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2022年3月

2022年3月31日 (木)

2022年2月のアクセスランキング

2021年総括はこちらから

ここでは2022年2月1日から2月28日までの各エントリーへのアクセスから、TOP30エントリーを紹介します。内訳は、トップページやアーティスト別カテゴリーへのアクセスなどを省いた上位30記事。まだ読んでいない記事などありましたら、この機会に読んでいただけたらと。

ちなみに記事タイトルの後ろにある「(※XXXX年XX月XX日公開/↑●位)」の表記は、「更新日/2022年11月のアクセスランキング順位」を表しています。

 

1位:THE WiLDHEARTS『PHUQ (DELUXE)』(2022)(※2022年2月14日公開/NEW!)

2位:KORN『REQUIEM』(2022)(※2022年2月5日公開/NEW!)

3位:SLASH FEATURING MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS『4』(2022)(※2022年2月12日公開/NEW!)

4位:EDDIE VEDDER『EARTHLING』(2022)(※2022年2月13日公開/NEW!)

5位:VOIVOD『SYNCHRO ANARCHY』(2022)(※2022年2月19日公開/NEW!)

6位:RED HOT CHILI PEPPERS『BY THE WAY』(2002)(※2022年2月20日公開/NEW!)

7位:RED HOT CHILI PEPPERS『STADIUM ARCADIUM』(2006)(※2022年2月21日公開/NEW!)

8位:ZEAL & ARDOR『ZEAL & ARDOR』(2022)(※2022年2月15日公開/NEW!)

9位:PAUL DRAPER『CULT LEADER TACTICS』(2022)(※2022年2月27日公開/NEW!)

10位:KISSIN' DYNAMITE『NOT THE END OF THE ROAD』(2022)(※2022年2月7日公開/NEW!)

 

11位:NIGHT RANGER『MIDNIGHT MADNESS』(1983)(※2022年2月8日公開/NEW!)

12位:OZZY OSBOURNE『SPEAK OF THE DEVIL』(1982)(※2022年2月11日公開/NEW!)

13位:VENOM PRISON『EREBOS』(2022)(※2022年2月6日公開/NEW!)

14位:AMORPHIS『HALO』(2022)(※2022年2月18日公開/NEW!)

15位:ACCEPT『STALINGRAD』(2012)(※2022年2月9日公開/NEW!)

16位:JOURNEY『ESCAPE』(1981)(※2022年2月3日公開/NEW!)

17位:BLACK SABBATH『LIVE EVIL』(1982)(※2022年2月11日公開/NEW!)

18位:FOREIGNER『4』(1981)(※2022年2月2日公開/NEW!)

19位:NAILBOMB『POINT BLANK』(1994)(※2018年5月12日公開/↓7位)

20位:CONVERGE『JANE DOE』(2001)(※2022年2月16日公開/NEW!)

 

21位:DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: THE MAJESTY DEMOS (1985-1986)』(2022)(※2022年2月10日公開/NEW!)

22位:BRYAN ADAMS『CUTS LIKE A KNIFE』(1983)(※2022年2月1日公開/NEW!)

23位:SURVIVOR『EYE OF THE TIGER』(1982)(※2022年2月4日公開/NEW!)

24位:KISS THE FAREWELL TOUR JAPAN 2001@東京ドーム(2001年3月13日)(※2001年3月25日公開/Re)

25位:BLOODYWOOD『RAKSHAK』(2022)(※2022年2月22日公開/NEW!)

26位:ANDY BELL『FLICKER』(2022)(※2022年2月26日公開/NEW!)

27位:GLASS TIGER『THE THIN RED LINE』(1986)(※2022年2月1日公開/NEW!)

28位:SLY『SLY』(1994)(※2020年6月11日公開/Re)

29位:THE BEATLES『THE BEATLES: GET BACK - THE ROOFTOP PERFORMANCE』(2022)(※2022年1月31日公開/NEW!)

30位:THE SMITHS『STRANGEWAYS, HERE WE COME』(1987)(※2022年2月25日公開/NEW!)

2022年3月のお仕事

2022年3月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※3月30日更新)

 

[紙] 3月30日発売「VB (VOICE BRODY)」vol.11にて、新作テレビアニメ「カッコウの許嫁」鬼頭明里×赤城博昭総監督対談、をテレビアニメ「カッコウの許嫁」1羽目レビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 3月29日、「リアルサウンド」にてライブレポート乃木坂46 佐藤楓が座長務めたアンダーライブはターニングポイントに 役割を意識することで生まれた飛躍の瞬間が公開されました。

[WEB] 3月26日、「リアルサウンド」にてライブレポート乃木坂46 北野日奈子は“努力・感謝・笑顔”を体現してきたメンバーだったーーアンダーの歴史も伝えた卒業公演を観てが公開されました。

[紙] 3月26日発売「CONTINUE」Vol.76にて、「MACROSS 7 BASARA EXPLOSION 2022 from FIRE BOMBER」(2022年1月28日)レポートを担当しました。(Amazon

[WEB] 3月23日、「リアルサウンド」にてインタビュー八木沼悟志×南條愛乃による“第2期fripSide”ラストインタビュー 活動13年の集大成と前向きな別れの先にある道が公開されました。

[WEB] 3月23日、「リアルサウンド」にてインタビュー乃木坂46 鈴木絢音&岩本蓮加、11年目の幕開けとなる新たなチャレンジ 出会いと別れの中で変化していく大切さが公開されました。

[WEB] 3月17日、「Billboard JAPAN」にてインタビューmzsrz、1stアルバム『現在地未定』で魅せる“多様声”と“憑依声”が公開されました。

[WEB] 3月16日、「リアルサウンド」にてインタビューBlooDye、4人で歩んできた濃密で特別な時間 現体制ラストライブに向けて、1stアルバムに込めた集大成を語るが公開されました。

[WEB] 3月4日、「Billboard JAPAN」にてインタビュー神はサイコロを振らない バンドの縮図となるアルバム『事象の地平線』で受け取ってほしいものが公開されました。

[紙] 3月4日発売「日経エンタテインメント!」2022年4月号にて、櫻坂46菅井友香の連載「いつも凛々しく力強く」および日向坂46渡邉美穂の連載「今日も笑顔で全力疾走」の各構成を担当しました。(Amazon

[WEB] 3月2日、「リアルサウンド」にてインタビューLittle Glee Monster MAYU&manakaが考える、新曲「Your Name」の新鮮さ 「3月9日」カバー、今後の活動への決意もが公開されました。

[紙] 3月2日発売「My Girl -EJ My Girl Festival 2022 Special Edition-」にて、伊藤美来×南條愛乃、工藤晴香×富田美憂の各対談を担当・執筆しました。(Amazon

[WEB] 3月2日、「音楽ナタリー」にてインタビュー竹内アンナ「TICKETS」リリース記念、フィロソフィーのダンス・佐藤まりあと仲良しトークが公開されました。

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2022年2月に当サイトで紹介したアルバムから各1〜2曲程度ピックアップしたプレイリストをSpotifyにて制作・公開しました。題して『TMQ-WEB Radio 2202号』。レビューを読む際のBGMにするもよし、何も考えずにダダ流しするもよし。おヒマなときに聴いていただけると嬉しいです。

FEEDER『TORPEDO』(2022)

2022年3月18日にリリースされたFEEDERの11thアルバム。

『TALLULAH』(2019年)から約2年7ヶ月ぶりのオリジナルアルバム。前作は全英チャート最高4位と、6thアルバム『SILENT CRY』(2008年)以来(8位)のトップ10入り、大ヒット作の5thアルバム『PUSHING THE SENSES』(2005年)以来(2位)のトップ5入りと大きな成功を収めました。

この結果を受けて、グラント・ニコラス(Vo. G)とタカ・ヒロセ(B)は早くも次作の制作に突入。その作業は2020年初頭まで続き、大まかなミックス作業まで完了しました。しかし、ロックダウン下におけるこれらパンデミック前に書き下ろされた楽曲はどこかリアルに響かず、結局多くの楽曲をボツにして、2020年以降の生活がリアルに反映されたダーク&ヘヴィな楽曲を新たに書き下ろすことになります。

当初は従来のFEEDERらしく、キャッチーでアンセミックな楽曲が多数含まれていたそうです(おそらく、新たに完成した本作における「When It All Breaks Down」や「The Healing」タイプに近いのかな?)。そういった王道ナンバーをあえて外してでも入れたかった楽曲……それがおそらくタイトルトラック「Torpedo」や「Magpie」のようにヘヴィなギターリフ&地を這うような重々しいリズムを持つ楽曲群だったのでしょう。もちろん、こういったタイプのサウンドは彼らが初期から持ち合わせていた要素のひとつであり、突然変異でも何でもありません。ある意味ではコロナ禍での生活が、バンドを覆うムードを一周させたのかもしれません。

また、ある意味では前作『TALLULAH』が原点回帰ともいえる、広い意味での“FEEDERらしさ”を取り戻したアルバムだとしたら、そこで得た手応えがさらにバンドをピュアな方向に導いた。しかも、パンデミックという困難な状況が引き金となって……。

もちろん、全編ダーク&ヘヴィというわけではありません。アルバム冒頭を飾る「The Healing」の“これぞFEEDER”といえる壮大なノリは、バンドの人気をピークにまで引き上げた4thアルバム『COMFORT IN SOUND』(2002年)や続く『PUSHING THE SENSES』の時期を彷彿とさせるものがあります。しかし、曲が中盤に進むと突然ダーク&ヘヴィなアレンジに突入する。終盤で再び冒頭の大らかなノリへと回帰しますが、このアレンジも2020年以降の生活を通過したからこそと言えるかもしれません。

もちろん「Torpedo」「Magpie」を筆頭に、「Decompress」「Slow Strings」のようにダークさの漂う楽曲も多いですが、中には「Hide And Seek」「Wall Of Silence」「Born To Love You」など暗雲立ち込める中でも光を見出そうとするような楽曲も含まれている。これらの楽曲からは「今の世界の状態をそのまま反映したような暗い作品にはしたくなかった。もちろん僕も人間だから、曲を制作するうえで周囲の状況には少なからず影響される。それでもこの作品がみんなの心に届いて、歌詞に共感してもらえたら嬉しい。きっと困難を乗り越える手助けになれると思う」というグラントのコメントどおり、閉鎖的状況をどうにか抜け出そうとする強い意志も伝わり、結局ただ混沌とした日常を額面どおりに綴ったわけではなく、その根底にはしっかりと「生き抜こう」というポジティブさが備わっている。だからこそ、重苦しさが全体を覆う本作を聴き終えても気持ちが滅入ることなく、次のアクションへとつながる“きっかけ”を与えてもらえたような前向きを覚えるんです。

ある意味では逆説的な手法かもしれませんが、それも軸に何事にも折れないポジティブさ備わっているからできること。だって、このバンドがどれだけ大変な状況を生き抜いてきたのか……知っていますよね? そんなFEEDERからの、パンデミック下をサバイブしたリスナーへの「生存確認の共有」と、次世代へ向けた新たな第一歩がこのアルバムではないでしょうか。

前作も大好きだったけど、今作はそれ以上にお気に入りであり、彼らのキャリア中3本指に入るような会心の1枚だと断言します。

 


▼FEEDER『TORPEDO』
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2022年3月30日 (水)

RED HOT CHILI PEPPERS『THE GETAWAY』(2016)

2016年6月17日にリリースされたRED HOT CHILI PEPPERSの11thアルバム。

ジョシュ・クリングホッファー(G)を新たに迎えて制作した前作『I'M WITH YOU』(2011年)から約4年10ヶ月ぶりの新作。『BLOOD SUGAR SEX MAGIK』(1991年)以降20年以上にわたりタッグを組んできたリック・ルービンのもとを離れ、新たにデンジャー・マウス(ベックGORILLAZ、THE BLACK KEYSなど)をプロデューサーに、ナイジェル・ゴドリッチ(RADIOHEADR.E.M.U2など)をミキサーに迎えて制作した、真の意味での“第3章の幕開け”を宣言する1枚です。

フリー(B)&チャド・スミス(Dr)のリズム隊を強調したミックスは前作から引き続きですが、前作では調和を取ることに徹したジョシュのギターが随所で主張し始めているのも今作の特徴。かつ、デンジャー・マウス自身もソングライティングやサウンドメイキングに加わることで、90年代以降の楽曲至上主義を引き継ぎつつもサウンド面での進化が感じられる、カラフルな内容に仕上がっています。

それは冒頭の「The Getaway」や続くリードシングル「Dark Necessities」、MVも印象的だった「Go Robot」などからも存分に感じられるはず。ただ、前作では若々しさが多少復調した感があったものの、今作では再び地味かつ落ち着いた作風へと回帰し、アルバム全体を年相応の穏やかさで覆っている。アンソニー・キーディス(Vo)のボーカルも比較的抑揚を抑えた歌い方で、伝説的なバンドの新作ながらも若いリスナーにはちょっと刺激が足りないかもしれませんね。

とはいえ、楽曲自体の完成度はどれも水準以上で、先にも記したようにサウンドメイキングでの遊びが随所に散りばめられていることから、全13曲/54分という程よいトータルランニングを飽きずに楽しむことができるはず。聴き込めば聴き込むほどに濃度の高さが伝わる、入り口は狭いけど奥行きは無限大なスルメアルバムではないでしょうか。

また、先の楽曲至上主義の延長でしょうか、本作では「Sick Love」でエルトン・ジョン&バーニー・トーピンがソングライティングに参加。エルトンは同曲でピアノも披露しています。この曲も地味なテイストですが、聴けば聴くほどクセになる1曲で、ジョシュの泣きまくりなギターソロも好み。何気にリリース当時よりも今のほうがお気に入りだったりします。

若い頃のアルバムは即効性の強い“スーパーストロング”のような作品でしたが、本作は香りや風味を楽しみつつチビチビ味わう極上の日本酒みたいな内容ではないかなと。何気に前作以上に大好きな1枚です。と同時に、ここからさらにバンドとして進化していくのかな、第3章は期待できるかも……と思っていたら、この実験作で短命に終わるとは(苦笑)。

 


▼RED HOT CHILI PEPPERS『THE GETAWAY』
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2022年3月29日 (火)

JEFF BUCKLEY『GRACE』(1994)

1994年8月23日にリリースされた、ジェフ・バックリィ生前唯一のスタジオアルバム。日本盤は同年9月8日発売。

1960年代に活躍したSSW・ティム・バックリィの実子として知られるジェフですが、早世だった父親ティム(享年28歳)と同じくジェフ自身も1997年5月29日に30歳の若さで急逝。1993年11月にライブEP『LIVE AT SIN-É』でメジャーデビューしてから、4年経たずしてこの世を去っています。

もちろんリリース当時からそこそこ高い評価を獲得していたこの『GRACE』ですが、やはり1997年の逝去後以降その評価は異常に高まり、現在まで名盤として広く知られることになります。実際、本作リリース時はBillboard 200でも最高149位と低調に終わり、売り上げも50万枚に満たなかった。しかし、その後の評価向上により現在は100万枚を超えるセールスにまで達しています。また、2004年には未発表だったデモ音源などを追加したCD2枚組の“Legacy Edition”も発売。2007年にはなぜかオーストラリアなどでチャート急上昇し、イギリスではシングル「Hallelujah」が最高2位を記録し、アメリカでも同曲がDigital Songランキングで1位という快挙を成し遂げました。

名手アンディ・ウォレス(NIRVANASLAYERブルース・スプリングスティーンなど)がプロデュース&ミックスを担当したそのサウンドは、オルタナ/グランジを通過した非常に90年代的な質感。ギターを軸にしたシンプルでモノトーン調のバンドアンサンブルも当時の空気感が反映されたもので、ジェフの歌声が変幻自在でカラフルなものだけに、程よいバランスで対比が成立しています。

タイトルトラック「Grace」や「Last Goodbye」「Eternal Life」などを聴くと、PEARL JAMや“90年代以降”のRED HOT CHILI PEPPERSを筆頭とした土着的なUSオルタナティヴロックとの共通点がたくさん見つけられるし、ジェフのボーカルも曲に合わせてパワフルさやエモーショナルさが増している。かと思えば、「Lilac Wine」やレオナード・コーエンの名曲をカバーした「Hallelujah」などのスローナンバーでは、ファルセットを多用した繊細な歌声を響かせる。このストレートに訴えかける彼のボーカルこそ本作最大の聴きどころであり、リリースから25年以上経った今も変わらず愛聴しているのもその功績が大きいのではないでしょうか。

もちろん、楽曲の良さは大前提ですし、演奏の素晴らしさもまた然り。こういったお膳立てがすべて完璧に揃っているからこそ、ジェフがのびのびと歌うことができた。まあ、最終的にはすべてのピースがかっちりと噛み合っているからこその名盤なのかな。序盤のムーディな空気感から徐々に熱量が高まっていき、「Dream Brother」でクライマックスを迎え、彼の死後に再発された際に追加された「Forget Her」でエンドロールが流れる。そんな一編の短編映画を音で楽しむような、そんなストーリー性を強く感じさせる1枚だと思います。

個人的には「Dream Brother」で締めくくる構成に慣れていましたが、現行のストリーミングなどで聴ける「Forget Her」終わりも悪くないな……最近はそう思えています。また、「Forget Her」で終わることで長く愛聴してきたアルバムに新たな光を与え、再び新鮮に楽しむこともできている。個人的には全然アリなボートラでした。

 


▼JEFF BUCKLEY『GRACE』
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2022年3月28日 (月)

MATT BELLAMY『CRYOSLEEP』(2021)

2021年7月16日にリリースされたマシュー・ベラミーのコンピレーションアルバム。日本盤未発売。

MUSEのフロントマン、マシュー・ベラミー(Vo, G)が2019〜21年にデジタルリリースしたソロ(マット・ベラミー)名義による楽曲、およびグレアム・コクソン(BLUR)やマイルズ・ケイン(THE LAST SHADOW PUPPETS)らと結成したTHE JADED HEARTS CLUBの楽曲など、マシューがMUSE以外で歌唱した楽曲/インスト曲を集めた作品集。2021年夏の「Record Store Day」目玉企画として、アナログ盤限定でリリースされ、これにあわせてデジタル/ストリーミングでも発表されました。

純粋なソロアルバムとして制作された内容ではないので、あえてコンピレーションアルバムと呼ぶことにしますが、その内容は非常に“パーソナル”な仕上がりで、もしかしたらいずれこういう作風のソロ作品を作っていたとしても不思議じゃないのかもしれません。その“パーソナル”というのは、音数の少ない内省的な作風といいましょうか、マシューの“静”の側面に特化したテイストで統一されています。

MUSEの「Unintended」(1stアルバム『SHOWBIZ』(1999年)収録曲)や「Take A Bow」(4thアルバム『BLACK HOLES AND REVELATIONS』(2006年)収録曲)のピアノ弾き語りを中心としたアコースティックバージョンは、このアルバムならではの作風。特に後者の“Four Hands Piano”バージョンは2つのピアノ演奏を重ねた、本作の中でも非常に華やかさを放つ仕上がりです。

また、「Guiding Light (On Jeff's Guitar)」は5thアルバム『THE RESISTANCE』(2009年)収録曲「Guiding Light」に、マシューが購入した「かつてジェフ・バックリーが名作『GRACE』(1994年)を録音する際に使用したテレキャスター」を使ってリレコーディングした未発表バージョン。あえてなのか、ここでのギタープレイやアレンジがどことなく『GRACE』収録曲の「Hallelujah」を彷彿とさせるものがあります。これはナイス再録ではないでしょうか。

このほか、サイモン&ガーファンクル「Bridge Over Troubled Water」のカバーでは、彼にしては至極シンプルな仕上がりですし(本作的なアレンジとも言えますが)、エレクトロニクスのテイストが強い「Behold, The Glove」「Simulation Theory Theme」は70年代のSF映画を思わせる作風でいかにも彼らしい(この2曲は同タイトルのMUSE 8thアルバム『SIMULATION THEORY』(2018年)のフィルム作品で使用されたもの。作風としては同作の延長線上と言えるのかな)。THE JADED HEARTS CLUBとしてエルヴィス・プレスリーの「Fever」をカバーしたこのテイクも、自然と本作のテイストに馴染んでいるし、最後に再び「Unintended」の“Piano Lullaby”と題したインストバージョンで締めくくるのも、このアルバムのカラーにぴったり。既存曲/未発表バージョンで構成されたコンピ盤とはいえ、最初から最後まで統一感が強いのはマシュー・ベラミーならではといったところでしょうか。

2022年8月26日には約4年ぶりとなるMUSEのニューアルバム『WILL OF THE PEOPLE』のリリースも決定し、すでに「Won't Stand Down」や「Compliance」といった新曲も先行配信されています。まだ5ヶ月も先のことなので、きっとその間にもあと数曲はアルバムから新曲が公開されるかと思いますが、その前にMUSEの過去作に加えこのソロ作品もきっちりフォローして、来たる新作に備えてみてはどうでしょう。

 


▼MATT BELLAMY『CRYOSLEEP』
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2022年3月27日 (日)

RED HOT CHILI PEPPERS『I'M WITH YOU』(2011)

2011年8月26日にヨーロッパ、同年8月29日に北米でリリースされたRED HOT CHILI PEPPERSの10thアルバム。日本盤は同年8月31日発売。

初のCD2枚組オリジナルアルバム『STADIUM ARCADIUM』(2006年)で念願の全米1位を獲得し、ジョン・フルシアンテ(G)再加入後のピークを迎えたレッチリ。日本でも東京ドーム2DAYS&京セラドーム大阪公演(2007年6月)が実現するなど、名実ともに最高潮といっていい時期だったのではないでしょうか。しかし、同作ですべてやり切ったと感じたジョンが2009年にバンドを再脱退。バンドは2007年から活動休止期間に入っていたこともありましたが、次のアクションに向けて新たなギタリストを探すことになります。

1回目の脱退後にはデイヴ・ナヴァロ(JANE'S ADDICTION)の加入が話題となりましたが、今回は2007年の『STADIUM ARCADIUM』ツアーにサポートミュージシャンとして参加していたジョシュ・クリングホッファーが正式加入。バンドとの関係値もすでにあり、かつジョンとも課外活動での共演経験があるだけに、この人選は非常に納得がいくものがありました。

2010年秋から本格的にアルバム制作に突入したジョシュを含む新編成レッチリは、20年来の盟友であるリック・ルービン(SLAYERBEASTIE BOYSWEEZERなど)を迎え約半年でアルバムを完成。全14曲/約59分という近年の彼ららしい長尺の作品に仕上がりました。

グレッグ・カースティン(Piano/THE BIRD AND THE BEE)やマニー・マーク(Organ)、マウロ・レファスコ(Per)、レニー・カストロ(Per)などゲストプレイヤーも多数参加した本作。地味な作風ながらも『CALIFORNICATION』(1999年)以降の方向性を突き詰めた前作から一歩前進し、“楽曲至上主義”はそのままながらもかつてのエネルギッシュさや躍動感を取り戻したサウンドを楽しめる、良質な1枚です。

オープニングを飾る「Monarchy Of Roses」冒頭の、チャド・スミス(Dr)の激しいドラミングやギターのフィードバック音からは、ここから新たな物語が始まるワクワク感が伝わりますし、そこから突き抜けるような強いリズム、親しみやすいアンソニー・キーディス(Vo)歌メロなど、当時の彼らに求める要素がしっかり備わっているように感じます。続く「Factory Of Faith」も同様の流れを汲む作風で、大半の楽曲にパーカッショニストをフィーチャーしていること、アンドリュー・シェップス&グレッグ・フィデルマンのミックスによるものが大きいのかフリー(B)のベースがやや強調された音作りが施されていることに、過去数作のテイストとの違いを実感させられます。

ジョシュのギターは前に出過ぎることなく、かといって存在感を消すこともなくという適材適所感が強いもので、楽曲至上主義のこの路線にはぴったりかな。ただ、次世代ギターヒーロー感の強かったジョンと比較してしまうと、どうしても物足りなさを覚えてしまうのもまた事実。個人的にこれ!というギターリフや胸に刺さるギターソロが皆無なのは、従来のファンからすると残念ポイントかもしれません(そのぶん、久しぶりにベースがぐいぐい入り込んでくる作りですが)。しかし、メンバーチェンジを機に新しい方向にシフトしようとしている過渡期と捉えると、多少はポジティブに感じられるかな。

大半の楽曲を書き下ろしてきたジョンの不在により、バンド4人が膝を突き合わせて制作した本作。平均点は軽く超えているものの、傑作とまでは言えない。「Look Around」や「Goodbye Hooray」「Even You Brutus?」「Dance, Dance, Dance」など中盤〜後半も個人的にグッとくる曲は少なくありませんが、ちょっと上品すぎやしないかい?と思えてしまうのもまた事実。“破綻”した部分が一欠片でも見つけられたら、きっとガッツポーズしていたんだろうな。痒いところに手は届くものの、完食後に「あれっ?」と若干の物足りなさに気づいてしまう、そんな「傑作まであと一歩」な1枚。

 


▼RED HOT CHILI PEPPERS『I'M WITH YOU』
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2022年3月26日 (土)

KEITH RICHARDS『MAIN OFFENDER (DELUXE EDITION)』(2022)

2022年3月18日にリリースされた、キース・リチャーズの2ndソロアルバム『MAIN OFFENDER』のリマスター&デラックス・エディション。日本盤未発売。

『MAIN OFFENDER』のオリジナル盤は1992年10月に発売された、『TALK IS CHEAP』(1988年)から4年ぶりのソロアルバム。ミック・ジャガーがソロに熱心で、なかなかTHE ROLLING STONESを動かそうとしないことに痺れを切らしたキースが、当初制作するつもりではなかったソロアルバムに着手した、というのが前作の制作過程でしたが、この2作目は『STEEL WHEELS』(1989年)でストーンズが本格的復活、かつ長期にわたるワールドツアーを大成功させたあとのブレイクタイミングに作られたもので、向き合い方や作品への姿勢がまったく異なるものだったりします。それもあってなのか、『TALK IS CHEAP』が比較的わかりやすくてキャッチーなテイストなのに対し、この『MAIN OFFENDER』は完全にキースが趣味に走った“俺様”な内容と解釈することができます。

確かに、『TALK IS CHEAP』と比べたら地味ですし、キャッチーさも低い。しかし、聴いていてクセになるのは確実に『MAIN OFFENDER』のほうなんです。かつてのレビューにも書きましたが、『MAIN OFFENDER』って年齢を重ねれば重ねるほどその魅力に惹きつけられるといいますか、どんどん夢中になっていく不思議な引力が備わっているんです。無駄を一切削ぎ落としたそのいぶし銀の歌とギター、バンドアンサンブル(すべてのタイム感も含め)誰にも真似できないし、一生かかっても追いつけない孤高の存在感をこれでもかと味わえる。素材の持つ味だけで堪能する至高の料理みたいな1枚なのです。

そんな名作が最新リマスタリングされ、低音に若干ギアを入れたような質感に生まれ変わった。個人的にはオリジナルの音で十分すぎるのですが、リリースから30年経ったことでイマドキの味付けが施された逸品を、このタイミングに味わってみるのも悪くないかな、という感じでしょうか。

いやいや、このデラックス・エディション最大の聴きどころはそこじゃない。CDやアナログ・ボックスセット、デジタル版のために用意された“DISC 2”に注目していただきたいわけです。

『WINOS LIVE IN LONDON '92』と命名されたこのDISC 2には、1992年12月17、18日にロンドン・Town And Country Clubで行われたライブから12曲の未発表ライブ音源を収録。実際のライブでは両日とも18〜20曲程度披露されていますが、ライブアルバム化にあたり『TALK IS CHEAP』『MAIN OFFENDER』といったソロ作、そして「Gimme Shelter」「Before They Make Me Run」「Happy」などのストーンズクラシックをバランスよく交えた内容にまとめられています。

キース(Vo, G)と『MAIN OFFENDER』のプロデューサーでもあるスティーヴ・ジョーダン(Dr)、ワディ・ワクテル(G)、チャーリー・ドレイトン(B)、アイヴァン・ネヴィル(Key, G)、サラ・ダッシュ(Vo)、バビ・フロイド(Vo)といったレコーディングメンバーに、ストーンズでお馴染みのボビー・キーズ(Sax)を加えた編成=THE X-PENSIVE WINOSでのルーズながらもグルーヴ感の強いバンドサウンドは最高の一言で、キースが独自のメロディラインで歌う「Gimme Shelter」はミックの歌うそれとは異なる熱量(蒼い炎とでもいいましょうか)が伝わり、エンタメ色の強いストーンズ版との対比含め興味深く楽しめるはずです。

WINOSのライブ作品は『TALK IS CHEAP』を携えたツアーの模様を収めた『LIVE AT THE HOLLYWOOD PALLADIUM』(1991年)がすでに存在しますが、『MAIN OFFENDER』収録曲多めな今回の『WINOS LIVE IN LONDON '92』のほうが個人的には好みかな。とはいえ、ロックファンなら両方チェックしておいて損はないはずなので、スタジオ音源とあわせてすべて聴いてみることをオススメします。だって、ソロ作はスタジオアルバム3枚、ライブアルバムも(このデラックス版のおまけ含め)2枚だけなんですから。

 


▼KEITH RICHARDS『MAIN OFFENDER (DELUXE EDITION)』
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2022年3月25日 (金)

MEW『FRENGERS』(2003)

2003年4月7日にリリースされたMEWの3rdアルバム。日本盤は同年10月22日発売。

MEWは1995年に結成されたデンマーク出身のロックバンド。結成当時のメンバーはヨーナス・ビエーレ(Vo, G)、ボウ・マドセン(G/2015年脱退)、ヨハン・ウォーラート(B/現在はH.E.R.O.と掛け持ち)、スィラス・グレイ(Dr)の4人で、1997年に1stアルバム『A TRIUMPH FOR MAN』にて本国デビューを果たします。

日本デビュー作となったこの『FRENGERS』はEpic Recordsと契約して最初の作品(前作から引き続き、自主レーベルEvil Officeと併記)。本国では最高2位を記録しましたが、本格的な海外デビュー作ということもあってノルウェーでは6位、フィンランドでは36位と北欧諸国でもランクインしたほか、イギリスでも最高102位という数字を残しています。

Sony系列の手腕もあり、プロデューサーにリッチ・コスティ(SIGUR ROS、MUSEBIFFY CLYROなど)を迎えて制作。全10曲中6曲が過去2作からの再レコーディングでしたが、海外ではほぼ無名だったこともありこの試み自体はまったく問題なし。むしろ、海外に向けた名刺がわりの1枚としては最適な内容ではないかと思います。

オープニングを飾る「Am I Wry? No」を筆頭に、往年のプログロックを下地にしつつもポストロックやオルタナティヴロック、シューゲイザー、あるいはハードロックの手法をバランスよく配合した北欧のバンドらしくひんやりしたアレンジに、透明感の強いヨーナスのボーカルが乗ることにより独特の緊張感を生み出している。かと思えば、「Symmetry」や「Behind The Drapes」のように伸びやかな楽曲も存在し、その緩急に飛んだ楽曲群で聴き手を最後まで惹き付け続けます。

本作リリース当時、僕はこのバンドを新たなポストロック勢というよりは、MUSEなどのような“オルタナ側からHR/HMシーンへの回答”あるいは“21世紀ならではのHR/HMの新解釈”と捉えていた記憶があります。それこそ時期的にも、THE MARS VOLTAなどと同じ枠で捉えていたような気もしますし、「MUSEほどヘヴィではないし、MANSUNほど奇妙ではないけど、こういう表現もアリだよね」と好意的に受け入れてヘビロテしていたような……とにかく好きな1枚であったことに間違いありません。

また、「Symmetry」や「Her Voice Is Beyond Her Years」のように女性ボーカルを効果的にフィーチャーしたアレンジでは、上に挙げたバンドとは異なる威力を発揮していましたし、ピアノやオルガン、ブラスなどを取り入れつつ音響系的な空気も漂わせている点からはHR/HM勢にはない個性が伝わりました(あくまでHR/HM観点からの話ね)。

今振り返ると、この頃の自分はオーソドックスなヘヴィメタルに対して若干の苦手意識(というか嫌悪感かな)を持ち始めていた時期で、新しい音を求めていたのかもしれません。そういった意味では、MEWは僕にとってかなりど真ん中に近いものがあり、このアルバムで表現されている楽曲/音はストレートに響いたわけです。

来年でリリースから20周年ですが、サウンドや表現、手法など含めまったく古びていない本作、オルタナ経由のメタルが何周かした今こそ再評価すべき傑作であり、HR/HMを中心に聴く層に触れていただきたいなと。ヨハンのH.E.R.O.加入もあり、今がそのタイミングではないでしょうか。

 


▼MEW『FRENGERS』
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2022年3月24日 (木)

CELESTE『ASSASSINE(S)』(2022)

2022年1月28日にリリースされたCELESTEの6thアルバム。

CELESTEは2005年に結成された、フランス・リヨン出身の4人組バンド。もともとはハードコアパンクシーンから登場したバンドですが、その後に音楽性をブラックメタルをスラッジメタル、ポストハードコアの要素を織り交ぜた方向へと進化させ、2008年に『NIHILISTE(S)』でアルバムデビューを果たします。その後はコンスタントにリリース&ライブを重ね、2019年には初来日公演も実現させたばかりです。

新たにNuclear Blast Recordsと契約し届けられた、約4年2ヶ月ぶりの新作。彼らもほかのバンド同様に、このコロナ禍において1ヶ所に集まることができず、曲作りはそれぞれが各自に進めたとのこと。当初は可能な限りダークでバイオレントな音/楽曲を意識していたようですが、「もっとほかにできることはないか?」と自問自答する時間ができたことで、今回のようにギターソロなどでメロディアスさに積極的に取り組むことができたそうです。

結果としては、この試みがダーク&バイオレント側とメロディアス側の両者を際立たせる最良の形につながったのではないでしょうか。メロディが生み出す波とグルーヴメタルからの影響を感じさせるリズムのうねりが、楽曲に緩急を付けることに成功し、単なるポストハードコアともブラックメタルとも異なる世界を構築。モノトーンの世界の中で、絶妙な形でグラデーションが付けられていることでドラマチックさも強まっている。ある意味では同じフランス出身のGOJIRAにも通ずる要素も感じられ、同バンドのリスナーにも響くものが多少はあるのではないかと確信しています。

タイトルからもわかるように、歌詞はすべてフランス語で歌われているようですが、デス声で歌われることで歌詞の判別、聴き取りは不能。もともとフランス語は門外漢ですが、特に言語の違いを意識することなく、パーカッシヴなバンドアンサンブルとの相性含めて気持ちよく聴くことができました。

「(A)」のような楽曲からは抒情性に加え、先のGOJIRAなどの武器といえるプログメタル的要素も見え隠れしますが、このCELESTEの場合はそういったアレンジに関してはそこまで多くこだわっていない様子。ですが、メロディを強化させることでドラマチックな展開を多用するようになると、自然とそういう方向へも進んでいくのではないかと、今後の作品が楽しみにもなってきました。

まずは変化/進化の一端を見せ始めたという点で、バンドが第二段階に突入したことを宣言する1枚なのかな。ブラックメタルの範疇に含めるよりも、2000年代グルーヴメタルの延長線上に存在する作品として向き合うと、本作の真の魅力に気づけるのではないでしょうか。年間ベストクラスの作品とは言い難いものの、ネクストブレイクへ対する期待も込めて平均点より高めの点数を付けておきたい、そんな注目枠の佳作です。

 


▼CELESTE『ASSASSINE(S)』
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2022年3月23日 (水)

KILLING JOKE『KILLING JOKE』(1980)

1980年10月5日にリリースされたKILLING JOKEの1stアルバム。日本盤は翌1981年、『黒色革命』の邦題で発売。

当時のメンバーはジャズ・コールマン(Vo, Synth)、ジョーディー・ウォーカー(G)、ユース(B)、ポール・ファーガソン(Dr)の4人。70年代末のパンクロック/ポストパンク/ニューウェイヴの流れを汲む方向性で、のちにシンセサイザーを多用したインダストリアルロック色を強めていきますが、本作ではエレクトロ要素は味付け程度にとどめ、ギターとドラムを前面に打ち出した(ある意味では旧体制的なパンクロックから80年代的な新時代へと移行する)過渡期的1枚と受け取ることもできます。

リズムが特徴的で、空間系のエフェクトを施したギターサウンド、隙間を埋めるように適度に被せられたシンセの音色、呪術的なメロディラインを吐き捨てるように歌うボーカルなど、パンクからニューウェイヴへの過渡期ならではといった楽曲の数々は、聴く人によっては退屈に映るかもしれません。しかし、この独特のグルーヴは非常にクセになるものがあり、個人的には「Wardance」や「The Wait」など比較的派手めな曲よりも「Tomorrow's World」や「S.O.36」みたいにダブ的要素を含むミディアム/スローナンバーがツボだったりします。

もちろん、初めて聴いたときは冒頭の「Requiem」(かのHELMETもカバー)や疾走感の強い「Bloodsport」、グルーヴィーな「Complication」、METALLICAの名カバーでお馴染みの「The Wait」にTHE MAD CAPSULE MARKETSも取り上げた「Wardance」などに夢中になったものです。今聴いてもこれらの楽曲は色褪せていませんし、初聴時の即効性の強さはリリースから40年以上経った今も維持され続けていると思います。

イギリスではパンクが下火になり、ポストパンクやニューウェイヴが盛り上がり始める一方で、アンダーグラウンドに追いやられていたHR/HMが新亜種=NWOBHMとともに新たなブームを起こし始めていた1980年。実はパンク勢のみならず、メタル新興勢力側からも密かに支持されていたのではないかと思わせられる、そんな魅力に満ちた本作は、そういった意味でも過渡期の中の1枚だったのかな。だからこそ、絶妙なバランス感で仕上がった奇跡の1枚なのかもしれませんね。

なお、オリジナル盤は「Primitive」で終わる全8曲構成ですが、デジタル/ストリーミングを踏む現行盤はアルバム未収録曲「Change」や「Requiem」シングルバージョン、「Primitive」「Bloodsport」のラフミックスなどを含むボーナストラック5曲を追加。「Change」のダブミックスなんてものも含まれており、おまけにしては十分すぎるほど楽しめるボリューミーな内容ではないでしょうか。

 


▼KILLING JOKE『KILLING JOKE』
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KILLING JOKE『PANDEMONIUM』(1994)

1994年8月2日にリリースされたKILLING JOKEの9thアルバム。日本盤は翌1995年1月21日発売。

Noise Recordsから唯一のアルバムとなった前作『EXTREMITIES, DIRT AND VARIOUS REPRESSED EMOTIONS』(1990年)から約4年ぶりの新作は、メンバーのユース(B)主宰レーベルButterfly Recordingsへの移籍第1弾作品。ポール・レイヴン(B)などメンバーが相次いで脱退し、ジャズ・コールマン(Vo)とジョーディ(G)のオリジナルメンバー2人のみが残ったところに、もうひとりのオリジナルメンバーであるユースが再合流。MINISTRYNINE INCH NAILSといったインダストリアル系アーティストがシーンを賑わせいる中、真打ち登場とばかりに満を辞しての新作リリースとなりました。

ポストロック以降の、ミディアム/スローテンポ中心のインダストリアルサウンドや当時流行し始めていたロック寄りのダンスミュージックなどの影響下にあるスタイルは、これ以降のKILLING JOKEの作品に共通するもので、いわば第2期KILLING JOKEの基盤となったのが本作。ダンスミュージックのごとく繰り返されるリフ(フレーズ)をベースに、スローテンポで進行するタイトルトラック「Pandemonium」や、MINISTRY以降のインダストリアルサウンドを下地にしたモダンな「Exorcism」といった楽曲は、リリース当時は刺激的には感じられず、もっと言えば退屈にさえ思えたのですが(MINISTRYやNINほどわかりやすい過激さが足りなかったのも大きいのかな)、今聴くとこの反復ビートが非常にクセになる。むしろ、これくらいが丁度いいとさえ思えるほどピンとくるものがあります。

そんな中、中近東的フレーズを多用した「Communion」や、ポストロックバンドとしての面目躍如と言わんばかりの「Black Moon」、本作中もっともテクノ的フレーズを用いつつもしっかりロックしている「Labyrinth」、浮遊感の強いメロディ&サウンドメイクの「Jana」など個性的な楽曲も少なくなく、リリース当時はなぜこれを退屈に感じたのか疑問に感じるほど多様性の内容なんですよね。フロアライクなデジロック「Whiteout」「Mathematics Of Chaos」なんてクラブで大音量にて流れたらアガりまくり必至だろうしね。

たぶん僕が本作にのめり込めなかった理由って、1曲6〜7分もある曲が多かったことなんじゃないかな。1994年というと、グランジブーム後期にあたるタイミングで、2〜3分台の楽曲に慣れ親しんでいた時期でもあり、そういった耳にはロックとして接した本作はちょっとユルく思えてしまったのかもしれない。かつ、先にも書いたようにMINISTRYやNINほど直接的な攻撃性もないし。20代前半の自分にはまだ早すぎた1枚だったのかもしれませんね。

今日までのKILLING JOKEのカタログをひととおり聴いた中でも、本作はデビュー作『KILLING JOKE』(1980年)に匹敵するぐらい好みの1枚(こんなこと書いたら、初期リアルタイム世代の諸先輩方から叩かれそうですけど、本当なんだからしょうがない)。ジャズ・コールマンのボーカルも初期の青臭さが抜け、凄みが強まっていて最高ですし。そういった点でも本作は90年代よりも、むしろ2010年代以降にしっかり評価されるべき1枚だと確信しています。

 


▼KILLING JOKE『PANDEMONIUM』
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2022年3月22日 (火)

DRUG CHURCH『HYGIENE』(2022)

2022年3月11日にリリースされたDRUG CHURCHの4thアルバム。日本盤は同年3月21日発売。

DRUG CHURCHは米英混合バンドSELF DEFENSE FAMILYのフロントマン、パトリック・キンドロン(Vo)を中心を中心とする、2011年結成の5人組バンド。2013年に1stアルバム『PUAL WALKER』をNo Sleep Recordsからリリースしたのに、2018年には現在のPure Noise Recordsと契約し、マイペースな活動を続けています。

前作『CHEER』(2018年)から約3年半ぶりとなるPure Noise移籍第2弾アルバムでは、プロデュース&ミックスを前作から引き続きSUCH GOLDでベース&ボーカルを務めるジョン・マークソン(TAKING MEDS、HUSBANDRY、SOUL BLINDなど)が担当。「Premium Offer」にはブルックリンのポストハードコアバンドHUSBANDRYのカリーナ・ザッカリー(Vo)がゲスト参加し、華を添えています。その内容もポストハードコアとポストパンク、そしてグランジやオルタナティヴロックを通過した、ノイジーだけどキャッチーさがしっかり備わったギターロックを展開。全10曲で約26分という、ギュッと濃縮されたヘヴィな世界観を堪能することができます。

PIXIESなど1990年前後のオルタナティヴロック/グランジをベースに(「World Impact」のMVでは、メンバーがPIXIESのTシャツを着ていることにもニヤリ)、HELMETなどからの影響も感じさせつつ、2000年代以降のポストハードコアやポストパンクを通過するとこういうギターロックが生まれるという、非常にわかりやすい形の進化形がこの音……と言われると、90年代初頭以降をリアルタムで通過したリスナーには伝わりやすいものがあるはずです。

どの曲にもノイジーで浮遊感の強いギターアンサンブルが施されており、そこには“計算”といったものが一切存在しない。だけど、メロディに関してはしっかり“計算”され尽くし、1曲の中に必ずひとつは聴き手の心に引っかかるラインが存在する。それって実はすごいことなんじゃないでしょうか。

無秩序なようで計画的、粗暴なようで丹精、アンバランスなようで程よくバランスが取れている……かつて大きな成功を収めたオルタナ/グランジバンドたちのような、さじ加減が実に見事な、ラウドなギターロックを2022年という次世代に楽しむことができる。10年選手ならではの安定感もありつつ終始振り切れっぱなし、だけど常軌を逸することなく正常を保っている。この「どこか冷めている」感こそ、“あの頃”に僕らがリアルタイムで夢中になったバンドたちが持っていた魅力であり、このアルバムからは“あの頃”の片鱗がしっかり残されていることが伝わるからこそ、僕らのような老害(苦笑)にもしっかり響くものがあるんでしょうね。

世が世なら、日本のオルタナ層からも高い支持を獲得したのではないかと思わせる本作。このタイミングに日本盤がリリースされるのは、きっと僕と同じように感じた人間がこの業界にも存在したということなんでしょう。しっかりアピール/プロモーションすれば届くべき場所に届くという当たり前のことをしっかりやっていただいて、このチャンスを無駄にしないでいただきたい。せっかく今年の夏は海外勢を交えた野外フェスも行われるわけですし……ね。

 


▼DRUG CHURCH『HYGIENE』
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2022年3月21日 (月)

FEAR FACTORY『THE INDUSTRIALIST』(2012)

2012年6月5日にリリースされたFEAR FACTORYの8thアルバム。日本盤は同年5月30日に先行発売。

ディーノ・カザレス(G)が復帰して制作された『MECHANIZE』(2010年)から2年4ヶ月ぶりの新作。前作はバートン・C.ベル(Vo)、ディーノ、バイロン・ストラウド(B)、ジーン・ホグラン(Dr)という布陣で制作されたものの、バイロンとジーンが相次いで脱退。新メンバーとしてマット・デヴリーズ(B)、マイク・ヘラー(Dr)が加入するものの、次作のレコーディング自体はバートンとディーノの2人体制で進められました。

もともと正確無比でマシーナリーなリズムセクションが魅力のFEAR FACTORYですが、本作ではそのドラムトラックをすべてプログラミング(打ち込み)で対応。よって、機械的な冷徹さがより極まる結果となり、前作でのスペーシーかつエクストリームな作風がより強まった内容に仕上がりました。

オープニングトラック「The Industrialist」の長く仰々しいイントロダクションにジラされつつ、いざリズムセクションが入ってくるとそのひんやりとしたマシーンビートとザクザクしたギターリフに心をエグられ、バートンのパワフルなボーカルに感情を奪われる。これぞFEAR FACTORYと言える王道の1曲ではないでしょうか。

以降は緩急を付けつつ、いかにも彼ららしい楽曲が続きます。インパクトという点においては1曲目以降はどんどん弱まっていく気もしますが、「God Eater」のような“NINE INCH NAILS meets インダストリアルメタル”みたいなフックの効いた曲も含まれており、衝撃度は前作よりも若干劣るかもしれませんが、視野を広くしてみると“ポストパンクを通過したインダストリアル/オルタナティヴメタル”の良質な作品と受け取ることもできるのではないでしょうか。

機械的なビートならではの軽さと、低音よりも中音域を強調したギターサウンドが織りなす、王道ヘヴィメタルとは一線を画する質感は「これぞオルタナティヴメタル」と呼べるもの。実はメタルメタルした音が苦手なリスナーにも受け入れられる可能性を秘めた1枚ではないでしょうか。個人的にはFEAR FACTORY究極のアルバムとして挙げたい傑作です。

 


▼FEAR FACTORY『THE INDUSTRIALIST』
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2022年3月20日 (日)

COREY TAYLOR『CMFB...SIDES』(2022)

2022年2月25日にリリースされたコリィ・テイラーの企画アルバム。日本盤未発売。

SLIPKNOTSTONE SOURのフロントマンによる初のソロアルバム『CMFT』(2020年)に続いて発表された本作は、彼が影響を受けたアーティストのカバー曲、『CMFT』収録曲をアコースティックバージョンで再録したテイク、そしてライブ音源で構成された内容。『CMFT』の「T」に「B...SIDES」を被せたアートワークからも想像できるように、『CMFT』から派生した裏面(=B Sides)的な1枚といったところでしょうか。

全9曲(実質10曲)のうち、カバーは6曲。METALLICA『ブラックアルバム』(1991年)トリビュートアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)に提供した「Holier Than Thou」のほか、DEAD BOYS「All This And More」、エディ・マネー「Shakin'」、RED RIDER(TOM COCHRANE & RED RIDER)「Lunatic Fringe」、KISS「Got To Choose」、ジョン・キャファティ(JOHN CAFFERTY & THE BEAVER BROWN BAND)「On The Dark Side」という、年代もジャンルもバラバラな楽曲がいかにも今のコリィらしい形で表現されています。「Shakin'」や「Lunatic Fringe」「On The Dark Side」は1980年代前半のヒット曲ということもあり、コリィが幼少期にラジオでよく耳にしていた楽曲ではないでしょうか。ハードロックとは程遠いものの、あの頃のUSロック/ポップスにラジオやMTVを通じて触れてきた同世代の自分にとっても(若干後追いではありますが)懐かしいものがあります。

また、KISSやDEAD BOYSは70年代なので、リアルタイムというよりはロックにハマッてから知った楽曲じゃないかなと想像。KISSもあえて地味な2ndアルバム『HOTTER THAN HELL』(1974年)からのセレクトですしね(コリィが生まれた翌年にリリースされたアルバムだから、なおさらね)。アルバムジャケットではコリィ含め、バンドメンバー全員がKISSメイクをしているあたりにも、この曲へのこだわりが伝わってきます(「Holier Than Thou」同様、この曲もエンディングに仕掛けが用意されています)。

また、『CMFT』からは「Kansas」「Halfway Down」のアコースティックバージョンでリメイク。さらに、同作からの「Home」とSTONE SOURの2ndアルバム『COME WHAT(EVER) MAY』(2006年)収録曲「Zzyzx Rd.」をメドレー形式でリアレンジしたライブテイクも用意されており、全体を通してレイドバック気味の作風にフィットしたセルフカバーとなっています。特に、アルバムのど真ん中に置かれた9分にもおよぶ「Home / Zzyzx Rd.」は、何気に本作のキモと言えるのではないでしょうか。本作からのリードトラックは「On The Dark Side」ですが、個人的にはそう捉えています。

コロナ禍が若干落ち着きつつあり、ようやく『CMFT』を携えたライブツアーが本格的にスタートしたコリィ。本作は改めて『CMFT』へと注目を集めるために用意された、再起爆剤といえる1枚なのかな。SLIPKNOTの次作もレコーディングが終わり、残すはミキシングだけのようですし、こういうお遊び満載のアルバムでリラックスしたコリィの姿はまたしばらく見納め(聴き納め)かもしれませんね。

あくまでファンアイテム的な企画盤なので、これを持って「コリィは今後、ソロではレイドバックしたスタイルを押し進めていく」と解釈するのは勇み足。STONE SOURでも小出しにしてきた側面をたまたま特化させた1枚と捉えるのがベストでしょう。本気のお遊びに対しては、こちらも肩の力を抜きつつ本気で楽しみながら向き合いたいと思います。

 


▼COREY TAYLOR『CMFB...SIDES』
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2022年3月19日 (土)

HO99O9『SKIN』(2022)

2022年3月11日にリリースされたHO99O9(HORROR)の2ndアルバム。日本盤未発売。

HO99O9はtheOGM(Vo)、Eaddy(Vo, G, B, Synth)の2人を中心に結成された、米・ニュージャージー出身のラップコア/ヒップホップユニット。LAに拠点を移したあとにブランドン・ペルツボルン(Dr/ex. BLACK FLAG)が加わり、現在はトリオ編成で活動を続けています(ライブでは元THE DILLINGER ESCAPE PLANのドラマー、ビリー・ライマーも参加)。

ここ数年はミックステープやEPのリリースが続いていましたが、完全なるオリジナルアルバムとしては『UNITED STATES OF HORROR』(2017年)以来約5年ぶり。かのトラヴィス・バーカーがプロデュースを手がけるほか、コリィ・テイラー(Vo/SLIPKNOTSTONE SOUR)、ソウル・ウィリアムズ(Rap, Poetry Reading)、バン・B(Rap)、ジャシア(Rap)などいかにもな面々がゲスト参加することで、HO99O9の持つ雑食性をさらに強めることに成功しています。

上で彼らの音楽性を「ラップコア/ヒップホップ」と簡単に説明しましたが、このアルバムを聴くとそれだけではないことに気付かされるはず。もちろんベースにあるのはラップコアやヒップホップで間違いありませんが、そこにハードコアパンクやメタル、インダストリアルロック、アフロミュージックなどさまざまな要素が散りばめられており、その一筋縄でいかない作風は「BAD BRAINS 以来のニュージャンル」「ポストDEATH GRIPS」という評価も納得いくほど。全12曲/33分の中に詰め込まれた情報量は非常に多く、ある程度を理解するまでに相当時間を要するのではないでしょうか。

しかし、すべてを正確に理解しなくても、彼らの楽曲/サウンドはそのままストレートに感じてもらえばいいのではないでしょうか。もっと言えば、考えるのがバカらしくなるくらいに、聴いているだけで頭が空っぽになる(良い意味での)“バカ音楽”なんですよ。10代の頃にこの音と出会っていたら間違いなく人生変わっていたんじゃないかな。もちろん、酸いも甘いも嚙み分けた年齢の自分が聴いても最高にカッコいいと思える、そんな問答無用のミクスチャー作品の良作です。

異常に低音を効かせた現代的な質感を持つサウンド、要所要所に性急なブラストビートを用いたリズム、ゴリゴリにヘヴィなギターリフ、以上を適度にカットアップ&サンプリングし、さらにインダストリアル風味をまぶした方向性は、時に“アフロパンクなNINE INCH NAILS”のようであり、時に“若々しさを取り戻したMINISTRY”や“2022年によみがえった全盛期のTHE PRODIGY”のようにも映る。

かと思えば、「Battery Not Included」のようにハードコアとメタルにサイケデリックなポップスを掛け合わせた奇妙奇天烈な楽曲も存在し、完全にジャンル分けなんて不可能。コリィ・テイラーが極悪シャウトを聴かせる「Bite My Face」の緩急に富んだ奇抜なアレンジも、コリィ自身の作品では味わえない“ワルさ”が表現されており、ソウル・ウィリアムズのポエトリーがクールな「Skinhead」もこのグループならではの不思議さを醸し出している。さらに、デスメタルも逃げ出すほどにカオティックな「Lower Than Scum」、ドゥームメタルとヒップホップが闇の取引をしたような「Limits」や「Dead Or Asleep?」など、最後まで刺激満載な楽曲が豊富。気付けば何度もリピートしたくなく、常習性の高い危険な作品ではないでしょうか。

常に刺激を求め続ける、新しい音に飢えたリスナーには真っ先に触れていただきたい、強烈な1枚です。

 


▼HO99O9『SKIN』
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V.A.『SPAWN: THE ALBUM』(1997)

1997年7月29日にリリースされた、映画『スポーン』のサウンドトラックアルバム。日本盤は同年9月10日発売(日本盤はオリジナルアートワークを採用)。

本作は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』(1993年)のように、当時旬のロック/メタルバンドと先鋭的なクラブミュージックアーティストを組み合わせた、コラボ曲のみで構成されたコンピレーションアルバムで、純粋なサウンドトラック盤とは異なる仕様となっています。また、『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』がメタル/グランジ系バンドとヒップホップアーティストとのコラボレーションが中心だったのに対し、この『SPAWN: THE ALBUM』ではメタル/グランジ/オルタナティヴロック/ニューメタル勢とエレクトロニカ/テクノ系アーティストとのコラボで構成されています。

楽曲の大半はジャンルの異なる2組との共作で制作されたものですが、中にはMETALLICA「For Whom The Bell Tolls」をDJスプーキーがリミックスしたテイクや、ORBITALの1990年のヒット曲「Satan」をカーク・ハメット(G/METALLICA)がギタリストとして参加した形での再録バージョンも含まれており、すべてが純粋な新曲とは言えません。ですが、いろんな変遷を経た2022年の耳で聴くとどれも非常に親しみやすいテイクばかりで、リリース当時よりも今のほうがフィットするような印象を受けます。

ロック系からの参加アーティストはFILTERMARILYN MANSON、カーク・ハメット、KORN、BUTTHOLE SURFERS、METALLICA、STABBING WESTWARD、MANSUNトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)、SILVERCHAIR、ヘンリー・ロリンズ、INCUBUSSLAYER、SOUL COUGHING。テクノ系からはTHE CRYSTAL METHOD、SNEAKER PIMPS、ORBITAL、THE DUST BROTHERS、モービー、DJスプーキー、ジョシュ・ウィンク、808 STATE、THE PRODIGY、ヴィトロ、ゴールディ、DJグレイボーイ、ATARI TEENAGE RIOT、ロニ・サイズとかなりバラエティに富んだ面々が揃っています。

FILTER×THE CRYSTAL METHOD「(Can't You) Trip Like I Do」やマンソン×SNEAKER PIMPS「Long Hard Road Out Of Hell」、KORN×THE DUST BROTHERS「Kick The P.A.」などはそれぞれのバンドのカラーが強く、このままオリジナルアルバムに入っていたとしても不識じゃない仕上がり。ドラムンベース調に味付けされたMETALLICA×DJスプーキー「For Whom The Bell Tolls (The Irony Of It All)」も当時は「……へっ?」と困惑したものの、今聴くと全然アリに思えるから不思議。当時全米1位を記録したノリノリのTHE PRODIGYは「One Man Army」でトム・モレロをギターに迎えたことで、非常にロック色濃厚なトラックを楽しむことができます。

かと思えば、当時はまだブレイク前だったINCUBUSは、早くも独特のテイストを持つ「Familiar」で個性を発揮しまくっているし、SLAYER×ATARI TEENAGE RIOTという最強&最狂の組み合わせによる「No Remorse (I Wanna Die)」では前のめりなアゲアゲドラムンベースを堪能できる。曲によって出来のまちまちはあるものの、全体を通して非常に気持ちよく“踊れる”ラウドロックアルバムではないかと思っています。

とはいえ、リリース当時は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』ほどのインパクトは与えられず、かつメタル寄りリスナーからはあまり歓迎された記憶もなかったかな。チャート的にはBillboard 200(全米アルバムチャート)で最高7位まで上昇し、50万枚以上のヒットになっているので、ここ日本では“早すぎた”1枚だったのかもしれません。

現在のミクスチャーロック的スタンスを考えると、90年代に映画のサウンドトラックとして制作された『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』とこの『SPAWN: THE ALBUM』って、実は非常に重要な役割を果たした作品集だと思うんですよね。日本では評価は低いのかもしれないけど、このタイミングだからこそ改めて触れておきたい重要作だと断言しておきます。

 


▼V.A.『SPAWN: THE ALBUM』
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2022年3月18日 (金)

H.E.R.O.『ALTERNATE REALITIES』(2022)

2022年3月18日にリリースされたH.E.R.O.の3rdアルバム。日本盤は同年3月16日先行発売。

前作『BAD BLOOD』(2020年)から約2年ぶりの新作。前作発表直前の1〜2月には初のジャパンツアーも成功し、この2ndアルバムを携えての本国デンマークツアーに突入しようとしたところでパンデミックと直面し、同作のプロモーションもままならなかった彼ら。その後、配信ライブなども行ったようですが、結局彼らは早くもこの3rdアルバム制作へと移行したようです。

これまでクリストファー・スティアネ(Vo, G)、アナス・“アンディ”・キルケゴール(Dr)、ソレン・イテノフ(G)の3人をコアメンバーに活動してきたH.E.R.O.でしたが、前作のツアーなどでライブサポートを務めてきたMEWのヨハン・ウォーラート(B)が新たに正式加入。バンドのセルフプロデュース、ミックスにヤコブ・ハンセン(VOLBEATAMARANTHEPRETTY MAIDSなど)を迎えて制作された本作は、過去2作の延長線上にありながら、ヘヴィさをより強めた“時代に呼応した”1枚に仕上がっています。

昨年4月に公開された本作からの1stシングル「Made To Be Broken」からも想像できましたが、低音を強調したリフワークと昨今のメタルコア的な鋭角さの強いリズムアレンジ、そしてキャッチーなメロディにシンガロングを交えた国内ラウドロック的手法を推し進めた作風は、よりブラッシュアップされたものに。過去2作で武器だったメジャー感を損なうことなく、重心の低いバンドアンサンブルを強化させることで、そのへんの亜流メタルコアに負けない個性を強めることに成功しています。ロックバンド、あるいはハードロックバンドとして至極真っ当な進化ではないでしょうか。

それこそ、オープニングを飾る「Gravity」からして、冒頭のギターリフやユニゾンするリズム隊のプレイ、浮遊感を漂わせつつしっかりメロディを聴かせるクリストファーのボーカル、適度なエレクトロの味付けなど、このバンドに求められる要素と新たな魅力が程よいバランスで混在している。北欧のバンドらしさもありつつ、日本人の琴線に触れる魅力も豊富に備わっており、過去2作のファンはもちろんのこと、普段は国内バンドばかり聴いているという層にも引っかかりのある内容と言えるでしょう。

何せ、本作の軸になっているのは“歌”であり“メロディ”ですからね。そこがいわゆるメタルコア勢との大きな違いで、ハードロックやメタルコアのフォーマットを借りつつも芯にはモダンポップスと同系統のものが存在している。アルバム終盤に収められたエレクトロ色を強めた「Bring Me Back To Life」や音数を極限まで削り落としたバラード「Heavy Heart」などは、そのカラーがもっとも強く表れた楽曲でしょう。そういった点を含め、本作はリスナー層を限定することなく幅広くにアピールできると思うんです。

そんな中、本作では「Lead The Blind」にスウェーデンのポストハードコアバンドNORMANDIEのフィリップ・ストランド(Vo)、「Monster」にはスイスのグルーヴメタルバンドRAGE OF LIGHTやシンフォニックメタルバンドAD INFINITUMで活躍するメリッサ・ボニー(Vo)をフィーチャー。ゲストボーカルを迎える形も今回が初となり、これも前2作を通じてバンドの基盤を確立させたことが自信につながり、今作で新たな挑戦に踏み出したからこそのチャレンジかもしれません。

日本盤CDにはボーナストラックとして「Hopeless」「Is It Me You're Looking For」の2曲を追加。これらは前作から今作へと移行する際に産み落とされたもので、いわば進化の過程における2作の橋渡し的な副読本のようなっもの。とはいえ、完成度は水準以上なので、チェックする価値はあるかと。アルバム自体は「Heavy Heart」でしっとり締めくくる形がベストですが、おまけとして楽しむのもアリだと思いますよ。

いろんなタイミングが合わず、いまだにライブを観ることができていないH.E.R.O.。この夏あたりの大型野外フェスでは、情勢さえ大きく変化することがなければ海外勢の3年ぶり来日も実現可能しそうなので、ぜひとも彼らを呼んでもらいたいところです。幕張/大阪方面のフェスと客層との相性、良いと思いますしね。

 


▼H.E.R.O.『ALTERNATE REALITIES』
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2022年3月17日 (木)

BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』(2022)

2022年2月25日にリリースされたBLOOD INCANTATIONの3rdアルバム。日本盤未発売。

日本盤もリリースされた前作『HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE』(2019年)から2年3ヶ月ぶりの新作。フィジカルではCD+Blu-ray、アナログ+CDのような複数フォーマットを同梱した形態が用意されているそうで、CDにはデジタルリリース&ストリーミング版よりも1曲多く、「Chronophagia」がボーナストラックとして追加収録されています。

かねてから“コズミック・デスメタル”なる、SFや宇宙など神秘性の高いテーマを扱った歌詞を歌うテクニカルデスメタルを展開してきた彼ら。本作ではそのテーマをさらに押し進め、デスメタルの要素を排除することでより神秘性に特化した作風へと到達しています。

要するに、ここで聴くことができるサウンドはデスメタルでもなければヘヴィメタル、もっと言えばロックでもない。高速ブラストビートも、エッジの効いたギターリフやのたうち回るギターソロも、血の底を這うグロウル(ボーカル)も存在しない、シンセサイザーによるアンビエント色の強いサウンドスケープが終始展開されているのです。要するに、彼らが敬愛する70〜80's SF映画のサウンドトラックを彷彿とさせるニューエイジチックなインストゥルメンタルのみで構築されているわけです。

アルバム本編は「Io」「Ea」の2曲のみで構成された、全41分にわたる内容。ストリーミングやデジタル版で各曲が「First Movement」「Second Movement」「Third Movement」「Fourth Movement」と4つのトラックに分割されていますが、基本的に大きな山や谷が存在しない、首尾一貫同じトーンのアンビエントなシンセサウンドがシームレスで続くのみ。それぞれトータル20分前後におよぶ長尺曲で、この手のサウンドに縁のないメタラーには少々敷居の高い内容かもしれません。

ぶっちゃけ、「BLOOD INCANTATIONのアルバムを聴くぞ!」と意気込んで臨むと肩透かしを喰らう、実験性の強い1枚。バンドが持つひとつの側面に特化した内容ではあるものの、これを持って彼らは今後もこの路線を突き進むというわけではなさそうです。きっと、続く4thアルバムでは再びデスメタル路線に回帰することでしょう。

バンドの本質を理解する上での副読本的な本作は、あくまで過去2作の“本筋”に対する番外編ではないかと。なので、むきになって本作を評価しようとして「メタルじゃない! ふざけるな!」と目くじらを立てるのはちょっと違うかな。これはこれとして愛していける(あるいや許せる)、広い心が試される踏み絵のような1枚かもしれませんね。

なお、フィジカル版のみに追加収録されたボーナストラック「Chronophagia」。こちらも27分強におよぶ超大作ですが、アンビエント色濃厚な本編とは異なり、コラージュ的手法による、多少緩急の感じられる実験作となっています。もちろんこちらもビートやヘヴィなギター、ボーカルが存在しないインストゥルメンタル楽曲ですが、メタルファンなら「Io」「Ea」よりは退屈さを感じないのかもしれません。個人的にはこっちの手法のほうがより好みでした。

 


▼BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』
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2022年3月16日 (水)

DREAM THEATER『SIX DEGREES OF INNER TURBULENCE』(2002)

2002年1月29日にリリースされたDREAM THEATERの6thアルバム。日本盤は同年1月23日先行発売。

ジョーダン・ルーデス(Key)を迎えた新編成で制作されたバンド初のコンセプトアルバム『METROPOLIS PT.2: SCENES FROM A MEMORY』(1999年)がある一定の高評価を獲得したことで、現在の方向性に確信を持てたDREAM THEATER。この自信を糧に、バンドは同じ方向性を保ちつつ、引き続きコンセプチュアルでトータル性の強いアルバム作りに取り組みます。

前作から2年3ヶ月ぶりとなる新作は、キャリア初となるCD2枚組スタジオアルバム。そのテーマはオープニングトラック「The Glass Prison」で歌われているマイク・ポートノイ(Dr)のアルコール依存症の治療を筆頭に、全6曲を通じて人生における苦しみや心の中にある6つの不穏(乱れ、動揺)が表現されています。また、DISC 1では10分超の楽曲3曲を含む前5曲が、従来のテクニカルかつプログレッシヴなテイストで表現。オープニングの「The Glass Prison」がいきなり約14分もの組曲というのも、前作で得た自信が成せる技かな。でも、この敷居の高い1曲を楽しむことができれば、しの後に続くめくるめくDTワールドを心置きなく楽しめるはずです。

そして、DISC 2は8つのパートで構成された42分にもおよぶ一大組曲「Six Degrees Of Inner Turbulence」を収録。クラシカルかつドラマチックな「I. Overture」からスタートするこの組曲では双極性障害やPTSD、統合失調症、産後うつ、自閉症、解離といったさまざまな精神疾患や状態異常を計6ケース取り上げられており、例えば「II. About To Crash」では爽快感の強いAOR寄りのプログロック、「III. War Inside My Head」では変拍子を多用したヘヴィメタル、「VI. Solitary Shell」では穏やかなフォークロックのように、各パートごとにバンドが影響を受けた音楽がストレートに表現されています。

リリース当時はCD2枚に全6曲で、トータル96分とそのボリュームに若干引いてしまいましたが、個人的には『METROPOLIS PT.2: SCENES FROM A MEMORY』よりも聴きやすい印象を受けたのもまた事実。前作ほどストーリー性が強くないこともあってか、1曲1曲が独立した存在として楽しめるのも本作の良いところで(組曲「Six Degrees Of Inner Turbulence」を除く)、かつこれまでのキャリアを総括するようにさまざまなジャンルの楽曲が詰め込まれているのも聴きやすさに直結しているように感じました。

また、「Blind Faith」や「Misunderstood」のように穏やかな楽曲もあれば、「The Great Debate」のようにスリリングな楽曲もあるし、本作中もっとも短尺(6分50秒前後)でラジオやMTVでのヒットを意識したバラード曲「Disappear」もある。闇を抱えたテーマということもあり、DISC 1は華やかさよりも穏やかでディープな側面が目立つのも聴きやすさの要因ではないでしょうか。

そして、組曲としても単曲としても楽しむことができるDISC 2の「Six Degrees Of Inner Turbulence」は、DISC 1とは異なる趣でバンドの多面性を堪能することができる。モダンなプログメタルは苦手だけどクラシカルなプログレッシヴロックは大好きという旧世代のリスナーにも存分にアピールする内容かと思います。

バンドとしてもここでひとつ、これまでの活動を総括するような傑作をまとめ上げることができたのではないでしょうか。『IMAGES AND WORDS』(1992年)から10年という節目に本作へと到達できたことで、DTは続く『TRAIN OF THOUGHT』(2003年)で次のステップに移ることになります。

 


▼DREAM THEATER『SIX DEGREES OF INNER TURBULENCE』
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DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: AWAKE DEMOS (1994)』(2022)

2022年2月25日にリリースされたDREAM THEATERのデモ音源集。日本盤は同年2月23日先行発売。

昨年6月からスタートした、バンドと所属レーベルInsideOutMusic Recordsとの共同企画によるオフィシャル・ブートレッグシリーズ『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES』の第7弾。今回はDREAM THEATERの3rdアルバム『AWAKE』(1994年)に収録された全11曲のデモテイクをまとめたもので、かつて自身のプライベートレーベルYtsejam Recordsから生産限定リリースしていた内容に最新リマスタリングが施されています。

ジェイムズ・ラブリエ(Vo)加入後2作目となる本作は、チャート的にも評価的にも一定の成功を収めた前作『IMAGES AND WORDS』(1992年)での作風とは少々異なる、ヘヴィさやダークさに特化した内容。このデモ音源集の日本盤解説を読んだとき、1993年8月に行われた二度目の来日公演ですでに本作から「The Mirror」の一部が披露されてたことが語られていますが、それを読んで同ツアーに参加していた僕は「……そういえばそうだった!」と急に記憶がフラッシュバックしました。「Take The Time」のイントロダクションとして演奏された、当時のMETALLICAPANTERAみたいにヘヴィな音像の楽曲は、ショッキングだったものの個人的にはツボでして。「仮にこの方向性で新作がまとめられたら、楽しそうだな」なんて思ったものでした。

その、個人的名盤のひとつのデモ音源集とあれば、そりゃ嫌いになれるわけがない。オーバーダブや端正なミックスが施される前の、非常に生々しい音源の数々は普通に楽しめるだけのクオリティを保っており、ぶっちゃけこれより酷いスタジオアルバムもあるのでは……というのは言い過ぎでしょうか(苦笑)。

もちろん、完成版を聴いたあとに触れたらアラが目立ちますし、ところどころでフラットするボーカルなども気にならないわけではありません。ドラムの「いかにもリハーサルスタジオで録りました」的な音質といい、褒められたものではないかもしれない。それでも、聴くに耐え得るクオリティだと思えるのは、楽曲や演奏の完成度が非常に高いから。「Scarred」の叙情的な空気感や「6:00」のタイトさ、「The Mirror」のヘヴィさ(そのまま「Lie」インストバージョンへとつなげる構成もすでに出来上がっていて、非常にカッコいい)など、とにかく聴きどころ満載。DTファンなら文句なしで楽しめる内容かと思います。

「The Silent Man」でのシンプルな質感も、ライブ感が強くて尚よし。全体的に深めのリバーブがかかった完成版よりも、この生々しさのほうが好みかも。残念ながら「Lie」のみ音質がイマイチですが、その後の「Lifting Shadows Off A Dream」や「Innocence Faded」、そして「Space-Dye Vest」が素晴らしいので目をつぶることにします。やっぱり「Space-Dye Vest」、良いですよね。もしかしたら完成版よりもこっちのほうが好みの質感かも。

一部で完成版との違いも味わえるものの、大まかな骨格はデモの段階でほぼ出来上がっていることに気付くことができるという意味では、このバンドのこだわりの強さを再確認できる良企画ではないでしょうか。今後は既発音源集のリマスター盤のみならず、Ytsejam Records未発売の音源リリースにも期待したいところです。

 

 
▼DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: AWAKE DEMOS (1994)』
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2022年3月15日 (火)

ROLO TOMASSI『WHERE MYTH BECOMES MEMORY』(2022)

2022年2月4日にリリースされたROLO TOMASSIの6thアルバム。日本盤未発売。

ROLO TOMASSIは紅一点のエヴァ・コーマン(Vo)をフロントに配した、英・シェフィールド出身の5人組ポストハードコア/マスコアバンド。2005年に結成されると、1stアルバム『HYSTERICS』(2008年)を筆頭に実験性が強く叙情性をはらんだメタルコアサウンド、ささやくような歌声と激しいスクリームを併用したエヴァのボーカルを武器に高い評価を獲得してきました。

新たにMNRK Heavyと契約し、前作『TIME WILL DIE AND LOVE WILL BURY IT』(2018年)から約4年ぶりに届けられた今作。プロデューサーにルイス・ジョーンズ(FUNERAL FOR A FRIEND、EMPLOYED TO SERVE、GRAND COLLAPSEなど)を迎えた、緩急/強弱のダイナミズムが際立つ1枚に仕上がっています。

複雑なリズムを含んだバンドアンサンブルとアンビエント色の強い音響系テクスチャーが程よいバランスで混在したサウンドは、モダンメタルリスナーのみならず実験性の強いオルタナティヴロックを好む層にも十分にアピールするものがあり、かつエヴァの透き通るような歌声も高い比率でフィーチャーされている。オープニングを飾る「Almost Always」のアンバランスさ(と同時に、ある意味では絶妙にバランスの均等がとれた歌とサウンド)は、一度聴いたらヤミツキになるのではないでしょうか。

かと思えばスクリームを多用した「Cloaked」、インダストリアルタッチのバンドアンサンブルやクリーントーン&スクリームが交互に訪れるボーカルアレンジが印象的な「Drip」など起伏に富んだ楽曲、「Closer」や「Stumbling」のようにムーディーな空気感を醸し出すミディアム/スローナンバーなどもあり、全体的な統一感は保ちつつも一筋縄でいかない作風で最後まで緊張感が保たれている。随所にフィーチャーされた、ドラマチックながらも不穏さを残すメロディアレンジもリスナーに引っかかりを残し、集中力を持続させてくれます。

また、「Cloaked」から「Mutual Ruin」、「Drip」から「Prescience」へのシームレスながらも唐突な曲間の“つなぎ”にもハッとさせられ、決して聴き流すことなんてできない。まるでミステリー作品を読み進めながら真相に近づいていくような、あのドキドキ感を10曲/約48分を通して疑似体験させてくれる良質なアルバムではないでしょうか。

表現の手法といい存在感といい、すべてにおいて非常に2022年的な1枚だと断言したい本作。間違いなく今年を代表する傑作のひとつとして、この先長きにわたり愛聴されることになるでしょう。いろんなアルバムに手を出しつつ、気付けば最後にはここにたどり着いている、そんな“今の自分の生活に欠かせない1枚”です。

 


▼ROLO TOMASSI『WHERE MYTH BECOMES MEMORY』
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2022年3月14日 (月)

KISS『LOVE GUN』(1977)/『LOVE GUN: DELUXE EDITION』(2014)

1977年6月にリリースされたKISSの6thアルバム。

全米11位を記録し、「Hard Luck Woman」(同15位)や「Calling Dr. Love」(同16位)というヒットシングルを生み出した前作『ROCK AND ROLL OVER』(1976年)から約7ヶ月という短いスパンで届けられたスタジオアルバム。1974年2月のデビュー以降、3年強の短期間でスタジオアルバム6枚、2枚組ライブアルバム1作という多作ぶりのKISSですが、本作はついに最高4位と(スタジオアルバムとしては初めて)全米TOP10入りを果たし、「Christine Sixteen」(全米25位)、「Love Gun」(同61位)などのヒットシングルも続出します。

前作から引き続きエディ・クレイマー(ジミ・ヘンドリクスデヴィッド・ボウイLED ZEPPELINなど)を共同プロデューサーに迎えたこともあり、サウンドの方向性的には前作の延長線上にあるタフなハードロック路線。よりライブを意識したドライブ感の強い楽曲が並び、特にオープニングを飾る「I Stole Your Love」の疾走感は、ライブの幕開けにもぴったりな仕上がり。ポール・スタンレー(Vo, G)によると、この曲は「Makin' Love」や「C'mon And Love Me」を下地にしながらも、DEEP PURPLEの名曲「Burn」から多大な影響を受けたそう。そう知ると、なるほどと納得するものがあります。

その後、ジーン・シモンズ(Vo, B)歌唱曲が2曲(「Christine Sixteen」「Got Love For Sale」)続き、さらにエース・フレーリー(G, Vo)歌唱の「Shock Me」が並ぶ構成は、過去数作からすると若干異質に映るのではないでしょうか。とはいえ、「Christine Sixteen」といい「Shock Me」といい当時の、そして以降のライブ定番曲が並ぶという点では本作がいかにライブに特化した取り組みから生まれたものだったかが伺えます。

グラマラスでキャッチーなメロディ&サウンドの「Tomorrow And Tonight」(ポール歌唱)でアナログA面を締めくくると、B面はタイトルトラック「Love Gun」からスタート。CDやサブスクの時代ではA面/B面の価値観がないので、ここでポール歌唱曲が2曲続くと思えば序盤のジーン歌唱連続も納得いくのでは。この「Love Gun」も現在までライブに欠かせない1曲ですし、ここまでの流れは満足感が強いものがあります。

その後、ピーター・クリス(Dr, Vo)歌唱の「Hooligan」あたりから若干トーンダウン気味に。ジーンが歌う「Almost Human」はコンガを強調したリズミカルなダークチューンで、同じくジーン歌唱の「Plaster Caster」も少々地味めな仕上がり。前半の華やかさを思えば、この3曲の流れには息切れ感を覚えずにいられません。そして、アルバムラストを締めくくるのはTHE CRYSTALS「Then He Kissed Me」の改名カバー「Then She Kissed Me」。オールディーズテイストのシンプルなアレンジのこの曲を、ポールが穏やかめなトーンで歌いしっとりとアルバムのラストを飾ります。「Christeen Sixteen」の作風も同系統なのもあり、世界観的には全然アリ。ただ、「Love Gun」で迎えたピークを再度超えることなく終わることで消化不良を起こすかもしれません。

単に時間が足りなかったのか、アイデア切れだったのか。完成度としては『ROCK AND ROLL OVER』よりも劣る結果となってしまいましたが、前半6曲が非常に良い出来だけに失敗作と切り捨てることもできない。特に本作はタイトルトラックが収録されていることで擁護されてる感が強い1愛かもしれませんね。

 


▼KISS『LOVE GUN』
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なお、本作は2014年10月28日にリマスタリング&ボーナスディスクを追加したデラックス・エディションが発売されています。気になるDISC 2にはアルバム本編収録曲(「Plaster Caster」「Love Gun」「Tomorrow And Tonight」)のデモ音源に加え、未収録曲「Much Too Soon」「Reputation」「I Know Who You Are」のデモ(すべてジーン制作&歌唱曲)、1977年当時のジーンの電話インタビュー(約7分)、そして「Love Gun」「Christine Sixteen」「Shock Me」の1977年当時のライブ音源を収録。未発表曲はアルバム本編のカラーとは若干異なるものがありますが、アルバム後半のノリに近いタッチなのでこういう方向性も当時持っていたということが垣間見えます。

また、ポールによる「Love Gun」のコード進行/リフの流れを伝える“Teaching Demo”も収録。きっとメンバー(主にエース)に向けて制作されたものだと思いますが、ギターを弾く人ならポールがこんなに丁寧に教えてくれる音源は貴重に感じられるはず。そこを経て「Love Gun」のデモ音源を続けて聴くと、曲の構成をより深く理解することができることでしょう。なお、この「Love Gun」のデモ音源にはエディ・クレイマーによりシンセも被せてある状態なので、ほぼ完成版に近い仕上がりです。

ライブ音源3曲は大会場で収録されたものがわかるミキシングで、演奏/パフォーマンスの出来は最高とは言い難いものの、編集されまくった『ALIVE II』(1977年)よりも生々しさが伝わる録音は個人的に好み。そういった意味では、現在の“OFF THE SOUNDBOARD”に通ずるものがあるのではないでしょうか。

 


▼KISS『LOVE GUN: DELUXE EDITION』
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KISS『OFF THE SOUNDBOARD: LIVE IN VIRGINIA BEACH』(2022)

2022年3月11日にリリースされたKISSの最新ライブアルバム。

KISSが新たに立ち上げたオフィシャル・ライブ・ブートレッグ・シリーズ“OFF THE SOUNDBOARD”の第2弾。昨年6月発売の第1弾『OFF THE SOUNDBOARD: TOKYO 2001』(2021年)は、そのタイトルからもわかるように2001年3月13日に行われた東京ドームでの日本公演の模様が、余すところなく音源化されました(その当時のレポートはこちら)。続く第2弾はポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, G)、トミー・セイヤー(G, Vo)、そして2004年にバンドに復帰したエリック・シンガー(Dr, Vo)という現在まで続く編成による初の全米フルツアー『Rock The Nation Tour』から、2004年7月25日にアメリカ・バージニア州のVirginia Beach Amphitheatre公演をフル収録したものです。

2001年の東京公演以降はエース・フレーリー(G, Vo)の再脱退&トミー・セイヤーの加入、ピーター・クリス(Dr, Vo)の出戻り〜再脱退があり、バンドとしては決して順風満帆とは言い難い時期を乗り越えての全米ツアー。『Farewell Tour』として実施された2000〜1年のツアーも意味をなさず、新作リリースも途切れ、ライブアルバムや過去の楽曲をまとめたコンピレーションアルバムの続発で食いつないでいたタイミングでもあり、バンドとしてはアメリカでの起死回生を賭けたツアーだったとも言えます。

そんなタイミングの『Rock The Nation Tour』当時、ポールは52歳、ジーンは54歳、トミーは43歳、エリックは46歳と特にポール&ジーンはシンガーとして下り坂に入り始めたタイミング。たった3年の差とはいえ、『OFF THE SOUNDBOARD: TOKYO 2001』でのパフォーマンスと比べるとそのクオリティの劣化にまず驚かされます。オープニングの「Love Gun」が始まった瞬間に演奏自体もテンポが異常に遅かったり、ポールの歌声がガサガサだったりと、その“変化”に「あれっ?」と思うのではないでしょうか。

しかも、過去のKISSだったら「Love Gun」のエンディングから間髪入れず2曲目の「Duece」へとつなげる印象がありますが、ここでひと呼吸置いて2曲目へと入る構成にんもテンポの悪さを感じずにはいられません。さらに極め付けは、3曲目「Makin' Love」の遅さ&ユルさ……さすがにここまで聴いて、一度は再生をストップしてしまいました。こんなの、自分が好きなKISSじゃないし、聴きたかったKISSのライブ演奏じゃない、と。

もちろん、近年の彼らはずっとこんな感じでしたが、きっとライブ会場で絵付きで聴くとアドレナリンがみなぎり、そういったアラに目を瞑っていたのかもしれません。音だけになると(しかも変に編集が施されていないと)残酷なものですね。

しばらく時間が経ってから、気を取り直して聴くのを再開したのですが、「Christine Sixteen」あたりからこの“ノリ”にも不思議と慣れてきます。「Lick It Up」や「Tears Are Falling」といった80年代の楽曲はさすがにユルいなと感じずにはいられませんでしたが、「She」での(この時期、年齢ならではの)気迫に満ちたプレイは聴きどころだと思いますし、以降もバンドとしての“熱”が上がっていき、最終的にはいつものKISSを堪能できたと満足している自分に気付きました。なにより『OFF THE SOUNDBOARD: TOKYO 2001』では披露されていなかった「Got To Choose」や「I Want You」「King Of The Night Time World」「War Machine」「Unholy」などといった楽曲をライブテイクで楽しめるのも、本作ならでは。「Got To Choose」などは逆にこれくらいのテンション/テンポ感が魅力的に映りますし、「I Want You」はテンポを落とすことで楽曲本来のヘヴィさがよります結果につながっているし、すべてがすべて悪いわけではないのです。

そりゃあ、初期の『KISS ALIVE!』(1975年)『ALIVE II』(1977年)、あるいはノーメイク時代の『ALIVE III』(1993年)あたりと比較してしまうのは酷ですが、50年前後におよぶ歴史の後半を正確に記録したという意味では非常に価値のある作品ではないでしょうか。誰も彼もにオススメする内容ではありませんし、KISSビギナーが真っ先に手に取る代物でもありませんが、かつてKISSに課金しまくって人生を狂わされた 夢中になった世代にはリアルに響く1枚(2枚組)だと思います。

 


▼KISS『OFF THE SOUNDBOARD: LIVE IN VIRGINIA BEACH』
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2022年3月13日 (日)

GHOST『IMPERA』(2022)

2022年3月11日にリリースされたGHOSTの5thアルバム。

本国スウェーデンでの3作連続1位はもちろんのこと、全米3位や全英10位という高記録を樹立した前作『PREQUELLE』(2018年)から3年9ヶ月ぶりの新作。その間には二度目の来日公演(2019年3月の『DOWNLOAD JAPAN 2019』にて)が実現し、グラミー賞2部門にノミネートされるたほか、GUNS N' ROSESMETALLICAなどビッグアクトのオープニングアクトを経験するなど世界的な成功を収めています。

2020年のコロナ禍以降は楽曲制作に集中してきたトビアス・フォージ(Vo)。本作の制作期間は1年以上にも及び、同年後半になるとようやくジョン・カーペンター監督作品『ハロウィンKILLS』への楽曲提供や、METALLICAの『ブラックアルバム』(1991年)トリビュートアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)への参加で久しぶりに大きな話題を提供。その流れで、本作がついに登場することになります。

プロデュースを手がけたのは、3rdアルバム『MELIORA』(2015年)以来となるクラス・アーランド(マドンナ、ケイティ・ペリー、ブリトニー・スピアーズなど)が担当。ミックスには前作から引き続きアンディ・ウォレス(SLAYERLINKIN PARKFOO FIGHTERSなど)が起用され、文句なしの世界標準作に仕上げられています。また、前作ではトビアスは初期3作から続いた“パパ・エメリトゥス”から離れ、新たなビジュアルを用いたコピア枢機卿としてステージに立ちましたが、今作では2作ぶりにパパ・エメリトゥスが復活。過去3作を踏襲したパパ・エメリトゥス4世として、孤立と半神崇拝、空間と精神の植民地化をテーマに制作された楽曲を歌い継いでいきます。

アルバムはドラマチックなイントロダクション「Imperium」からスタート。この短い曲を経てなだれれ込む「Kaisarion」の開放感、爽快感の強さといったら……最高の幕開けではないでしょうか。さらに、「Kaisarion」は序盤のストレートなノリから、後半に入るとプログロック的に派手な曲展開を迎える。前作での“ダークながらもわかりやすい”作風からダークさを薄め、わかりやすさにより磨きをかけた、究極の1枚になりそうな予感はこの冒頭2曲からもしっかり伝わります。

そこから従来のGHOSTらしいメランコリックなメロディが魅力のハードロック「Spillways」が、予感を確信に変えてくれる。相変わらず楽曲の完成度の高さはお見事の一言で、それもそのはず、今作にはアヴィーチーの作品にやGHOSTのヒット曲「Dance Macabre」などを手掛けたヴィンセント・ポンターレとサレム・アル・ファキール、ザ・ウィーケンド作品への参加でも注目されるスウェーデン人ミュージシャンのマックス・グラーン、THE CARDIGASのギタリストでメインソングライターでもあるピーター・スヴェンソンなどの共同制作陣にクレジットされているのですから。特に「Spillways」は、「Dance Macabre」のソングライティングチームによるものということで、その充実度の高さにも納得です。

「Call Me Little Sunshine」では前3曲の開放感から一変、密教的なダークさを感じさせるヘヴィサウンドを展開。続く「Hunter's Moon」は昨年後半、映画『ハロウィンKILLS』のエンドロール曲として先行公開されていた“いかにもハリウッド・ホラー映画のエンドロールで流れそうなハードロック”ナンバーで、このアルバムのテイストにも見事に馴染んでいる。GHOSTの楽曲には往年の80's HR/HMを彷彿とさせるノスタルジックなものが多いですが、この曲もまさにそのひとつ。かつ、そこに味付けとしてモダンなアレンジを施すことによって現代的にブラッシュアップされ、今の耳で聴いてもまったく古臭いと感じることがない。このさじ加減が毎回絶妙なのですが、今作はそのセンスにさらに磨きがかかった印象を受けます。

アルバム前半を締めくくる「Watcher In The Sky」も、前曲「Hunter's Moon」からの流れを汲むテイストですが、味付けでいったらモダンさがより強まっている。似たような方向性でも、こういった曲ごとのさじ加減によって喧嘩を生み出しているし、かつ演奏陣の生み出す多彩なサウンドにも大いに助けられている。特にギターに関しては、フレドリック・オーケソン(OPETH)のゲスト参加が非常に良いアクセントを生み出す結果につながったのではないでしょうか。

RPGのオープニングのような壮大さを感じさせる短尺SE「Dominion」を挟んで、アルバムは後半戦に。ここから第二部に突入するという合図のような1曲を経て始まる「Twenties」は、確かに前半までの世界観とは若干に違いを伝える作風です。冒頭のドラマチックな管楽器の重奏、そこからなだれ込むバリバリ変拍子のヘヴィなリズム、厚みのあるクワイアなどの要素が重厚な世界観を見事に演出。トビアスの歌う抑揚が少ないメロディラインにも、前半の色彩豊かな作風との差別化が図られているように感じられます。

続く「Darkness At The Heart Of My Love」では重厚な世界観は引き継がれつつ、ドラマチックさが徐々に増していく。シンプルなビートに重なるアコースティックギターの3連アルペジオ、引き続きフィーチャーされるクワイア、フレドリックによるエモーショナルなギタープレイなどシンプルなアレンジの中にも聴きどころが多く、ファンタジー色の強い映画のいち場面を思わせる世界を楽しむことができるはずです。

「Griftwood」は後方性には「Spillways」系統ですが、ちょっとしたタッチに違いを感じ取ることができる。このへんもアルバム前半/後半のテイストに沿ったアレンジが施されている気がします。特にこの「Griftwood」は、中盤にビートが2分の1になるアレンジがキモで、どことなくABBAあたりの北欧ポップスの流れを汲む印象を受けるのですが……それもそのはず、THE GARDIGANSのピーター・スヴェンソンがコライトで加わっているんですもの。ナイスサポートです。

そしてアルバムは、ギターのアルペジオのみで形成されたイントロダクション「Bite Of Passage」から「Respite On The Spitalields」へと続きクライマックスへ。不穏な音階を用いたこのミディアムナンバーは、曲の進行にあわせて激しさやドラマチックさが増していく。系統的にはパワーバラードの範疇に入るものですが、そこに一筋縄ではいかない味付けが加わることで見事にGHOSTらしい楽曲へと昇華。適度なプログロック感とヘヴィロックらしさ、さらに適度な北欧ポップス色も加わり、聴く人によって見え方/響き方が少しずつ異なる出色の仕上がりに。まさに第二章のクライマックスおよびアルバムのエンディングにふさわしい1曲ではないでしょうか。

以上、あまりの素晴らしさに1曲1曲丁寧に解説してしまいましたが、そうしたくなるほどの完成度/充実度の高いこのアルバム、世界的に高評価を獲得した前作『PREQUELLE』を軽く超えた傑作だと断言させてください。北欧やヨーロッパでは前作以上の成功を収めることは間違いないと思いますが、ロック低迷なアメリカでもぜひ前作並みのチャートアクション/評価を獲得することを願ってやみません。

 


▼GHOST『IMPERA』
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2022年3月12日 (土)

ブライアン・アダムスのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスの最新オリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』(2022年)、素晴らしい内容でしたね。この新作を機に、ぜひ若い世代にも彼の名作たちに触れていただきたい(そのためのサブスクリプションサービスですしね)。しかし、数あるオリジナルアルバムのどれから手を出したらいいのか、せっかくならオイシイとこ取りして手軽に楽しみたい! そういう方のために、このエントリーでは複数制作されている彼のベストアルバム/グレイテストヒッツアルバムを簡単に紹介していきたいと思います。

紹介するのは、アーティスト主導で制作された4作品。レーベル主導で販売された『ICON』(2010年)は除外しています。このエントリーを頼りに、どの時代のどの作品が自分に適しているか、吟味してみてください(もちろん、ヒット曲/代表曲の被りが多いので、全部手を出す必要はありません)。

 

 

『SO FAR SO GOOD』(1993)

 

1993年11月2日発売の、ブライアン・アダムス初の公式ベストアルバム(日本盤は同年11月8日発売)。CD1枚モノ。

過去には日本限定で『HITS ON FIRE』(1988年)という2枚組作品(DISC 1が当時の最新作『INTO THE FIRE』、DISC 2に『CUTS LIKE A KNIFE』『RECKLESS』からのヒットシングルに加え、アルバム未収録のシングルB面曲やライブテイクをコンパイル)が限定販売されましたが、ワールドワイドでのベストアルバムは今作が初めて。全米ブレイクのきっかけとなった3rdアルバム『CUTS LIKE A KNIFE』(1983年)からシングル3曲、メガヒットとなった4thアルバム『RECKLESS』(1984年)からは全米1位を記録した「Heaven」を含む6曲、5thアルバム『INTO THE FIRE』(1987年)からは「Heat Of The Night」1曲のみ、そして当時の最新オリジナルアルバムである6thアルバム『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)からは世界的大ヒット曲「(Everything I Do) I Do It For You」を含む3曲をピックアップ。さらに、本作のみの新曲としてシングルヒット(全米7位/全英2位)もした「Please Forgive Me」が用意されています。

『CUTS LIKE A KNIFE』『RECKLESS』からのヒットシングルは網羅されていますが、『INTO THE FIRE』からは「Hearts On Fire」(全米26位/全英57位)、「Victim Of Love」(全米32位/全英68位)の2曲、『WAKING UP THE NEIGHBOURS』からは「There Will Never Be Another Tonight」(全米31位/全英32位)、「Thought I'd Died And Gone To Heaven」(全米13位/全英8位)、「All I Want Is You」(全英22位)あたりのシングル曲が選外に。かつ、このアルバムと同時期にリリースされ大ヒット中だった、映画『三銃士』の主題歌として制作されたロッド・スチュワートスティングとのコラボ曲「All For Love」(全米1位/全英2位)も未収録となっています。

『WAKING UP THE NEIGHBOURS』が引き続きロングヒット中だった時期の1枚ということもあり、80年代のブライアンをおさらいするに最適な内容。ブレイク前の1stアルバム『BRYAN ADAMS』(1980年)、2ndアルバム『YOU WANT IT YOU GOT IT』(1981年)は気持ち良いくらいにスルーされているのも納得です。非シングル曲の「Kids Wanna Rock」(『RECKLESS』収録曲)も選ばれていることもあり、本作と『WAKING UP THE NEIGHBOURS』を持っていれば、この時点でのブライアン・アダムズはほぼ網羅できるといったところでしょうか。

実は、このテキストを書き始めて初めて気づいたのですが、先月まで配信されていた本ベストアルバム。いつの間にかサブスクから消えてます。あれ、もしかしてこの時点で企画倒れでは……(汗)。

 


▼BRYAN ADAMS『SO FAR SO GOOD』
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『THE BEST OF ME』(1999)

 

1999年11月15日発売の、ブライアン・アダムス2作目のベストアルバム(日本盤は同年11月17日発売)。CD1枚モノ。

『SO FAR SO GOOD』から6年のスパンを経て制作された本作ですが、その間にオリジナルアルバムは『18 'TIL I DIE』(1996年)『ON A DAY LIKE TODAY』(1998年)の2枚しか出ておらず、かつ両作ともアメリカではかつてのようなヒットにはつながっていないこともあってか、本ベストアルバムが全米リリースされるのは2001年になってからでした。

全16曲の収録曲のうち『SO FAR SO GOOD』との被りは5曲と意外に少なめで、その内訳は4thアルバム『RECKLESS』から2曲(「Summer Of '69」「Run To You」と地味なセレクト)、6thアルバム『WAKING UP THE NEIGHBOURS』から2曲(「Can't Stop This Thing We Started」「(Everything I Do) I Do It For You」)、1stベストアルバム『SO FAR SO GOOD』から当時の新曲「Please Forgive Me」、アルバム未収録だったブライアン&ロッド・スチュワート&スティングによる「All For Love」(1993年)、7thアルバム『18 'TIL I DIE』から4曲、8thアルバム『ON A DAY LIKE TODAY』から3曲(うち「Cloud Number Nine」は未発表リミックスバージョン)、そして1997年に発表されたライブアルバム『MTV UNPLUGGED』のみ収録の新曲2曲(「I'm Ready」「Back To You」)と、本作のために制作された新曲「The Best Of Me」。『SO FAR SO GOOD』が80年代のUSヒットに寄せたものだとしたら、本作は90年代以降のUKヒットを総括した内容といったところでしょうか。

上記のように『SO FAR SO GOOD』との被りが比較的少ないこともあり、1993年以降の90年代を振り返る意味では非常に手軽な内容と言えます。とはいえ、本作も泣く泣くカットされた90年代のヒット曲が少なくないので、『SO FAR SO GOOD』同様にあくまでビギナー向けの1枚といったところでしょうか。

なお、本作も2022年2月までサブスク上で確認できたものの、気づけば『SO FAR SO GOOD』とともに消えてしまいました。

 


▼BRYAN ADAMS『THE BEST OF ME』
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BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』(2022)

2022年3月11日にリリースされたブライアン・アダムスの15thアルバム。日本盤未発売。

本作の1週間前には、過去に手がけたミュージカル『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』の劇中音楽をすべて自身のバンドで再録した準新作『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』(2022年)をデジタルリリースしたばかりのブライアン。純粋なオリジナルアルバムとしては、エド・シーランとの共作なども話題となった『SHINE A LIGHT』(2019年)以来3年ぶりとなります。また、デビュー以来長きにわたり在籍してきたUniversalグループを離れ、新たにBMGと契約しての第1弾アルバムでもあり、残念ながら日本盤発売は現時点で予定されていません。ブライアン・アダムスの新作が日本発売されない日が来るとは……。

さて、今作はコロナ禍においてブライアンがひとりでスタジオに籠り、それまで書き溜めてきた新曲のアイデアをひとまとめにし、多くの楽曲をセルフプロデュース&多重録音にてまとめあげた意欲作。全12曲中7曲をセルフプロデュースで仕上げ、ギターやベース、オルガンやピアノ、パーカッションのみならず、9曲でドラムも披露しています。もちろん、一部楽曲では盟友キース・スコット(G)もプレイ。残念ながらミッキー・カリー(Dr)は不参加で、代わりに3曲でパット・スチュワートが叩いています(「Never Gonna Rain」「Always Have, Always Will」のMVにもブライアン、キースと共に参加)。

また、セルフプロデュース以外の5曲では30年来の付き合いとなるロバート・ジョン・“マット”・ラングとの共同プロデュース。マット・ラングとは『11』(2008年)以来14年ぶりのコラボレーションとなり、ソングライティング面でも7曲にクレジットされています。もちろん、デビューからタッグを組み続けるジム・ヴァランスの名前も3曲で見つけることができ、ある意味では“Teamブライアン・アダムス”から厳選されたメンバーが揃った珠玉の1枚と言えるのではないでしょうか。

実際、その内容も王道のブライアン・アダムス節炸裂のロック&ポップアルバムに仕上がっており、かつ1曲1曲が非常にコンパクトにまとめられているのでかなり聴きやすい。イギリスのコメディアン、ジョン・クリーズによるナレーションをフィーチャーした「Kick Ass」のみ5分超えですが、そのほかの楽曲はすべて2〜3分台。この方向性は近作同様ですが、その作り込みと“引き算”にはさらに磨きがかかり、ここ最近のスタイルにおける集大成のような内容と言えるでしょう。

マット・ラングが関わっていることもあり、大ヒット作『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)を踏襲している部分も要所要所に見受けられますが、サウンド作りやアレンジに関してはむしろジェフ・リンとタッグを組んだ前々作『GET UP』(2015年)の流れを汲むものではないでしょうか。ドラムサウンドやギターの重ね方などからはジェフ・リン仕事の影響が大いに感じられ、そのハイブリッド感に思わずニヤリとさせられます。

楽曲自体も良い意味で肩の力が抜けた、齢62歳のブライアンらしい等身大の“大人のロック&ポップス”といった感じ。タイトルトラック「So Happy It Hurts」での無駄に力まない作風や、ダルでソウルフルなミディアムロックの「Never Gonna Rain」、ミディアムバラードスタイルにレゲエ的ギターストロークをフィーチャーした「Always Have, Always Will」などは、20〜30代の血気盛んな時期には表現できないものではないでしょうか。かと思えば、オールドスクールなロックンロール「I've Been Looking For You」や「Just About Gone」があったり、“R&R is dead”な時代に高らかとロックンロール宣言を掲げる「Kick Ass」、『RECKLESS』(1984年)『INTO THE FIRE』(1987年)での経験が活きた「On This Road」「I Ain't Worth Shit Without You」など、“ロックンロールヒーロー”ブライアン・アダムスに求めるパブリックイメージどおりの楽曲も多数用意されています。

と同時に、90年代のメガヒットバラードの系譜にある「You Lift Me Up」、ビートこそ強いものの演奏自体はリラックスモードのミディアムバラード「Let's Do This」、軽やかなポップチューン「Just Like Me, Just Like You」、アルバムの締めくくりにふさわしいドラマチック&エモーショナルな「These Are The Moments That Make Up My Life」など、バラードシンガー/ポップアーティストとして彼を捉えているリスナーにも十分にアピールするソフトサイドも十分に用意。全12曲という限られた収録曲の中で自身に求められるものを見事な形で(しかも2022年版にアップデートして)提供するという、理想的な1枚に仕上がりました。完璧なまでに従来のブライアン・アダムスらしい1枚であり、同時に未来もしっかり感じさせる1枚でもある。2000年代以降も平均点以上のアルバムを制作してきた彼ですが、ここにきて2000年代以降の名刺代わりとなるアルバムを生み出せたのではないでしょうか。

個人的には『RECKLESS』や『INTO THE FIRE』、そして『WAKING UP THE NEIGHBOURS』や『18 'TIL I DIE』(1996年)といった傑作&ヒット作と肩を並べる、今後ブライアンの代表作だと断言します。いやあ、素晴らしい。と同時に、昨日紹介した『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』と併せて聴くことで、近年のソングライターとしての仕上がりっぷりをたっぷり味わえるはず。まさに表裏一体、対となる2枚だと思います。

 


▼BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』
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2022年3月11日 (金)

BRYAN ADAMS『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』(2022)

2022年3月4日にデジタルリリースされたブライアン・アダムスの新録音源集。

本日3月11日には約3年ぶりのオリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』(2022年)をリリースしたばかりのブライアンですが、その1週間前にデジタル配信されたのがこの全曲新録音源による“もうひとつのニューアルバム”。とはいえ、楽曲自体は数年前に発表済みなんです。

というのも、本作はそのタイトルからもわかるように、2018年初演の同名ミュージカル『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』で使用された楽曲で構成されたもの。同ミュージカルの楽曲はすべてブライアンと盟友ジム・ヴァランスによって書き下ろされたもので、劇中ではすべてキャストが歌っていました(ブライアンも2019年の300講演目にゲスト出演し、一緒にパフォーマンス)。つまり、このアルバムには以前書き下ろした楽曲をすべてブライアン自身がセルフカバーした内容なのです。そういった意味で、“もうひとつのニューアルバム”なのです。

ブライアン&ジム・ヴァランスという『RECKLESS』(1984年)などを生み出した黄金コンビの書き下ろし曲だけあって、その楽曲群はどこからどう聴いてもブライアンのオリジナル曲そのもの。多少ミュージカル向けに派手&ポップさを強めた作風ではあるものの、自身のアルバム用にバンドアレンジが新たに施されたことで随所に彼らしいロック感が散りばめられており、ミュージカル作品ということを知らずに聴いても十分にブライアンの新作として通用する仕上がりではないでしょうか。

さすがに劇中で歌われることもあって、どの曲も非常にキャッチー。オープニングを飾る「Welcome To Hollywood」のドラマチックなアレンジはさすがミュージカルといった印象ですが、以降に並ぶロックロックチューン/ポップナンバー/スローバラードの数々はすべてシングルレベルのクオリティで、親しみやすさでは『RECKLESS』や『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)といったメガヒット作に並ぶ高品質な内容です。

現時点では『SO HAPPY IT HURTS』のすべてを聴けていないので、一概に比較は難しいですが、『SO HAPPY IT HURTS』がコロナ禍以降のマインドで向き合った等身大の“大人のロックンロール”だとしたら、本作で表現されているのはミュージカルをモチーフに大衆性に特化した“エヴァーグリーンな名曲集”。ある意味では対局であり、またある意味では対になる2枚と言えるのではないでしょうか。

ビートルズを通過したポップチューン「On A Night Like Tonight」もあれば、いかついロックンロール「Rodeo Drive」もあるし、爽快感の強いポップロック「Anywhere But Here」や流麗なピアノバラード「Luckiest Girl In The World」、ジャジーなテイストの「Don't Forget To Dance」、ブライアン・アダムス流王道ロック「You're Beautiful」、グルーヴィなミディアムナンバー「Never Give Up On A Dream」など、とにかくカラフルな楽曲が全16曲とボリューミーですが、ミュージカル向けということもあってか1曲1曲が2〜4分程度と非常にコンパクト。なもんで、トータルでは約51分とそこまで長く感じないのも、本作の良い点かな。バラードタイプの曲が多めなのはミュージカルという作品ありきなので目をつぶるとして、彼のポップマエストロ的側面を思う存分に楽しめる良質な内容なのは間違いない事実。そういった意味でも、『SO HAPPY IT HURTS』とあわせて楽しむべき“裏ベスト”的な1枚かもしれません。

現時点ではストリーミングとデジタルダウンロードでしか聴くことができない本作、この夏にはフィジカルでのリリースも予定されているとのこと。あえて『SO HAPPY IT HURTS』と時期をずらすことで、同作のフィジカルセールスを落とさないようにしているのかな。なんにせよ、1年を通じて話題が途切れないのは良いことです。

 


▼BRYAN ADAMS『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』
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2022年3月10日 (木)

SUPERCHUNK『WILD LONELINESS』(2022)

2022年2月25日にリリースされたSUPERCHUNKの12thアルバム。

前作『WHAT A TIME TO BE ALIVE』(2018年)から4年ぶりの新作。前作も4年半というスパンを経て届けられた1枚だったので、ここ最近のリリースペースどおりといったところでしょうか。といっても、その間にはアコースティックアルバム『ACOUSTIC FOOLISH』(2019年)もありましたし、特にここ2年はコロナの影響もあったので、もしかしたら思ったよりも早く着手&完成したんじゃないかという印象もありますが。

前作は当時アメリカ大統領だったドナルド・トランプに向けた“怒り”がダイレクトに表現された、まさにアメリカで生活する彼らの日常に根付いた1枚でしたが、今作では昨今のコロナ禍で失ったものを歌うのではなく、逆に感謝すべきことについて歌っているとのこと。そのポジティブシンキングは音楽面にもダイレクトに表れており、随所にフィーチャーされたピアノに加え、「Highly Suspect」でのブラスセクションやタイトルトラック「Wild Loneliness」でのアンディ・スタック(WYE OAK)のサックス、「This Night」でのオーウェン・パレットによるストリングスなど、多彩さに満ちあふれた楽曲群を楽しむことができます。

また、そういった彩り豊かなサウンドを豪華ゲスト陣がバックアップ。「On the Floor」には元R.E.M.のマイク・ミルズがボーカルで参加したほか、「Endless Summer」にはTEENAGE FANCLUBのノーマン・ブレイク&レイモンド・マッギンリーがハーモニーで加わり、さらにシャロン・ヴァン・エッテン、フランクリン・ブルーノ、トレイシーアン・キャンベル(CAMERA OBSCURA)などバラエティ豊かな面々が華を添えています。

こうした多数のゲスト参加が実現したのも、今作をリモートレコーディングで制作したことが大きな要因。バンド4人のベーシックトラックも離れ離れで録音が進められたことで、住む場所や国が異なる面々にも気軽に声をかけることができた。また、誘われたほうもデータのやり取りで済むことから自宅などで気軽に録音できる。対面できないという点での不便さは残りますが、ある意味では以前よりもコラボレーションが手軽に済ませられるようになった利点のほうが大きい。こうした意外な共演は今後もさまざまな場面で増えていくんでしょうね。

そういったオープンマインドでポジティブな姿勢は楽曲自体にもストレートに表現されており、前のめり加減が印象的だった前作と比べるとアコースティックギターを随所に使用したことでゆったりと落ち着いた空気が全体を覆っている。もちろん、疾走感の強い楽曲も複数存在しますが、それらも以前より余裕を持って楽しんでいる様子が伝わる。制作過程を知らずに聴いたら、きっとスタジオで膝をつけ合わせてセッションしながらレコーディングしたアルバムだと感じるんじゃないでしょうか。それくらい、全体から伝わるリラックス感と優しさは2022年という時代だからこそ強く響くものがあります。素敵じゃないか。

オルタナティヴロックとかパワーポップとか、そういうジャンル分けすらもはや不要な、普遍性の強い1枚をキャリア30年超のバンドがリモートで作り上げたという事実。脱帽ものです。現実に疲れたとき、いろんなことを諦めざるを得ないとき、このアルバムを再生するだけで心の豊かさを取り戻せる。そんな1枚としてこの先も愛聴していくことになりそうです。

 


▼SUPERCHUNK『WILD LONELINESS』
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2022年3月 9日 (水)

TEARS FOR FEARS『THE TIPPING POINT』(2022)

2022年2月25日にリリースされたTEARS FOR FEARSの7thアルバム。

3rdアルバム『THE SEEDS OF LOVE』(1989年)ぶりにカート・スミス(Vo, B)が復帰し、ローランド・オーザバル(Vo, G)とのデュオ体制に戻って制作された前作『EVERYBODY LOVES A HAPPY ENDING』(2004年)から実に17年半ぶりのオリジナルアルバム。前作が全英45位/全米46位と低調に終わったのに対し、本作は全英2位/全米8位と80年代に匹敵するチャートアクションで好意的に迎えられました。

実は彼ら、この17年半の間に新曲を発表していました。それが2017年に発表されたベストアルバム『RULE THE WORLD: THE GREATEST HITS』収録の2曲(「I Love You But I'm Lost」「Stay」)でした。これらの2曲含め、もともと今作の制作は2013年にはスタートしていたものの、当時の所属レーベル(Warner Music)から往年のヒット作をなぞった商業的なサウンドを求められ、納得いくものを完成させることができませんでした。2016年には一度形にはなるものの、それは「TEARS FOR FEARSには聞こえないもの」だったとのことで、バンドはWarnerとの契約を解消。その後、初期のカタログの権利を持つUniversal Musicと新たに契約を結び、先の新曲2曲を含むベストアルバムを発表します。

しかし、その頃のバンド内は非常に悪い状況で、ローランドの妻が亡くなるという悲劇に見舞われ、これを受けて彼自身も体調を崩してしまいます。カートはバンドからの再脱退も考えたようですが、2019年に新たなツアーを実施するために再集結。このツアーで得た手応えから、2人は互いに満足のいく作品を完成させることに再び着手します。過去に制作した楽曲を再構築/再録音したほか、新たに書き下ろされた楽曲(そのいくつかはローランドの妻が亡くなったことに触発され完成したもの)、そして先のベスト盤収録曲「Stay」をリミックスするなどして、全10曲入り(海外デラックス盤および日本盤ボーナストラック除く)の完全新作が完成したわけです。

テイスト的には“『THE SEEDS OF LOVE』のその先”と受け取ることができますが、ここには「Shout」も「Everybody Wants To Rule The World」も「Sowing The Seeds Of Love」も存在しません。派手なサイケデリックなポップ/ロックチューンは皆無。その『THE SEEDS OF LOVE』に収録されたジャジーでソウルフルな楽曲群をなぞりつつ、よりブラッシュアップされた“大人のロック/ポップス”が展開されています。そう聞くと肩透かしを喰らうかもしれません。が、オープニングを飾る「No Small Thing」にじっくり耳を傾けてみてください。最初こそフォーキーさに面食らうと思いますが、曲が進むに連れて「……あ、TEARS FOR FEARSだ」と納得できることでしょう。

そうなんです。本作に収録されたどの楽曲も、“あの”TEARS FOR FEARSなんです。わかりやすいメロディなんだけど、演奏やアレンジ自体は非常に大人びている。そうしたアンバランスさが2022年という時代において非常に“ジャスト”に感じられるのです。そういう意味では、時代が何周かしてTEARS FOR FEARSがやろうとしていることにやっと追いついた、と受け取ることもできるのではないでしょうか。

タイトルトラック「The Tipping Point」などではEDM以降のエレクトロミュージックからの影響も見え隠れしますが、基本的にはビートルズ以降のロック/ポップミュージックが正しい形で継承され、進化した楽曲ばかり。前作ではローランド中心の印象を受けましたが、今作では彼とカートのバランス感も程よい感じで、そこも含めて初期3作の良いとこ取りと解釈することもできます。そう考えると、本作って(ローランド主導の3枚を経て到達した)32年ぶりにお披露目された真の意味での“『THE SEEDS OF LOVE』のその先”なんですよ。ちょっと感動的ですらありますよ、これは。

個人的には「Break The Man」に“あの頃”と“その先”を感じてニンマリしたり、「Master Plan」の完成度に涙腺が緩んだりしました。もちろん、そのほかの楽曲もいかにも彼ららしくて大満足。ベスト盤の流れで聴くと地味だった「Stay」も、本作のラストに置かれることでその役割を全うできているように感じました。

先に触れた海外デラックス盤と日本盤CDには、さらにボーナストラックを2曲追加。それぞれ異なる選曲で、EK&EUデラックス盤ではジャックナイフ・リーが制作に携わった「Secret Location」を聴くことができます。それぞれ良好な完成度ですが、アルバムとしては10曲でしっかり完結しているので、切り離して考えるのが吉かと。そういった意味では、デジタル&ストリーミング版が10曲で完結しているのでよろしいのではないでしょうか。

昨年のDURAN DURANの新作『FUTURE PAST』(2021年)も80年代のエレポップを2020年代なりにアップデートさせた良作でしたが、本作もそれに匹敵する良質な1枚だと断言しておきます。

 


▼TEARS FOR FEARS『THE TIPPING POINT』
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2022年3月 8日 (火)

STEREOPHONICS『OOCHYA!』(2022)

2022年3月4日にリリースされたSTEREOPHONICSの12thアルバム。

通算7作目の全英1位を獲得した前作『KIND』(2019年)から約2年半ぶりの新作。今年2022年はバンドにとって本格的に音楽活動を開始してから30周年、アルバム『WORD GETS AROUND』(1997年)でデビューしてから25周年という節目のタイミングとあって、本作では音楽的にも原点回帰と言える内容に仕上がっています。

アルバムのプロデュースはメンバーのケリー・ジョーンズ(Vo, G)に、ジム・ロウ(テイラー・スウィフト、グレン・マトロック、THE DANDY WARHOLSなど)&ジョージ・ドラキュリアス(THE BLACK CROWESPRIMAL SCREAMREEFなど)という過去の作品群に携わってきた気心知れた布陣で担当。この25年間で彼らが発表してきた名曲の数々を彷彿とさせる、エネルギッシュなギターロックはもちろんのこと、琴線に触れるエモーショナルなバラード、往年のブリティッシュロック/ポップの影響下にある普遍性の強いポップチューンがずらりと並び、全15曲/約64分と非常にボリューミーな形でまとめられています。最近の彼らの作品はどれも40〜45分程度とかなりギュッとした形でしたが、それを考えると今作はアナログ感覚での2枚組作品的なポジションに当たる作品集かもしれませんね。

もともとは20221年に新たなベストアルバムを発表するつもりでいたそうですが、その際にレコーディングされたものの未発表だった楽曲が複数見つかり、そこに触発されどんどん新曲が完成していったとのこと。そうした刺激が功を奏し、気づけば15曲もの良曲が揃い、比較的地味な作風だった前作『KIND』の反動と言える非常にカラフルな楽曲集に仕上がった。かつ、バンド30年の歩みをこの15曲からもしっかり感じ取ることができ、まさに集大成的な1枚(アナログだと2枚組)になったわけです。

アルバム冒頭を飾るストロングスタイルのハードロック「Hanging On Your Hinges」で、掴みは完璧。この生々しさ&荒々しさこそロックンロールそのもので、この曲が本作からのリードシングル第1弾に選出されたのもいかにも彼ららしいですね。かと思えば、続く「Forever」「When You See It」ではいかにもSTEREOPHONICSらしいミドルテンポのメロウなロック/バラードを響かせ、グルーヴィーな第2弾シングル「Do Ya Feel My Love?」では2010年に亡くなった初代ドラマーのスチュアート・ケーブル(Dr)のことを歌ったかのような歌詞に心打たれる。そのあとに、これぞSTEREOPHONICSなミディアムバラード「Right Place Right Time」が並ぶ構成は、アルバム序盤のハイライトではないでしょうか。

アルバム中盤〜後半も緩急に富んだ楽曲群が並び、キャッチーなメジャー感と大人ならではの枯れ具合が適度なバランスで混在。個人的にはピアノとストリングスをフィーチャーしたアコースティックバラード「Every Dog Has Its Day」とタイトなバンドサウンドが心地よいロックナンバー「You're My Soul」、ゴスペル色の強い「All I Have Is You」と続く終盤の流れがツボで、本作のクライマックスと呼んでも過言ではありません。

その後も軽やかなリズムが気持ちよく響くミドルロック「Made A Mess Of Me」、ソウルフル&エモーショナルな名バラード「Seen That Look Before」でさらなる高みを迎え、アンセミックなロックチューン「Don't Know What Ya Got」、アルバムのエピローグにふさわしい2分強のアコースティックナンバー「Jack In A Box」で締めくくり。最初は15曲で64分って長いと感じていたけど、いざ聴いてみるとその完成度の高さと相まってスルスル聴き進めることができました。そういう意味でも、本作は初期のヒット作と肩を並べる重要な1枚ではないでしょうか。

 


▼STEREOPHONICS『OOCHYA!』
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2022年3月 7日 (月)

AVRIL LAVIGNE『LOVE SUX』(2022)

2022年2月25日にリリースされたアヴリル・ラヴィーンの7thアルバム。

前作『HEAD ABOVE WATER』(2019年)から3年ぶりの新作。海外では新たにDTA Records / Elektra Recordsへと移籍しての第1弾アルバムとなります(日本では変わらずSonyから発売)。

4作目『GOODBYE LULLABY』(2011年)以降、初期のポップパンク/エモ路線からポップロック方面へとシフトし始めていましたが、デビュー20周年のタイミングに届けられた今作では初期の彼女のパブリックイメージとリンクするポップパンク/エモ路線に回帰。プロデューサーにジョン・フェルドマン(THE USED、GOLDFINGER、FEVER 333など)、モッド・サン(FOUR LETTER LIEなど)、トラヴィス・バーカー(BLINK-182マシン・ガン・ケリーなど)を迎え、初期のスタイルをよりモダンにブラッシュアップさせた良質のポップパンクをたっぷり楽しむことができます。

正直、ポップパンク路線はアルバム中数曲だろうと高を括っていたのですが、いざ聴き始めると前半6曲はほぼその系統の楽曲であることに驚かされます。多少にアップダウンはあるものの、楽曲スタイルとしては往年のリスナーが彼女に求めるものそのものであり、アルバム冒頭を飾る「Canonball」を筆頭に、マシン・ガン・ケリーをゲストに迎えた「Bois Lie」、リード曲として最初に公開された「Bite Me」(楽曲制作ではマシュメロも参加)、ブラックベアーをフィーチャーした「Love It When You Hate Me」など、やりすぎと言いそうになるくらいに突き抜けたポップ感を堪能できます。

アルバム中盤に「Avalanche」「Déjà vu」で大ヒット曲「Complicated」を彷彿とさせるミディアム/メロウな楽曲が登場するも、その後も「F.U.」やBLINK-182のマーク・ホッパス(Vo, B)とのデュエットを楽しめる「All I Wanted」で突っ走る。そして終盤にスローバラード「Dare To Love Me」でじっくり聴かせ、ラストは2分にも満たない疾走パンクチューン「Break Of A Heartache」で締めくくり。全12曲/約34分という潔いトータルランニングで見事なまでに“アブリル・ラヴィーンに求められるもの”すべてを表現し尽くしてくれます。

最初の3作で初期路線を極め、年齢を重ねるとともに大人の表現にシフトしていくのかと思わせておいて、20周年の節目にまさかの原点回帰。間違いなく今求められている音はこれで間違いないし、それを旬で一流のプロデューサー/ソングライター/ミュージシャンたちと楽しみながら作り上げた。アヴリル完全復活!と高らかに宣言するにふさわしい力作だと思います。

もちろん、これが全米1位を獲得するとかそんな安直なミラクルは期待していません。しかし、近年ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴといったアメリカの若年層アーティスト(ここにポッピーも含まれるはず)がこぞってアヴリルからの影響を口にする2022年に、アヴリル本人がやるべきことを全うした。それだけで十分じゃないですか。ジャンルを超越した、今もっとも聴くべき/聴かれるべきオーバーグラウンド・ロック/ポップスの良盤です。

 


▼AVRIL LAVIGNE『LOVE SUX』
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2022年3月 6日 (日)

BAD OMENS『THE DEATH OF PEACE OF MIND』(2022)

2022年2月25日にリリースされたBAD OMENSの3rdアルバム。日本盤未発売。

オリジナルアルバムとしては『FINDING GOD BEFORE GOD FINDS ME』(2019年)から約2年半ぶり。その間に、2ndアルバムに新録3曲を追加したリパッケージ盤(2020年)、7曲入りアコースティックライブアルバム『LIVE』(2021年)とフォローアップ作が立て続けに発表され、かつこの3作目に収録されている楽曲(「The Death Of Peace Of Mind」「Artificial Suicide」「Like A Villain」)が2021年後半から2022年初頭にかけて連発されたので、そこまでリリース感覚が空いた印象はありません。

そんなBAD OMENSの新作。基本的には前作『FINDING GOD BEFORE GOD FINDS ME』や同作のリパッケージ盤に収録された新録曲(DURAN DURAN「Come Undone」カバー含む)の延長線上にある仕上がり。モダンなメタルコアやオルタナティヴメタルの路線を踏襲しつつ、よりEDM以降のエレクトロミュージック/エレポップのフレイバーを強めた“脱メタルコア”的作品にまとめられています。

アルバム冒頭を飾る「Concrete Jungle」然り、リードトラックの「The Death Of Peace Of Mind」や「Like A Villain」然り、メタルコア的なヘヴィパート(およびボーカルのスクリーム)は味付け側に回り、基本的には穏やかでムーディーなテイストで固められている。加えて、バイオリンをフィーチャーした「What It Cost」や“アダルト・オリエンテッド・メタルコア”なんて例えがぴったりな「Bad Decisions」、女性ボーカルをフィーチャーした「Who Are You?」などが本作の軸ではあるのは理解できるものの、まだまだ新しい領域には到達できておらず、言ってしまえば“BRING ME THE HORIZON以降”というフォロワー枠を抜けきれていない印象もあります。

ですが、この“BMTH以降”の世界観がすでに固定された魅力にもなりつつあるのも事実で、例えば前作で試みたDURAN DURANのカバーなどからもわかる彼らのルーツが、よりモダンな形で昇華され始めていることにも気づきます。かつ、それらのルーツと現在のモダンポップ、メタルコア以降のラウドロックを並列させることで、“BMTHフォロワー”というスタイルを完成の域に到達させようとしている。もしかしたら、これはこれでひとつのオリジナリティになるのではないか……そんな気すらしてきました。

本作はもうちょっと聴きやすいボリュームでまとめられていたら、さらに評価を高めていたのかもしれません。全15曲/約53分という尺は昨今のアルバムとしては多少長めに感じられます。この手のサウンドなら、正直10曲前後/40分前後くらいでちょうどいいんじゃないか?と思うのは僕だけでしょうか。特に、似たようなテンポ感/テイストの楽曲が続く内容だけに、ね。

というのも、本作中ではアップテンポの部類に入る「IDWT$」、インダストリアルメタルの流れを汲むダンサブルな「What Do You Want From Me?」、ラップコア色を強めた「Artificial Suicide」の終盤3曲における従来のメタルコア路線が本作における強いフックとなっているから。このへんとのバランス感をうまく保ちつつ、アダルト・オリエンテッド路線を極めていけば本家BMTHとはまったく異なる方向性を確立できるのではないでしょうか。ということで、ここから先の進化に期待しています。

 


▼BAD OMENS『THE DEATH OF PEACE OF MIND』
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2022年3月 5日 (土)

NAPALM DEATH『RESENTMENT IS ALWAYS SEISMIC - A FINAL THROW OF THROES』(2022)

2022年2月11日にリリースされたNAPALM DEATHの最新EP。日本盤は同年2月25日発売。

最新オリジナルアルバム『THROES OF JOY IN THE JAWS OF DEFEATISM』(2020年)に続く本作は、同作レコーディング時にアルバム未収録となったアウトテイクを中心とした全8曲/29分というボリューム感。今作に冠されたサブタイトルからもわかるように、『THROES OF JOY IN THE JAWS OF DEFEATISM』で表現された世界観を引き継ぐ続編的作品集と言えるものです。

アルバムの流れにそぐわなかったことから収録を見合わせただけであり、各曲の仕上がり/完成度自体は非常に高いものがあります。「By Proxy」など、いわゆるスピードチューンも多数存在するものの、彼ららしいブラストビートを多用した楽曲はほとんど存在せず、どちらかというと「Resentment Always Simmers」のような実験的ミディアム/スローナンバーのインパクトが勝る、そんな作品集ではないでしょうか。

かと思えば、ミディアムテンポからどんどん変化を遂げていくオープニングトラック「Narcissus」や、英・オルタナティヴロックバンドSLAB!のカバー「People Pie」ではかつてNAPALM DEATHに所属したジャスティン・ブロードリックのGODFLESHを彷彿とさせるインダストリアル調の異色作など、ユニークな楽曲が並びます。これもアルバム本編だったら表現できなかったテイストかもしれません。特に後者のカッコよさといったら……これがNAPALM DEATHか!?と最初こそ驚くものの、この作品の流れで聴くと全然アリに思えるから不思議です。

その後もバーニーことマーク・グリーンウェイ(Vo)の絶叫から始まる「Man Bites Dogged」のメタリックな疾走感、「Slaver Through A Repeat Performance」のスピード&アタックの強さに見事当てられ、BAD BRAINSの初期曲カバー「Don't Need It」ではハードコアの真髄を1分少々の中に凝縮してみせます。この3曲の流れ、カッコいいったらありゃしない。

しかし、ラストを飾る本作のタイトルトラック「Resentment Is Always Seismic (Dark Sky Burial Dirge)」では、再びダーク&ヘヴィなインダストリアルサウンドを展開。6分近くにおよぶこの曲はM-2「Resentment Always Simmers」を再構築したようなテイストですが、この2曲が本作のキモであることは間違いなさそうです。仮にこれら2曲がアルバム本編に含まれていたとしてもアリっちゃあアリだったのかもしれないけど、こうして本編と分けることで両者の個性がより明確になった印象も受ける。結局は分けて2つの連作としたのは正解だったようですね。

『THROES OF JOY IN THE JAWS OF DEFEATISM』日本盤は海外盤よりも4曲多い収録内容で、もしこれら4曲もこちらに振り分けられていたら……企画盤とはいえ、もうひとつのフルアルバムが完成していたのではないでしょうか。けど、実験的作風だけにこれくらいのボリュームでよかったのかも。なんにせよ、コロナの影響で来日もままらなない現状において、次のオリジナルアルバムを待つ間にこうした予期せぬボーナスが届けられたのはうれしいかぎりです。

 


▼NAPALM DEATH『RESENTMENT IS ALWAYS SEISMIC - A FINAL THROW OF THROES』
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2022年3月 4日 (金)

ANNIHILATOR『METAL II』(2022)

2022年2月18日にリリースされたANNIHILATORのリレコーディングアルバム。日本盤は同年2月23日発売。

本作は2007年に発表された12thアルバム『METAL』収録曲を、ゲスト参加パートはそのままに、それ以外のパートを新たにレコーディングし直した企画アルバム。2020年に亡くなった2人のアックスマン……エディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)とアレキシ・ライホ(BODOM AFTER MIDNIGHT、ex. CHILDREN OF BODOM)への追悼の意味も込められており、15年前の『METAL』には収録されていなかったVAN HALENのカバー「Romeo Delight」が新たに追加されています。

収録曲は『METAL』とまったく一緒というわけではなく、オリジナル盤でジェフ・ウォーターズ(G, Vo)が唯一ボーカルを担当した「Operation Annihilation」のみ外され、代わりに先のVAN HALENカバーとオリジナル盤の日本盤ボーナストラックだったEXCITERのカバー「Heavy Metal Maniac」が正規収録されることに。さらに、曲順も新たなものとなり、オリジナル盤で本編ラストを飾った「Chasing The Hig」が今回のリテイク盤のオープナーに差し替えられています。

リレコーディングに参加したのはジェフのほか、元SLAYERで現在はSUICIDAL TENDENCIESなどで活躍するデイヴ・ロンバード(Dr)と元INTO ETERNITYのステュー・ブロック(Vo)の2名。オリジナル盤には当時のシンガーだったデイヴ・パデン(Vo, G)と現DREAM THEATERのマイク・マンジーニ(Dr)が参加しているので、そのタッチの違いを楽しむのもありではないでしょうか。特に、ドラムに関してはマンジーニらしさ/ロンバードらしさがともに感じられるので(特に再録バージョンでのロンバードらしさは随所ににじみ出ており、聴きながら愛興奮でした)、両バージョンを比較しながら「この曲ならどちらのバージョンが好き」とセレクトするのも楽しいかもしれません。

そもそも本作、各曲に豪華ゲストが最低1名は参加していることでおなじみの1枚。先に触れたアレキシ以外にもウィリー・アドラー(G/LAMB OB GOD)、リップス(G/ANVIL)、ダンコ・ジョーンズ(Vo)、アンジェラ・ゴソウ(Vo/ex. ARCH ENEMY)、イェスパー・ストロムブラード(G/THE HALO EFFECT、ex. IN FLAMES)、ジェフ・ルーミス(G/ARCH ENEMY、ex. NEVERMORE)、アンダース・ビョーラー(G/ex. AT THE GATES、ex. THE HAUNTED)、コリィ・ビューリュー(G/TRIVIUM)など錚々たる面々がバラエティ豊かな楽曲群に華を添えておりましたが、これらは今回のリテイク盤でもそのまま耳にすることができます。アンジェラは15年前はまだARCH ENEMYに在籍していたんだなとか、イェスパーもIN FLAMESから離れる前だったんだとか、いろいろ月日の流れを感じずにはいられませんね。

もともとソリッドな楽曲/作品集ではあったものの、より鋭角的にスキルアップしたジェフ・ウォーターズのギターと、ここ数作はリズムマシンを使った正確無比なリズムワークにこだわっていたところをロンバードの躍動感溢れるドラムに交代したことで、音から受ける印象も多少なりとも変化。15年前からのバージョンアップという点と、近作の質感からの変化という2点を存分に味わえるのではないでしょうか。

本作で初登場となる「Romeo Delight」は比較的原曲に忠実なカバーとなっておりますが、原曲がラフなぶんカッチリ作り込まれた音のANNIHILATORバージョンはちょっと別モノ感を感じずにはいられません。ただ、ジェフ自身のギタープレイ/サウンドメイクはエディのそれを踏襲したもので、その一点に関しては強い愛を感じずにはいられません。本当に好きなんだね、微笑ましいよ。

あくまで企画盤ということで、今後もステュー・ブロックとデイヴ・ロンバードが制作やツアーに参加するわけではないと思いますが、これはこれで良いのではないでしょうかオリジナルアルバムとしては最新作『BALLISTIC, SADISTIC』(2020年)の完成度が非常に高かっただけに、これに続く完全新作にも期待したいところです。

 


▼ANNIHILATOR『METAL II』
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2022年3月 3日 (木)

SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』(2007)

ヨーロッパで2007年5月14日、北米では同年8月28日にリリースされたSCORPIONSの16thアルバム。日本盤は『蠍団の警鐘 - ヒューマニティー:アワーI』の邦題で、同年6月20日発売。

前作『UNBREAKABLE』(2004年)でHR/HM路線へと回帰したものの、チャート的には成功したとは言い難かったSCORPIONS(前々作『EYE II EYE』(1999年)から2作連続でBillboardアルバムチャートランク外)。しかし、さらにハード路線を極めた今作では全米63位と、『PURE INSTINCT』(1996年)の最高99位以来となる全米チャート入りを成し遂げます。

新たなプロデューサーとしてデスモンド・チャイルドBON JOVIAEROSMITHKISSなどとのコライトで有名)&ジェイムズ・マイケル(SIXX:A.M.のフロントマン。およびPAPA ROACH、HAMMERFALLなどのプロデューサー)を迎えた本作は、前作以上に往年の“らしさ”をメロディやアレンジに取り戻しつつ、モダンなヘヴィさも効果的に取り入れた意欲作。また、ビリー・コーガン(Vo/SMASHING PUMPKINS)が「The Cross」、エリック・バジリアン(G/THE HOOTERSなど)が「Love Will Keep Us Alive」、ジョン・5(G/ROB ZOMBIEなど)が「Hour I」にゲスト参加しているのも、このプロデューサーならではの人選かもしれません。

実は本作、バンドにとってキャリア初のコンセプトアルバム。デズモンド・チャイルドが大まかなストーリーを草案し、楽曲制作が進められたとのこと。ソングライターとしても著名な2人をプロデューサーに迎えたこともあり、彼らは作曲でも全面的に関与。それ以外にもマーティ・フレドリクセン、アンドレアス・カールソンなど人気のソングライターがコライトで名を連ねており、ある意味では外部のライターたちがバンドに“らしさ”を思い出させていると受け取ることもできるのではないでしょうか。その効果は非常に絶大で、80年代のSCORPIONSらしいメロディラインやアレンジを随所から見つけることができます。

一方で、前作から引き続きダウンチューニングを起用していることで、そのダークさが本作が持つヘヴィさを強めることに一役買っている。「The Game Of Life」や「You're Lovin' Me To Death」での程よいメロウ&ヘヴィさはその好例だと断言できます。

かと思えば、過去数作でトライしたビートルズQUEENの流れを汲む壮大なバラード「The Future Never Dies」があったり、グランジ以降のモダンヘヴィネスをなぜか2007年に取り入れた(笑)「321」もある。後半、バラードタイプの楽曲が立て続けに収録されており(「Love Will Keep Us Alive」「We Will Rise Again」「Your Last Song」「Love Is War」)、そこで若干萎えてしまいますが、ミドルパートでビリー・コーガンをフィーチャーしたメロウなヘヴィロック「The Cross」やグランジ寄りのリフワークが印象的なアンセムナンバー「Humanity」がラストに置かれているので、アルバムとしてもなんとなく締まる印象を受けます。

ヘヴィながらもソフトさもしっかり感じられるのは、全体を通してデヴィッド・キャンベルによるオーケストレーションが効果的にフィーチャーされているからでしょうか。ドラマチックなヘヴィロックという点ではSCORPIONSの全キャリア中、本作がもっともバランス感に優れているように感じます。バンドとしてもようやく過渡期を抜け出しそうな予感も伝わり、これが次作『STING IN THE TAIL』(2010年)での完全復活へとつながっていくと思うと、本作も非常に意味の大きな1枚ではないでしょうか。

 


▼SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』
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SCORPIONS『UNBREAKABLE』(2004)

2004年6月22日にリリースされたSCORPIONSの15tアルバム。日本盤は『反撃の蠍団』の邦題で、同年6月9日先行発売。

『PURE INSTINCT』(1996年)『EYE II EYE』(1999年)と2つの“問題作”をEast West Recordsから発表したのち、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのコラボアルバム『MOMENT OF GLORY』(2000年)をEMI Classicsから、アコースティック・ライブアルバム『ACOUSTICA』(2001年)をEast Westから立て続けにリリースしたSCORPIONS。ソフトサイドに振り切った作品が多数続いた中、バンドはついにHR/HM路線へと本格的に回帰します。

オリジナルアルバムとしては『EYE II EYE』から5年強と長いスパンを経て届けられた本作。ラルフ・リーカーマン(B)の脱退を経て、現在までバンドに所属するパウエル・マチヴォダ(B)が加入し、以降12年にわたり続く新体制が完成します(レコーディングでは一部バリー・スパークスなどがプレイ)。『PURE INSTINCT』以来となるアーウィン・ムスパー(CHICAGO、BON JOVIVAN HALENなど)との共同プロデュースで、80年代〜90年代初頭の路線を踏襲した“キャッチーなハードロック”アルバムを完成させます。

アルバム冒頭を飾るミドルチューン「New Generation」はギターリフこそヘヴィですが、メロディラインなどは90年代のポップ路線を踏襲するスタイル。続く「Love 'Em Or Leave 'Em」は従来の彼ららしい、憂いあるメロディラインの良曲ですが、全体的にダウンチューニングで録音されていることもあり、ここ数作と比べるとエッジが効いたテイストに感じられるかもしれません。

その後も「Deep And Dark」「Borderline」とミドルヘヴィ路線が続きますが、M-5「Blood Too Hot」でアップチューンが登場。ようやく往年のSCORPIONSらしさを取り戻した、そう思える1曲にホッとすることでしょう。しかし、M-6「Maybe I Maybe You」でのクラシックとのコラボを通過した叙情的なバラードで空気は一度変化。この流れに過剰にドラマチックなバラードはちょっと浮いているような気がするのですが、どうでしょうか。

アルバム後半は、これも従来の彼ららしいメロウなミドルナンバー「Someday Is Now」や「My City My Town」で再び空気を取り戻す。メロディ自体は『PURE INSTINCT』の流れを汲むポップさが備わっていますが、アレンジの硬質さがそれ以前の作風に回帰していることから、不思議と嫌味に感じられない。オープニング曲こそ多少蛇足に思えますが、それ以降の流れはそこまで悪いものではありません。

その後、これも中期の彼ららしいバラード寄りの「Through My Eyes」、メジャーキーのパワーロック「Can You Feel It」、ミドルヘヴィの「This Time」と似通ったテンポ感の楽曲が続き、ラストはバラード「She Said」と軽やかなロックンロール「Remember The Good Times (Retro Garage Mix)」で締めくくり。全体を通して従来の“らしさ”を意識しすぎたのか、過去2作よりも王道のSCORPIONS節を楽しめるものの、楽曲のクオリティは“問題作”と言われた2作には及ばないかな。そこだけが残念。

再びHR/HM路線へと立ち返ったものの、まだまだ手探り状態。バンドが本当の意味で“らしさ”を取り戻すには、もうちょっと時間がかかりそうです。

 


▼SCORPIONS『UNBREAKABLE』
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2022年3月 2日 (水)

SCORPIONS『VIRGIN KILLER』(1976)

1976年秋に発表されたSCORPIONSの4thアルバム。日本では『狂熱の蠍団〜ヴァージン・キラー』の邦題で知られる1枚です。

当時のメンバーはクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、ウリ・ジョン・ロート(G, Vo)、フランシス・ブッフホルツ(B)、ルディ・レナーズ(Dr)。前作『IN TRANCE』(1975年)を携えた初のイギリス公演も成功を収め、本国・西ドイツ(当時)以外にも確実にその名を広め始めたタイミングに、その人気を決定づける1枚を完成させます。

アルバムのオープニングナンバー「Pictured Life」は、哀愁味を帯びたマイナートーンのメロディライン含め、初期の彼らを代表する1曲。初期の彼らのスタイルがひとつ完成したと言っても過言ではないでしょう。かと思えば、「Catch Your Train」「Virgin Killer」のように爆発力の強い疾走チューンもこの時期の彼らの特徴的な楽曲で、特に後者はガナるようなクライス・マイネの歌唱スタイルと相まってどことなくパンキッシュさも伝わってきます。

かと思えば、ブルージーなミディアムスローナンバー「In Your Park」、LED ZEPPELIN的なスタイルの「Backstage Queen」といった70年代的な楽曲も存在。そしてなにより、ウリがボーカルを担当する「Hell-Cat」や「Polar Nights」の存在。これが非常に大きい。特に前者の放つ独特の空気感は今のSCORPIONSには存在しないもので、ウリが影響を受けたジミ・ヘンドリクス色が濃厚。その個性的なギタープレイ含め、最初に耳にしたときはなかなか受け付けがたかったですが、今となっては良いアクセントとして受け止めています。

そのほか、クラウスの伸びやかな歌声とブルージーなウリのギタープレイが絶妙なハーモニーを生み出す「Crying Days」や「Yellow Raven」といったスローナンバーも聴きどころのひとつ。マティアス・ヤプス(G)以降のポップ路線には存在しない、アダルトな香りはこの編成ならでは。この時期のほうが好きという初期にこだわるファンが少なくない理由も、わからないでもありません。それくらい唯一無二の空気感が、ここには存在するのですから。

初期SCORPIONSの大まかなスタイルはこのアルバムでほぼ完成。続く『TAKEN BY FORCE』(1977年)がダメ押しとなり、翌1978年春にはついに初来日公演まで実現し、かの名ライブアルバム『TOKYO TAPES』(1978年)へとつながっていくのでした。

にしても本作、その内容以上に初期のアートワークのほうが話題になりすぎて、正当な評価が下しにくくなっているような気がしてなりません。今所持していたら児ポにひっかかりそうなあのジャケット、以前CDで所持していたものの、ある時期を境に手放したことを付け加えておきます。さすがにあれが今突然目の前に現れたら、気が気じゃないですものね(苦笑)。

 


▼SCORPIONS『VIRGIN KILLER』
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SCORPIONS『EYE II EYE』(1999)

1999年3月9日にリリースされたSCORPIONSの14thアルバム。日本盤は同年4月21日発売。

前作『PURE INSTINCT』(1996年)完成後に新ドラマーとしてジェイムズ・コタック(Dr)が加入し、新たな体制でレコーディングに臨んだ約3年ぶりの新作。ヨーロッパや日本では引き続きEast West RecordsなどWarner系からのリリースでしたが、アメリカのみインディーズのKoch Recordsからの発売となりました。

新たなプロデューサーにオーストリア出身のピーター・ウルフ(CHICAGO、STARSHIP、HEARTなど)を迎えた本作は、ポップサイドに振り切った前作以上の異色作/問題作。オープニングを飾る「Mysterious」の、コンピューターによる同期(シーケンサーサウンド)を多用したアレンジに度肝を抜かれ、続く「To Be No. 1」もブラックコンテンポラリーからの影響が強いテクノポップ風アレンジに、多くのファンが“コレジャナイ”感を覚えたことでしょう。

もちろん、従来の彼ららしいバラード「Obsession」なども用意されているのですが、それすらも同期サウンドが用いられており、さらにはQUEEN風の多重録音コーラスなども付け加えられている。バンド結成から25年以上を経て、さらにはロックバンドとして次のフェーズへと向かおうとする貪欲さは素晴らしいと思うのですが、バンドが目指すものとファンが求めるものの乖離が大きすぎ、最初は面食らうのではないでしょうか。

しかし、楽曲自体のクオリティは非常に高く(これも前作同様)、超一流のロック/ポップスとして通用するものばかり。先に挙げたアルバム冒頭の3曲(「Mysterious」「To Be No. 1」「Obsession」)は過去のSCORPIONSと比較さえしなければ、この時代にリリースされた楽曲群の中でもトップクラスの仕上がりだと断言できます。

それに、「Mind Like A Tree」や「Yellow Butterfly」みたいなヘヴィなナンバーもしっかり用意されているし、レゲエタッチの「Eye To Eye」もHR/HMではないものの悪くない。とはいえ、ドイツ語で歌われる「Du bist so schmutzig」のグルーヴィーさは当時流行したニューメタルやラップメタルへ迎合したみたいな仕上がりで、悪くはないんだけどどうかと思いますよ(ちなみにこの曲、ジェイムズ・コタックもボーカルで参加しています)。

彼ら自身がクラブミュージック愛好家であったり普段からクラブに出入りしているならまだしも、このアレンジは確実にプロデューサー自身のテイストなわけで、そこに取って付けた感を覚えてしまう。そういった意味では非常に勿体ない1枚なんですよね。これも前作同様、BGMとして流しっぱなしにしておけば楽しめる良作ではありますが、いざ「SCORPIONSを聴くぞ!」というマインドで接するにはちょっと酷な迷作かも。90年代初頭の「Wind Of Change」での世界的成功を経て、バンドが“らしさ”をもう一度掴み取るまでの迷走期ならではの1枚ではないでしょうか。

なお、本作は一時期Spotifyで国内配信もされていましたが、現在は日本のストリーミングサービスでは聴くことができません。50年のキャリア中もっとも問題となったWarner時代の2作品も、7年ぶり新作『ROCK BELIEVER』(2022年)リリースのこのタイミングにしっかり聴けるようにしてもらいたいものです。だって、楽曲自体は良い出来なんですから。

 


▼SCORPIONS『EYE II EYE』
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SCORPIONS『PURE INSTINCT』(1996)

1996年5月21日にリリースされたSCORPIONSの13thアルバム。日本盤は『ピュア・インスティンクト〜蠍の本能』の邦題で、同年5月20日発売。

ラルフ・リーカーマン(B)を新メンバーに迎え制作した前作『FACE THE HEAT』(1993年)から2年8ヶ月ぶりの新作。その間にはスタジオ新曲を含む通算3作目のライブアルバム『LIVE BITES』(1995年)のリリースもありましたが、同作発売直前には70年代からのメンバーであるハーマン・ラレベル(Dr)が脱退と、90年代に入ってからメンバーチェンジが続くことになります。

さらに、この時期にバンドはレーベルとマネジメントも一新。長きにわたり在籍したVertigo RecordsからAtlantic Recrods(北米のみ)およびEast West Records(それ以外)へと移籍し、アーウィン・ムスパー(CHICAGO、BON JOVIVAN HALENなど)とキース・オルセン(WHITESNAKEEUROPEHEARTなど)を共同プロデューサーに迎え新作を完成させます。

アルバム完成後に新メンバーとしてジェイムズ・コタック(Dr/ex. KINGDOM COME、ex. WARRANTなど)が加入しますが、レコーディングにはセッションドラマーのカート・クレスが参加。全体的な作風は『CRAZY WORLD』(1990年)の延長線上にあるポップロック/バラード中心のソフトな内容となっています。

バグパイプをフィーチャーしたオープニング曲「Wild Child」こそ王道のハードロック感が伝わりますが、3曲目にして早くもバラード「Does Anyone Know」が登場。その後もM-7「When You Came Into My Life」、M-9「Time Will Call Your Name」、M-10「You And I」、M-11「Are You The One?」とバラードタイプの楽曲が全11曲中5曲と約半数を占める結果に。

また、M-2「But The Best For You」はメロウなロックチューンながらも、ラテン調のアコギをフィーチャー。M-4「Stone In My Shoe」は爽快感の強いメジャーキーのポップロック、M-5「Soul Behind The Face」やM-8「Where The River Flows」は穏やかなトーンのAORナンバーと、全体を通じてHR/HM色を抑えたテイストでまとめられています。時代に呼応したハードエッジな作風だった前作『FACE THE HEAT』からの反動といえばそれまでですが、SCORPIONSにハードロックを求める層には若干厳しい内容と言わざるを得ません。

ですが、1曲1曲のクオリティの高さは問答無用なだけに、駄作と切り捨てることもできない。「Wind Of Change」路線を求めるライト層にはリーチする良作ではあるものの、コアなHR/HMリスナーには“軽すぎる”1枚ではないでしょうか。

たまに聴くと本当に良いアルバムだなと思うし、何か作業をしている横で流しっぱなしにする分には文句なしの良アルバム。聴くタイミングや気分を選ぶ1枚かもしれませんね。

なお、本作は2022年3月現在、日本のみならず海外でもストリーミング未配信。このタイミングにぜひとも解禁していただきたいものです。

 


▼SCORPIONS『PURE INSTINCT』
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2022年3月 1日 (火)

SCORPIONS『ROCK BELIEVER』(2022)

2022年2月25日(イギリスのみ22日)にリリースされたSCORPIONSの19thアルバム。

前作『RETURN TO FOREVER』(2015年)から約7年ぶりという、過去最長スパンを経て届けられた新作。もっとも、その間にはバンド結成50周年を記念した過去作のリイシュー企画や、新曲を含むバラード中心のコンピレーションアルバム『BORN TO TOUCH YOUR FEELINGS: BEST OF ROCK BALLADS』(2017年)のリリースもあり、さらには長期にわたるワールドツアーもありました。実際、バンドはツアー終了後の2018年から次作の準備を始めていたそうで、当初はプロデューサーにグレッグ・フィデルマン(METALLICASLIPKNOTSLAYERなど)を迎えLAにてレコーディングを行う予定だったとのこと。しかし、ご存じのとおり2020年以降のコロナ禍が影響し、そのプランは頓挫することになります。

結果として、バンドは主要メンバーのクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、マティアス・ヤプス(G)が生活する地元・ドイツのハノーファーにてレコーディングに着手。移動制限が緩和されてから、ポーランド在住のパウエル・マチヴォダ(B)、スウェーデン在住のミッキー・ディー(Dr)が合流し、ポップス畑出身のハンス=マーティン・バフとの共同プロデュースによる1年がかりのレコーディングが完了します。

MOTÖRHEADでの活動を経て加入したミッキー・ディーの初参加オリジナルアルバムにして、『UNBREAKABLE』(2004年)以降長きにわたり在籍したSony MusicからUniversal系のVertigo Recordsへの復帰第1弾作品となる本作。ちょうどデビューアルバム『LONESOME CROW』(1972年2月発売)からまる50年という節目に届けられることもあってか、その内容は原点回帰的であると同時に50年の集大成ともいえる内容に仕上がっています。

楽曲の作風的には前2作(『STING IN THE TAIL』(2010年)と『RETURN TO FOREVER』)ほど80年代の大ブレイク期に寄せたものではなく、もうちょっとオールドスタイルで70年代の諸作品へと接近したテイストかな。序盤2曲「Gas In The Tank」「Roots In My Blood」が珍しくアップチューン続きというのも、大ブレイク後のそれとは明らかに異なりますし、抜けの良いメジャーキーのアンセムナンバー「Rock Believer」も良い意味で“バタ臭さ”が抜けている。かと思えば、「Is There Anybody There?」にも匹敵するレゲエタッチの「Shining Of Your Soul」もあり、バラエティ豊かさでいえば近作イチではないでしょうか。

また、ミドルテンポ中心だった直近の2作と比べると、先の冒頭2曲以外にも「Hot And Cold」や「When I Lay My Bones To Rest」「Peacemaker」といったアップテンポの楽曲が多数用意されている。さらに、全11曲(ボーナストラック除く)中バラードが本編ラストの「When You Know (Where You Come From)」のみという潔さ。このアルバムタイトル含め真の意味で原点=ロックに回帰し、それでいて過去のさまざまな片鱗が随所に散りばめられている、そんなSCORPIONSの強い意志が伝わる力作ではないでしょうか。

確かにルドルフ・シェンカーのカミソリリフはここには存在しませんし、安定感あふれる大人のロックサウンドからはエッジが効いた往年のバンドサウンドを見つけることもできない。クラウス・マイネもすでに73歳ということで音域的にも衰えを感じずにはいられない。それでも彼らはロックを信じて〈I'm a Rock Believer Like You〉という一節にすべての思いを詰め込んだ(この一節、アルバムパッケージの“ある場所”でも見つけることができるくらい重要なものなのです)。過去は過去として、今をありのままに生きようとするその姿を、このリアルな音から感じ取り、しっかり楽しみたいと思います。

なお、本作は全11曲入りの通常盤に加え、ボーナストラック5曲を追加したデラックスエディションも用意。海外盤は本編とボーナストラックを分けたCD2枚組仕様となっていますが、日本盤はすべて1枚のディスクにまとめられています。さらに、日本盤にはかつての「Big City Nights」のように日本での思い出を綴った新曲「Out Go The Lights」も追加収録(UK盤には別に「Hammersmith」、フランス盤には「Language Of The Heart」を用意)。基本的には「When You Know (Where You Come From)」で一度締めくくって、ちょっと余韻を楽しんでから「Shoot For Your Heart」以降のボートラを楽しむのがベストかな。

もはや刺激を求めるような存在ではないものの、王道感の強さは随一。これぞSCORPIONSという名作をとくとご堪能あれ。

 


▼SCORPIONS『ROCK BELIEVER』
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SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』(1988)

1988年4月18日にリリースされたSCORPIOSの10thアルバム。日本盤は同年5月25日発売。

キャリア2作目のライブアルバム『WORLD WIDE LIVE』(1985年)を挟み、前作『LOVE AT FIRST STING』(1984年)から約4年ぶりに発表されたスタジオアルバム。前作が全米6位(セールス300万枚超え)を記録、さらに「Rock You Like A Hurricane」(全米25位)、「Still Loving You」(同64位)というヒットシングルも生まれ、アメリカでの本格的大成功を収めたことで、続く今作もさらに北米向けのサウンドメイキングが進むことになります。

プロデュース&ミックスは3作目『IN TRANCE』(1975年)から引き続きディーター・ダークス(ACCEPTTWISTED SISTER、BLACK 'N BLUEなど)が担当しているものの、一部楽曲(シングルカットされた「Rhythm Of Love」「Believe In Love」ではマイク・シプリー(DEF LEPPARDTHE CARSCHEAP TRICKなど)がミックスを手がけています。音の質感的には前作の延長線上にある、アメリカでのヒットを意識したビッグプロダクションなのですが、本作ではその傾向がさらに激化。中でもゲートリバーブを強めにかけた独特のドラムサウンドが特徴的で、古くからのファンには賛否分かれるものがあるのではないでしょうか。

楽曲の方向性も前作までに存在した湿り気の強いメロディの楽曲が減退し、ドラマチックで派手なスタイルを特化させたものが複数存在。序盤4曲(Don't Stop At The Top」「Rhythm Of Love」「Passion Rules The Game」「Media Overkill」)でのミドルテンポを中心とした作風も、明らかに前作での「Rock You Like A Hurricane」のヒットを受けてという印象が強い。また、「Media Overkill」ではトーキングモジュレーター(マウスワウ)を用いたギタープレイも採用されており、このへんは直近の大ヒット曲であるBON JOVI「Livin' On A Prayer」の二番煎じも否めない。良くも悪くもアメリカでのヒットに振り回された作風というのが、本作の評価かもしれません。

また、本作は全9曲中バラードが2曲(「Walking On The Edge」「Believe In Love」)というバランス感も特徴的で、前者はマイナーキーを用いた従来の路線に近いもので、後者はメジャーキーのパワーバラードといった印象。シングルカットもされた「Believe In Love」は明らかにアメリカ向けに書かれたものではあるものの、ここでの経験が次作『CRAZY WORLD』(1990年)での「Wind Of Change」につながったと考えると、興味深いものがあるのではないでしょうか。

そんな賛否両論ある本作ですが、アルバム後半には「We Let It Rock... You Let It Rol」や「Love On The Run」といった攻撃的なメタルチューンも用意されており、中でも「Love On The Run」の疾走感は今聴いてもたまらないカッコよさがあります。ここに「We Let It Rock... You Let It Rol」と「Love On The Run」の中間にあるロックンロール調のアップチューンがもうひとつ用意され、かつ曲順をさらに吟味していればさらに良い作品として受け入れられていたのでないか……と思うのですが、いかがでしょう?

個人的にはリアルタイムで初めて触れたSCORPIONSの新作がこれなので、内容はともかく思い入れは一際強い作品かもしれません(『LOVE AT FIRST STING』はちょっとだけ後追いだったので)。実際、当時は「Rhythm Of Love」を筆頭にアルバム冒頭の3曲はかなりリピートした記憶がありますしね。

なお、本作の現行盤(バンド結成50周年を記念して2015年に制作されたバージョン)には本作制作時のアウトテイク(すべてデモ音源)が複数用意されているほか、チャリティアルバム『STAIRWAY TO HEAVEN / HIGHWAY TO HELL』(1989年)およびバンドのコンピレーションアルバム『BEST OF ROCKERS 'N' BALLADS』(1989年)のために制作されたTHE WHOのカバー「I Can't Explain」が追加収録されています。このカバーでブルース・フェアバーン(BON JOVI、AEROSMITHAC/DCなど)と初共演しており、これが続く『CRAZY WORLD』への布石となり、90年代へと向けた新たなステップにつながっていくわけです。

 


▼SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』
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SCORPIONS『RETURN TO FOREVER』(2015)

2015年2月20日にリリースされたSCORPIONSの18thアルバム。日本盤は『祝杯の蠍団〜リターン・トゥ・フォエヴァー』の邦題で、同年3月4日発売。

オリジナルバムとしては『STING IN THE TAIL』(2010年)から約5年ぶり、スタジオ新録作品としてはカバーアルバム『COMEBLACK』(2011年)から3年4ヶ月ぶりの新作。プロデューサーは『STING IN THE TAIL』、『COMEBLACK』から引き続き、ミカエル・ノルド・アンダーソン&マーティン・ハンセン(THE RASMUSなど)が担当しています。

レコーディグメンバーはクラウス・マイネ(Vo)、ルドルフ・シェンカー(G)、マティアス・ヤプス(G)、パウエル・マチヴォダ(B)ジェイムズ・コタック(Dr)の5人。2016年秋にジェイムズが脱退し、元MOTÖRHEADのミッキー・ディー(Dr)に交代するので、14thアルバム『UNBREAKABLE』(2004年)から続いた布陣はここで一旦終了することになります。

作風的には完全復活を遂げた前作『STING IN THE TAIL』の延長線上にある、80年代〜90年代初頭の彼ららしさに満ち溢れた楽曲が並びます。それもそのはずで、本作には80〜90年代にライティングされたもののお蔵入りとなっていたアウトテイクを流用したものが多く含まれているから。例えば、ブギー調の「Rock My Car」の原曲は80年年代半ば、「House Of Cards」は90年代末、「Catch Your Luck And Play」は80年代後半、「Hard Rockin' The Place」は80年代初頭と、それぞれ原曲を書いた時期はまちまち。しかし、その時期ならではの空気感が多少なりとも残されており、その結果全体を覆う空気感が80年代半ばから後半にかけてのHR/HM一大ブームの頃を彷彿とさせる、非常にゴージャスなものとしてまとめ上げられているのです。

そんな中、本作のために新たに制作されたオープニングトラック「Going Out With A Bang」やリードシングル「We Built This House」は『STING IN THE TAIL』からの空気を引き継ぎつつ、しっかりと往年のSCORPIONS節を踏襲した良質なハードロックチューン。なんとなくですが、過去のアウトテイクを総決算しながら、それに見合うようなテイストの楽曲をあえて用意したようにも映ります。しかし、それこそが我々リスナーがバンドに求めるSCORPIONS像でもあるわけで、この試みは見事に成功したのではないでしょうか。

ただ、全12曲(ボーナストラック除く)中バラードが3曲(「House Of Cards」「Eye Of The Storm」「Gypsy Life」)と比較的多めなのが玉に瑕。これもファンが求めるSCORPIONS像ではあるものの、せいぜい2曲程度に抑えてもらえたら尚よかったのにと思わずにはいられません。その点を除けば、本作は完璧な1枚なんですけどね。

極端な例えですが、前作が“21世紀の『LOVE AT FIRST STING』(1984年)だとしたら今作は“21世紀の『SAVAGE AMUSEMENT』(1988年)かな、という印象。わかる人ならわかってもらえるのではないでしょうか。

なお、本作はボーナストラックも豊富に用意されており、それらはデラックスエディションや配信バージョンなどを通じて耳にすることができます。この中には『SAVAGE AMUSEMENT』期のアウトテイクとして制作された「Dancing With The Moonligh」も収録。実はこの曲、「Dancing In The Moonligh」というタイトルのデモテイクが『SAVAGE AMUSEMENT』現行盤に収録されているので、ぜひ聴き比べてみることをオススメします。

 


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