーチャーしていたものの、今作はロック度は比較的低め。HR/HM層に引っかかるメンツといえば「I Have Seen The Way」でのアレックス・ライフソン(G/RUSH)、カーク・ハメット(G/METALLICA)程度でしょうか。もちろん、それ以外にもベン・ハーパーを迎えた「Raising Hell」やRODRIGO Y GABRIELA参加のWarrior Spirit」、元SOMETHING CORPORATEのシンガー、アンドリュー・マクマホン(Vo)率いるANDREW McMAHON IN THE WILDERNESSとのコラボ曲「The Maze」、IDLES参加の「The Bachelor」なども用意されているので、幅広くロックを聴くリスナーなら文句なしで楽しめる内容かと思います。

序盤の2曲(「A Radical In The Family」「Human」)ではいわゆるモダンポップに接近した作風で、ロックのロの字も感じられないものの、続く3曲目「Hard Times」では多くのファンがトムに求めるスタイル(いわゆるRAGE AGAINST THE MACHINE的なもの)に近い音/曲調が飛び込んでくるので、少しは安心できるはず。とはいえ、過去2作同様ジャンルレスなアルバムなので、ロックやハードロック的な側面だけを求める層には今作も厳しい内容と言えるかもしれません。そこだけははっきり言っておきます。

筆者的にはこの“音のごった煮感”は非常に楽しめるものなので、過去作同様に文句なしに楽しめるものがあるのですが、前作のレビューでも述べたようにトムはギタリストというよりはソングライターに徹している節があり、彼の変態的ギタープレイはそこまで多くフィーチャーされていません。「I Have Seen The Way」のように世代の異なる名ギタリストたちとのギターバトルが楽しめる曲や「Ride At Dawn」みたいにリフのカッコいい曲もあるにはありますが、「You'll Get Yours」のようにアコギメインの楽曲もあれば、「The Lost Cause」や「Parallels」を筆頭とした歌中心の楽曲もある。要は、ひとつのスタイル/音楽性に固執するリスナーには少々厳しい内容であり、ジャンル問わず“音楽”を楽しめる層にはカラフルに映るバラエティ豊かな1枚である、と。聴き手の立ち位置の違いにより、評価が分かれるアルバムと言えるでしょう。

個人的には、今回も十分に満足できる内容であり、それこそ先に書いたようにプレイリスト感覚で気軽に接することができる良作だと思っています。

さまざまなコラボレーターと共作することで、ソングライターとしての実力/個性に磨きをかけているトムですが、この実験は今後も“THE ATLAS UNDERGROUND”という名の下に続いていくことになるのでしょうか。もちろんHR/HM界隈にこだわる必要はありませんが、今後も若手/ベテラン問わずジャンルレスな面々とのコラボに期待しつつ、時には豪快なギタープレイも披露していただきたいところです。

 


▼TOM MORELLO『THE ATLAS UNDERGROUND FLOOD』
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2021年12月21日 (火)

DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: WHEN DREAM AND DAY REUNITE (LIVE)』(2021)

2021年12月3日にリリースされたDREAM THEATERのライブアルバム。日本盤は同年12月1日に先行発売。

今年10月22日に待望のニューアルバム『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』を発表したばかりのDREAM THEATERですが、そこから1ヶ月強というタイミングで届けられたのがこのオフィシャル・ブートレッグシリーズ第5弾。過去に自主レーベルYsejam Recordsを通じてさまざまな貴重音源を限定販売してきた彼らが、現在所属するInsideOutMusic Recordsとのコラボレーションで今年から定期的にレアライブ音源やアルバムデモ集などを届けてくれています。

今作には2004年3月6日、LAのThe Pantages Theaterにて行われた公演から、バンドの記念すべきデビューアルバム『WHEN DREAM AND DAY UNITE』(1989年)の完全再現パートを収録。このアルバム、当初は『WHEN DREAM AND DAY REUNITE』というタイトルで、2005年にYtseJam RecordsからCDとDVDの2形態が販売されていたもので、今回の再リリースにあたりリマスタリングが施されているとのこと。このへんはこれまでの“LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES”シリーズ同様ですね。

『WHEN DREAM AND DAY UNITE』制作時のメンバーはチャーリー・ドミニシ(Vo)、ジョン・ペトルーシ(G)、ジョン・マイアング(B)、ケヴィン・ムーア(Key)、マイク・ポートノイ(Dr)という布陣でしたが、2004年のこのライブは当然ジェイムズ・ラブリエ(Vo)、ペトルーシ、マイアング、ジョーダン・ルーデス(Key)、ポートノイというメンバーで実施。『WHEN DREAM AND DAY UNITE』に収録された8曲を、原曲にほぼ忠実なアレンジで再現されております。もちろんライブならではのインタープレイも随所に追加された結果、「The Killing Hand」のように原曲より4分も尺が増えたテイクもありますが、これはこれで当時のDTらしいのではないでしょうか。

どこかゲディ・リー(RUSH)っぽかったチャーリー・ドミニシが歌うオリジナルバージョンに慣れ親しんだ耳で触れると、ラブリエが歌う『WHEN DREAM AND DAY UNITE』楽曲群には若干に違和感を覚えるかもしれません。しかも、音楽的にも『IMAGES AND WORDS』(1992年)以降の楽曲と比べて少々異なる質感(主にメロディ)も随所に散りばめられていることもあって、その違和感は増すばかりなのでは。

ですが、『IMAGES AND WORDS』期のライブを当時体験した頃、実はそこまで違和感を覚えたかというと、意外とそうでもなかったような記憶があって。「あれ、ラブリエの歌う1stアルバム曲もカッコいいじゃん」なんて思ったような気がするんですよね。もう30年近く前のことなのであやふやですが。

要は、それだけラブリエの歌声、ラブリエの歌うDT、ラブリエのために用意された曲に慣れ親しんでしまい、久しぶりに原点に戻ってみたら違和感があったというだけなのかな。それだけいろんなことに挑戦し、“DTらしさ”を完全に確立させたという表れでもあるんでしょう。

ラブリエ自身、この時期はまだハイトーンも出るほう(苦笑)だったので、ギリギリこのへんの初期曲を再現できるタイミングだったのでしょう。また、この当時はDT史上もっともヘヴィと謳われた7thアルバム『TRAIN OF THOUGHT』(2003年)リリース後。バンドおよびラブリエにとって、次のステップへ進む上でのアク抜き代わりこの完全再現は必要だったのかもしれませんね。

なお、『WHEN DREAM AND DAY UNITE』収録曲8曲を終えたあと、アンコールとして「To Live Forever」と「Metropolis」も披露されており(もちろん本作にも収録)、この2曲ではオリジナルシンガーのチャーリー・ドミニシと2代目キーボーディストのデレク・シェリニアンがゲスト参加。ドミニシ、意外と歌えていて好印象です。特に「Metropolis」ではラブリエとドミニシのハモリも登場し、普段のDTライブでは味わえない興奮を体験できるはず。ちなみに、「To Live Forever」は「Lie」(デレク在籍時のシングル)カップリング曲なのでセレクトされたのでしょうけど、この曲といい「Metropolis」といい、ドミニシ脱退後の曲で彼をゲスト参加させる意味とは……むしろ本編で登場させてあげなさいよ(笑)。

 


▼DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: WHEN DREAM AND DAY REUNITE (LIVE)』
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2021年12月20日 (月)

IMMINENCE『HEAVEN IN HIDING』(2021)

2021年11月26日にリリースされたIMMINENCEの4thアルバム。日本盤未発売。

前作『TURN THE LIGHT ON』(2019年)から約2年半ぶりの新作。過去2作は日本盤も発売されましたが、移籍などないにもかかわらず本作の国内リリースは現時点で見送り。ぶっちゃけ、過去2作を優に超える力作だけに、残念でなりません。

ドラマチックなポストハードコアサウンドという点においては、デビュー作『I』(2014年)から一貫しているものの、世界デビュー作となった2ndアルバム『THIS IS GOODBYE』(2017年)でのポストロック方向への接近、続く『TURN THE LIGHT ON』でのポスト・モダンメタルバンドのさらなるモダン化を経て届けられた今作は、良い意味で前作をより進化/深化させた内容。ドラマチックさやメロディアスさはもちろんのこと、エッジの効いたヘヴィサウンド、ポストロックを思わせる風味、わかりやすさとマニアックさが適度なバランスで入り混じった、ライト層にもコア層にも十分にアピールする1枚と言えるでしょう。

BRING ME THE HORIZON以降のモダンさ、それをさらに推し進めたARCHITECTSの方向性の延長線上にあるスタイルは、よりモダン化した最近のポストハードコア/メタルコアを象徴するようなもので、人によっては「またこれか……」と食傷気味になるかもしれません。しかし、このバンドの場合そういった先人たちとは一線を画する個性が用意されています。それが、エディ・ベイル(Vo, Violin)によるバイオリン。「Ghost」を筆頭に、各楽曲のさまざまなポイントにフィーチャーされたバイオリンは独特な魅力を放っており、このバンドの個性を確立させることに一役買っています。

例えば、「Moth To A Flame」のようなシンフォニック調のモダンメタルサウンドにバイオリンの短いソロフレーズが乗るだけでも、「おおっ!?」と惹きつけられるものがある。どの楽曲も平均点以上の完成度を誇るものだけに、そこにプラスアルファの要素が加わるだけでも、その点数はかなり上がるのではないでしょうか。

かと思えば、ピアノの流麗なフレーズをリフにした「Alleviate」の繊細さ/エモーショナルさも大きなフックになっているし、さらにそこにクリーンギターやバイオリンのフレーズが乗ることでより独特な世界観が広がっていく。「Disappear」のギターリフなんて、どことなく日本のヴィジュアル系との共通点も見つけられるし、「Lost And Left Behind」の耽美さもそれに近いものがある。さらに「این نیز بگذرد」(タイトルよ!)の異国情緒漂う質感/アレンジなんて、もはや“その他大勢”とや比べようがないほどの唯一無二さを発揮しているんだから。特にこのあたりの楽曲群が孕む耽美さ、ドラマチックさは日本人にこそ響いてほしい要素。一度耳にしたらスルスルと引き込まれてしまうはずです。

そして1分に満たないバイオリンソロインスト「∞」を経て到達するタイトルトラック「Heaven In Hiding」の美しさといったら……前半の「前作までの彼らのファンを満足させる方向性」と後半で展開される「さらに進化するIMMINENCEの個性」というバランスも絶妙で、すべてにおいて前作超えの良作だと断言できます。

ここ数年、特にコロナ禍以降は海外アーティストの新作日本盤リリースが減っており、フィジカル重視のメタル界隈においてもその姿勢は強まり始めています。今やサブスクを通してでしか出会えない新譜やアーティストも少なくなく、こういった良質なアルバムが見過ごされているような気がしてなりません。このアルバムができるだけ多くのリスナーのもとに届きますように……。

 


▼IMMINENCE『HEAVEN IN HIDING』
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2021年12月19日 (日)

OF MICE & MEN『ECHO』(2021)

2021年12月3日にリリースされたOF MICE & MENの7thアルバム。日本盤未発売。

前作『EARTHANDSKY』(2019年)から2年2ヶ月ぶりのフルアルバム。バンドは2021年に入ってから、デビュー以降所属していたRise RecordsからShapTone Recordsへの移籍を発表。これに伴い、2月発売の第1弾『TIMELESS』、5月発売の『BLOOM』、そして12月3日発売の『AD INFINITUM』とそれぞれ3曲の新曲(『AD INFINITUM』のみ新曲3曲にCROSBY, STILLS, NASH & YOUNGのカバー「Helplessly Hoping」を追加)が収録された3枚のEPを発表してきました。今回のフルアルバムにはそのEP3部作に収められた楽曲がすべて収録されており、かつシンプルにリリースされた順に並べられています。

レコーディングにおいても過去作のように著名なプロデューサーを立てるのではなく、完全セルフプロデュースでミックス&マスタリングをメンバーのアーロン・ポーリー(B, Vo)というのはコロナ禍ならではと言えるでしょう(おそらく、全員が集まって録音したのではなく、リモートで作業を進めたはず)。実際、このアルバムについてアーロンは「本作は昨年から今年前半にかけての、自分たちの人生のスナップショットのようなもの。喪失と成長、人生と無常、愛、そして無限……人間の経験においてもっとも素晴らしく、そしてもっとも悲劇的な部分がどのように絡み合っているかを表している」と説明しています。

アルバムという体をなしてはいるものの、実際には2020年以降にコロナ禍に制作された新曲をテーマ別に振り分けたEPを3枚出し、それを単にまとめた総集編と呼ぶのが正しいのかもしれません。実際、最後のEP『AD INFINITUM』はアルバムとリリース日が一緒だったものの、アルバム前半の6曲は今年前半に既出のものだったわけで、ちゃんと聴いてきたリスナーには新鮮味皆無なわけですから。

そういった事実を踏まえつつ、本作に触れてみましたが……各EPごとの作風に多少なりとも統一性のようなものが感じられ、キャッチーさの目立つ『TIMELESS』、ダウナー&ヘヴィさが際立つ『BLOOM』、メロウなメタルコアへと復調していく『AD INFINITUM』と、ブロックごとのまとまりと大きなうねり(流れ)のようなものもしっかり伝わります。

そのうねりこそ、実は2020年から2021年にかけての世界の流れと、それに直面した人間の感情の揺れ動きとリンクしたもので、「Timeless」(=時代を超越)から始まり「Helplessly Hoping」(=どうにもならない望み)で終わるという構成は非常に計算されたもののように映ります。かつ、すべての楽曲タイトルを読み上げていくと、実はこの1年半にわたる我々人類と満ちなるウイルスとの関わりが透けて見えてくるような気がします。

はじめからアルバムとしての構成(レコーディングした10曲をこのような順番で聴かせ、かつ3枚のEPに分けられるように3曲、3曲、4曲というブロック分け)を意識していたのかは不明ですが、EPとして聴いたとき以上の充足感は(すでに何度も耳にしていた曲とはいえ)十分に伝わりますし、特に後半4曲はこのアルバムで初めて触れたこともあり、馴染みのある6曲を経て新鮮な未発表曲へと到達する流れは、個人的には心地よいものを感じました。

と同時に、このアルバムを何度か聴き返すうちに「絶対にこの流れでなくてはいけない」とも実感しました。やっぱり最初から計算されてるよね、これ。

アーロンを選任リードボーカルに据えた4人編成も、本作で3作目。完全にこの形も板に付き、ようやくOF MICE & MENとしての第2章も起承転結の「転」あたりに到達したのかな。個人的にも過去2作と比較して進化が感じられるし、その上でもっとも好きな1枚だと断言できます。もっと広まっていいはずの良作です。

これまでの作品からすると斬新なアートワーク、サブスクを意識してEPとしてある程度まとまった楽曲群を定期的にリリースしていく手法含め、バンドとしての攻めの姿勢が十分に伝わる一連の流れ、支持したいと思います。

 


▼OF MICE & MEN『ECHO』
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2021年12月18日 (土)

THE HELLACOPTERS『REAP A HURRICANE』(2021)

2021年12月17日にデジタルリリースされたTHE HELLACOPTERSの新曲。

2008年に一度解散したものの、2016年にニッケ・アンダーソン(Vo, G/IMPERIAL STATE ELECTRICLUCIFERENTOMBED)、ドレゲン(G, Vo/BACKYARD BABIES)、ケニー・ホーカンソン(B)、ロバート・エリクソン(Dr)、アンデス・“ボバ”・リンドストローム(Key)という2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』(1997年)時の布陣で再結成を果たしたTHE HELLACOPTER。その後、ケニーがすぐに脱退し、サミ・ヤッファMICHAEL MONROE、ex. HANOI ROCKなど)などがツアーメンバーとして参加するものの、現在はパーマネントのベーシスト不在という4人編成で活動を継続しています。

そんなTHE HELLACOPTERSが2022年4月1日に、『HEAD OFF』(2008年)以来14年ぶりとなるニューアルバム『EYES OF OBLIVION』をNuclear Blast Recordsからリリースすることをアナウンス。この発表にあわせて、アルバムからのリード曲として実に17年ぶりのオリジナル新曲「Reap A Hurricane」を配信リリースしたのです(※2016年の再結成直後に発表した7インチシングル「My Mephistophelean Creed / Don't Stop Now」は1996年に書き下ろした未発表曲を、2016年に正式レコーディングしたもの。純粋なオリジナル新曲ではないので割愛しました)。17年ぶりというのは、『HEAD OFF』が全曲カバー曲だったため、そのひとつ前のオリジナルバム『ROCK & ROLL IS DEAD』(2005年)以来だからなんですね。

さて、待望の新曲。アメリカで相次いで竜巻が発生しているタイミングでこのタイトルの新曲を発表してしまうという、なんともタイミングがアレですが……楽曲自体はドレゲンが脱退して以降、特に4作目『HIGH VISIBILITY』(2000年)や5thアルバム『BY THE GRACE OF GOD』(2002年)、そして『ROCK & ROLL IS DEAD』といった作風の延長線上にあるスタイルかなと。爆走ロックンロールを武器としたデビュー作『SUPERSHITTY TO THE MAX!』(1996年)や続く『PAYIN' THE DUES』などドレゲン在籍時と比べるとスピードを抑えた作風は、まさに中後期のそれと言えるでしょう。

しかし、リフワークは中後期というよりは初期のそれに近い印象もあり、このへんはドレゲンのカラーが加わったからこそなのかな。録音の質感も整理されクリアになった中後期よりも初期のそれに戻っている感があるので、そういった意味では初期2作と中後期のハイブリッド感が楽しめる1曲とも言えるでしょう。

「初期2作と中後期のハイブリッド」という点においては、実は3rdアルバム『GRANDE ROCK』(1999年)的でもあるのかな。実は、今回のNuclear Blast Recordsとの契約を機に、ここ日本ではストリーミングサービス未配信だった同作が、この新曲と同タイミングで配信スタートしているんです。これって偶然なのか、それとも……(この先、1stや2nd、そして解散前のラスト作『HEAD OFF』や数々のコンピ盤も国内サブスク解禁されることを願っております)。

そして、気になるニューアルバム『EYES OF OBLIVION』の内容ですが……この1曲だけでは想像も難しいところですが、ニッケによるとThe Beatles meets Judas Priest or Lynyrd Skynyrd meets the Ramones but the best way to describe this album is that it sounds like The Hellacopters today.」なんだとか。やはり「初期2作と中後期のハイブリッド」というのは、あながち間違ってないのかもしれませんね。

 


▼THE HELLACOPTERS『REAP A HURRICANE』
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LUCIFER『LUCIFER IV』(2021)

2021年10月29日にリリースされたLUCIFERの4thアルバム。

ドイツ人女性シンガーのヨハナ・サドニス(ex. THE OATH)を中心に結成されたLUCIFER。ANGEL WITCHのアンドリュー・プレスティッジ(Dr)や元CATHEDRALのギャリー・エニングス(G)などが在籍してきましたが、現在はニッケ・アンダーソン(Dr, G, Key/THE HELLACOPTERSENTOMBEDIMPERIAL STATE ELECTRIC)、ライナス・ビョークランド(G)、マーティン・ノルディン(G)、ハラルド・ジョットブラード(B, Key)という編成で活動中です。

前作『LUCIFER III』(2020年)から1年7ヶ月という短いスパンで届けられた本作。前作発表直後にコロナ禍に突入してしまったこともあり、同作を携えたツアーを本格的には行えず、結果として彼らは再びスタジオに戻ることでバンドとしてのアイデンティティを維持します。

基本的にヨハナとニッケが大半の楽曲を制作するスタイルは前作と同様ですが、今作では今年新加入のライナスとマーティンもソングライティングに参加。70年代のクラシックロックやガレージロック、ブルースロック、ハードロック、サイケデリックロック、プログレッシヴロックなどからの影響を下地に、ヨハナの気怠くも艶やかな歌声と、ソングライティング面に強く打ち出されたニッケの趣味(KISSTHIN LIZZYなど)が絶妙なバランス感でミックスされた、古臭くも新鮮という個性的な1枚に仕上がっています。

曲によってはRAINBOWBLACK SABBATHあたりからの影響も見つけられ、それらがレイドバックすることによって新たな個性を生み出している。かつ、熱すぎず冷たすぎずというヨハナのボーカルが乗ることで、オリジネーターとは異なるものへと進化。このアルバムからは、上記のようなルーツの匂いを漂わせながらも、ド直球で似ている(パクっている)ものは皆無。テイストや方向性がルーツバンドを踏襲してはいても、ヨハナのセンス、ニッケのセンスによって上書き保存されているので、結果先のように「古臭くも新鮮」という作品に仕上がるわけです。

例えば、GRETA VAN FLEETを筆頭とするクラシックロック・リバイバル的スタイルの若手新人バンドと比較すると、もともとキャリアのあるミュージシャンが集まったLUCIFERはちょっと違うのかもしれない。しかし、結果として慣らされている音や生まれてくる楽曲は、GRETA VAN FLEETの対抗馬として十分に通用する個性を備えている。確実に違う枠だってわかってはいるんだけど、むしろGRETA VAN FLEETリスナーにこそ触れてほしいと思わずにはいられない。同バンドに対するヨーロッパからの回答、なんていうのは安直でしょうかね。

怪しげな空気をまとうインスト「The Funeral Pyre」や、ピアノをフィーチャーしたメランコリックな「Nightmare」など変化球が随所に用意されているし、怪しいコード感のバラード「Orion」や初期サバス的なリフワークと伸びやかなメロディラインの相性も抜群な「Phobos」など、アルバム後半に進めば進むほどクセの強い楽曲が増えていく構成も、一度聴いたらドツボにハマってしまう魅力を秘めている。強烈な一撃はないタイプのバンドですが、70年代のピュアなハードロックやクラシックロック・リバイバルの流れに興味を持っている方なら、絶対にドストライクなはず。個人的には過去3作を軽く超える、LUCIFERの最高傑作だと信じてやみません。

だいたい、LED ZEPPELINもBLACK SABBATHもタイトルに“4/IV”が付いた作品(4作目のアルバム)はどれも傑作でしたし、その方程式でいけばLUCIFERの4作目も最高に決まってる。問答無用で気持ちよく楽しめるし、THE HELLACOPTERSなどニッケのロックンロールサイドがお気に入りのリスナーにもうってつけ。2020年代の新たなスタンダードとなるべくして生まれた傑作です(国内ではストリーミング配信されていないことだけが玉に瑕ですが)。

 


▼LUCIFER『LUCIFER IV』
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2021年12月17日 (金)

WHITECHAPEL『KIN』(2021)

2021年10月29日にリリースされたWHITECHAPELの8thアルバム。日本盤は同年11月3日発売。

前作『THE VALLEY』(2019年)から2年7ヶ月ぶりの新作。前作発表後のツアーからサポートメンバーとしてバンドに参加したアレックス・ルディンガー(Dr/LIGHT THE TORCHサポートなど)が、初めてレコーディングに加わり、のちに正式メンバーとしてアナウンスされました。が、本作発表からしばらく経った12月初頭に、アレックス自身がバンド脱退を発表。実はレコーディング時も正式メンバーではなく雇われだったことが明かされます。なんやかんや、ここ5年くらいはドラマーの座が安定しないバンドですね。

さて、そんなすったもんだのWHITECHAPELの新作。デスコアからの脱却が感じられる意欲的な1枚に仕上がっています。

アルバム冒頭を飾る「I Will Find You」のドラマチックさは、デスコアというよりもドラマチックなエクストリームメタルという印象。もちろん随所からデスコア的なテイストも感じとることはできますが、フィル・ボーズマン(Vo)の暴力的なグロウル/デス声とメロウなクリーンボイスを巧みに使い分けた歌唱、そしてクリーンパートでのフュージョンやプログメタル的なテイストなどバンドとしての新境地も伝わり、デスコアを飛び越えネクストレベルに向かおうとする意欲も見つけられます。

シンプルかつストレートに攻めるというよりは、緩急に富んだアレンジで聴き手の興味を惹きつける。「Lost Boy」のような王道デスコア的スタイルにフュージョンっぽさを織り込んだアレンジは、まさにその真骨頂でしょう。また、ドラマチックさでいうと「A Bloodsoaked Symphony」や「The One That Made Us」など、ダークさやヘヴィさを強調しつつも、どこかメランコリックなテイストも感じられるような曲が増えており、バンドが確実に変革期に突入したことがご理解いただけるでしょう。

かと思えば、後半にはメタルバラード「Orphan」まで登場する。ここで聴くことができるメロウで繊細なタッチは、もはやデスコアとは括れないものがあります。前半に収められた「Anticure」もバラードとまではいわないものの、浮遊感も強いムーディでメロウなミディアムスローナンバーはバンドにおける新たな武器だと断言できるもの。さらに、「Without Us」の序章にあたる1分程度の「Without You」はアコースティックギターによるインストで、こちらもバンドの新たな挑戦と言えるものです。

さらにバラード枠に含まれるラストナンバー「Kin」でもアコースティックギターやピアノが効果的に用いられており、この曲あたりはLAMB OF GODなどとの共通点も見つけられるのではないでしょうか。本作はデスコアからの進化を意味するポジティブな変化なのか、それとも単なるセルアウトなのか。残念ながらチャートなど数字での成功は収めることができていませんが、個人的には「全然アリ」な1枚。この片鱗を見せていた前作を気に入った方が、ここまで“化けた”本作をどう評価するのかも気になります。

 


▼WHITECHAPEL『KIN』
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2021年12月16日 (木)

HYPOCRISY『WARSHIP』(2021)

2021年11月26日にリリースされたHYPOCRISYの13thアルバム。

スウェーデン出身のベテラン・デスメタルバンドによる、前作『END OF DISCLOSURE』(2013年)以来8年8ヶ月ぶりの新作。2022年で1stアルバム『PENETRALIA』(1992年)から30年という大きな節目のタイミングに、待望の1枚が届けられました。

レコーディングメンバーはバンドの首謀者でもあるピーター・テクレン(Vo, G)と、彼の右腕ミカエル・ヘドルンド(B)、そしてIMMORTALでも活躍するホルグ(Dr)という前々作『A TASTE OF EXTREME DIVINITY』(2009年)から不動の3人(ライブでは2010年以降、トーマス・エロフソンがギタリストとしてサポート参加)。近年はプロデューサー/エンジニアとしても活躍するピーターは、本作でも自身がプロデュースおよびエンジニアリングを手掛けています。

過去の彼ららしいスタイルを踏襲した、ブルータルだけど適度にメロディアスや正統派ヘヴィメタルらしさも包括した、王道のデスメタルが終始展開された内容で、冒頭を飾る「Worship」で聴かせるドラマチックな展開/アレンジはさすがの一言。オープニングからエンディングまでの起承転結がはっきりした、まさにこのアルバムを象徴するような1曲に仕上がっています。

以降はミドルテンポやアップチューンなど緩急に富んだ、聴き手を飽きさせることのない構成で進行。また、この手のアルバムにしては非常にクリアな音像で、1つひとつの音の粒がしっかり聴き取れるミックスはデスメタルのそれというよりも普遍的なヘヴィメタルに近い印象を受けました。ボーカルこそデス声ですが、鳴らされている音は(ブルータルさを孕むものの)メロディアスで壮大な王道メタル的ですし。かつ、そこにドゥーミーな要素やゴシックの要素までもが感じられる。総合的に考えても、実はこれまで彼らに偏見を持っていたリスナーにこそ最適な、HYPOCRISYの入門編的1枚と言えるのではないでしょうか。

また、歌詞からはコロナ禍以降の日常に迫ったものがあったり、アルバムカバーで描かれたような古代史×SF的な都市伝説的物語が綴られていたりと、このへんのフィクション/ノンフィクション入り混じった世界観も非常に彼ららしい。そういった点では、映画を観るように俯瞰で楽しめる1枚とも言えるでしょう。単にエクストリームな音を追求しているバンドではなく、意図的な仰々しさが伝わるスタイルということも作用し、歌詞においても変に日常とリンクしすぎて恐怖を与えるよりも、これくらいの距離感がちょうどよい気がします。ホント、SF大作映画を楽しむくらいの感覚で触れるのが一番じゃないかな。

特に彼らの場合、MVを通じて楽しむことでその要素がより強まるので、「Dead World」や「Chemical Whore」など映像を通して触れてみるのもいいのではないでしょうか。

にしても、これらの楽曲群をライブではどう表現するのか。それが非常に気になるし、楽しみなところでもあります。残念ながら、昨今の情勢もあり日本で彼らのステージを目にするまでには、まだ相当な時間を要することになりそうですが、可能なら約9年ぶりのこの新作を生音で、かつ日本の地で体感したいものです。

 


▼HYPOCRISY『WARSHIP』
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2021年12月15日 (水)

LOCK UP『THE DREGS OF HADES』(2021)

2021年11月26日にリリースされたLOCK UPの5thアルバム。

4thアルバム『DEMONIZATION』(2017年)から4年8ヶ月ぶりの新作。2ndアルバム『HATE BREEDS SUFFERING』(2002年)から参加したトーマス・リンドバーグ(Vo/AT THE GATESTHE LURKING FEAR)に代わり、元BRUTAL TRUTHのケヴィン・シャープ(Vo)が加わり話題となりました。その後、オリジナルドラマーのニック・パーカーが2020年に脱退。その後釜としてアダム・ジャービス(MISERY INDEX、PIG DESTROYER)が加入したまではよかったのですが、2021年に入ってからトーマスがバンドに復帰したことがアナウンスされました。ケヴィンの脱退などは一切発表されていないことから、今後LOCK UPはトーマス&ケヴィン、シェン・エンバリー(B/NAPALM DEATH)、アントン・レイセネッガー(G/CRIMINAL)、そしてアダムという5人編成/ツインボーカル体制で活動していくことになりました。

新編成で初となる本作は、コロナ禍という特殊な環境下、かつメンバー全員が異なる地域に住んでいることもあり(シェーンはイギリス、ケヴィンは米・アトランタ、アダムは米・バルチモア、トーマスはスウェーデン、アントンがチリ)、すべてリモートでレコーディングされたとのこと。また、プロデューサーには『HATE BREEDS SUFFERING』以降の作品に名を連ねてきたラス・ラッセル(AT THE GATES、THE HAUNTED、NAPALM DEATHなど)が外れ、セバ・プエンテ(NUCLEARのギタリスト)がミックス&マスタリングを含めた作業に携わったそうです。Dropboxにアップされた曲の断片にどんどん肉付けされていった音源をまとめていく作業は、相当苦労したことでしょう。

しかし、完成した作品はまごうことなきLOCK UPの音で、リモートで作ったからといったチグハグさは皆無。冒頭のおどろおどろしいイントロダクション「Death Itself, Brother Of Sleep」にこそ驚かされますが、続く「Hell Will Plague The Ruins」以降の展開は王道のデスメタル/グラインドコアそのものです。ほぼ全編2分前後のショートチューンで構築されており、ブルータルに疾走したかと思えば、重く引きずるようなミドルナンバーも存在する。ブラストビートを多用したアダムのドラミングもさすがですし、何よりトーマス&ケヴィンのツインボーカル……まさかグラインドコアでツインボーカルを楽しめる日が来るとは、誰も想像していなかったのではないでしょうか。

高めの音域中心のトーマスと、低音で豪快な咆哮という印象のケヴィン、それぞれがそれぞれのパートを歌い分けると同時に、同じフレーズをツインで歌う(叫ぶ)パートも多数存在し、その凶悪さなハーモニー(笑)からはなんとも言葉にするのが難しい爽快感が伝わります。M-4「Black Illumination」なんて、冒頭のギター&ベースのノイズからして最高だし、その後のリフワークや2人の叫びの気持ちよさ、アッパーからスローへとテンポチェンジする構成など、ずっと浸っていたいと思わされる要素が満載です。

かと思えば、アルバム本編を締め括るM-14「Crucifixion Of Destorted Existence」は、6分以上におよぶ“冥界(=Hades)からの断末魔”のようで、スピード中心で突っ走ってきた本作を締め括るに最適な抒情詩。全14曲で40分がちょっと欠けるくらいのトータルランニングは、彼らにしては比較的長いほうだと思いますが、最強の5人で臨んだ充実ぶりが伝わるボリューム感ではないでしょうか。

日本盤には、今年6月にアナログ再発されたライブアルバム『PLAY FAST OR DIE: LIVE IN JAPAN』(2005年)に付属されたボーナスEP『INSIDE CTHULHU'S EYE』収録の3曲を、ボーナストラックとして追加。『THE DREGS OF HADES』と同時期に制作された楽曲群のようで、どれも本編に含まれていたとしても違和感のないものばかり。タイミング的にも、アルバム本編への肩慣らしとして録音された3曲かもしれませんね。なお、M-17「Radiation Sickness」はグラインドコアの始祖のひとつ、REPULSIONのカバー。

レコーディングのみならず、トーマスはライブにも参加してケヴィンとのツインボーカル体制を続けていくとのこと。この夏にAT THE GATESで新作『THE NIGHTMARE OF BEING』(2021年)を発表し、本作の1週間前にはTHE LURKING FEARの2ndアルバム『DEATH, MADNESS, HORROR, DECAY』(2021年)もリリースしたばかり。思うようにライブやツアーが行えなかったタイミングとはいえ、ここまで中心バンドの新作(しかもどれも良作)が続くと、2022年以降のツアーが心配になってきます……(苦笑)。

 


▼LOCK UP『THE DREGS OF HADES』
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2021年12月14日 (火)

THE LURKING FEAR『DEATH, MADNESS, HORROR, DECAY』(2021)

2021年11月19日にリリースされたTHE LURKING FEARの2ndアルバム。日本盤は同年11月24日発売。

THE LURKING FEARはAT THE GATESのトーマス・リンドバーグ・レダント(Vo)とエイドリアン・アーランドソン(Dr)を中心に結成されたスウェディッシュ・デスメタルバンド。メンバーは2人のほか、ヨナス・スタルハマー(G/AT THE GATES、GOD MACABRE)、フレドリック・ウォーレンバーグ(G/SKITSYSTEM)、アンドレアス・アクセルソ(B/TORMENTED、DISFEAR、ex. EDGE OF SANITY)といった面々で、同編成で2017年8月に1stアルバム『OUT OF THE VOICELESS GRAVE』をリリースしています(前作リリース時はヨナスはまだAT THE GATESの一員ではなかったんですよね。そう考えると現在の布陣は感慨深いものがあります)。

AT THE GATESとしても今年7月に3年ぶりの新作『THE NIGHTMARE OF BEING』を発表したばかりですが、それと平行してTHE LURKING FEARとしても約4年ぶりの新作制作に着手。これも2020年初頭以降続くコロナ禍による影響が大きいのでしょう。にしても、AT THE GATESの『THE NIGHTMARE OF BEING』と対照的なアルバムを同タイミングに作り上げるという事実は、非常に興味深いものがあります。

抒情的なテイストをより強めたメロディックデスメタルで孤高の存在ぶりを提示した『THE NIGHTMARE OF BEING』に対し、THE LURKING FEARの2作目『DEATH, MADNESS, HORROR, DECAY』はストイックなまでのピュア・デスメタル(この例えよ。笑)を展開。1〜2分台のショートチューンが大半を占める構成も非常にルーツを感じさせるもので、M-8「Kaleidoscopic Mutations」にクリス・レイファート(Vo, Dr/AUTOPSY、ex. DEATHなど)が参加しているのもそういったこだわりが伺えます。

かつ、ラヴクラフトのホラー小説から引用されたバンド名のとおり、サウンドや歌詞を含め聴く者に不安や恐怖を与える要素が随所に用意されている。その文学的な歌詞の内容含め、ぜひ対訳の付いた日本盤にてお楽しみいただきたいところです(染谷和美さんによる和訳が本当に素晴らしいので)。

上記のような楽曲以外にも、このバンドの持つ不穏さはアルバムラストナンバーの「Leech Of The Aeons」にも端的に表れています。この曲はアルバム中最長の5分強という尺ですが、冒頭のアレンジといい、そこから続くバンドアンサンブルといい、自分がデスメタルに求める要素がすべて詰まっている完璧な仕上がり。この1曲のために本作を聴いてもいいくらい、というのは言い過ぎかもしれませんが、とにかく「2021年におけるデスメタルとはなんぞや?」という命題に真正面から向き合った1枚ではないでしょうか。

日本盤CDやデジタル版などには、2曲のボーナストラックを追加。カナダのデスメタルバンドSLAUGHTERの「The Curse」とUSデスメタルバンドPOSSESSEDの「Seance」という、デスメタルのオリジネーターたちのカバーを楽しむことができます。このあたりにも、THE LURKING FEARのこだわりを垣間見ることができます。

AT THE GATESとTHE LURKING FEARで対照的な良作2作を作り上げたトーマスやエイドリアンですが、トーマスに関してはさらにLOCK UPとしても最新作『THE DREGS OF HADES』(2021年)を11月末に発表したばかり。働きすぎでしょ(苦笑)。

 


▼THE LURKING FEAR『DEATH, MADNESS, HORROR, DECAY』
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2021年12月13日 (月)

VOLBEAT『SERVANT OF THE MIND』(2021)

2021年12月3日にリリースされたVOLBEATの8thアルバム。

本国デンマークで最高2位、オーストリアやフィンランド、ドイツ、スイスでは1位を獲得した前作『REWIND, REPLAY, REBOUND』(2019年)から2年4ヶ月ぶりの新作。デビューから一貫して制作に関わるヤコブ・ハンセン(DIZZY MIZZ LIZZYPRETTY MAIDSAMARANTHEなど)が引き続きプロデューサーとして参加しています(共同プロデューサーとしてメンバーのマイケル・ポールセン、ロブ・カッジアーノもこれまで同様に名を連ねています)。

今年で結成20周年という節目のタイミングに届けられた今作は、過去最高のキャッチーさが印象的だった前作を昇華しつつ、これまでのキャリアを総括するようなバラエティ豊かな内容に。オープニングを飾る「Temple Of Ekur」や「Wait A Minute My Girl」で軽快さやストレートさを提示しつつも、続く「The Sacred Stones」ではヘヴィメタルバンド的な重々しさ、「Shotgun Blues」ではガッツのあるビートでメタル/ラウドファンをも魅了する。どの曲も非常にキャッチーなメロディが乗せられており、数回聴いただけで口ずさめるような親しみやすさは前作での経験が見事に反映されているように感じます(もちろん、彼らはこれまでもキャッチーさに磨きをかけてきましたが、今作ではその側面に拍車がかかったという意味です)。

また、演奏面も聴き応えのあるものばかりで、個人的にはMETALLICAからの影響濃厚ではと感じる「Shotgun Blues」での中盤以降のアレンジがお気に入り。そういえば彼ら、本作の直前にMETALLICAのブラックアルバム(1991年)のトリビュート盤『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)にも「Don't Tread On Me」で参加していましたものね。納得の仕上がりです。

以降もヘヴィロカビリーという例えがハマりそうな「The Devil Rages On」、グルーヴィーなリズムが心地よい「Say No More」、ストレートな疾走感がどことなくV系っぽくもある「Heaven's Descent」、前作での経験が見事に反映されたポップロック「Dagen Før」(この曲には同郷デンマークのポップロックバンドALPHABEATの女性シンガー、スティーム・ブラムセンをフィーチャー)、ヘヴィさとポップさが共存する「The Passenger」、VOLBEAT流サーフロックな「Step Into Light」、デスメタル風オープニングに唸らされるメタルナンバー「Becoming」、METALLICAの「Wherever I My Roam」を思わせるギターリフが印象的な「Mindlock」、約8分におよぶ大作メタルチューン「Lasse's Birgitta」と、60分超のトータルランニングにもかかわらずまったく飽きさせない内容に仕上がっています。ある意味では、ここ数作彼らが試してきた実験の集大成とも言える内容ではないでしょうか。個人的にも最近の彼らの作品ではもっともお気に入りです。

海外デラックス盤および日本盤には複数のボーナストラックを用意。日本盤および海外盤共通で、スウェーデンのハードコアバンドWOLFBRIGADE「Return To None」、THE CRAMPSやロイ・オーソンでおなじみの「Domino」の各カバー、USデスメタルバンドJUNGLE ROTのデイヴ・マトリース(Vo, G)をフィーチャーした「Shotgun Blues」別バージョン、マイケル単独歌唱による「Dagen Før」の4曲に加え、日本盤には「I Only Wanna Be With You」の2019年ライブテイクが収められています(海外盤には同ライブテイクの代わり、先のMETALLICA「Don't Tread On Me」カバーを追加)。海外デラックス盤はCD2枚組仕様ですが、日本盤はCD1枚に80分という収録容量限界に挑んだ仕様となっています。

これだけの力作を完成させたあとなだけに、やっぱりこれらの充実した楽曲群をライブでダイレクトに楽しみたいところですよね……前作での来日も実現しませんでしたし、ここは来年あたりに……と希望を持ちたいところです。あと、せっかく日本盤をきっちりリリースしてくれている事実に対しても、リスナーとしてしっかりフォローしていきたいですよね、バンドの日本における展開のためにも。

 


▼VOLBEAT『SERVANT OF THE MIND』
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2021年12月12日 (日)

WALTARI『3RD DECADE: ANNIVERSARY EDITION』(2021)

2021年11月26日にリリースされたWALTARIのリレコーディングアルバム。

KREATORの一員としても知られるサミ・ウリ・シルニヨ(G)が在籍するフィンランド・ヘルシンキ出身の6人組ミクスチャーバンドWALTARIにとって、今年は『MONK-PUNK』(1991年)でのアルバムデビューから30年という節目。当初はアニバーサリーツアーを計画していたものの、このような状況になってしまったことにより予定を変更し、アニバーサリーアルバムを制作することになったそうです。

過去の楽曲を単に再レコーディングするだけではなく、各曲にバンドと縁のあるアーティストたちをフィーチャー。そのメンツもユルゲン・エングラー(DIE KRUPPS)ヤマルコ・ヒエタラ(ex. NIGHTWISH)、ヨンネ・ヤルヴェラ(KORPIKLAANI)、LORDI、ELÄKELÄISETなどバラエティに富んだ面々で、リメイクされた名曲群に華を添えています。

僕自身はこのバンド、名前こそ知っていたものの、本作で初めて触れることになります。30年にわたる長い活動歴を軽くおさらいするには最適な本作ですが、現代的にリメイクされていることもあってか、非常に聴きやすい仕上がりと言えます。早くからラップメタルやインダストリアルのテイストを導入してきたバンドだそうですが、本作ではそういった要素に加えてダブステップやEDMなどの導入、フィンランド民謡的な側面なども随所から感じられ、一筋縄でいかない個性的な音楽性を堪能することができます。

ぶっちゃけ、非常に好みの音。モダンメタル的なテイストに前時代風のザクザクしたギターリフ、ハイトーンで歌い上げるのではなく低中音域を巧みに使うカルツュ・ハタッカ(Vo, B, Key)の表現力など、随所からドイツのRAMMSTEINとの共通点も見受けられる。そりゃ嫌いなわけがないですよ。もっと早くに触れておけばよかったなと、このアルバムを聴いて思わされました。

また、曲によってゲストボーカルの個性が強く打ち出されており、そのへんも楽曲の多彩さに拍車をかけています。女性シンガーのニキ(BARBE-Q-BARBIES)とカルシュの歌声の相性が抜群のロックンロールナンバー「Misty Man 2021」や、ヨンネ・ヤルヴェラとイルキ69(THE 69 EYES)と3人のシンガーの個性が強く打ち出された「In the Cradlie 2021」などは本作におけるハイライトと言えるのではないでしょうか。

単なるベストアルバムのようで新作としても十分に通用するテイスト、そしてアニバーサリー企画ならではのお祭り感と、このタイミングだからこそ作り上げることができた本作。僕のようにまだWALTARIの音に触れたことがないというビギナーにこそ、ぜひ手にしていただきたい1枚です。特にモダンメタルやミクスチャーロックが好きなリスナーなら絶対に引っかかるはずですから。

 


▼WALTARI『3RD DECADE: ANNIVERSARY EDITION』
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2021年12月11日 (土)

THE MONKEES『THE MONKEES LIVE: THE MIKE & MICKY SHOW』(2020)

THE MONKEESのマイク・ネスミスが現地時間12月10日、78歳で亡くなりました。自分もYahoo!ニューズの公式コメンテーターとして、このニュースについてコメントを書かせていただいています(詳細はこちらの記事後半に掲載されているコメントより)。

THE MONKEESは自分が小学生低学年の頃、初めて能動的に触れた洋楽アーティストでした。もちろんきっかけは、当時再放送されていた『ザ・モンキーズ・ショー』を観て。TBSでの再放送だったか東京12チャンネル(現・テレビ東京)での再放送だったかの記憶は曖昧ですが、日本語吹き替えで小学生にも親しみやすかったシットコム形式の内容や、はっきりとキャラの違いが描かれていた4人の個性、そして胸躍るオープニングテーマや毎回後半に1曲紹介されるTHE MONKEESのヒット曲。これらが当時アニソンや戦隊モノ、歌謡曲しか知らなかった自分にはキラキラして見えて(聞こえて)、気づいたら日本独自企画のベストアルバムを小遣いを貯めて購入し、デイヴィ・ジョーンズにファンレター(当時通っていた学習塾の先生に、日本語で書いた手紙を英訳してもらい、それを見様見真似で清書した)を送ったりしたものでした。

僕にとって、能動的に聴き始めたという点において今の自分の音楽的原点となっているのが、その時期に触れたTHE MONKEESとYellow Magic Orchestra。どちらもかけがえのない、特別な存在なのです(YMOについては、また別の機会に)。

というわけで、マイク存命時最後のリリースとなったライブアルバムを紹介させてください。

本作は2020年4月3日にリリースされたアルバムで、ピーター・トーク死去(2019年2月)後最初の作品でした(日本盤未発売)。発売タイミングがちょうどコロナ禍に突入した最初の時期で、ロックダウンなどと重なったこともあり、僕自身リリースを知ったのはずいぶん後になってからでした。

本音源はピーター逝去後に行われたアメリカ公演(2019年3月および6月)で収録されたもの。タイトルどおり、マイク・ネスミスとミッキー・ドレンツの2人に大勢のサポートメンバーが加わることで、非常に豪華かつ聴きやすい形のアレンジで表現された名曲の数々は、オリジナル音源以上に新鮮に響きます。

ミッキーが歌う「Last Train To Clarksville」からスタートするというのも良いですし、かつミッキーの歌声が若い頃とさほど大きくイメージが違っていないことにも驚かされる。以降、ミッキーとマイクのリード歌唱曲が交互に披露されたり、ときに一緒に歌ったりと、極上のパワーポップチューン/カントリーポップナンバーが次々に繰り出されていきます。知っている曲も2人のボーカルで表現されることで新鮮に響き、若干新曲に触れているような錯覚にも陥ります。いやあ、いい曲多いな、本当に。

どの曲も2〜3分程度のコンパクトさということもあり、全25曲で78分というトータルランニングもそれほど疲れることなく楽しめるもの。いわゆるグレイテストヒッツ的な内容/作品とは異なるものの、THE MONKEESというバンドが最後の最後まで現役として生きた記録として、非常に大きな意味のある1枚ではないでしょうか。

なお、THE MONKEESは今年11月14日にフェアウェルツアーを終えたばかり。そこから1ヶ月経たずしてマイクはこの世を去ったわけですが、もしかしたらそのツアーの模様もいずれ何らかの形で発表されるかもしれません。が、今はこの最新ライブアルバムを聴いて、THE MONKEESの功績を讃えたいと思います。

 


▼THE MONKEES『THE MONKEES LIVE: THE MIKE & MICKY SHOW』
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MANIC STREET PREACHERS『I LIVE THROUGH THESE MOMENTS AGAIN AND AGAIN: DUETS 1992-2021』(2021)

2021年11月30日に公開されたMANIC STREET PREACHERSのオフィシャルプレイリスト。Spofifyのみで配信中。

メジャーデビュー30周年という記念すべきタイミングであった2021年、マニックスは最新オリジナルアルバム『THE ULTRA VIVID LAMENT』をリリースするのみにとどまりました。しかしその結果、同作は『THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS』(1998年)以来23年ぶりに全英1位を獲得することとなりました。

そういったアニバーサリーイヤーに記念碑的作品を生み出すことができたバンドは、あえてフィジカルアイテムを制作するのではなく、サブスクリプションサービスのプレイリストを複数制作するという今ならではの手法で30年のまとめに入ることになります。

その1作目として発表されたのが、このデュエット曲/コラボ楽曲をひとまとめにしたコンピレーションアルバム的プレイリスト。1stアルバム『GENERATION TERRORISTS』(1992年)における「Little Baby Nothing」(withトレイシー・ローズ)を筆頭に、THE CARDIGANSのニナ・パーソンを迎えたヒット曲「Your Love Alone Is Not Enough」やECHO & THE BUNNYMENのイアン・マカロックをフィーチャーした「Some Kind Of Nothingness」、最新作からの「The Secret He Had Missed」や「Blank Diary Entry」(前者はジュリア・カミング、後者はマーク・ラネガンが参加)など、バンドの歴史をコラボレーションという側面から総括する内容に仕上がっています(収録曲の詳細はオフィシャルサイトにて確認を)。

この中には、マニックスのオリジナルアルバム未収録だった貴重なテイクも複数存在します。その中にはトム・ジョーンズのアルバム『RELOAD』(1999年)でジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)がゲスト参加した「I'm Left, You're Right, She's Gone」、サラ・クラックネルのアルバム『RED KITE』(2015年)でニッキー・ワイヤー(B, Vo)が客演した「Nothing Left To Talk About」といったマニックスの作品外の楽曲や、SUPER FURRY ANIMALSのグリフ・リース(Vo)がリードボーカル&アコースティックギターで参加したライブ音源「Let Robeson Sing」のようなレアテイクも含まれており、アルバム以外にまで手を伸ばせなかったライト層にもうれしい内容となっています。

この中には特筆すべき1曲も含まれています。それが、ウェールズ人アーティストのグウェノーをフィーチャーした「Spectators Of Suicide」です。同曲はもともと1991年のシングル「You Love Us」のHeavenlyバージョン(インディーズ盤)に含まれていたもので、のちに『GENERATION TERRORISTS』で別アレンジにて収録されています。今回のコラボバーバージョンは昨年12月に海外で出版された書籍『BELIEVE IN MAGIC: THE FIRST 30 YEARS OF HEAVENLY RECORDINGS』のために新たにレコーディングされた音源で、このプレイリスト公開にあわせてサブスクでも聴けるようになりました。この非常にレアな再録バージョンを聴けるだけでも、本プレイリストの価値はかなり高いと言えるでしょう。

 


▼MANIC STREET PREACHERS『I LIVE THROUGH THESE MOMENTS AGAIN AND AGAIN: DUETS 1992-2021』

 

 

 

マニックスはこれ以外にも、最新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』のイスパイア元となる楽曲を集めたプレイリスト『THE ULTRA VIVID LAMENT - INSPIRATIONS & INFLUENCES』も公開中。ABBAやラナ・デル・レイ、THE GO-BETWEENS、サイモン&ガーファンクル、BIG THIEF、ニーナ・シモン、NICK CAVE & THE BAD SEEDSなどバラエティに富んだ28曲を楽しむことができます。こちらも新作の副読本として、あわせて楽しんでおきたいところです。

 

2021年12月10日 (金)

COURTNEY BARNETT『THINGS TAKE TIME, TAKE TIME』(2021)

2021年11月12日にリリースされたコートニー・バーネットの3rdアルバム。

全米22位、全英9位のほか本国オーストラリアでは2位まで上昇した前作『TELL ME HOW YOU REALY FEEL』(2018年)から3年半ぶりの新作。作曲に2年を費やし、レコーディングを2020年終盤から2021年初頭にかけてシドニーとメルボルンにて、コートニーとWARPAINTのドラマー、ステラ・モズガワの2人だけで制作された意欲作です。

ガレージロック色の強かった前作と比べると、全体を覆う空気感は穏やかでピースフルなことに気付かされます。それは上記のように、気心知れた仲間とリラックスした環境下で制作できたことによるものが大きいのではないでしょうか。実際、各楽曲からは「愛、再出発、癒し、自分自身の新たな発見」のようなテーマも感じられ、これらが等身大の言葉とシンプルなサウンド/アレンジで表現されているのです。

とにかく、必要な音以外が存在しないアンサンブルは、ステラ・モズガワとのミニマムな制作体制で臨んだ結果でもあり、ある意味では過去2作のファンからは反感を買いかねない作風かもしれません。実際、デビューアルバム『SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES I JUST SIT』(2015年)でいきなり成功を収め、続くフォローアップ作『TELL ME HOW YOU REALY FEEL』や盟友カート・ヴァイルとのコラボアルバム『LOTTA SEA LICE』(2017年)にて、デビュー作のイメージを引き継ぐことで得られたものも大きかったはずです。だからこそ、この3作目は勝負作でもあり、過去からの脱却や新たな可能性を提示する必要もあったのでしょう。

そこにコロナ禍やロックダウンという不可抗力が後押しすることで、変化を求められることになった。キャリア上での変化のタイミングと予期せぬトラブルとが同じタイミングに発生したことで、改めて自分自身と向き合うことができた。本作は単に過去2作と作風が異なるからダメと、簡単に済ませることもできるかもしれない。だけど、それでいいのかなと。

冒頭を飾る「Rae Street」を筆頭に、「Turning Green」や「Take It Day By Day」「If Don't Hear From You Tonight」など、これまでの延長線上にあるといえる楽曲も複数存在する。ですが、それらからじわじわ伝わるポジティブさとリラックスした空気感は、同じことをやろうとしても必然的に違うものへと昇華していることに気付かされます。それがこの3年間でコートニーが得た成果の表れなんじゃないでしょうか。

実はこの変化、ここから始まる彼女の確変のほんの一端なんじゃないかな……そう思わずにはいられません。それくらい、何か新しい物語の始まりを予感させる1枚だなと。この先に生まれるであろういくつかの傑作のあとに初めて、この変化の始まりの1枚を改めて「過渡期」と評するのか、それとも「新たな黄金期の始まり」と評するのか……今この瞬間の評価よりも、数年先にどう捉えらているかのほうが個人的には気になります。

肩の力を抜いてまったり楽しめる。34分の中に山らしい山はないかもしれないけど、だからこそ余計なことを考えずに向き合える良作です。

 


▼COURTNEY BARNETT『THINGS TAKE TIME, TAKE TIME』
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2021年12月 9日 (木)

TORRES『THIRSTIER』(2021)

2021年7月30日にリリースされたTORRES(トーレス)の5thアルバム。日本盤は同年8月4日に発売。

TORRESとはニューヨーク・ブルックリン出身のシンガーソングライターであるマッケンジー・スコットの別名(アーティスト活動時の名義のひとつ)。現在30歳の彼女が学生時代にスタートさせたプロジェクトのようなもので、2013年に1stアルバム『TORRES』を発表し、出世作となった3作目『THREE FUTURES』(2017年)はかの4ADからリリースし、当時注目を集めました。

Merge Records移籍第1弾となった前作『SILVER TONGUE』(2020年)から1年半という短いスパンで届けられた今作は、セルフプロデュース作だった前作から一転し、スコットのほか前々作にも携わったロブ・エリス(PJハーヴェイ、PLACEBO、シャーロット・ハザレイなど)とピーター・マイルズ(ARCHITECTS、SYLOSIS、WE ARE THE OCEANなど)の共同プロデュース作。コロナ禍真っ只中の2020年秋、イギリスのMiddle Farm Studiosでレコーディングされたそうです。

ダークな作風が印象的だった前作から一転、今作は壮大で抜けの良い楽曲がズラリと並ぶ。アルバム冒頭を飾る「Are You Sleepwalking?」では、エッジの効いたギターが印象的なグランジ/オルタナティヴロックに、サビでは突然エレクトロポップテイストにシフトするという独特な世界観を展開。スコットのボーカルも中性的な側面を強めており、これまでとは異なる実験性が伝わる仕上がりです。

かと思えば、リード曲「Don't Go Puttin Wishes In My Head」ではエレポップテイストのアリーナロックを展開。この壮大かつ抜けの良さの象徴のようなこの曲は、どこか80年代を思わせる作風で、これをリード曲に持ってくるあたりに祝祭感が伝わってきます。事実、彼女はこのアルバムに対して「これまでの人生で感じたことのない深い深い喜びが引き出された。私は自分の中にロックを感じ、ほかの人たちの喜びを引き出す手助けをしたいと感じるようになった」と、ネガティブ思考な時代の中に一筋の“Joy”を見つけたことがこのポップネスにつながったのだとコメントしています(ソース)。

多幸感の強いフォークソング「Constant Tomorrowland」、キャッチーなオルタナティヴロック「Drive Me」や「Hug From A Dinosaur」、センチメンタリズムと激しさが共存するロックチューン「Thirstier」、ブリープテクノ的なテイストもはらんだ「Kiss The Corners」、デジロックテイストの「Keep The Devil Out」などロック色の強い楽曲中心ながらも、その間を縫うようにムーディーなスローナンバー「Big Leap」のような楽曲も用意。全10曲/35分という尺ながらもバラエティ豊かな楽曲群をたっぷり楽しむことができるはずです。

穏やかながらも実験性の強い前作の作風も非常に好みでしたが、今作はアートワークのテイスト含めて個人的にど真ん中。もっと早くに紹介しようと思っていたのですが、夏場のバタバタ(忙しかったり体調崩したりコロナ疑惑もあったり)で気づけば年末。今年リリースされた作品を振り返ろうと、iTunes(ってもう言わないのか。笑)内の音源をおさらいしていたらこのタイミングに再発見したというわけです。

個人的な2021年ベストアルバム候補の1枚。年末までに過去作含めてまたリピートしておきたいと思います。

 


▼TORRES『THIRSTIER』
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2021年12月 8日 (水)

THE DARKNESS『MOTORHEART』(2021)

2021年11月19日にリリースされたTHE DARKNESSの7thアルバム。

前作『EASTER IS CANCELLED』(2019年)から約2年ぶりの新作。ロック低迷と言われる海外ですが、本国イギリスでのチャートは最高16位と過去最低の順位となっています。もっとも、全英1位を記録したデビュー作『PERMISSION TO LAND』(2003年)以外はどれも10位前後を行ったり来たりなので、結果そんな大きな変化ではないのかな。むしろ、こういう世の中で彼らのようなバンドがTOP20入りするというのは大健闘でしょう。

本作は全9曲/36分程度の通常盤に加え、ボーナストラック3曲を追加した全12曲/45分のデラックス盤の2形態を用意(日本盤はさらに1曲追加の全13曲入り)。世の中の流れ的に比較的コンパクトな方向に移行しつつあるのは、サブスクの影響でしょうか。まあもっとも、80年代以前のロックの多くが10曲前後で40分前後という尺の作品ばかりだったので、原点に戻っただけとも言えますが。

コロナ禍を経て届けられた今作、冒頭を飾る「Welcome Tea Glasage」を筆頭にリードトラック「Motorheart」までの3曲がいつになく荒々しく走りまくっています。おやおや。かと思えば、M-4「The Power And The Glory Of Love」で従来の“らしさ”が強く表出し始め、続く「Jussy's Girl」ではDEF LEPPARDあたりとの共通点も見つけられる王道ブリティッシュロックを展開。M-6「Sticky Situations」ではQUEENからの影響を伝わる、非常にこのバンドらしいミディアムバラードで耳を幸せにしてくれます。

後半に入ると、「Nobody Can See Me Cry」で再び勢い付き、LED ZEPPELINMOTÖRHEADが合体したような豪快さを見せつける。また、「Eastbound」では軽快なロックンロールを展開し、「Speed Of The Nite Time」では彼ららしいオペラパートを中間に用意したダークなロックンロールを高らかに響かせる。その後、デラックス盤ボーナストラックとなる3曲……「You Don't Have To Be Crazy About Me... But It Helps」では本編になかったミドルテンポのパワフルなハードロックを提示し、「It's A Love Thang (You Wouldn't Understand)」ではアコギをフィーチャーした軽やかなポップロックを聴かせ、最後はピースフルなアコースティックバラード「So Long」で締め括る。

ひと通り聴いてみて思ったのは、非常に計算されたロックアルバムだなということ。とにかく聴きやすくて、スルスル聴き進められ、楽しい気持ちが持続していたかと思えば、気づくとエンディングを迎えている。本編9曲だけだと秒に感じられるほどのスピード感を味わえるのですが、やっぱりボートラ3曲を追加したデラックス盤の構成のほうがロックアルバムとしては完成度が高い気がします。

尺の短い通常盤がサブスク仕様なのかと思いきや、サブスクで配信されているのは12曲入りのデラックス盤のほう。通常盤はCDとアナログでしか手に入らないみたい(ということは、むしろバンドの意図は僕の想像とは逆だったのね。なんだかすみません)。

コンセプトアルバムとして制作された前作『EASTER IS CANCELLED』も全10曲/40分弱とコンパクト(デラックス盤は5曲追加で計15曲とボリューミー)でしたが、それに輪をかけてコンパクトで手軽に楽しめる今作は、間違いなくTHE DARKNESSというバンドにとってひとつの到達点ではないでしょうか。ここにきてようやく大ヒットを記録したデビューアルバムを超える傑作を生み出すことができたTHE DARKNESS、今がもっとも旬かもしれませんよ。

 


▼THE DARKNESS『MOTORHEART』
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2021年12月 7日 (火)

NIRVANA『NEVERMIND (30TH ANNIVERSARY SUPER DELUXE)』(2021)

2021年11月12日にリリースされた、NIRVANAの2ndアルバム『NEVERMIND』(1991年)発売30周年を記念したボックスセット。日本盤は同年12月1日発売。

本作は『NEVERMIND』の最新リマスター盤に加え、未発表のライブ音源CD4枚とライブ映像Blu-ray1枚、そして秘蔵写真満載のフォトブックなどで構成。『NEVERMIND』のリイシューは2011年の20周年のときにも豊富なアイテムが発表され、さすがにここで打ち止めだろ?と思わせておいて、さらに貴重な音源をぶっ込んでくるという鬼のような仕打ち。10年前、高額なボックスセットを購入した筆者にとっても悩ましいアイテムです(苦笑)。

さて、リマスターに関しては今回は割愛。もともと音の良いアルバムでしたし、正直20周年リマスターのときもそこまで大きな変化をしておらず、今回も聴き流す限りでは大きな変化は得られなかったので。

となると、気になるのは未発表ライブ音源の数々。今回は1991〜92年という『NEVERMIND』リリース以降のノリにノッた4公演をまるまる楽しむことができます。その内訳は、①オランダ・アムステルダム公演(1991年11月25日)、②アメリカ・カリフォルニア公演(1991年12月28日)、③オーストラリア・メルボルン公演(1992年2月1日)、④日本・東京公演(1992年2月19日)。Blu-rayにはこのうち、アムステルダム公演の映像がまるまる収められています。

アムステルダム公演からは「School」「Been A Son」「Lithium」「Blew」が、カリフォルニア公演からは「Drain You」「Aneurysm」「Smells Like Teen Spirit」がライブアルバム『FROM THE MUDY BANKS OF THE WISHKAH』(1996年)で過去に発表済みですが、今回はすべてのライブ音源が新たにリマスタリングを施されているとのこと。そういった意味では、すべての音源が初出みたいなものなのかな。

公演によって音の質感はまちまちですが、それぞれ臨場感は強く、特に『NEVERMIND』がチャートを駆け上って全米1位まで到達する時期の①と②のライブからは、バンドの勢いが思う存分に感じられるはず。そんな状況に対してカート・コバーン(Vo, G)が嫌悪感マシマシのスタンスになり始めた1992年初頭の③と④、中でも唯一の来日公演となった1992年2月のジャパンツアーから最終日の中野サンプラザ公演の模様は、間に挿入されるMCなどからもバンド(というかカート)の当時の姿勢が伝わってきます。

ここはやはり④の日本公演が音源化されたことがうれしい限り。音質的には4公演中もっとも良好とは言い難いものですが(そもそも①と②はラジオなどでのオンエアを目的に収録された音源ですしね)、その音質含めバンドのラフさが伝わるものになっており、一周回ってアリに思えてくるはず。ライブハウスではなく座席指定のホールでのライブというのもバンドにとって違和感のひとつだし(ダイブやモッシュ、クラウドサーフができませんしね)、観客に対しての警備の厳しさも同様だったみたいですね(このへんは当時音楽雑誌に掲載されたライブレポートなどで確認できます)。

僕はこの公演と2月17日のクラブチッタ公演のチケットを確保していたのですが、購入前後に確定したイギリス留学のため友人に託し、結局一度も彼らのライブを生で体験することはできませんでした。だからこそ、この④のライブを会場で目にしていたら、当時20歳の自分はどんなことを感じたんだろう?と思うのです。曲中に飛び込んでくる熱狂的な歓声のファン同様、僕も叫び散らしていたのかな。あるいは、前々日のチッタ公演で散々暴れられたのに、サンプラザでは身動き取れずにフラストレーションが溜まっていたとか。今となっては「if」の話ですが……。

さすがに商品として世に出せるライブ音源はもうほとんどないでしょうし、40周年の頃にはフィジカル自体がこの世から消えている可能性だってゼロではないので、こういったアニバーサリー商品はこれが打ち止めかな?という気がします。そういった意味では、何をしてでも確保しておくべきアイテムかもしれませんね。

 


▼NIRVANA『NEVERMIND (30TH ANNIVERSARY SUPER DELUXE)』
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2021年12月 6日 (月)

CYNIC『ASCENSION CODES』(2021)

2021年11月26日にリリースされたCYNICの4thアルバム。日本盤は同年12月1日発売。

1993年にアルバム『FOCUS』1枚を残し解散するも、現在に至るまで何度かの再結成/解散/メンバーチェンジを繰り返してきたプログメタルバンド。初期はデスメタルからの影響も感じられるスクリームやデスボイスもフィーチャーされていましたが、前作『KINDY BENT TO FREE US』(2014年)からはその要素が払拭され、代わりにフュージョン色が強まるなど独自の進化を続けています。

2015年に何度目かの解散を経験するも、2017年にはポール・マスヴィダル(G, Vo)、ショーン・マローン(B)のほか、ショーン・レイナート(Dr/ex. DEATH)の代わりにマット・リンチ(Dr)を加えた編成で再結成。しかし、2020年1月にショーン・レイナートが、同年12月にはショーン・マローンが相次いでこの世を去るという不幸に見舞われます。そんな中、バンドは新メンバーにデイヴ・マッケイ(B, Key)を迎えて新作制作に突入。亡き盟友たちへの餞となる力作を完成させます。

アルバムは9曲の楽曲と9つのインタールード=全18トラックにて構成。尺自体は約49分と聴きやすい長さで、あくまでインタールードは続く楽曲を効果的に引き立て、かつドラマチックに盛り上げる役割に徹したものとなっているので、言われなければインタールード自体も曲の一部=2トラックで1曲と感じることでしょう。それくらい自然な流れを作っており、かつ曲と曲をシームレスにつなげるという点においても効果を発揮しています。

楽曲自体はプログメタル的な色合いを残しつつ、前作以上にフュージョン/ジャズからの影響を強く感じさせるスタイルは、捉え方によってはメタルとは思えないものばかり。ギターの歪みもかなり抑えられているし、ベースもフレットレスを使用しているのかそういうエフェクトなのか、独特の音色を奏でている。ところが、ドラムのツーバスプレイが加わることで「そうだ、メタルバンドだった」と現実に引き戻される。このバランス感が非常に良い塩梅で、メタルらしいエッジの効いた音もフュージョンらしいムーディさも程よいバランスで楽しめるのが本作の魅力かなと思いました。

メンバーの死を乗り越えて制作されたというと、どこか悲壮感のようなものを意識してしまいがちですが、本作に関してはそういった要素は皆無で、むしろ神秘性の強い浮遊感に無の境地で死後の世界を体験している、そんな感覚すら覚えます。「Ascension=昇天」というタイトルにも、もしかしたらそういった意思が込められているのかもしれませんね。変な色を付けて接するよりも、このアルバムは煩悩を捨て去って無で接するのが一番かもしれません。それくらい気持ち良い音、要素が満載ですから。

正直、CYNICは1作目の『FOCUS』で完全に止まっていたので、そこからいきなり本作に手を出してその変化に驚きを隠せませんでした。しかし、そこから前作、前々作とさかのぼって聴くことで、この進化の理由、意味を自分なりに理解できた気がします。2021年にこういう音を鳴らしている稀有な存在、ぜひこのままのスタンスで気長に活動を続けてもらいたいなと思います。

 


▼CYNIC『ASCENSION CODES』
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2021年12月 5日 (日)

CONVERGE『BLOODMOON: I』(2021)

2021年11月19日にリリースされたCONVERGEの10thアルバム。

前作『THE DUSK IN US』(2017年)から4年ぶりのオリジナルアルバムは、チェルシー・ウルフと彼女のバンドメンバーでありソングライティングパートナーのベン・チザム、そしてCAVE INのステファン・ブロズキー(Vo, G)をコラボレーターに迎えた異色作。2019年末から制作がスタートしたものの、その後のパンデミックによるロックダウンを受け、一部リモートにて制作が進められたとのことです。

アルバム冒頭を飾るヘヴィな抒情的ナンバー「Blood Moon」が本作を象徴する1曲だと思うのですが、いかがでしょう。スピードや瞬発力を重視したカミソリの刃のような殺傷力を重視するのではなく、重さや陰鬱さを強調したハンマーでぶん殴るような破壊力にシフトすることで、油断した瞬間に叩き込まれる一撃の攻撃力がハンパない。かつ、その一撃を喰らうまで/食らったあとの余韻作りも非常に考えられており、死が迫る中で目の前に陽炎のように浮かぶ走馬灯を思わせる世界観が展開されている(自分で書いていてちょっと意味がわかりませんが、でもこれ以外に表現のしようがないのです)。

「Viscera Of Men」などのようにスピード感の強い曲もあるにはあるけど、曲全体をその勢いで通すのではなく、途中から重苦しくドゥーミーなスタイルへとシフトしていく。また、アコースティック色を強めた「Coil」のようなスタイルは、前作『THE DUSK IN US』でも試みた方向性のひとつでもあり、あの時点でのトライが次作で(コラボレーションという形を取りながら)開花しているのも興味深いところ。個人的にはこのスタイルへのシフト、大歓迎です。

随所でチェルシー・ウルフが加わった強み、ステファンが参加した強みも感じられるものの、全体を通して思うのは「やっぱり、どこからどう聴いてもCONVERGE」だということ。もちろん、過去のアルバムとの違いを至るところに見つけられ、聴いていて驚きの連発なのですが、1枚聴き終えて思うのはバンドとしての個性が確立された結果、軸にある“らしさ”はまったくブレることがない。10作目にしてこういう挑戦を試みること自体、非常に勇気のいることだと思うのですが、このバンドに関しては勇気とかプライドとかつまらないことにこだわることなく、常に革新的なことに挑み続けたい。それだけのことなのかもしれません。

数あるカードの中からひとつを選んで、そこに特化させた作品を気心知れた外部の友人たちと作り上げる。その結果、新鮮味を強めつつも軸足はまったくブレない自分たちらしいアルバムを完成させた。気づけば傑作『JANE DOE』(2001年)から20年、そりゃCONVERGEも同じ場所にとどまってはいられないわけです。

CONVERGEやCAVE INのファンはもちろんのこと、個人的にはチェルシー・ウルフのリスナーにこそ届いてほしい1枚だと感じています。いやあ、すごいアルバムを完成させたもんだ。

 


▼CONVERGE『BLOODMOON: I』
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2021年12月 4日 (土)

EMMA RUTH RUNDLE『ENGINE OF HELL』(2021)

2021年11月5日にリリースされたエマ・ルース・ランドルの5thアルバム。日本盤未発売。

2ndアルバム『SOME HEAVY OCEAN』(2014年)以降、チェルシー・ウルフDEAFHEAVENTHE ARMEDRUSSIAN CIRCLESなどが在籍するSargent Houseを通じて作品を発表してきたエマですが、THOUとのコラボ作となる前作『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』(2020年)はTHOUの所属するSacred Bonesからのリリースでした。ソロ名義では約3年ぶりとなる今作では、そういったコラボレーションで得たものが発揮されるのかと思いきや、届けられたアルバムは非常に穏やかでミニマルな作品に仕上げられています。

ピアノやアコースティックギターのみを伴奏に、極力オーバーダビングを抑えた作風は『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』からの反動のようにも受け取ることができます。にも関わらず、インパクトという点においては同コラボ作や、前作『ON DARK HORSES』(2018年)にも引けを取らない。むしろ、『ON DARK HORSES』を構築していたバンドアンサンブルやさまざまなサウンドエフェクトという鎧を剥ぎ取ったことで、軸となっているメロディの美しさをより際立たせることに成功している。

要するに、手段こそ異なるものの、彼女が作りたいものは何も変わっていないのではないでしょうか。ピアノやアコギをバックに歌うことで、その歌声も柔らかく、今にも消えてしまいそうなほどの繊細さが放たれていますが、これをオルタナティヴロック調にアレンジしたりポストロック風バンドアンサンブルで表現したら、前作のようなアルバムができるはずですから。

『ON DARK HORSES』を経て、さらにマッチョな『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』を通過したことは、間違いなく今作の制作方針に大きな影響を与えたはず。と同時に、ここまで“裸”になることに対する恐怖心も解消することができた。だからこそのチャレンジなのかなと、個人的には考えています。

この手法を完全にモノにしてしまった今、このアーティストは無敵に近い状態なんじゃないかな。やろうと思えばどんな種類の鎧も用意できて、それらを上手に着飾ることもできる。かと思えば、一糸纏わぬ状態で人前に出ていくことにもなんの躊躇もない。それだけ自分の歌や、自分から生み出される言葉やメロディに対して一切の迷いがないということなのでしょう。

そんなターニングポイントとなるアコースティック色の強い作品に、『ENGINE OF HELL』というタイトルを付けるセンスもさすが。僕はTHOUとの『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』で彼女の存在を知ったという、比較的最近のリスナーですが(『ON DARK HORSES』も後追いですし)、この先どんな作品を生み出していくのかが非常に楽しみな存在になりました。きっとこのアルバム、海外のさまざまな音楽誌でベストアルバムのひとつに選ばれるんじゃないかな。

 


▼EMMA RUTH RUNDLE『ENGINE OF HELL』
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2021年12月 3日 (金)

EMMA RUTH RUNDLE & THOU『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』(2020)/『THE HELM OF SORROW』(2021)

2020年10月30日に配信リリースされたエマ・ルース・ランドルTHOUのコラボレーションアルバム。海外では同年12月4日にフィジカル(CD、アナログ)発売となり、日本でも12月9日から輸入盤国内仕様が流通しております。

エマ・ルース・ランドルはポストロックやフォークミュージックの要素を織り交ぜたスタイルのアメリカ人女性シンガーソングライター。一方、THOUは2005年に結成されたスラッジ/ドゥームメタルバンドと、一見ベクトルの異なる2組が2019年4月にオランダで行われたRoadburn Festivalにて初共演。これを機に、同年8月には2組によるセッション/レコーディングが実現し、2020年のロックダウンを経て1年越しに音源として届けられることになったわけです。

基本的にはTHOUによるスラッジメタルサウンド(ボーカル入り)にエマがメロディアスでソフトなボーカルを載せるという形で、形的にはMETALLICAルー・リードとコラボした珍作『LULU』(2011年)に似たものを感じます。ただ、あっちはルー・リード主導で作られた楽曲をMETALLICAが演奏していた形でしたが、こちらは全体的にTHOU主体のようにも聴こえるし、でもメロディを聴くとエマ主導のようにも受け取れる。そういった意味では、真のコラボレーションが実現しているということでしょう。

全7曲でトータル36分、3〜5分台の曲が大半ですが、オープニングを飾る「Killing Floor」は約7分、ラストの「The Valley」は約9分といかにもスラッジ/ドゥームメタルバンドらしい尺。どの曲も重く遅くという王道のスタイルですが、逆にこのスローテンポがエマの歌/メロディを映させることにも成功しており、実は非常に計算して作られているのではないかという気がしてきます。

しかも、ただエマがメロウに歌っているだけではなくTHOUのフロントマン、ブライアン・ファンクもしっかりスクリームしまくっています。2人が交互に歌いスクリームすることもあれば、メロウなボーカルと金属的なスクリームが重なり合うこともあるのですが、そこでも決して両者の個性を打ち消すことはない。要は、それだけ2人の個が確立され、際立ったものだということがこの異色のハーモニーからも伝わるわけです。

アルバムラストを飾る「The Valley」なんてスラッジやドゥームの域を超えて、どこかオルタナフォークやトラッドミュージックのようにも響く仕上がりで、曲中にフィーチャーされたフィドルの音色も良い味を出しています。

 


▼EMMA RUTH RUNDLE & THOU『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』
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本作から数ヶ月遅れて、同セッションで生まれながらもアルバムから漏れた4曲をまとめたEP『THE HELM OF SORROW』も2021年1月15日にリリースされています。こちらは日本未発売。

こちらは『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』と比べると、若干エマのカラーが強い印象を受けるかな。冒頭を飾る「Orphan Limbs」の序盤でみせるポストロック感はまさにそういう雰囲気ですが、曲が進むにつれて不穏さがより強まり、終盤にエクストリームさが一気に増す構成は「ポストロック経由のエクストリームメタル」そのもの。続く「Crone Dance」や「Recurrence」は『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』の延長線上にあるカラーで、ラストの「Hollywood」はTHE CRANBERRIESのカバー。原曲の片鱗を残しつつもしっかりTHOUらしい味付けが施されており、かつエマのシンガーとしての個性もしっかり見つけられる良カバーではないでしょうか。

アルバムとしてのトータル性や完成度という点において、このEP収録曲を本編から分けたの納得いくところ。逆に、このEPは『MAY OUR CHAMBERS BE FULL』を心の底から楽しめたリスナーに向けた、2組からの“デザート”的なプレゼントなのかなと。アルバム単体としても成立するプロジェクトだけど、このEPを補足的に聴くことでよりディープに楽しめる。そんな連作のような気がします。

なにはともあれ、ラウド&エクストリームなサウンドが好きで、かつポストロック/オルタナティヴな女性SSWも好きというリスナーは絶対に聴いておくべき2作品です。

 


▼EMMA RUTH RUNDLE & THOU『THE HELM OF SORROW』
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2021年12月 2日 (木)

DAMON ALBARN『THE NEARER THE FOUNTAIN, MORE PURE THE STREAM FLOWS』(2021)

2021年11月12日にリリースされたデーモン・アルバーンの2ndソロアルバム(オペラ『DR DEE: AN ENGLISH OPERA』のサウンドトラックとして制作された2012年の『DR DEE』を含めれば3作目)。

BLURGORILLAZのフロントマンとして知られるデーモンですが、ソロ作としては『EVERYBODY ROBOTS』(2014年)以来7年半ぶり。バンド時代から長らく在籍したParlophone Recordsを離れ、新たにインディーズレーベルのTransgressive Recordsからの第1弾作品として制作されました。

もともと本作はアイスランドの風景にインスパイアされたオーケストラ作品として制作予定でしたが、昨年のロックダウンを受けて脆弱性、喪失、出現、再生のテーマをさらに探求する11のトラックへと各曲を展開。結果、「自らをストーリーテラーとする曲のパノラマコレクションを完成させた」(以上、プレスリリースより)とのことです。

それもあってか、全体を覆う空気は若干重苦しいものがあり、どことなくBLURの90年代後半〜2000年代のオルタナ路線にも通ずるものがあるのかなと。ただ、ここではもっと自由度の高い、ロックに限定されないピュアな音楽が展開されているようにも感じます。ベースとなる楽曲がもともとオーケストラを意識したものだったこともあり、その片鱗も随所から伝わりますしね。

デーモン自身、本作の制作に対して「このレコードを制作している時、僕は自分自身の暗い旅(dark journey)に出ていた。そして、穢れがない源(pure source)がまだ存在するかもしれない、と信じるようになった」と語っていますが、この発言がすべてではないでしょうか。闇の中にも一筋の光が見つけられ、荘厳な中にも柔らかさや軽やかさが感じられる。この緩急の付け方、相反する要素の結合こそがデーモンの持ち味であり、そういった意味では本作もこれまでのデーモンらしさに満ち溢れた1枚と判断することもできます。

ただ、先にも書いたように、本作を語る上で2020年からの世の中の出来事は避けては通れないものであり、その影響が質感や空気感に多少なりとも影響を与えている。その上で無理をするのではなく、今できることを自然体で示した結果が本作なんでしょうね。

BLURというホームを通じてアウトプットする機会を失った今、バンドの4分の1としてBLUR的なこと、BLURでやってもおかしくなかったことを交えながらソロ活動をすることは正解だと思います。もちろん、ソロはBLURではないので、本作を『THE MAGIC WHIP』(2015年)の続きとして受け取るのはちょっと違う。だけど、少なからずつながるポイントはいくつも見つけられる。そういう点ではGORILLAZ視点で語るよりも、むしろBLUR視点で進めるほうがエラーは少ないのかなという気がしています。

まあなんにせよ、後期BLURが好きな方、デーモンがこれまで着手してきたソロワークス/コラボレーションに多少なりとも興味がある方なら間違いなく引っかかる作品だと思います。『EVERYBODY ROBOTS』はもちろん好きだけど、今の自身の感性に引っかかるという点では、本作は非常にど真ん中の1枚です。

 


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2021年12月 1日 (水)

DAVE GAHAN & SOULSAVERS『INPOSTER』(2021)

2021年11月12日にリリースされたデイヴ・ガーンの4thソロアルバム。日本盤は同年11月24日発売。

ご存知DEPECHE MODEのフロントマン、デイヴ・ガーンは2003年のアルバム『PAPER MONSTERS』から不定期にソロ活動を始めましたが、2012年に発表されたSOULSAVERSのアルバム『THE LIGHT THE DEAD SEE』にリードボーカルで参加したのを機に、2015年の自身のアルバム『ANGELS & GHOSTS』よりDAVE GAHAN & SOULSAVERS名義でソロ作を発表。今作は同名義での2作目のアルバム(正確には『THE LIGHT THE DEAD SEE』を含め3作目)となります。

今作はオリジナル曲で構成されたものではなく、収録された全12曲すべてがカバー曲。内訳は以下のとおりです。

01. The Dark End Of The Street [ジェイムズ・カー]
02. Strange Religion [マーク・ラネガン]
03. Lilac Wine [アーサー・キット、ジェフ・バックリー]
04. I Held My Baby Last Night [エルモア・ジェイムズ]
05. A Man Needs A Maid [ニール・ヤング]
06. Metal Heart [キャット・パワー]
07. Shut Me Down [ローランド・S.ハワード]
08. Where My Love Lies Asleep [ジーン・クラーク]
09. Smile [チャーリー・チャップリン、ナット・キング・コール]
10. The Desperate Kingdom Of Love [PJハーヴェイ]
11. Not Dark Yet [ボブ・ディラン]
12. Always On My Mind [グウェン・マクレエ、エルヴィス・プレスリー]

古くは戦前の楽曲から、最近のものではマーク・ラネガン(2004年)やキャット・パワー(1998年)まで。ディランのこの曲も1997年のものなので、比較的最近っちゃあ最近か(それでも24年前ですが。笑)。スタンダード色の強い楽曲もあれば、元祖オルタナティヴなアーティストによるもの、さらには現代まで脈々と続く90年代オルタナティヴシーンに台頭した(デイヴにとっては)若手アーティストのものまで、広いような狭いようなジャンルからセレクトされています。

これらが、前作『ANGELS & GHOSTS』でも楽しめたゴスペル色豊かなアレンジで楽しめるわけです。これはもともとSOULSAVERSの持ち味のひとつなわけですが、このオルタナ・ゴスペルやオルタナ・ブルースチックなテイストでまとめられると、不思議と90年代前半のDEPECHE MODE、特に『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)期の空気感とも重なるものがあり、デイヴの声と見事に合っていることに気付かされるわけです。

ただ、あの頃のような悲壮感や閉塞感は皆無で、ここでは大人の余裕すら感じられる。マジで死の淵のギリギリなラインを辿ってきた人間が表現できる悲壮感も見え隠れするんだけど、そっち側に引っ張られてしまうことはなく、むしろその経験を持ち味のひとつとしてここで生かしているように映る。カッコいいったらありゃしない。

どの曲もクワイアがフィーチャーされており、音数の少ないシンプルなアレンジに見事フィットしている。穏やかなアレンジが中心の中、豪快なブルースロックぶりを発揮し、それにあわせてデイヴのボーカルも冴え渡る「I Held My Baby Last Night」は圧巻の一言。かと思えば、「Smile」のようなスタンダードナンバーも余裕に歌いこなしてみせる。で、そのあとにオルタナテイストのソウルバラード「The Desperate Kingdom Of Love」へと流れ、最後の最後にプレスリーの歌唱で知られる「Always On My Mind」でピースフルに締め括る。お見事な選曲/構成です。

伝統的だけどモダンさも伝わるエレクトロニックミュージックを追求し続けるDEPECHE MODEとは異なり、自身の波瀾万丈な人生のサウンドトラックのような作品を作り続けるのが、もしかしたらデイヴにおけるソロワークの意味なのかな。そんなことを強く感じさせる、名カバーアルバムではないでしょうか。

 


▼DAVE GAHAN & SOULSAVERS『INPOSTER』
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