BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』(2022)
2022年3月11日にリリースされたブライアン・アダムスの15thアルバム。日本盤未発売。
本作の1週間前には、過去に手がけたミュージカル『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』の劇中音楽をすべて自身のバンドで再録した準新作『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』(2022年)をデジタルリリースしたばかりのブライアン。純粋なオリジナルアルバムとしては、エド・シーランとの共作なども話題となった『SHINE A LIGHT』(2019年)以来3年ぶりとなります。また、デビュー以来長きにわたり在籍してきたUniversalグループを離れ、新たにBMGと契約しての第1弾アルバムでもあり、残念ながら日本盤発売は現時点で予定されていません。ブライアン・アダムスの新作が日本発売されない日が来るとは……。
さて、今作はコロナ禍においてブライアンがひとりでスタジオに籠り、それまで書き溜めてきた新曲のアイデアをひとまとめにし、多くの楽曲をセルフプロデュース&多重録音にてまとめあげた意欲作。全12曲中7曲をセルフプロデュースで仕上げ、ギターやベース、オルガンやピアノ、パーカッションのみならず、9曲でドラムも披露しています。もちろん、一部楽曲では盟友キース・スコット(G)もプレイ。残念ながらミッキー・カリー(Dr)は不参加で、代わりに3曲でパット・スチュワートが叩いています(「Never Gonna Rain」「Always Have, Always Will」のMVにもブライアン、キースと共に参加)。
また、セルフプロデュース以外の5曲では30年来の付き合いとなるロバート・ジョン・“マット”・ラングとの共同プロデュース。マット・ラングとは『11』(2008年)以来14年ぶりのコラボレーションとなり、ソングライティング面でも7曲にクレジットされています。もちろん、デビューからタッグを組み続けるジム・ヴァランスの名前も3曲で見つけることができ、ある意味では“Teamブライアン・アダムス”から厳選されたメンバーが揃った珠玉の1枚と言えるのではないでしょうか。
実際、その内容も王道のブライアン・アダムス節炸裂のロック&ポップアルバムに仕上がっており、かつ1曲1曲が非常にコンパクトにまとめられているのでかなり聴きやすい。イギリスのコメディアン、ジョン・クリーズによるナレーションをフィーチャーした「Kick Ass」のみ5分超えですが、そのほかの楽曲はすべて2〜3分台。この方向性は近作同様ですが、その作り込みと“引き算”にはさらに磨きがかかり、ここ最近のスタイルにおける集大成のような内容と言えるでしょう。
マット・ラングが関わっていることもあり、大ヒット作『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991年)を踏襲している部分も要所要所に見受けられますが、サウンド作りやアレンジに関してはむしろジェフ・リンとタッグを組んだ前々作『GET UP』(2015年)の流れを汲むものではないでしょうか。ドラムサウンドやギターの重ね方などからはジェフ・リン仕事の影響が大いに感じられ、そのハイブリッド感に思わずニヤリとさせられます。
楽曲自体も良い意味で肩の力が抜けた、齢62歳のブライアンらしい等身大の“大人のロック&ポップス”といった感じ。タイトルトラック「So Happy It Hurts」での無駄に力まない作風や、ダルでソウルフルなミディアムロックの「Never Gonna Rain」、ミディアムバラードスタイルにレゲエ的ギターストロークをフィーチャーした「Always Have, Always Will」などは、20〜30代の血気盛んな時期には表現できないものではないでしょうか。かと思えば、オールドスクールなロックンロール「I've Been Looking For You」や「Just About Gone」があったり、“R&R is dead”な時代に高らかとロックンロール宣言を掲げる「Kick Ass」、『RECKLESS』(1984年)や『INTO THE FIRE』(1987年)での経験が活きた「On This Road」「I Ain't Worth Shit Without You」など、“ロックンロールヒーロー”ブライアン・アダムスに求めるパブリックイメージどおりの楽曲も多数用意されています。
と同時に、90年代のメガヒットバラードの系譜にある「You Lift Me Up」、ビートこそ強いものの演奏自体はリラックスモードのミディアムバラード「Let's Do This」、軽やかなポップチューン「Just Like Me, Just Like You」、アルバムの締めくくりにふさわしいドラマチック&エモーショナルな「These Are The Moments That Make Up My Life」など、バラードシンガー/ポップアーティストとして彼を捉えているリスナーにも十分にアピールするソフトサイドも十分に用意。全12曲という限られた収録曲の中で自身に求められるものを見事な形で(しかも2022年版にアップデートして)提供するという、理想的な1枚に仕上がりました。完璧なまでに従来のブライアン・アダムスらしい1枚であり、同時に未来もしっかり感じさせる1枚でもある。2000年代以降も平均点以上のアルバムを制作してきた彼ですが、ここにきて2000年代以降の名刺代わりとなるアルバムを生み出せたのではないでしょうか。
個人的には『RECKLESS』や『INTO THE FIRE』、そして『WAKING UP THE NEIGHBOURS』や『18 'TIL I DIE』(1996年)といった傑作&ヒット作と肩を並べる、今後ブライアンの代表作だと断言します。いやあ、素晴らしい。と同時に、昨日紹介した『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』と併せて聴くことで、近年のソングライターとしての仕上がりっぷりをたっぷり味わえるはず。まさに表裏一体、対となる2枚だと思います。
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