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2022年4月

2022年4月30日 (土)

2022年3月のアクセスランキング

2021年総括はこちらから

ここでは2022年3月1日から3月31日までの各エントリーへのアクセスから、TOP30エントリーを紹介します。内訳は、トップページやアーティスト別カテゴリーへのアクセスなどを省いた上位30記事。まだ読んでいない記事などありましたら、この機会に読んでいただけたらと。

ちなみに記事タイトルの後ろにある「(※XXXX年XX月XX日公開/↑●位)」の表記は、「更新日/2022年2月のアクセスランキング順位」を表しています。

 

1位:「Hello! Project 2003 Winter ~楽しんじゃってます~」@横浜アリーナ(2003年1月26日 朝公演)(※2003年2月3日公開/Re)

2位:ブライアン・アダムスのベストアルバムを総括する(2022年版)(※2022年3月12日公開/NEW!)

3位:GHOST『IMPERA』(2022)(※2022年3月13日公開/NEW!)

4位:SCORPIONS『ROCK BELIEVER』(2022)(※2022年3月1日公開/NEW!)

5位:ANNIHILATOR『METAL II』(2022)(※2022年3月4日公開/NEW!)

6位:AVRIL LAVIGNE『LOVE SUX』(2022)(※2022年3月7日公開/NEW!)

7位:NAILBOMB『POINT BLANK』(1994)(※2018年5月12日公開/↑19位)

8位:COREY TAYLOR『CMFB...SIDES』(2022)(※2022年3月20日公開/NEW!)

9位:SCORPIONS『VIRGIN KILLER』(1976)(※2022年3月2日公開/NEW!)

10位:Cocco@日本武道館(2000年10月6日)(※2000年10月8日公開/Re)

 

11位:SCORPIONS『RETURN TO FOREVER』(2015)(※2022年3月1日公開/NEW!)

12位:DREAM THEATER『SIX DEGREES OF INNER TURBULENCE』(2002)(※2022年3月16日公開/NEW!)

13位:STEREOPHONICS『OOCHYA!』(2022)(※2022年3月8日公開/NEW!)

14位:NAPALM DEATH『RESENTMENT IS ALWAYS SEISMIC - A FINAL THROW OF THROES』(2022)(※2022年3月5日公開/NEW!)

15位:SCORPIONS『EYE II EYE』(1999)(※2022年3月2日公開/NEW!)

16位:SCORPIONS『PURE INSTINCT』(1996)(※2022年3月2日公開/NEW!)

17位:H.E.R.O.『ALTERNATE REALITIES』(2022)(※2022年3月18日公開/NEW!)

18位:BAD OMENS『THE DEATH OF PEACE OF MIND』(2022)(※2022年3月6日公開/NEW!)

19位:FEAR FACTORY『THE INDUSTRIALIST』(2012)(※2022年3月21日公開/NEW!)

20位:SCORPIONS『HUMANITY: HOUR I』(2007)(※2022年3月3日公開/NEW!)

 

21位:V.A.『SPAWN: THE ALBUM』(1997)(※2022年3月19日公開/NEW!)

22位:BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』(2022)(※2022年3月17日公開/NEW!)

23位:KISS『LOVE GUN』(1977)/『LOVE GUN: DELUXE EDITION』(2014)(※2022年3月14日公開/NEW!)

24位:KISS『OFF THE SOUNDBOARD: LIVE IN VIRGINIA BEACH』(2022)(※2022年3月14日公開/NEW!)

25位:SCORPIONS『SAVAGE AMUSEMENT』(1988)(※2022年3月1日公開/NEW!)

26位:BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』(2022)(※2022年3月12日公開/NEW!)

27位:TEARS FOR FEARS『THE TIPPING POINT』(2022)(※2022年3月9日公開/NEW!)

28位:ROLO TOMASSI『WHERE MYTH BECOMES MEMORY』(2022)(※2022年3月15日公開/NEW!)

29位:SCORPIONS『UNBREAKABLE』(2004)(※2022年3月3日公開/NEW!)

30位:HO99O9『SKIN』(2022)(※2022年3月19日公開/NEW!)

2022年4月のお仕事

2022年4月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※4月28日更新)

 

[WEB] 4月28日、「音楽ナタリー」にてインタビューCYNHN特集|“青い”ボーカルユニットが初のZeppワンマンで届ける二度と見られない景色が公開されました。

[WEB] 4月27日、「音楽ナタリー」にてインタビュー19歳の新星・八木海莉が最新作「水気を謳う」に注ぎ込んだみずみずしい感性が公開されました。

[WEB] 4月27日、「リアルサウンド」にてインタビューRAISE A SUILEN 紡木吏佐&夏芽、Fear, and Loathing in Las Vegasから得た新たな武器 『バンドリ!』の枠を超えた挑戦が公開されました。

[WEB] 4月25日、「Rolling Stone Japan」にてライブレポートLiSAデビュー11周年、夢を叶えた「特別な場所」で見せた新たな決意が公開されました。

[WEB] 4月20日、「リアルサウンド」にてインタビューLittle Glee Monster かれん&MAYU&アサヒが語る、『Journey』に込めたポジティブな思い 3人体制でのツアーへの決意もが公開されました。

[WEB] 4月19日、「音楽ナタリー」にてインタビューSuspended 4th「KARMA」インタビュー|今こそ“刺さる音楽”をが公開されました。

[紙] 4月18日発売「週刊プレイボーイ」2022年No.18にて、「表紙の美女」櫻坂46・渡邉理佐インタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 4月17日、「週プレNEWS」にてインタビュー櫻坂46・渡邉理佐が卒業メモリアルブックを発売「初めて見るような表情もたくさんあると思います」が公開されました。

[WEB] 4月15日、「音楽ナタリー」にてインタビューulma sound junctionインタビュー|色褪せない旧譜のリテイク、最新のモード凝縮した新曲携えメジャーデビューが公開されました。

[紙] 4月14日発売「Ani-PASS Plus #06」にて、内田真礼の巻頭表紙ロングインタビュー、『MA-YA-YAN Happy Cream MAX!!』横浜公演ライブレポートを担当しました。(Amazon

[WEB] 4月10日、「リアルサウンド」にてインタビューSUGIZO×INORANが語る『BEST BOUT 2021』 表現を通した未来への希望と感謝の思いが公開されました。

[WEB] 4月8日、「音楽ナタリー」にて公開中の THE YELLOW MONKEYメジャーデビュー30周年記念特集|音楽ライター15人がつづる「私が聴いた『30Years 30Hits』に『30Years 30Hits』レビューと「おすすめの1曲」を寄稿しました。

[WEB] 4月7日、「リアルサウンド」にてインタビュー櫻坂46 原田葵&松田里奈に聞く、『五月雨よ』で伝えた優しさと穏やかさ これからに向けたそれぞれの決意もが公開されました。

[紙] 4月4日発売「日経エンタテインメント!」2022年5月号にて、櫻坂46菅井友香の連載「いつも凛々しく力強く」および日向坂46渡邉美穂の連載「今日も笑顔で全力疾走」の各構成を担当しました。(Amazon

[WEB] 4月1日、「リアルサウンド」にてライブレポート日向坂46、3周年に立った“約束の彼の地”は新たな出発の場所に メンバー全員とおひさまの思いを連れた悲願の東京ドーム公演が公開されました。

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2022年3月に当サイトで紹介したアルバムから各1〜2曲程度ピックアップしたプレイリストをSpotifyにて制作・公開しました。題して『TMQ-WEB Radio 2203号』。レビューを読む際のBGMにするもよし、何も考えずにダダ流しするもよし。おヒマなときに聴いていただけると嬉しいです。

NINE INCH NAILS『THE SLIP』(2008)

2008年5月5日にリリースされたNINE INCH NAILSの7thアルバム。バンドのオフィシャルサイトで無料配信されたのち、同年7月22日に全世界25万枚限定でCD+DVD仕様が発売されました。

2008年3月にCD 2枚組のアンビエントアルバム『GHOST I-IV』を発表し、その独創性/実験性の高さでリスナーを驚かせたトレント・レズナー。そこから2ヶ月と間を空けずに届けられた今作は、同年4月に約3週間という短期間で制作/完成させた1枚です。

約6年ぶりの新作『WITH TEETH』(2005年)でバンドとしての“NINらしさ”を取り戻したトレントは、続く『YEAR ZERO』(2007年)ではその延長線上にありながらも、“個”としてアルバム作りと向き合った。その延長線上にありながらも、より実験性を強めたインスト大作『GHOST I-IV』を経て、トレントは再び“NINらしさ”と向き合うことになるのですが、ここでは過去のように長時間をかけて煮詰めることをせず、短い時間の中で“NINE INCH NAILSとは?”という命題と向き合い、導き出したのがこの10曲ということになるのでしょう。

マスタリングから1日強で先行配信された王道感の強いロックチューン「Discipline」や「1,000,000」、その後のツアータイトルにも用いられたゴシックテイストのピアノバラード「Lights In The Sky」など、その大半の楽曲がNINのパブリックイメージに沿った作風と言えるものばかり。そのシンプルな作りは過去の作品や楽興群と比較すると淡白に映り、聴く人によっては多少の物足りなさを感じるかもしれません。しかし、バンド/プロジェクトとしての初期衝動性を取り戻すという点においては、あの時期にこうしたトライは必要不可欠だったのかもしれません。

それ以上に、本作は制作期間3週間、マスタリングから数日でデジタル配信、しかもアルバムまるまる無料配信という画期的な試みこそが評価されるべき1枚なのかな。序盤の“らしさ”から「Lights In The Sky」以降のアンビエントな流れ(「Corona Radiata」「The Four Of Us Are Dying」)を経て、無機質なインダストリアルチューン「Demon Seed」で締めくくるという構成は、2000年代のどのアルバムよりも、実は90年代への回帰を彷彿とさせる流れだと思うのですが、いかがでしょう?

この作品を携え、一度はバンドとして活動を終了させたNIN。しかし、2013年には再始動をアナウンスし、8thアルバム『HESITATION MARKS』(2013年)とともに完全復活するのでした。

 


▼NINE INCH NAILS『THE SLIP』
(amazon:国内盤CD+DVD / 海外盤アナログ

 

2022年4月29日 (金)

PRIMUS『CONSPIRANOID』(2022)

2022年4月22日にリリースされたPRIMUSの最新EP。日本盤未発売。

新録音源としては、現時点では最新アルバムとなる『THE DESATURATING SEVEN』(2017年)以来4年7ヶ月ぶり。アナログ盤とデジタルのみでのリリースとなり、全3曲と曲数自体は少ないながらも中身は約20分という、非常に濃厚な仕上がりとなっています。

タイトルトラック「Conspiranoia」は約11分半と、PRIMUSのキャリアで最長の1曲。タイトルは“Conspiracy(=陰謀)”と“Paranoid(=偏執性)”を掛け合わせた造語で、フロントマンのレス・クレイプール(Vo, B)は「現代世界における誤った情報や陰謀論を取り巻く文化の批判と風刺」としての警告物語をこの大作で表現しているんだとか。ダークさ漂う世界観と、ダウナーなファンクテイストも感じられるアレンジ(コーラスのフレーズ含め往年のTHE ROLLING STONESと重なる部分も)、常に一定の温度感で進行する構成含め、この時代ならではのプログロックと言えるのではないでしょうか。

カップリングには「Follow The Fool」「Erin On The Side Of Caution」という、非常にPRIMUSらしいストレンジな2曲を用意。前者は本作の制作に入る前から完成していた楽曲とのことで、いかにもPRIMUSといった仕上がりではないでしょうか。やっていることは1980年代末からほとんど変わっていないんだけど、今でも新鮮に響くということは、常に時代の先を進んできた表れでもあるのかな。

もう一方の「Erin On The Side Of Caution」はこのEPのために制作された新曲。「Conspiranoia」が最初から長い曲を作ることを心がけていたのに対し、こちらはおそらくそういった決め打ちなしで制作されたものかなという気が。ベースラインといいギターのバッキングといい、相変わらず一筋縄ではいかないフレージングの連発で、デビューから30年以上経った今もPRIMUSという奇跡のトリオに誰も追いつけていないことを再確認させられる1曲です。

本当なら『THE DESATURATING SEVEN』に続くフルアルバムに期待したいところですが、このコロナ禍でアルバムというフォーマットでの制作から興味が失せてしまたっという彼ら。この先状況が少しずつ回復することで、長い間隔が空くことなくまとまった作品誕生の可能性も高くなるんじゃないかと予想しています。

 


▼PRIMUS『CONSPIRANOID』
(amazon:MP3

 

2022年4月28日 (木)

FONTAINES D.C.『SKINTY FIA』(2022)

2022年4月22日にリリースされたFONTAINES D.C.の3rdアルバム。

全英&アイルランド2位、米・Billboard Heatseekers Albums 2位、スコットランド1位を記録した前作『A HERO'S DEATH』(2020年)から1年9ヶ月ぶりの新作。前作は『BRIT Awards 2021』や『Grammy Awards 2021』にもノミネートされるなど、名実ともに大成功を収めたあとの新作だけに、世界的な注目もより集まっているタイミングかと思います。

そんな中で、彼らは過去2作同様にプロデュース&ミックスにダン・キャリー(BLACK MIDIWET LEG、ケイ・テンペストなど)を起用。アイルランド語で“The damnation of the deer(鹿の天罰)”を意味するタイトルを冠し、より深みを増した独創的な音世界を堪能することができる力作に仕上がっています。

衝動性の強かったデビューアルバム『DOGREL』(2019年)、そこから楽曲の幅が広がりを見せていく2ndアルバム『A HERO'S DEATH』と急成長を続けてきた彼ら。このアルバムからも成長の一端はしっかり伝わり、まずはオープニングトラック「In ár gCroíthe go deo」でのドラマチックなアレンジで、リスナーを大いに驚かせてくれることでしょう。淡々としているようで実はエモ度が高いこの楽曲、どこか2000年代前半のRADIOHEADを彷彿とさせるものがあります。

その後もミディアムテンポの楽曲中心で進行している作風は、前作の延長線上にあるものと言えます。が、1曲1曲の濃度は今作のほうがはるかに上で、リードシングル「Jackie Down The Line」で聴くことのできる王道感、「Bloomsday」で漂わせる浮遊感などはより磨きがかかっていると言えるもの。その一方で、「The Couple Across The Way」からはアイリッシュトラッド的な色合いもにじませている。アコーディオンのみをバックに歌うグリアン・チャッテン(Vo)の哀愁漂う歌唱は本作の聴きどころのひとつですし、そこからタイトルトラック「Skinty Fia」へと続く流れも素晴らしい。エレクトロテイストを交えたひんやりしたビートとエフェクト、その上で淡々と歌うグリアンの(徐々に熱を増していく)ボーカルは、前曲同様に今作のハイライトと言えるでしょう。

さらに、ラストトラック「Nabokov」なんてMY BLOODY VALENTINE的シューゲイザーの香りもちらほら。「In ár gCroíthe go deo」のようにドラマチックな楽曲から始まり、「Nabokov」みたいなシューゲイザーに傾倒した楽曲で締めくくるアルバム、悪いわけがない。過去2作以上に大好物が詰まった1枚です。

地に足のついたビート感は前作以上で、それが本作に安定感を与えていることは間違いなく、そういった土台の上でうねるようなベースとエフェクティブなギターが独創的な音像を作り上げ、過去2作以上に表現力を増したボーカルがアルバムや楽曲の方向性を固めていく。正直、ここまで強靭なアルバムが前作からたった2年で完成するなんて、想像もしていなかった。このバンド、どこまで進化していくんだろう……と本当にワクワクさせてくれる存在です。

UKオルタナティヴロックのど真ん中を突き進みつつ、アイリッシュとしてのアイデンティティも決して失わず、むしろ作品を増すごとにその側面が強くなっているFONTAINES D.C.。7月末に控えた初来日公演でどんなステージを見せてくれるのか、非常に気になるところです。

 


▼FONTAINES D.C.『SKINTY FIA』
(amazon:国内盤CD / MP3

 

2022年4月27日 (水)

ERRA『ERRA』(2021)/『ERRA (DELUXE EDITION)』(2022)

2021年3月19日にリリースされたERRAの5thアルバム。日本盤未発売。

Sumerian Recordsから新たにUNFDへと移籍して発表された2年7ヶ月ぶりの新作。カーソン・スロヴァク&グラント・マクファーランドというAUGUST BURNS REDやLIKE MOTHS TO FLAMESなどの諸作品でタッグを組んできたプロデューサーを迎え、Djentを通過したプログメタル的要素とメタルコアならではのヘヴィ&キャッチーさがバランス良く織り交ぜられた良作に仕上がっています。

正直言ってしまうと、彼らに対する個人的興味は2作目『AUGMENT』(2013年)をピークに、以降の新作ごとに熱が冷めていることを感じていました。特に前作『NEON』(2018年)はなんとももどかしさの残る1枚だっただけに、この新レーベル移籍作に対する期待値もリリース当時はそこまで高くなかったと思います。

しかし、実際にアルバムに触れると、多数のフックが用意された楽曲が並ぶことに気付きます。オープニングを飾る「Snowblood」のクセになる要素満載な仕上がりについては、先の『AUGMENT』レビューでも軽く触れていましたが、もちろんこの曲のみならずヘヴィ&プログレッシヴ、そしてメロウでキャッチーな楽曲が豊富。かつ、メロウなパートになった途端に浮遊感が強まる仕掛け(エレクトロ調アレンジやボーカルの重ね方によるものが大きいのかな?)もさすがの一言で、過去2作での迷走がまるで嘘だったかのような充実度の高さを堪能することができます。

「House Of Glass」や「Shadow Autonomous」のようなキラーチューンもしっかり用意されており、かと思えばなんとなくDOKKENあたりを思い浮かべてしまう(僕だけ?)「Elecric Twilight」、NINE INCH NAILSがプログレッシヴなメタルコアにトライしたような「Scorpion Hymn」、前のめりの疾走感がたまらなく心地よい「Ramnant」のような楽曲も存在し、バラエティの豊かさは過去イチ。ボコーダーを用いたイントロから手数の多いリフワークへと続く「Lunar Halo」、ギターのクリーントーンを効果的に用いた「Vanish Canvas」の気持ちよさも随一で、この手のジャンルが好きな方にはたまらない1枚ではないでしょうか。

個人的には2021年のベストアルバムから外していましたが、忘れた頃に触れると「ああ、やっぱり入れておけばよかった……」と思わずにはいられない、そんな1枚です。

 


▼ERRA『ERRA』
(amazon:海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3

 

 

 

そんな同作のリリースから1年後の2022年3月18日、アルバム本編に新規録り下ろし楽曲7曲を追加したデラックスエディションがアナログ盤&デジタル限定でリリースされました。実は、こちらの発表で久しぶりに本作に触れ、改めて内容の素晴らしさに気付かされたのでした。

この改訂バージョンには新曲「Sol Absentia」「Psalm Of Sedition」「Nigh To Silence」のほか、SPIRITBOXのコートニー・ラプランテ(Vo)を新たにフィーチャーした「Vanish Canvas」、そしてMUSE「Stockholm Syndrome」、AUDIOSLAVE「Light My Way」、NINE INCH NAILS「Heresy」のカバーというボリューミーなボーナストラックを追加。EP〜ミニアルバム並みに充実した内容は、これだけでも単体として発表できたんじゃないか?と思うほどです。

新曲3曲は基本的にアルバム『ERRA』の延長線上にある仕上がり。個人的には「Psalm Of Sedition」のアグレッションに満ちた作風がお気に入りです。また、「Vanish Canvas」新バージョンもコートニーの持ち味がしっかり表れており、個人的にはこっちのバージョンのほうが好みかな。

そして、気になるカバー3曲。「Stockholm Syndrome」は原曲自体がメタリックな方向性でしたが、今作ではより厚み/重みが増しており、後半のアレンジ含め良カバーと呼べるものだと断言できます。「Light My Way」も原曲のクラシックロックテイストを見事な形でメタルコア化しており、こちらも好印象。さらに「Heresy」も原曲のテイスト/良さをそのままに、しっかりメタルコア調へと進化させることに成功しています。ぶっちゃけ、このカバー3曲だけでもおなかいっぱいになるはず。

ボートラが加わったことで全19曲/約87分と長尺な作品になってしまいましたが、それでも聴く価値のある理パッケージ盤だと断言しておきます。

 


▼ERRA『ERRA (DELUXE EDITION)』
(amazon:海外盤アナログ / MP3

 

2022年4月26日 (火)

CALIBAN『DYSTOPIA』(2022)

2022年4月22日にリリースされたCALIBANの13thアルバム。日本盤未発売。

過去の楽曲に新たなアレンジを加え母国語(ドイツ語)で再レコーディングしたトラックが中心だった前作『ZEITGEISTER』(2021年)から約11ヶ月と、非常に短いスパンで届けられた新作。オリジナルかつ英詞中心の楽曲で構成されたアルバムとしては、前々作『ELEMENTS』(2018年)以来4年ぶりとなります。

ソングライティングの過程ではリモートでやり取りを重ねたこともあってか、メンバーそれぞれがもどかしさや不安、そして怒りを抱えていた。だからこそ、そういったネガティブな感情がすべて新曲にぶつけられているのではないか……オープニングトラック「Dystopia」や続く「Ascent Of The Blessed」のブルータルさからは、そういった負の感情の強さが伝わります。

もちろん、本作はただネガでヘヴィでアグレッシヴなだけではありません。随所にメロディアスな要素もしっかり備わっており、「VirUS」や「Phantom Pain」のような楽曲ではキャッチーなサビも用意されている。かつ、どの曲も3〜4分程度のコンパクトさで、1曲の中に無駄がまったく存在しない作り込み具合はさすがベテランといったところでしょうか。どれも攻撃性や殺傷力の強さは抜群でメタルコアリスナーを納得させるものがありつつ、ライトリスナーにもアピールするメロディアスさ、わかりやすさも甘すぎないさじ加減で用意されている。それこそ、「Alien」のような楽曲は今後キラーチューンに成長するのではないか、と思わされるほどのキャッチーさを感じ取ることができる。今年で結成25周年というタイミングに、こういった楽曲をまだまだ産み落とすことができる創作能力はさすがの一言です。

また、今作には旧知の仲間も多数ゲスト参加しており、オープニングトラック「Dystopia」ではANNISOKAYのクリストフ・ヴィチョレク(Vo)、「VirUS」ではHEAVEN SHALL BURNのマルクス・ビスコフ(Vo)と同郷のバンドメイトの、「Dragon」ではアメリカのデスメタルバンドJOB FOR A COWBOYジョニー・デイヴィ(Vo)のボーカルを楽しむことができます。また、2020年に解散したメルボルンのメタルコアバンドDREAM ON, DREAMERのカラン・オア(G)も今作の制作に携わっているとのこと。これもリモート制作が可能になった今だからこその共演といったところでしょうか。

「Dragon」や「Hibernate」など適度なゴシック感も散りばめられており、そういった荘厳さからはドイツのバンドらしさも伝わるのでは。全体を通して“痒いところに手が届く”感満載の、トータルバランスに優れたメタルコア作品の良作だと思います。

 


▼CALIBAN『DYSTOPIA』
(amazon:海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3

 

2022年4月25日 (月)

RINA SAWAYAMA『SAWAYAMA』(2020)

2020年4月17日にリリースされたリナ・サワヤマの1stフルアルバム。日本盤未発売(デジタルのみ、ボーナストラック含む仕様で配信)。

リナ・サワヤマは新潟県出身のアーティスト。4歳でロンドンに渡ったのを機に現地での生活を続け、大学在籍中に音楽活動を開始。2017年にTHE 1975やPALE WAVESなどが所属するDirty HitからEP『RINA』でデビューを果たし、近年はエルトン・ジョンやチャーリー・XCXなどのとコラボレーションで知名度を高め、2023年公開予定の映画『ジョン・ウィック:チャプター4』にメインキャストとして出演することも決定しています。

先日の『Coachella Valley Music and Arts Festival』でそのパフォーマンスを目にし圧倒されたという音楽ファンも少なくなかったはずです。事実、僕自身もそのひとりで、音源自体も素晴らしかったもののライブではその魅力がさらに濃く発揮されることに気付かされました。あれはもう、ヘヴィミュージックを愛聴するリスナーにこそ届いてほしいステージですよ。

さて。メタルファンの中には昨年秋発売のMETALLICA『ブラックアルバム』(1991年)トリビュートアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)での「Enter Sandman」カバーでその名を知ったという方も少なくないはず。そんな彼女のフルアルバムは、同カバーでも堪能できた“エッジーなギター”を大胆にフィーチャーした楽曲も少なくなく、さらにオルタナロックを通過したモダンなダンスポップ、R&Bに通ずるムーディなミディアム/スローナンバーなどバラエティに富んだ楽曲群を楽しうことができます。

アルバム冒頭を飾る「Dynasty」や「Stfu!」、「Who's Gonna Save U Now?」あたりは、先の「Enter Sandman」カバーにも通ずるテイストが保たれており、そこに「Paradisin'」のようなポップ色の強い楽曲(この曲あたりはPOPPYのファンにも響くものがあるのでは)、往年のR&Bダンスチューンを思わせる「Love Me 4 Me」やイマドキの味付けが施されたミディアムナンバー「Bad Friend」などが加わることで、幅広い層にアピールする作品にまとめ上げられています。昨今のK-POPに偏見なく接することができる層やアメリカのヒットチャートに敏感なリスナーはもちろんのこと、ダンスミュージックを通過したヘヴィロックを好むリスナーなど、ファンベースを限定することなくいろいろな人たちに届いてほしい1枚です。

また、本作は2020年秋にアルバム未収録曲やエルトン・ジョンとのコラボ曲「Chosen Family」、THE 1975のカバー「Love It If We Made It」など11曲を収録したボーナスディスク付きデラックス・エディションも発売。アルバム本編収録曲のリミックスやアコースティックバージョンなども含まれており、アルバム『SAWAYAMA』のの魅力をさらに多方面へと引き出した副読本的作品と言えるのではないでしょうか。アルバム本編とあわせて全25曲/約87分とボリューミーな内容にはなってしまいますが、まずは本編をじっくり味わってから、ボーナスディスクでより深く彼女の魅力に浸ってみることをオススメします。

 


▼RINA SAWAYAMA『SAWAYAMA』
(amazon:海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3

 

2022年4月24日 (日)

HEALTH『DISCO4::PART II』(2022)

2022年4月8日にデジタルリリースされたHEALTHの6thアルバム。海外でのフィジカル(CDおよびアナログ)は7月29日発売予定、日本盤発売は現時点では未定。

HEALTHは2005年から活動している、LA出身の3人組ノイズ/インダストリアルバンド。本作は2020年10月発売の『DISCO4::PART I』の続編にあたる内容で、前作同様各曲ごとに豪華なフィーチャーリングアーティストを迎えています。

今作に名を連ねているのがポピー(POPPY)NINE INCH NAILS、エイダ・ルック、PlayThatBoiZay、MAENAD VEYL、LAMB OF GOD、THE BODY、BACKXWASH、Ho99o9、STREET SECTS、EKKSTACY、THE NEIGHBOURHOOD、PERTURBATORといった面々。メタル/ラウド/インダストリアル/ノイズなどのエクストリーム系とヒップホップ系がバランスよく配置されており、前作以上にメタル耳リスナーにもアピールする仕上がりです。

POPPYやトレント・レズナー(NIN)がフィーチャーされた「Dead Flowers」「Isn't Everyone」はそれぞれ、フィーチャリングアーティストの個性/色を全面に打ち出しつつも、HEALTHらしいインダストリアル感を程よいバランスで維持した良曲。特に後者はNINの新曲/リミックスと呼んでも差し支えない仕上がりで、NINの新作が待ち遠しかったファンには「これこれ!」とうれしくなってしまう1曲ではないでしょうか。

また、LAMB OF GOD参加の「Cold Blood」は完全にLAMB OF GODそのもので、途中に挿入されるインダストリアルチックなアレンジと相まって蹄鉄さが際立つ好演を楽しむことができます。これ、LAMB OF GODの新曲でもいいんじゃないか? そして、THE BODYとのコラボ曲「AD 1000」はこの2組ならではといいますか、いかにもな仕上がりに思わずニヤリ。そこからHo99o9とラッパーのBACKXWASHをフィーチャーした「Gnostic Flesh / Mortal Hell」へと続くのですが、こちらもHo99o9の良さとHEALTHの魅力が程よいバランスでミックスされており、重低音を効かせたHo99o9らしさとヒンヤリしたHEALTHらしさのブレンドがなんとも言えない不思議な魅力を生み出しています。

そんな中、STREET SECTSとの楽曲「The Joy Of Sect」はテクノポップ感の強いキャッチーな仕上がりで、アルバム全体の箸休めとしても効力の高い1曲に。とはいえ、癒しのようで実は気狂い具合も抜群という絶妙な仕上がりなので、気を緩めることができないのでご注意を。その後もEKKSTACYとの「Still Breathing」、THE NEIGHBOURHOODとの「No Escape」など比較的心地よい楽曲が続き、最後はHEALTH単独による「These Days 2.0.2.1.」で締めくくり。

打ち込みや(広意義での)ダンスミュージックに対して抵抗がなく、インダストリアルやボディミュージックも通過しているメタル/ラウド層には問答無用の1枚だと思います。と同時に、この手のジャンルに触れてこなかったヘヴィ系リスナーにも入門編としてうってつけの良作ではないでしょうか。本作を無事楽しむことができたら、ぜひ前作『DISCO4::PART I』もオススメです。

 


▼HEALTH『DISCO4::PART II』
(amazon:海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3

 

2022年4月23日 (土)

KIRK HAMMETT『PORTALS』(2022)

2022年4月23日にリリースされたカーク・ハメットの1st EP。日本盤未発売。

METALLICAのギタリスト、カーク・ハメットが同バンドでのデビューから40年近くを経て初めて制作したソロ名義の作品集。バンドの自主レーベル・Blackened Recordingsからアナログ盤、CDやデジタル、ストリーミングにて流通されています。

プロデュースはカーク自身が務め、レコーディングにはQUEENS OF THE STONE AGEのジョン・セオドア(Dr/ex. THE MARS VOLTAなど)、ポール・マッカートニーのツアードラマとして知られるアブラハム・ラボリエル・Jr.(Dr/名ベーシスト、アブラハム・ラボリエルの息子)、そしてMETALLICAのプロデューサーとしてお馴染みのグレッグ・フィデルマン(B)やボブ・ロック、エミー賞受賞のアレンジャーとして名高いブレイク・ニーリーなど旧知の仲間たちが多数参加。さらに「High Plains Drifter」「The Incantation」では一昨年のアルバム『S&M2』(2020年)でコラボしたエドウィン・アウトウォーターと共作を果たし、エドウィンはキーボードを担当したほかLAフィルハーモニー管弦楽団の指揮者も務めています。

全曲インストゥルメンタルナンバーで構成されているので、過去のMETALLICA作品における「The Call Of Ktulu」や「Orion」あたりをイメージする方も多いかもしれません。でも、それは半分正解であり、半分不正解なのかな。そこまでメタリックなインストをイメージすると、ちょっと面を食らうかもしれません。

前半2曲(「Maiden And The Monster」「The Jinn」)は確かにMETALLICAらしい要素も感じ取ることができますが、ストリングスなどを効果的に用いた抒情的な楽曲群はMETALLICAのメロディアスなナンバー……例えば「Nothing Elese Matters」をはじめとするバラード曲を下地に、ドラマチックで流麗なメロディを活かすようなアレンジが施されています。もっといえば、ライブの合間に披露されるカークのショートソロ、あれを拡大解釈してひとつの作品にまとめ上げていくとこうなるのかな?という想像もできなくないかな。

そして、LAフィルハーモニー管弦楽団を大々的にフィーチャーした後半2曲(「High Plains Drifter」「The Incantation」)は先の『S&M2』の延長線上にある作風。ホルンの音色や弦楽器を全面に打ち出すことで、カークのソロというよりは“カーク&LAフィルハーモニー管弦楽団の作品”という印象を与えてくれます。もしこの2曲が『S&M2』に収録されていたとしてもまったく違和感はなく、あの世界の延長線上にある“物語の続き”がここで展開されていると言っても過言ではありません。前半、後半とで若干の空気感の違いこそあれど、軸自体はブレていないので、ひとつの作品としては文句なしに楽しめるはずです。

全編通して想像していた以上に琴線に触れるメロディが多数用意されており、カークって意外にもメロディメイカーとしてもそれなりに優れていたんだなと再認識させられると同時に、ジェイムズ・ヘットフィールド&カーク・ハメットという“METALLICAのブレイン”抜きでカークが本気で制作に臨むとこうなるんだという驚きと発見の多い1枚。METALLICAのメロディアスな側面が大好物というリスナーには、文句なしでオススメできる1枚です。全編インストながらも全4曲/約27分という尺も程よく、ギターインスト作品に苦手意識を持つリスナーにも最適な作品ではないでしょうか。

 


▼KIRK HAMMETT『PORTALS』
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2022年4月22日 (金)

bdrmm『BEDROOM』(2020)

2020年7月3日にリリースされたbdrmmの1stアルバム。日本盤は同年7月8日発売。

bdrmm(“bedroom”と読む)は2016年にライアン・スミス(Vo, G)が宅録で制作したデモ音源がラジオで紹介されたことを機に、実弟のジョーダン・スミス(B)らとともに結成された英・ハル出身の5人組バンド。メンバーはスミス兄弟のほか、ジョー・ヴィッカーズ(G)、ダニー・ハル(Synth, Cho)、ルーク・アーヴィン(Dr)で、いくつかのシングルを経て2019年に現在のSonic Cathedral Recordingsと契約して以降、いくつかのEPを経てこのフルアルバムに到達。この春にはRIDEのUKツアーにサポートアクトとして帯同することも決定しています。

アルバムのレコーディングおよびミックスは、バンドと長く活動を共にしてきたFOREVER CULTのアレックス・グリーヴスが担当。シューゲイザーやドリームポップの範疇に含まれるその毒則的なサウンドは、同ジャンルのオリジネーターほどの強い個性は感じられないものの、デビュー作としては十分すぎるほどの完成度を誇る1枚に仕上がっています。

オープニングを飾る「Momo」はほぼインストゥルメンタルと呼んでも差し支えない構成で、いかにもアルバムの1曲目にふさわしい仕上がり。荒々しさや破綻といった要素こそ皆無ながらも、適度な美しさを放ちながら聴き手も自分たちならではの音世界へと導こうとします。だからこそ、続く「Push / Pull」「A Reason To Celebrate」といった楽曲がより個性的に、より力強く響くのではないでしょうか。

SCHOOL OF SEVEN BELLSやM83といったドリーミーなサウンドを武器としたバンドを多数輩出したSonic Cathedral Recordingsらしく、bdrmmの楽曲の多くもその傾向が強く、轟音ギターでかき乱すよりも空間系エフェクトを多用したアルペジオやフレージングでひんやりとした独創的世界を構築していく。「Push / Pull」や「If That What You Wanted To Hear?」などはまさにそういったスタイルの代表例と言えるでしょう。だからこそ、轟音ギターを多用した「If...」のようなスタイルの楽曲が逆に映える結果につながる。

また、「A Reason To Celebrate」にはMY BLOODY VALENTINEがアルバム『LOVELESS』(1991年)で試みたスタイルとの共通点も見受けられ、思わずニヤリとさせられるし、アルバムのおへそ部分に当たる「Happy」「(The Silence)」「(Un)Happy」の流れは起伏こそ大きくないものの、どこかドラマチックさが伝わってくる構成で往年のシューゲイザー作品とリンクしていることにも気づく。全体を通して、過去のオリジネーターたちへのリスペクトも伝わる良心的な内容と言えるかもしれません。

だからこそ、このバンドらしいオリジナリティをいち早く確立させて、ジャンルの壁を超えた存在に成長してほしい。そう願わずにはいられない、今後の飛躍が大いに期待できるデビュー作品です。

なお、日本盤にはボーナストラックとしてアンディ・ベル(RIDE)がGLOK名義でリミックスした「A Reason To Celebrate (GLOK Remix)」を追加収録。こちらも“いかにも”な仕上がりなので、ツアー帯同の件も含めぜひRIDEおよびアンディのファンに届いてほしい1曲(そして1枚)です。

 


▼bdrmm『BEDROOM』
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2022年4月21日 (木)

FONTAINES D.C.『A HERO'S DEATH』(2020)

2020年7月31日にリリースされたFONTAINES D.C.の2ndアルバム。

前年4月に発売されたデビューアルバム『DOGREL』(2019年)が本国アイルランドで最高4位を記録したほか、全英9位、米・Billboard Heatseekers Albums最高14位という好記録を樹立。ツアーも軒並みソールドアウトを記録し、その勢いのまま2020年夏には『Glastonbury Festival』へ出演する予定でしたが、コロナ禍の影響で白紙に。しかし、バンドはそんなことお構いなしにデビュー作の勢いのまま、2019年夏から2ndアルバム制作に突入するのでした。

成功を収めた前作から引き続き、プロデュース&ミックスにダン・キャリー(BLACK MIDIWET LEG、ケイ・テンペストなど)を迎えて制作された今作。若さゆえの焦燥感が伝わる性急なビートが印象に残ったデビュー作と比較すると、この2作目のアルバムではより重心が低くなった印象を受けます。それはアルバム冒頭を飾る「I Don't Belong」を聴けばおわかりいただけるはずです。続く「Love Is The Main Thing」はドラムこそアップビートを刻んでいますが、そこに乗るベースやギター、ボーカルの浮遊感の強さと相待って、不思議なディレイ感覚を味わうことができます。

そう、このアルバムでは貫禄のみならず、上記2曲からもしっかり伝わるサイケデリック感もより増しており、そのバランス加減にこのバンドならではのオリジナリティが芽生え始めているのです。ボーカルは歌うというより、まるで念仏を唱えているかのよう……ではなく、ある種ポエトリーリーディングの延長線上にあるような歌唱スタイルで、このへんは好き嫌い分かれるかもしれません。が、前作で述べたような1970年代末以降のポストパンクや80年代後半の抒情的UKロックを愛聴してきたリスナーには、すんなりと受け入れられるものがあると思います。

楽曲の幅も徐々に広がり始めており、前作にありそうでなかった「Televised Mind」や「A Hero's Death」あたりは今後のキラーチューンになりそうな予感すら伝わりますし、「A Lucid Dream」や「You Said」のように前作の延長線上にある楽曲もしっかり用意されているほか、「Oh Such A Spring」みたいにじっくり聴かせるスローナンバーも備わっている。「Living In America」のサイケデリック感なんて聴けば聴くほどに味わい深いですし、「I Was Not Born」のストレートなノリも王道感が強まっており好印象。「Sunny」で聴けるボーカルアンサンブルもクセになるし、ラストナンバー「No」の抒情的にしようと思えばできるのに、あえてそうさせないメロディラインなど、とにかくいろんな点で個性が突出し始めており、前作で満足したリスナーをさらにおなかいっぱいにさせてくれる1枚ではないでしょうか。

あと、今作の興味深い点といえば、どの曲も前作以上に長くなっていること。平均4分以上ある楽曲が増えたことで、前作と同じ曲数(11曲)なのにトータルランニングが約7分も増えている(前作は約40分で、今作は約47分)。アレンジにいろいろこだわるようになった結果が、こういったところに表れたということでしょうか。ある意味では前作以上に聴く人を選ぶ作品かもしれませんが、新人バンドが短期間で成長する様を楽しめるという点ではUKロック必聴の1枚です。

 


▼FONTAINES D.C.『A HERO'S DEATH』
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FONTAINES D.C.『DOGREL』(2019)

2019年4月12日にリリースされたFONTAINES D.C.の1stアルバム。日本盤は同年12月11日発売。

FONTAINES D.C.は2017年に結成された、アイルランド・ダブリン出身の5人組バンド。ダブリンのミュージック・カレッジで出会った彼らは、結成前からビート・ジェネレーションの詩人たちに影響を受けた詩集を発表するなど、創作活動に積極的でした。その創作の手段が音楽へとシフトし始めると、2017年5月のシングル「Liberty Belle」を筆頭に、数々の自主制作音源を発表し続けます。そして、2018年末にPartisan Recordsと契約。ダン・キャリー(BLACK MIDIWET LEG、ケイ・テンペストなど)がプロデュース&ミックスを手がけたこのアルバムで本格的デビューを果たします。

速すぎず遅すぎす、だけど疾走感の強さが伝わる性急なビートと、ポストパンクの影響下にあるサウンド&アレンジ、THE SMITHS以降の抒情性を漂わせた伝統的UKロックサウンドはどことなく懐かしさを感じさせるものがあります。言ってしまえば、新しさは皆無なんです。だけど(いや、だからこそ)惹きつけられる不思議な魅力が伝わる。最初にこのアルバムを聴いたときの感想は、まさにこれでした。

1970年代末以降に登場した歴代のUKポストパンクバンドのあれこれを彷彿とさせつつ、2000年代初頭に続発したポストパンクリバイバル群を思い出させたりと、ルーツをしっかり大切にしつつ自分たちの音を作り上げようとする気概も伝わりますし、新人のデビューアルバムとしては十分すぎるほどの完成度だと思います。ぶっちゃけ、最初はオープニングトラック「Big」や続く「Sha Sha Sha」の2曲を聴いた限りでは、そこまで心動かされなかったんです。でも、3曲目「Too Real」あたりになって少しずつ「おっ? 意外と良いかも!?」と思い始め、M-5「Hurricane Laughter」でようやく前のめりで楽しむことができるようになったのでした。

いわゆる「新人ならではの初期衝動性」という点でも、本作は高く評価できると思います。というのも、続く2ndアルバム『A HERO'S DEATH』(2020年)、そしてまもなくリリースされる3rdアルバム『SKINTY FIA』(2022年)でそのサウンドおよび世界観はさらに進化し、整合性を高めているから。オリジナリティも作品を追うごとに確立されていますが、この1stアルバムにはデビュータイミングにしか出せない“輝き”と“危うさ”が絶妙なバランスで含まれており、そういう意味でもより高く評価されるべき1枚だと確信しております。

日本デビュー直後にコロナ禍に突入してしまい、なかなかその真の姿を生で確認することができずにいましたが、いよいよこの夏の『FUJI ROCK FESTIAVL '22』で念願の初来日が実現。残念ながら彼らの出演する3日目はスケジュール的に無理なので、僕はライブを目にすることはできませんが、ぜひ現地に駆けつける方はその歴史的瞬間を目撃してもらいたいと思います。

 


▼FONTAINES D.C.『DOGREL』
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2022年4月20日 (水)

GINGER (GINGER WILDHEART)『A BREAK IN THE WEATHER』(2005)

2005年1月31日にリリースされたジンジャー(現ジンジャー・ワイルドハート)のコンピレーションアルバム。日本盤未発売。

本作は2001年からスタートした、ジンジャーのソロ名義CDシングル12ヶ月連続リリース企画「Singles Club」で発表された音源をまとめたもの。この企画は文字通り、毎月新曲3曲を収録したシングルを連発し続けるというものでしたが、2001年6月に第1弾「I'm A Lover Not A Fighter」を発表するものの、続く第2弾「Cars & Vaginas」(タイトルよ……)が同年12月発売といきなり半年も遅れる事態に(苦笑)。

その後も着実に制作/リリースが遅れていき、2002年には第3弾「And This Time I'm Serious」、第4弾「The Saga Of Me & You」を何とか届けるものの、2003年発売の第5弾「Virtual Love」を最後にリリースが途絶える始末。これ、おそらくリリース元のInfernal Recordsが閉鎖されたか何かが主な理由だったのではないでしょうか。実際、このアルバムは別レーベルのSanctuary Recordsからの発売ですし。

とはいえ、この時期にはすでにTHE WiLDHEARTSが再始動し、2002〜3年に「Vanilla Radio」や「Stormy In The North, Karma In The South」などのシングルを連発。2003年8月には待望のアルバム『THE WILDHEARTS MUST BE DESTROYED』を発表していることから、本当のところはソロ活動にまで手が追いついていなかったのでしょう(ていうか、事前に12ヶ月分36曲できていたわけではなかったのかよ、と。苦笑)。

結局5枚目で頓挫した「Singles Club」を総括する形で、2005年に入って“ジンジャー名義で初のアルバム”と銘打って発表されたのが今作。ただ、内容的に純粋なオリジナルアルバムではないので“コンピレーションアルバム”扱いとなっています。

中身は第1弾「I'm A Lover Not A Fighter」から第5弾「Virtual Love」までの15曲に、第6弾シングルとして制作されていたものの未発表となっていた「T.W.A.T.」「He's A Man」「Dying Art Of The Chorus」の3曲を追加した、全18曲が2枚のCDに各9曲ずつ収録されたもの。シングルごとにコンセプトがある程度あるようなので、こういう形で区切ったのでしょうね。

ジンジャーの本格的なソロ活動はSiLVER GiNGER 5でのアルバム『BLACK LEATEHR MOJO』(2000年)が最初となると思いますが(その前後にCLAM ABUSEでのアルバム『STOP THINKING』や、SUPER$HIT 666でのEP制作などもありましたが)、今作で表現されているサウンドはSiLVER GiNGER 5で体現したハードロック色よりもさらに幅広いものがあり、のちの正式なソロ第1弾アルバム『VALOR DEL CORAZON』(2005年)とTHE WiLDHEARTSでの活動の中間にある楽曲群を楽しむことができます。

王道パワーポップ的な「I'm A Lover Not A Fighter」や「And This Time I'm Serious」もあれば、ブラスをフィーチャーしたグラマラスなバブルガムポップ「Cars & Vaginas」、THE WiLDHEARTS的カオティックさが端的に表れたヘヴィチューン「Not Bitter, Just A Little Disappointed」もある。また、「Blinded By Absinthe」のようにソングライターとして新たな側面を打ち出した楽曲も含まれており、改めてこの人の多彩さ/多才さに驚かされるのではないでしょうか。このこだわりがリリースの遅れにもつながったのかもしれませんね(苦笑)。

未発表となっていた3曲も過去4作のシングルの延長線上にある楽曲群で、アルバムの流れで聴いても違和感なく楽しめるものばかり。この中では、がグルーヴィーなベースラインが耳に残る初期ビートルズ・ライクなパワーポップチューン「He's A Man」が印象的かな。なお、アルバムラストを飾るテクノポップ調「Dying Art Of The Chorus」にはNAPALM DEATHのバーニーことマーク・グリーンウェイ(Vo)がグロウルでゲスト参加。異色のサウンドメイクおよび“らしい”グロウル&スクリームは最高のアクセントとなっています。むしろこのラスト2曲が本作最大の山場かもしれません。これ、なんで当時リリースされなかったんだろうね。

ジンジャーのソロ作は初期3作がストリーミング配信されていないものの、Sanctuary Recordsからリリース/再発されたSiLVER GiNGER 5のアルバムや本作は現在もサブスクで聴くことができます。

 


▼GINGER『A BREAK IN THE WEATHER』
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2022年4月19日 (火)

WET LEG『WET LEG』(2022)

2022年4月8日にリリースされたWET LEGの1stアルバム。

WET LEGは2019年に結成されたイギリス・ワイト島出身の女性2人組バンド。正式メンバーはリアン・ティーズデイル(Vo, G)とへスター・チャンバース(G, Vo)のみですが、現在は5人編成の固定バンド編成で活動しているようです。結成からたったの2年で名門Domino Recordsと契約し、2021年にシングル「Chaise Lounge」で正式デビュー。いきなりイギー・ポップなどの著名アーティストから絶賛され、その知名度を高めていきます。

満を持して発表されたこのデビューアルバムは、いきなり全英1位を獲得。オーストラリアでも1位を獲得したほか、アイルランドやニュージーランドで4位、ドイツで8位、オランダで10位、スイスで11位と新人ながらも好成績を残しています。アルバムのプロデュースはFONTAINES D.C.やBLACK MIDIなどで知られるダン・キャリー、ミックスは名手アラン・モウルダーが担当。新人ながらも破格の扱いですが、その中身を聴けばこういった起用理由もご理解いただけるはずです。

もうね、1980〜2000年代にインディポップ/インディロックやガレージロックにやられてきた同年代のリスナーなら絶対に引っかかる1枚だと思うんです。グランジ前後のオルタナロックにシンセポップの香りをまぶしたキャッチーな仕上がりのオープニングトラック「Being In Love」を筆頭に、THE STROKESを彷彿とさせるポストパンク/オルタナ感の名曲「Chaise Lounge」という冒頭2曲で完全にハートを鷲掴みにされるはず。以降も80年代末のサイケ経由のインディロックを現代的に解釈した「Angelica」、デヴィッド・ボウイ「The Man Who Sold The World」のギターリフを引用したグランジ+グラムロックな「I Don't Wanna Go Out」、どことなくNEW ORDERを彷彿とさせるフレージングも散りばめられたディスコパンク的な「Wet Dream」、本作中唯一へスターがリードボーカルを担当する、グラムロック+90'sブリットポップな「Convincing」と、アルバム前半だけでも1980〜2000年代のUK/USインディロックの歴史をなぞりつつも現代的に解釈した“2022年の地に足が着いたロック”を堪能することができます。

アルバム後半もバラエティに富んだ内容で、ローファイなビートに音圧の薄い上モノ&ファルセットという癒しの1曲「Loving You」をはじめ、80'sシンセポップにガレージポップをミックスさせたようなクセになる仕上がり(その一方で、終盤のシャウトにゾクゾクする)の「Ur Mum」、ファズギターの音色に2000年代初頭のロックンロールリバイバルを思い浮かべるも、グラムロック的ビートとの融合が新鮮な「Oh No」、オルタナ経由のフォークロックに8-bit的ブリープサウンドをミックスした「Piece Of Shit」、往年のBLURにも通ずる気怠さ&ポップ感が絶妙なバランスで混在する「Supermarket」、往年のニューウェイヴやポストパンクを現代的なポストロック手法で表現し、テンポチェンジを繰り返す曲展開含め刺激的な「Too Late Now」と最後までまったく飽きさせない内容/構成となっています。

個人的には昨年のDRY CLEANINGの1stアルバム『NEW LONG LEG』(2021年)にも匹敵する、生まれるべくして誕生した“その年のイギリスを代表するニューカマー/1stアルバム”だと断言できる1枚。単なる懐古主義で終わることなく、今の音として昇華し落とし込もうとする姿勢にも好感が持てるし、前評判だけでなくしっかり中身の伴った本年度ベストアルバム候補の本作は、できることなら我々オッサン世代のみならず彼女たちの同世代リスナーにもしっかり響いてほしいロックアルバムです。

 


▼WET LEG『WET LEG』
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2022年4月18日 (月)

SOUL GLO『DIASPORA PROBLEMS』(2022)

2022年3月25日にリリースされたSOUL GLOの1stフルアルバム。日本盤未発売。

SOUL GLOは2014年にフィラデルフィアで結成された4人組バンド。Pitchforkでは彼らのことを「ワシントンDCハードコア、ウェストコーストスラッシュ、ミッドウェスト・エモなどの要素を感じる彼らの音楽。あらゆる社会的コミュニケーションが欠如した荒野の世界(現代)に轟く、人間が決して無視できないエモーショナルなものである」と評されており、ハードコアパンクやヒップホップやメタル、スクリーモ、ノイズなどをミックスしたエクストリームミュージックに、メンバー4人中3人がアフリカンアメリカンというルーツをベースにした社会問題や人種差別に対する怒りや否定をストレートに示した歌詞が特徴といえるでしょう。

昨年、突如Epitaph Recordsとの契約が発表された彼ら。その第1弾作品となる本作は2016年から制作がスタートし、ジャンマルコ・“GG”・ゲーラ(B, Vo, Programming)とバンドの友人でありエンジニアでもあるエヴァン・バーナードによってプロデュースされたもの。エネルギッシュなサウンド&楽曲群は一聴すると、REFUSEDのようなハードコアパンク、あるいはFEVER 333を筆頭とするミクスチャー/ラップコアを思い浮かべるのではないでしょうか。もっといえば、そういったバンドたちの始祖のひとつでもあるBAD BRAINSと重なるものもある(その姿勢含めて)。そういう意味では、2022年という時代にフィットしたバンドであり、時代に“呼ばれた”アルバムかもしれません。

オープニングを飾る「Gold Chain Punk (whogonbeatmyass)」を聴くと、90年代以降のハードコアを思わせるスマートさが伝わりますが、続く「Coming Correct Is Cheaper」ではヒップホップ、あるいはブラックミュージックを下地にしつつもオールドスクールなハードコアスタイルを乗せてくるし、ブラスセクションをフィーチャーした「Thumbsucker」ではアグレッシヴなスカコアを展開。攻撃力や破壊力の強さはどの曲もすさまじく、一瞬たりとも気を抜くことができない。しかし、そこに息苦しさは一切存在せず、気づけば拳を上げてシンガロングしたくなる自分が存在する。「Fucked Up If True」での激しい展開を爆音で体験する頃には、きっとそんなふうに羽目を外している自分に気づくはずです。

「Jump!! (Or Get Jumped!!!)((by the future))」のようなキラーチューンもしっかり用意されているし、「Driponomics」におけるマザー・メリーローズなどを筆頭にさまざまなゲストラッパーも多数フィーチャーしており、主張の強い彼らのサウンドにさらなる説得力を加えています。フロントマンのピアース・ジョーダン(Vo)のボーカル/スクリームのパワフルさ、クレイジーさもひたすらカッコいいし、ルーベン・ポロ(G)のギタープレイのセンスからはトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)に近いものも感じる。先人たちからの影響が見え隠れしつつも、そのすべてが自己流に昇華されており、オリジナリティの高さもしっかり伝わる。なもんで、濃密な内容ながらも全12曲/約40分があっという間に感じられるほど。気づけば二度、三度とリピートしているはずです。

日本ではまだまだ知名度が低いですし、リリースから半月以上経っても彼らを大々的に紹介しようとするメディアもほぼ存在しない。ぶっちゃけ一昨年のCODE ORANGE、昨年のTHE ARMEDTURNSTILE並みの存在へと化ける可能性も大きいだけに、ぜひこのタイミングにチェックしておいてもらいたいバンドであり、2022年を代表する傑作のひとつです。今すぐライブが観たい!

 


▼SOUL GLO『DIASPORA PROBLEMS』
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2022年4月17日 (日)

✝✝✝ (CROSSES)『INITIATION / PROTECTION』(2022)

2022年3月18日にリリースされた✝✝✝のデジタルシングル。

✝✝✝(“Crosses”と読む)はDEFTONESのチノ・モレノ(Vo)と、彼の幼少期からの友人である元FARのショーン・ロペス(G)、そしてチャック・ドゥーム(B)の3人で2011年からスタートさせたサイドプロジェクト。2枚のEPを経て、2014年2月にフルアルバム『✝✝✝』をSumerian Recordsから発表し、全米26位という高記録を樹立しました。同作を携えたツアー以降はプロジェクトとして表立った稼働は見られませんでしたが、2020年末にCAUSE AND EFFECTのカバー「The Beginning Of The End」を突如発表。さらに、1年後の2021年12月にはク・ラザローのカバー「Goodbye Horses」を発表し、この際には新たにWarner Bros. Recordsと契約し、2022年春に新曲をリリースすることもアナウンスしていました。

この発表から約3ヶ月後に届けられたのが、この2曲のオリジナル曲。どちらの曲もチノがDEFTONESで表現してきたダーク&ゴシックなテイストをエレポップ/ダークポップサウンドに置き換えた作風で、アルバム『✝✝✝』で作り上げた楽曲/サウンドをさらに一段高いステージへと到達させることに成功しています。

その質感は、直近ということもあり「The Beginning Of The End」や「Goodbye Horses」で試みたアレンジの延長線上にあるものと言えるでしょう。「Initiation」はスローテンポなダークナンバーで、80年代のニューロマンティック、特に往年のDURAN DURANを彷彿とさせるものがあります。チノ、バンドでカバーするくらい好きですものね(笑)。また、起伏あるドラマチックなメロディラインはDEFTONESでもそのまま活かせそうな良質なもので、この1曲だけでも来たる2ndアルバムへの期待が大きく高まるはずです。

続く「Protection」も「Initiation」と同系統の作風で、DEPECHE MODEにも通ずる耽美さは「Initiation」よりも数歩上といったところでしょうか。特にこちらはリズムよりもベースラインを強調させたアレンジで、一時期THE SMASHING PUMPKINSとイメージが重なる面も見つけられるのでは。DEFTONESではいかつさも自然とにじみ出てしまうチノのボーカルは、ここでは肩の力を抜きまくったナチュラルなものを味わうことができます。

エレポップやニューロマ、ゴスなどの80's文化からの影響を反映させたプロジェクトながらも、結成から10数年の歳月を経たことで意外にも現代のシーンとリンクしていることにも気づかされる今回の2曲。まもなく届けられるであろう2ndアルバムの前作超えも、想像に難しくなさそうです。

 


▼✝✝✝ (CROSSES)『INITIATION / PROTECTION』
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2022年4月16日 (土)

3RD SECRET『3RD SECRET』(2022)

2022年4月9日にデジタルリリースされた3RD SECRETの1stアルバム。現時点でのフィジカルリリース未定。

突如発表され、今週後半からさまざまなWEB媒体で騒がれ始めた3RD SECRET。VOID、SOUNDGARDENNIRVANAPEARL JAM、そしてGIANTS IN THE TREESとワシントン/シアトル・シーンの1980〜2010年代の歴史を象徴するようなアーティストたちが一堂に会したスーパーバンドなのですが、その存在はこれまで告知されることはなく、このリリースを持っていきなり我々の前に現れたわけです。

メンバーはクリス・ノヴォセリック(B/ex. NIRVANA、GIANTS IN THE TREES)、キム・セイル(G/SOUNDGARDEN、ex. AUDIOSLAVE)、マット・キャメロン(Dr/PEARL JAM、SOUNDGARDEN、HATER)という90年代のグランジ界隈を席巻した面々に、80年代前半のDCハードコア界伝説のバンドVOIDのババ・デュプリー(G/マット・キャメロンのHATERにも参加)、クリスのサイドプロジェクトGIANTS IN THE TREESの一員でもあるジリアン・レイ(Vo)&ジェニファー・ジョンソン(Vo)という6人編成。楽器隊のメンツからどんなエグい音が飛び出すのかとワクワクしつつも、女性ツインボーカルという構成からまったく想像がつかなくなったりと、非常に想像力を掻き立てるバンドなんです。しかも、アルバムの共同プロデューサー&エンジニアが、かのジャック・エンディノ(シアトルのバンドSKIN YARDのギタリストにして、SOUNDGARDEN『SCREAMING LIFE』、MUDHONEY『SUPERFUZZ BIGMUFF』、NIRVANA『BLEACH』などのプロデュースで有名)ですからね。期待しないわけがない。

いざアルバムに触れてみると……アルバム冒頭を飾る「Rhythm Of The Ride」のオルタナフォーク的世界観にいきなり打ちのめされます。なんぞ、このサイケデリック感!? ああ、確かにSOUNDGARDENにもNIRVANAにもこのタッチ、あったもんな。女性Voということもあり、どこかTHE VASELINESを彷彿とさせるものもあるし。予想の斜め上を行く意表をついたオープニングに呆気にとられるものの、続く「I Choose Me」での王道グランジ/オルタナロックサウンドに「そうそう、これこれ!」と膝を叩くのでした。

アルバムはこのように、オルタナフォークとグランジロックの二極で進行していきます。キム・セイルのドロドロしたギタープレイを存分に活かした「Lies Fade Away」のようにグランジリスナーを納得させるナンバーもありながら、むしろ印象に残るのは「Live Without You」のようにフォーキーでメロディアスな楽曲群。このスタイルも“あの時代”そのものなんですよね。何もダークでゴリゴリした音だけがグランジじゃないんです。

収録曲のメインソングライターはクリス&マットということもあり、2人のそれぞれのバンドの色もにじませつつも、彼らがサイドプロジェクトで進めてきたバンドやソロ活動からの影響がより濃厚に表れている印象。それらを個性の異なる2人の女性シンガーが歌い分けたり、ときに2人でハモったりすることで独特の空気を生み出していく。特にGIANTS IN THE TREESのシンガー2人が参加していること、アコースティック楽器もふんだんに取り入れられていることも影響し、個人的には「NIRVANAのキャッチーさとストレンジさ、SOUNDGARDENのサイケデリックさ、PEARL JAMやGIANTS IN THE TREESのアーシーさを程よいバランスでブレンドした、クリス&マット中心のポストグランジ/オルタナフォークバンド」というイメージかな。あと、クリス・コーネル急逝以降、SOUNDGARDENが止まってしまったことで他アーティストの客演でしか聴くことができなかったキムのギターを存分に味わえるという点においても、本作は非常に価値の高い1枚ではないでしょうか。

各メンバーが参加する歴代のバンドをイメージして聴くと、もしかしたらコレジャナイ感に面食らうのかもしれません。が、これはこれで全然アリだし、むしろすでに何度もリピートするほど自身に馴染んでいる。傑作や歴史的名盤の類とは異なるものの、忘れた頃に心の隙間を埋めてくれるような、そんな必要不可欠な1枚になりそうです。

 


▼3RD SECRET『3RD SECRET』
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2022年4月15日 (金)

MESHUGGAH『IMMUTABLE』(2022)

2022年4月1日にリリースされたMESHUGGAHの9thアルバム。

前作『THE VIOLENT SLEEP OF REASON』(2016年)から約5年7ヶ月ぶりと、過去最長のスパンを経て届けられた新作。デビュー以来30年前後にわたり在籍したNuclear Blast Recordsから離れ、新興レーベルのAtomic Fire Records移籍第1弾アルバムとなります。このAtomic Fire はNuclear Blast創始者マルクス・シュタイガーが2021年秋に発足させたもので、すでにAMORPHISHELLOWEENOPETHMICHAEL SCHENKER GROUPなどの所属/新作リリースがアナウンス済みです。

“不変”を意味するタイトルを持つ本作。前作では創作活動の中心にいたフレドリック・トーデンダル(G)が個人的事情であまり関わっていないこと、その後のツアーも不参加だったことなど、バンドとして若干危うい状態にありました。しかし、コロナ禍を経て2021年春から本格的に始まった次作制作には当のフレドリックも復帰し、まさに不変であると同時に普遍性の強い内容に仕上がっています。

ワールドワイドな成功を手にした6作目『OBZEN』(2008年)以降、ここ2作(前作および前々作『KOLOSS』)が特に実験性の強いサウンドだったこともあり(もちろん、このバンドは常に実験性の強い創作活動を続けていますが、その中でもとりわけという意味)、「一見さんお断り」的空気が常に漂っていたMESHUGGAHの作品。『OBZEN』を経ていろんな迷いもあったようですが、筆者的には良くも悪くも“とっつきにくい”印象が伴う2作だったと感じています。

しかし、そういった実験を経て到達した久しぶりの新作では、前作、前々作での経験をなかったことにすることなく、かつ『OBZEN』やそれ以前の経験をしっかり踏まえつつ、もっとも“らしい”音を構築することに成功しています。この「もっとも“らしい”音」がどの時代のどの作品を指すかは、リスナーによって異なるかもしれません。個人的にもこの表現は具体的な時代を指すものではなく、概念としての“らしさ”を示すものかなと思っているので、そのへんのツッコミはご容赦ください(苦笑)。

ただ面白いのは、今作で取り組んでいるスタイルは過去2作の延長線上にあるものなのは間違いないのに、どれも非常に入っていきやすい作風だということ。それは決して「聴きやすい」という意味ではなく、相変わらず尖ったままなのに親しみやすいという絶妙なバランスの上で成り立っているものなんです。非常に難しい表現ですが、伝わるでしょうか?

昨日紹介したANIMALS AS LEADERS新作と比べれば、本作はDjent(ジェント)に括られるジャンルの最先端な1枚かもしれません。ジャズやフュージョンの要素も備わってはいるものの、決してわかりやすい形でそっちに片足を突っ込んでいない。あくまでエクストリームメタルという範疇の中で、自身の役割を徹しつつ進化を続ける。それはもはやエクストリームメタルではないのでは?という疑問さえ湧いてくるほど、ここで鳴らされている奇妙奇天烈なサウンド/楽曲は、また新たなジャンルを確立してた証なのかもしれません。

全13曲で約67分というトータルランニングは、彼らの作品中過去最長。アルバムのど真ん中に「They Move Below」という9分半にもおよぶ大作が置かれていますが、それ以外は基本的に5分前後とコンパクトな形なのも聴きやすさにつながっている印象があります。ただ、やっぱり長い。音としての密度が非常に高いだけに、今作も過去2作同様にすべてを理解するまで相当な歳月を要しそうです。ただ、そんな段階でも、本作が非常に飛び抜けた傑作であることは伝わります。だからこそ、ゆっくりじっくり、この力作の真髄を紐解いていけたらと思っています。

 


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2022年4月14日 (木)

ANIMALS AS LEADERS『PARRHESIA』(2022)

2022年3月25日にリリースされたANIMALS AS LEADERSの5thアルバム。日本盤未発売。

ライブアルバム『ANIMALS AS LEADERS - LIVE 2017』を挟みつつも、前作『THE MADNESS OF MANY』(2016年)から実に5年4ヶ月ぶりの新作。セルフプロデュース作だった前作から一転、今回は前々作『THE JOY OF MOTION』(2014年)やデビュー作『ANIMALS AS LEADERS』(2009年)に携わってきたPERIPHERYのミーシャ・マンソー(G)がプロデュースを担当しています。

Djent(ジェント)やプログメタルの範疇に含まれるトリオバンド(しかも、8弦ギター×2+ドラマーという変則的)、かつバカテクで変拍子多用のインストバンドという歌モノを愛聴するリスナーには若干ハードルの高さを感じずにはいられません。実際、僕も彼らに対してそういった苦手意識を少なからず持っていたのも事実。しかし、初めてといっていいくらいガッツリと、本気で向き合ったANIMALS AS LEADERS。臆することは何もありませんでした。素直にカッコいいし、気持ちよく楽しめるインストゥルメンタルアルバムなんです。

今や新世代ギターヒーローの名を欲しいままにするトーシン・アバシ(G)や、彼の強烈な個性に隠れつつもその超絶テクニックでリスナーを惹きつけるハヴィエル・レイス(G)、そんなバカテクギタリスト2人に負けないくらい手数の多いフレーズ&絶妙なタイム感で複雑なリズムを繰り出すマット・ガーストカ(Dr)。この奇人/鬼神たちが織りなすサウンドスケープはもはやメタルやプログロックの域を飛び越え、聴きようによってはポストロックだったり、あるいはフュージョンやジャズのようにも映り、なんだかんだでそういった類のジャンルが好きな筆者も終始楽しく向き合うことができました。

手数の多さやテクニカルさは時にサーカスのようにも感じられ(そう、1980年代の速弾きブームを重なります)、呆気に取られる場面も多数あるものの、ここまでくると逆にそれが気持ちよさにもつながる。随所にフィーチャーされたシンセのプログラミンがまた良い味を出しており、ベースレスながらも8弦ギターから産み落とされるエッジーな低音と不協和音を含む高音域の旋律の相性も抜群。「Micro-Aggressions」あたりはもはやクラシックの名演を聴いているような錯覚に陥るほどの高揚感を得ることができます。

あと、今作の聴きやすさに大きく作用しているのは、全9曲/約37分というコンパクトなトータルランニング。これまでの作品は40分台後半から50分台前半と、この手のアルバムにしては若干長めだったので、本当に好きな人しか最後まで到達できないんじゃないかというハードルの高さも備わっていました(実際はそんなことないんだけど)。しかし、今作の楽曲は最長でも「Thoughts And Prayers」の約6分で、その他は3〜4分台中心。筆者のようなビギナーには最適な尺ではないでしょうか。正直、これくらいだと飽きずに楽しめるし、各曲の違いもじっくり聴き分けることができる。入門編としても最適な1枚だと断言できる仕上がりです。

今作を起点に、苦手意識が強かった過去作にもゆっくり、じっくり触れてみようと思わせてくれたという点において、この新作が果たした役割はかなり大きなものがあるのではないでしょうか。

 


▼ANIMALS AS LEADERS『PARRHESIA』
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2022年4月13日 (水)

JACK WHITE『FEAR OF THE DAWN』(2022)

2022年4月8日にリリースされたジャック・ホワイトの4thアルバム。

前作『BOARDING HOUSE REACH』(2018年)から4年ぶりの新作。ここ数年は長きにわたり作曲とレコーディングに時間を費やしてきたジャックですが、このタイミングに異なるテーマ、異なるムードのアルバム2枚を完成させ、まず4月に『FEAR OF THE DAWN』を、そして7月22日には5thアルバム『ENTERING HEAVEN ALIVE』を立て続けに発表するほか、7月末には3年ぶりに海外アーティストを招聘する『FUJI ROCK FESTIVAL '22』では2日目のヘッドライナーを務める予定です。

過去イチ“黒っぽい”仕上がりだったこと、スライ・ストーンやプリンスといった鬼才たちの姿とイメージが重なる瞬間を多々見つけられたことが印象に残った前作を経て、今作ではその流れを汲みつつもより実験性の強い作風にまとまっているような気がします。冒頭3曲(「Taking Me Back」「Fear Of The Dawn」「The White Raven」)がほぼ途切れることなる続く構成といい、エフェクティブな音作り/アレンジといい、楽曲単位での完成度云々以上にアルバムを通してひとつのムードを作りながらさまざまな実験にトライしていく。そんな印象が強いのが本作なのかなと思いました。

THE WHITE STRIPES時代はもちろんのこと、過去のソロ作のテイストを包括しつつも、全体を通してエレクトロやダブなどの要素が散りばめられており、そんな中でQ-TIPをゲストに迎えたブルージーなヒップホップ「Hi-De-Ho」、ファンキーなガレージロック「Eosophobia」、モダンなソウルチューン「Into The Twilight」など“ありそうでなかった”タイプの楽曲も次々に繰り出していく。その実験性、先鋭性はどこか往年のプリンスを思わせるところもあり、従来の“らしさ”と混ざり合うことで新たな魅力を発揮しています。

もはやロックは時代遅れで、一部マニアのためだけの代物に成り下がった……そんな外野の意見を吹き飛ばすように、意気揚々と展開されるめくるめくロックンロールは、もしかしたら外野のみならず内側のシンパまでもを吹き飛ばすほどの破壊力を持ち合わせており、ここからまだ誰も見たことのない世界が切り開かれていくのではないか。そんな期待すらしてしまいたくなるほど、このアルバムには魅力的で愛おしい楽曲/サウンドが凝縮されています。もはや、ロックなんてカテゴリーすら堅苦しく感じられて、そこから飛び出そうとしているのかもしれません。

長きにわたりジャック・ホワイトを追ってきたリスナーを満足させつつ、まだ知らない地平へと誘おうとすると同時に、ロックというものに対してすでに縁遠くなっているリスナーもを魅了する。そんな2022年らしい「メインストリームへのカウンター」的な1枚。この先に控えている次作『ENTERING HEAVEN ALIVE』がどんな内容なのかも気になりますが、まずはこの力作が閉鎖的な現在の音楽シーンに大きな風穴を空けてくれることに期待しています。

 


▼JACK WHITE『FEAR OF THE DAWN』
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2022年4月12日 (火)

AEROSMITHのベストアルバムを総括する(2022年版)

先日ブライアン・アダムスで試してみた、いちアーティストの公式ベストアルバム/コンピレーションアルバムをひとつのエントリーの中で総括する記事AEROSMITH版です。

AEROSMITHは1973年のデビュー以降、Columbia Records(1973〜1984)→Geffen Records(1985〜1997)→Columbia(1997〜2021)→Universal(2021〜)と移籍を繰り返してきましたが、現在は全カタログの権利をUniversalが取得したことで、今後Columbia/Sony時代の音源もUniversalからフィジカル再発/デジタル配信されることになりそうです。

そういった意味では、ここに記す代表的なコンピレーションアルバムのいくつかは今後、姿を消すことになるかもしれません。それでもこの機会に改めて、ひとつの記録として記事を残しておくのはアリかなと思い、今回の執筆に至りました。

選出したベストアルバムは、レーベル主導によるシリーズ企画(Universalの『THE MILLENNIUM COLLECION』など)を除く、新曲やレア曲などを含む9作品。中には廃盤になっていたりサブスクで聴けないものも含まれていますが、ご了承ください。また、すでに単独エントリーで公開済みの作品もありますが、その場合は該当記事のリンクを貼っておきますのでご参考ください。

 

 

『AEROSMITH'S GREATEST HITS』(1980)

 

1980年11月にリリースされた、バンド初のベストアルバム。

そのタイトルどおり、収録内容はシングル曲を中心にしたもので、アナログ時代ということで全10曲/約38分というコンパクトな内容でまとめられています。また、構成的にもリリース順に並べられているので、いきなり「Dream On」から始まるという曲順はロックバンド的にどうなのかな?という疑問も残ります。

収録曲のうち、「Same Old Song And Dance」「Sweet Emotion」「Kings And Queens」はイントロを短くした“シングル・エディット”バージョンで収録。「Walk This Way」もアルバムバージョンより10秒近く短い形にエディットされています。オリジナルバージョンに勝るものはありませんが、本作リリース当時は70年代の代表的シングル曲をひとまとめに楽しめるアルバムとして、非常に重宝されましたし、80年代後半の本格的復帰以降も『PERMANENT VACATION』(1987年)『PUMP』(1989年)とともにこのアルバムを愛聴したファンは少なくなかったはずです(注:Apple Musicなど一部ストリーミング配信版は各シングルエディットがアルバムバージョンに差し替えられているのでご注意を)。

また、映画サントラに提供したビートルズのカバー「Come Together」が収録されている点も注目ポイントかな。『LIVE! BOOTLEG』(1978年)ではライブバージョンを先に聴くことができましたが、スタジオテイクがエアロのアルバムに収録されるのはこれが初めて。そこも本作が長く愛された要因のひとつかなと。

なお、本作がリリースされた頃にはすでにバンドの人気も低迷期に突入しており、チャート的には大きな成功を収めることはありませんでしたが、そこから数年後の再ブレイクも手伝い、セールス的には現在までに1000万枚を超えるメガヒット作となっています。

 


▼AEROSMITH『AEROSMITH'S GREATEST HITS』
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『GEMS』(1988)

 

1988年11月にリリースされたAEROSMITHのコンピレーションアルバム。

『PERMANENT VACATION』(1987年)の大ヒットを受けて、前レーベルのColumbia Recordsが企画したコンピ版で、シングル曲中心でまとめられた前作『AEROSMITH'S GREATEST HITS』と比べるとその内容はかなり地味なもの。ただ、ライブで演奏される機会の多い「Mama Kin」や「Lord Of The Thighs」「Train Kept A-Rollin'」なども含まれていることから、“裏ベスト”的側面の強い1枚かなと。

本作最大の注目ポイントは、『LIVE! BOOTLEG』(1978年)のみで聴くことができた「Chip Away The Stone」の未発表スタジオテイクが収録されていること。この1曲のために当時本作を購入したというファンも少なくなかったはずです。実際、この曲は本作からシングルカットもされ(既存ライブ映像を使用したMVも制作)、ラジオヒットも記録しています。

今のようにサブクスやYouTubeも存在せず、過去のスタジオアルバムにまで手を出せなかった当時の中高生には本作に収録された「Rats In The Celler」や「Nobody's Fault」「Round And Round」「Jailbait」などはかなりカッコよく響いたものです。ここから『ROCKS』(1976年)『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)にも手を伸ばしていったビギナーは80年代後半、かなりの数存在していたはずですから。

コアなファンの中には、先述の『AEROSMITH'S GREATEST HITS』より本作のほうが好きという方も、意外と多かったりして。かくいう僕も本作、大好物ですからね。

 


▼AEROSMITH『GEMS』
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2022年4月11日 (月)

AEROSMITH『1971: THE ROAD STARTS HEAR』(2022)

2022年4月8日にされたAEROSMITHのレア音源集アルバム。日本盤は同年4月20日発売予定。

本作はバンドがアルバム『AEROSMITH』(1973年)でメジャーデビューするよりも前の、1971年に録音された貴重なリハーサル音源をコンパイルしたもの。昨年2021年11月には「Records Store Day 2021」の一環として、アナログ盤&カセットテープのみで数量限定販売されたものの、短期間で市場から姿を消した、ファンアイテムとしても非常に希少価値の高い1作として知られる作品でした。

先の限定発売から5ヶ月を経て、ついにCD&デジタルで一般流通が開始された本作。全8トラックで約38分という昔ながらのボリュームで非常に聴きやすい1枚です。内容的にも2分に満たないスタジオセッションを含む「Intro」から、のちにデビュー作『AEROSMITH』に収録されることになる「Somebody」「Walkin' The Dog」「Movin' Out」「Dream On」「Mama Kin」に加え、6thアルバム『NIGHT IN THE RUTS』(1979年)でリメイクされることになるジャズ・ギラムのカバー「Reefer Head Woman」、ライブアルバム『CLASSICS LIVE』(1986年)で初公開された「Major Barbra」のオリジナルバージョンと、非常に貴重な音源の数々を楽しむことができます。

音質的には決してベストとは言い難い、カセットテープ録音を元にした音源。そこに関してはマイナスポイントかもしれませんが、可能な限りレストアが施されていることで、今の耳でもそれなりに楽しむことができるはずです。むしろスピーカーを通して聴いていると、このラフなサウンドが生々しいバンドサウンドと相まって、逆に迫力が増すのではないでしょうか(と、僕は解釈して楽しんでおります)。

『AEROSMITH』収録曲の数々はスタジオ音源とは異なるアレンジや歌詞も見つけることができ、その未完成具合もファンとしては興味深いポイント。特に「Dream On」に関しては大きな違いを見つけることができることでしょう。スティーヴン・タイラー(Vo)がピアノを弾いて歌っている(であろう)アレンジと、ジョー・ペリー(G)のギターがそこまで主張が強くない点、そしてエンディングに3rdアルバム『TOYS IN THE ATTIC』(1975年)収録曲の「You See Me Crying」のピアノフレーズがフィーチャーされていたりと、初期ならではの試行錯誤が透けて見えてきます。こういうメジャーキーに転調するエンディングも悪くないし、DEREK AND THE DOMINOS「Layla」と被るところもクスッと笑えます。

さらに、「Mama Kin」のAメロがギターフレーズ、メロディライン含めまったく異なる点も興味深い。この気の抜けたアレンジ、最初こそ違和感ありまくりでしたが、何度か聴いているとサザンロックっぽくてこれはこれでアリかもと思えてきました。こういう違いを楽しめるの、良いですね。

スタジオ作品としては『MUSIC FROM ANOTHER DIMENSION!』(2012年)以降、もはやニューアルバムには期待できそうにないAEROSMITH。今後はこうした秘蔵音源がどんどん掘り起こされて、新たにカタログの権利を取得したUniversal Musicを通して定期的にリリースされていくのかしら。それをバンドが望んでいるのであれば、こちらとしてはそれを受け入れるのみ。既存曲で構成されたベストアルバムを続発するくらいなら、レア音源集や未発表ライブアルバムにも期待したいところです。

 


▼AEROSMITH『1971: THE ROAD STARTS HEAR』
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2022年4月10日 (日)

BRYAN ADAMS『CLASSIC』(2022)

2022年4月1日にデジタルリリースされたブライアン・アダムスのリレコーディング・アルバム。

2022年に入ってからのブライアン・アダムスの精力的なリリース活動には、目を見張るものがあります。まず、3月4日にミュージカル『PRETTY WOMAN - THE MUSICAL』に提供した楽曲をセルフカバーした新録アルバム『PRETTY WOMAN - THE MUSICAL』をデジタルリリースし、翌週11日には3年ぶりのオリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』をフィジカル&デジタルで発表。そこから1ヶ月経たずして今回のリリースですからね。1ヶ月にアルバム3枚って、サブスク全盛のこの時代じゃなかったらレコード会社に嫌がられるだけですからね(ちなみに、オリジナルアルバム『SO HAPPY IT HURTS』以外の2枚はレーベルを通さず、自身の音楽出版会社Badams Music経由で発表)。

さて、今回の再録アルバムについて。当初、ブライアンはUniversal在籍時のカタログのマスターテープをすべて返却することを求めたそうですが、これをレーベルが拒否。「だったら、新たに録り直すよ」ということで、この企画に至ったんだとか。おそらく、膨大な数のマスターテープが焼失した2008年6月の米・Universal Studios火災の中には、ブライアンの名作アルバムのマスターも含まれていたのではないでしょうか(あくまで勝手な想像ですが)。また、ブライアンは数年前のライブでテイラー・スウィフトと「Summer Of '69」をコラボしたことにも触れ、彼女が最近取り掛かっている過去のアルバムのリレコーディング企画も今回の参考になったと述べています。

ということで実現したこの企画ですが、今回は全8曲/約34分という非常に現代的なコンパクトさでまとまっています。選曲的には先の「Summer Of '69」や「Heaven」「Run To You」といった大ヒット作『RECKLESS』(1984年)収録曲に加え、90年代のメガヒットナンバー「Everything I Do (I Do It For You)」、初のベストアルバム『SO FAR SO GOOD』(1993年)から名バラード「Please Forgive Me」、初の全米TOP10入りを果たした「Straight From The Heart」、デビューアルバム『BRYAN ADAMS』(1980年)の冒頭を飾る「Hidin' From Love」、そして38 SPECIALに提供した映画『TEACHERS』(邦題は『りんご白書』)サウンドトラック収録曲「Teacher, Teacher」のセルフカバーというレアトラックを含む、非常にバランスの取れた内容。

事前になんの情報もなくこのアルバムに初めて触れたとき、「Summer Of '69」を聴いたときは原曲に忠実なアレンジ/演奏なだったこともあり、リテイクだとまったく気付きませんでした。なので、「既存曲ばかりだし、またあとで聴くか」くらいな気持ちで放っておいたのですが、よくよく聴けばちょっとしたボーカルの節回しやトーンの違い(原曲制作時から35年以上加齢しているので、そりゃ違いますよね)も見つけられる。けど、この曲に関してはエンディングがフェードアウトではないことで初めて「あ、やっぱり違うバージョンなんだ」と気付くくらい、違和感のない仕上がりだったのです。

それこそ、M-2「Everything I Do (I Do It For You)」やM-3「Heaven」のボーカリゼーションや演奏のタッチの違い、新たに加えられたフェイクなどを耳にして「ああ、完全新録音だ!」と納得するぐらい、本作の演奏/アレンジは原曲に忠実なのです。それこそ、シンセの音色やドラムの質感も忠実にこだわっており、「Everything I Do (I Do It For You)」のみ異質なドラムサウンド(ジョン・“マット”・ラングらしいDEF LEPPARD的ビッグサウンド)が際立つぐらい。逆に、ほかの楽曲は『RECKLESS』的な質感で統一されていることにより、単なる寄せ集めとは異なるまとまりが伝わります。それこそ「Hidin' From Love」なんてアレンジ自体は原曲に近いのに、その演奏と音質の違いによって新しい魅力が伝わるほどの良セルフカバーに仕上がったのではないでしょうか。

と同時に、38 SPECIALの原曲を知らない人には新曲感覚で触れることができる「Teacher, Teacher」は、時期的にも1984年の楽曲という、3rdアルバム『CUTS LIKE A KNIFE』(1983年)〜4thアルバム『RECKLESS』期の、脂が乗り切ったブライアン(とジム・バランス)による良曲。最新作『SO HAPPY IT HURTS』とはまた違った、青臭さの残ったロックンロールを堪能できるはずです。

ブライアンによると、この『CLASSIC』は第2弾も年内リリース予定とのことで、今後も定期的にデジタル経由で発表されることになりそうです。あまり日の目を見る機会のない初期2作の楽曲含め、今の音で蘇る名曲たちを楽しむことができる、絶好の機会になりそうですね。

 


▼BRYAN ADAMS『CLASSIC』
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2022年4月 9日 (土)

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』(2022)

2022年3月25日にリリースされたARCHITECTSのライブアルバム。日本盤未発売。

昨年2月末に発表したスタジオアルバム『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)が、キャリア初の全英1位を獲得したARCHITECTS。前々作『HOLY HELL』(2018年/同18位)の時点でWembley Arena公演が実現するなど、すでにイギリスではその人気が確立していた彼らですが、この1枚でついに頂点に達することができました。

そんなヒット作を携え、ARCHITECTSが2021年12月11日にイギリスの名門スタジオ・Abeey Road Studiosで開催したのが、この『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をまるまる演奏するというストリーミングライブ。しかも、ただアルバムを完全再現するだけではなく、The Parallax Orchestraの指揮者であり英国作曲家賞(BASCA)を三度受賞しているサイモン・ドブソンをが編曲・作曲を担当し、多才なクラシック音楽家で構成されたThe Parallax Orchestraをフィーチャーしたスペシャルな企画でした。

ヘヴィメタルがオーケストラと共演するライブや音源は、これまでにもMETALLICAイングヴェイ・マルムスティーン、それこそ古くはDEEP PURPLEなど、さまざまんアーティストが試みてきました。モダンなメタルコアバンドでも、BRING ME THE HORIZONがすでに実践するなど、その試み自体は手垢の付いたものではありますが、こうしてすでに完成して世に広まっているアルバムをまるまる1枚、オーケストラアレンジで披露したライブ作品はそこまで多くはないのでは(もともとオーケストラをフィーチャーしたアルバムを、ライブで同じ形で再現するケースは多々ありますけどね)。そういった意味でも、本作は非常に興味深い内容と言えます。

ライブアルバムとはいえ、無観客状態で実施されたライブということもあって(かつ、名門Abbey Roadでの録音と相まって)、その仕上がり自体スタジオライブ音源、いや、一発録りのスタジオアルバムと捉えることもできすほどの完成度の高さ。もともとメロディアスさや音のダイナミズムが劇的に強化されたアルバムだっただけに、ストリングスやブラスが加わることでその壮大さは多大に向上し、ARCHITECTSというバンドが持つドラマチックなサウンドの強みを思う存分に味わえる傑作に仕上がっています。いや、これはホントすごいですよ?

ミックスのせいもあってか、ギターよりもオーケストラサウンドを前に出しており、低音が効いたギターサウンドとのバランスも良好。どちらか一方が他方の魅力を打ち消すこともなく、それでいてボーカルをしっかり立てることにも成功している。ブレイクダウンパートでフィーチャーされる生楽器隊のアレンジがとにかく秀逸で、やり方を一歩間違えば笑いの種になってしまいそうなところを、しっかりと原曲の良さを保ちながら、よりカッコよく進化している。個人的にはオリジナル盤よりも本作のほうが曲の良さが映えていると感じられ、確実にスタジオ盤超えしていると思いました。特に「Flight Without Feathers」のようなスローナンバーはその魅力により磨きがかかり、原曲とは別モノとして堪能することができました。

モダンメタルの新たな可能性を打ち出した本作。もし、まだオリジナルの『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』を聴いていない方がいましたら、この機会に2枚を比較しながら聴いてみることをオススメします。と同時に、メタルやラウド系に疎い方でしたら、まずはこのオーケストラ共演盤から触れるのも全然アリですしね。ARCHITECTSというバンドやこのジャンルに対して、いろんなきっかけを作ってくれる良企画でした。素晴らしい!

 


▼ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』
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2022年4月 8日 (金)

BEACH HOUSE『ONCE TWICE MELODY』(2022)

2022年2月18日にリリースされたBEACH HOUSEの8thアルバム。

全米20位まで上昇した前作『7』(2018年)から3年9ヶ月ぶりの新作。初のCD2枚組作品にして初のバンド完全プロデュース作という、約85分/全4章にもおよぶ大作に仕上げられています。

全18曲のうち、M-1「Once Twice Melody」からM-4「Through Me」までが“Chapter 1”、M-5「Runaway」からM-8「Over And Over」までが“Chapter 2”、M-9「Sunset」からM-13「Illusion Of Forever」までが“Chaputer 3”、そしてM-14「Finale」からM-18「Modern Love Stories」までが“Chapter 4”という内訳。Chapter 1は「Once Twice Melody」や「Superstar」などドリームポップ/エレポップ色の強い楽曲が続き、キラキラした世界を構築するところからスタートします。中には「Pink Funeral」のように完全打ち込み楽曲もあり、そこにストリングスが絡んでいくアレンジもさすがの一言です。

その流れからパーカッシヴなリズムが耳に残る「Runaway」で“Chapter 2”へとつなげるのですが、この曲もシューゲイザーやドリームポップのテイストを保ちつつ、どこかダンスミュージック的な側面も伝わる。その空気を「ESP」や「New Romance」で引き継ぎつつ、さらにキラキラした7分超の大作「Over And Over」でアルバムは折り返しに突入します。ここまでがCDでいうところのDISC 1になるわけですが、ひとつのアルバムとしての統一感もつ良いサウンド/アレンジは非常に心地よいものがあるはずです。

そして“Chaputer 3”はアコースティック色の強い「Sunset」で幕開け。エレポップやドリームポップのテイストは引き続き保ちつつも、アコギをフィーチャーすることでアーシーさが強まり、アルバムの流れにも変化が加わったことが伺えます。その流れから「Only You Know」でそれまでの空気感を復調させ、ドラムレスの浮遊系ナンバー「Another Go Around」、どこかニューウェイヴ的な懐かしさを感じさせる「Masquerade」、ムーディながらも壮大さも伝わる「Illusion Of Forever」を経て、文字通り「Finale」でクライマックスの“Chapter 4”へと続いていきます。

“Chapter 4”も基本的にはそれまでの流れから大きく外れることはなく、リズムレスの「The Bells」、アナログ色の強いエレポップ「Hurts To Love」、まるで讃美歌のように穏やかな「Many Nights」、ひときわドラマチックな「Modern Love Stories」でエンディングを迎えます。

曲によってはギターをまったく使用せず、完全にエレクトロニクス色で染め上げられていたり、反復するメロディで構築されたシンプルな楽曲から複雑に展開するプログレッシヴなアレンジまであったり、味付けや方向性に統一性こそ感じられるものの、楽曲の振り幅自体は実にバラエティに富んでいる。それもあって、長尺作品ながらも飽きずに楽しむことができ、むしろこの音にずっと浸っていたいとさえ思えてくる。レコーディング自体、前作制作終了後から始まり、約3年もの歳月をかけていること、中には10年前に書いた楽曲も含まれている、ミックスの大半はアラン・モルダー(NINE INCH NAILSMY BLOODY VALENTINERIDEなど)が担当しているが、中にはデイヴ・フリッドマン(MERCURY REVTHE FLAMING LIPSなど)がミックスを手掛けた楽曲も存在する、など大作だけにいろんなエピソードもありますが、とにかく無心でひたすら浸っていたい作品集かな。

こういうアルバムはしのごの言わず、黙って音と向き合うだけで十分。リリース前から何度もリピートしてきた作品ですが、それ以降も気付けば手を伸ばしている、今の自分に必要不可欠な良作です。

 


▼BEACH HOUSE『ONCE TWICE MELODY』
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2022年4月 7日 (木)

WEEZER『SZNZ: SPRING』(2022)

2022年3月20日にデジタルリリースされたWEEZERの最新EP。

2021年は『OK HUMAN』『VAN WEEZER』という2枚のフルアルバムを立て続けに発表したWEEZER。これに続く新作は、“季節(=Seasons=SZNZ)”を題材にした4枚の連作で、その第1弾が“Spring”とサブタイトルの付けられたこの7曲。ヴィヴァルディの「四季」からインスピレーションを受け、魔法、シェイクスピア、異教徒の神話等の影響を強く受けた作品となっているそうです。

プロデューサーは『OK HUMAN』を手掛けたジェイク・シンクレアとスージー・シン、そしてイーサン・グルースカが担当。『OK HUMAN』で試みたBEACH BOYS的ポップ感が全体を覆う、非常に軽やかな作品集に仕上がっています。

アルバムのオープニングを飾る「Opening Night」は、ヴィヴァルディの「四季」より「春」の印象的なメロディを引用したポップな1曲で、冒頭こそキラキラしたポップ感の強いアレンジですが、バンド演奏が加わることでWEEZERらしいパワーポップ感が強まるという、非常に興味深い仕上がり。このEPの世界観を象徴する、象徴的な楽曲と言えるでしょう。

その後もBEACH BOYS直径の厚みあるコーラスが耳に残る「Angels On Vacation」、アコギとマンドリン、鍵盤ハーモニカ、ピアノなどの生楽器を全面に打ち出したアーシーな「A Little Bit Of Love」、冒頭の鳥のさえずりとドリーミーなイントロダクションがちょっとサイケデリック(だけど曲自体は王道ポップス)な「The Garden Of Eden」、タイトルからは想像できないほどに脱力系、しかしサビではしっかりパワーポップしている「The Sound Of Drums」、アコースティック色を強めた序盤の軽やかさとサビでのリズミカルさの対比が面白い「All This Love」、イントロのギターリフとアナログシンセの絡みがたまらない「Wild At Heart」と、どれも従来のWEEZERらしさに『OK HUMAN』での実験をうまい具合に散りばめ、新鮮さを保つことに成功しています。

1曲通してガッツのあるパワーポップ/オルタナティヴロック系ナンバーはありませんが、ここ最近の彼ららしさの延長線上にある作風は決して悪いものではなく、かつ『OK HUMAN』という実験作での手応えがしっかり反映されている点からも、彼らがまだまだ進化を続けていることが伺えます。なので、従来のファンはもちろんのこと、「毎回同じじゃん?」と最近の作品を敬遠しているリスナーにもしっかり届いてほしい1枚かなと思います。

今後、夏〜秋〜冬とどんな内容の作品を届けてくれるのかも楽しみですし、「夏なら王道BEACH BOYS的ポップに振るのかな?」「冬はホリデー作品を意識した内容になるのかしら?」など予想するのも面白そう。フルアルバムにこだわらず、こうしたサブスク視点でのリリースを定期的に続けられるのも彼ららしいかなと思うので、ぜひ企画途中で頓挫することなく最後までやり通してもらいたいところです。

※追記(2022年6月):海外で4月下旬にCD化されたのに続き、日本盤CDのリリースも7月6日に決定しました。

 


▼WEEZER『SZNZ: SPRING』
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2022年4月 6日 (水)

REEF『REPLENISH』(1995)

1995年6月19日にリリースされたREEFの1stアルバム。日本盤は同年10月1日発売。

REEFは1993年にイギリス・グラストンベリー出身の4人組ロックバンドで、当時のメンバーはゲイリー・ストリンガー(Vo)、ケンウィン・ハウス(G)、ジャック・ベッサント(B)、ドミニク・グリーンスミス(Dr)。ブリットポップ・ブームど真ん中の1995年にシングル「Good Feeling」でメジャーデビューを果たし、いきなり全英24位という好記録を樹立。続く「Naked」も最高11位まで上昇し、アルバム自体も9位と新人ながらも大きな成功を収めます。

ブルースやクラシックロックを下地にしたロックバンドという点においては、同時期にシーンを賑わせたOCEAN COLOUR SCENEやその先輩格であるポール・ウェラーと並列で語られるべきかもしれませんが、REEFはそういったモッズ寄りのサウンドというよりは同じTHE WHOをベースにしたブリティッシュ・ハードロックバンド側に寄った方向性で、ブリットポップファンよりもTHUNDERあたりを愛聴していた古き良きハードロックリスナーにこそ受け入れられるべき存在かもしれません。しかし、世が世ということもあり、当時はそのへんがうまく伝わらなかった。彼らの不幸はその一点に尽きます。

アルバム冒頭を飾る「Feed Me」の野生味溢れるハードロックサウンド、オルタナティヴロックからの影響も伝わるスマートな仕上がりの「Naked」や「Good Feeling」、ヘヴィな演奏が心地よく響く「Together」、ダーク&アーシーなブルースロック「Choose To Live」、ソウルフルなミディアムバラード「Comfort」、ライブの最後に演奏されることの多いダイナミックな「End」など、時代を超越した楽曲群は今聴いても古臭さを感じることなく(逆に1995年当時はどこか懐かしさを感じたのですが)、普遍性の強いブルースロック/ハードロックを思う存分堪能できるはずです。

また、よくよく聴くとTHE BLACK CROWESなどクラシックロック・リバイバル勢との共通点も見つけられ、それが続く2ndアルバム『GLOW』(1997年)でのジョージ・ドラクリアス起用につながるのかなと思うと、非常に興味深いものがあります。ただ、この1stアルバムの時点では要所要所にモダンな味付けも散りばめられているので(「Naked」のビートは、明らかに当時のダンスビートからの影響でしょうし)、完全にクラシックロック側に振り切るだけの自信が足りなかったのかなと予想します。

その後の『GLOW』や『RIDES』(1999年)と比べると、まだ完全に振り切るまでに至らず、どこか躊躇しているようにも映る本作ですが、まあこれはこれで素晴らしいバランスの上で成り立っているので、デビューアルバムとしては及第点かな。あの頃敬遠していた方にこそ今このタイミングに触れてほしい、THE STONE ROSES『SECOND COMING』(1994年)と並ぶ“90'sハードロックの隠れた名盤”のひとつです。

 


▼REEF『REPLENISH』
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REEF『IN MOTION: LIVE FROM HAMMERSMITH』(2019)

2019年2月22日にリリースされたREEFのライブ作品。日本盤未発売。

本作は2018年5月(日本盤は同年10月)に発表された18年ぶりのアルバム『REVELATION』を携え、同年5月6日にロンドン・Hammersmith Apollo(Eventim Apollo)にて開催されたライブの模様を収録したもので、CD+Blu-rayおよびアナログ2枚組+Blu-rayの形態にてリリース(海外では音源のみデジタル&ストリーミングあり)。90年代の全盛期はライブアルバムを一切制作しなかったバンドですが、2010年の再結成以降は『LIFE FROM METROPOLIS STUDIOS』(2013年/配信のみ)、『LIVE AT ST. IVES』(2016年)に続く3作目。また、ライブ映像作品としては2003年のDVD『REEF LIVE』(のちに音源のみデジタル配信)に続く2作目となります。

当時のメンバーはゲイリー・ストリンガー(Vo)、ジェシー・ウッド(G)、ジャック・ベッサント(B)、ドミニク・グリーンスミス(Dr)の4人。ライブにはキーボーディスト、2人の女性コーラスがサポート参加しており、アルバムの世界観に近い形で名曲たちが再現されています。

ライブアルバムには当日披露された全17曲が完全収録(「Summer's In Bloom」と「Naked」が入れ替わり、アンコールに披露された「Revalation」が「Summer's In Bloom」のあとに移動される編集あり)とされていますが(パッケージ裏面のその表記あり)、実際には「Summer's In Bloom」「Revalation」「Yer Old」「End」のラスト4曲は5月25日のMotion Bristol公演からのようです。また、ライブBlu-rayは「Summer's In Bloom」「Revalation」の2曲がカットされています。ライブ映像がフル収録で音源はいくつかカットされるというケースが通例かもしれませんが、Hammersmith Apollo公演での一部楽曲の出来に満足がいかなかった結果なのでしょうか。

選曲的には1stアルバム『REPLENISH』(1995年)から2曲(「Naked」「End」)、2ndアルバム『GLOW』(1997年)から8曲(「Place Your Hands」「I Would Have Left You」「Summer's In Bloom」「Consideration」「Don't You Like It?」「Come Back Bright」「Higher Vibration」「Yer Old」)、3rdアルバム『RIDES』(1999年)から1曲(「I've Got Something To Say」)、ベストアルバム『TOGETHER, THE BEST OF...』(2002年)から1曲(「Stone For Your Love」)、5thアルバム『REVELATION』から5曲(「First Mistake」「How I Got Over」「My Sweet Love」「Precious Metal」「Revelation」)と非常に偏った内容。最大のヒット作『GLOW』から8曲というのはさすがに偏りすぎだし、4thアルバム『GETAWAY』(2000年)からのセレクトなしというのも解せない。そもそも当時の最新作より『GLOW』全曲披露みたいな形になってしまっている点で、当時のバンドの状況や世間から求められるものが透けて見える気がして、ちょっと悲しくなります。

ロニー・ウッドTHE ROLLING STONES)の息子であるジェシー・ウッドはバンドの4分の1に徹し、そつないプレイを披露している印象。そのへんも父親譲りかな。見た目的にモサい長髪&髭のゲイリー&ジャックに押され気味の印象もなきにしもあらずですが、2022年現在もバンドに在籍していることを考えるとそれなりに馴染んでいるのでしょう。よかった。

とにかく、このバンドらしいグルーヴィーでアーシーなロック、クラシカル&ソウルフルなハードロックを堪能できるという点においては、スタジオアルバム以上に最適な作品かな。結果としてオリジナルメンバーのドミニク・グリーンスミスが参加した最後の作品となってしまいましたし(このライブの約2ヶ月後、ドミニクはドラマーからの引退を表明、同時にREEFも脱退)、そういった意味でも貴重なドキュメントかもしれません。

今月末にはアンディ・テイラー(ex. DURAN DURAN、ex. THE POWER STATION)をプロデューサーに迎えた4年ぶりの新作『SHOOT ME YOUR ACE』のリリースも控えているので、クラシックロックファンにこそぜひとも映像と合わせて楽しんでいただきたいところです。

 


▼REEF『IN MOTION: LIVE FROM HAMMERSMITH』
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2022年4月 5日 (火)

LAMB OF GOD『VII: STURM UND DRANG』(2015)

2015年7月24日にリリースされたLAMB OF GODの7thアルバム。日本では『VII: シュトゥルム・ウント・ドラング ~疾風怒濤』の邦題で同日発売。

全米3位を記録した前作『RESOLUTION』(2012年)から3年半ぶりの新作、前身バンドBURN THE PRIEST時代の作品を含めると8枚目のオリジナルアルバム。アメリカでは変わらずEpic Records所属ですが、日本を含む海外ではNuclear Blast Records移籍第1弾作品としてリリースされました。

プロデュースは5thアルバム『WRATH』(2009)以来タッグを組んでいるジョシュ・ウィルバー(TRIVIUMCrossfaithSONS OF TEXASなど)が担当。「Embers」にはチノ・モレノ(Vo/DEFTONES)、「Torches」にはグレッグ・プチアート(Vo/KILLER BE KILLED、ex. THE DILLINGER ESCAPE PLANなど)がそれぞれゲスト参加しています。

オープニングの「Still Echoes」から従来のLAMB OF GOD節が前回で、過去作のファンならば問答無用で楽しめる1枚。個人的にはこの曲といい、続く「Erase This」といい、過去数作と比較すると非常に聴きやすくなった印象を受けました。特に、チノ・モレノをフィーチャーした「Embers」は彼が歌唱するパートが非常にDEFTONES的テキストでまとめられていることもあり、よりそうした親しみやすさを覚えるのかもしれません。

とはいえ、基本的にはランディ・ブライ(Vo)の怒号のようなスクリームと、手数の多いクリス・アドラー(Dr)のヘヴィだけど軽やかなドラミング、マーク・モートン(G)&ウィル・アドラー(G)が織りなすギターサウンドの“壁”(と、随所ににじみ出るメロディアスさ)を首尾一貫楽しめる1枚かな。PANTERA以降のモダン・ヘヴィメタル/グルーヴメタルに何の偏見もないメタルリスナーには、ど真ん中と言えるくらい正統派モダンメタルの良作だと思います。

と同時に、ランディがメロディアスかつ囁くように歌うスロー&ヘヴィナンバー「Overlord」にはグランジからの影響も見え隠れするし、グレッグ・プチアートのカラーが色濃く表れた「Torches」の浮遊感の強さにはオルタナ/ニューウェイヴからの影響も伝わってくる。これらの要素は一見浮いてしまいそうに思えるのですが、意外にもアグレッシヴな全体像に見事馴染んでいるから不思議です。そういった意味でも、本作はトータルバランスに非常に優れた、2015年時点での集大成的1枚ではないでしょうか。

あと、前作が全14曲/56分と長尺だったのに対し、本作は全10曲/48分と比較的コンパクト。1曲1曲は4〜5分とかなり密度の高い仕上がりなので、これだけでも十分におなかいっぱいになる内容です。デラックス盤および日本盤はボーナストラック2曲(「Wine & Piss」「Nightmare Seeker (The Little Red House)」が追加され、結果的には56分と前作並みのボリュームになってしまうのですが(さらに日本盤はライブ音源2曲を追加)、できることなら本作はM-10「Torches」で潔く終えるのがベストかな。おまけはおまけでしかないし、ボートラ2曲が加わることでアルバムの印象が薄まるような気がするので。

ちなみに本作、いつのまにか日本の各ストリーミングサービスから消えてしまっています。ここの日本の流通元はリスナーに対して優しくないといいますか、こういうケースが少なくないので困りものです(リリースから5年くらい経つと聴けなくなっている作品、多々あるのでどうにかしてもらいたいものです)。

 


▼LAMB OF GOD『VII: STURM UND DRANG』
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LAMB OF GOD『WAKE UP DEAD (feat. DAVE MUSTAINE)』(2022)

2022年4月1日にデジタルリリースされたLAMB OF GODの新録音源。

MEGADETHが1986年に発表した2ndアルバム『PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING?』(1986年)のオープニングトラックをカバーしたもので、ダウンチューニングこそ施されているもののアレンジは原曲に忠実。さらにタイトルからもわかるように、本家デイヴ・ムステインもボーカル&ギターで参加しています。

このコラボレーションはおそらく、2020年からアナウンスされていながらもコロナ禍で延期されていた2バンドのダブルヘッドラインツアー(ゲストにTRIVIUMIN FLAMESが参加)が4月9日にスタートすることを受けて制作されたもの。LAMB OF GOD側がレジェンドに対する敬意を表して取り上げたのでしょう。かつてクリス・アドラー(Dr)がMEGADETHのレコーディングにゲスト参加し、そのまま加入〜LAMB OF GOD脱退〜なぜかMEGADETHからも離れるというハプニングもありましたが、2バンド間にはネガティブな感情は一切なく、むしろ1980〜90年代にアンダーグラウンドからメジャーへと駆け抜けたMEGADETHと、2000年代以降アンダーグラウンドからメジャーの頂点へと昇り詰めようとするLAMB OF GODの夢の共演が音源でも楽しめる、貴重な1曲となっています。

レコーディングにはキコ・ルーレイロ(G)やダーク・ヴェルビューレン(Dr)といった現MEGADETHメンバーも演奏で参加しているほか、脱退したデイヴィッド・エレフソン(B)に代わりライブに参加しているジェイムズ・ロメンゾ(B)もコーラスで加わっているとのこと。ギタリストの数がハンパないことになっていますが(笑)、MVを観ると誰がどのパートを弾いているか理解できます。

こうやって観る(聴く)と、キコって本当にすば抜けて個性的なギタリストですね。もちろんデイヴ本人もなんですけどね。そして、ランディ・ブライ(Vo)が歌うMEGADETHナンバーに最初は「えっ?」と疑問を覚えたものの、聴き終える頃には「ありあり! 全然あり!」と思えるから不思議なものです。こういうストレートなメタルクラシックを歌う&演奏するLAMB OF GOD、意外とアリでしたね。

お遊びとしては十分すぎるほどに豪華な1曲。ツアーではこのコラボレーションを毎回観ることができるのか、それとも音源のみなのかはわかりませんが、できることなら8月に決まったあのフェスでここ日本でも観たいものです。

 


▼LAMB OF GOD『WAKE UP DEAD (feat. DAVE MUSTAINE)』
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2022年4月 4日 (月)

DREAM WIDOW『DREAM WIDOW』(2022)

2022年3月25日にリリースされたDREAM WIDOWの1stアルバム。デジタルリリース&ストリーミングサービスでの配信のみで、現時点ではフィジカル未発売。

DREAM WIDOWはかつて活動していた伝説のヘヴィメタルバンド。彼ら唯一残したこのセルフタイトルのアルバムは、FOO FIGHTERSが10thアルバム『MEDICINE AT MIDNIGHT』(2021年)のレコーディングしたことでも知られるロスの邸宅で制作されており、その魔力じみた破壊力は『MEDICINE AT MIDNIGHT』にも多少なりとも影響を与えた……とか与えなかったとか。

以上は、架空のお話。というのも、これは海外で先日公開されたFOO FIGHTERS制作/出演のホラーコメディ映画『STUDIO 666』の設定で、DREAM WIDOW自体もこの物語に登場する架空のバンド。物語にリアリティを求めるあまり、デイヴ・グロール(Vo, G)のメタル熱が久しぶりに高まり、なんとほぼすべてのパートをひとりで担当して完成させたのがこの『DREAM WIDOW』というアルバムなのです(これはマジの話)。

ご存じのとおり(いや、最近のファンは知らないか)、デイヴはかつて一大メタルプロジェクトPROBOTを始動させ、レミー(MOTÖRHEAD)、クロノス(VENOM)、マックス・カヴァレラ(SOULFLY、ex. SEPULTURA)、リー・ドリアン(ex. CATHEDRAL)、スネイク(VOIVOD)、キング・ダイアモンド(KING DIAMOND、MERCYFUL FATE)などメタル界のそうそうたるフロントマンを多数迎えて『PROBOT』(2004年)というアルバムを制作。同作でもデイヴはボーカルやギター以外にドラム、ベースをプレイしています。

今回のDREAM WIDOWではリードギターのみジム・ロタ(FIREBALL MINISTRY)が参加。それ以外の楽曲ではデイヴのメタル魂が炸裂した、遊びにしては本気出しすぎな両メタルアルバムに仕上がっています。

オープニングを飾る「Encino」こそグロウルで叫びまくる疾走デスメタルチューンですが、以降はダークメタルを軸にストーナーやブラックメタルなど比較的オールドスクールなヘヴィメタルを展開。ギターがピロピロと速弾きしているのも非常に“らしさ”を醸し出していますが、全体を通して聴いているとFOO FIGHTERSらしさも随所に見つけることができ、それこそ「Angel WIth Severed Wings」や「Come All Ye Unfaithful」なんて味付けを変えたらそのままFOO FIGHTERSとしても通用するのではないかと思えるほど。やっぱり血には抗えませんね(笑)。

圧巻なのが、ラスト2曲の「Becoming」と「Lacrimus dei Ebrius」。スロー&ヘヴィでダークな質感の「Becoming」はブラックメタル的な長尺曲(約7分半)。途中でBLACK SABBATH的な展開も織り込まれており、ストーナーロックの側面も含まれているのかな。ただ、ボーカルに関しては宗教色濃いめのブラックメタルテイストですけどね。また、「Lacrimus dei Ebrius」は10分半にもおよぶインスト大作で、こちらも同テイストですが若干ドゥーミーさが強いかな。テンポチェンジも随所に織り込まれており、ただスローで10分保たせるわけではないところにデイヴのこだわりが透けて見えます。また、この曲のみならず収録曲の至るところにツインリードがフィーチャされており、このあたりの味付けもデイヴのヘヴィメタル感が垣間見えて興味深いです。

昨年のBEE GEESお遊びカバーバンド・DEE GEESといい、『MEDICINE AT MIDNIGHT』リリース以降も精力的に新録作品を発表し続けるデイヴ・グロール。テイラー・ホーキンスの急逝もあり、しばらくバンドとしての動きは期待できなさそうですが、今はこういったアイテムを楽しみつつ次のアクションをゆっくり待ちたいと思います。

その前に……‥テイラー生前最後の勇姿を拝むことができる映画『STUDIO 666』を、ぜひ日本でも視聴できるようにしていただきたい……各方面の皆様、よろしくお願いします……。

 


▼DREAM WIDOW『DREAM WIDOW』
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2022年4月 3日 (日)

MACHINE GUN KELLY『MAINSTREAM SELLOUT』(2022)

2022年3月25日にリリースされたマシン・ガン・ケリーの6thアルバム。

ラップミュージックからポップパンク路線へとシフトし、ヒップホップ界隈/ロック界隈の双方で賛否両論巻き起こした前作『TICKETS TO MY DOWNFALL』(2020年)は初の全米1位を獲得。同年に初めて全米1位を獲得したロックジャンルのアルバムとのことで(いわゆるロックアーティストの同年1位獲得はAC/DC『POWER UP』のみ)、もともとロックスター感の強いアーティストであり、また同タイミング(2019年春)にMOTLEY CRUEの自伝映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』でトミー・リー(Dr)役を熱演したり、そのMOTLEY CRUEの新曲「The Dirt」にフィーチャリング参加したりとロック方面での関係値も高まっていた中での方向転換だっただけに、お膳立てはできていたということなんでしょう。

かくいう僕も、この『TICKETS TO MY DOWNFALL』はよくリピートしましたし、それ以前から彼のアルバムは耳にしてきていたのですが、こと前作においては複雑な気持ちで接していました。「どこまでマジなのか? それともギャグなのか?」……ギャグにしてはクオリティが高すぎるし、徹底しすぎている。ってことはやっぱりマジなのか……歌うのか……もちろん、中身が良ければすべて丸く収まるはずなんですが、なんとも煮え切らない気持ちのまま、このポップパンク路線第2弾のリリースを迎えたわけです。

アルバムタイトルは、当初アナウンスされていた『BORN WITH HORNS』から『MAINSTREAM SELLOUT』という、非常に象徴的なものへと急遽変更に。最初はロック的メインストリームシーンに身売り=セルアウトしたと解釈したのですが、よくよく考えると“俺が転落へのチケット(=Ticket To My Downfall)”が売り切れて“商業的に大成功(=Mainstream Sellout)”という前作から続く物語のようにも受け取れる。実際、前作は全米1位&プラチナディスク獲得という大成功を収めているわけで、見方次第でいろんな捉え方ができるわけです。このタイトルひとつで、個人的にはちょっと許せたというか、「それなら、こっちもそのつもりで受け入れます」という気持ちにようやくシフトできたわけです。気難しいな、自分。

プロデューサーに前々作『HOTEL DIABLO』(2019年)収録の「I Think I'm Okay」でのコラボを機に、前作で全体のプロデュースとドラムを担当したトラヴィス・バーカー(BLINK-182)を再び迎えて制作。フィーチャリングゲストとしてBRING ME THE HORIZON、リル・ウェイン、ブラックベアー、ウィロー、イアン・ディオール、ガンナ、ヤング・サグ、ランドン・バーカー(トラヴィス・バーカーの息子)、ピート・デヴィッドソンという、メタル、ヒップホップ、シンガーソングライター、コメディアンなど多岐にわたるジャンルの人間が参加して、多彩な楽曲群に華を添えています。

基本的にやろうとしていることは一緒。バンド編成によるパンクサウンドを軸にしつつ、ヒップホップらしいトラックもいくつか用意。しかし、それらが別ジャンルとして乖離することなく、互いに歩み寄ることで統一感を生み出している。例えば「Die In California」のような打ち込みビートのヒップホップナンバーのあとにハードロック寄りの「Sid & Nancy」が並んでもまったく違和感を覚えないし、ヒップホップとグランジが融合した「Ay!」のような楽曲まで存在する(リル・ウェインが良い味出してます)。MGKがラップをするよりも歌うことに注力し、がっつりラップすることはゲスト陣に任せるという割り切り方もあってか、1枚のアルバムの中に色の異なるジャンルが複数存在するという感覚はゼロで、むしろ複数のジャンルが自然な形で手を取り合っている印象が強いんです。

また、冒頭を飾る「Born With Horns」や「God Save Me」を筆頭としたパンクロック/オルタナティヴロックサウンドが全体的に軸を作っているからこそ、上記のようなテイストはアクセントとして見事な効果を発揮しているようにも受け取れる。このナチュラルさは前作以上ではないでしょうか。

「Maybe」の楽曲制作と演奏で参加したBMTHもアルバムのほかのバンドチューンと違和感なく馴染んでおり、かつオリヴァーのボーカルも自身のバンドのときとは異なる響き方をしているように感じる。面白い効果です。むしろこの曲は絵付き(=MV)で楽しんでもらいた1曲で、MGK、オリヴァー、トラヴィス・バーカーの三つ巴による“近代ロック界3大怪獣”夢の共演を視覚的に堪能していただきたい。

「Emo Gril」のキラーチューンぶりも文句なしだし、リル・ウェインが参加したもうひとつの「Drug Dealer」も良き仕上がり。タイトルトラック「Mainstream Sellout」やブラックベアー参加の「Make Up Sex」、さらには「5150]「Papercuts」「WW4」「Twin Flame」など、どれも曲単位でも優れている。また、本作にはパンク/オルタナの加えてグランジ的な側面も見え隠れする。そこも含めて好みのど真ん中にある1枚だなと思うわけです。

きっと僕みたいに偏見を持ってMGKと距離を取っていたロックリスナーも少なくないのでは。けど、フラットな気持ちで本作と触れてみて、改めて評価してもらえたらと願っております。

 


▼MACHINE GUN KELLY『MAINSTREAM SELLOUT』
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RED HOT CHILI PEPPERS『UNLIMITED LOVE』(2022)

2022年4月1日にリリースされたRED HOT CHILI PEPPERSの12thアルバム。

2019年12月にジョン・フルシアンテ(G)が10年ぶり/二度目の復帰を果たし、黄金期の布陣……アンソニー・キーディス(Vo)、フリー(B)、チャド・スミス(Dr)、ジョンの4人が三度揃ったレッチリ。2020年2月には絵画展の最中だったチャドにかわりステファン・パーキンス(JANE'S ADDICTIONなど)が参加した編成でジョン再復帰初パフォーマンスを実施するも、その直後にコロナ禍に伴うロックダウンに突入。その後の動向が心配されましたが、2021年に入るとバンドはアルバムの制作に突入し、同年9月には翌2022年6月からワールドツアーをスタートさせることをYouTubeを通じて発表します。このタイミングから、新作は2022年初夏発売かと予想されましたが、2022年2月に新曲「Black Summer」のデジタル配信が始まり、これと同時にアルバムが4月1日にリリースされることもアナウンスされたのでした。

前作『THE GETAWAY』(2016年)から約5年10ヶ月と過去最長のリリース間隔を経て届けられた本作。前作で初プロデュースを担当したデンジャー・マウスから、『BLOOD SUGAR SEX MAGIK』(1991年)から『I'M WITH YOU』(2011年)まで20年にわたりタッグを組んだリック・ルービンを再び迎えて制作されました。全17曲/約74分というCD1枚もの作品としては過去最長となり、日本盤はそこにもう1曲「Never Flip」を加えた全18曲/約77分というボリューミーな内容に。もはや『STADIUM ARCADIUM』(2006年)に次ぐダブルアルバムと呼んでしまっても差し支えないほどの充実感ではないでしょうか。

『I'M WITH YOU』や『THE GETAWAY』といった“ジョン不在”の2作では、ジョシュ・クリングホッファー(G)を迎えたバンドの第3章を強くアピールしようとするあまり、ジョン時代のカラーと新たな側面のバランス加減に苦悩した様子が伺えました。特に『THE GETAWAY』ではリック・ルービンからデンジャー・マウスにプロデューサーを変更し、新しい道を模索しながら何とか活路を見出し始めていたことも伺えます。しかし、新編成での3作目に取り掛かる中でアンソニー、フリー、チャドは「やはりジョンが必要」という結論に達し、第3章は志半ばで道を閉ざすことになります。

ジョシュには悪いですが、「Black Summer」からスタートするこの新作を聴いたときの安定感は過去2作の比ではありませんでした。この新作も『CALIFORNICATION』(1999年)以降のアルバム同様、地味な方向性です。しかし、説得力の強さや深みに関しては過去2作以上であり、『STADIUM ARCADIUM』の正当的後継アルバムであることが理解できるはず。いや、『STADIUM ARCADIUM』の“続き”というよりは不思議と『CALIFORNICATION』の頃に戻ったかのような。「また新しく始めようぜ!」という意識の現れなのか、リスタートへ向けた強い思いが楽曲や演奏にしっかり表れているように感じられたのです。

ジョンのギターフレーズから始まる「Black Summer」でアルバムが幕開けするというのも印象的ですし、比較的地味ながらもアンソニーの歌やジョンのギターがエモみを強めていることも特徴的。そこから続く「Here Ever After」や「Aquatic Mouth Dance」のファンキーさは、派手さこそ皆無ながらも躍動感は一級品。楽曲至上主義な90年代末からの方向性と、各プレイヤーの技量の高さをバランスよくフィーチャーしたアレンジが絶妙な割合でミックスされている。このへんが無意識のうちに共有できているこの4人ならではの楽曲群と言えるでしょう。

「Not The One」のAOR寄りテイストのバラードもさすがの一言ですし、クールなファンクチューン「Poster Child」、ジョンのギタープレイが異彩を放つ「The Great Apes」や「She's A Lover」を経て、中盤から後半にかけてアルバムは徐々に熱量を高めていく……この流れ自体は『STADIUM ARCADIUM』に通ずるものがありますが、その爆発力は同アルバム以上のものがあり、そういった点においても『CALIFORNICATION』との共通点が見受けられる。もしかしたら本当に、バンドの中で“『CALIFORNICATION』よ再び”的な意識が少なからずあったのかもしれませんね。もちろん、同じものをもう1枚作ろうという意味ではなく、向き合う姿勢という点においてね。

珍しく最初に聴いたときに何度かリピートしてしまったレッチリの作品。好きな曲もこれまでより多く見つけられ、上に挙げたような楽曲に加え「These Are The Ways」や「Whatchu Thinkin'」、「One Way Traffic」から「Tangelo」までの流れなど、やはり中盤以降にお気に入りが並ぶのは過去と同様のようです。

アルバムとしては「Tangelo」で綺麗に締めくくられますが、日本盤ボーナストラックの「Never Flip」もなかなかの1曲。ヘヴィさでは本作随一ですが、やはりアルバムの最後に置くにはちょっと場違いかな。と同時に、アルバムの中に置くにもちょっと収まりが悪い気もする。本編から外された理由もわからくないですが、とはいえ悪い曲ではない。こういう曲がほかにもっとありそうな気がするので、半年〜1年後にはボーナスディスクにアウトテイクをまとめた2枚組デラックスエディションとか発売(もしくは配信)されそうな予感です(苦笑。それはそれで楽しみですが)。

どうやら今年の夏フェスタイミングは北米ツアーと重なり、苗場や幕張方面でのヘッドライナーは2023年以降に持ち越しかな。どうせなら、久しぶりの単独公演に期待したいところですね。

 


▼RED HOT CHILI PEPPERS『UNLIMITED LOVE』
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2022年4月 2日 (土)

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(2022)

2022年4月1日にリリースされたTHE HELLACOPTERSの8thアルバム。

スタジオアルバムとしては全曲マイナーなガレージロックのカバーで構成された7thアルバム『HEAD OFF』(2008年)以来14年ぶり、全曲オリジナル曲で構成された新作としては6thアルバム『ROCK & ROLL IS DEAD』(2005年)以来約17年ぶり。2016年の再結成後には1996年当時の未発表曲を現編成でレコーディングした「My Mephistophelean Creed / Don't Stop Now」を発表しているものの、まさかここまでたどり着くとは想像もしていませんでした。

レコーディング参加メンバーはニッケ・アンダーソン(Vo, G/IMPERIAL STATE ELECTRICLUCIFERENTOMBED)、ドレゲン(G, Vo/BACKYARD BABIES)、ロバート・エリクソン(Dr)、アンデス・“ボバ”・リンドストローム(Key)の2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』(1997年)時の布陣。正式ベーシストは不在で、レコーディングではニッケがプレイし、ライブではIMPERIAL STATE ELECTRICやTHE DATSUNSのドルフ・デ・ボーストが参加しているようです。

プロデュースは4thアルバム『HIGH VISIBILITY』(2000年)以降すべての作品を手掛けてきたチップス・キーズビー(BACKYARD BABIES、MICHAEL MONROE、SPIDERSなど)が引き続き担当。ゲストとして、ニッケの別バンドLUCIFERのヨハナ・サドニス(Vo)がコーラスとして参加しています。

全10曲(日本盤ボーナストラック除く)で34分半というコンパクトな内容は、往年のクラシックロック的であると同時に現代的でもある。そもそも2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』なんて30分にも満たなかったし、3rdアルバム『GRANDE ROCK』(1999年)だって38分。本来の姿に戻っただけなのです。

肝心の内容は、リードトラック「Reap A Hurricane」のときに書いたように、ニッケが語るところのThe Beatles meets Judas Priest or Lynyrd Skynyrd meets the Ramones but the best way to describe this album is that it sounds like The Hellacopters today.」的内容。「Reap A Hurricane」を聴き、このコメントを読んで僕は「初期2作と中後期のハイブリッド」と予想しましたが、まさにそういう仕上がりでした。ぶっちゃけると、もうちょっと初期2作のカラーが強いかな?とも思ったのですが、意外と中後期のレイドバック路線の延長線上にある流れで、『ROCK & ROLL IS DEAD』や『HEAD OFF』に続く正統的新作だと断言できます。つまり、時期を限定せずTHE HELLACOPTERSの新作を常に楽しんできたリスナーには、問答無用で楽しめる1枚なのです。

序盤はミディアムから若干アップテンポといったタイプの楽曲が中心で、3曲目にブルージーなミディアムスローナンバー「So Sorry I Could Die」が来るあたりに新境地的印象を覚えます。かと思えば、続くタイトルトラック「Eyes Of Oblivion」から再びギアを入れ直し、ニッケ&ドレゲンのツインギターがカッコいい「Positively Not Knowing」、イントロが確かにJUDAS PRIESTっぽんだけど軽快なメジャーキーが斬新な「Tin Foil Soldier」、グルーヴィーなアップチューン「Beguiled」、キャッチーなメロディを含む王道ガレージロック「Try Me Tonight」と新しさと従来の路線が混在している。バンドとして、そして表現者として常に成長を続けていることを窺わせる、文句なしの傑作ロックアルバムです。

日本盤にはボーナストラック5曲を追加し、トータル51分という長尺さ。オリジナル新曲「Don't Hold On」のほか、THE BEATLES「Eleanor Rigby」、STRING DRIVEN THING「Circus」、G.B.H.「I Am The Hunted」、THE BROGUES「I Ain't No Miracle Worker」という本編以上にバラエティに富んだ楽曲群を楽しむことができます。ぶっちゃけ、この5曲だけを抜き出してEPとして売り出すことだってできるのに、なんて太っ腹なんだ。ここでは完全にTHE HELLACOPTER節が備わった「Eleanor Rigby」が出色の仕上がり。聴くまでは不安だったけど、一番ツボでした。

さてさて。こうなると生で彼らのステージを観たいですよね。最後の来日は2001年1月でよかったのかしら……期待しても、いいですよね?

 


▼THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』
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2022年4月 1日 (金)

PLACEBO『NEVER LET ME GO』(2022)

2022年3月25日にリリースされたPLACEBOの8thアルバム。日本盤未発売。

ライブアルバム『MTV UNPLUGGED』(2015年)やEP『LIFE'S WHAT YOU MAKE IT』(2016年)&ベストアルバム『A PLACE FOR US TO DREAM』(2016年)のリリースはあったものの、純粋なオリジナルアルバムとしては『LOUD LIKE LOVE』(2013年)以来8年半ぶり。随分と待たされたものです。前任ドラマーのスティーヴ・フォレストが2015年に脱退して以降、バンドは今日までブライアン・モルコ(Vo, G)&ステファン・オルスダル(B)というオリジナルメンバー2人(にサポートメンバーを加えた編成)で活動を続けています。

デュオ編成になって初のアルバムは、前作から引き続き参加のアダム・ノーブル(BIFFY CLYROリアム・ギャラガー、DEAF HAVANAなど)とバンドの共同プロデュース作。レコーディングにはツアーメンバーのマシュー・ラン(Dr)やウィリアム・ロイド(Key, Programming)のほか、ピエトロ・ギャローネ(Dr)などが参加。2019年からじっくり時間をかけて制作した、実にPLACEBOらしい充実の仕上りです。

楽曲スタイル、サウンド面に関してはPLACEBOのパブリックイメージ通りの、グラムロックやニューウェイヴを通過した妖艶なオルタナティヴロックそのもの。ブライアン・モルコの爬虫類系ボーカルも健在で、アルバム冒頭を飾るミディアムテンポの「Forever Chemicals」からして王道のPLACEBO節炸裂といったところでしょうか。

シンセのリフがどことなく80年代的な香りを漂わせるリードトラック「Beautiful James」は、新しいといえば新しいし、らしいといえばらしいという1曲。かと思えば、彼ららしいダークな「Hugz」、ただひたすら美しい「The Prodigal」、エモーショナルさが際立つ「Sad White Reggae」、ポストパンク(というかディスコパンクか)色の強い「Twin Demons」など、新鮮さが伝わる楽曲も豊富です。

本作を聴いて改めて感じたことですが、アクの強いシンガーを擁するバンドの場合、その人が歌えばたとえどんな楽曲でもそれらしく聴こえてしまうんだということ。時にそれが足を引っ張るケースもあるものの、PLACEBOに関してはそこが最大の武器であり、本作のようにカラフルで多様性に富んだ作品に強い統一感を与える結果を生み出している。お見事としか言いようがありません。

しかし、本作の魅力はそういったサウンド面以上に、歌詞やメッセージの側面なのでしょう。事前に公開されたプレスリリースによると、例えば「Beautiful James」は「現代の会話に散見されるようになった、より目立ち始めた無知な派閥への反感をしっかりと表現」しており、ブライアン・モルコは「もしこの曲が四角四面な人たちや堅苦しい人たちを刺激するようになれば、それはそれで喜ばしいことだと思う」とコメントを寄せています。また、そのほかの楽曲に関しても現代社会に対する警告のようなメッセージが綴られており、そういった面が本国でウケている理由なのかもしれません。非英語圏の日本で彼らの評価が中途半端に感じられるのは、そういう歌詞に対する理解も影響しているのかな。

とはいえ、上記に挙げたような楽曲に加え、冷ややかさに人力ドラムンベース調リズムを加えた「Surrounded By Spies」や、どことなく往年のNEW ORDERを思わせる「Chemtrails」(この曲のみならず、本作にはそういった楽曲が複数存在)、繊細なピアノとメロディが切なく響く「This Is What You Wanted」、ドラムレス編成だからこその打ち込みビートを用いた「Fix Yourself」など聴きどころ満載。全13曲/約58分とじっくり吟味するまでに時間を要しそうですが、捨て曲なしの力作ですので、こちらも真摯に向き合いたいと思います。ホント、長く待たされた甲斐がありました。

 


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