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2022年2月24日 (木)

BRUCE SPRINGSTEEN & THE E STREET BAND『LIVE/1975-85』(1986)

1986年11月10日にリリースされたブルース・スプリングスティーンのライブアルバム。日本盤は同年11月9日発売。

本作はメガヒット作『BORN IN THE U.S.A.』(1984年)に続いて制作されたアナログ5枚組/CD 3枚組という破格のボリュームのボックスセット形式のライブ・コンピレーション作品。そんな高額商品にも関わらず全米1位を獲得し、アメリカのみで現在までに400万セットを売り上げるという記録を樹立しています。また、本作からは「War」(全米8位、全英18位)、「Fire」(全米46位、全英54位)、「Born To Run」(全英16位)という、ライブ音源ながらヒットシングルも複数生まれました。

そのタイトルからも想像できるように、本作には1975年から1985年までに実施された、スプリングスティーンと彼のバンド・THE E STREET BANDとのライブ/ツアーから厳選された40曲をコンパイル。その中でも中心となっているのが1978年7月のRoxy Theater公演(8曲)と、『BORN IN THE U.S.A.』を携えた1984〜85年のアリーナ/スタジアムツアー(9曲)でしょうか。逆に、タイトルに銘打った1975年の音源はオープニングの「Thunder Road」1曲にとどまっています。

リリース当時のスプリングスティーンのライブは3時間超えは当たり前という時期。これは単に曲数を多く披露するのではなく、ライブならではのアレンジで1曲が10分前後にも及ぶことが多いという、ライブバンドならではの醍醐味を体現した結果でした。なので、本作からもそういった要素の片鱗は随所から感じ取ることができます。

基本的には年代順に音源が並んでいるのですが、最初はクラブ/ホールクラスから始まるので歓声もその程度のもの。しかし、アナログ盤のディスク2 B面(CDだとディスク1の12曲目)「Hungry Heart」からその感性の大きさが急変する。クレジットを見ると、ちょうどアルバム『THE RIVER』(1980年)で初の全米1位を獲得し、ツアーもアリーナクラスに移行したタイミングと重なります。そういったスプリングスティーンの成功の過程を、ライブパフォーマンスの充実度だけではなく、その周辺の環境からも感じ取れるのが本作の興味深いポイントではないでしょうか。

スプリングスティーン入門編としてはちょっと敷居が高い作品かもしれませんが、ベストアルバムや代表作をひととおり聴いたあとに彼のライブの凄みに触れてみたい方にはうってつけの作品集です。極上のロックンロールはもちろん、メッセージ性の強いシリアスなナンバー、意外なカバー曲などバラエティに富んだ選曲を、全盛期のライブを追体験する感覚でお楽しみください。

さて、ここからは余談。

DVD/Blu-rayがCDとほぼ変わらぬ価格帯で入手できること、またYouTubeなど動画サイトの普及や、スマホでライブ映像を手軽に撮影した映像をSNSなどで公開することが増えた結果、今ではライブ作品=映像作品が当たり前。しかし、1986年当時はVHSなどのビデオソフトは軽く1万円を超える高額商品で、まだまだライブアルバムの需要は高かった。しかし、アナログ盤からCDへと移行するタイミングということもあり、ライブアルバム自体も40〜50分程度のシングルディスクものか100分前後の2枚組がメイン。ライブの全貌を音源で公開するというよりは、ひとつのライブ/ツアーから厳選された10曲前後でひとつの作品を制作したのがライブアルバム、という認識だったと思います。

そんな中、ライブアルバムの概念をぶち壊してくれたのがこのアナログ5枚組作品。ボックスセットという概念すらなかった時代ですから、「アナログ5枚組なんてアリなんだ!」と中学生の自分は非常に驚きました。もちろん、中学生の小遣いでは手が出ない作品だったので、せいぜいレンタル店で借りるのが関の山。しかし、レンタル代も通常のアナログ盤/CDの数倍かかり、かつそれをダビングするカセットテープ代も5倍ですからね(苦笑)。

なもんですから、本作に初めて触れたのはもっと大人になってから。20代後半にCD 3枚組を中古で購入したのが最初だったかな。でもね、アナログ5枚分を無理矢理CD 3枚に詰め込んだもんだから、意図しないところで曲が切れたりしているんですよね。そういった意味では、アナログ5枚組(のちに日本のみで、CD 5枚組も限定発売されましたが)で楽しむべき内容かもしれません。

もうひとつ余談。

今日このタイミングに本作を取り上げたのは、ご時世柄「War」というカバーを聴きたくなったから。さまざまなアーティストによって取り上げられてきたこの曲、日本では「黒い戦争」の邦題で知られ、特にエドウィン・スターのバージョン(1970年)が有名ではないでしょうか(ほかにもFRANKIE GOES TO HOLLYWOODもカバーしていたので、スプリンスティーンの前に彼らのカバーで知っていたという方も、当時は少なくなかったのでは)。

スプリングスティーンがこの曲をシングルカットした際、ライブ映像をもとにしたMVも制作されているのですが、ここではCD音源同様に曲に入るまえのMCも含めた形となっており、実はこのMCが非常に重要だったりします。もし英語に堪能な方でしたら、ここまで含めじっくり理解していただきたいですし、MVも冒頭とエンディングに重い意味が込められているので、そちらにも注目してみてください。

 


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