マイケル・ジャクソンの黄金期をオリジナルアルバムで振り返る(1979〜1991年)
2022年のうちに振り返っておきたいと思ったのが、マイケル・ジャクソン最大のヒット作にしてポップミュージック界における歴史的名盤『THRILLER』(1982年)について。自分は世代的に『THRILLER』バカ売れ期の末端にギリギリ触れており、当時のMTV(地上波時代ね)や『ベストヒットUSA』、『SONY MUSIC TV』を録画して「Thriller」のショートフィルムや「Beat It」「Billie Jean」のMVを何度もリピートしたものです。
なもんですから、原体験としては続く『BAD』(1987年)のほうがリアルタイム感が濃厚で、初来日となった後楽園球場公演をはじめさまざまな記憶がよみがえってきます(初めて&唯一生で観たのは1992年12月の『Dangerous Tour』でしたが)。
そんなこんなで、今年で『THRILLER』リリースから40年。アニバーサリー盤も発売されましたが、個人的には25周年盤のときの盛り上がりと比べるとやや気持ちが劣りますが(そりゃあマイケル生前でしたからね、25周年のタイミングは)、周年タイミングに取り上げておかなくちゃなと思いながらも、年末に向けての繁忙期でまったく触れる機会がなく、気づけば大晦日。時間も多少できたので、やるなら徹底したいなと思い、マイケルのソロキャリア黄金期の始まりといえる『OFF THE WALL』(1979年)から『DANGEROUS』(1991年)までの(個人的思い入れの強い)4作品について、コンパクトな形で触れていこうかなと思います。
1979年8月10日にリリースされたマイケル・ジャクソンの5thアルバム。
古巣Motown Recordsを離れ、Epic Recordsへ移籍しての第1弾アルバム。意外にも全米チャートでは最高3位と1位を獲得していませんが、「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」とシングル2作連続全米1位を獲得し、ほかにも「Off The Wall」(同10位)、「She's Out Of My Life」(同10位)とヒット曲を連発し、アルバム自体は現在までにアメリカで900万枚以上、全世界で2000万枚以上の売り上げを記録しました。
初めてマイケル主導で制作されたアルバムであり、プロデューサーにはクインシー・ジョーンズを起用。ソングライター陣もポール・マッカートニー(「Girlfriend」)やスティーヴィー・ワンダー(「I Can't Help It」)、デヴィット・フォスター(「It's The Falling In Love」)などソウル/R&Bに捉われない幅広い人選で自身の表現の幅を広げています。
大ヒットした「Don't Stop 'Til You Get Enough」「Rock with You」のようなソウル/ディスコをベースにした楽曲はもちろんのこと、全体を通してポップフィールドでも通用する曲作りが徹底され始めたのがこの時期なのかな。ただ、続く『THRILLER』以降と比べると全体の統一感が強いことから、まだまだ“ブラックミュージックの範疇”というイメージが強いかもしれません。だからこそ、より気持ちよく楽しめる“アルバム”という印象が、彼の作品中もっとも強いのですが(以降の作品は良くも悪くも“プレイリスト”的なのかなと)。
ポップスとしての強度は『THRILLER』や『BAD』ほどではないものの、アルバムとしてのまとまりや完成度は同2作よりも数歩上。“キング・オブ・ポップ”の快進撃がここから始まったという点では、絶対に欠かすことのできない傑作第1号です。
▼MICHAEL JACKSON『OFF THE WALL』
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1982年11月29日にリリースされたマイケル・ジャクソンの6thアルバム。
前作から引き続きクインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに起用。ソングライターに前作から引き続きのロッド・テンパートンに加え、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)&ジョン・ベティス(「Human Nature」)やジェイムズ・イングラム(「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」)などを起用。また、アルバムから漏れたアウトテイクの中にはマイケル・センベロが関わった「Carousel」や、Yellow Magic Orchestraの楽曲に新たに歌詞を付けた「Behind The Mask」などが含まれていたことも話題になりました。
また、ゲストアーティストのメンツも多彩で、「The Girl Is Mine」ではポール・マッカートニーとのデュエットを展開(同時期にポール側が発表した「Say Say Say」でも2人のデュエットを披露)。「Beat It」のギターソロではエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)をフィーチャー(かつ、リードギターをTOTOのスティーヴ・ルカサーが担当、ドラムもTOTOのジェフ・ポーカロがプレイ)したことでも話題となりました。
本作からは「The Girl Is Mine」(全米2位)、「Billie Jean」(同1位)、「Beat It」(同1位)、「Wanna Be Startin' Somethin'」(同5位)、「Human Nature」(同7位)、「P.Y.T. (Pretty Young Thing)」(同10位)、「Thriller」(同4位)とアルバム収録曲9曲中7曲がシングルヒット。オリジナルアルバムながらもグレイテストヒッツ的側面も強く、そういった意味でも(結果的に)プレイリストの先駆け的な1枚と言えるのではないでしょうか。
音楽的にも前作『OFF THE WALL』での方向性を推し進めつつ、ポップ色をより強めた「The Girl Is Mine」、ハードロックギターを採用した「Beat It」(さらに、アルバム未収録ながらもテクノ色を取り入れた「Behind The Mask」)など、“ポップ”を軸足により幅広いフィールドで戦おうという前向きさが伝わります。また、当時主流となり始めたミュージックビデオ制作にも果敢に取り組み、約14分にもおよぶ当時としては異例の大作「Thriller」が大反響を呼ぶなど、今や当たり前となった“音楽への映像の積極的導入”における先駆者的作品とも言えます。
全9曲と最近のアルバムと比べたら短い印象もありますが、1曲1曲の個が強いことから何度聴いても飽きがこない。リリースから40年経った今聴いても懐かしさと同時に新鮮さも常に見つけられる、「これぞ歴史的名盤」と言える1枚。いまだ超えることのできない壁(アメリカだけで3400万枚超、全世界で7000万枚超のセールス)を打ち立てた、ポップミュージック界のマスターピースです。
▼MICHAEL JACKSON『THRILLER』
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1987年8月31日にリリースされたマイケル・ジャクソンの7thアルバム。
歴史的ヒット作となった『THRILLER』から約5年という歳月を経て届けられた本作は、「『THRILLER』を超えられるのか?」などの命題が常に付きまとい、マイケル自身にとってもかなりのプレッシャーだったのではないかと想像します。しかし、前作から5年という音楽シーンの移り変わりもしっかり踏まえつつ、シンセサイザー主体の音作りという時代にフィットしたポップアルバムを見事に完成させることに成功しました。
三度クインシー・ジョーンズを共同プロデューサーに迎え、収録曲の全11曲(アナログのみ10曲)中9曲(アナログでは8曲)をマイケル単独で書き下ろし。「Just Good Friends」にはスティーヴィー・ワンダー(Vo)、「I Just Can't Stop Loving You」にはサイーダ・ギャレット(Vo)、「Dirty Diana」にはスティーヴ・スティーヴンス(G)をフィーチャー。前作ほどゲストに頼った感は強くないものの、エディ・ヴァン・ヘイレンに続いてスティーヴ・スティーヴンスを起用したことは、マイケルがいかに先見の明を持っていたかを実証するに十分ではないでしょうか(もっとも、ロックシーンではすでにビリー・アイドルの片腕として十分な知名度を持っていましたが)。
アルバムセールス的にはアメリカで1100万枚超、全世界で3500万枚超と『THRILLER』には遠く及ばないものの、それでも天文学的数字を打ち立てたという意味では前作にも劣らない成功をもたらしたと思いますし、ことシングルに関しては「I Just Can't Stop Loving You」「Bad」「The Way You Make Me Feel」「Man In The Mirror」「Dirty Diana」と5作連続で全米1位を獲得。ほかにも「Another Part Of Me」(同11位)、「Smooth Criminal」(同7位)と計7枚のヒットシングルが担当したことを考えると、ポップフィールドへの拡散ぶりは前作以上だったのではないでしょうか。実は、ヨーロッパではこのほかにも「Leave Me Alone」(アナログ未収録)や「Liberian Girl」もシングルカットされており、MVも制作。ともにイギリスでは2位(「Leave Me Alone」)、13位(「Liberian Girl」)と好成績を残しています。
ミュージックビデオに関しては「Thriller」で得た手応えからか、アルバムから最初に制作された「Bad」のMVは監督にマーティン・スコセッシを迎えた、18分にもおよぶドラマ仕立てのショートフィルムとなっています。
『OFF THE WALL』や『THRILLER』の一部に見え隠れした“モータウン以降のソウルミュージック”感がどんどん薄れ、ロックやポップミュージックのカラーがさらに色濃く表出。さらに「Liberian Girl」といったエキゾチックなテイストも取り入れ始め、“ポップス”としての幅をさらに拡大させています。また、サウンドメイクに関しても当時主流になり始めたシンクラヴィアを多様したデジタル色が強く、「Man In The Mirror」などを筆頭に世相を反映させた歌詞にも注目が寄せられました。
楽曲/音作りのカラフルさは前作以上であり、よりオムニバスアルバム感が強まった印象も。しかし、だからこそ気楽に楽しめるという側面もあり、時と場所を選ばずリピートできる良質のポップアルバムと言えるのでは。実は世代的には『THRILLER』よりも思い入れが強く、今でも聴く頻度も同作以上だったりします。
▼MICHAEL JACKSON『BAD』
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1991年11月26日にリリースされたマイケル・ジャクソンの8thアルバム。
1989年初頭まで1年半近く続いた『Bad World Tour』後、2年近くの歳月をかけてじっくり制作された今作。前作がアナログ→CDの移行期に発表されたのに対し、今作は完全にCD主流期のリリースとあって77分という当時のCD収録容量ギリギリのボリュームに。思えば前作『BAD』の時点で30曲以上を詰め込んだ3枚組を想定するほどの創作意欲に満ちていたわけで、今作がCD1枚もののマックス内容になったのも頷けるものがあります。
前3作を手がけたクインシー・ジョーンズのもとを離れ、今作では当時“ニュージャックスウィング”界隈で名を馳せたテディ・ライリーとタッグを組むことで、リズムがよりソリッドな音作りに。また、前作制作時よりも音楽のデジタル化が進んだこともあり、その質感/クオリティがよりクリアで高音質化。本作を初めて聴いたときの驚きは今でもよく覚えており、2022年現在に至るまで本作に匹敵するサウンドクオリティを誇るアルバムは数えるほどではないかと断言します。
そして、エディ・ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・スティーヴンスと続いた“ナウ”なギタリスト採用に関しては、本作ではGUNS N' ROSESのスラッシュを「Give In To Me」でフィーチャー。同曲はイギリスなどでシングルカットされ、全英2位のヒットを記録しています。当然、同曲のMVにもスラッシュは参加しているので、未見のガンズファンはこの機会にチェックしてみてはどうでしょう。
アルバムは当然ながら全米1位を獲得。アメリカでは現在まで800万枚以上、全世界では3200万枚超を売り上げる大ヒット作となりました。また、本作からのシングルは「Black Or White」が唯一全米1位を獲得したのみで、以降は「Remember The Time」(同3位)、「In The Closet」(同6位)、「Jam」(同26位)、「Who Is It」(同14位)、「Heal The World」(同27位)、「Will You Be There」(同7位)と前2作ほどの成績は残せませんでした。これは、90年代に入って以降の音楽シーンがグランジやヒップホップなどのストリートミュージック主流になり始めたことも大きく影響しており、80年代的な高品質ポップミュージックに対するアンチ精神が芽生え始めたことも災いしたのかもしれません。
とはいえ、その内容の素晴らしさ、完成度の高さは時代を超越したものがあり、音楽的にもリアルタイムで流行しているシーンに順応しようとする姿勢も伺えます。事実、先のニュージャックスウィングを筆頭に、モダンなR&Bやヒップホップの要素は随所に散りばめられており、マイケルの感性自体はまったく衰えていないことは理解できます。
しかし、先にも触れたように77分と長尺な内容とあって、過去3作ほど頻繁にリピートするような作品ではなかったこともあり、個人的にはあまり聴く頻度が高くない。最後まで聴くにはそれ相応の覚悟と時間が必要ですしね。そういった意味では、シングルヒットした楽曲の印象が強いアルバムかな。
▼MICHAEL JACKSON『DANGEROUS』
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