STEVE VAI『INVIOLATE』(2022)
2022年1月28日にリリースされたスティーヴ・ヴァイの10thアルバム(1998年の『FLEX-ABLE LEFTOVERS』、2016年の『MODERN PRIMITIVE』含む)。日本盤は海外に先駆け、同年1月26日発売。
『PASSION AND WARFARE』(1990年)の25周年記念盤に同梱される形で発表された前作『MODERN PRIMITIVE』は、『PASSION AND WARFARE』制作当時から書き溜めていたアイディアを正式に形にすべく新たにレコーディングした新作音源集だったので、純然たる完全書き下ろしの新作となると『THE STORY OF LIGHT』(2012年)以来実に9年7ヶ月ぶり。ずいぶん空いたように映りますが、ヴァイはその間もライブアルバム&映像作品『STILLNESS IN MOTION: VAI LIVE IN L.A.』(2015年)や、トーシン・アバシ(ANIMALS AS LEADERS)、ヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)、ザック・ワイルド(BLACK LABEL SOCIETY、OZZY OSBOURNE)、イングヴェイ・マルムスティーンによるGENERATION AXEのライブアルバム『THE GUITARS THAT DESTROYED THE WORLD: LIVE IN CHINA』(2019年)などで忙しくしていたので、正直10年も経ったという感覚はゼロなんですよね。
特に近年は肩の手術やばね指発症による手術など、心配になる情報も多々ありましたが、そんな中でもサポーターを装着した状態で左手のフィンガリングのみでプレイする「Knappsack」(本作にも収録)の動画を公開し、その奇才ぶり健在をアピール。そんなこんなでようやく届けられたのが本作なわけです。
そもそもは「クリーントーンのギターによる作品」「通常の歪ませたギターによる作品」「8弦ギターを使ったヘヴィな作品」の3作品の制作を想定していたそうですが、コロナによるロックダウンを受け複数のミュージシャンでスタジオに集まることが困難になり頓挫。まずは「Candlepower」(2020年配信リリース)から取り掛かり、その後はボーカルアルバムを想定していたようですが、上記のように幾多のトラブルが発生し、紆余曲折を経て当初の3作品をひとつにまとめたような内容に仕上がったとのこと。ボーカルアルバムはまたこの次に……ということで、まずは今年予定されているツアーを想定したドライブ感があり、かつプログレッシヴで、ヴァイらしいサイケデリック感も強い1枚に仕上がりました。
レコーディングは曲ごとに異なるバンド編成で実施されており、そのメンツもベースはブライアン・ベラーやヘンリック・リンダー(DIRTY LOOPS)、ビリー・シーン(SONS OF APOLLO、MR. BIGなど)、フィリップ・バイノー、ドラムはジェレミー・コルソン、テリー・ボジオ、ヴィニー・カリウタと名手ばかり。中でもテリー・ボジオとはVAI名義での『SEX & RELIGION』(1993年)以来の共演実現とって、非常にワクワクするものがあります。
オープニングを飾る「Teeth Of The Hydra」は、アルバムジャケットでヴァイが手にするトリプルネックの最新アックス“The Hydra”を用いた、まさにこのアルバムを象徴するような1曲。このThe Hydraは「7弦と12弦ギター、4弦3/4スケールのベース、13弦のハープ弦、シングルコイル、ハムバッキング、ピエゾ、MIDI、サスティナー・ピックアップ、フローティングおよびハードテイルのトレモロ・ブリッジ、フェイズ・スプリッターなど」を備えた想像を絶する1本(1本?)で、これひとつで1曲の中で非常に多彩なサウンドを響かせています。ホント、これを披露したいがために作ったアルバムなんでしょうね(笑)。
以降は、これまでのヴァイらしさを凝縮した多彩なナンバーがずらりと並びます。オリジナルバージョンは打ち込みだったところを新たにヘンリック・リンダー&テリー・ボジオのリズム隊で再録音した「Candlepower」や、気心知れたビリー・シーンとのハードドライヴィングナンバー「Avalancha」、ヴァイらしい味付けでブルースが展開される「Greenish Blues」、ムーディーなスローバラード「Sandman Cloud Mist」など、この手のギターインストアルバムがそこまで得意ではない筆者にしては最後までスルスル聴き進められ、バラエティ豊かな良作ではないでしょうか。
ヴァイのギタープレイは感情を揺さぶったりエモさを味わったりというタイプではなく、どちらかといえばそのテクニックを楽しむタイプの人なのかなと。その一方で、ソングライティングに関してはしっかりしている人でもあるので、毎回肩肘張らずに楽しむことができる。そういった意味では、今回も我々の期待を裏切らない1枚です。
▼STEVE VAI『INVIOLATE』
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