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2023年1月

2023年1月31日 (火)

2023年1月のお仕事

2023年1月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※1月30日更新)

 

[WEB] 1月30日、「リアルサウンド」にてインタビュー陰陽座が貫いてきた覚悟と信念 瞬火、20年以上に渡り追求するヘヴィメタルの可能性が公開されました。

[WEB] 1月27日、「KING RECORDS TODAY」にてインタビュー陰陽座・瞬火が語る『龍凰童子』に込めた20年培ってきたもの 「陰陽座でしかなし得ないものがそこにある」が公開されました。

[WEB] 1月27日、「音楽ナタリー」にて特集記事乃木坂46 5期生が総出演「新・乃木坂スター誕生!」見どころ紹介|メンバー&オズワルドのコメントもが公開されました。

[WEB] 1月23日、「Billboard JAPAN」にてコラムデヴィッド・ボウイやイギー・ポップとの共演で知られるベーシスト トニー・フォックス・セイルズ、来日公演を目前にその長い音楽キャリアを紐解くが公開されました。

[WEB] 1月13日、「Billboard JAPAN」にてインタビュー神はサイコロを振らない 2023年は吸収・発散の年にが公開されました。

[紙] 1月13日発売「Nagisa Saito Graduation Memorial Photo Book」にて、=LOVE齊藤なぎさ×プロデューサー・指原莉乃の対談を担当しました。

[WEB] 1月12日、「リアルサウンド」にてライブレポートSurvive Said The Prophet、堂々たる自信が生み出す躍動感 キャリア最高峰を刻んだ『Hateful Failures Tour』ファイナルが公開されました。

[WEB] 1月9日、Little Glee Monster『Little Glee Monster Live Tour 2023 Join Us!』昭和女子大学 人見記念講堂公演(1月7、8日開催)のオフィシャルレポートを担当。WWSチャンネルなどで随時公開中です。

[WEB] 1月8日、「リアルサウンド」にてライブレポートLittle Glee Monster、6人体制初の単独ライブで見せた明るい未来 ガオラーからのメッセージに涙もが公開されました。

[紙] 1月4日発売「日経エンタテインメント!」2023年2月号にて、乃木坂46梅澤美波および久保史緒里の各インタビュー、櫻坂46大園玲の新連載「ミステリアスな向上心」および日向坂46上村ひなのの連載「ピュアで真っすぐな変化球」の各構成を担当しました。(Amazon

KATATONIA『SKY VOID OF STARS』(2023)

2023年1月20日にリリースされたKATATONIAの12thアルバム。

前作『CITY BURIALS』(2020年)から約3年ぶりの新作。本作は20年以上にわたり在籍した老舗レーベルPeaceville Recordsから、新たにNapalm Recordsへと移籍してのリリースとなります。

今作の基本的な方向性は前作の延長線上にある、“エクストリームメタルの枠から一歩外へ踏み出した、多様性の強さが伝わる”サウンド。メタルバンドらしくエッジの強さを強調させることに特化することなく、音響/空間の特性を効果的に取り入れることで、過去作よりも聴きやすい方向へと押し進めています。

もちろんディストーションの効いたヘヴィなギターリフやダイナミックなドラムサウンドは、HR/HMの範疇にあるものと言えるでしょう。しかし、先にも書いたように音響系的なエフェクトを随所にフィーチャーしつつも、音を詰め込むことに固執せず、むしろ“抜く”ことに意識的なのでは?と思わせるアレンジが目立つ。この取り組み方自体がヘヴィメタルというよりも、もっと視野を広く保ちつつ考えられたもののような気がしてなりません。

例えば「Author」のような楽曲を聴くと、ヘヴィなリフワークやバンドアンサンブルがこの曲の軸なのではなく、もはや味付けの一部なのではとさえ思えてくる。ここが過去作との大きな違いのような気がしています。KATATONIAというバンドはデスメタル/ドゥームメタルの延長線上からスタートし、ゴシックテイストを強めていく過程でクリーントーンボーカル中心のスタイルへと移行した。その時点で、こういった終着点は彼ら自身も少なからず想像できていたのではないでしょうか。

このアルバムを聴いていると、彼らのことを無理やりゴシックメタルとカテゴライズするよりも、むしろ“ゴシック色の強いプログロック/プログメタル”と認識したほうが正しいのではないかという気がしてきました。そう思うとすごくしっくりくるし、ネガティブな感情なしで楽しむことができるはずです。

ヘヴィメタル寄りのリスナーには「刺激の少ない作品に成り下がってしまった」という印象の1枚かもしれませんが、DEPECHE MODEのようなダークなサウンドを軸にするバンドや、抒情生の強いヨーロッパのプログロックを好むリスナーにはむしろ好意的に受け入れられる可能性の強い。本作はそんな“新たな扉”を開く、未知の領域へとつなぐ分岐点になる気がしています。

 


▼KATATONIA『SKY VOID OF STARS』
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2023年1月30日 (月)

VV(VILLE VALO)『NEON NOIR』(2023)

2023年1月13日にリリースされたVVの1stアルバム。日本盤未発売。

VVとはフィンランドのゴシックメタルバンドHIMのフロントマン、ヴィレ・ヴァロのソロプロジェクト。ヴィレは2017年末にバンドを解散させると、2019年には母国語で歌われたプロジェクトアルバム『VILLE VALO &AGENTS』を発表。しかし、この作品での音楽性はHIMとはかけ離れたトラディショナルなものであったことから、リスナーを困惑させます。

しかし、ヴィレはこのアルバムを経て、本格的なソロプロジェクト“VV”へと移行し、2020年3月20日に1st EP『GOTHICA FENNICA VOL.1』を発表。ところが、新型コロナウイルスの猛威が世界中を襲い、前年からスタートさせたVVとしてのレコーディングも一時中断せざるを得ませんでした。その後も、HIM時代からのパートナーであるティム・パーマー(TEARS FOR FEARSU2オジー・オズボーンなど)と断続的に制作を進め、2022年後半に本作を完成させます。

クレジットによると、すべての楽曲の作詞・作曲、アレンジ、プロデュースやエンジニアリング、そして歌や演奏をヴィレ自身で行ったとのことで、そういった意味でもHIMとの差別化ができることでしょう。実際、本作はHIM後期の作風を踏襲する楽曲群はメタリックな質感を多少含むものの、よりパーソナルな空気感を漂わせたゴシックサウンドを中心に展開されているのですから。また、曲によってはシューゲイザーやドリームポップ的な側面も見つけられ、HIMの延長線上にありながらもさらに進化していることも伝わります。

ヴィレのセクシーなバリトンボイスは本作でも健在ですが、若干肩の力が抜けた感が伝わってきます。もちろんそれは楽曲からの影響が強いと思いますが、冒頭で聴ける「Echolocate Your Love」はもちろん、「Loveletting」や「Salute The Sanguine」などHIM時代を彷彿とさせるハードロック調サウンドでも以前以上にリラックしした歌声を楽しむことができ、新プロジェクトだから、HIM解散後最初の本格的なアルバムだからといった力みはまったく感じられません。むしろこれくらいがヴィレらしくて丁度いいんじゃないか、とさえ思えるほどです。

全12曲/約56分と比較的長尺な作品集ながらも、基本的には3〜4分台の楽曲が中心。しかし、終盤に向かって「Saturnine Saturnalia」(6分半超)、「Vertigo Eyes」(7分40分超)といった楽曲も増えていくのですが、この長尺ナンバーが非常に良くて。コンパクトな歌モノももちろん最高なのですが、特にダークな中にもキラキラ感が伝わるドリームポップ的ラストナンバー「Vertigo Eyes」がインストパート含めて完璧な仕上がり。個人的には後半の「Heartful Of Ghost」からラストまでの流れがツボすぎます。

HIMってバンドは僕個人としてはそこまでどっぷりハマる存在ではなかったのですが、よりシンプルなゴシックロックへと接近し、かつシューゲイズやドリームポップ的な色合いを加えた本作はど真ん中と言えるほど“身近な存在”でした。この先もずっと愛していけそうな1枚です。

 


▼VV『NEON NOIR』
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2023年1月29日 (日)

STEVE VAI『VAI / GASH』(2023)

2023年1月27日にリリースされたステーヴィ・ヴァイの“VAI / GASH”名義による唯一のアルバム(スティーヴ・ヴァイとしては通算11作目)。日本盤は同年1月25日発売。

昨年1月発売の『INVIOLATE』 (2022年)から1年ぶりに発表された本作は、当初1991年頃に制作されていたものの、現在までお蔵入りとなっていた1枚。無名のシンガー、ジョニー・“ガッシュ”・ソンブロットとのコラボレーションから生まれた、ヴァイらしからぬバイカーズ・ロック作品です。

80年代後半以降、バイカー・カルチャーに惹かれるようになったヴァイでしたが、バイクに乗っているときに合う音楽を既存の作品から見つけることができず、「だったら自分で作ってやろう」と計画したのが本作。そんなタイミングにガッシュというミステリアスなシンガーと出会い、今回収録された8曲をレコーディングしたとのことです。本当は、自身の活動が落ち着いてからさらに追加レコーディングをしてリリースする予定だったそうですが、1998年9月にガッシュがバイク事故で急逝。そういった事情もあってここまでリリースが見合わせられていましたが、2021〜2年頃にヴァイ自身が本作についてコメントするようになり、近々リリースが実現することを匂わせていました。

さて、そんな本作ですが、確かにここ30年くらいのヴァイのイメージからはかけ離れた、爽快感の強いアメリカンロック(あるいはアメリカンハードロック)が展開されています。8曲中7曲がヴァイ単独で書かれたもので、M-7「New Generation」のみMOTLEY CRUEのニッキー・シックス(B)との共作。80年代から仲の良かった2人が、本作のレコーディング数年前に書いたものなんだとか。

確かに、バイク乗りっぽいイメージの強い豪快なロックチューンが満載で、ヴァイのプレイも奇抜さが抑え気味。ガッシュのワイルドなボーカルを活かしながら、ノリのよりリフワークやソロプレイを聴かせてくれます。そもそもヴァイ、80年代半ばはデヴィッド・リー・ロスとタッグを組んでいたわけで、こういったアメリカンロックと向き合うことにも違和感を感じさせないはずで、「Busted」や「Woman Fever」「She Saved My Life Tonight」あたりはデイヴに提供してもまったく違和感なく楽しめるようなテイストです。

かと思えば、「Let's Jam」はサミー・ヘイガーあたりが歌ったらぴったりな作風だし、ニッキーとの共作「New Generation」もどことなくヘアメタル/パーティロック的で、ヴィンス・ニールが歌っても行けそうな気がするし。本編ラストを飾るミディアムバラード「Flowers Of Fire」も、ここまで名前が挙がったアーティストやバンドがプレイしても全然行けてしまう印象がある。けど、ヴァイ的にはそうじゃないんでしょうね。そのへんはもう、本人の感覚がすべてなので僕がどうこう言ってもアレなんですが。

全8曲で約30分という昔ながらも尺ですが、もしガッシュが早逝しなかったらほかにどんな曲が生まれていなのかな。たらればを言い出したらきりがないですが、これはこれで潔いクールなロックアルバムだと思います。

 


▼STEVE VAI『VAI / GASH』
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2023年1月28日 (土)

METALLICA『SOME KIND OF MONSTER』(2004)、『LIBERTÉ, ÉGALITÉ, FRATERNITÉ, METALLICA!』(2016)

『SOME KIND OF MONSTER』は2004年7月13日にリリースされたMETALLICAのEP。

本作は前年6月5日に発売されたアルバム『ST. ANGER』からのリカットシングル「Some Kind Of Monster」を軸に、同曲のエディットバージョンや初期楽曲のライブ音源をまとめた全8曲入り作品。トータルで約43分とかなりの尺があり、世が世なら企画アルバムとして通用する1枚です。

『ST. ANGER』からはタイトルトラックを筆頭に、「Frantic」「The Unnamed Feeling」すでにシングルが3枚発表済みでしたが、この「Some Kind Of Monster」が新たにシングル化されたのは同名のドキュメンタリー映画『メタリカ:真実の瞬間』が同年7月9日から北米で劇場公開されたことが理由でしょう。映画の中でも、この曲が完成していく過程が描かれていますし、本作はいわばサントラ盤の延長線上にある1枚かなと。

「Some Kind Of Monster」はアルバムの3曲目に収録された、8分半にもおよぶ大作。ミドルテンポを軸にヘヴィなギターリフを織り交ぜながら、要所要所でアップテンポになったりとプログレッシヴな展開が用いられますが、過去のMETALLICA楽曲と比べると劇的なアレンジというわけでもなく、唐突さが際立ちます。また、リフに次ぐリフの構成で、ギターソロも皆無。起承転結のしっかりしたドラマチックな展開を期待した層には肩透かしの1曲(アルバム)だったのではないでしょうか。

それに比べ、ランディ・ストーブ&ボブロックによるエディットバージョンは4分半を欠くという、原曲の半分の尺に編集され、かつカンカンと耳障りだったスネアの音色も編集され、『ST. ANGER』以前のMETALLICAらしい音質にリミックスされている。良くも悪くもダラダラとセッションしてる感の強かった原曲から“ダラダラ”感を見事に排除することに成功したものの、曲としては山なし谷なしなアレンジになってしまった感もあり、個人的には原曲を超えられていない気がしました。ただ、ドラムサウンドに関しては興味深いものがあり、このリミックスでアルバムまるまる1枚編集しなおしたら面白いのに……なんて思ってしまったほどです。

そして、全6曲におよぶライブテイクについても。こちらは2003年6月11日に行われたパリ公演から。『ST. ANGER』発売翌週に行われた11日のパリ公演は、1日のうちに異なる3会場でライブが実施されており、本作には13時からの公演の「Motorbreath」、18時からの公演の「The Four Horsemen」「Leper Messiah」「Ride The Lightning」「Damage, Inc.」、22時からの公演の「Hit The Lights」がそれぞれピックアップされています。各公演とも10曲前後とコンパクトなものとはいえ、20年前の彼らはそんなにもアクティブかつエネルギッシュな活動をしていたんだなと、改めて驚かされます。

 


▼METALLICA『SOME KIND OF MONSTER』
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このパリ公演のうち2公演目の模様は、2016年4月22日に『LIBERTÉ, ÉGALITÉ, FRATERNITÉ, METALLICA!』と題した限定EPがリリースされており、そちらで全9曲を聴くことも可能です。

EP『SOME KIND OF MONSTER』に収録された「The Four Horsemen」「Leper Messiah」「Ride The Lightning」「Damage, Inc.」と聴き比べると、2016年版のミックスは非常に低音を効かせたふくよかなもので、オーディエンスの盛り上がりなど臨場感もより強まっている印象。楽器1つひとつの表情は2004年版のほうが聴きとりやすいので、若干好みの分かれるミックスかもしれませんね。

ちなみに、この2公演目のセットリストですが、

01. The Four Horsemen
02. Leper Messiah
03. No Remorse
04. Fade To Black
05. Frantic
06. Ride The Lightning
07. Blackened
<ENCORE>
08. Seek & Destroy
09. Damage, Inc.

といったもので、最新作『ST. ANGER』(2003年)からは「Frantic」1曲のみ。残りは1stアルバム『KILL 'EM ALL』(1983年)から3曲、2ndアルバム『RIDE THE LIGHTNING』(1984年)から2曲、3rdアルバム『MASTER OF PUPPETS』(1986年)から2曲、4thアルバム『...AND JUSTICE FOR ALL』(1988年)から1曲という内訳です。これは直前5月にバンドのデビュー20周年を記念した企画ライブなどで、初期曲を多数披露したことも大きく影響しているのでしょう。

「Leper Messiah」や「No Remorse」のような楽曲がライブ音源として公式に残されることに非常に大きな意味がある本作、サブスク未配信かつ当時限定盤としてリリースされたもので、現座は入手困難な1枚。僕も手元に残してありますが、1時間強のコンパクトさながらも非常に聴き応えのある良盤なので、もし中古ショップで見かけた際には迷わずゲットすることをオススメします。

 


▼METALLICA『LIBERTÉ, ÉGALITÉ, FRATERNITÉ, METALLICA!』
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2023年1月27日 (金)

THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE』(1989)、『BLOOD, FIRE & LIVE』(1990)

『BLOOD, FIRE & LOVE』は1989年10月20日にリリースされたTHE ALMIGHTYの1stアルバム。日本盤は翌1990年3月25日発売。

THE ALMIGHTYはリッキー・ウォリック(Vo, G)、タントラム(G)、フロイド・ロンドン(B)、スタンプ・モンロー(Dr)という布陣で1988年に結成された、グラスゴー出身のハードロックバンド。パンクロックを通過した荒々しいサウンドは“GUNS N' ROSES以降”のそれと捉えることもできますが、彼らの場合はさらにその祖先であるMOTÖRHEADから派生したワイルド&スリージーなハードロックといった印象も強く、デビューからしばらくしてから「MOTÖRHEADよりMOTÖRHEADらしい」なんて評価も飛び交ったほどでした。

メジャーのPolydor Records(現在のUniversal)から発表された本作は、同時期にメジャーデビューしたTHUNDERTHE QUIREBOYSLITTLE ANGELSなどとともに“ブリティッシュハードロックの次世代を担う新人”が放つ良作として高評価を獲得。チャート的にもイギリスで最高62位という数字を残したほか、「Power」(全英82位)、「Wild And Wonderful」(同50位)というシングルヒットも記録。本作を携えAC/DCTHE CULT、そしてMOTÖRHEADらとツアーを回ることで、さらに知名度を高めていきました。

多くのリスナーにとってのTHE ALMIGHTYのイメージは全英5位という最高記録を打ち立てた3rdアルバム『POWERTRIPPIN'』(1993年)や最高傑作の4th『CRANK』(1994年)での“グランジ以降のオルタナ感を飲み込んだ、パンキッシュなグルーヴメタル”かもしれません。そういった意味では、本作や続く2ndアルバム『SOUL DESTRUCTION』(1991年)で展開される音楽性は少々オールドスクールに映ることでしょう。特にこの1stアルバムで聴くことができる楽曲群は、1989年という次世代への過渡期を思わせる前時代的なハードロックが中心。オープニングを飾る「Resurrection Mutha」での仰々しいアレンジは、まさに80年代そのものといったところで、多少恥ずかしさを覚えるかもしれません。

しかし、続く「Destroyed」や彼らの代表曲「Wild And Wonderful」、そして「Power」といった男臭いハードロックチューンの数々からは、リッキーが近年活動の母体としているBLACK STAR RIDERSの片鱗を見つけることもでき、彼にとってのルーツはここにあるのだと気づかされます。

中〜後期とは異なる魅力を放つ本作は、BLACK STAR RIDERSから入ったリスナーにこそ受け取ってもらいたい作品のひとつです。

 


▼THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE』
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このデビューアルバムを携えたツアーの様子は、1990年10月8日にリリースされたライブアルバム『BLOOD, FIRE & LIVE』で確認することができます。日本盤は1992年7月10日発売。

1990年7月にエジンバラとノッティンガムで録音された本作は、1stアルバム『BLOOD, FIRE & LOVE』からの楽曲7曲にBACKMAN-TURNER OVERDRIVEのカバー「You Ain't Seen Nothin' Yet」を加えた、全8曲/約36分とライブ作品としてはややコンパクトな内容。ですが、「スタジオ作品よりもライブが魅力」だと言われ続けてきた彼らの魅力が、『BLOOD, FIRE & LOVE』よりもわかりやすい形で伝わる良盤ではないでしょうか。

ライブ映えする「Full Force Lovin' Machine」からスタートする構成といい、オーディエンスとの交流を含む8分近くにおよぶライブのハイライト「Wild And Wonderful」、終盤に持ってくることでドラマチックさが倍増する「Resurrection Mutha」などは、スタジオ盤だけではわからないバンドの個性をより感じることができるはずです。

日本盤は本国から2年近く遅れて発売されたのですが、「Wild Angel」「Detroit」「Crucify」と次作『SOUL DESTRUCTION』からの楽曲を含む3曲を追加収録。これは1992年12月に予定されていた彼らの初来日公演を前に、ライブバンドとしての彼らの真髄を知ってもらおうと企画されたものでしたが、『SOUL DESTRUCTION』からの楽曲を含むことでアルバム本来の軸がちょっとブレてしまったような気がしないでもありません。こういうの、一長一短ありますね。

なお、2013年11月18日にはスタジオアルバム『BLOOD, FIRE & LOVE』とライブアルバム『BLOOD, FIRE & LIVE』、および同2作発売周辺に録音されたシングルC/W曲やライブ音源をまとめたボーナスディスクで構成された3枚組作品『BLOOD, FIRE & LOVE & LIVE』がリリース。こちらはサブスク配信も最近スタートしたので、気になる方はこちらからチェックすることをオススメします。

 


▼THE ALMIGHTY『BLOOD, FIRE & LOVE & LIVE』
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2023年1月26日 (木)

BLACK STAR RIDERS『WRONG SIDE OF PARADISE』(2023)

2023年1月20日にリリースされたBLACK STAR RIDERSの5thアルバム。日本盤未発売。

前作『ANOTHER STATE OF GRACE』(2019年)から3年4ヶ月ぶりの新作。2021年にスコット・ゴーハム(G/THIN LIZZY)とチャド・スゼリガー(Dr/ex. BREAKING BENJAMIN、ex. BLACK LABEL SOCIETY)が相次いで脱退し、新たにLAを拠点に活動するザック・セント・ジョン(Dr)が加入するも、新たなギタリストを加えることなくBLACK STAR RIDERSは4人編成で活動を継続することを決意します。

その後、デビュー時から在籍してきたNuclear Blast Recordsを離れ、新たに名門Earache Recordsと契約。プロデューサーには2ndアルバム『THE KILLER INSTINCT』(2015年)からバンドに関わり続けているジェイ・ラストン(ANTHRAXSONS OF APOLLOARMORED SAINTなど)を迎え、リードギターをクリスチャン・マルトゥッチ(G/STONE SOURコリィ・テイラー)とリッキー・ウォリック(Vo, G)とで分け合いながら制作を進めました。

基本路線はこれまでと一緒で、リッキーらしいTHE ALMIGHTYの男臭い哀愁感漂うハードロックに、スコットこそいなくなってしまったものの、それでもバンドのアイデンティティとしてキープし続けているTHIN LIZZYからの影響を散りばめた、王道感の強いUK/アイリッシュロックが展開されています。彼らにモダンな要素を求めるなんてことはありえないし、そんな彼らの姿も見たくない。そういった意味では、ファン納得の1枚ではないでしょうか。

オープニングを飾るタイトルトラック「Wrong Side Of Paradise」がどことなく『JUST ADD LIFE』(1996年)あたりのTHE ALMIGHTYと印象が重なるのは、最近リッキーがTHE ALMIGHTYの再結成について「絶対にないなんて言わない」とSNSで発言したことでの補正もあるのかな。なんとなくですが、スコットがいなくなったことで、今まで以上にTHE ALMIGHTYっぽさが強まっているのは気のせいでしょうか。

かと思えば、「Hustle」や「Better Than Saturday Night」ではモロにTHIN LIZZY節を展開。コード使いがまんまTHIN LIZZYな後者にはDEF LEPPARDのジョー・エリオットもハモりでゲスト参加しており、それっぽさを強調させることに成功しています。カッコいいったらありゃしない。

序盤に派手めな楽曲を揃える一方で、中盤に入ると地味でマニアックな楽曲が続きます。そんな中、THE OSMONDSのカバー「Crazy Horses」のタフなアレンジに光るものが見つけられ、今までどおりなのにネクストレベルに片足ツッコミ始めた感も伝わる。そんな予感めいたものを提示しつつ、「Don't Let The World (Get In The Way)」や「Green And Troubled Land」などで再び加速し、序盤こそダークだけど実はソウルフルっていう良曲「This Life Will Be The Death Of Me」で締めくくる終盤の流れも良し。デジタル限定のスペシャル・エディションにはさらに「Cut 'N' Run」「Suspcious Times」が追加されており、どちらも捨て曲と呼ぶには少々勿体ない仕上がり。ただ、「This Life Will Be The Death Of Me」でエンディングを迎えるのがアルバムとしては正しいので、あくまでオマケ程度に受け取っておくのが吉。

本作完成後にはクリスチャン・マルトゥッチがコリィ・テイラーとの活動に専念するためにバンドを脱退。WAYWARD SONSのサム・ウッドが新メンバーとして正式加入。基本的には4人編成で活動を続けるものの、今年2月からスタートするバンドの10周年記念英国ツアーにはスコットに加え、創設メンバーのひとりジミー・デグラッソ(Dr)もゲスト参加するそうです。それはそれで観たいぞ。

 


▼BLACK STAR RIDERS『WRONG SIDE OF PARADISE』
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2023年1月25日 (水)

BRYAN ADAMS『GET UP』(2015)

2015年10月2日にリリースされたブライアン・アダムスの13thアルバム。日本盤は同年10月16日発売。

新作スタジオ音源としては70年代の名曲カバー集『TRACKS OF MY YEARS』(2014年)から約1年ぶり、新曲で構成されたオリジナルアルバムとしては『11』(2008年)から約7年半ぶりの新作。その7年の間には、『BARE BONES』(2010年)、『LIVE AT SYDNEY OPERA HOUSE』(2013年)とライブ作品も立て続けに発表されていたので、意外と空いた感覚はなかったですよね。

『11』では一部楽曲で盟友ロバート・ジョン“マット”ラングを迎え、基本的にセルフプロデュースで制作を進めていましたが、今作ではELOやTRAVELING WILBURYSのメンバーにしてジョージ・ハリスンやトム・ペティ、ポール・マッカートニーなどのプロデュースでも知られるジェフ・リンがトータルプロデュースを担当。全13曲で構成された本作ですが、新曲は9曲のみで、そのほかの4曲はその新曲のアコースティックバージョン(この別ていくのみブライアン自身がセルフプロデュース)。かつ、1曲1曲が2〜3分という古き良き時代のロック/ポップスを踏襲した構成で、アルバム自体約36分という短い尺なのです。これ、アコースティックバージョンを除いたら26分くらいなんですよ(苦笑)。

そんな短い内容ですが、どの曲もブライアンらしいキャッチーなポップロックばかり。直前にルーツ回帰的な『TRACKS OF MY YEARS』を経たこともあってか、従来の彼らしさにレイドバック感も加わり、かつジェフ・リンらしいサウンドメイクによってビートルズ・ライクな質感へと昇華されている。ソングライティング自体はブライアンとおなじみジム・ヴァランスとのタッグ中心なのですが、そもそもブライアン自身がこういうモードなんでしょう。

あと、『ON A DAY LIKE TODAY』(1998年)などでコラボしたフィル・ソーナリー(ex. THE CURE、ex. JOHNNY HATES JAZZ)も「That's Rock And Roll」でコライトしたほかギターを担当していたり、「Go Down Rockin'」で初期からの仲間であるキース・スコットがギターを弾いていたりするものの、レコーディングの大半をブライアンとジェフ・リンが担当しているのも、過去の代表作との大きな違いでしょうか。エンジニアリングやミキシングのみならず、演奏面でもジェフによる“ビートルズっぽさ”が大きく作用しているようです。

2023年時点での最新作『SO HAPPY IT HURTS』(2022年)との共通点も見受けられ、現在に至る最新の基本スタイルはここでひとつ完成した感もあるのかな。もともと持ち合わせていた要素ではあるものの、ここまで特化させたのはヒット云々を抜きに、やりたいことをやって余生を過ごしたいという思いも強かったのかもしれません。もはや20〜30代の頃のようなメガヒットを狙うより、童心に帰って音楽を楽しむほうが合っている気がしますしね。

 


▼BRYAN ADAMS『GET UP』
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2023年1月24日 (火)

HEROES AND MONSTERS『HEROES AND MONSTERS』(2023)

2023年1月20日にリリースされたHEROES AND MONSTERSの1stアルバム。日本盤未発売。

このバンドはSLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORSのベーシストであり、本国カナダでは80年代末から活動を続けるバンドTHE AGE OF ELECTRICの一員でもあるトッド・カーンズ(Vo, B)、Y&TALICE COOPER BANDなどで活躍したステフ・バーンズ(G)、EVANESCENCEの屋台骨を支えるウィル・ハント(Dr)というミュージシャンズ・ミュージシャンたちにより結成されたトリオバンド。Frontiers Recordsと契約し、昨年秋から「Locked And Loaded」や「Raw Power」「Let's Ride It」といった楽曲を配信してきました。

満を持して発表されたデビューアルバムは、バンドのセルフプロデュースにより完成したもの。長期にわたり北米のメジャーシーンで活躍してきた3人ならではの、安定感の強いパワフルな演奏を楽しむことができます。うん、各メンバーのプレイやアレンジに関してはさすがの一言です。

で、気になるのが楽曲ですよね。オープニングを飾る「Locked And Loaded」こそポストグランジ的側面を漂わせるものの、続く「Raw Power」以降はポップなメロディラインとキャッチーなサビを持つ良質なハードロック/パワーポップを聴かせてくれます。「Let's Ride It」なんて、どことなくトッド・カーンズと同郷のHAREM SCAREMあたりを彷彿とさせますよね。

要所要所でダウンチューニングを効かせたポストグランジ的なリフワークやアレンジが登場するので、一瞬ギョッとするかもしれませんが、(それこそこちらもカナダ出身の)NICKELBACKあたりとの共通点も見つけられ、そういった点からも彼らがこのバンドでやりたいことがなんとなく透けて見えてくるのではないでしょうか。こういうスタイルってお国柄によるものが大きいんですかね?

THE AGE OF ELECTRICではボーカルも担当するトッドのボーカルも古き良き時代のハードロックバンド的で、ハイトーンの伸びもよい。豪快なハードロックもパワーポップもお手のものといった印象で、良質な楽曲と相まって最後まで楽しく聴けてしまう。かつ、どの曲も4分程度にまとめられており、全10曲で39分という尺もちょうど良い。ステフ・バーンズのプレイに関しては、ソロはリフほど惹きつけられるものが少なく、そこだけが今後の課題かな。

トッドが在籍するTHE AGE OF ELECTRICをモダンにした印象の本作。SLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORSのファンやY&T、EVANESCENCEのリスナーにアジャストするかどうかは微妙ですが、これはこれで良質な内容なので、深いことを考えずにリラックスしながら楽しみたいと思います。

 


▼HEROES AND MONSTERS『HEROES AND MONSTERS』
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2023年1月23日 (月)

BUCKCHERRY『BLACK BUTTERFLY』(2008)

2008年9月16日にリリースされたBUCKCHERRYの4thアルバム。日本盤は同年9月10日発売。

日本先行で2005年10月に発表され、北米では翌2006年4月に発売された前作『15』でしたが、同作から「Crazy Bitch」(全米59位)、「Sorry」(同9位)とヒットシングルが生まれたことで、アルバム自体もロングヒット。最高39位と順位的にはそこまで高くはないものの、売上的には最終的に200万枚を超えるセールスを残しています。

このヒットを受けて、アメリカでは2年5ヶ月ぶりとなる本作(日本ではほぼ3年ぶり)。新たなプロデューサーに、「Sorry」でコライトしたマーティ・フレデリクセン(AEROSMITHDEF LEPPARDMOTLEY CRUEなど)を迎えて制作され、前作の流れを汲む“新生BUCKCHERRY”らしい仕上がりとなっています。

マーティは「Tired Of You」や「Talk To Me」など全12曲中4曲で、ジョシュ・トッド(Vo)&キース・ネルソン(G)と共作。「Too Drunk...」(正しいタイトルは「Too Drunck To Fuck」)のような初期の彼ららしいいかがわしいロックンロールを含むものの、基本的には整合感の強い正統派スリージー/ハードロックが中心で、『15』からファンになったリスナーには入っていきやすい作りと言えるでしょう。

アルバム冒頭の「Rescue Me」からして、かなり毒気が抜けていることが伝わりますが、カッコよければ問題なしう。哀愁味を漂わせるミディアムナンバー「Dreams」や「Don't Go Away」、ワイルドさの伝わる「Talk To Me」や「A Child Called "It"」、初期の彼らのイメージを引き継ぎつつモダンにアップデートさせた「Fallout」、アーシーなアコースティックナンバー「All Of Me」、今や彼らのライブには欠かせないアンセムソング「Cream」と、どの曲も完成度は非常に高く、アルバムとしてのバランス感も非常に優れている。ただ、先にも書いたように毒気が薄まっていることで、初期からのファンには物足りなさを残してしまう懸念は否めません。ですから、BUCKCHERRYに何を求めるかで大きく評価が分かれる1枚かもしれませんね。

ただ、本作は配信/ストリーミングで聴くとインパクトが弱い印象を受けます。というのも、「Too Drunk...」がそのタイトルや歌詞の内容を理由にカットされており、代わりにDEEP PURPLEの代表曲「Highway Star」に差し替えられているのです。一応「Too Drunk...」は今作からのリードシングルなんですけど……。

なもんですから、一番パンチの強い曲が削られたことで、初期ファンからはさらに印象の薄い1枚になってしまったのではないでしょうか。僕も久しぶりにストリーミングで聴いて、その違和感に驚いたほどですから。なので、できることならリイシュー前の初盤を中古盤ショップで探してみることをオススメします。

 


▼BUCKCHERRY『BLACK BUTTERFLY』
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2023年1月22日 (日)

SLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS『APOCALYPTIC LOVE』(2012)

2012年5月22日にリリースされたSLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS名義での1stアルバム。日本盤は同年5月16日発売。

当時はGUNS N' ROSESを離れていたスラッシュ(G)の、ソロやSLASH'S SNAKEPITを含めると通算4作目のソロワーク。前作に当たる純粋なソロアルバム『SLASH』(2010年)では曲ごとに多彩なゲストボーカルを迎えていましたが、同作にも数曲で歌唱し、かつアルバムツアーにも参加したマイルズ・ケネディ(Vo, G/ALTER BRIDGE)を固定シンガーに据え、トッド・カーンズ(B)&ブレント・フィッツ(Dr)というリズム隊との4人編成で本格的なバンド活動へとシフトします。

プロデュースを手がけるのは、『SLASH』から引き続きエリック・ヴァレンタイン(GOOD CHARLOTTE、LOSTPROPHETS、QUEENS OF THE STONE AGEなど)。前作ではどこか抜けきらない音質で好みが分かれましたが、今作ではエッジの効いた抜けの良い音質で、スラッシュがイメージするハードロックバンド像と見事にマッチし、最良の形で具現化されています。

また、楽曲に関しても前作が「ソングライター・スラッシュ」としての側面を強く打ち出したものだったのに対し、今作はバンドの一員に徹することで従来の彼らしさがより良い形で表現することに成功。GN'Rから今日に至るまでのスラッシュらしさが強くにじみ出ており、マイルズのボーカルにも見事にフィットしている。と同時に、「これ、アクセル・ローズが歌っても全然アリだな」とも思わせてくれるような楽曲ばかりで、近年の彼に興味を持ったリスナーのみならず、古くからのリスナーにもしっかりアピールする仕上がりです。

ギターリフに関しては若干の手癖感は否めませんが、ギターソロに関しては手癖以上の冴え渡りも見つけられる。どの曲もボーカルのメロディ並みにメロディアスで、非常にキャッチー。かつ、「Anastasia」を筆頭にエモーショナルなフレーズ/メロディも随所で確認でき、全15曲/約61分というボリューミーな内容ながらもまったく飽きさせない構成となっています。

本作を聴いた当時は「スラッシュ、まだまだいけるじゃん!」と感動したものです。多くのファンが「またGUNS N' ROSESに戻ってほしい」と願ってやまなかったと思いますが、個人的には「このままマイルズ・ケネディと活動を続けてもらえたら……」と強く思ったことをよく覚えています。最新作『4』(2022年)の次に聴くべき、スラッシュの代表的ソロワークのひとつです。

 


▼SLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS『APOCALYPTIC LOVE』
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2023年1月21日 (土)

METALLICA『SCREAMING SUICIDE』(2023)

2023年1月19日に配信リリースされたMETALLICAの新曲。

この曲は今年4月14日に発売予定の6年半ぶりのオリジナルアルバム『72 SEASONS』からの、リードシングル第2弾。昨年11月末に突如配信された「Lux Æterna」に続く楽曲で、アルバムの3曲目として収録予定の1曲です。念の為、以下アルバムのトラックリストとなります。

01. 72 Seasons
02. Shadows Follow
03. Screaming Suicide
04. Sleepwalk My Life Away
05. You Must Burn!
06. Lux Æterna
07. Crown Of Barbed Wire
08. Chasing Light
09. If Darkness Had A Son
10. Too Far Gone?
11. Room Of Mirrors
12. Inamorata

今回のアルバムは全12曲で、トータル77分超の大作。「Lux Æterna」が3分半程度のショート&ファストナンバーだったのに対し、今回の「Screaming Suicide」は5分半と比較的従来の彼ららしい尺のアップチューンです。こうなると、やっぱり3、4曲は8分超えのプログレッシヴな楽曲が用意されているのかな?と勝手に想像してしまいます。

また、「Lux Æterna」のレビューで同曲について、そのオープニング&エンディングのアレンジ含め「METALLICAらしくもあり、どこかMÖTORHEADを彷彿とさせるものもある」オールドスクールなHR/HMと表現しましたが、要するにそれってMETALLICAのルーツでもあるNWOBHM(=New Wave Of British Heavy Metal)を意識したものでもあるという。そこを踏まえて今回の新曲と向き合うと、こちらも従来のMETALLICA……主に3rdアルバム『MASTER OF PUPPETS』(1986年)までの初期と、90年代後半の『LOAD』(1996年)『RELOAD』(1997年)あたりの中期をミックスしつつ、原点の色合いを重視した作風でまとめ上げるという手法なのかなという気がしました。つまり、バンドとしてこのアルバムで表現したいことの軸には、確実にNWOBHMが存在しているのではないでしょうか。

歌詞においては、そのタイトルからもわかるように自死をテーマに掲げています。自身の内面と向き合うことをテーマとした歌詞は、これまでのMETALLICAの楽曲にも多く存在しますが、タイトル含めここまでストレートに表現した楽曲は初めてじゃないかな。と同時に、そういった自分の負の部分と向き合わせつつ、この曲を通して我らが親分ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo, G)は「君はひとりじゃない」とも呼びかける。単なるネガティブな表現ではなく、その先にあるポジティブさも感じ取ってほしい、そんな1曲ではないでしょうか。

「Lux Æterna」発表直後、僕は次のアルバム『72 SEASONS』のタイトルが表す「72の季節=18年」について、「古代中国で考案された季節を表す方式のひとつで、日本でも古くから自然の変化を知らせるのに使われているもの」と説明しました。もちろんこれも間違いではないのでしょうが、ジェイムズ自身は「生まれてからの18年で、人間の基本的部分は構築される」ことを意味し、そういった核の部分からの解放をこのアルバムにて表現したいと語っています。要は、今から40年前にアルバム『KILL 'EM ALL』(1983年)にデビューしたMETALLICAは、この新たなアルバムで「変わりようのない核」の部分を大切にしつつも、絶対的に囚われる必要はないということを証明したいのかもしれません。そういった意味では、いろんな経験を経た大人だからこその“『KILL 'EM ALL』のアップデート”が展開されるのではないか……そう予想しています。

ここから2月、3月、4月と新曲を定期的に届けてくれるのか、はたまたもっと小出しにしていくのか。4月14日までの3ヶ月弱を思う存分楽しんでいこうと思います。

 


▼METALLICA『SCREAMING SUICIDE』
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2023年1月20日 (金)

MÅNESKIN『RUSH!』(2023)

2023年1月20日にリリースされたMÅNESKINの3rdフルアルバム。

オリジナルアルバムとしては前作『TEATRO D'IRA: VOL.1』(2021年)から1年10ヶ月ぶりの新作。同作リリース時は『Eurovision Song Contest 2021』で優勝(5月22日)前とあって、今作こそがその影響がダイレクトに反映された1枚となります。

同作発表後(というか『Eurovision Song Contest』優勝後)、バンドはイギー・ポップをフィーチャーした「I Wanna Be Your Slave」新バージョンを筆頭に、「Mannmamia」「Supermodel」といった新曲や、映画『エルヴィス』に提供したエルヴィス・プレスリーのカバー「If I Can Dream」などを発表していますが、この3rdアルバムに向けた本格的な動きは昨年10月発売の「The Loneliest」から始まったと言っても過言ではありません。

曲ごと職業ソングライターとコライトを重ね、かつ1曲1曲異なるプロデューサーを迎えて制作された本作は、メンバー4人の個性をひとつにまとめる(あるいや4人の共通項をみつけてそこにスポットを当てる)のではなく、バラバラの4人の魅力をダイレクトに反映させることで、良い意味での荒ぶり具合を楽しむことができる“第二の初期衝動作”。成功がもたらしたプレッシャーを無視するのではなく、1人ひとりがそれぞれのスタンスで向かうことで、以前とは異なる化学反応が発生し、バンドとしての色をよりビビッドに表すことができたのではないでしょうか。

オープニングを飾る「Own My Mind」や「Bla Bla Bla」「Don't Wanna Sleep」など前作の延長線上のある楽曲も含まれているものの、どの楽曲もささくれだった生々しさがより前面に打ち出されたものばかり。各曲とも3分前後とコンパクトにまとめられていますが、それは計算の上でのコンパクト化ではなく、無駄を省いてソリッドに磨き上げた上での結果。だからなのか、ロックンロールが本来持っているべき攻撃性や躍動感、高揚感がどの曲からのストレートに伝わってきます。

トム・モレロ(G/RAGE AGAINST THE MACHINE)をゲストに迎えたリード曲「Gossip」は、先行配信されていた「Supermodel」などと同様、世界的成功を手中に収めたからこそのゴージャスさが伝わる。だけど、それらはセレブ的な成功とは一線を画するもので、間違いなくロックバンドがどんどん巨大化していく姿が投影されたもので、そういった姿勢はゴリゴリ感の強い「Gasoline」やライヴ映えするパンキッシュな「Kool Kids」からも感じ取ることができます。

音楽的なまとまりよりもバンドとしての“今”をダイレクトに具現化したという点では、スタイルはまったく異なるもののGUNS N' ROSESの問題作『USE YOUR ILLUSION I』および『同 II』(ともに1991年)との共通点を見つけることもできる。ロックバンドが思いがけない大成功を収めたときの強気な姿勢と戸惑いが、こういったいびつな形で記録として残されたのはある意味奇跡かもしれません。そういった意味でも、2022〜23年というこのタイミングにしか作り得なかった1枚かもしれません。だからこそ、世界中でバカ売れして、ロック低迷を覆すターニングポイントを作ってもらいたいところです。

なお、日本盤は昨年8月の来日公演から、豊洲PITでの単独公演にて収録された10曲を収めたボーナスディスク付き仕様も用意。コロナ禍だろうが自然と声が漏れてしまうオーディエンスの様子含め、こちらも貴重な記録の一部。アルバム本編同様にマストで聴いていただきたい、CD限定の素敵なボーナスです。

 


▼MÅNESKIN『RUSH!』
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2023年1月19日 (木)

BLIND CHANNEL『LIFESTYLES OF THE SICK & DANGEROUS』(2022)

2022年7月8日にリリースされたBLIND CHANNELの4thアルバム。日本では本作がデビュー作にあたり、同年12月21日に『シック・アンド・デンジャラス』の邦題で発売。

BLIND CHANNELはフィンランド北部にあるオウルという街出身のニューメタルバンド。ラッパーだったニコ・モイラネン(Vo)とメタルバンドに憧れを抱いていたヨエル・ホッカ(Vo)という10代の少年2人がLINKIN PARKの2ndアルバム『METEORA』(2003年)を通じて出会い、2013年のバンドをスタートさせます。翌年、にフィンランドで開催された『Wacken Metal Battle』を勝ち抜き、レーベル契約を獲得。数枚のシングルリリースを重ね、2016年9月に1stアルバム『REVOLUTION』を発表し、本国チャートで26位という好成績を残します。

その後も『BLOOD BROTHERS』(2018年)、『VIOLENT POP』(2020年)とアルバムを連発する中、2020年夏にはかつて「Timebom」(2019年)にゲスト参加したアレクシ・コーニスベシ(DJ)が正式メンバーとして加入。新たに6人組編成になったバンドは、ヨーロッパ最大の音楽の祭典『Eurovision Song Contest 2021』にフィンランド代表として参加し、今作にも収録された「Dark Side」で6位入賞を果たした。ちなみに、このコンテストで優勝したのがイタリア代表のMÅNESKIN。彼ら同様、BLIND CHANNELもこの『Eurovision Song Contest』入賞で世界各国から注目を集めることとなります。

このコンテスト出場と前後して、彼らは新たなレーベルとしてCentury Media Recordsと契約。翌2022年夏に満を持して発表された本作は、本国チャートで初の1位を獲得しています。そして、海外から遅れること約半年、アートワークを変更して日本盤が発売されたわけです。

年末の慌ただしい時期のリリースだったこともあり、スルーされてしまいがちですが、特に日本のメタル/ラウド系リスナーがそのまま見過ごしてしまうには勿体ない1枚。結成のきっかけとなったLINKIN PARK直系の2000'sニューメタルの香りがプンプンする、ヘヴィでグルーヴィー、そしてポップでキャッチーな楽曲がズラリとならぶ良作なのです。

先にも触れた「Dark Side」は本国1位、イギリスでも最高66位という成績を残した王道感の強い1曲。メロディアスな主メロとパーカッシヴなラップパート、そしてサビではシンガロングしたくなるようなキャッチーなメロディが用意されており、演奏も歌を盛り立てるための無駄のないアレンジが施されている。「Bad Idea」(フィンランド5位)や「Balboa」(同12位)、「We Are No Saints」(同18位)などのヒットシングルはどれもが高性能のポップ/ロックソングとして機能するものばかりで、ラウド系以外のリスナーにもしっかり響く個性を持っている。かつ、大半の楽曲が3分前後と非常にコンパクトで、歌に主軸を置いていることから終始飽きさせないアレンジでかっちり作り込まれている。そりゃ売れるわけだ。

個人的には「Alive Or Only Burning」が大のお気に入り。日本盤にはWE CAME AS ROMANSなどのと共演経験を持つラッパーのZero 9:36をフィーチャーした別バージョンも、ボーナストラックとして用意されています。こっちの新バージョンもなかなか良いのではないでしょうか。

目新しさはないものの、完成度だけは無駄に高い。本国ではすでに7000人規模のアリーナ会場を満員にするほどの人気ぶりで、日本でもフェス出演などがあればより知名度が広まるはず。ここでの成功経験を糧に、さらに進化する可能性の高い将来有望株の1組です。

 


▼BLIND CHANNEL『LIFESTYLES OF THE SICK & DANGEROUS』
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2023年1月18日 (水)

CARCASS『SWANSONG』(1996)

1996年6月10日にリリースされたCARCASSの5thアルバム。日本盤は同年6月1日発売。

前作『HEARTWORK』(1993年)でメロディックデスメタル路線が見事に開花し、新たな活路を見出したCARCASS。同作はメジャーのColumbia Recordsを通じて、北米でも1994年1月に発表され好評を博しました。しかし、同作を持ってマイケル・アモット(G)が脱退。ツアーメンバーにマイク・ヒッキー(G)を迎えツアーを乗り切り、1994年5月には待望の初来日公演も実現させました(筆者も川﨑クラブチッタに足を運んだひとりです)。

その後、マイク・ヒッキーは正式メンバーになることなくバンドを離れ、新たにカルロ・レガダス(G)が正式加入。1995年初頭から続くニューアルバムの制作に取り掛かります。プロデュースは過去3作から引き続きコリン・リチャードソン(FEAR FACTORYNAPALM DEATHBULLET FOR MY VALENTINEなど)が担当。曲作りに関してはジェフ・ウォーカー(Vo, B)&ビル・スティアー(G)が中心ですが、「Black Star」「Polarized」「Firm Hand」にはカルロが早くも名を連ねています。

基本路線は前作でのメロデススタイルが下地になっていますが、全体的にハードロック色が強まった印象。リードトラック「Keep On Rotting In The Free World」(タイトルはニール・ヤング「Rockin' In The Free World」のオマージュか)で聴ける方向性はメタルというよりもハードロック的ですものね。ほかにも「Cross My Heart」など、チューニングやリフの刻み方こそ当時のモダンメタル以降の流れにあるものの、やろうとしていることは『HEARTWORK』とは若干異なることに気付くはずです。

かと思えば、「Black Star」や「Room 101」ではグルーヴメタル的な側面も感じられ、実は前作から推し進めた新たな方向性に迷いが生じているのでは?という印象も。メジャー配給などの影響もあり、レーベル側からもいろんな横槍が入ったんでしょうね……。実際、本作は1995年中にはリリースされる予定でしたが、レーベル側が難色を示し、Columbia Recordsは契約を解除してしまいましたし。そういった現実を目の当たりにし、ビルは本作発売前に脱退。バンドもリリースから間もなくして解散を発表してしまいます。

THIN LIZZY的ツインリードがひたすらカッコいい「Keep On Rotting In The Free World」、BLACK SABBATHがプログレッシヴなグルーヴメタルに挑戦したような「Childs Play」、IRON MAIDEN直系のメロディックなパワーメタル味がある「R**k The Vote」など突出した楽曲も少なくないですが、前作までの『HEARTWORK』ほどの評価を得られず、どちらかというと失敗作と捉えられている本作。解散を前提として名付けられた『SWANSONG』というタイトルもあり、しばらくはネガティブな印象が強かったものの、今聴くとそこまで悪いとは感じません。

確かに過去数作と比べたらランクは落ちるかもしれませんが、逆に本作での経験がなかったら実は最新作『TORN ARTERIES』(2021年)は生まれなかったのではないか。そんな気もしています。過渡期の1枚ではあるものの、CARCASS史においては実は影の重要作だった……というのは言い過ぎでしょうか。

 


▼CARCASS『SWANSONG』
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2023年1月17日 (火)

OBITUARY『DYING OF EVERYTHING』(2023)

2023年1月13日にリリースされたOBITUARYの11thアルバム。日本盤未発売。

セルフタイトルとなった節目の10作目『OBITUARY』(2017年)から約6年ぶりの新作。当初は2021年に発表予定だったそうですが、ご存じのとおり昨今のコロナの影響が災いし、予定よりも2年近くも多くの時間を要することになってしまったようです。しかし、ただ遅延させるだけでは物足りなかったのか、2022年夏には1stアルバム『SLOWLY WE ROT』(1989年)と2ndアルバム『CAUSE OF DEATH』(1990年)のそれぞれ完全再現スタジオライブ音源+映像入りBlu-rayセットをリリースし、見事に間をつないでいます。

こうして、ようやく届けられた新作ですが、オープニングの「Barely Alive」のスピード感にまず圧倒されます。うん、これは素直にカッコいい。ジョン・ターディー(Vo)のボーカルもシンプルにカッコいいし、ギター2本の絡みも、リズム隊の土台を固める鉄壁さも文句なし。

続く「The Wrong Time」以降はミディアムテンポ中心の、いわば王道のOBITUARY節の連続。M-3「Without A Conscience」でののたうち回るようなリフワーク&グルーヴィーなリズムは“これぞOBITUARY”と断言できるもので、この冒頭3曲で掴みは完璧です。かと思えば、M-4「War」ではジョンの獣のような咆哮を存分に味わえ、タイトルトラックとなるM-5「Dying Of Everything」では小気味良いリフの刻みと疾走感の強いビート、ジョンの雄叫びがひとつの塊となって脳天を直撃します。

アルバム後半も、ストレートなヘヴィメタル的リフと彼ららしいリズム感で聴き手を魅了する「My Will To Live」や「Torn Apart」、重戦車のようなリズムセクションと“ギターの壁”のアンサンブルが気持ち良い「By The Dawn」や「Weaponize The Hate」などの王道ナンバーが連発され、最後は地獄の底から死者が這い上がってきそうなおどろおどろしさを醸し出す「Be Warned」で締めくくり。全10曲/約44分があっという間に感じられる構成です。

目新しさは皆無。いつも通りちゃあいつも通りの内容ですし、それなりに聴きやすいといえば確かにそう。もはや4thアルバム『WORLD DEMISE』(1994年)あたりで試した実験的要素で道を踏み外すこともありません。それ故に、人によっては退屈と感じるかもしれない。デスメタル自体はもはやHR/HMの枠内では特殊なジャンルではないものの、ここまでピュアなデスメタル自体は聴き手を選ぶかもしれない……本作はそんなことを感じさせる1枚でした。OBITUARYに求める要素は完璧に揃っているはずなので、その手の方向性が好きな方は心置きなくお楽しみください。

……でも、初期の作品と比べたらだいぶ聴きやすいので、OBITUARY入門にも最適だと個人的には思っているのですが、いかがでしょう?

 


▼OBITUARY『DYING OF EVERYTHING』
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2023年1月16日 (月)

TURMION KÄTILÖT『OMEN X』(2023)

2023年1月13日にリリースされたTURMION KÄTILÖTの10thアルバム。日本盤未発売。

TURMION KÄTILÖTは2003年にフィンランドのクオピオで結成されたインダストリアルメタルバンド。そのヴィジュアルはブラックメタルを彷彿とさせるコープスペイントが特徴的ですが(元メンバーがそっち側の人だったようで、その名残なのか)、ベースにあるのはニューメタル以降のサウンドで、ディスコビートやシーケンスされるシンセサウンド、時にはピコリーモ的な要素も見せるコミカルさ、思わずシンガロングしたくなるようなコーラスパートのキャッチーさなどが親しみやすさにつながっています。

Nuclear Blast Records移籍2作目、前作『GLOBAL WARNING』(2020年)から約3年ぶりとなる今作。コロナの影響によるロックダウンを受け思うようにプロモーションできなかった前作での葛藤を払拭するような、爆発力の強いダンスメタルの数々が用意されており、その楽曲群はどれも完成度が高い。サビにはポップ&キャッチーなシンガロングパートが必ず用意されているので、歌詞が聞き取れなくてもついつい口ずさんでしまいたくなるものばかりです。

ボーカルに関しても英語以外の母国語で歌われているのですが、不思議と耳馴染みがよく、パーカッシヴな歌唱が跳ねるようなビッグビートとの相性も抜群。ツインボーカル体制のようですが、ユニゾンで歌ったときの破壊力は非常に効力を発揮していますね。

系統的にはRAMMSTEINの系譜にあるのかもしれませんが、彼らほどの変態性はそこまで感じられず(MVにはその色は見つけられるものの、こちらのほうがもっとコミカルかな)。かつ、FIVE FINGER DEATH PUNCH的テイストを加えることでメジャー感が強まっている印象もあります。曲タイトルから歌詞の雰囲気を掴もうと思ったのですが……(以下、翻訳です)。

01. Totuus:真実
02. Gabriel:ガブリエル
03. Vie Se Pois:では(演奏を)始めてください
04. Pyhä Kolminaisuus:聖三位一体
05. Puoli Valtakuntaa:王国の半分
06. Verestä Sokea:血の盲目
07. Isä Meidän:我々の父
08. Sormenjälki:指紋
09. Käy Tanssiin:ダンスに行く
10. Kun Kesä Kuoli:夏が死んだとき
11. Kuolettavia Vammoja:致命傷

歌詞を海外サイトで確認したところ、意外と詩的なことを歌っていることに気付かされました(まあ全体的にダークですが)。うん、カッコいいじゃないですか。「Totuus」MVの雰囲気に騙された(笑)。

平均点を軽く超える完成度の、ただただ気持ちいいアルバム。こういう作品はライブで体験してこそ、より魅力に気付かされるはず。きっと野外フェスでは、観る者を問答無用で楽しませるんでしょうね。一度ナマで拝見したいところです。

 


▼TURMION KÄTILÖT『OMEN X』
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2023年1月15日 (日)

✝✝✝ (CROSSES)『PERMANENT.RADIANT』『ONE MORE TRY』(2022)

『PERMANENT.RADIANT』(2022)

2022年12月9日にリリースされた✝✝✝ (CROSSES)の最新EP。日本盤未発売。

2022年3月に発表されたデジタルシングル『INITIATION / PROTECTION』に続く新作は、事前の予告どおり“まとまった作品集”でしたが、期待された2ndアルバムではありませんでした。しかし、6曲のオリジナル曲を収めたボリューミーな内容となると、それこそ1stアルバム『✝✝✝』(2014年)以来約9年ぶりなので、ファンとしてはありがたい限りです。

2023年に予定されている待望の2ndアルバムへの序章として用意された本作は、『INITIATION / PROTECTION』で見せたゴシックテイストの80'sエレポップ/ダークロックをモダンな形に昇華させた内容。「Sensation」や「Vivien」はヘヴィなぎたーサウンドの代わりにシンフォニックなシンセサイザーを多用することで、DEFTONESとは似て非なる楽曲に仕上がっています。それこそ、「Cadavre Expuis」あたりは冒頭のギターフレーズなど含め、ヘヴィな味付けを加えればそのままDEFTONESの新曲としても通用する内容。そう考えると、いかにチノ・モレノ(Vo)のシンガー/ソングライターの個性が唯一無二のものであるかが、この曲からも十分に理解することができます。

独特のコード使いとそれに伴う不思議なメロディ運びは、どことなく後期JAPANあたりを彷彿とさせ、音作りの質感にはNINE INCH NAILSあたりとの共通点も見受けられる。そして、「Day One」や「Procession」のような楽曲からは80年代のニューロマンティックの香りも嗅ぎ取ることができ、その方向性がまったくブレていないことにも気付かされる。特に「Procession」にはトリップホップからの影響も見受けられ、思わずニヤリ。来たる2ndアルバムへの期待を煽るには十分すぎる内容ではないでしょうか。

 


▼✝✝✝ (CROSSES)『PERMANENT.RADIANT』
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『ONE MORE TRY』(2022)

 

本作リリースから2週間後の12月23日には、EP未収録曲「One More Try」もデジタルリリース。この曲はジョージ・マイケルの1stアルバム『FAITH』(1987年)に収録された名バラードのカバー。原曲のイメージそのままに、讃美歌を思わせる神聖さを強調したアレンジはさすがの一言といえるのでは。チノのボーカルワークもジョージ・マイケルを踏襲したもので、彼ほどのソウルフルさはないものの十分に個性が発揮された良カバーと言えます。

また、音使いのいたるところにはプリンスからの影響も見受けられます。これまでDEFTONESやこのプロジェクトでカバーしてきたアーティストのセレクトを考えると、これまでプリンスを取り上げていないのが不思議なくらい。けど、チノの色を考えるとジョージ・マイケルくらいまでがギリギリなのかな?とも思ったり。なんにせよ、あえてEPには入れずクリスマスシーズンに単独リリースを意識していたんだろうなという意図が透けて見える本作、先の『PERMANENT.RADIANT』とあわせて語られるべき良質なトラックです。

 


▼✝✝✝ (CROSSES)『ONE MORE TRY』
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2023年1月14日 (土)

STEVE JONES『MERCY』(1987)

1987年7月にリリースされたスティーヴ・ジョーンズの1stソロアルバム。

SEX PISTOLSのギタリストとして知られるスティーヴ・ジョーンズですが、バンド解散後はTHE PROFESSIONALSやCHEQUERED PASTといったバンド活動のほか、フィル・ライノット(THIN LIZZY)やイギー・ポップアンディ・テイラーと共演するなどして、音楽を続けてきました。そんな彼が1986年にMCA Recordsと単独契約。同年秋にはアメリカのテレビドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の挿入歌として初のソロ楽曲「Mercy」を、同じく1986年11月公開(日本では1988年6月公開)の映画『サムシング・ワイルド』に「With You Or Without You」を提供するなどして、ソロキャリアを重ねていきます。

同2曲を含む初のソロアルバム、プロデュースを手がけるのはスティーヴ自身とボブ・ローズ(マイケル・デ・バレス、ジュリアン・レノンなど)、ポール・ラニ(MEGADETHENUFF Z'NUFF、SANCTUARYなど)という面々。ギターやベースに加え、スティーヴ自身がボーカルを担当しており、ドラムはブライアン・アダムスとの活動で知られるミッキー・カリーと名手ジム・ケルトナー、キーボードはボブ・ローズが担っています。

ピストルズでの重厚感の強いギターサウンド、直近のイギー・ポップ『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)やアンディ・テイラー『THUNDER』(1987年)で聴かせたワイルドなギタープレイをイメージして本作に触れると、その地味な作風に驚くのではないでしょうか。豪快なハードロックやパンクロックはここには皆無で、終始穏やかなトーンで展開されるミディアロックの数々は、クスリ抜けして真人間になったスティーヴがそのまま反映されたかのような仕上がりです(「Drugs Suck」なんてタイトルの曲まで収録されるくらいですからね)。

抜けの良いシンセ&ドラムとギターが比較的抑えめというミックスに、1987年という時代性を感じずにはいられません。スティーヴの中低音中心のボーカルのせいもあり、個人的にはチャーリー・セクストンのデビューアルバム『PICTURES FOR PLEASURE』(1985年)と似た印象を受けるのですが、年齢的なこともありチャーリーのほうがみずみずしく華やかさが勝っており、じゃあこのスティーヴのソロアルバムの魅力はどこかと問われると……純粋に曲の良さなのかな、と。

メロディメイカーとしては(自身の声域を考慮したこともあってか)飛び抜けた個性は感じられないものの、不思議と聴いていて心地よい曲ばかり。ラストのスタンダードナンバー「Love Letters」のカバーまで全10曲、大きな山場や高揚感を迎えることなく終了するものの、なぜか嫌いになれない1枚なんですよ。

スティーヴが心の平穏を取り戻すため、リハビリがてら取り掛かった本作は続く2ndアルバム『FIRE AND GASOLINE』(1989年)で本領発揮するための、プレ・ソロデビュー作なのかもしれません。ホント、傑作ハードロックアルバム『FIRE AND GASOLINE』と比べると対照的な内容ですからね。

このアルバムと『FIRE AND GASOLINE』、しばらく廃盤状態でしたが2019年初頭にRock Candyから再発。昨年にはサブスクでも無事解禁されております。

 


▼STEVE JONES『MERCY』
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2023年1月13日 (金)

IGGY POP『BLAH-BLAH-BLAH』(1986)

1986年10月23日にリリースされたイギー・ポップの7thアルバム。日本アナログは同年10月21日、同CDは11月21日に発売。

1983年夏からしばらくの間、薬物依存の治療に取り組みつつ日常生活を安定させようと、音楽活動を休止したイギー。同じ頃、盟友デヴィッド・ボウイが過去の共作曲「China Girl」をアルバム『LET'S DANCE』(1983年)でセルフカバーし、シングルとしても大ヒットさせるなど、印税面でイギーをバックアップします。また、ボウイは続く『TONIGHT』(1984年)でイギーをレコーディングに呼び、コーラス参加などで少しずつリハビリさせていくことに。こうしてイギーは少しずつ自身の音楽活動にも着手し始め、新しいアルバムのためにボウイと楽曲制作を進めていきます。

プロデューサーにはQUEENやボウイ、YESDURAN DURANなどで知られるデヴィッド・リチャーズを迎え、元SEX PISTOLSスティーヴ・ジョーンズ(G)や本作のツアーにも参加するケヴィン・アームストロング(G)、ボウイとの交流も深かったマルチプレイヤーのエルダル・キジルチャイとともにレコーディングを敢行。80年代半ばらしい打ち込み主体の、キラキラしたポップ感が異彩を放つアルバムを完成させます。

イギーの持ち味的にはこのテイストは「ちょっと違うんじゃないか?」という声が多いかと思います。が、まずは彼自身を表舞台に引きずりあげることが当時の重要項目であり、本作はその役目を見事に果たす1枚だったのではないでしょうか。事実、リリース当時は「Real Wild Child (Wild One)」や「Cry For Love」のMVがMTVを中心にヘヴィローテーションされましたし。また、「Isolation」などを筆頭に、楽曲の方向性やサウンドの作風的にもボウイが大ヒットを飛ばした『LET'S DANCE』や『TONIGHT』の延長線上にあり、かつボウイが楽曲制作に携わり、コーラスでも参加していることはアピールポイントとしても非常に大きく、当時中学生だった僕のようなイギー初心者にも触れやすかったわけですからね(アラフィフ世代の洋楽リスナーは本作でイギーを初めて知ったという方も少なくなかったことでしょう)。

実際、どの曲も非常によく作り込まれており、ボウイファンなら「これ、自分で歌えよ!」と思ってしまうような良曲も少なくありません。それをイギーが、あえて煮えたぎるパワーを抑えた穏やかな歌声で表現するアンバランスさ。好きなことをするために我慢してこれを歌い切ったという解釈もできるでしょうが、大半の楽曲制作にイギー自身が関わっていることを考えると、実はここで表現されていることも少なからず彼の内面に蓄積されていたものと捉えることもできるはず。事実、ここでの経験はその後の作品にも多々反映されていますしね。

スティーヴ・ジョーンズは「Fire Girl」「Cry For Love」「Little Miss Emperor」(この曲のみアナログ未収録)の3曲でイギーと共作を果たし、「Cry For Love」では彼らしいワイルドなギターソロも披露。当時のスティーヴはアンディ・テイラー(元DURAN DURAN)とのコラボレーションなどで経験を蓄積していた最中で、これらの経験が続く初ソロアルバム『MERCY』(1987年)へとつながっていきます。

セールス的にも全米75位/全英43位とまずまずの結果を残し、アメリカではソロデビュー作『THE IDIOT』(1977年)の全米72位に続く成功を収めました。この成功があったから、坂本龍一のアルバム『NEO GEO』(1987年)参加(「Risky」を歌唱)が実現したり、本領発揮の『INSTINCT』(1988年)が生まれたりしたわけですからね。

 


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2023年1月12日 (木)

JEFF BECK『YOU HAD IT COMING』(2000)

2000年11月15日にリリースされた、ジェフ・ベック名義での8thアルバム。

前作『WHO ELSE!』(1999年)でドラムンベースなどモダンなテクノサウンドをフィーチャーしたバクトラックと、常に進化を続ける先鋭的なギタープレイで我々を驚かせたベック。僕自身、『GUITAR SHOP』(1989年)以降は彼の新作に積極的に触れてきたわけではなかったのですが、この『WHO ELSE!』で得た衝撃は何ものにも変え難いものがありました。当時通っていたクラブでも「What Mama Said」や「Psycho Sam」のような楽曲が流れると、めちゃめちゃアガりましたからね。

そんな『WHO ELSE!』から2年立たずに届けられた『YOU HAD IT COMING』は、前作の方向性をさらに推し進めたもの。新たなプロデューサーとしてアンディ・ライト(SIMPLY REDSIMPLE MINDSEURYTHMICSなど)を迎え、ジェニファー・バトン(G)やランディ・ホープ-テイラー(B)、スティーヴ・アレクザンダー(Dr)といった前作参加メンバーのほか、エイデン・ラヴ(Programming)やイモージェン・ヒープ(Vo)も参加。長きにわたりタッグを組んできたトニー・ハイムス(Key)はスケジュールの都合で参加できなかったようですが、“鉄は熱いうちに打て”じゃないですけど、ベックがノっているタイミングに好きなだけ作れる環境で強行した結果がこの良作誕生につながったんだから、結果オーライだと思います。

前作およびそのツアーではベック自身が信頼を置くジェニファー・バトンのプレイが大々的にフィーチャーされていましたが、それは本作でも同様。オープニングを飾るドラムンベース調の「Earthquake」はそのジェニファーが単独で作曲を手がけた楽曲ですからね。そのジェニファーのテクニカル&アグレッシヴなプレイも随所に散りばめられており、ベック自身もそれに触発されたかのように若々しくてエネルギッシュ、だけど要所要所に年齢相応の枯れた味付けも感じられ、前作以上に聴き応えのある内容に仕上がっています。

また、前作は完全インストゥルメンタル作品だったのに対し、本作では「Dirty Mind」やブルースの名曲「Rollin' And Tumblin'」といった歌モノも用意。このテクノ路線で定番の「Rollin' And Tumblin'」を取り上げるセンスにも唸らせられるものがあります。常に時代の先を読みつつも、決してルーツは忘れない。だからこそ、僕自身この人のことをここまで信頼できたんだと思います。

僕自身は“テクノロジー3部作”と勝手に呼んでいる『WHO ELSE!』から『JEFF』(2003年)までの一連の流れの中で、実はもっともコンパクトでバランス感に優れた傑作がこの2作目『YOU HAD IT COMING』じゃないかなと思っております。「Left Hook」での暴れっぷりとか、今聴いても圧倒的ですしね。

 


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IGGY POP『EVERY LOSER』(2023)

2023年1月6日にリリースされたイギー・ポップの19thアルバム。日本盤は同年1月18日発売予定。

前作『FREE』(2019年)から3年4ヶ月ぶりの新作。Atlantic Recordsが新設した傘下レーベル・Gold Tooth Recordsへの移籍第1弾アルバムとなり、プロデューサーにも若手のアンドリュー・ワット(オジー・オズボーン、ポスト・マローン、ジャスティン・ビーバーなど)を迎えるなど心機一転の1枚に仕上がっています。

レコーディングにはアンドリューがギターのベーシックトラックで参加したほか、ダフ・マッケイガン(B/GUNS N' ROSES)&チャド・スミス(Dr/RED HOT CHILI PEPPERS)というオジーの近作でもプレイしたリズム隊やジョシュ・クリングホッファー(G/ex. RED HOT CHILI PEPPERS)、ストーン・ゴッサード(G/PEARL JAM)、デイヴ・ナヴァロ(G/JANE'S ADDICTION)、エリック・エイヴリー(B/JANE'S ADDICTION)、クリス・チェイニー(B/ex. JANE'S ADDICTIONなど)、トラヴィス・バーカー(Dr/BLINK-182)、テイラー・ホーキンス(Dr, Piano/FOO FIGHTERS)といった、これぞ“イギー・ポップ・チルドレン”と言わんばかりの精鋭が顔を揃えています。

近年は生々しいガレージロックと穏やかなジャズ/ブルース的作品をほぼ交互に発表してきたイギー。前作『FREE』が後者寄りの作品だったこともあり、続く今作は再びエネルギッシュなパンクロックが期待されるところですが、その期待を大きく上回る内容に仕上がっています。といっても、全曲パンクロック/ガレージロックで固められているわけではなく、むしろイギーのソロキャリアの原点である『THE IDIOT』(1977年)『LUST FOR LIFE』(1977年)、80年代半ばに本格的復活を果たした『BLAH-BLAH-BLAH』(1986年)あたり、そして90年代以降のハードロック的なテイスト、さらにはTHE STOOGES時代をも網羅したキャリア総括的な作風。なもんですから、悪いわけがない。

オープニングを飾る「Frenzy」や「Day Rip Off」のようなパブリックイメージどおりのガレージロックで華やかさを演出しつつも、初期のニューウェイヴ的色合いを見せるミディアムチューン「Strung Out Johnny」、低音域でアダルトさを醸し出すバラード「Morning Show」など、多彩さに満ちた内容は聴き手をまったく飽きさせることがありません。かと思えば、ジャズ/ブルース路線を彷彿とさせる1分前後のインタールード「The News For Andy」では、イギーのナレーションのようなボーカルワークも楽しめる。そこから「Neo Punk」という疾走ナンバーに続く構成には、思い切り笑わせてもらいました。最高ったらありゃしない。

この4月には76歳(!)の誕生日を迎えるイギー、なお盛んです。日本公演は2007年のフジロック(THE STOOGESとして出演)以来16年も実現していませんが、この傑作を携えた夏フェス出演に期待したいところです。また「The Passenger」でステージに上がりたいですからね(笑)。

 


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2023年1月11日 (水)

IGGY POP『THE IDIOT』(1977)

1977年3月18日にリリースされたイギー・ポップの1stソロアルバム。

THE STOOGES解散後にデヴィッド・ボウイと出会い、彼のバックアップでIGGY & THE STOOGESとして再始動。『RAW POWER』(1973年)を完成させるも、活動がままならずままバンドは空中分解し、イギーは重度の薬物依存状態に陥ります。そんなイギーに再び手を差し伸べたのがボウイ。アメリカからベルリンへと彼を引き込むと、当時ボウイが興味を持っていたジャーマンロック/クラウトロックに興味を持ち始めます。

その流れから、2人のコラボレーションがスタート。ベーシックトラックをある程度固めたところで、トニー・ヴィスコンティが介入。カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といったボウイ『LOW』(1977年)の参加メンバーが追加レコーディングを行なって、アルバムを完成に導きます。

ちなみに、『LOW』のリリースは1977年年1月で、追ってこの『THE IDIOT』がリリースされていますが、実際の制作期間は『THE IDIOT』が1976年7〜8月で、『LOW』は同年9〜11月。つまり、『THE IDIOT』は『LOW』の習作ともいえる1枚であり、2作は兄弟のような存在であることが伺えます。あとは、ブライアン・イーノがいるかいないかの違いか。そこはかなり大きいですものね。

イギーは本作について「a cross between James Brown and Kraftwerkと表現していますが、なるほど納得の例えです。THE STOOGESにおけるダウナーな部分を強調させた楽曲群と、適度に取り入れられたエレクトロの要素、パンクというよりはのちのポストパンク的にも映るその方向性は、ある意味では“早すぎた1枚”と言えるかもしれません。しかし、これがあったからのちのJOY DIVISIONへとつながり、さらにはDEPECHE MODENINE INCH NAILSへと続いていった……というのは大袈裟でしょうか。

イギーらしい躍動感は次作『LUST FOR LIFE』(1977年)に譲るものの、アート性や実験性の豊かさにおいては本作のほうが優っており、そこも含めてボウイの色が強く出てしまった感は否めません。のちにボウイ自身が『LODGER』(1979年)で歌詞とタイトルを改め「Red Money」と題してセルフカバーした「Sister Midnight」、メガヒット作『LET'S DANCE』(1983年)で取り上げた「China Girl」など、彼自身の思いれが強い楽曲が並んでいるのかもしれません。

長尺で実験性の強い「Dum Dum Boys」や「Mass Production」、ボウイのサックスが煌びやかさを生み出す「Tiny Girls」、そして映画『トレインスポッティング』で「Lust For Life」とともに印象的なシーンで使用された「Nightclubbing」など、聴きどころ満載。イギーのヘロヘロボーカルも妙にマッチしていて、気持ちよく楽しめる1枚です。

 


▼IGGY POP『THE IDIOT』
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2023年1月10日 (火)

DAVID BOWIE『DAVID BOWIE』(1967)

1967年6月1日にリリースされた、デヴィッド・ボウイの記念すべき1stアルバム。

ボウイは1964年にDAVIE JONES WITH THE KING BEES名義でシングル「Liza Jane」でレコードデビューを果たしますが、以降THE MANISH BOYS、DAVIE JONES WITH THE LOWER THIRD名義でシングルを複数枚発表するものの鳴かず飛ばず。1996年にシングル「Do Anything You Say」にて名義を現在のデヴィッド・ボウイへと変更し、同年後半にDecca Recordsが新設したレーベル・Deram Recordsと契約し、12月に「Rubber Band」をリリースします。翌1967年4月には「The Laughing Gnome」を発表し、同年6月1日にシングル「Love You Till Tuesday」とともにこの1stアルバムを同時リリースすることになります。

全14曲が収録された本作は、プロデューサーにマイク・ヴァーノン(FLEETWOOD MAC、ジョン・メイオールなど)、エンジニアにガス・ダッジョ(エルトン・ジョンなど。その後の「Space Oddityのプロデューサー)を迎えて制作。全楽曲がボウイの書き下ろしで、先の3枚のシングルのうち「The Laughing Gnome」のみ未収録となります(ほか2曲に関してもシングルとは別バージョンで収録)。

さて、気になる内容ですが……60年代半ば〜後半らしいマージービートを下地にした、スウィング感の強いビートポップとフォーキーなサウンドが中心。当時のレーベル的にはボブ・ディラン的な詩人としてボウイを打ち出したかったようですが、確かにその片鱗も随所に感じられるものの、ではそれが特出した才能かと言われると、この時点では未開花と言わざるを得ません。ですが、メロディメイカーとしての才能はすでにこの時点でかなり魅力的なものがあり、続く2ndアルバム『DAVID BOWIE』(1969年)のかけらもわずかながら見つけることができるはずです。

Deram時代のボウイはシングルヒットを飛ばすこともできず、アルバムもチャートインせず。結局、同レーベルとの契約は3枚のシングルと1枚のアルバムのみで終了してしまいます。その後、ボウイがシングル「Space Oddity」でシーンへと返り咲く(当時、全英5位を記録)までに、さらに2年の歳月を要することになるわけです。

そういう作品ということもあり、1990年にEMIが着手したボウイのカタログ・リイシュー企画には(レーベルが違うということもあり)本作は含まれておらず、しばらくはボウイのキャリアからスルーされてきました。が、1997年にDecca Recordsから本作収録曲+アルバム未収録のシングル&未発表音源にて構成された企画盤『DAVID BOWIE: THE DERAM ANTHOLOGY 1966-68』がリリースされたことを機に、わずかながら再注目されるように。サブスク全盛の現代においては、ほかの代表作とあわせて楽しむことができるようになりました。良い時代になったものです。

後年、ボウイは本作制作期の楽曲を中心に再録したアルバム『TOY』に2000年頃取り掛かりますが、結局お蔵入りとなり、2021年まで日の目をみることはありませんでした。世の中的には黒歴史のような1枚になっていましたが、当の本人にとってはキャリアの(真の意味での)原点であり、技術や才能を開花させた晩年にもう一度ちゃんとした形として残したかったという思いも強かったのかもしれませんね。

 


▼DAVID BOWIE『DAVID BOWIE』
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DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980)

1980年9月12日にリリースされたデヴィッド・ボウイの14thアルバム。

実験性の強かった“ベルリン三部作”は、その音楽自体に対する評価は非常に高かったものの、セールス的には決して大成功とは言い難く、特にシングルヒットに関して言えば「Sound And Vision」の全英3位、「Boys Keep Swinging」の同7位以外はTOP10入りを逃しています(かの「"Heroes"」でさえ最高24位ですし)。そのポップ嗜好が前作『LODGER』(1979年)あたりから少しずつ復調し始め、従来の実験性をポップ感が上回り始めたのがこの『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』となります。

共同プロデューサーにはトニー・ヴィスコンティ、レコーディングにカルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった鉄壁の布陣を迎えるも、過去3作でタッグを組んだブライアン・イーノ(Synth)は今作では不参加。代わりにロバート・フリップ(G/KING CRIMSON)、ロイ・ビタン(Piano)、ピート・タウンゼント(G/THE WHO)といった豪華な布陣が名を連ね、ボウイが思い描く新たなスタイル完成の手助けをしています。

オープニングを飾る「It's No Game, Pt.1」での日本語ナレーションをフィーチャーしたアバンギャルドさに不意を突かれるも、以降は前作で試みたニューウェイヴ的手法が見事に開花。ロバート・フリップらしさ万歳のギターフレーズを随所に散りばめた「Scary Monsters (And Super Creeps)」、自身の代表曲「Space Oddity」の主人公・トム少佐は実は宇宙飛行士ではなく単なるジャンキーだったと歌う「Ashes to Ashes」、王道感の強いミディアムロック「Teenage Wildlife」など、時代とリンクした楽曲群がズラリと並びます。

この中から「Ashes to Ashes」が、シングルとしては「Space Oddity」(1975年)以来となる全英1位を獲得(セールス面でも本国で70万枚近いヒットに)。続く「Fashion」も全英5位/全米70位と好成績を残し、さらに「Scary Monsters (And Super Creeps)」(全英20位)、「Up The Hill Backwards」(同32位)とスマッシュヒットを続けます。特に本作リリース後には、QUEENとのコラボ曲「Under Pressure」(1981年)の全英1位/全米29位という話題作もあり、この良い流れを続く『LET'S DANCE』(1983年)での最盛期へとつなげていくことになります。

実験性と大衆性を天秤にかけ、大衆性を若干強目に打ち出したことで、独自の先鋭的な個性を見事に保ちながら音楽的/セールス的にも成功を手にしたボウイ。『LET'S DANCE』では大衆性に全振りして旧来のファンを不安に陥れるものの、その采配含めてデヴィッド・ボウイ。僕は『LET'S DANCE』からボウイに入った世代ですが、この頃の空気感をリアルタイムで味わってみたかったなと思わせられる1枚です。

 


▼DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』
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2023年1月 9日 (月)

2002年4月〜2003年3月発売の洋楽アルバム20選

2015年から毎年この時期に用意してきたこの成人企画。ちょうど昨年から成人年齢が18歳へと引き下げされ、現在は成人式の概念も崩れつつあります。が、この企画はこの企画として毎年やっていってはどうかと思い直し、タイトルから「祝ご成人」の文字を外し、20年前を振り返る企画として残すことにしました。

通常なら1月はじまりでカウントするところを、これまで同様4月はじまりの翌年3月終わりという年度縛りで進めるのは、ちょっと日本的なのかな。とはいえ、今さらこのフォーマットを崩すのも何かなと思い、このまま続けさせていただきます。

この1月に成人式を迎えたの皆さんが生まれた年(学年的に2002年4月〜2003年3月の期間)にリリースされた洋楽アルバムの中から、個人的思い入れが強い作品のうちSpotifyやApple Musicで試聴可能なものを20枚ピックアップする……というのが本来の趣旨。20年って結構節目にもなると思うので、改めて「ああ、自分が生まれた頃はこういうアルバムがヒットしていたのか」とか「これってもう20年前の作品なのか」とか、いろいろ浸っていただいたり驚いていただけるとうれしいです。

 

では、サブスクを通して20年前の名盤20枚をお楽しみください。

 

AVRIL LAVIGNE『LET GO』(2002年6月発売)(Spotify)(レビュー

 

BECK『SEA CHANGE』(2002年9月発売)(Spotify

 

COLDPLAY『A RUSH OF BLOOD TO THE HEAD』(2002年8月発売)(Spotify

 

EMINEM『8 MILES: MUSIC FROM AND INSPIRED BY THE MOTION PICTURE』(海外:2002年10月発売、日本:2003年4月発売)(Spotify

 

EVANESCENCE『FALLEN』(2003年3月発売)(Spotify)(レビュー

 

FOO FIGHTERS『ONE BY ONE』(2002年10月発売)(Spotify)(レビュー

 

JURASSIC 5『POWER IN NUMBERS』(2002年10月発売)(Spotify

 

KILLSWITCH ENGAGE『ALIVE OR JUST BREATHING』(2002年5月発売)(Spotify

 

THE LIBERTINES『UP THE BRACKET』(2002年10月発売)(Spotify)(レビュー

 

LINKIN PARK『METEORA』(2003年3月発売)(Spotify)(レビュー

 

MAROON 5『SONGS ABOUT JANE』(2002年6月発売)(Spotify

 

MASSIVE ATTACK『100TH WINDOW』(2003年2月発売)(Spotify)(レビュー

 

MOBY『18』(2002年5月発売)(Spotify

 

THE MUSIC『THE MUSIC』(2002年9月発売)(Spotify

 

RED HOT CHILI PEPPERS『BY THE WAY』(2002年7月発売)(Spotify)(レビュー

 

SIGUR ROS『( )』(2002年10月発売)(Spotify

 

STONE SOUR『STONE SOUR』(2002年8月発売)(Spotify)(レビュー

 

SUM 41『DOES THIS LOOK INFECTED?』(2002年11月発売)(Spotify

 

t.A.T.u.『200 KM/H IN THE WRONG LANE』(海外:2002年12月発売、日本:2003年3月発売)(Spotify)(レビュー

 

UNDERWORLD『A HUNDRED DAYS OFF』(2002年9月発売)(Spotify)(レビュー

 

このほかにも、以下の作品を候補に挙げていました。

ASIAN DUB FOUNDATION『ENEMY OF THE ENEMY』
BEN HARPER『DIAMONDS ON THE INSIDE』
BON JOVI『BOUNCE』(レビュー
BRUCE SPRINGSTEEN『THE RISING』
DAVID BOWIE『HEATHEN』(レビュー
DISTURBED『BELIEVE』(レビュー
EMINEM『THE EMINEM SHOW』
FEEDER『COMFORT IN SOUND』(レビュー
HANOI ROCKS『TWELVE SHOTS ON THE ROCKS』(レビュー
THE HELLACOPTERS『BY THE GRACE OF GOD』(レビュー
IN FLAMES『REROUTE TO REMAIN』
KING CRIMSON『THE POWER TO BELIEVE』
KORN『UNTOUCHABLES』(レビュー
MESHUGGAH『NOTHING』
OASIS『HEATHEN CHEMISTRY』(レビュー
OK GO『OK GO』
OPETH『DELIVERANCE』
PET SHOP BOYS『RELEASE』
PETER GABRIEL『UP』
PRIMAL SCREAM『EVIL HEAT』(レビュー
QUEENS OF THE STONE AGE『SONGS FOR THE DEAF』
ROYKSOPP『MELODY A.M.』
RUSH『VAPOR TRAILS』(レビュー
SPARTA『WIRETAP SCARS』(レビュー
THE USED『THE USED』(レビュー
THE VINES『HIGHLY EVOLVED』

 

DAVID BOWIE『LODGER』(1979)

1979年5月18日にリリースされたデヴィッド・ボウイの13thアルバム。当時の邦題は『ロジャー(間借人)』。

『LOW』(1977年)『"HEROES"』(1977年)と続いた“ベルリン三部作”の最終作。ただし、レコーディング自体はスイス・モントルーで行われており、制作にトニー・ヴィスコンティ(プロデュース)やブライアン・イーノ(Synth)らが参加していることから三部作のひとつと捉えられています。

レコーディングにはこのほか、カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と過去2作の布陣に加え、エイドリアン・ブリュー(G/のちのKING CRIMSONに加入)、ロジャー・パウエル(Synth/当時UTOPIA)、サイモン・ハウス(Mandolin, Violin/当時HAWKWIND)が参加。作風的には『"HEROES"』の流れを汲むエモーショナルでソウルフルなロックサウンドと、ニューウェイヴにも通ずる多国籍感の強いポップチューンで構成された、過去2作とも若干異なる世界観が展開されています。

前作の延長線上にある「Fantastic Voyage」からスタートする本作は、アフリカンミュージック的ビートとコーラスワークを取り入れた「African Night Flight」、レゲエテイストと東欧的エキゾチックさを包括する「Yassassin」、浮遊感の強いプラスティックソウル「D.J.」など、かつてないほどのバラエティ豊かさを見せます。こういった作風が当時勃発し始めていたニューウェイヴ=アフター・パンクとも自然と重なり、改めてボウイがやろうとしていたことが時代と呼応していたという事実に驚かされることになります。

その後もパワフルさとエモーショナルさに満ち溢れた「Look Back In Anger」、80年代のスタイルとも重なる「Boys Keep Swinging」、イギー・ポップに提供した「Sister Midnight」(アルバム『THE IDIOT』収録)の別バージョン「Red Money」など、統一感よりも拡散方向を意識した楽曲が続きます。ジャーマンロック/クラウトロックにワールドミュージックを掛け合わせることで、さらに新たなジャンルを作り上げようとする攻めの姿勢は過去2作同様。ただ、その実験的な側面がより大衆性なものへとシフトし始めている印象も少なからず見受けられます。

そういった考えが、続く『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980年)へとつながっていくのかなと考えると、実は“ベルリン三部作”のピークは2作目『"HEROES"』であり、すでにこの『LODGER』は次のステップへの過渡期に突入していたんだと気付かされます。本当にここまでのボウイの試行錯誤の繰り返しは、聴いていて面白くてたまりませんね。

 


▼DAVID BOWIE『LODGER』
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2023年1月 8日 (日)

DAVID BOWIE『"HEROES"』(1977)

1977年10月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの12thアルバム。当時の邦題は『英雄夢語り(ヒーローズ)』。

前作『LOW』(1977年)からそれほど間を置かずに制作/リリースされたこともあり、テイストや作風は『LOW』を踏襲したもの。プロデュースもトニー・ヴィスコンティが携わり、レコーディングもブライアン・イーノ(Synth)やカルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と前作と同じ布陣で臨んでいますが、ここに元KING CRIMSON(当時)のロバート・フリップ(G)が加わることで、より個性的なサウンドを生み出すことに成功しています。

歌モノ中心の前半(アナログA面)、実験的なインスト中心の後半(アナログB面)という構成は前作同様ですが、前作よりもロック色が強まっているのが今作の特徴か。また、前作の楽曲が『STATION TO STATION』(1976年)から引き継ぐヒンヤリ感でまとめられていたのに対し、今作は70年代前半のボウイが持っていたエモーショナルさが復調しており、実験性やアバンギャルドさを上回る王道感を高めることに成功しています。

特に前半パートはタイトルトラック「"Heroes"」をハイライトに、「Beauty And The Beast」「Joe The Lion」など、近作で会得したスタイルをより良い形に昇華。「"Heroes"」に関しては、ロバート・フリップのギターがいい味を出しており、楽曲自体がもつアンセム感をより強調させています。

一方で、アルバム後半は前作における「Speed Of Life」にあたる「V-2 Schneider」を導入に、続く「Sense Of Doubt」でより深みのあるダークなサウンドを展開。ジャーマンプログレ/テクノの影響下にあるダウナーなアレンジは、前半のエモさと対極にあり、この対比/緩急含め聴き応えのある構成を作り上げています。

そして、アルバムラストを歌モノ「The Secret Life Of Arabia」で締めくくるのもなお良し。実験性の強いインストのみで固めるのではなく、最後に再びセクシーなボーカルなナンバーを置くからこそ、単に「前半/後半と色の違うアルバム」だけでは終わらなかった。そこを含め、トータルバランスに優れた1枚ではないでしょうか。『LOW』と甲乙つけ難い完成度の傑作です。

 


▼DAVID BOWIE『"HEROES"』
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DAVID BOWIE『LOW』(1977)

1977年1月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの11thアルバム。

『YOUNG AMERICANS』(1975年)『STATION TO STATION』(1976年)と立て続けにアメリカでアルバム制作を続けたボウイは、この頃ドラッグまみれで心身ともに疲弊状態。ここから抜け出そうとベルリンへと身を移し、プロデューサーに盟友トニー・ヴィスコンティを迎えて新たな創作活動を開始します。

レコーディングにはROXY MUSICの初期メンバーであるブライアン・イーノ(Key)が全面的に参加。また、カルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった前作からの面々もベルリンまで飛び、さらには当時ボウイとの交流が復活し始めていたイギー・ポップもコーラスで加わっています。ここでの共演は、のちのイギーのアルバム『IDIOT』(1977年)や『LUST FOR LIFE』(1977年)まで続いていくことになります。

のちに“ベルリン三部作”と呼ばれる連作の第1弾となる今作は、前作『STATION TO STATION』でもその片鱗を見せ始めていたKRAFTWERKなど実験的なジャーマンロックからの影響が表出。アナログA面にあたる冒頭7曲のうち5曲(M-2「Breaking Glass」からM-6「Be My Wife」)が歌モノ楽曲で、アナログB面(M-8「Warszawa」以降)がインストゥルメンタルナンバー中心という異色の構成となっています。特に、「Warszawa」以降の4曲は前衛的なエレクトロニック/アンビエントミュージックを独自の解釈で表現しており、ブライアン・イーノから受けた影響がより濃く表れたスタイルと言えるでしょう。

一方、歌モノ楽曲で表現されるのは、『STATION TO STATION』で試みた独自のホワイトファンク/プラスティックソウルをよりヨーロピアンテイストで進化させたものばかり。イーノらしい電子音が随所に加わることで、その良い意味でのノイジーさが心地よく感じられ、『YOUNG AMERICANS』から、いやもっと言えば『DIAMOND DOGS』からの試行錯誤がようやく結実したと言っても過言ではありません。

母国イギリスではパンクロックが新たなムーブメントを生み出そうとする中、喧騒から離れベルリンで新たな形を完成させたボウイ。一見別々の道を歩んでいるように映りますが、ここで生み出した方向性がのちのニューウェイヴで交差することになるのですから、なんとも面白いものです。

 


▼DAVID BOWIE『LOW』
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2023年1月 7日 (土)

DAVID BOWIE『STATION TO STATION』(1976)

1976年1月23日にリリースされたデヴィッド・ボウイの10thアルバム。

前作『YOUNG AMERICANS』(1975年)でブラックミュージックからの影響をストレートに表現したボウイでしたが、改めて「白人の自分がブラックミュージックを表現すること」と真摯に向き合い始めます。その結果、ストレートにブラックミュージックを演奏するのではなく、ヨーロッパ人である自分の感性を通過させることが今作のテーマへとつながっていきます。

前作の制作にも携わったハリー・マスリンを共同プロデューサーに、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)、ロイ・ビタン(Key)といった名うてのセッションミュージシャンをレコーディングに迎えてLAにて制作。その結果、ヨーロッパ特有の翳りやひんやりとした空気感を孕んだ独自のソウルミュージックを構築することに成功しています。

オープニングを飾るタイトルトラック「Station To Station」は10分以上におよぶ、プログレッシヴな大作。文字通りのプログロックというよりは初期KRAFTWERKにも通ずるテイストが感じられ、続く『LOW』(1977年)以降に取り組む電子音楽への片鱗も見え隠れします。まさにこの1曲に本作のすべてが集約されてる……というのは過言でしょうか。そういった意味では、『YOUNG AMERICANS』と『LOW』をつなぐ過渡期的1枚なのかもしれません。

もちろん、前作の延長線上にある「Golden Years」のような曲もあるし、その流れを汲みつつ次作以降の香りを漂わせる「TVC15」や「Stay」みたいな曲もある。さらに、80年代以降のアダルト路線を先取りしたような「Wild Is The Wind」(ニーナ・シナモンのカバーでお馴染みの1曲)まで存在し、一定のトーンを保ちながらも実は意外といろんなことにトライしているという、非常に面白い1枚だったりします。

自身が“プラスティックソウル”と呼んだ『YOUNG AMERICANS』がどこかユルさを孕んだ“迷い”の1枚だとしたら、その“迷い”がひとつのスタイルへと結実していく予兆を示したのがこの『STATION TO STATION』だったのかな。そういった意味では、実は70年代の諸作品においてもっとも重要なアルバムかもしれません。

 


▼DAVID BOWIE『STATION TO STATION』
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2023年1月 6日 (金)

DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』(1975)

1975年3月7日にリリースされたデヴィッド・ボウイの9thアルバム。

前作『DIAMOND DOGS』(1974年)でグラムロック期からなんとか抜け出そうと踠き続けたボウイ。同作を携えたツアーでもその兆候は見受けられ、ツアー後半ではソウルミュージックに接近したサウンド/パフォーマンスを見せ始めます。そこに活路を見つけたのか、次作のレコーディングをフィラデルフィア・ソウルの本拠地といえるSigma Sound Studiosにて実施。プロデューサーには盟友トニー・ヴィスコンティを迎え、カルロス・アロマー(G)やアール・スリック(G)、ウィリー・ウィークス(B)、アンディ・ニューマーク(Dr/SLY AND THE FAMILY STONEなど)、マイク・ガーソン(Key)、デヴィッド・サンボーン(Sax)といった名手たちのほか、ジョン・レノン(G, Vo)やルーサー・ヴァンドロス(Vo)など豪華ゲストも参加した、非常にゴージャスな“プラスティック”ソウルアルバムに仕上がっています(「プラスティックソウル」という呼称は、ボウイ自身の発言より)。

タイトルトラック「Young Americans」の緩やかさに度肝を抜かれるオープニングから、ボウイのセクシーな低音が見事に活かされたソウルバラード「Win」、分厚いコーラスがカッコいいルーサー・ヴァンドロスとの共作「Fascination」、楽曲自体は従来のボウイらしさに満ち溢れているのにアレンジによってユルユルのソウルチューンへと生まれ変わった「Right」と、グラムロックのグの字すら見つけられないその内容は、衝撃以外の何ものでもありません。初めてアルバムを通して聴いたときの驚き、今でもよく覚えています。

ただ、80年代の「Let's Dance」がリアルタイム組の筆者にとっては、驚きと同時に納得できるものも正直あったわけで。70年代半ばのリアルタム組とは違った驚きだったことだけは、しっかり付け加えておきます。そりゃあ、バリバリのグラムロックが数枚続いたあとにいきなりこれを聴かされたら、驚かないほうが不思議でしょ。

ロック中心の時代と比べて全体的にテンポダウンした楽曲が多いこともあってか、1曲1曲の尺が長いのも本作の特徴。全体的に5分前後の楽曲中心で、「Somebody Up There Likes Me」に至っては6分半。なもんだから全8曲で40分という、それまでの彼のアルバムの中では曲数の少なさが特徴的です。

その「Somebody Up There Likes Me」から始まるアルバム後半、続く「Across The Universe」はお馴染みジョン・レノンによるTHE BEATLES時代の名曲。これをバンドアレンジでソウルフルに歌い上げるという荒技は、「Fame」の制作にジョンが協力してくれたことに対するお礼もあるのでしょうか。原曲の印象が強いこともあり、最初は違和感バリバリでしたが、これはこれで良いんじゃないかな。で、同じテンポ感の「Can You Hear Me」を経て、最後は自身初の全米1位を獲得したファンクチューン「Fame」で締めくくり。宮沢りえのカバーでもお馴染みの1曲です。実は筆者、最初にこの曲に触れたのは1990年のリメイクバージョンからだったので、当初はこの曲の魅力に気付けずにいました。なので、あとからオリジナルバージョンを聴いてそのカッコよさを再認識した次第です。

ここで会得したスタイルが、その後の『LET'S DANCE』(1983年)へとつながっていくことを考えると、一見気の迷いのように見えるこの経験も非常に重要だったことが理解できるはず。若干のユルさは気になりますが、忘れた頃に聴きたくなる1枚でもあります。

 


▼DAVID BOWIE『YOUNG AMERICANS』
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2023年1月 5日 (木)

TMQ-WEB: 2022年の年間アクセスランキングTOP50

このエントリーでは2022年1月1日から同年12月31日までの1年間における、アクセス上位50エントリーを紹介します。内訳はトップページやアーティスト別カテゴリーへのアクセスなどを省いた上位50エントリーです。今回は過去記事すべてを集計した総合ランキングと、2022年リリースの新譜レビュー記事に限定した上位50エントリーの2つを紹介。まだ読んでいない記事などありましたら、この機会に読んでいただけたら幸いです。

まずは、2022年リリースの新譜レビュー記事に限定した上位50エントリーからです。

 

■2022年 年間アクセスランキングTOP50(2022年リリース作品限定)

1位:BRYAN ADAMS『CLASSIC』(※2022年4月10日更新)

2位:THE WiLDHEARTS『PHUQ (DELUXE)』(※2022年2月14日更新)

3位:CLASSLESS ACT『WELCOME TO THE SHOW』(※2022年6月29日更新)

4位:BRYAN ADAMS『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』(※2022年3月11日更新)

5位:IBARAKI『RASHOMON』(※2022年5月11日更新)

6位:THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(※2022年4月2日更新)

7位:ARCH ENEMY『DECEIVERS』(※2022年8月12日更新)

8位:BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』(※2022年3月17日更新)

9位:DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(※2022年5月28日更新)

10位:BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』(※2022年3月12日更新)

 

11位:KORN『REQUIEM』(※2022年2月5日更新)

12位:BRYAN ADAMS『CLASSIC PT.II』(※2022年7月31日更新)

13位:GHOST『IMPERA』(※2022年3月13日更新)

14位:WHITESNAKE『GREATEST HITS 2022 - REVISITED - REMIXED - REMASTERED -』(※2022年5月15日更新)

15位:RED HOT CHILI PEPPERS『UNLIMITED LOVE』(※2022年4月3日更新)

16位:MANIC STREET PREACHERS『SLEEP NEXT TO PLASTIC』(※2022年7月22日更新)

17位:KIRK HAMMETT『PORTALS』(※2022年4月23日更新)

18位:PAUL DRAPER『CULT LEADER TACTICS』(※2022年2月27日更新)

19位:ANNIHILATOR『METAL II』(※2022年3月4日更新)

20位:SLIPKNOT『THE END, SO FAR』(※2022年10月7日更新)

 

21位:NICKELBACK『GET ROLLIN'』(※2022年11月23日更新)

22位:SCORPIONS『ROCK BELIEVER』(※2022年3月1日更新)

23位:MICHAEL MONROE『I LIVE TOO FAST TO DIE YOUNG!』(※2022年6月11日更新)

24位:METALLICA『LUX ÆTERNA』(※2022年11月29日更新)

25位:ANDY McCOY『JUKEBOX JUNKIE』(※2022年8月11日更新)

26位:AEROSMITH『1971: THE ROAD STARTS HEAR』(※2022年4月11日更新)

27位:ANTHRAX『XL』(※2022年7月20日更新)

28位:SLASH FEATURING MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS『4』(※2022年2月12日更新)

29位:VOIVOD『SYNCHRO ANARCHY』(※2022年2月19日更新)

30位:THE BLACK CROWES『1972』(※2022年6月13日更新)

 

31位:BLOODYWOOD『RAKSHAK』(※2022年2月22日更新)

32位:DERAPS『DERAPS』(※2022年7月7日更新)

33位:THUNDER『DOPAMINE』(※2022年5月2日更新)

34位:AVRIL LAVIGNE『LOVE SUX』(※2022年3月7日更新)

35位:BAD OMENS『THE DEATH OF PEACE OF MIND』(※2022年3月6日更新)

36位:SOULFLY『TOTEM』(※2022年8月7日更新)

37位:NAPALM DEATH『RESENTMENT IS ALWAYS SEISMIC - A FINAL THROW OF THROES』(※2022年3月5日更新)

38位:COREY TAYLOR『CMFB...SIDES』(※2022年3月20日更新)

39位:✝✝✝ (CROSSES)『INITIATION / PROTECTION』(※2022年4月17日更新)

40位:MESHUGGAH『IMMUTABLE』(※2022年4月15日更新)

 

41位:SKILLS『DIFFERENT WORLDS』(※2022年5月20日更新)

42位:ZEAL & ARDOR『ZEAL & ARDOR』(※2022年2月15日更新)

43位:GUNS N' ROSES『USE YOUR ILLUSION: SUPER DELUXE EDITION』(※2022年11月21日更新)

44位:GUNS N' ROSES『USE YOUR ILLUSION I: DELUXE EDITION』(※2022年11月22日更新)

45位:HARDCORE SUPERSTAR『ABRAKADABRA』(※2022年5月4日更新)

46位:MACHINE GUN KELLY『MAINSTREAM SELLOUT』(※2022年4月3日更新)

47位:JAMES LABRIE『BEAUTIFUL SHADE OF GREY』(※2022年5月24日更新)

48位:KISS『OFF THE SOUNDBOARD: LIVE IN VIRGINIA BEACH 2004』(※2022年3月14日更新)

49位:BRING ME THE HORIZON『sTraNgeRs』(※2022年7月9日更新)

50位:LAMB OF GOD『WAKE UP DEAD (feat. DAVE MUSTAINE)』(※2022年4月5日更新)

 

1位、2位は3位以下と比べて、アクセス数が段違いでした。これは2021年度同様の傾向ですが、大きな違いは2021年度がアーティスト経由でアクセス急増したのに対し、2022年度は海外からのアクセスが集まったこと。特にフィジカルリリースなしで新譜より注目を集めたブライアン・アダムスの再録ベストと、日本盤リリースなし/サブスク配信なしのTHE WiLDHEARTS再構成盤と、情報が少ないアイテムに対してネットを彷徨った結果ここにたどり着いた結果がこれなのかなと解釈しています。自分でも同じこと、絶対にするものな。

そういった意味では、3位のCLASSLESS ACTに関しても同様かな。日本では知名度が低いものの、欧米ではMOTLEY CRUEとDEF LEPPARDのスタジアムツアーのオープニングアクトに抜擢されたわけですから。海外では事務所、レーベルが一緒ということもあり、MOTLEYの秘蔵っ子の印象も強いですしね。

続いて、総合ランキングを紹介します。ちなみに記事タイトルの後ろにある「(※XXXX年XX月XX日更新/↑●位)」の表記は、「更新日/2021年 年間アクセスランキング順位」を表しています。

 

■2022年 年間アクセスランキングTOP50(全期間)

1位:BRYAN ADAMS『CLASSIC』(※2022年4月10日更新/NEW!)

2位:THE WiLDHEARTS『PHUQ (DELUXE)』(※2022年2月14日更新/NEW!)

3位:NAILBOMB『POINT BLANK』(1994)(※2018年5月12日更新/↓1位)

4位:ブライアン・アダムスのベストアルバムを総括する(2022年版)(※2022年3月12日更新/NEW!)

5位:NINE INCH NAILS『BROKEN』(1992)(※2018年10月5日更新/↑8位)

6位:KISS THE FAREWELL TOUR JAPAN 2001@東京ドーム(2001年3月13日)(※2001年3月25日更新/↓2位)

7位:涙がこぼれそう(追悼、アベフトシ)(※2009年7月23日更新/↑26位)

8位:Cocco@日本武道館(2000年10月6日)(※2000年10月8日更新/↑35位)

9位:SLY『SLY』(1994)(※2020年6月11日更新/Re)

10位:PRIDE & GLORY『PRIDE & GLORY』(1994)(※2017年5月10日更新/↓9位)

 

11位:MR.CHILDREN TOUR '99 "DISCOVERY" @国立代々木競技場第一体育館(1999年5月5日)(※1999年5月9日更新/Re)

12位:PENPALS解散に寄せて/PENPALS『RIGHT NOW』(1999)(※2005年10月21日更新/↑20位)

13位:CLASSLESS ACT『WELCOME TO THE SHOW』(※2022年6月29日更新/NEW!)

14位:BLUR『THE GREAT ESCAPE』(1995)(※2021年3月27日更新/↑39位)

15位:BRING ME THE HORIZON『Music to listen (中略) to-GO TO』(2019)(※2019年12月31日更新/↓10位)

16位:DEMOLITION 23.『DEMOLITION 23.』(1994)(※2017年4月11日更新/Re)

17位:MEGADETH『THE SYSTEM HAS FAILED』(2004)(※2015年10月 6日更新/Re)

18位:MR. BIG『HEY MAN』(1996)(※2017年5月29日更新/Re)

19位:PRIMAL SCREAM『XTRMNTR』(2000)(※2019年9月4日更新/Re)

20位:VAN HALEN『5150』(1986)(※2004年3月24日更新/Re)

 

21位:AEROSMITHのベストアルバムを総括する(2022年版)(※2022年4月12日更新/NEW!)

22位:BUCK-TICK : THE DAY IN QUESTION 2003@日本武道館(2003年12月29日)(※2003年12月30日更新/Re)

23位:BRYAN ADAMS『WAKING UP THE NEIGHBOURS』(1991)(※2016年12月16日更新/↓17位)

24位:AVENGED SEVENFOLD『DIAMONDS IN THE ROUGH』(2020)(※2020年2月8日更新/↓5位)

25位:元METAL CHURCHのデヴィッド・ウェイン、死去。(※2005年5月13日更新/↓7位)

26位:PRINCE『BATMAN』(1989)(※2019年2月13日更新/↓11位)

27位:SUEDE『DOG MAN STAR』(1994)(※2019年6月7日更新更新/↑37位)

28位:BRYAN ADAMS『PRETTY WOMAN: THE MUSICAL』(※2022年3月11日更新/NEW!)

29位:IBARAKI『RASHOMON』(※2022年5月11日更新/NEW!)

30位:THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(※2022年4月2日更新/NEW!)

 

31位:「Hello! Project 2003 Winter ~楽しんじゃってます~」@横浜アリーナ(2003年1月26日 朝公演)(※2003年2月2日更新/Re)

32位:VAI『SEX & RELIGION』(1993)(※2020年4月22日更新/Re)

33位:2021年総括(※2022年1月1日更新/NEW!)

34位:OASIS JAPAN TOUR 2000@横浜アリーナ(2000年3月5日)(※2000年3月10日更新/Re)

35位:GUNS N' ROSES『USE YOUR ILLUSION I』(1991)(※2017年1月19日更新/Re)

36位:UFO『WALK ON WATER』(1995)(※2017年8月10日更新/↓22位)

37位:FAITH NO MORE『ANGEL DUST』(1992)(※2017年7月11日更新/↓36位)

38位:Theピーズ『どこへも帰らない』(1996)(※2003年2月5日更新/Re)

39位:POISON『NATIVE TONGUE』(1993)(※2017年6月22日更新/Re)

40位:ARCH ENEMY『DECEIVERS』(※2022年8月12日更新/NEW!)

 

41位:HANOI ROCKS『ALL THOSE WASTED YEARS』(1984)(※2017年4月17日更新/Re)

42位:エレファントカシマシ@渋谷公会堂(2002年5月30日)(※2002年6月29日更新/↓21位)

43位:BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』(※2022年3月17日更新/NEW!)

44位:DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(※2022年5月28日更新/NEW!)

45位:SKID ROW『SUBHUMAN RACE』(1995)(※2017年2月18日更新/Re)

46位:BRYAN ADAMS『SO HAPPY IT HURTS』(※2022年3月12日更新/NEW!)

47位:CRY OF LOVE『BROTHER』(1993)(※2019年6月19日更新/↓28位)

48位:AEROSMITH『BIG ONES』(1994)(※2016年12月20日更新/Re)

49位:KORN『REQUIEM』(※2022年2月5日更新/NEW!)

50位:BRYAN ADAMS『CLASSIC PT.II』(※2022年7月31日更新/NEW!)

 

1位、2位に関しては2022年度の新譜アクセスランキングと一緒。例年は旧譜カタログへのアクセスが安定して高めに出ているので、改めて昨年発売の2作品に対する検索の多さに気づかされます。で、2年連続年間アクセス1位を記録したNAILBOMB『POINT BLANK』は3位に転落。ただ、毎年安定したアクセスがあるので、同作に対する情報の少なさなども影響しているのでしょうか。

残りは2021年度から引き続きの旧譜カタログと2022年発売の新譜が中心。ただ、カタログ関係にも変化が表れ初めており、昨年リイシューされたDEMOLITION 23.のアルバムが上位入りしたこと、MR. BIGやPRIMAL SCREAM、VAN HALENの旧譜も伸びていることが意外でした。そのほか、昨年周年で大きめのライブやツアーがあった Mr.ChildrenやBUCK-TICKの古いライブレポート(ミスチルに関しては1999年のもの)に再び注目が集まったのも、興味深かったです。アーカイブとして記録を残しておいてよかった。

実は2023年12月で前身の『とみぃの宮殿』開設から25周年を迎えるようです(苦笑)。間に休んだ期間があったとはいえ、こんな駄文ばかりのサイトが25年近くも続けてこられたことに、自分のことながら改めて驚かされます。今後もモチベーションが続く限り、ネットの海に何らかの記憶と記録を残していけるよう、ちまちま続けていきたいと思います。

DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』(1974)

1974年5月24日にリリースされたデヴィッド・ボウイの8thアルバム。初出時の邦題は『ダイアモンドの犬』。

『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)『ALADDIN SANE』(1973年)で架空のロックスター“ジギー・スターダスト”を演じ続けたボウイは、強く根付いてしまったイメージから脱却するために1973年7月3日、イギリスでの最終公演にて“引退”を宣言。カバーアルバム『PIN UPS』(1974年)でティーンエイジャーの頃の気持ちを取り戻しつつ、次に向けたステップの一環としてバックバンドTHE SPIDERS FROM MARSを解散させます。

そうした流れの中で出会ったジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』に感銘を受けたボウイは、同作からインスパイアされたアルバム制作に取り掛かります。しかし、オーウェルの遺族から『1984年』を使った作品作りを拒否されることに。同じ頃にウィリアム・バロウズが一躍有名にした“カットアップ”手法(ひとつの文章を切り刻み、ランダムに並べ直して新たな文章を作り上げる技法)を用いた作詞術に興味を持ち、新作に取り入れることに。結果として『1984年』とは異なる、「半人半獣の主人公が退廃した未来を予言する」という新たなコンセプトを立ち上げ、『DIAMOND DOGS』というアルバムを完成させます。

ボウイ自身がプロデュースを手がけ、ストリングスのみ旧友トニー・ヴィスコンティが担当。レコーディングではボウイ自身が大半のギターを演奏し、マイク・ガーソン(Key)やエインズレー・ダンバー(Dr)といった前作からのメンバーやハービー・フラワーズ(B)、トニー・ニューマン(Dr)、アラン・パーカー(G/「1984」のみ)、アール・スリック(「Rock'N Roll With Me」のみ)といった面々が脇を固めます。

音楽的には「Diamond Dogs」や「Rebel Rebel」などを筆頭に、グラマラスなロックンロールが中心。過去2枚のオリジナルアルバムの延長線上にある1枚と言えるでしょう。しかし、先にも書いたように作詞の手法が変わったことにより、言葉から受けるイメージに変化が生じていたり、オープニングのSE的トラック「Future Legend」からM-6「Rebel Rebel」まで続くコンセプチュアルな作風などもあり、単なるグラムロックとは異なる印象を受けます。

後半もその作風は踏襲されているのですが、徐々にダークさや穏やかさが強まっていきまず。そんな中、ファンキーなギターストロークとストリングスを大々的にフィーチャーしたスリリングな「1984」(あれ、しっかり使っちゃってるし。笑)や「Big Brother」など、ソウルフィーリングが強まった楽曲も見つけることができ、ボウイなっりに試行錯誤していることも伺えます。

アルバムとしてのインパクトは過去2作には及ばず、やはり過渡期という印象は拭えませんが、本作が続く『YOUNG AMERICANS』(1975年)で迎える新たな変革期への序章になるとは、リリース当時は誰も予想できなかったのではないでしょうか。

 


▼DAVID BOWIE『DIAMOND DOGS』
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2023年1月 4日 (水)

DAVID BOWIE『PIN UPS』(1973)

1973年10月19日にリリースされたデヴィッド・ボウイの7thアルバム。

『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)『ALADDIN SANE』(1973年)の成功でグラムロックスターのイメージが強く付きまとうようになったボウイが、原点回帰を目指して制作した全編カバー曲による1枚。ボウイの生前発表されたアルバムの中では、唯一のカバーアルバムとなります。

プロデュースは『HUNKY DORY』(1971年)以降のアルバムを手がけるケン・スコットが担当。レコーディングはボウイのレコーディングやツアーを支えるTHE SPIDERS FROM MARSの面々が担当するのですが、ドラマーがウッディー・ウッドマンジーからエインズレー・ダンバー(のちにJOURNEYWHITESNAKEに参加)に交代しています。また、ボウイの右腕であるミック・ロンソン(G)は本作を最後にボウイのもとを離れることになります。

取り上げられたカバー曲はすべて60年代のもので、PRETTY THINGSやTHEM、THE YARDBIRDS、PINK FLOYD、THE MOJOS、THE WHO、THE EASYBEATS、THE MERSEYS、THE KINKSと今となってはロッククラシックの教科書的面々の楽曲ばかり。PRETTY THINGS、THE YARDBIRDS、THE WHOのみ2曲ずつ取り上げられており、こういった楽曲群が当時のボウイサウンドにリアレンジされています。

前作『ALADDIN SANE』にTHE ROLLING STONESのヒット曲「Let's Spend The Night Together」のパンキッシュなカバーが収録されていましたが、今思うとあそこからすべては始まっていたのかもしれませんね。「Don't Bring Me Down」やのちにゲイリー・ムーアーがカバーする「Friday On My Mind」あたりは、その流れを汲むテイストですし。ただ、全体的にその方向性かというと、すべてがそうというわけではありません。

もちろん、全体的に当時のボウイらしいロックスタイルが展開されていますが、そこに彼ならではの工夫も見え隠れする。例えばTHE WHOの「I Can't Explain」なんてスローテンポにアレンジされ、サックスを加えることでグラマラスさが増幅されている。その一方で、シド・バレット時代の名曲であるPINK FLOYD「See Emily Play」はサイケデリック&アバンギャルド感が増しており、70年代後半の彼の活動につながっている。その一方で、初期のアーシーなテイストと印象が重なる「Sorrow」のような楽曲もあり、ここを起点にいろいろなボウイのスタイルへと分岐していく、その根っこのような1枚なのかなという気がしています。そういう意味では、原点回帰という目標を果たしつつ、次へ進むための過渡期的な役割も果たす1枚でもあったのかな。

ここで一度ガス抜きを経験し、ジョージ・オーウェル『1984年』やウィリアム・バロウズとの出会いを経ることで、続く『DIAMOND DOGS』(1974年)へとつながっていくわけですが、そこからさらに劇的な変化を果たすことになるとは、まさかこの頃は誰も想像できなかったでしょうね。

 


▼DAVID BOWIE『PIN UPS』
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2022年総括

仕事始めのタイミングになりましたので、例年より数日遅いですが2022年のまとめ記事をアップしておきます。

昨年は「アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、20作品に縛る」形でまとめ、別途「HR/HM、ラウド編」で別エントリーを作っていましたが、今年はもうそういう枠を全部取っ払って(ジャンル分け面倒くさい)ひとつのエントリーに包括し、「ジャンル/アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、30作品に縛る」という形にさせていただきました。これなら一般総括の20作品の中からあえてメタル系を外したり入れたりと悩まなくて済むしね。

というわけで特に順位付けをせずアルファベット→50音順で30作品、掲載していきます。

 

Afterglow『独創収差』(楽曲)

 

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(アルバム/レビュー

 

asmi「PAKU」(楽曲)

 

DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(アルバム/レビュー

 

Foi『HER』(アルバム)

 

GREYHAVEN『THE BRIGHT AND BEAUTIFUL WORLD』(アルバム/レビュー

 

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(アルバム/レビュー

 

Ho99o9『SKIN』(アルバム/レビュー

 

IBARAKI『RASHOMON』(アルバム/レビュー

 

ITHACA『THEY FEAR US』(アルバム/レビュー

 

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2023年1月 3日 (火)

a-ha『TRUE NORTH』(2022)

2022年10月21日にリリースされたa-haの11thアルバム。日本盤は同年10月26日発売。

2014年に再々結成を果たしたa-haの、前作『CAST IN STEEL』(2015年)から7年ぶりの新作。新たにソニー系列のRCA Recordsと契約しての1作目にあたり、本国ノルウェーで最高3位、イギリスでは12位とそれなりの成功を収めています。

ここ日本では昨年5月にドキュメンタリー映画『a-ha THE MOVIE』が公開され、再注目を集めるきっかけを作ることに成功。コロナさえなければ1stアルバム『HUNTING HIGH AND LOW』(1985年)を再現する来日公演も実現していたはずなのですが、そこだけはどうにもなりませんでした。

ただ、そうしたコロナの喧騒下において、ノルウェーのオーケストラ・Arctic Philharmonicとの全面的コラボレーションによるレコーディングが実現。a-haというバンドが持つ繊細でおおらかなサウンド/メロディがオーケストラとの共演により、さらに端的に表れた良質なポップアルバムを完成させるに至りました。

80年代に青春時代を過ごし、「Take On Me」のイメージを強く持つ浅いリスナーにとっては「a-ha=エレポップ」の印象しかないのかもしれません。しかし、彼らの本質は「Hunting High And Low」や「Manhattan Skyline」「Stay On These Roads」に代表される、壮大で美しくメロディアスな楽曲にあると個人的には思っており、近年の作品はその側面を強く打ち出した極上のポップソングを増産している印象がありました。それこそ、『MTV UNPLUGGED: SUMMER SOLSTICE』(2017年)はそのテイストが抜群の形で発揮された良作だと捉えています。

そんなわけですから、オーケストラとのコラボレーションで生み出された本作。悪いわけがありません。オープニングを飾る「I'm In」からして派手さは皆無ですが、その穏やかな空気の中にも起伏に富んだメロディがしっかり存在し、独特のうねりを生み出している。また、随所にエレクトロの味付けも散りばめられており、タイトルトラック「True North」のように生音とエレクトロが抜群のバランスで混在している良曲も存在する。テンポ感的には終始穏やかさが保たれているものの、その中で機微な波もしっかり感じられる。特に、アルバム後半に進むにつれて「Bumblebee」や「Forest For The Trees」などのドラマチックな楽曲、「Make Me Understand」をはじめとする往年のエレポップテイストが若干感じられる曲も用意されており、最後まで飽きさせない構成となっています。

全体的に地味めで派手な要素は皆無。もはや彼らにそういった要素を求めることはありませんが、ポップ職人らしい徹底的に作り込まれた良質なアルバムは文句なしの1枚ではないでしょうか。

 


▼a-ha『TRUE NORTH』
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2023年1月 2日 (月)

DURAN DURAN『BIG THING』(1988)

1988年10月18日にリリースされたDURAN DURANの5thアルバム。日本盤は同年10月16日発売。

ロジャー・テイラー(Dr)、アイディ・テイラー(G)が相次いで脱退し、サイモン・ル・ボン(Vo)、ジョン・テイラー(B)、ニック・ローズ(Key)の3人体制で発表した前作『NOTORIOUS』(1986年)から約2年ぶりの新作。ナイル・ロジャース(マドンナデヴィッド・ボウイミック・ジャガーなど)を全面的に起用してファンクロックに接近した前作から一転、今作では初期のシンセポップに当時流行していたハウスミュージックのテイストをミックスしたモダンな作風へとシフトしています。

もともとニューウェイヴの流れからハウスへと移行するアーティストは当時少なくなかったですし、彼らもその流行に沿ったと捉えるのが正しいのかもしれません。が、流行りとはいえこのテイストが彼らの下世話なポップ感と妙にマッチし、結果として「I Don't Want Your Love」(全米4位/全英14位)や「All She Wants Is」(全米22位/全英9位)というヒットにつなげることに成功しています。アルバム自体も全米24位(ゴールドディスク獲得)、全英15位とそれなりの数字を残しますが、セールス的には若干落とす結果に。ただ、日本では初の東京ドーム公演を実現させ、人気的には黄金期終盤に差し掛かることになります。

固定ドラマーがいないからこそ、すべての曲で生ドラムを使用する必要がないわけですが、レコーディングでは生ドラムと打ち込みをうまいことミックスすることで人工的な味わいを強めている。スティーヴ・フェローンやスターリング・キャンベルといったドラマーをレコーディングに迎え、ギタリストに関してはフランク・ザッパ門下生のウォーレン・ククロロを中心に、一部楽曲でチェスター・ケイメンもプレイ。このレコーディングでの手応えもあって、本作収録曲のMVにはウォーレンが参加し、のちにスターリングとともにバンドの正式メンバーとして迎えられます。

スタジアムロック調のヘヴィなミドルナンバー「Big Thing」からスタートするオープニングは、過去の彼らのアルバムからすると異色に聞こえますが、「I Don't Want Your Love」「All She Wants Is」といったポップな楽曲、穏やかなソウルチューン「Too Late Marlene」、前作の流れを汲むファンキーな「Drug (It's Just A State Of Mind)」が続くことで、従来のリスナーを安心させます。ハウス風味が強いこともあってか、比較的地味めだった前作をさらに渋くさせたテイストは、初期の派手な路線とは相反するものかもしれません。事実、リリース当時はその内容から否定的な声も少なくなかったですしね。

90年代の彼らにも通ずるダーク&ムーディな「Do You Believe In Shame?」(全米72位/全英30位)から始まる後半は、続く「Palomino」でさらにダークなムードを強めていきます。そして2つのインタールードに挟まれた6分調の「Land」もその傾向は強く、本作が地味と評される所以を強めていくことに。結局、その後も「The Edge Of America」「Lake Shore Driving」で前半のような路線に復調することなく、アルバムはダウナーな空気のまま幕を下ろします。

前半で前作の路線を引き継ぎながら良い感じでハウス路線をミックスさせ、後半ではアシッドテイストをどんどん強めてダウナー路線を強く打ち出す。ある意味実験的な作風ではありますが、これはバンドとして長生きするための新たな活路を見出すための試行錯誤のひとつだった……今ならそう解釈できるのではないでしょうか。

 


▼DURAN DURAN『BIG THING』
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2023年1月 1日 (日)

JAPAN『ADOLESCENT SEX』(1978)

1978年4月8日にリリースされたJAPANの1stアルバム。日本盤は『果てしなき反抗』の邦題で、同年3月に発売。

1974年結成と、パンク/ニューウェイヴ勃発前に活動を開始したJAPAN。デビュー時のメンバーはデヴィッド・シルヴィアン(Vo)、ロブ・ディーン(G)、ミック・カーン(B)、リチャード・バルビエリ(Key)、スティーヴ・ジャンセン(Dr)の5人で、日本ではそのグラマラスなヴィジュアルとバンド名のおかげもあって、本国イギリスより早くから人気を博しました(さすが、ヴィジュアル系を生み出した国ですね)。

JAPANの音楽性が開花するのは3作目『QUIET LIFE』(1979年)であり、5作目『TIN DRUM』(1981年)で完成形に到達することになります。という意味では、このデビューアルバム“革命前夜”的な処女作と受け取ることもできるでしょう。事実、どこかアンバランスさが際立つ本作には(演奏技術やアイデアをまとめる能力という点において)未熟な面が目立ちます。

ですが、その未熟さが唯一無二の個性の原石となっていたのもまた事実。グラムロックを下地に、そこからソウルミュージックへと回帰していったデヴィッド・ボウイの如くブラックミュージックのテイストが随所に散りばめられている。ただ、そのテイストは欧米のブラックミュージックではなく、よりアフロミュージック寄りのトライバルなリズム感が目立つもので、そういった味付けがいびつな引っ掛かりにつながっています。

また、そこにニューウェイヴ開花前夜のシンセ主体のサウンドメイクが加わることにより、ジャンル分けが難しい独特のサウンド感を作り上げることに成功。どこまで計算しての結果だったのかは今となっては謎ですが、おそらく好きなものを掛け合わせた結果の偶発的な方向性だったのではないかと察します。

「Wish You Were Black」というアレなタイトルと、そこで表現されるクセの強いリズムワーク。のちにディープ&セクシーな歌声を聞かせるようになりデヴィッド・シルヴィアンの、まだ完成される前の初期衝動性の強い爬虫類っぽいボーカルも、今となってはこの独特なサウンド&楽曲に妙にマッチしているのですから、不思議なものです。

どの曲もキャッチーとは程遠いマニアックさが強く表出しており、ヴィジュアル先行とはいえ彼らが日本でいち早く受け入れられたのは本当に謎。アルバムラストを飾る9分超の名曲「Television」なんて、今聴くとめっちゃカッコいいと感じますが、仮に10代のロックビギナー時代に触れていたとしたらどこまで理解できていたのか……。そういった意味では、大人になる前にやりたい放題やり尽くしたのがこのデビュー作だったのかな。

 


▼JAPAN『ADOLESCENT SEX』
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