SLY『VULCAN WIND』(1998)
1998年6月25日にリリースされたSLYの4thアルバム。
初期2作のモダンヘヴィネスを取り込んだスタイルから一転、前作『KEY』(1996年)ではプログロック的側面を強調させつつ、80年代のジャパメタ的テイストをより強めることで旧来のファンはもちろんのこと、新たなファン層を拡大する可能性を秘めた新たなスタイルを確立させました。そんなSLYが前レーベルのBMGビクターから、新たにワーナーミュージック系列のEast West Japanへと移籍。同レーベルから最初で最後となる1枚を完成させます。
アルバムを重ねるごとに、そのアレンジがよりシンプルでソリッドなものへとシフトしているSLYですが、本作はそのスタイルの究極形といえる仕上がりで、その片鱗は全10曲で40分というコンパクトな作風からも感じ取ることができます。どの曲も3〜4分台でまとめ上げられており、二井原実(Vo)によるメロウなボーカルを軸にしつつ、石原慎一郎(G)、寺沢功一(B)、樋口宗孝(Dr)によるテクニカルなバンドアンサンブルを存分に楽しめる。前作はあからさまにプログロックからの影響が見え隠れしましたが、今作はそのへんのテイストはあくまで味付け程度。むしろ徐々に強まり始めている80'sメタルの色合いが、より濃厚に表出したことで、彼らの作品の中でもっとも聴きやすい1枚に仕上がった印象を受けます。
メンバーが影響を受けた70年代のオーソドックスなハードロックを下地にしつつ、それぞれがプロデビューして以降に表現してきた80'sジャパニーズメタル、そして90年代以降のモダンメタルを咀嚼しつつ、独自の解釈を経て到達した原点回帰的な内容は、1998年というニューメタル全盛の時代においては数周も時代遅れなものだった。しかし、これが彼らにできる最大限の譲歩であり、かつ「譲れないもの」が詰め込まれた作品だった。プログもサイケデリックもポップも飲み込み、モダンヘヴィネス側に振り切ることなく信念を突き通した結果がこれなのですから、もはやこれ以上は望めない。そういった意味でも本作は、SLYという短命に終わったバンドにとっての終着点であり臨界点だったのかもしれません。
初期2作が良くも悪くもガチャガチャしすぎていて、旧来のジャパメタリスナーにはなかなか馴染みにくかったかもしれません。そんな中、突如変化を遂げた前作『KEY』と今作『VULCAN WIND』は年寄り(笑)にも優しい、1998年時点での最新型ジャパメタだった。そりゃあ良いに決まってる。と同時に、本当にそれは1998年という時代に則したものだったのかという疑問もあり、リリース当時は正直「?」と感じたことも付け加えておきます。あれから25年もの歳月を経て、余計な邪念なしに本作と向き合うことができるようになった今、改めてリリースタイミングが悪かった1枚だなと感じています。前作以上にめっちゃ良質なハードロックアルバムですもんね。
前作『KEY』からの流れを汲むだけでなく、ちゃんと1stアルバム『SLY』(1994年)や2ndアルバアルバム『DREAMS OF DUST』(1995年)でのグルーヴメタルの経験も反映されており、「Hypocratic Oaf」のようなファストナンバーもしっかり用意されている。これが受け入れられなかったら、もうあとがない……その結果、バンドは本作を携えた全国ツアー終了後に活動停止。二井原はこの頃、「自分のような歌い手は、今のこの「時代には居場所がないのでは」と考え、引退も意識したそうです。それくらい90年代、特に90年代後半は「メタル冬の時代」だったのです(このへんは、陰陽座の瞬火さんとお話したときにも、ご本人の口から語られていましたし、当の二井原さんとお話したときもそのようなことをおっしゃられていましたしね)。
先日、このアルバムのみサブスクで数ヶ月前に解禁されていたことに気づき、2023年という本作発売から25年経ったタイミングに紹介することにしました。追って『DREAMS OF DUST』と『KEY』についても取り上げる予定です。BMGビクター時代の3作品に関しても、正式にサブスク解禁されることを心待ちにしております。
▼SLY『VULCAN WIND』
(amazon:国内盤CD / MP3)
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