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2022年12月

2022年12月31日 (土)

2022年12月のお仕事

2022年12月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※12月29日更新)

 

[紙] 12月29日発売菅井友香「Wアンコール」にて、過去連載分および新規書き下ろし分の構成を担当しました。(Amazon

[WEB] 12月28日、「音楽ナタリー」にてインタビューhalca「nolca solca」インタビュー|コレサワ、北澤ゆうほ(the peggies)、北川勝利(ROUND TABLE)ら参加した充実の2ndアルバムをいち早く紐解くが公開されました。

[WEB] 12月28日、「リアルサウンド」にてコラムTK from 凛として時雨、『チェンソーマン』にもたらしたカオティックな衝撃 アニメとの親和性によって広がる楽曲の世界観が公開されました。

[WEB] 12月28日、「リアルサウンド」にてコラム南條愛乃、“キャラソン”セルフカバーで振り返る声優としての歴史 八木沼悟志によるミルキィホームズ「ココロノエデン」編曲秘話もが公開されました。

[紙] 12月27日発売「日経エンタテインメント!乃木坂46 Special 2023」にて、遠藤さくら、賀喜遥香、秋元真夏、久保史緒里、伊藤理々杏、清宮レイ、井上和、中西アルノの各インタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 12月22日、「リアルサウンド」にてライブレポート乃木坂46、10人編成で築くアンダーライブの新章 グループの未来を担う覚悟が熱く滲み出たステージにが公開されました。

[WEB] 12月21日、Survive Said The Prophet『Hateful Failures Tour』EX THEATER ROPPONGI公演(12月20日開催)のオフィシャルレポートを担当。SPICEなどで随時公開中です。

[WEB] 12月21日、「リアルサウンド」にてインタビュー愛美×相羽あいな×『夢ノ結唱』担当者も再現度に驚き! CeVIO AI『POPY』『ROSE』がもたらす『バンドリ!』の新展開が公開されました。

[WEB] 12月21日、「リアルサウンド」にてインタビュー南條愛乃、様々な出会いと支えの中で迎えられたソロデビュー10周年 「今はみんなと一緒に歩いている長い旅の途中」が公開されました。

[WEB] 12月21日、「リアルサウンド」にてインタビューLittle Glee Monster、新体制で挑んだ「Join Us!」の前向きなパワー オーディションの裏側も明らかにが公開されました。

[WEB] 12月20日、「リアルサウンド」にてライブレポート日向坂46、おひさまとの一体感で盛り上げた『ひなくり2022』 二期生の絆が垣間見える宮田愛萌の卒業スピーチもが公開されました。

[WEB] 12月20日、「音楽ナタリー」にてインタビュー「V系って知ってる?」開催に向けてD'ERLANGER、MUCC、DEZERT、アルルカン、キズの司令塔たちが大放談が公開されました。

[WEB] 12月20日、乃木坂46『31stSG アンダーライブ"』KT Zepp Yokohama公演(12月19日開催)のオフィシャルレポートを担当。OTOTOYなどで随時公開中です。

[WEB] 12月16日、「リアルサウンド」にてコラム岸田教団&THE明星ロケッツ、新たな10年へ歩みを進める所信表明 『転生したら剣でした』が結ぶバンドの過去・現在・未来が公開されました。

[WEB] 12月13日、「リアルサウンド」にてインタビュー柴田柚菜&林瑠奈、初心を大切に形作っていく“新しい乃木坂46” 齋藤飛鳥の卒業に寄せる想いもが公開されました。

[WEB] 12月8日、「ぴあエンタメ情報」にてインタビュー生田絵梨花「前進するために、今の自分に必要なこと」 『映画かいけつゾロリ』で声優に本格挑戦が公開されました。

[紙] 12月7日発売「ヘドバン」Vol.37にて、RAGE AGAINST THE MACHINE『Rage Against The Machine』30周年記念クロス・レビュー、HANOI ROCKS アルバム・ディスコグラフィ、マイケル・モンロー関連作品ディスコグラフィを執筆しました。(Amazon

[ソフト] 12月7日発売の楠木ともりのライブ映像作品「Tomori Kusunoki Zepp TOUR 2022『SINK⇄FLOAT』」Blu-ray完全生産限定盤に付属のブックレットにて、楠木ともりロングインタビュー、バンドメンバー座談会、ライブスタッフインタビューを担当・執筆しました。(Amazon

[紙] 12月2日発売「日経エンタテインメント!」2023年1月号にて、櫻坂46菅井友香の連載「いつも凛々しく力強く」および日向坂46上村ひなのの連載「ピュアで真っすぐな変化球」の各構成を担当しました。(Amazon

マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)

2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。

なもんですから、原体験としては続く『BAD』(1987年)のほうがリアルタイム感が濃厚で、初来日となった後楽園球場公演をはじめさまざまな記憶がよみがえってきます(初めて&唯一生で観たのは1992年12月の『Dangerous Tour』でしたが)。

そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。

 

 

『OFF THE WALL』(1979)

 

1979年8月10日にリリースされたマイケル・ジャクソンの5thアルバム。

古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。

初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。

大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。

ポップスとしての強度は『THRILLER』や『BAD』ほどではないものの、アルバムとしてのまとまりや完成度は同2作よりも数歩上。“キング・オブ・ポップ”の快進撃がここから始まったという点では、絶対に欠かすことのできない傑作第1号です。

 


▼MICHAEL JACKSON『OFF THE WALL』
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『THRILLER』(1982)

 

1982年11月29日にリリースされたマイケル・ジャクソンの6thアルバム。

前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。

また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。

本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。

音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。

全9曲と最近のアルバムと比べたら短い印象もありますが、1曲1曲の個が強いことから何度聴いても飽きがこない。リリースから40年経った今聴いても懐かしさと同時に新鮮さも常に見つけられる、「これぞ歴史的名盤」と言える1枚。いまだ超えることのできない壁(アメリカだけで3400万枚超、全世界で7000万枚超のセールス)を打ち立てた、ポップミュージック界のマスターピースです。

 


▼MICHAEL JACKSON『THRILLER』
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INDEX

当ブログにて公開中のレビュー、および1998年12月1日からスタートした『とみぃの宮殿』に掲載された記事を当ブログにて再公開したレビューのインデックスページになります。(2023年3月31日更新)


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※特集個別リンク
2022年総括 *NEW!TMQ-WEB: 2022年の年間アクセスランキングTOP50 *NEW!2002年4月〜2003年3月発売の洋楽アルバム20選 *NEW!2022年上半期総括1991 in HR/HM & Alternative Rock


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2022年12月30日 (金)

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(2022)

2022年10月21日にリリースされたARCHITECTSの10thアルバム。日本盤未発売。

初の全英1位を獲得した前作『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)から1年8ヶ月という短いスパンで届けられた新作スタジオアルバム。その間には『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をストリングス隊と一緒に完全再現したスタジオライブアルバム『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』(2022年)も発表されているので、さらに間隔が短く感じられ「え、もう?」と驚いたことをよく覚えています。

前作同様、ダン・サール(Dr)&ジョシュ・ミドルトン(G)がセルフプロデュースを担当。楽曲の方向性自体は前作の延長線上にあるように思うのですが、制作の取り組み方自体は前作での成功を踏襲することなく、新たな気持ちで取り組んだとのこと。ダン・サールはそこについて、「特に『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をオーケストラと一緒に再録音した後は、ストリングスやその他のものを棚上げしなければならないと感じた。だから、今度のアルバムは違う美学で作りたかった。シンセを使って、今までやったことのないようなことをするのが楽しかったんだ」と述べています。

実際、サウンドメイクに関してはエレクトロニックサウンドやそのアレンジを全面的に導入しており、オープニングを飾る「Deep Fake」や続く「Tear Gas」から伝わる質感は、要所要所でNINE INCH NAILS以降の味付けが伝わりますし、「Liveing Is Killing Us」あたりは“メタルコア版DEPECHE MODE”的なダークさも感じられる。なもんですから、僕自身嫌いになれるわけがない。大好物のてんこ盛りみたいな1枚に仕上がっているのすからね。

サム・カーター(Vo)の適度にアグレッシヴで決してメロウさを崩さないボーカルスタイルにもより拍車がかかり、バンドとしての絶対的個性が完全に確立されたことが伺えます。ミドルテンポ中心の楽曲スタイルは前作から引き続きで、これをキャッチーと受け取るか単調と解釈するかで評価は分かれるかもしれません。が、そんな中にもシャッフルビートを取り入れた「Spit The Bone」、グルーヴィーでアップテンポ気味の「Doomscrolling」、攻撃的ながらもキャッチーさを損なわない「A New Moral Low Ground」、初期のアグレッシヴさが復調した「Be Very Afraid」など変わり種もしっかり用意されており、実は全体的に起伏に富んだ1枚であることに気付かされます。「When We Were Young」などリード曲の印象が強いのでミディアム主体のイメージを持ってしまいがちですが、バラエティ豊かにおいては前作以上ではないでしょうか。

あと、前作まで当たり前だったフィーチャリングアーティストの参加が皆無なのも今作の特徴的なポイントかな。客演なしでもここまでやれるという自信は、間違いなく前作で得た成功がなせるものだ思いますし、そういったゲストが入る余地がないくらいの充実度の高さも実際に聴けば納得できるはずです。

また、前作が全15曲/58分という大作だったのに対し、今作は全11曲/42分とかなりコンパクト。そのへんも前作以上の聴きやすさ、親しみやすさにつながっている気がします。全英1位という快挙がバンドに与えた自信は相当なものがあったと思いますし、同時にプレッシャーも感じていたと思います。ですが、短い期間のうちに気持ちを切り替えられたことが本作を生み出すことにつながった。バンドとしての充実期がそのまま良質な形で反映された、ARCHITECTSの“今”がダイレクトに感じられる決定版的1枚です。

 


▼ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』
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2022年12月29日 (木)

WARGASM (UK)『EXPLICIT: The MiXXXtape』(2022)

2022年9月9日にリリースされたWARGASM (UK)の1stアルバム/ミックステープ。日本盤未発売。

ミルキー・ウェイ(Vo, B)&サム・マトロック(Vo, G)からなるWARGASM (UK)は、2018年に結成されたロンドン出身のエレクトロ/ヘヴィロック・デュオ。2020年頃から注目を集め始め、数々の音楽フェスでの名演を機に『NME』『Alternative Press』『Kerrang!』『Revolver』『Upset』といった音楽誌で絶賛されてきました。

THE PRODIGYを通過したレイヴ/デジタルパンク感、ニューメタル以降のポストハードコア感を踏襲しつつ、ヒップホップやダブステップなどモダンなテイストも随所に散りばめた先鋭的なスタイルは、フロアで暴れるに十分なもの。かつ、メロディラインにはキャッチーさやポップさもしっかり備わっており、単なるキワモノでは終わらない魅力が秘められています。

彼らにとって初めてのまとまった作品集である本作は、全7曲/18分と非常に短いものの、その中身は尺以上に濃厚なもの。M-1「Introduction」とM-5「Lola's Voicemail」のみ15〜30秒程度のインタールードで、実質5曲で構成されたミックステープということになるのでしょうか。しかも、M-2「Super Fiend」以外の4曲(「D.R.I.L.D.O」「Fukstar」「Salma Hayek」「Pyro Pyro」)は事前に単曲配信済み。耳の早いリスナーならすでにヘビロテしたあとでしょうから、目新しさは皆無かもしれません。

とはいえ、殺傷力の強いスラッシーなギターリフ、暴力的に低音が効いたビート、メタリックさとダンサブルな要素が共存するアレンジ、耳馴染みの良さすら感じられるメロディラインなどはどれも一級品。サム&ミルキーの男女ボーカルの絡みも絶妙なバランス感で構築されており、一寸の隙も感じさせない完成度の高さを誇るものばかりです。

個人的2022年度の年間ベストTOP3候補作。それくらい問答無用のカッコよさを誇る1枚であると同時に、これからWARGASM (UK)に触れようとするビギナーにとっては「最新のWARGASM (UK)」をダイレクトに知れる入門盤でもあります。ここに「Your Patron Saints」(2021年)やDEATH BLOOMSとのコラボ曲「Shut Up」(2021年)、そしてENTER SHIKARIとのコラボ曲「The Void Stares Back」(2022年)あたりを追加して、独自のプレイリストを作ってみてもいいかもしれません(だったら過去のデジタルシングルを全部まとめろって話ですが)。

彼らがどこまで“アルバム”という形にこだわりを持っているのか、はまたままったく興味がないのかは不明ですが、もし今後さらにボリューミーでまとまった形の作品集が登場する日が来たら、それは最高傑作の誕生する日でもあるはずなので、そんな未来が訪れることを楽しみに待ちたいと思います。

まずは……2023年2月の『BLARE FEST.2023』での初来日、期待しております!

 


▼WARGASM (UK)『EXPLICIT: The MiXXXtape』
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2022年12月28日 (水)

LYNYRD SKYNYRD『LYNYRD SKYNYRD 1991』(1991)

1991年6月11日にリリースされたLYNYRD SKYNYRDの6thアルバム。日本盤は同年7月25日発売。

1977年10月の飛行機事故でロニー・ヴァン・ザント(Vo)、スティーヴ・ゲインズ(G)、キャシー・ゲインズ(Vo)らが死亡。この不幸な出来事により、LYNYRD SKYNYRDは一度解散します。そこから10年後の1987年、オリジナルメンバーのゲイリー・ロッシントン(G)、エド・キング(G)らを中心に、ロニーの実弟であるジョニー・ヴァン・ザント(Vo)を新たなフロントマンとして迎えて再結成を果たします。

本作はその、再結成第1弾アルバムにあたり、70年代の初作品同様にトム・ダウド(エリック・クラプトンロッド・スチュワート、EAGLES、PRIMAL SCREAMなど)をプロデューサーに迎えて制作。前作から16年ぶり、しかも(実の兄弟とはいえ)フロントマンの交代などもあり、作風的には前作に当たる『STREET SURVIVORS』(1975年)の続き/延長というわけにはいかず、80年代後半〜90年代初頭らしい質感の楽曲で構成されています。

正直、サザンロックの範疇から若干はみ出しているような印象も受け、それが聴きやすさにもつながっており、自分のようなサザンロックに苦手意識を持っていた若輩リスナーには触れやすかった記憶があります。オープニングを飾る「Smokestack Lightning」のアップテンポ感は完全にアメリカンハードロック寄りですし、「Southern Women」や「Backstreet Crawle」におけるファンキーなノリ、「Pure & Simple」でのレイドバックしたバラード感は同時期にブレイクしていたTHE BLACK CROWESとも通ずるものがあり、その流れから本作に触れたら非常に入っていきやすいと思うんです。

もっと言えば、『DONE WITH MIRRORS』(1985年)あたりのAEROSMITHっぽさもあったりする。要するに……野暮ったくて地味、という意味なんですが(笑)。メジャー感の強い派手さこそないものの、アリーナロック級のノリは確実に擁している。先の「Smokestack Lightning」や「Good Thing」「It's A Killer」あたりは完全にそっち側の楽曲ですものね。

そうそう、本作がリリースされた時期ってちょうどTESLAがアコースティックライブアルバム『FIVE MAN ACOUSTICAL JAM』(1990年)をヒットさせたタイミングとも重なり、そのへんとの共通点も少なくない。というわけで、ここまでに名前を挙げてきたバンドや作品に興味がある方なら、少なからず引っかかる1枚だと思うので、騙されたと思って手にしてみることをオススメします。特に70年代の諸作品はちょっとユルすぎると感じるHR/HM寄りのリスナーは、本作から入門してみてはどうでしょう。

 


▼LYNYRD SKYNYRD『LYNYRD SKYNYRD 1991』
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2022年12月27日 (火)

JOHN COUGAR MELLENCAMP『SCARECROW』(1985)

1985年8月5日にリリースされたジョン・メレンキャンプ(当時はジョン・クーガー・メレンキャンプ名義)の8thアルバム。日本盤は同年9月21日発売。

全米9位を記録した前作『UH-HUH』(1983年)から約2年ぶりの新作。「Lonely Ol' Night」や「Small Town」(ともに全米6位)、「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」(同2位)などのTOP10ヒットを複数生み出し、アルバム自体も全米2位/500万枚というメガヒット作となっています。このアルバムで初めて彼の曲に増えたアラフィフ世代も少なくないのではないでしょうか。

ドン・ゲーマン(ニール・ヤング、R.E.M.、HOOTIE & THE BLOWFISHなど)をプロデューサーに迎え、ラリー・クレイン(G)、マイク・ワンチック(G)、トビー・マイヤーズ(B)、ケニー・アロノフ(Dr)という気心知れたバンドメンバーとともに制作。リッキー・リー・ジョーンズ(Vo)やライ・クーダー(Slide G)といったゲストアーティストに加え、ジョン自身の祖母ローラ・メレンキャンプも歌唱で参加しています。

世代的にはちょうど中学生の頃にヒットした本作。その後手に取って再生する機会はあまりなかったのですが、今年11月4日に最新ミックスが施されたアルバム本編にアルバム未収録曲やデモ音源、別ミックスなどをまとめたボーナスディスクを同梱したデラックス盤が発売されたので、数10年ぶりに聴いてみた次第です。

最新ミックスは2022年の耳で聴いてもまったく古臭く感じられず(そもそも、元々の音源/楽曲がタイムレスな内容だったことも大きいですが)、ケニー・アロノフによるハイの効いたドラミングと適度な歪み具合のギター、そして(ヘッドフォンなどで聴くと)生々しいまでに耳元で歌い上げるメレンキャンプのボーカルのバランス感が非常に良好。ガキの頃にアナログ盤からカセットテープにダビングして何度も再生した楽曲たちが、40年近くの歳月を経てもクリアに鳴り続けている事実に、ただ驚くばかりです。

時代的にちょうどブルース・スプリングスティーンの名盤『BORN IN THE U.S.A.』(1984年)と重なることもあり、当時は身の回りで「スプリングスティーン派か、メレンキャンプ派か?」で意見が分かれたりもしましたが、僕自身は完全にメレンキャンプ派だったんですよね。たぶん、自分が育った環境が彼の曲から透けて見える景色と重なったことが大きかったのかな。「Small Town」や「Lonely Ol' Night」あたりを聴くと、一瞬にして中2〜3の鬱屈した日常生活がフラッシュバックしてくるような(笑)。で、そんな鬱屈を「Rain On The Scarecrow」や「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」を大音量で聴いて吹っ飛ばすという。そうそう、こんな感じだったなあと懐かしくなります。そんな、自身の少年時代とも不思議とリンクする1枚。色褪せない名盤です。

なお、2022年版デラックスエディションにはTHE DRIFTERS「Under The Boardwalk」を筆頭としたカバー曲、アルバム未収録のオリジナル曲「Carolina Shag」「Smart Guys」など全11曲を収録。また、アルバム本編の最後にはボーナストラックとして「Small Town」のアコースティックバージョンも追加されており、アコギとフィドルのみで構成されるミニマルな演奏がまたいい味出しているんですよ。個人的には本編は「R.O.C.K. In The U.S.A. (A Salute To '60s Rock)」で終わる形がベストですが(当時からCDのみに収録されていた「The Kind Of Fella I Am」もできればないほうがいい)、余韻を残して終わるこのアコースティックバージョンを含む形も悪くありませんね。

 


▼JOHN COUGAR MELLENCAMP『SCARECROW』
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2022年12月26日 (月)

BRUCE SPRINGSTEEN『ONLY THE STRONG SURVIVE』(2022)

2022年11月11日にリリースされたブルース・スプリングスティーンの21stスタジオアルバム。

前作『LETTER TO YOU』(2020年)から2年ぶりの新作は、往年のソウルミュージックのカバーアルバム。ソングライターや詩人として評価されることの多いスプリングスティーンですが、ここでは肩の力を抜いて自身のルーツに立ち返りつつ、シンプルに歌を楽しむことに徹しています。

フランク・ウィルソンやフランキー・ヴァリ、FOUR TOPS、THE TEMPTATIONS、ベン・E.キング、SUPREMESなど、ソウルミュージックをルーツに持つアーティストにとっては知らない者はいないくらいに有名どころが中心で、「The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore」(邦題「太陽はもう輝かない」)や「I Wish It Would Rain」(邦題「雨に願いを」)など知名度の高い楽曲もいくつか含まれているものの、選出された楽曲はすべてが(特に我々に日本人にとって)馴染みのある楽曲とはいえません。だからこそ、個人的にはオリジナルアルバムと同じ感覚で接することができました。

お馴染みのE STREET BANDと一緒に制作するのではなく、過去10年の作品で積極的にタッグを組んできたプロデューサーのロン・アニエロ(シャナイア・トゥワイン、ギャヴィン・デグロウ、CANDLEBOXなど)とともにじっくり作り込み。SAM & DAVEのサム・ムーアー(Vo)などのゲストシンガーや大所帯のストリングス隊をフィーチャーすることで、原曲以上にふくよかで厚みのあるサウンドが用意されています。正直、このバックトラックだけでも十分に楽しめる仕上がりで、個人的にはインスト版も別途配信してほしいくらい。

で、その上で齢73歳のスプリングスティーンがリラックスしたボーカルを聞かせてくれる。スプリングスティーン節もしっかり備えられており、かつ独自の解釈によるソウルフィーリングが随所に散りばめられたアレンジの楽曲群は、彼のパブリックイメージである“暑苦しさ”や“押せ押せ気味な歌”が抑え気味なこともあり、聴く側のこちらも終始落ち着いて楽しむことができるという意味では、スプリングスティーンに対して苦手意識を持つリスナーにもオススメできる1枚ではないでしょうか。

だって、まずなにより曲がどれも良い(当たり前の事実ですが)。で、演奏やアレンジも素晴らしいし、ボーカルの深み、渋みもそういった音像に見事フィットしている。もしかしたら『BORN TO RUN』(1975年)や『THE RIVER』(1980年)、『BORN IN THE U.S.A.』(1984年)などの代表作や、『GREATEST HITS』(1995年)をはじめとするコンピ盤とセットで触れるべき初心者向き内容かもしれません。いや、もっと言えばクラシカルなソウルミュージックの入り口としても最適な1枚かもしれません。

スプリングスティーンのアルバムは常に追っている筆者ですが、もしかしたら彼のスタジオ作品の中でもっとも好きな1枚になりそうな予感が……邪道かもしれませんが(笑)、それくらいロックとかR&Bとか、そういったジャンルを超えて広く届いてほしい良作です。

 


▼BRUCE SPRINGSTEEN『ONLY THE STRONG SURVIVE』
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2022年12月25日 (日)

MOTÖRHEAD『IRON FIST』(1982)

1982年4月17日にリリースされたMOTÖRHEADの5thアルバム。

1980年晩秋に発表された『ACE OF SPADES』 が、本国で勃発していた新たなヘヴィメタルの波(NWOBHM=New Wave Of British Heavy Metal)に見事に乗り全英4位を記録。続くライブアルバム『NO SLEEP 'TIL HAMMERSMITH』(1981年)に関しては勢い余って初(かつキャリア唯一)の全英1位を獲得したことで、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たしました。

しかし、バンドにとってはそんな数字は単なる飾りでしかなく、約1年半ぶりに届けられたこの新作スタジオアルバムでもマイペースぶりを発揮。HR/HMの範疇で語られることの多い彼らですが、パンクロック的側面を随所に散りばめたスピード感に満ち溢れた良作で、前作に次ぐ全英6位という好成績を残しています。

前作『ACE OF SPADES』ではスピード感に頼りすぎることなく、緩急に満ちた構成で聴き手を飽きさせませんでしたが、今作は冒頭のタイトルトラック「Iron Fist」から4曲連続で疾走系の楽曲で固められています。「Ace Of Spades」の成功に味をしめて……なんてことはまったくないとは思いますが、ここまで突っ走りまくりなのは、メタルの範疇で語られることに対する彼らなりのアンチテーゼだったのかな……なんて解釈するのはお門違いでしょうか。スピードメタルの元祖とも言われるものの、ここでのしなやかなファストナンバー群は間違いなくパンク直系のそれ(なにせ「Speedfreak」なてストレートなタイトルの曲まであるくらいですから)。ギターソロこそハードロックの影響下にあると受け取ることができますが、全体的にはやはりパンクが軸になっていることは間違いないと思います。

そんな中で、ミドルテンポ寄りのグルーヴィーなM-5「Loser」やM-7「America」は全体の中で非常に良いフック に。スピード感が強調されたアルバムの中だからこそ、より映える仕上がりと言えるでしょう。また、アルバム終盤にも「(Don't Let 'Em) Grind Ya Down」「(Don't Need) Religiion」とミドルナンバーが2曲配置されておりますが、前半が突っ走り気味だっただけに終盤ちょっとトーンダウンしてしまった印象もなきにしもあらず。このへんは曲順でもうひと工夫あったら、最初から最後まで熱量を落とすことなく楽しませられたのではという気もします。本作唯一の欠点はそこだけかな。

あとは、全12曲どれも純度200%のMOTÖRHEAD節炸裂。結果としてレミー・キルミスター(Vo, B/2015年12月没)、“ファスト”・エディ・クラーク(G/2018年1月没)、フィルシー・“アニマル”・テイラー(Dr/ 2015年11月没)の黄金期トリオによる最後の作品となってしまいましたが、『ACE OF SPADES』とこの『IRON FIST』でバンドとして臨界点を迎えたという意味では、この布陣が崩れてしまったのは仕方ないことかなと、40年経った今になって実感しています。

なお、本作は1996年以降のCDリイシューに際して、さまざまな“ボーナストラック付きエディション”や“周年デラックスエディション”が制作されてきましたが、2022年9月23日にはその最新版として“40TH ANNIVERSARY EDITION”がフィジカル(CD、アナログ)とデジタルでリリースされています。CDは豪華ブックスタイルのパッケージに2枚のCDが同梱され、DISC 1に最新リマスタリングが施されたアルバム本編にシングルカップリング曲「Remember Me, I'm Gone」、“Jackson's Studio Demo”と題したアルバム収録曲のデモ音源や未発表テイクを追加。DISC 2には1982年3月18日にグラスゴーで収録された未発表ライブ音源が19曲にわたり収録されています。『IRON FIST』リリース1ヶ月前ながらも、同作からも7曲ほど先行披露。音質的にベストとは言い難いものの黄金期の生々しさを追体験することができます。かつてリリースされていた2枚組デラックス盤(Sancuary Recordsバージョン)はDISC-2に1982年5月のトロン公演の模様が収められていたので(こちらも音質的に難あり)、そちらを所有している方にもオススメの最新バージョンではないでしょうか。

 


▼MOTÖRHEAD『IRON FIST』
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2005年デラックス盤も貼っておきますね。

 

2022年12月 6日 (火)

KISS『ALIVE! THE MILLENNIUM CONCERT』(2006)

2006年11月26日リリースのライブボックスセット『ALIVE! 1975-2000』に同梱された、KISSの未発表ライブアルバム。その後、2014年10月14日にアナログ&デジタルで単品リリースされています。

本作はそのタイトルからもわかるように、1999年12月31日にカナダ・バンクーバーのBC Place Stadiumで実施された年越しコンサートの模様を収録したもの。今の若い世代の方には馴染みが薄いかと思いますが、当時は20世紀から21世紀に移り変わることがお祭り騒ぎだったんですよ(「2000年問題」とか知らないんでしょうね。苦笑)。

ポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、エース・フレーリー(G, Vo)、ピーター・クリス(Dr, Vo)のオリメンで制作した19年ぶりのスタジオアルバム『PSYCHO CIRCUS』(1998年)を携え、1年がかりで実施したワールドツアーのクライマックスとなったバンクーバー公演は、記録によると全20曲が披露されているとのこと(エースのギターソロ、ジーンのベースソロを除く)。しかし、アルバム本編には厳選された15曲が収録。現在出回っているデジタル盤は「2,000 Man」「God Of Thunder」がボーナストラックとして追加された17曲バージョンで、アナログ盤はさらに「Detroit Rock City」を加えた全18曲バージョンとなっています。なお、アルバム未収録となったのは「Shock Me」と「Cold Gin」。

この頃になるとオリメン編成にも関わらず「Heaven's On Fire」や「I Love It Loud」「Lick It Up」もセットリストに復活。『PSYCHO CIRCUS』という新作を制作したことで、全体的にバランスが取れるようになったことが大きいのかな。とはいえ、同作からはタイトルトラックとエース歌唱の「Into the Void」のみなんですよね。『PSYCHO CIRCUS』を引っ提げたジャパンツアーは実現しなかっただけに、記録としてもう少し残してほしかったなあ。

録音からリリースされるまでに6年以上かかっていること、その後エースもピーターも脱退していることなどもあり、あとから追加修正はあまりされていないんじゃないかな。ポールのボーカルも冒頭の「Psycho Circus」を聴く限りでは修正しているようには思えないし。せいぜい歓声を大きめに被せた程度かな。

ピーターの叩く「Psycho Circus」は若干もっさりした印象で、ライブのオープニングにしては弱いような。けど、「Into The Void」での歯切れよいリズムはカッコいいんだよなあ(レコーディングでピーターが叩いたのは「Into The Void」だけみたいですしね)。

内容に関しては“いつもどおり”が強くて、評価が難しいところなんだけど……本作に関しては、オリジナル編成で「Heaven's On Fire」や「I Love It Loud」「Lick It Up」をプレイしているという点に尽きるかな。「Heaven's On Fire」はリズムが若干ゆったりめだけど、「I Love It Loud」は想像以上にヘヴィだし、「Lick It Up」も軽やかさがしっかり伝わる。ピーターのみならず、エースも彼なりに頑張っているのが伝わりますしね。

そもそも本作が2000年に入ってから『ALIVE IV』としてリリースされていたら、また歴史も変わったのかな。本作がヒットしていたら、オリメン時代がもう少し続いていたのかもしれませんが、そんな「たられば」話を今さらしてもね。

 


▼KISS『ALIVE! THE MILLENNIUM CONCERT』
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2022年12月 5日 (月)

KISS『KISS SYMPHONY: ALIVE IV』(2003)

2003年7月22日にリリースされたKISSのライブアルバム。日本盤は『アライヴIV〜地獄の交響曲』の邦題で、2004年3月24日発売。

言わずと知れたKISSのライブ作品『ALIVE!』シリーズの第4弾は、2003年2月26日にメルボルンで開催されたスペシャルライブ『Kiss Symphony』の模様を完全収録したもの。この頃はピーター・クリス(Dr, Vo)が出戻り状態で、ポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、トミー・セイヤー(G, Vo)という不思議な編成による貴重なライブが記録されています。

KISS初のCD2枚組ライブ作品(『ALIVE!』『ALIVE II』も当初はCD2枚組でしたが、その後1枚ものも制作されています)で、ひとつのライブを完全収録するという形ではこれが初めてになるのかな。当初『ALIVE IV』と題されたアルバムは1999年12月31日のカナダ・バンクーバーでのカウントダウンライブを収めたものが発売される予定でしたが、ちょうどレーベルの親会社の吸収合併というトラブルに巻き込まれ、リリースが見送られることに。それもあってか、本作は彼らの作品で唯一Universal系列ではないインディーズのSanctuary Records(流通はBMG〜Sony系列)からの発売となりました。

ライブは3部構成で、第1部がKISSの4人による通常のライブ。70年代のヒット曲に「Lick It Up」「Psycho Circus」といった80年代以降の楽曲も交えたコンパクトなものです。このへんはいつも通りかな。

で、このライブのハイライトは第2部以降。ここからデヴィッド・キャンベルが指揮をとるMelbourne Symphony Ensembleとのコラボステージが展開さてます。第2部はアコースティック編成でのステージで、「Forver」や「Goin' Blind」「Sure Know Something」「Shandi」といった楽曲が『MTV Unplugged』(1996年)を彷彿とさせるアレンジで演奏されています。ただ、さすがに総勢70名ものストリングス隊が加わることで音の厚みは『MTV Unplugged』とは比較しようがない豪華さ。なもんだから、「Beth」なんてオリジナル音源を超えちゃってます(笑)。

第3部はエレクトリック編成とオーケストラとのコラボステージ。無駄に迫力のある「Detroit Rock City」から「King Of The Night Time World」の流れはこのコラボならではのアレンジで、カッコいいったらありゃしない(特に後者ね)。「God Of Thunder」も不気味さが一気に増し、ホラー映画のサントラのよう。そして、圧巻なのが「Black Diamond」。これ、もはや「紅」だよな(笑)。YOSHIKI先生にピアノで参加してほしかったなあ。

改めて思うのは、KISSの楽曲がいかにポップソングとして優れているかという点。もちろん、彼らはロックバンドであってポップスを量産する存在ではないですが、どの曲もメロディアスで親しみやすい。そこに多声ハーモニーが加わることで、激しいサウンドにも関わらず耳馴染みが良くなる。そういった楽曲をオーケストラアレンジを加えた形で表現すれば、そりゃあポップさがより際立つわけです。

たった1回限りの企画だからこそ許されたこのコラボレーション。歴史のひとつとして触れるもよし、楽曲の魅力を再確認するために聴くもよし。これはこれで全然アリですよね。

 


▼KISS『KISS SYMPHONY: ALIVE IV』
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2022年12月 4日 (日)

KISSのベストアルバムを総括する(2022年版)

ブライアン・アダムスAEROSMITHに続く「ベストアルバムを総括する」シリーズ第3弾(シリーズだったのか……)はKISS。まあとにかくベスト盤やコンピ盤、ボックスセットが多い方々ですが、今回は数あるベスト盤の中からレーベル主導で制作された『MILLENNIUM COLLECTION』シリーズを除く、バンド側の公式リリースに絞ってセレクトしております。中には新曲やレアトラックなど含まないもの、現在廃盤でサブスクでも配信されていないものも含まれていますが、あえて掲載してみます。

とにかく非常に長いエントリーなので、心してお読みください……(苦笑)。

 

 

『DOUBLE PLATINUM』(1978)

 

1978年4月2日にリリースされたKISS初のグレイテストヒッツアルバム。アナログ2枚組、CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、エース・フレーリー(G, Vo)、ピーター・クリス(Dr, Vo)のオリジナル編成。新曲こそ皆無ですが、既存楽曲に加え「Strutter」のリテイクバージョン「Strutter '78」やリミックステイクなどが豊富。サブスクではApple Musicはフルで楽しめますが、Spotifyでは「Calling Dr. Love」と「Black Diamond」が歯抜け状態。Amazon Musicでは配信すらされていないようなので、どうにかしていただきたいものです。

詳しくはこちらのエントリーを参照のこと。

 


▼KISS『DOUBLE PLATINUM』
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『KILLERS』(1982)

 

1982年6月15日にリリースされた、KISSにとって2作目の公式コンピレーションアルバム。アナログ/CDともに1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、エリック・カー(Dr, Vo)。日本やオーストラリアなどアメリカ以外の諸国で先行発売。当時はここでしか聴くことができなかった新曲4曲(「I'm A Legend Tonight」「Down On Your Knees」「Nowhere To Run」「Partners In Crime」)がかなり話題となりました。ジャケットにエースの姿はあるものの、当時はすでにバンドから脱退しており、新曲のレコーディングにはのちにバンドに加入するブルース・キューリック(G)の実兄ボブ・キューリック(G)がリードギターとして参加しています。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『KILLERS』
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『CHIKARA』(1988)

 

1988年5月25日に日本限定でリリースされたコンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。この年の春に10年ぶり(ノンメイクアップ時代としては初めて)の来日公演が決定したことを受け、それにあわせて日本のみ10万枚限定で制作されたレアアイテム。今となっては10万枚も刷ったのか!って驚きですけどね。内容は「Rock And Roll All Nite」や「Love Gun」などの70年代ヒットよりも、「Creatures Of The Night」や「Lick It Up」「Heaven's On Fire」「Tears Are Falling」などの80'sヘアメタル期が中心。主にシングルカット/MV制作された楽曲が中心で、そんな中に「I Was Made For Lovin' You」のリミックスバージョンという初CD化レア音源が含まれているのが売りかな(のちに「Psycho Circus」シングルのカップリングで世界的にCD化されました)。

枚数限定生産ということで、現在は廃盤。ただ、中古盤ショップを回れば意外と簡単に見つけられるはず。値段もそこまで張っていないので(Amazonは論外!)、気になる方はぜひチェックしてみてください。

 


▼KISS『CHIKARA』
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『SMASHES, THRASHES & HITS』(1988)

 

1988年11月15日にリリースされた、KISSにとって3作目の公式コンピレーションアルバム。CD1枚もの。

当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、ブルース・キューリック、エリック・カー。日本では『CHIKARA』から間を空けずに発表されることになりましたが、『KILLERS』未発売だった北米などの海外諸国では『DOUBLE PLATINUM』以来10年ぶりのベスト盤。考えてみたら「I Was Made For Lovin' You」はもちろん、80年代の楽曲をまとめたコンピが10年も出ていなかった事実に驚かされます。

内容は「Let's Put The X In Sex」「(You Make Me) Rock Hard」の新曲2曲や、一部楽曲のリミックス、そしてエリック・カーが歌唱した「Beth」など、単なるベスト盤では片付けられない楽曲が多数。北米盤ではなぜか直近の新作『CRAZY NIGHTS』(1987年)からの楽曲が含まれていません(ヨーロッパ盤には「Crazy Crazy Nights」「Reason To Live」収録)。とはいえ、ヘアメタル期のヒットシングルが簡単におさらいできるので、実はもっとも手軽に楽しめる入門盤かもしれません。

詳しくはこちらのエントリーを参照ください。

 


▼KISS『SMASHES, THRASHES & HITS』
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『GREATEST KISS』(1997)

 

1997年4月8日にリリースされたKISSの公式コンピレーションアルバム第4弾。日本盤は1997年1月の来日公演にあわせて、1996年12月9日発売。CD1枚もの。

リリース当時のメンバーはポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、エース・フレーリー、ピーター・クリス(Dr, Vo)。オリジナル編成およびメイクアップ期へと回帰した彼らのワールドツアーにあわせて制作されたもので、北米、ヨーロッパ、日本とそれぞれ収録曲が一部異なるのが特徴。

これまでのコンピのように新曲やリミックス曲は皆無で、既発曲がリマスタリングされている程度。ただ、それだけでは売りがなさすぎるので、1996年6月28日のデトロイト公演から「Shout It Out Loud」のライブ音源を追加。こちらは当時MVも制作されています。

オリメン時代にこだわった選曲なので、『SMASHES, THRASHES & HITS』以降に生まれたヒット曲「Hide Your Heart」「Forever」「Unholy」などは未収録。ただ、北米盤以外では「God Gave Rock 'N' Roll To You II」が選出されているのが謎かも。なお、日本盤のみ海外盤未収録の「C'mon And Love Me」「Rock Bottom」がセレクトされております。このへん、いかにもですね。

サブスクでも聴くことができますが、Apple Musicでは日本盤バージョンで配信、Spotifyはヨーロッパバージョンでの配信のようです。

 


▼KISS『GREATEST KISS』
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2022年12月 3日 (土)

KISS『DOUBLE PLATINUM』(1978)

1978年4月2日にリリースされたKISS初のグレイテストヒッツアルバム。

当時、アナログ2枚組で発表された本作には、新たにレコーディングし直された「Strutter」や、リミックスが施された「Hard Luck Woman」「Calling Dr. Love」「Firehouse」など半数におよぶ10曲が未発表テイクで構成。原曲を知る人にはその斬新なリミックスに、当時はかなり驚かされたのではないでしょうか。後追いの自分にとっては、本作が初めて聴いたKISSのクラシックアルバムということもあり、ここで聴ける楽曲群が原点。なので、初めて「Strutter」のオリジナルバージョンを聴いたときはそのテンポの速さに驚きましたし、「Black Diamond」のエンディングの違いに動揺したことをよく覚えています。

「Strutter '78」と題されたリメイクバージョンはテンポダウンすることで、当時流行していたディスコビートに接近。思えば、のちの「I Was Made For Lovin' You」の布石はこの時点で存在していたことにも気づかされます。

その一方で、「Hard Luck Woman」はアコギのみをバックに歌唱するパートが増えていたり、「Detroit Rock City」では中盤がコンパクトにまとめられていたりと、リメイクに近いリミックスとなっています。そりゃあ、このバージョンの耳馴染みが強ければ、オリジナルバージョンを聴いたたら違和感覚えますわな。

本作で圧巻なのは、「Rock Bottom」のイントロ(アルペジオパート)に「She」をくっつけた新解釈。エンディングのリピート含め、これを先に聴いたら(以下同文)。あと、アルバムラストを飾る「Black Diamondのイントロとエンディングのアイデアも、様式美然としていてカッコいい。こういったアイデアどこから生まれたんだろう。ズルイわ。

いわゆる初期6作の代表曲はほぼ網羅されており、シンプルなロックンロールから華やかなハードロックへと進化する過程、さらにはHR/HMの原点でありグランジのオリジネーターである理由もこの20曲からしっかり感じとることができるはずです。

ちなみに本作、そのタイトルのように本国でダブルプラチナム(200万枚のセールス)は記録することはできず。最高22位、100万枚(2枚組なので50万セット)という結果を残しています。この年はメンバー4人がソロアルバムを同時リリースするなど、バンドとしても小休止状態だったので、つなぎにしては上々だったのではないでしょうか。ここでひと区切りつけたからこそ、続く『DYNASTY』(1979年)で本格的にディスコサウンド/ビートに取り組むことができたわけですしね。

 


▼KISS『DOUBLE PLATINUM』
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2022年12月 2日 (金)

KISS『YOU WANTED THE BEST, YOU GOT THE BEST!!』(1996)

1996年6月25日にリリースされたKISSのライブ・コンピレーションアルバム。日本盤は『ベスト・オブ・ベスト~KISS アライヴ』の邦題で、同年7月3日発売。

本作は同年6月15日からスタートしたオリジナルラインナップ(ポール・スタンレージーン・シモンズエース・フレーリー、ピーター・クリス)の全米ツアーに合わせて制作された、オリメン時代のライブ音源のみで構成されたライブベストアルバム。全12曲中4曲が未発表音源で、それ以外は『ALIVE!』(1975年)『ALIVE II』(1977年)から各4曲ずつピックアップされています。また、CDには17分にもおよぶKISSの最新インタビュー音源、日本盤CDおよびUSアナログ盤にのみエース歌唱の「New York Groove」(ドラムはエリック・カー)が追加されております。

アルバム冒頭に収録された未発表テイクの「Room Service」「Two Timer」「Let Me Know」は1975年録音で、かなりクリアな音質。もともと『ALIVE!』用にストックされていたものだったのでしょうか。全体の流れ的にも、アルバムタイトルにも用いられたライブ開始前のお決まりの合図「You wanted the best, you,got the best. The hardest band in the world, KISS!」からの引用で、当然このライブアルバムの冒頭にもこの前口上が用意されています。

もうひとつの未発表音源「Take Me」は1977年録音で、こちらも時期的に『ALIVE II』制作中のストックでしょう。たった1曲とは少ないですし、もっとほかにも発表できそうなテイクがあるような気がするのですが……この小出し感こそ商売上手なKISSらしいと言いますか(笑)。

ライブの定番曲といえる代表曲/シングル曲が少ない、裏ベスト的な選曲にも非難が集まりましたし、それ以上に未発表テイク4曲で集金しようとする愚かさも当時かなり叩かれた記憶があります。ただでさえオリメンツアーは集金ツアーにも受け取れるのに、CDでも……。まあ、当時は素直に買いましたけどね。翌1997年1月に決定したジャパンツアーへと、期待に胸を膨らませて。けど、来日公演までの半年で数回しか再生しませんでしたが(苦笑)。

ぶっちゃけ、ライブベストだからといって『ALIVE!』や『ALIVE II』より先に聴くべき作品だと思いませんし、希少価値も先の未発表音源4曲(「New York Groove」を含めると5曲か)程度しかありませんし。マニアだけが楽しむべき1枚だと断言しておきます。

 


▼KISS『YOU WANTED THE BEST, YOU GOT THE BEST!!』
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KISS『MTV UNPLUGGED』(1996)

1996年3月12日にリリースされたKISSのライブアルバム。日本盤は『停電(地獄の再会)~MTVアンプラグド』の邦題で、同年3月2日に先行発売。

本作は1995年8月9日に収録された『MTV Unplugged』の模様を音源化したもの。ライブ作品としては本作と同じくポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、ブルース・キューリック(G)、エリック・シンガー(Dr, Vo)という布陣で制作された『ALIVE III』(1993年)から4年ぶり、通算4作目となります。

文字通りアンプラグド(アコースティック)形態で演奏されたこの日のライブでは、「Comin' Home」「Goin' Blind」「Do You Love Me」など初期の楽曲から「Sure Know Something」「I Still Love You」といった中期楽曲、そして「Domino」「Every Time I Look At You」という最新楽曲まで幅広くセレクト。中には「A World Without Heroes」といったレア曲も含まれており、この特別な機会をバンド側も楽しんでいる様子が伺えます。

アレンジは基本的に原曲から大きく変わることなく、シンプルにエレキからアコースティックに持ち替えただけといった印象。しかし、これが異様にカッコいい。アンプラグドだからといって変にレイドバックすることなく、楽曲の持つシンプル&キャッチーさがより浮き彫りになり、かつバンドの巧みなコーラスワークの魅力にも改めて気づかせてくれる。正直、「KISSみたいにギミック満載のバンドがアンプラグドってどうなの?」と当時は疑問に思いましたが、こうして音源として聴くことでバンドの軸にある重要なポイントを再確認できたという意味では、この企画は大成功といっていいでしょう。

加えて、本企画最大のサプライズとしてオリジナルメンバーのエース・フレーリー(G, Vo)とピーター・クリス(Dr, Vo)のゲスト参加が挙げられます。2人はTHE ROLLING STONESのカバー「2,000 Man」(エースVo曲)、「Beth」(ピーターVo曲)、そして「Nothin' To Lose」「Rock And Roll All Nite」で当時のメンバーである4人と共演を繰り広げています。特に「Nothin' To Lose」ではピーターとエリックのツインボーカル、「Rock And Roll All Nite」ではオリメン4人のソロ歌唱パートも設けられ、このお祭りにふさわしい饗宴を楽しむことができます。

ここでの共演がきっかけだったのか、あるいはこの時点ですでに決定していたのか(おそらく後者でしょう)、彼らはこのアルバム発売後の1996年4月にオリジナルラインナップでのワールドツアーを発表。と同時に、12年もの長期にわたりKISSを支え続けたブルース、および急逝したエリック・カー(Dr, Vo)に代わりバンドを5年間サポートしたエリック・シンガーとのコラボレーションも解消されることとなります。エリックはその後、ピーターの再脱退によりバンドに再合流することになりますが、ブルースが参加したライブ音源としては本作が最後となってしまいます(スタジオ音源では、のちに発表される『CARNIVAL OF SOULS』(1997年)がラストですが)。

KISSのライブ作品中もっとも肩の力を抜いて聴くことができる本作は、しばらくサブスク未解禁でしたが、つい最近日本でも聴けるようになりました。日本盤CDにのみボーナストラックとして追加収録された「Got To Choose」は未収録ですが、ライブアルバムとしては非常にコンパクト(全15曲/56分)なのでその内容同様、リラックスして楽しんでほしい1枚です。

 


▼KISS『MTV UNPLUGGED』
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2022年12月 1日 (木)

KISS『CREATURES OF THE NIGHT: 40TH ANNIVERSARY EDITION』(2022)

2022年11月18日にリリースされた、KISSの10thアルバム『CREATURES OF THE NIGHT』(1982年)40周年記念エディション。

本作は最新リマスタリングが施された1CD/アナログ盤のほか、未発表テイクを豊富に納めたボーナスディスク付き2CDデラックス・エディション、5CD+1Blu-ray(Blu-rai Audio)で構成されたボックスセット(スーパー・デラックス・エディション)を用意。日本盤は1CDと2CDデラックス・エディションが用意され、スーパー・デラックス・エディションは輸入盤およびデジタルのみの販売となります。

『暗黒の神話』の邦題で知られる本作ですが、オリジナル盤発表から3年後の1985年に当時のメンバーであるブルース・キューリック(G)を含むノン・メイクアップの4人をアートワークに使用、一部楽曲にリミックスを施したバージョンも発売されています。僕が最初に聴いたのはこっちの新バージョンだったので、本作がメイクアップ時代最後のアルバムと言われてもあまり実感がなかったんですよ。それはサウンド的にも同様で、すでにこの時点で80年代半ばのヘアメタル風サウンドに近いハード&ヘヴィな作風に生まれ変わっていますしね。

さて、最新のリマスタリング効果ですが、やはり40年前の作品ということもあり、だいぶ印象も異なる気がします。もともとダイナミズムのある作品でしたが、今回の最新リマスタリングによりそのへんのメリハリがより付いたのではないでしょうか。これくらいダイナミックなHR/HMサウンドですから、メリハリは極端に付いていたほうが聴き応えもあるというもの。2022年の耳で楽しむという点においても合格点が与えられる仕上がりだと思います。

続いて、気になる特典ディスクの内容。ここではスーパー・デラックス・エディションの内容に沿って触れていきます。まずDISC 2&3には同タイミング(本作発売前)に制作されたコンピ盤『KILLERS』(1982年)に収められた新曲4曲や、当時の未発表デモ音源を多数収録。このデモには「Nowhere To Run」や「I'm A Legend Tonight」など『KILLERS』収録曲のほか、「Deadly Weapon」「Betrayed」などその後制作された楽曲と共通するタイトルの未発表曲も含まれています(タイトルこそほぼ同一ですが、のちに発表された楽曲とは別モノです)。未発表曲の多くはのちのスタジオアルバムに収録されたとしても不思議ではない内容で、ちゃんとレコーディングしていたらしっかりリリースできたものばかり。

DISC 4&5には1982〜83年にかけて実施された、『CREATURES OF THE NIGHT』を携えた全米ツアーからのライブ音源に加え、ツアーで使用されたサンドエフェクト6テイクも収録。当時日本公演が叶わなかった本ツアーの断片を、こういった音源の数々から追体験できるなんて、よい時代になったものです。ライブ音源はひとつの曲に対して収録地が異なる複数テイクが含まれているので、ライブアルバムという観点ではなく“記録”として触れるのがベストかと。ヴィニー・ヴィンセント(G)がプレイするKISSクラシックナンバーの数々を楽しめるという点では、希少価値の高い内容ではないでしょうか。

70年代の諸作品においてもデラックス盤を近年発表しているKISSですが、ここまで素材が多いのも80年代ならではといいますか。かつ、本作での再起に賭ける思いの強さが至るところから伝わってくる素材の数々を前に、時代背景を踏まえつつ「なぜ本作で本格的な再ブレイクが叶わなかったのか」を考察してみるのも面白いかもしれませんね。

『MONSTER』(2012年)を最後に新作スタジオアルバムに着手することを断念したKISS。最後の来日公演を終え、彼らはここからあと何年にわたり“過去の遺産”を掘り起こして小金を稼ぎ続けるのか。引き続き注目していきたいと思います。

 


▼KISS『CREATURES OF THE NIGHT: 40TH ANNIVERSARY EDITION』
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KISS『END OF THE ROAD WORLD TOUR』@東京ドーム(2022年11月30日)

Img_6350 KISS、3年ぶりの日本公演にして、いよいよ本当に(本当に?)最後の来日公演。本来なら2019年12月の来日がラストになるはずでしたが、その後2020年に終了予定だったワールドツアーがコロナの影響で延期/中止となり、仕切り直しでスケジュールをいろいろ組んでいたところに再度日本を訪れることになったようです。ただ、スケジュール的な問題なのか、今回は東京ドーム1回のみ。2003年の来日時は関東のみ(武道館3DAYSと横浜アリーナ1公演)というのもありましたが、こういうケースは初めて。元が取れるのでしょうか(そのぶんチケ代高騰&グッズで回収か)。

そんなこんなで、1977年の初来日から数えて26回目の東京公演(MCでポール・スタンレーもおっしゃっていました)。自分はこれまで1995年1月の武道館2DAYS、1997年1月の東京ドーム、2001年3月の東京ドーム(本サイトで唯一レポを残した公演)、2013年10月の武道館(1日のみ)、2015年3月の東京ドーム(ももクロちゃんのお仕事でバックヤードにいたので本編数曲とアンコールのみ)の計6回観覧しており、今回の7回目がおそらく最後のKISSになりそう。いや、本当にそうなるんだよな……?

さすがに辞める辞める詐欺が続いたからか 集客的にはそこまでパンパンというわけではなく、スタンド席のサイドからステージ寄りはすべて空けた状態。ちゃんと埋まっていれば3万5000〜4万人程度は入っていたのかな。自分は“地獄のスタンド席”と名付けられた正面ちょい下手寄りのスタンド3列目。なかなか観やすかったですよ。入場すると、場内ではPANTERAMOTÖRHEADQUEENSRYCHEACCEPTなどメタルクラシックが流れ続けている。昨日とは真逆ですわ(笑)。

開演定刻前後でAEROSMITH「Walk This Way」、VAN HALEN「Panama」と音量が一段と大きくなり、お約束となったLED ZEPPELIN「Rock And Roll」でお客さん総立ち。この曲が始まればライブはもうすぐスタート、とみんな知っているわけです。

Img_6356 で、暗転して恒例の前口上「You wanted the best, you,got the best. The hardest band in the world, KISS!」でさらにボルテージが上がると、落ち着いたテンポ感の「Detroit Rock City」イントロとともにポール・スタンレー(Vo, G)、ジーン・シモンズ(Vo, B)、トミー・セイヤー(G, Vo)が天井から吊るされたミニステージみたいなのに乗って登場。もはやお約束ですね。その後ろではエリック・シンガー(Dr, Vo)がもっさりと軽やかの間にあるビート感で存在感を示すのですが……音悪いな(糞)。東京ドームで久しぶりにここまで音の悪いライブ観たかも。ここまでシンプルなバンド編成で、しかも音数もそこまで多くないし、ギターも歪みまくっているわけではないし、むしろベースはゴリゴリしていて輪郭がはっきりしているのに、すべてがグシャっとしてしまっている。これ、後半まで安定しませんでしたね。勿体ない。

通常の半音下げ(音源版)からさらに半音下げた状態なのは、ここ最近の傾向なのでもう慣れました。「Detroit Rock City」はもったりしているものの、同じテンポ感で聴く「Shout It Out Loud」は逆に歯切れ良く聞こえるから不思議。基本はポール&ジーンが交互に歌う曲ですが、サビのリフレイン終盤にはトミーも加わり、ご本家エース・フレーリー(G, Vo)ばりの存在感を発揮してくれます。さらにそこから「Deuce」「War Machine」と、ジーンVo曲が立て続けに2曲。後者エンディングではお馴染みの火吹きもフィーチャー。73歳のおじいちゃん、今日も頑張ります。

そういえば、この日のライブ。開演前の注意事項アナウンスがNIGHT RANGERのときにあった「声援、歌唱はお控えください」から「声援、歌唱は周りの迷惑にならないようにお願いします」に変わっており、バンド側の煽りを受けて歌ったりコール&レスポンスしたりすることに対して黙認するような形になっていました。これでもまだ解禁じゃないのか。グレーすぎだろホント。

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なもんだから、僕もこの日は気心知れた楽曲群をマスク越しで歌いまくりました(ボリュームはかなり小さめですが)。「I Love It Loud」ももちろん、シンガロングしてきましたよ。そんな感じでテンション上がっていたら、ポールがあるサビの一部を一緒に歌うことを促すのですが……えっ、「Say Yeah」やるの? KISS史上唯一日本発売されなかったオリジナルアルバム『SONIC BOOM』(2009年)の最後を飾るこの曲、実は2013年の来日記念で発売された『MONSTER』ジャパン・ツアー・エディション付属のスペシャル・ベスト・アルバムで本邦初リリースされているんですよね。とはいえ、サブスクで未解禁のアルバム収録曲とあって、反応はいまひとつ、いや、いまふたつくらいだったかな。この曲と「Psycho Circus」のときは近くにいた諸先輩方も座って観ていましたし。

「Cold Gin」のエンディングから突入するトミーのギターソロパート、そして「Calling Dr. Love」終盤にフィーチャーされたポール&トミーのギターバトル(バトルというほどでもないけど)など、ミュージシャンとしてのこだわりを感じさせるパートも随所に用意されていました。「Psycho Circus」ではギターソロ後にエリックのドラムソロもあり、その流れで「100,000 Years」に入る構成も安定感あります。そして、ジーンの不穏なベースソロ&血糊タイムを経て「God Of Thunder」へ。ジーン、再び天井付近にまで上昇していきます。これも既視感ある風景ですね。そこから、ポールがアリーナ中央にあるサブステージへターザンの如く移動。かなり近くまでやってきてくれましたが、表情までは目視できません。いや、白塗りが照明で白飛びしてるのか。高校時代にバンドでコピーもしたし、何百回、何千回とリピートしてきた「Love Gun」や「I Was Made For Lovin' You」をそらで歌い、最後はX JAPAN「紅」 エリックが歌う「Black Diamond」で本編締めくくり。この流れも伝統芸能ですね。もはや何も言うことはない。いいんです、お約束ですから。

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アンコールでは、再びエリックが「Beth」をソロ歌唱。オケを流しながら椅子に座って歌う……のかと思ったら、白いピアノの前に座ってる! エリック、ピアノを弾いている風ですが、この距離からだと実際に弾いているのかわからない。スクリーンにも胸から下は絶対に映さないし。手元映したらアウトなんですかそうですか。いや、エリックの歌も板についてきましたね。

そして、4人がステージに揃い、なぜか手を繋いで高く掲げる……完全にエンディングの様相を見せますが、ポールが「まだ帰りたくないって? しょうがねえなあ」と言いながら(いやそこまで言ってないが)「Do You Love Me」をプレゼント。この曲、以前もライブで聴いたときに「もったりしすぎていて気持ち悪い」と思ったのですが、それは今回も変わらず、会場の音響の悪さが影響しているのか、そもそも現編成でのアレンジが悪いのか。最後の最後まで残念です。この曲のときには巨大なバルーンが複数アリーナ客の頭上を飛び跳ねていました。

Img_6436いよいよ正真正銘のラストナンバー。ポールが「Rock and roll all nite, and party everyday!」と叫ぶのかと思ったら、普通に曲名をコールしただけ。ちょっと拍子抜け。そこから紙吹雪も舞い、ポールもギターを壊し、2時間強にわたる至れり尽くせりのエンタメショーは幕を下ろしました。

曲間にポールが喋りまくって観客とコミュニケーションを図りまくろうとするのは相変わらずなのですが、前日にノーMCを徹底した安全地帯を観たあとだけに、この対極さにじんわりきました。落差が激しすぎて、耳がキーンとする感じもあったような、なかったような。

けど、これがKISSなんだよね。70を軽く超えた今もあんな厚底ブーツを履いて、鎧みたいな衣装を見にまとい、肌も荒れ放題な中も白塗りメイクを続ける。このおもてなし精神が妙に日本人の感性にフィットしていたからこそ、50年近くも愛され続けているわけですから。

さすがにもう日本に戻ってくることはないと思います(次来たら本気で「また集金かよ!」と揶揄してやります)が、最後の最後は海外で観たいな……と思っている自分がいます。もう一度、彼らとステージで再会できる日を願って(ただし日本以外で)

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セットリスト
01. Detroit Rock City
02. Shout It Out Loud
03. Deuce
04. War Machine
05. Heaven's On Fire
06. I Love It Loud
07. Say Yeah
08. Cold Gin
09. Guitar Solo
10. Lick It Up
11. Calling Dr. Love
12. Psycho Circus
13. Drum Solo
14. 100,000 Years
15. Bass Solo
16. God Of Thunder
17. Love Gun
18. I Was Made For Lovin' You
19. Black Diamond
<アンコール>
20. Beth
21. Do You Love Me
22. Rock And Roll All Nite
〜Ending SE: God Gave Rock 'N' Roll To You II

 

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