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2023年2月

2023年2月28日 (火)

2023年2月のお仕事

2023年2月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※2月28日更新)

 

[WEB] 2月28日、「リアルサウンド」にてライブレポート秋元真夏、乃木坂46で培った“大切”が全て詰まった卒業コンサート バラエティ豊かな演出で笑いと涙が絶えないステージにが公開されました。

[WEB] 2月27日、「乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE」秋元真夏 卒業コンサート(26日)公演のオフィシャルレポートを担当。BUBKA WEBをはじめ、さまざまなWEBメディアに掲載中です。

[WEB] 2月26日、「乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE」3期生ライブ(25日)公演のオフィシャルレポートを担当。BUBKA WEBをはじめ、さまざまなWEBメディアに掲載中です。

[WEB] 2月25日、「乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE」4期生ライブ(24日)公演のオフィシャルレポートを担当。BUBKA WEBをはじめ、さまざまなWEBメディアに掲載中です。

[WEB] 2月24日、「乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE」5期生ライブ(23日)公演のオフィシャルレポートを担当。BUBKA WEBをはじめ、さまざまなWEBメディアに掲載中です。

[WEB] 2月23日、「乃木坂46 11th YEAR BIRTHDAY LIVE」初日(22日)公演のオフィシャルレポートを担当。BUBKA WEBをはじめ、さまざまなWEBメディアに掲載中です。

[WEB] 2月20日、「音楽ナタリー」にてインタビューデビュー5周年イヤーの竹内アンナが「at FIVE」で示した自己肯定感、アコギの可能性が公開されました。

[紙] 2月22日発売「BRODY」2023年4月号にて、櫻坂46大園玲、日向坂46竹内希来里、櫻坂46「桜月」徹底解剖 金野恵利香監督およびグランジ遠山大輔の各インタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 2月20日、「BARKS」にてインタビュー超学生、1stアルバム『超』リリース「“こんなこともできますよ”と知ってほしい」が公開されました。

[WEB] 2月17日、「WebNewtype」にてインタビュー過酷な物語に、救いを——「ダンまち」エンディング「切り傷」リリース記念・sajou no hanaインタビューが公開されました。

[WEB] 2月17日、「リアルサウンド」にてライブレポートPoppin'Party×RAISE A SUILEN、初のツーマン公演で作り上げた熱狂 有明アリーナに刻んだ『バンドリ!』の新しい歴史が公開されました。

[WEB] 2月16日、「リアルサウンド」にてインタビュー伊藤美来が今、リスナーに届けたい全肯定のメッセージ 6年間の歌手活動で芽生えた強い意志が公開されました。

[WEB] 2月16日、「リアルサウンド」にてインタビュー武元唯衣&大沼晶保が語る、櫻坂46としての2022年と三期生加入での変化 「桜月」を通じたセンター・守屋麗奈の成長もが公開されました。

[WEB] 2月16日、「J:COMテレビ番組ガイド」にてコラム多方面で活躍する乃木坂46の個性に触れるならバラエティが公開されました。

[WEB] 2月12日、「リアルサウンド」にてコラムレッチリ、My Chemical Romance、Pantera、Blur……再結成・再始動・再加入を経て、2023年に来日する注目バンドが公開されました。

[紙] 2月9日発売「月刊ニュータイプ」2023年3月号にて、sajou no hana・sanaインタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 2月8日、「リアルサウンド」にてライブレポートSurvive Said The Prophet、5年ぶり『MAGIC HOUR』ファイナル Knosis、Stand Atlanticと鳴らした“新たな時代へ前進する意志”が公開されました。

[WEB] 2月6日、「Rolling Stone JAPAN」にてライブレポートBABYMETALライブ再始動、「熱狂空間」で見た「新たな日常」が公開されました。

[紙] 2月4日発売「EXILE MUSIC HISTORY」にて、「EXILE DISCOGRAPHY」を一部執筆しました。(Amazon

[紙] 2月3日発売「日経エンタテインメント!」2023年3月号にて、櫻坂46大園玲の連載「ミステリアスな向上心」および日向坂46上村ひなのの連載「ピュアで真っすぐな変化球」の各構成を担当しました。(Amazon

[紙] 2月2日発売「ヘドバン」Vol.38にて、MÅNESKIN『Rush!』クロスレビュー、花冷え。「お先に失礼します。」クロスレビュー、METALLICA『Kill 'Em All』発売40周年クロスレビュー、『2022年の“メタル系”年間ベスト・アルバム10枚』と「2022年を象徴する1曲」を執筆しました。(Amazon

MEGADETH JAPAN TOUR 2023@日本武道館(2023年2月27日)

Img_6664 思えば、MEGADETHにとって日本武道館という場所はある種の鬼門でもありました。今から30年前の1993年3月、彼らは全米2位の大ヒット作となった『COUNTDOWN TO EXTINCTION』(1992年)を携えて4度目のジャパンツアーを行う予定でした。僕自身はマーティ・フリードマン(G)、ニック・メンザ(Dr)が加わった編成での初アルバム『RUST IN PEACE』(1990年)を提げた3度目のジャパンツアー(1991年2月)が初のMEGADETH体験だったので、1993年は2回目となる予定でした。

しかも、バンドにとって初の日本武道館公演を含むツアー。当時、METALLICAですら武道館は未経験(その代わり、武道館をすっ飛ばして先に代々木体育館や東京ドームを経験済み。彼らの初武道館は1998年)だったわけで、当時のスラッシュメタル出身バンドにとっては快挙でした。確か当時、僕はアリーナのチケットを確保していたはずで、当初の予定から一回延期になった記憶が。マーティとジュニア(デヴィッド・エレフソン)がプロモーション来日して、武道館の前で撮影した写真も当時の雑誌で目にした記憶があります。

しかし……メンバーの健康問題で来日はキャンセルに。それがデイヴ・ムステインの薬物問題が理由であることを、数ヶ月後に知ることになります(当時は今みたいにネットがないから、情報伝達がだいぶ遅れましたし)。がっかりだったんですよ。武道館で観たかったんですよ。なのに……失望です。アルバムは聴いていたけど、そこまで夢中になることはなく、続く『YOUTHANASIA』(1994年)のツアーも、1997〜98年と2度も実現した『CRYPTIC WRITINGS』(1997年)のツアーも敬遠。結局、再び彼らのステージを目にするのは10数年後の2006年10月、『LOUD PARK』初年度でのことでした。以降も何度かライブを観てきましたが、どこかネガティブな気持ちを抱えたまま向き合っていた気がします。

そんな思いに変化が生じたのが、前回の来日公演(2017年5月)。自分も大人になったからか、ちょっと許せるようになってきたのかな。その後、デイヴの咽頭癌発症(2019年)で活動が滞ったり、ジュニアがスキャンダルでバンドを解雇(2021年)とトラブルが続きましたが、そうした困難を乗り越えて完成させた約6年半ぶりの最新アルバム『THE SICK, THE DYING... AND THE DEAD!』(2022年)の出来が素晴らしかったことも大きく影響し、再びこのバンドに対してポジティブな気持ちで臨めるようになりました。なもんですから、久々の来日、しかも鬼門でもある武道館が30年ぶりに実現すると知った日には、すぐに申し込んでいた気がします。

ライブ開催1〜2ヶ月前、座席の位置が確定。なんとアリーナBブロック中央。ちょうど武道館のアリーナど真ん中くらいでしょうか。良席。しかも、30年前の罪滅ぼしかというくらい、似たような席。ああ、当日はどんな感情で彼らのステージを目撃することになるんだろう。

さらに、ライブ開催数週間前には、ゲストとしてマーティ・フリードマンがステージに立ち、数曲をセッションするとのこと。当然あの曲はやるとして……ああ、ここで30年分の清算を済ますのか。そんな気持ちで当日、武道館へと向かいました。

……以上、ここまでが前置き(笑)。本編は以下になりますよ。

続きを読む "MEGADETH JAPAN TOUR 2023@日本武道館(2023年2月27日)" »

2023年2月27日 (月)

MEGADETH『DELIVERING THE GOODS』(2023)

2023年2月17日にリリースされたMEGADETHのデジタルシングル。

この曲はJUDAS PRIESTが“ロックの殿堂”こと『Rock & Roll Hall Of Fame』に選出されたことを記念して、MEGADETHがプリーストへのリスペクトを込めてレコーディングしたもの。昨年11月にAmazon Musicなど一部配信サービスで限定公開されていましたが、このタイミングでApple MusicやSpotifyなど大手プラットフォームでも配信がスタートされました。

ご存知のとおり、「Delivering The Goods」はプリーストの5thアルバム『KILLING MACHINE』(1978年)のオープニングを飾る名曲。プリーストがヘヴィメタルバンドと呼ばれるようになるギリギリのタイミングに制作された1曲ですが、ギターリフの鋭さやヘヴィだけどしなやかなリズムワークにはその後の片鱗を存分に感じ取ることができ、これがのちの『BRITISH STEEL』(1980年)に収録されていたとしても違和感ゼロ。うん、名曲ですね。

MEGADETHによるカバーバージョンは聴いていただけばわかるように、ダウンチューニングでレコーディングされたもの。あくまで『Rock & Roll Hall Of Fame』選出を祝福するためのリスペクトカバーであるため、演奏やアレンジに関しては原曲から大きく外れておらず、サウンドからMEGADETHらしさを存分に感じられるかと言われるとちょっと微妙かな(個人的には原曲よりちょっとBPMを落としたところは減点対象)。

ただ、デイヴ・ムステイン(Vo, G)という唯一無二の個性的な歌声を持つシンガーが歌うことで、間違いなく“MEGADETHの楽曲”として成立しており、そこは安心感を持って楽しめるはず。中盤のギターソロに関しても大佐(デイヴ)とキコ・ルーレイロ(G)が弾き分けていると思いますが、正直どっちがどっちかはわかりません(原曲のメロディを尊重したプレイなのも大きいか)。

MEGADETHは初期から定期的にカバー曲を発表しておりますが、その選曲は比較的王道感の強いものばかりで、その傾向は活動後期に進むにつれて強まっている気がします。最新アルバム『THE SICK, THE DYING... AND THE DEAD!』(2022年)ではDEAD KENNEDYS「Police Truck」とサミー・ヘイガー「This Planet's On Fire (Burn In Hell)」という、だいぶわかりやすい名曲をピックアップしていますから。そういった意味でも、今回のプリーストカバーも選曲/内容含めど直球すぎやしないか?と思った方は少なくなかったはずです。

各プレイヤー陣の個性を強く反映させたカバーをセレクトするよりも、純粋に自分(=デイヴ)のルーツ、しかもそれはNWOBHMみたいなバンドとしてのルーツではなくて、デイヴ個人の音楽人生における原点を振り返るようなもので、それはそれでMETALLICAとは違って面白いと思います。もしMEGADETHがカバーアルバムを制作したら、かなりわかりやすい内容になるんじゃないかな……なんてことも想像できてしまうこの1曲。微笑ましさ満載の内容です。

 


▼MEGADETH『DELIVERING THE GOODS』
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2023年2月26日 (日)

DEPECHE MODE『PLAYING THE ANGEL』(2005)

2005年10月17日にリリースされたDEPECHE MODEの11thアルバム。日本盤は同年10月13日発売。

前作『EXCITER』(2001年)から4年5ヶ月ぶりの新作。かなり時間が空いた感がありますが、その間にはマーティン・ゴア(G, Key, Vo)やデイヴ・ガーン(Vo)がそれぞれソロプロジェクトにトライし、アンディ・フレッチャー(Key)も自主レーベルを立ち上げプロデュース業に取り組むなど、メンバーそれぞれ音楽的にかなり充実した時期を過ごしていたようです。

ブリープテクノ界の重鎮マーク・ベルとタッグを組み、新境地を伝えた前作でしたが、ファンからの評価はまちまち。特に、前々作『ULTRA』(1997年)を評価する層からは否定的な声も少なくなかったようです。そんな中、今作では新たなプロデューサーとしてその後数作でコラボレーションを続けることになるベン・ヒリアー(BLUR、ELBOW、DOVESなど)を起用。過去最短でアルバムを完成させるほど、充実した制作期間を過ごすことになります。

サウンドの質感こそ2005年当時のモダンさが伝わるものの、ベースになっているのは80年代の彼らが武器にゴシックテイストのエレポップ。メロディの運びや楽曲自体のテイストがどこか80年代半ばから後半……特に『BLACK CELEBRATION』(1986年)、『MUSIC FOR THE MASSES』(1987年)『VIOLATOR』(1990年)の頃を彷彿とさせるものがあり、そこに『SONGS OF FAITH AND DEVOTION』(1993年)や『ULTRA』で実践したダーク&ダウナーさが適度なバランスで散りばめられることにより、多くのリスナーが臨む最強の形でのDEPECHE MODEサウンドが完成した……と言っては大袈裟でしょうか。

また、本作にはデイヴがソロ活動で得た経験も見事な形で反映されています。例えば、「Suffer Well」「I Want It All」「Nothing's Impossible」といった楽曲では、初めてデイヴがソングライターとしてクレジットされている。DEPECHE MODEらしさを崩すことなく、自身のソロワークスの色を適度に加える。もちろん、デイヴが歌えばそれはすべてDEPECHE MODEなわけですが、歌詞やメロディに自分の我を通せるようになったのは長く続いたマーティン一強体制が崩れたことにもつながり、バンドとしての柔軟性が芽生え始めているのかも……そういう意味では、『ULTRA』から始まったマーティン/デイヴ/アンディのトリオ編成が3作目にしてようやく完成の域に達したのかもしれません。

三頭体制のDEPECHE MODEは以降、アルバムを重ねるごとに独特の個性を強めていきます。これがずっと続くものだと、誰もが思っていたんですけどね……。

 


▼DEPECHE MODE『PLAYING THE ANGEL』
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2023年2月25日 (土)

U2『NO LINE ON THE HORIZON』(2009)

2009年2月27日にリリースされたU2の12thアルバム。日本盤は同年2月25日発売。

オリジナルアルバムとしては、前作『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』(2004年)から4年3ヶ月ぶりの新作。原点回帰と過去の変遷の総括を併せ持つ『ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND』(2000年)からの三部作最終章と捉えられる本作のプロデューサーには、前作から引き続きブライアン・イーノ、ダニエル・ラノワ、スティーヴ・リリーホワイトという“U2を昔から深く知る偉人たち”を迎え、「I'll Go Crazy If I Don't Go Crazy Tonight」にのみBLACK EYED PEASのウィル・アイ・アムがアディショナルプロデューサーとしてゲスト参加しています。

本作でやろうとしていることは明らかに『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』の延長線上にあることなのだと思うのですが、通して聴いてみると前作から地続きのようで別モノにも映る、非常に不思議で厄介な1枚。正直に言うと、最初に聴いたときに一発で好きになれなかった初めてのU2アルバムだったのです。

まず、過去2作でいうところの「Beautiful Day」や「Vertigo」のようにわかりやすいロックアンセムが皆無。本作からのリード曲「Get On Your Boots」はモダンな質感のカッコいいオルタナサウンドですが、“歌”としてはちょっと“届かない”。実は本作、そういう志向の楽曲が多いんですよね。

方法論自体は先にも述べた「原点回帰と過去の変遷の総括」にあるものの、過去2作がその志向を歌に焦点を合わせていたのに対し、本作では外堀=サウンドメイキングに焦点を移したものに変化しているような気がするんです。そういった意味では、何気に『POP』(1997年)でやろうとしていたことに方法論としては似ているのかもしれません。ただ、個人的には『POP』ほどの革新性も充実度も感じられず、そこだけが残念でなりません。

タイトルトラックを筆頭に、「Magnificent」や「Moment Of Surrender」「Unknown Caller」など楽曲1つひとつを取り上げると決して悪くはないですし、むしろロックバンドとしては平均点を軽く超えている。だけど、歌モノとして捉えるとスペシャルさが感じられる曲が見当たらない。そのもどかしさが最後まで付きまとい、終始ぼんやりモヤがかかった状態のまま。だから、アルバムとして強く印象に残らないし突き抜けた楽曲がひとつも存在しない。『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』でバンドとして新章に突入したものの、早くも過渡期を迎えたような、そんな迷いも見え隠れする1枚かもしれません。

そういう事実も影響してか、本作は英米でチャート1位こそ獲得するものの、セールス自体は前作から半減。シングルに関しても「Get On Your Boots」(英12位/米37位)、「Magnificent」(英42位/米79位)、「I'll Go Crazy If I Don't Go Crazy Tonight」(英32位)と大きなヒットにつながりませんでした。僕自身、このアルバムを機にU2に対する興味が少しずつ薄れ始めてしまった、そんな悪い意味でのターニングポイントとなった異色作。リリースから14年ほど経ちますが、まだ本作を再評価するタイミングには至っていないようです。もしかしたら、そこに到達するには新作があと1、2枚は必要なのかもしれませんね。

 


▼U2『NO LINE ON THE HORIZON』
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2023年2月24日 (金)

U2『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』(2004)

2004年11月22日にリリースされたU2の11thアルバム。日本盤は『原子爆弾解体新書〜ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』の邦題で、同年11月17日発売。

テクノロジー3部作(1991年の『ACHTUNG BABY』、1993年の『ZOOROPA』、1997年の『POP』)を経て、前作『ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND』(2000年)で再び80年代的な壮大さを持つギターロック路線へと回帰したU2。セールス的にも復調を果たした同作から4年ぶりに届けられた今作では、メインプロデューサーに80年代初期3作を手がけたスティーヴ・リリー・ホワイトを据え、曲ごとにアディショナルプロデューサーとして前作のブライアン・イーノ&ダニエル・ラノワ、UKロックにこの人ありなクリス・トーマス、90年代ワークスに欠かせないジャックナイフ・リーやネリー・フーパーといった著名人が多数参加。前作でのスタイルをさらに推し進めつつ、90年代の経験も味付けとしてバランスよく散りばめた、問答無用のロックアルバムに仕上がっています。

本作について語る際、まず真っ先に話題に挙げられるのがオープニングトラックの「Vertigo」でしょう。当時、iPodのCMソングに採用されたことで多くの音楽リスナーのもとにまで届いたこの曲は、前作における「Beautiful Day」に匹敵するヒットを記録(英1位/米31位)。さらに「Sometimes You Can't Make It On Your Own」(英1位/米97位)、「City Of Blinding Lights」(英2位)、「All Because Of You」(英4位)とイギリスでヒットを連発し、アルバム自体も英米で1位を獲得。セールス的には『ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND』には及ばなかったものの、それでもアメリカではマルチプラチナム(300万枚以上)を達成させました。

先の「Vertigo」や「All Because Of You」を筆頭に、躍動感の強いロックンロールを主軸にしつつ、「City Of Blinding Lights」など80年代前半のニューウェイヴを通過させた浮遊感の強いロックチューン、「Sometimes You Can't Make It On Your Own」をはじめとする80年代後半以降の壮大なアンセム、「A Man And A Woman」のような繊細な楽曲、「Love And Peace Or Else」など90年代のテクノロジー要素を散りばめたオルタナチューンなど、アルバムは意外にもバラエティ豊かな内容。なもんですから、全11曲(ボーナストラックを除く)/約50分という程よい尺があっという間に感じられて、アルバムとしての充実度の高さは『ACHTUNG BABY』にも匹敵するものがあるのではないでしょうか。

個人的には、このバンドのアルバムって後半から終盤にかけてダークさやディープさが伝わる楽曲が用意されている点が非常に好みだったりするのですが、本作では「Love And Peace Or Else」で若干その傾向をみせつつも、80年代中盤〜後半的な「One Step Closer」、名曲「One」にも匹敵する作風の「Original Of The Species」や「Yahweh」で穏やかさを提示してアルバムを締めくくる作風。最初こそ物足りなさを覚えたものの、アルバム全体のバランスを考えると実はこの締め方が最適であることに気付かされます。

どこかキャリアを総括するようで、だけどロックバンドとしてまだまだ前進するんだという揺るぎない信念を見せつける。デビューから20年以上を経たバンドの次章を占うという意味でも、非常に重要なポジションにある1枚かもしれません。

 


▼U2『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』
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2023年2月23日 (木)

U2『OCTOBER』(1981)

1981年10月12日にリリースされたU2の2ndアルバム。日本盤は『アイリッシュ・オクトーバー』の邦題で、翌1982年発売。

初のフルアルバム『BOY』(1980年)から1年ぶりに発表されたオリジナルアルバム。「Fire」(英35位/アイルランド4位)、「Gloria」(英55位/アイルランド10位)というシングルヒットも手伝い、アルバム自体もイギリスでは前作の52位を上回る最高11位を記録(本国では前作13位とほぼ同等の最高17位)。しかし、アメリカでは前作のトップ100入り(63位)には及ばず、最高104位止まりでした。

プロデューサーには前作から引き続きスティーヴ・リリーホワイト(XTC、THE ROLLING STONESSIMPLE MINDSなど)を起用。次作『WAR』(1983年)で極める独創的な音作りは、今作の時点でほぼ完成の域に達しており、あとは楽曲のクオリティでどこまでB級感から抜け出すかが課題でした。

本作ではアイルランド出身というバンドのルールが随所に反映された、前作以上に内向的なテイストでまとめられています。オープニングを飾る名曲「Gloria」では、曲の後半に賛美歌を彷彿とさせるコーラスを採用することで、のちの『THE JOSHUA TREE』(1987年)への布石を早くも打ち出しているほか、アイルランドの民族楽器イリアンパイプスをフィーチャーした「Tomorrow」、ジ・エッジ(G)のピアノ伴奏によるミニマルなアレンジが印象的なタイトルトラック「October」など、前作以上に独自性が強まっています。

思えば、前作は良くも悪くもパンク/ニューウェイヴの延長線上にある衝動性の強い作風でしたが、そこから一歩踏み出した本作は完全なるオリジナリティを獲得するための習作という意味合いも強いのかな。実際、楽曲のクオリティはA級レベルにあと一歩といったものが多く、そのためかアルバム全体の印象もちょっとぼんやりしたものがある。その霞がかった音像/空気が本作最大の魅力とも言えますが、『WAR』以降の大躍進を考えるとやはり過渡期かなと言わざるを得ません。

ロックバンドにとって2ndアルバムは勝負作になるわけですが、バンドの軸を確立させたという点では成功しているものの、大衆を圧倒させるという意味では失敗に終わった。そんなモヤモヤが良くも悪くもU2らしくて、僕はこのアルバムが嫌いになれません。のちのベストアルバム『THE BEST OF 1980-1990』(1998年)に1曲も選出されていないという点では、バンドにとって大きな意味を持つアルバムではないのかもしれませんが、それでも「October」を隠しトラックとして忍ばせるあたりに彼らの「それでも捨て切れない」という思いも伝わる。実は、バンドの個性を確立させる上ではもっとも重要な1枚ではないでしょうか。

 


▼U2『OCTOBER』
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2023年2月22日 (水)

LOVEBITES『JUDGEMENT DAY』(2023)

2023年2月22日にリリースされたLOVEBITESの4thアルバム。

オリジナルフルアルバムとしては、初のオリコン週間ランキングTOP10(9位)を果たした前作『ELECTRIC PENTAGRAM』(2020年)から3年ぶり。2021年8月に創設メンバーのmiho(B)が脱退し、バンドは一時活動休止するも、翌2022年3月末には再始動を宣言。翌4月から新メンバーを一般公募した結果、“弾いてみた”動画で注目を集めてきた弱冠20歳のfami(B)が正式加入することとなりました。

新ベーシスト決定前からこのアルバムの制作はスタートしており、残念ながらfamiはレコーディングのみの参加となりますが、本作にはそれでも彼女らしい個性が随所に散りばめられた、“新生LOVEBITES”の第一歩に相応しい内容。もちろん、前作からの流れもしっかり踏襲されており、バンドとしてひたすら前進することを選んだメンバーの強い信念が伝わる、強力&強烈な1枚に仕上がっています。

アルバム発売に先駆け、リードトラックとして最初に公開された「Judgement Day」を聴けばアルバムが充実した内容になるであろうことは、想像に難しくなかったはず。冒頭&エンディングにfamiのメロウなベースフレーズをフィーチャーした構成を筆頭に、どこかRAINBOW「Gates Of Babylon」を彷彿とさせるエキゾチックなメロディライン、一寸の隙も感じさせない鉄壁のアンサンブルと過去最高潮と言えるほどに冴え渡るasami(Vo)のボーカルなど、とにかくすべてのピースが隙間なくかっちりハマった感が伝わる、問答無用の1曲なのですから、アルバムに対して過度な期待をしてしまうのは仕方ないことです。

その後もLOVEBITESらしいクラシカルテイストのパワーメタル「The Spirit Lives On」、暴力的なスラッシュナンバー「Dissonance」と、我々の期待を大いに煽る良曲を連発。それに続くアルバムも、その期待を大きく上回る仕上がりで、きっと多くのリスナーが歓喜したことでしょう。

仕事柄、かなり早い段階で本作に触れていたのですが、全10曲すべてがファスト/アップチューンで構成されており、ミディアムナンバーやスローバラードは皆無。各曲5分前後と、大作志向だった前作を経て再びバランス感に優れた曲作りへと回帰したこともあってか、約54分というトータルランニングながらも聴き疲れすることもなく、気づくとリピートしていることに気づく。だって、メロディやアレンジ、演奏、歌のすべてに無駄がまったく見当たらないし、とにかくメロディの運びや作り込みが尋常じゃないもんだから、そりゃ楽しくなって何度も再生しちゃうわけですよ。

バンドの再生/復活を祝すようなオープニングトラック「We Are The Resurrection」を筆頭に、ドラマチックなメロディラインの「Wicked Witch」、famiによる冒頭のゴリゴリベースリフとシンガロングパートがひたすらカッコいい「Stand And Deliver (Shoot 'em Down)」、本作では若干テンポが落ち着いているからこそダイレクトに響く名曲「My Orion」、そして楽器隊のちょっとしたソロパートが用意された“LOVEBITES版「Eagle Fly Free」(HELLOWEEN)”のような「Soldier Stand Solitarily」など、捨て曲ゼロ。こんなに突っ走りまくって、ライブでの演奏が心配になるほどですが、そんなことはあとで考えればいい!ってくらいに前のめりな作風に、ただただ感服いたしました。

前編成のままだったら、『ELECTRIC PENTAGRAM』のあとにどんなアルバムを作ったのか……このアルバムを聴いてしまった今となっては想像も難しい、それくらい新生LOVEBITESが作り上げた第二のデビューアルバムのインパクトと完成度が高すぎるんです。彼女たちにしては3年というスパンは過去最長でしたし、本当に待たされた感も強いですが、その我慢の季節を乗り越えたからこそ納得度、満足度も異様に高い。新たな傑作と呼ぶべき名盤の誕生です。

 


▼LOVEBITES『JUDGEMENT DAY』
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2023年2月21日 (火)

CODE ORANGE『WHAT IS REALLY UNDERNEATH?』(2023)

2023年2月17日にデジタルリリースされたCODE ORANGEのリミックスアルバム。

本作は最新オリジナルアルバム『UNDERNEATH』(2020年)をベースにしたリミックストラック集で、新たに契約した新興レーベルBlue Grape Musicからの第1弾作品。『UNDERNEATH』収録曲をアコースティックアレンジで再構築したアンプラグドアルバム『UNDER THE SKIN』(2020年)に続く、ここ3年にわたる活動の集大成的な1枚となります。

また、本作はアルバムと同タイトルのショートフィルムのサウンドトラック的役割も一部果たす内容でもあると同時に、こちらも同タイトルとなるオンラインゲームとも関連づけられた作品なんだとか。約13分におよぶショートフィルムはYouTube上でも視聴可能ですし、ゲームのほうもこちらからチェックできるので、気になる方はぜひトライしてみてください(僕はまだ未着です)。

さて、気になる音源のほうですが、『UNDERNEATH』本編でも展開されていたデジロックやインダストリアル系のテイストが全開で、ポストハードコアやメタリックな要素はそのザクザクしたギターサウンドのサンプリングから感じ取ることができる程度。ですが、『UNDERNEATH』でこのバンドに魅了された方なら間違いなく引っかかるであろうポイントが随所に散りばめられているので、スッと入っていくことができるはずです。

ジャミー・モーガン(Vo, Dr)やリーバ・マイヤーズ(Vo, G)のボーカルテイクを軸にしつつも、時に過激に、時にダークでドゥーミーに攻める姿勢は、『UNDERNEATH』本編とは違った側面も見つけることができ、同じ曲を下地にしながらも向かう方向の違いでここまで変化するかと、原曲や『UNDER THE SKIN』でのアコースティックアレンジとの差に驚かされる本作。トレント・レズナー(NINE INCH NAILS)とリンクする点も要所要所で発見することができ、思わずニヤリとさせられます。むしろ、そっち側が好きな人なら嫌いになれるわけがない。

デジタル要素と肉感的なスタイルを見事に融合させ、唯一無二のスタイルを確立させた傑作『UNDERNEATH』から、より生々しさに振り切った『UNDER THE SKIN』、デジタルを突き詰めた『WHAT IS REALLY UNDERNEATH?』と枝分かれさせることで、根っこ=『UNDERNEATH』がいかに優れたものであったかを再確認させる。そういう意味でも、このプロジェクトは大成功だったのではないでしょうか。

『UNDERNEATH』の副読本的作品としてはもちろんのこと、純粋な完全新作としても十分にアピールするはずなので、ヘヴィ/ラウド系リスナーのみならず幅広い方々に届いてほしいところです。

 


▼CODE ORANGE『WHAT IS REALLY UNDERNEATH?』
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2023年2月20日 (月)

U2『ZOOROPA』(1993)

1993年7月5日にリリースされたU2の8thアルバム。

前作『ACHTUNG BABY』(1991年)発表後、1992年から大規模なワールドツアー『Zoo TV Tour』をスタートさせたU2。アルバムはメガヒットを記録した5thアルバム『THE JOSHUA TREE』(1987年)に次ぐセールスで、ツアーも各地で大盛況となっていましたが、バンドはツアーの合間を縫ってジ・エッジ(G, Vo)主導によるミニアルバムの制作に取り掛かります。

しかし、テクノやエレクトロミュージックの要素を積極的に導入した『ACHTUNG BABY』での手応えもあってか、バンドの創作欲求はEPやミニアルバムの枠では収まり切らず、結果として全10曲入りフルアルバムへと拡張されていくことになります。プロデューサーにはジ・エッジと前作から引き続きブライアン・イーノ、そして『THE JOSHUA TREE』以降レコーディングエンジニアとして参加し続けているフラッドが名を連ね、前作以上にディープな“オルタナティヴ”ロック作りに果敢に挑んでいます。

80年代のU2を知る者にとっては違和感満載で、ドーピング感すら伝わるテイストだった『ACHTUNG BABY』と比較すると、本作で展開されている楽曲の方向性からはそのドーピングが切れてもなおダンスし続ける、虚しさのようなものが伝わる。そういった点でも、良い意味で(?)の空回り感が独自の空気作りに作用しており、結果として誰にも真似しようのない異色の1枚へと昇華されています。

アレンジ自体は『ACHTUNG BABY』以降のエレクトロ路線なんですが、良い意味で“抜け”感が強く、そのおかげで情報量が若干抑え気味。また、楽曲の方向性的には80年代の彼らを思わせるものも多く、「Babyface」や「Lemon」などはアレンジこそ90年代的ですが軸のメロディラインは往年の彼らそのもの。シングルカットもされた「Stay (Faraway, So Close!)」や「The First Time」なんて80年代後半の彼らまんまですしね。

そんな中、ジ・エッジの振り切り具合が最高潮に達した「Numb」や「Daddy's Gonna Pay For Your Crashed Car」、ジョニー・キャッシュをフィーチャーした「The Wanderer」にはブライアン・イーノとのコラボ作『ORIGINAL SOUNDTRACKS 1』(1995年/PASSENGERS名義)や次作『POP』(1997年)への布石も見え隠れします。溢れ出るアイデアを短い時間(本作の制作はたった2ヶ月とのこと)で形にするという点においても、『POP』の習作とも言える過渡期的1枚だったのかな。

実験色が相当強い内容にも関わらず、本作は全米&全英1位を獲得。セールス的には『ACHTUNG BABY』には遥か及ばなかったものの、「Stay (Faraway, So Close!)」がヴィム・ヴェンダース監督の映画『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』の主題歌に起用されたことでシングルヒット(全米61位/全英4位)しています。そして、結果としてこのアルバムを携える形で1993年12月、U2は三度目のジャパンツアー(東京ドーム2DAYS公演)を実現させるのでした。

 


▼U2『ZOOROPA』
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2023年2月19日 (日)

INHALER『CUTS & BRUISES』(2023)

2023年2月17日にリリースされたINHALERの2ndアルバム。

イライジャ・ヒューソン(Vo, G)、ジョシュ・ジェンキンソン(G)、ロバート・キーティング(B)、ライアン・マクマホン(Dr)のアイルランド・ダブリン出身4人組バンドによる、1stアルバム『IT WON'T ALWAYS BE LIKE THIS』(2021年)に続く新作アルバム。前作は本国&イギリスでチャート1位を獲得する人気ぶりですが、ここ日本んではアルバムデビュー前の2022年2月に初来日公演が実現(パンデミック直前で無事敢行)し、本来なら2022年夏のサマソニで再来日が実現んする予定でした。が、スケジュールの都合(おそらく本作の制作か)でキャンセルされ、今年8月のサマソニで満を持して再来日が叶うことになります。

デビューアルバムから約1年7ヶ月という短いスパンで新作が届けられたのは、間違いなく“withコロナ”という環境も影響してのことでしょう。日本含め以前のようにワールドツアーを展開できないからこそ、その想像欲赴くままダメ押しで新作を制作し、人気をより確かなものへと固めていく作業は、この時期のバンドにとって非常に大切ですしね。特に、2ndアルバムってデビュー前からのストックを一度切らしたあと、ゼロから作り上げていくからこそバンドの真価が問われますし。

で、そんな重要作なこのアルバムですが、我々の心配を軽く蹴散らかす充実の内容。前作を手がけたアントニー・ゲン(PULPの初期メンバー。ELASTICAのキーボーディストとしてツアー参加経験あり)が引き続きプロデュースを手がけていることもあり、前作からの良いムーブを継承しつつも、よりポジティブな空気に満ちたギターロック/ギターポップがこれでもかと詰め込まれています。

80〜90年代の王道UKギターロックを下地にしつつ、THE 1975などにも通ずるモダンなギターロック/ギターポップのテイストをふんだんに散りばめた楽曲スタイルは、我々のような世代にとって懐かしくもあり、同時に新鮮さも伝わるという非常に良い塩梅の仕上がり。隙間の多いアレンジ/バンドアンサンブル、温かみの強い音作りもクセになるものがあり、終始安心感を持って接することができます。

また、イライジャの歌声や歌唱スタイルは、U2のフロントマンであり彼の実父でもあるボノと重なる部分も多い。若き日のボノほど血気盛んではなく、むしろ90年代以降の肩の力が抜けたボノの歌声にも似ており、そこも心地よさや耳馴染みの良さにつながっているかもしれません。

ギターサウンドの作り込み方も非常に凝ったものがあり、ハートウォーミングな質感の中にも時に鋭角さが見つけられるなど、とにかくバランス感が冴え渡っている。リズム隊の硬すぎない音作りも良好で、オルタナティヴな要素を含みつつもしっかりメインストリームロックを全うしようとする姿勢にも共感が持てます。インパクトという点においては若干物足りなさも感じますが、それ以外はパーフェクト。もしかしたら、これくらいのバランスが2023年という時代においてはベストなのかな。

 


▼INHALER『CUTS & BRUISES』
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2023年2月18日 (土)

PARAMORE『THIS IS WHY』(2023)

2023年2月10日にリリースされたPARAMOREの6thアルバム。

ここ数年はヘイリー・ウィリアムス(Vo)のソロアルバムが立て続けに発表されていましたが、バンドとしての新作は全米6位を獲得した『AFTER LAUGHTER』(2017年)以来5年9ヶ月ぶり。ヘイリー、テイラー・ヨーク(G)、前作のレコーディングからバンドに復帰したザック・ファロ(Dr, Key)のトリオ編成で制作された2作目のフルアルバムとなります。

全米1位を獲得したヒット作『PARAMORE』(2013年)からニューウェイヴ色が表出し始め、前作『AFTER LAUGHTER』ではその色がさらに濃厚になり、もはやエモやポップパンクの枠から完全に飛び出したPARAMORE。その傾向は本作でも続いておりますが、加えて今回はポストパンクの側面も見え隠れするなど、いよいよ出世作『RIOT!』(2007年)フォロワーには追いつけないポジションにまで到達しています。

ヘイリーのソロワークスで得た経験も間違いなく反映された本作において、彼女はBLOC PARTYをキーワードとしてピックアップしています。ポップパンクとは異なる性急さをはらんだポストパンク感は、確実に本作にも根付いており、そこが初期のエモ的要素とは異なる、あの頃にはなかった浮遊感や気怠さを生み出している。また、前作を聴いたときに感じたTALKING HEADS的要素も再び見つけることができるものの、そこには難解さは存在せず、むしろメロディのキャッチーさにより磨きがかかったことで、このアンバランスな世界において輝きを強めている。この約6年間にバンド内外で経験したことがすべて実りにつながっていることを、最良の形で証明しているのではないでしょうか。

2010年以降、しばらくはパーマネントメンバーにドラマーが不在でしたが、特に前作からザックがバンドに出戻ったことはバンドのリズム面において大きな変化をもたらしたと感じています。前作のレコーディング時点ではザックは正式復帰前でしたが、今作ではバンドの一員としてゼロから制作に加わったことはリズムワークにおける多様性に大きな影響を及ぼしたのではないでしょうか。加えて、そうした個性的なリズムはテイラーのギターワークにもプラスに作用している。そこにヘイリーのソロ経験が混ざり合うあわけですが、そりゃ面白くなるわけです。

冒頭3曲のキャッチーさを伴った特異性はもちろんのこと、中盤にみせる濃厚なサウンドスケープ、そしてラスト3曲でのドリームポップにも通ずるムーディーさと、ギターロックにできるさまざまなことに果敢に挑んだ全10曲/36分は、アルバムとして完璧の一言。これが20年前に発表されていたら「時代を変える」とか過大評価されたかもしれません。が、今はロックは死んだと言われる2023年。そんな時代にこんな“キャッチーな異物”がドロップされる事実もまた面白い。この傑作がどんな評価を生み出すのか、そして2018年(2月の単独公演&8月のサマソニ)以来となる来日は実現するのか。今後の動向に注目していきたいと思います。

ちなみに、タイトルトラック「This Is Why」のMV監督を務めたのはTURNSTILEのブレンダン・イエーツ(Vo)。そこがつながってくるか!という驚きと同時に、映像のテイスト含め納得の仕上がり。今作からは現時点で「The New」「Running Out Of Time」のMVも制作されており、どちらも独特の映像美と独創性の強い内容なので、音源と併せてチェックしていただきたいです。個人的には本年度のベストアルバム候補、最初の1枚です。

 


▼PARAMORE『THIS IS WHY』
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2023年2月17日 (金)

YOU ME AT SIX『TRUTH DECAY』(2023)

2023年2月10日にリリースされたYOU ME AT SIXの8thアルバム。日本盤未発売。

『SUCKAPUNCH』(2021年)から2年ぶりの新作。前作はキャリア二度目の全英1位を獲得し、これまでに発表した7作中6作が全英TOP10入りという快挙を成し遂げました。そこから間髪入れずに発表された本作は、ダンスロック/ポップやモダンなR&B/ヒップホップのテイストを強めた前作よりもオルタナティヴロック色が濃厚な作風へとシフトしています。

とはいえ、ベースにある“ポストハードコアを通過した、キャッチーなポップパンク”感は本作でも健在。「God Bless The 90's Kids」なんてタイトルの楽曲が存在するように、あの頃のロックやラウドシーンを通過した方なら共感できるアンセミックな楽曲がズラリと並びます。

オープニングを飾る「Deep Cuts」は、そのリフワークがレッチリアレを彷彿とさせたり、楽曲全体の雰囲気がBLOC PARTYアレを思い出させたりと、2000年代前半のオルタナシーン(今となってはメインストリームでもありますが)への羨望が見え隠れしますが、先の「God Bless The 90's Kids」や「After Love In The After Hours」などからは90年代後半以降のポストグランジやポップパンクの匂いもほんのり香ってくる。時流に乗ってモダンさを強調させた前作はチャート上では成功したけど、俺たちの本流はここだぜ!と言わんばかりの姿勢は、個人的にかなり好感が持てるものです。

もちろん、前作でのトライを無しにしているわけではありません。要所要所に前作での試みが味付けとして残されており、それによって本作が単なる「自身のルーツの焼き直し」で終わっていないことがご理解いただけるはずです。ENTER SHIKARIのラウ・レイノルズ(Vo)をフィーチャーした「No Future? Yeah Right」や続く「heartLESS」あたりは、まさにその路線にある楽曲ですが、それでも軸にあるのは先にも記したアンセミックな楽曲を量産しようとするスタイル。本作は特にそこがブレていないからこそ、前作を敬遠してしまったリスナーにも響きやすいかもしれません。

前作が日本のラウドロックシーンにも浸透する可能性を秘めていたとしたら、本作はその1〜2世代上の90年代後半〜2000年代前半のギターロック/オルタナロックを通過した方々にリーチする内容かもしれません。と同時に、そういったスタイルは今の若いリスナーには新しく感じられる……かな? そうであったらいいなと思いますが、ロック自体が古臭いと言われる時代ですから、そこは過剰に期待しないでおきましょう。ただ、ある一定以上の年齢層には確実に響く1枚だと信じています。

 


▼YOU ME AT SIX『TRUTH DECAY』
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2023年2月16日 (木)

BRYAN ADAMS『CUTS LIKE A KNIFE - 40TH ANNIVERSARY, LIVE FROM THE ROYAL ALBERT HALL』(2023)

2023年2月3日にリリースされたブライアン・アダムスの最新ライブアルバム。フィジカルでの発売はなしで、デジタルリリースおよびストリーミング限定作品。

1983年1月18日に海外で発表されたブライアンの3rdアルバム『CUTS LIKE A KNIFE』は、本国カナダで最高8位を記録したほか、アメリカでも8位まで上昇。シングルカットされた「Straight From The Heart」(全米10位)、「Cuts Like A Knife」(同15位)、「This Time」(同24位)とどれもがスマッシュヒットを果たし、彼にとって出世作と呼ぶに相応しい1枚として今日まで愛され続けています。

本作はそんな代表作のリリース40周年を記念して、昨年2022年5月11日に英・ロンドンのThe Royal Albert Hallという格式高い会場にて、無観客ライブレコーディングという形でアルバム『CUTS LIKE A KNIFE』全収録曲を演奏。今回、40周年のタイミングにあわせて音源化されました。

ライブレコーディングに参加したメンバーはブライアン(Vo, G)のほか、盟友キース・スコット(G)、パット・スチュワード(Dr)、ソル・ウォーカー(B)、ゲイリー・ブレイト(Key)という布陣。原曲に参加していたのはブライアンとキースのみですが、これが今のBRYAN ADAMS BANDと理解すれば音的にも納得のいく仕上がりではないでしょうか。

10曲すべてを40年前のアルバムとまったく同じ順番で演奏するのではなく、本来M-4「Straight From The Heart」、M-5「Cuts Like A Knife」という2曲を最後に持ってきて、本来のM-6「I'm Ready」以降を4曲目に繰り上げ。そして最後に「Cuts Like A Knife」「Straight From The Heart」と並べることで、感動的な構成へと生まれ変わっています。実際、「This Time」のあとに「I'm Ready」が並んでもなんら違和感はなく、むしろキャッチーさがより増したロックアルバムとして楽しめるのではないでしょうか。

オリジナル作が40年前の作品ということで時代を感じさせる録音/音質ということもあり、現代的でクリア、かつシンプルな音で表現される名曲の数々は、ライブアーティストとして絶対的な信頼感を持つブライアン・アダムスらしさ満点のアレンジへと進化。「Let Him Know」のようにアコースティック色を強めたアレンジに生まれ変わった楽曲も存在し、単にそのままセルフカバーしているわけではないことも窺わせます。オールディーズ調の原曲アレンジも好きでしたが、無駄を削ぎ落としよりシンプルに進化した最新バージョンも捨てがたい。そこから、渋みがより増した「The Best Was Yet To Come」へとつなげ、最後はアンセミックな「Cuts Like A Knife」と、ピアノからアコギ&ブルースハープ主体のアレンジへ変更された名バラード「Straight From The Heart」で締めくくり。ひとつのライブとして流れも素晴らしいですし、ひとつの完成されたアルバムとして楽しむぶんにも文句なしではないでしょうか。

これが新たなスタンダードというわけではなく、40年後の再解釈として受け取れば、楽しみが二倍になっただけだと気づく。最近、権利の問題などもあり自身の持ち曲を再録音する機会がどんどん増えているブライアンですが、来年には最大のヒット作『RECKLESS』(1984年)がリリース40周年を迎えることもあり、今からそちらがどうなるのかも楽しみです。

でも、それよりもまずは3月の来日公演ですね!

 


▼BRYAN ADAMS『CUTS LIKE A KNIFE - 40TH ANNIVERSARY, LIVE FROM THE ROYAL ALBERT HALL』
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2023年2月15日 (水)

TALAS『1985』(2022)

2022年9月23日にリリースされたTALASの3rdスタジオアルバム。

デヴィッド・リー・ロスにフックアップされたことで、メタル界隈から外に向けても知名度が高まっていったビリー・シーン。その後、MR. BIGでの成功によってさらにその名前を広めることになりますが、そのビリーの原点がTALASというバンド。本作は名曲「Shy Boy」が収録された2ndアルバム『SINK YOUR TEETH INTO THAT』(1982年)から実に40年ぶりのスタジオアルバムとなります。

バンドは1986年、ビリーのDAVID LEE ROTH BAND入りを機に解散していますが、その後もビリー(B, Vo)、デイヴ・コンスタンティーノ(Vo, G)、ポール・ヴァルガ(Dr, Vo)の初期編成で何度か再結成ライブを行ってきました。しかし、本作の制作メンバーはそのトリオ編成ではなく、初のライブアルバム『LIVE SPEED ON ICE』(1984年)録音時のカルテット編成……ビリー、フィル・ナロ(Vo)、マーク・ミラー(Dr)、ミッチ・ペリー(G)が元になっています。

2017年夏にビリー、フィル、マーク、そしてミッチの代わりにキア・ナジョフスキ(G)を加えた布陣でTALASは再結成ライブを行いましたが、この4人で1985年頃に着手していた楽曲を正式にレコーディングして、第2期編成初のスタジオアルバムを完成させるのです。

当時制作してた楽曲をほぼそのまま、新たに味付けすることなくレコーディングした結果、そこで表現されているスタイルは“あの頃”のTALASそのもの。疾走感の強いハードロックチューンからソウルミュージックからの影響が強いポップロックなど、初期2作のスタジオ作にも通ずる作風はタイトルの『1985』に偽りなしの、40年という長い空白をまったく感じさせない良質なハードロック作品に仕上がっています。

実はボーカルのフィル、2020年に舌癌が発症し、残念ながら制作途中の2021年5月2日にこの世を去っています。しかし、幸いなことに亡くなる前にボーカルトラックはすべて録り終えており、あとはビリーを中心に作品としてまとめるだけにとどまりました。

アルバムには1985年当時の楽曲に加え、すでに『LIVE SPEED ON ICE』にライブバージョンで収録されていた「Inner Mounting」や「Crystal Clear」「Do You Feel Any Beter」もスタジオ再録。加えて、本作のために新たにパワーポップテイストのミディアムチューン「Black & Blue」、フィル逝去後にビリーが録音したインスト「7lHd h」、日本盤のみのボーナストラックとしてニーナ・シモンのバージョンで知られる「Don't Let Me Be Misunderstood」(邦題「悲しき願い」)のカバーも加わり、TALASとしての集大成感が強い内容。レコーディングには先の4人のほか、第2期ギタリストのミッチ・ペリーもゲスト参加していることからも、その色合いがより強く感じられます。

ビリーらしいインタープレイも随所に散りばめられていますが、なんといってもこのバンドらしい“モサい”B級感健在の楽曲群が非常に優れており(どんな表現だよ)、TALASに一度でも触れたことがあるリスナーなら納得の1枚ではないでしょうか。これを機に、ぜひ往年の作品もサブスクで解禁してもらいたいものです。

 


▼TALAS『1985』
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2023年2月14日 (火)

THE WINERY DOGS『III』(2023)

2023年2月3日にリリースされたTHE WINERY DOGSの3rdアルバム。

新作音源としては前作『HOT STREAK』(2015年)から7年半ぶり。その間、リッチー・コッツェン(Vo, G)はエイドリアン・スミス(G, Vo/IRON MAIDEN)とのSMITH/KOTZEN自身のソロ活動を、ビリー・シーン(B)はMR. BIGSONS OF APOLLO、そしてTALASとしてのリリースやライブ、マイク・ポートノイ(Dr)もビリーとのSONS OF APOLLOやTHE NEAL MORSE BAND、FLYING COLORSへの参加、そして復活したLIQUID TENSION EXPERIMENTのレコーディングなど、それぞれ充実した時間を過ごしていました。

もちろん、その間もTHE WINERY DOGSは活動を止めていたわけではありませんでした。2017年にはライブアルバム『DOG YEARS: LIVE IN SANTIAGO & BEYOND 2013-2016』を発表しましたし、2019年には22日間におよぶツアーも実施しています。要は、それぞれがやりたいことをやりたいタイミングに取り組み、3人のスケジュールが合ったところでツアーなりセッションなりを実施していたと。で、まとまったタイミングがコロナ以降に生まれたことで、再び腰を据えてレコーディングの準備に取り掛かった……ということなんでしょう。

デビューから在籍したLoud & Proud Recordsを離れ、新たにThree Dog Musicという自主レーベル(日本では新たにソニー・ミュージックへ移籍)から発表される本作は、基本路線は過去2作と大きく変わっていません。つまり、我々がこのバンドに求める「トリオ編成ならではの緊張感の強いインタープレイの応酬と、ソウルやブルースをルーツにもつアーシーなハードロック」がこれでもかという程に展開されているのです。もちろん、そこには過去2作以上にスキルアップした演奏/アンサンブルと、クオリティに磨きがかかった楽曲群が並んでおり、マンネリ感は皆無。リッチー・コッツェン関連の諸作品を楽しめる方なら、文句なしに気に入る1枚かと思います。

序盤はリード曲「Xanadu」や「Mad World」を筆頭に、このバンドらしいグルーヴ感を前面に押し出した楽曲が並びますが、中盤の折り返しに置かれた「Stars」あたりからその傾向が少しずつ変化しています。6分におよぶこの曲では、楽器隊の非凡な個性が随所に発揮され、最後までヒリヒリしたインタープレイが楽しめます。そこから「The Vengeance」で味付けも少しずつ変わっていき、ダイナミックなビートの「Pharaoh」、高速ブギービートが気持ちいい「Gaslight」、スローテンポのブルースロック「Lorelei」、3人の個性的かつハイレベルの演奏がこれでもかと楽しめる8分近い「The Red Wine」と楽曲のバラエティ豊かさが広がりを見せていくのです。mなもんですから、最後までまったく飽きることなく楽しめるんですよね。

このバンドの過去2作のアルバム、どちらも13曲入りで60分を超えるボリュームとあって、最後まで聴くのに覚悟が必要になるんですよね。じゃなかったら、ダラダラ聴き流して終わってしまうみたいな。だから、そこまで強く印象に残らないことも多くて(繰り返し聴くには時間もそれだけ必要ですし)。でも、今作は全10曲/50分と比較的コンパクト。かつ、楽曲の幅も後半に向けて広がっていくから最後まで緊張感を持って聴くことができる。バンド側のアルバム制作における意識も、ここ数年で少し変化したのかもしれませんが、これは個人的にも喜ぶべき方向転換だと思っています。

 


▼THE WINERY DOGS『III』
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2023年2月13日 (月)

HALESTORM『HALESTORM』(2009)

2009年4月28日にリリースされたHALESTORMの1stアルバム。日本盤は『LOUD PARK 10』での初来日にあわせて、2010年10月27発売。

リジー(Vo, G)&アージェイ(Dr)のヘイルきょうだいを中心に1997年から活動を続けてきたHALESTORMですが、ジョー・ホッティンジャー(G)&ジョシュ・スミス(B)が加わった2003〜4年以降に活動が本格化。2005年には現在も所属するメジャーのAtlantic Recordsと契約し、翌2006年春には5曲入りライブEP『ONE AND DONE』をリリースします。

そこから地味なライブ活動を展開していき、ハワード・ベンソン(HOOBASTANKDAUGHTRYIN FLAMESなど)をプロデューサーに迎えてじっくり時間をかけて1stアルバムを完成させます。ミキシングエンジニアにクリス・ロード-アルジ、マスタリングエンジニアにテッド・ジェンセンという一流どころを起用し、ゲストプレイヤーにはのちにBON JOVIに加入するフィル・X(G/「Bet U Wish U Had Me Back」のみ)、楽曲制作のコライトには元EVANESCENCEのベン・ムーディー(G)やSIXX: A.M.のジェイムズ・マイケル(Vo)、現MOTLEY CRUEのジョン・5(G)、SLIPKNOTSTONE SOURコリィ・テイラー(Vo)、AEROSMITHなどとのコラボで知られるマーティ・フレデリクセンなど著名アーティストが顔を揃えており、いかにレーベルがこのバンドに力を入れているかが伺えます。

そのサウンド的には正当的なアメリカンハードロックが下地になっており、スピードよりもグルーヴ感やヘヴィさを重視したテンポからはすでに大モノ感すら伝わります。アメリカ人、基本的にこういったミドルテンポの楽曲が好きですものね。あと、クレジットを確認するとすべての楽曲はリジーを中心に執筆されているものの、どれも単独で書いたものではなく、より良いものへとまとめ上げるために複数のコライターが名を並べている。かなりいろんな思惑の働いた作品ではあるものの、だからこそデビューアルバムにも関わらず異常に完成度が高い。世が世ならHEARTみたいに産業ロック呼ばわりされそうですよね。

そうそう、僕が初めてこのアルバムを聴いたときの印象が、まさに80年代のHEARTだったんです。心地よいテンポ感でまとめられたアメリカンハードロックに、これまた心地よく響くリジーのボーカルが乗る。全体を通してラジオフレンドリーな作風で、ゆっくり時間をかけて丁寧に売っていこうとする、そういう姿勢が見え隠れしたんです。リスナーによってはそういった作風に嫌悪感を示すのかもしれませんが、捻くれ者な自分はこういう力の入った“売れ線”も大好物なので、当時からよく聴いていた記憶があります。

実際、このアルバムから「I Get Off」「It's Not You」「Familiar Taste Of Poison」「Bet U Wish U Had Me Back」といったラジオヒットが生まれ、アルバム自体も全米40位まで上昇。現在までに50万枚以上を売り上げるヒット作になりました。ここでの地道な成功があったから、続く2ndアルバム『THE STRANGE CASE OF...』(2012年)での大成功(全米15位、ミリオン獲得)へとつなげていけたんでしょうね。

 


▼HALESTORM『HALESTORM』
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なお、本作リリースから10年後の2019年12月20日には、10thアニバーサリー・エディションもアナログ&デジタルで発売されています。こちらはCD未発売ということもあり、日本盤も発売されておりません。

本バージョンはアルバム本編11曲に加え、メジャー契約後の2006〜8年に録音された12ものデモ音源をボーナストラックとして収録。その多くが1stアルバム未収録で、音質こそ劣るもののメジャー感の強いアルバム本編とは異なるオルタナメタル/ポストグランジ的なテイストは非常に新鮮に響くはずです。

こうした歴史を踏まえつつこのデモテイクを、時系列に沿って追っていくと、どのような段階を踏んで完成度の高い1stアルバムへと到達していったか、その過程を確認できるはず。本編をしっかり楽しんだあとに、こちらもチェックしてみるといろいろ発見も多いと思いますよ。

 


▼HALESTORM『HALESTORM: THE 10TH ANNIVERSARY EDITION』
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2023年2月12日 (日)

HALESTORM JAPAN 2023@Zepp DiverCity(2023年2月7日)

Img_6594 昨年春に最新アルバム『BACK FROM THE DEAD』(2022年)を発表したHALESTORMの、2019年12月以来となる単独来日公演。僕は同年3月の『DOWNLOAD JAPAN 2019』で彼女たちのステージを初めて体験し、その男臭い演奏と意外にエンタメ色も備わった演出に一発で惹かれたクチでして。今作は出来がかなり地味だったものの、ライブだけはどうしても観ておきたくて友人にチケットを確保してもらい、いざお台場へと向かいました。

2階席後方と、ステージから距離はあったもののかなり快適に観覧できる環境とあって(また、なぜか2階席のお客さんが立ち上がらなかったこともあって)、終始落ち着いてライブを楽しむことができました。まず、久しぶりにナマで見るリジー姐さんは髪がロングになっていて、その色っぽさがハンパない。短髪時代はその佇まいがジョーン・ジェットと重なり、“新世代のロックヒロイン”感が相当濃かったものの、色香が強くなったことでステージ上の華やかさが以前とはだいぶ異なりました。

……とヴィジュあるの変化はあったものの、そこはHALESTORM。いざライブがスタートすればその豪快な歌声とダイナミックな演奏で、一気に現実に引き戻される。姐さんのパワフルなボーカルは90分ものライブの間、一度もテンションが落ちることはなく、逆に曲が進むにつれてその熱量はどんどん上がっていくという。改めて類い稀なる喉の持ち主だなと圧倒されました。

ジョー・ホッティンジャー(G)はその粗暴(笑)なビジュアルとは相反し、随所随所で繊細さを伴うプレイも聴かせてくれるし、押し引きを心得ているからこそリジー姐さんとのギターコンビネーションも抜群。あの謙虚さがあるからHALESTORMはバランスよく活動を継続できているんでしょうね。かと思えば、アージェイ(Dr)は相変わらず派手なアクションを交えたドラミングが特徴的。無駄な動き(笑)の数々で、観る者を惹きつけ楽しませてくれる。その顕著な例が、ドラムソロコーナーでの巨大スティックを使ったプレイでしょう。方法こそ異なるものの、どこか往年のトミー・リーMOTLEY CRUE)と重なるものがあります。そして、そんな2人の間に入って地盤を固めるのが、ハットをかぶりクールな佇まいのジョシュ・スミス(B)。このバンド、4人のキャラクターや役割が見事にバラバラで、だからこそ4人の関係性が均等なんでしょうね。そういった意味でも、非常に“バンド”感の強さが伝わります。

あと、今回のステージを観てバンドの余裕といいますか、懐の深さを感じさせたのが序盤でのある出来事。ステージ前方でアピール(?)していた女性ファンにジョーが気づき、それをリジーに話しかけると、リジー姐さん即座にスタッフを通じて彼女をステージへと引き上げます。そしてマイクを渡された彼女と一緒に「Apocalyptic」を演奏するのでした。ステージに上げられた彼女はもともとHALESTORMのトリビュートバンドのシンガーだったこともあり、自身も歌える曲だったこともあって無事セッションすることができたわけですね。なんだかこういうの、GREEN DAYがお客を上げてギター弾かせるのとリンクして、微笑ましいなと思います。

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ライブ中盤はリジーのピアノ弾き語りによるバラードタイム。フロアに「スマホのライトで照らして」と声がけすると、幻想的な空間に一変。「Break In」「Dear Daughter」のメドレーに続いて、「Masa Itoに捧げるわ」の一言から「Raise Your Horns」へ。すぐ目の前に伊藤さんいらっしゃったので、なんとなく周りがクスクスしていたのが印象的でした。

Img_6604 随所でお客さんとコミュニケーションをとりながら、終始笑顔で進行していくライブ。ミドルテンポの楽曲中心なのはアルバム含め、これまでのライブから引き続きなのですが、そんな中で「Freak Like Me」みたいなリズム感の曲はやっぱり映えますね。そういう意味では、唯一のアップチューン「Love Bites (So Do I)」の出番が早すぎるといつも感じるのですが、まあそこに頼りすぎていないから序盤に披露しちゃうのかもね。あと、新作デラックス盤に追加公演された「Mine」みたいな曲は、ライブに入れると大きなフックとなるので東京公演でも披露してほしかったな(大阪ではやったみたいですが)。

公演ごとにセットリストをだいぶいじってくる彼女たちですが、次は東京でも複数公演やってほしいくらい。そのためには、さらにファンベースを広げる必要も生じてきます。なので、メタル系フェスではなくサマソニみたいな場への投入が、今後の課題なのかもしれません。

セットリスト
01. Back From The Dead
02. Love Bites (So Do I)
03. Wicked Ways
04. Apocalyptic
05. Bombshell
06. Amen
07. Break In / Dear Daughter [Lizzy Piano Solo]
08. Raise Your Horns [Lizzy Piano Solo]
09. Familiar Taste of Poison
10. Drum Solo
11. Freak Like Me
12. I Get Off
13. The Steeple
<アンコール>
14. Here's To Us
15. Psycho Crazy
16. I Miss The Misery

2023年2月11日 (土)

IN FLAMES『FOREGONE』(2023)

2023年2月10日にリリースされたIN FLAMESの14thアルバム。

間に新録テイクを含む名盤『CLAYMAN』(2000年)の20周年記念盤を挟みつつ、オリジナルアルバムとしては前作『I, THE MASK』(2019年)からほぼ4年ぶり。ここ数年は制作、ツアーのたびにメンバーチェンジを繰り返してきた彼らですが、今作にはアンダース・フリーデン(Vo)、ビョーン・イエロッテ(G)といった初期メンバーに加え、クリス・ブロデリック(G/ex. MEGADETHなど)、ブライス・ポール(B)、ターナー・ウェイン(Dr/ex. UNDERMINDED、ex. SCARY KIDS SCARING KIDS、ex. CHIODOSなど)という布陣で制作に臨んでいます。

3作連続でハワード・ベンソン(HOOBASTANKDAUGHTRYHALESTORMなど)をプロデューサーに、元IN FLAMESのドラマーでハワード・ベンソンの門下生でもあるジョー・リカルドをミキシングエンジニアに迎えて制作された本作は、前作で復調し始めたメロデス要素がさらに濃くなっています。それこそ売り文句に「90年代メロデス期への回帰を強烈に感じさせる」とありますが、あながち間違いではないのかもしれません。

もちろん、だからといって2000年代以降のモダンメタルへと接近した経験をなかったことにはせず、そういった実験や遠回りが無駄ではなかったことも本作では証明されており、整合感の強さなど無駄を極力排除した作りはそういった経験が見事な形に反映されています。特に連作となるアルバムタイトルトラック「Foregone Pt. 2」や続く「Pure Light Of Mind」あたりは、古き良き時代のメロデスと2000年代以降の王道感がバランスよく配合されている。もちろん、それ以外の「State Of Slow Decay」や「Meet Your Maker」など初期の彼らを彷彿とさせる楽曲にも、しっかりとモダンな質感が備わっており、単なる焼き直しで原点回帰したわけではないことを証明しています。

初期衝動感の強かった90年代の作品は、もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、その荒々しさ故に聴き手を選ぶ可能性も高い。そういった意味では、ニューメタル的キャッチーさに重きを置き始めた2000年代半ば前後の作品を通過したことを思い出させつつ、バンドの根っこを大切に捉え直した本作は単なる原点回帰ではなく、何ひとつ取りこぼすことなく前進することを選んだIN FLAMESの強い意志が伝わる“覚悟”の1枚かもしれません。

また、過去にDEPECHE MODEの楽曲をカバーした彼ららしく、アルバム中盤にはそういったゴシック色の強いバンドからの影響もしっかり見つけることができる。そうした湿り気の強さがメタルらしい“泣き”の要素や、メロデスらしい悲哀さにも直結しており、アルバムにダイナミズムも与えている。かつ、スピード感もあれば、ミドルテンポによる重々しさもしっかり備わったバランス感含め、全方位のメタルファンに向けてアピールするモダンメタルの総決算的な1枚ではないでしょうか。

もし、今からIN FLAMESというバンドに触れるのならば、無理して初期の作品から入るのではなく、この新作が入門編でもいいのではないか。そう強く思わせてくれる、“わかりやすい”良作です。

 


▼IN FLAMES『FOREGONE』
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2023年2月10日 (金)

BRYAN ADAMS『SPIRIT: STALLION OF THE CIMARRON』(2002)

2002年5月14日にリリースされたブライアン・アダムスの9thアルバム。日本盤は同年6月21日発売。

コンピレーションアルバム『THE BEST OF ME』(1999年)を挟みつつも、オリジナル作品としては『ON A DAY LIKE TODAY』(1998年)から約3年半ぶりとなった本作は、アニメーション映画『スピリット:スタリオン・オブ・ザ・シマロン』のサウンドトラックとして制作されたもの。そういった意味では純粋なオリジナルアルバムとは言えないかもしれませんが、全15トラック中11トラックがブライアンの歌モノ楽曲なので一般的にオリジナルアルバムにも含まれています。

映画のスコアをかのハンス・ジマーが手掛けていることもあり、アルバムのプロデュースや収録された楽曲の制作にも彼の名前を見つけることができます。しかし、すべてがハンスの色というわけではなく、楽曲自体はグレッチェン・ピーターズやロバート・ジョン・“マット”・ラングなどブライアンの楽曲制作には欠かせない面々や、ギャヴィン・グリーナウェイ、エリオット・ケネディ、トレヴァー・ホーンなど英国出身のコンポーザーとのコライトにより生まれたものが中心。演奏にもキース・スコット(G)やミッキー・カリー(Dr)など気心知れたメンツが加わっていることから、ハンスとのサントラ制作というお題の下に完成した1枚と解釈できます。

「Get Off My Back」といったブライアンらしいロックンロールも収録されているものの、基本的には映画を劇的に盛り上げるため、各場面に則した楽曲が中心。ということもあってか、ムーディーなミディアムナンバーや穏やかなバラードがずらりと並ぶ大人な内容となっています。90年代に入ってから「(Everything I Do) I Do It For You」の爆発的ヒットも手伝い、バラードシンガー的な見られ方も強いブライアンですが、彼のそういった側面を愛するリスナーにはうってつけの1枚と言えるでしょう。

また、前作『ON A DAY LIKE TODAY』での内向的な作風を考えると、本作へと続いていく流れはあまり意外とは思えず、当時は「ああ、彼も大人になったし、こうやってどんどん穏やかな方向へシフトしていくんだね」と少しだけがっかりしたものです。もちろん、本作は映画のサントラありきで制作されたものなので、これがずっと続くわけではないのですが。

本作のリード曲であり映画の主題歌的な立ち位置にある「Here I Am」、サラ・マクラクランをフィーチャーした「Don't Let Go」、アコギの弾き語りから徐々に盛り上がっていく「Nothing I've Ever Known」など良質な楽曲は当然のように豊富な本作。あくまで“長いアーティスト史における、1方向に特出した表現のひとつ”として受け取れば、これもアリなのでは。もちろん、ここでの経験があったからこそ続く『ROOM SERVICE』(2004年)で、溜め込んだものが一気に爆発するわけですけどね。

 


▼BRYAN ADAMS『SPIRIT: STALLION OF THE CIMARRON』
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なお、本作はフランスやドイツ、スペイン、イタリア、ブラジルなど、リリースされる国によってボーカルの言語が異なるとのこと。映画自体がそれぞれの上映国の言語でアフレコされていることもあり、劇中で使用される楽曲(ボーカル)も合わせているようです。ブライアンは英語版のほか、フランス語版も歌唱しており、こちらのバージョンもサブスクで聴くことが可能です。なお、日本版の主題歌はZIGGY森重樹一が担当しているので、ぜひ映像で確認してみてください。

 


▼BRYAN ADAMS『SPIRIT: L'ETALON DES PLAINES』
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2023年2月 9日 (木)

LITTLE ANGELS『JAM』(1993)

1993年1月31日にリリースされたLITTLE ANGELSの3rdアルバム。日本盤は同年1月25日発売。

前作『YOUNG GODS』(1991年)が全英17位と、本国でスマッシュヒットを記録。また、同作からは「Boneyard」(33位)、「Product Of The Working Class」(40位)、「Young Gods」(34位)、「I Ain't Gonna Cry」(26位)とTOP40入りシングルが4作も生まれ、着実に知名度を高めていきます。

そんな成功の一方で、アルバム完成後にオリジナルドラマーのマイケル・リーが脱退し、THE CULTへ加入することに。リーに代わり、新たにマーク・リチャードソン(のちにSKUNK ANANSIEFEEDERにも加入)が加わり、ツアーを乗り切ります。そして、新たな布陣で完成させた勝負作となる3rdアルバム、なんと初の全英1位を獲得することになります。

前作で感じさせたハードロックの枠からの脱却、それがこのアルバムでは一気に開花しています。よりポップで華やか、それでいてサイケデリック調でオルタナティヴロック的な側面も強く感じさせるカラフルさは、当時国内専門誌で酷評されたことが記憶に残っています。いや、そんな狭い枠に捉われさえしなければ、本作は非常に完成度の高いロックアルバムとして評価できるはずなんですが。

過去作で見受けられたブラスをフィーチャーするスタイルは、リードシングル「Too Much Too Young」(全英22位)を筆頭に本作でも積極的に取り入れられています。しかもこの曲、コーラスでかのブライアン・アダムスもゲスト参加。コーラスというより、もはやサブボーカルと言ったほうがぴったりな目立ち具合なんですけどね。

このほかにも、適度な枯れ具合が心地よいミディアムチューン「Soapbox」(同33位)、ヒップホップ以降のファンキーさが活かされた「Don't Confuse Sex With Love」、ビートルズ調のサイケナンバー「Womankind」(同12位)、アコースティック色の強いバラード「The Colour Of Love」や「Sail Away」(同45位)、泣きメロっぽい湿り気がたまらないストレートなロック「I Was Not Wrong」、パワフルなギターリフとビートが気持ちよく響く「Tired Of Waiting For You」など、とにかく佳曲揃い。前作ほどのハード&ヘヴィさは皆無ながらも、ブラスを要所要所にフィーチャーした豪快なポップロックの数々で、最後まで飽きさせることなく楽しませてくれます。

グランジ全盛かつブリットポップ前夜の過渡期的時期に、こういった正統派サウンドで1位を獲ったこと自体奇跡的ですし、その成功もあって今作を携えたツアーではVAN HALENBON JOVIのサポートで本国を回るなど、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たそうとします。が、1位を獲得したものの、セールス的には期待以上の成績を収めることができず、彼らは続くベストアルバム『A LITTLE OF THE PAST』(1994年/全英20位)をもってメジャーのPolydor Recordsと契約終了。解散の道を選ぶこととなるのでした。

ちなみに、本作を含むLITTLE ANGELSのPolydor時代の3作品は2022年3月に国内廉価盤が再発されたものの、ストリーミングは国内未配信。できれば配信を通じてより多くの人に届くよう、お願いしたいところです。

 


▼LITTLE ANGELS『JAM』
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2023年2月 8日 (水)

BLACK SABBATH『BORN AGAIN』(1983)

1983年9月12日にリリースされたBLACK SABBATHの11thアルバム。邦題は『悪魔の落とし子』。

ロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo)とヴィニー・アピス(Dr)の脱退を受け、体勢を立て直そうとしたBLACK SABBATH。当初はロバート・プラント(ex. LED ZEPPELIN)やデヴィッド・カヴァーデイルWHITESNAKE、ex. DEEP PURPLE)といった有名どころから、当時はまだ無名だったマイケル・ボルトンまでもが候補に上がったものの、新たに契約したマネジメントから当時GILLANとして活動中だったイアン・ギラン(ex. DEEP PURPLE)をプッシュされ、この豪華なコラボレーションが実現することとなりました。

そもそもトニー・アイオミ(G)やギーザー・バトラー(B)はこのセッションから生まれた楽曲を、BLACK SABBATH名義として発表するつもりはなかったようで、最終的にはマネジメント側からの猛烈なプッシュでBLACK SABBATH名義でリリースされてしまったとのこと。それもあってか、楽曲の数々はオジー・オズボーン時代ともディオ時代とも異なる、不思議な浮遊感を醸しさすハードロックが展開されています。もちろん、随所からオジー時代はディオ時代の香りは多少するものの、最終的にギランの特徴的なボーカル&シャウトによって打ち消されてしまうのです。

アイオミのギターワークや、ベースとのユニゾンを基調としたリフ作りはどこかモダンさを感じさせ、のちのグルーヴメタル的でもあるような……そう、「Zero The Hero」を筆頭に、意外にもここで展開されている手法って90年代以降のグランジやオルタナメタル的なものに近いんですよね。僕自身がそれに気づいたのも、実はつい最近のことなんですが。だって、それ以前はどうしても“失敗作”“SABBATH PURPLE”みたいな揶揄がお似合いの1枚だと思い込んでいましたから。

とはいえ、アートワークの酷さは苦笑ものですし、ぼんやりしたミックスや安っぽいギターの音作りは減点対象以外の何ものでもありませんが。あと、「Digital Bitch」はどう聴いても“SABBATH PURPLE”と呼ぶにぴったりな仕上がり。「Disturbing The Priest」や「Born Again」などいいところいってる曲もなくはないんですが、もうちょっと頑張れたんじゃないかなという気も。まあ、歌うのがギランじゃねえ……と言っては失礼かもしれませんが、キャラクターのオジー、表現力のディオの後釜としては荷が重すぎますよ。

母国イギリスでは最高4位と好記録を残すものの、本作完成後にはビル・ワードが再脱退(その後、1998年まで復帰せず)。ギランも再結成DEEP PURPLEに参加するため、短期間でバンドを離れることとなります。その後、BLACK SABBATHはやむを得ず活動休止に突入するのでした。

 


▼BLACK SABBATH『BORN AGAIN』
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2023年2月 7日 (火)

BLACK SABBATH『MOB RULES』(1981)

1981年11月4日にリリースされたBLACK SABBATHの10thアルバム。邦題は『悪魔の掟』。

トニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)、ビル・ワード(Dr)のオリジナル編成にロニー・ジェイムズ・ディオ(Vo/ex. RAINBOW)が加入して制作された前作『HEAVEN AND HELL』(1980年)が、本国イギリスで最高9位、アメリカでも最高28位とヒットを飛ばし、辛うじて低迷期を脱したBLACK SABBATH。しかし、その成功も束の間、『HEAVEN AND HELL』を携えたツアー途中でビルが脱退してしまいます。

しかし、そのツアーを支えたのが、リック・デリンジャーなどと活動をともにしてきたヴィニー・アピス(Dr)。バンドはそのままヴィニーを正式メンバーに迎え、ジェフ・ニコルズ(Key)をレコーディングメンバーに迎えて、再びマーティン・バーチ(IRON MAIDENWHITESNAKEDEEP PURPLEなど)とスタジオ入りします。

ロニー、トニー、ギーザーの3頭体制で制作された楽曲の数々は、『HEAVEN AND HELL』の雰囲気を引き継ぎつつも若干オジー・オズボーン期のテイストも復調。それもあってか、前作ほど様式美を追求した方向性というわけでもなく、「Neon Knights」をより陽気にさせたアップチューン「Turn Up The Night」やひたすらヘヴィさに振り切ったミドルナンバー「The Sign Of The Southern Cross」、豪快さが増した「The Mob Rules」、オジーが歌っても何ら違和感のない「Country Girl」など比較的バラエティ豊かな楽曲群はどこか軸を失ったようにも映り、聴き手に散漫な印象を与えます。

1曲1曲の仕上がりは非常に高く、トニーのギターワークもオジー時代のおどろおどろしさ&ヘヴィさ、そして『HEAVEN AND HELL』で得たメロディアスなスタイルの両面を発揮しており、アーティスト/プレイヤーとしての成長を強く感じさせる。しかし、それがアルバムのトータル面に直結したかといえばそうでもなく、残念ながら1枚のまとまったアルバムとしての完成度は前作より劣っていると言わざるを得ません。

ロニーの持ち味を見事に活かした「Falling Off The Edge Of The World」のような名曲も存在するものの、この方向でひっぱり切ったらもっと成功できたんじゃないか……そんなもどかしさを伴う1枚です。個人的には嫌いになりきれない魅力もしっかり感じているんですけどね。結局、本作での活動を経て1982年にロニーとヴィニーがバンドを脱退し、そのまま新バンドDIOを結成。その後、サバスは意外なシンガーをリクルートすることになります。

 


▼BLACK SABBATH『MOB RULES』
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2023年2月 6日 (月)

CANDLEMASS『SWEET EVIL SUN』(2022)

2022年11月16日にリリースされたCANDLEMASSの13thアルバム。

オリジナル作としては前作『THE DOOR TO DOOM』(2019年)から3年9ヶ月ぶり、初代ボーカリストのヨハン・ラングクイスト(Vo)が復帰して2枚目のスタジオアルバム。『THE DOOR TO DOOM』を携えたワールドツアーでは、2016年の『LOUD PARK 16』以来となる初の単独来日公演も東京&大阪で実現し、その圧巻のステージが絶賛されました。

コロナ禍を挟んで届けられた本作は、成功を収めた『THE DOOR TO DOOM』の延長線上にある作風。言ってしまえば、変わりようのなダークでドゥーミーなヘヴィメタル満載の1枚なわけです。どこかロニー・ジェイムズ・ディオをイメージさせるヨハンの歌声は、決して声域が広いわけではありませんが、そのおどろおどろしさと仰々しさを併せ持つ歌唱スタイルはBLACK SABBATH直系のエピカルなドゥームメタルとの相性が抜群なのです。

オジー・オズボーン期のサバスとディオ期のサバス、それぞれの良い面を抜き出して、北欧メタルバンドらしい(良い意味での)アンダーグラウンド感と叙情的な側面を随所に散りばめた楽曲たちは、ヘヴィメタルというジャンルに多少なりとも心を奪われたことがあるリスナーなら絶対にハマるはず。特に「Angel Battle」や「Black Butterfly」のような起伏に富んだアレンジを持つ楽曲は、メタルリスナーなら嫌いになれるわけがないですからね。

スピードよりも重さを追求したミドルチューンの数々は、どれも似たタイプではあるんだけど、ボーカルやギターの多彩さでしっかり差別化ができているし、5〜6分前後と決して短くはない尺の中でもさまざまな変化が付けられている。本作最長(約7分40秒)の「Devil Voodoo」で見せる展開の数々も、このバンドらしいドラマチックさが伝わり好印象。なもんだから、全10曲/約54分を退屈することなく最後まで楽しむことができます。

40年近くにわたり、ひとつのスタイルにこだわり続けたCANDLEMASSの姿勢は、もはや伝統芸能そのもの。“進化”よりも“深化”にこだわり続けた結果、到達することができた本作は至高の1枚と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。

 


▼CANDLEMASS『SWEET EVIL SUN』
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2023年2月 5日 (日)

THE 1975『BEING FUNNY IN A FOREIGN LANGUAGE』(2022)

2022年10月14日にリリースされたTHE 1975の5thアルバム。邦題は『外国語での言葉遊び』。

全英1位、全米4位を記録した前作『NOTE ON A CONDITIONAL FORM』(2020年/邦題は『仮定形に関する注釈』)から2年5ヶ月ぶりの新作。本国イギリスでは5作連続1位を記録したほか、オーストラリアやスコットランド、アイルランドでも1位、アメリカでは最高7位という好成績を残しています。また、ここ日本でも8月開催の『SUMMER SONIC 2022』ヘッドライナー公演後ということもあり、オリコンアルバムチャートで最高12位(合算チャートでも12位)と過去最高記録を達成しました。

前作『NOTE ON A CONDITIONAL FORM』は全22曲/計82分というCDの収録容量記録を大きく塗り替えつつ、時代に即した“プレイリスト”的な作風で好評を博しましたが、続く今作は全11曲/約43分という前作の半分近いボリューム。これを「スケールダウンした」「以前よりも創作欲が落ちたのでは」とマイナス評価する方も少なくないでしょうが、そもそもこの2作は作品集として方向性が真逆だと思うんです。

1曲1曲を取り上げると、今作で展開されているキャッチーな作風はここ数作の延長線上にあると言えます。かつ、本作では“生”感が復調しており、ロックバンドとしの軸足を“進化”ではなく“深化”にシフトさせることで全体の統一感が強まっている。要は、好きなもの詰め合わせだった前作の“プレイリスト”感が減退し、古き良き時代の“アルバム”感を取り戻しているわけです。なもんですから、前作とは受ける印象も異なるわけです。

全英&全米1位を獲得した2作目『I LIKE IT WHEN YOU SLEEP, FOR YOU ARE SO BEAUTIFUL YET SO UNAWARE OF IT』(2016年)以降、ロックバンドとしての革新的側面と実験性を強めていったTHE 1975ですが、その実験性はRADIOHEADあたりが試みたコアなものではなく、あくまで「ポップミュージック」が大前提として存在していた。その大衆性をここまで失うことがなかったから、こういった王道感の強いスタイルにも自然な形で立ち返ることができるわけです。

いろんな経験を積み重ねた結果、本作で制作された楽曲たちはフレッシュさよりもほろ苦さを感じさせるものが多く、デビューからの10年で彼らが得たもの/失ったものがストレートに表現されています。しかし、彼らなりにストレートに表現してはいるものの、聴き手側からしたら意外と入り組んだ構造に映り、時にその印象がプログロック/ポンプロックと重なる瞬間すら見受けられる。世が世なら旧世代的AORと切り捨てられそうなこのスタイルも、シーンが何周もまわった2022〜23年だからこそ新鮮なものとして受け取ることができる。良い時代になったものです。

はたから見たら紛い物の工業製品に映るかもしれないけど、間近で見たら純度100%の手作りだとわかる。最先端なんだけど、実は懐かしさ満載で細かいところにまで手が行き届いていることにも気付かされる。そんなアンバランスさを持つ本作は、“イマドキ”の“ナウ”なロックアルバムではないでしょうか。そりゃ嫌いになれるわけないし、積極的に好きだと言いたくなりますわ。

 


▼THE 1975『BEING FUNNY IN A FOREIGN LANGUAGE』
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2023年2月 4日 (土)

BLUR『LEISURE』(1991)

1991年8月26日にリリースされたBLURの1stアルバム。日本盤は同年9月20日発売。

1990年10月にシングル「She's So High」(全英48位)でデビューを果たしたBLUR。続く1991年4月発売の2ndシングル「There's No Other Way」(同8位)、7月発売の3rdシングル「Bang」(同24位)とスマッシュヒットを連発し、アルバム自体も最高7位という新人としては上出来な成績を残しています。

以降も長きにわたりタッグを組むスティーヴン・ストリート(THE SMITHS、モリッシー、THE CRAMBERRIESなど)が全体像をまとめる役割を果たした本作は、次作『MODERN LIFE IS RUBBISH』(1993年)以降に色濃く表れる王道ブリティッシュロック色&ストレンジなポップ感こそ完全開花してはいないものの、それでも独自性が随所に見受けられる良質な1枚。今聴くとBLURの王道からは若干逸れるかもしれませんが、これはこれとして楽しめる内容ではないでしょうか。

サイケデリックさと浮遊感が同居する「She's So High」や「Bad Day」、ダンサブルなビートが心地よい「Bang」や「There's No Other Way」あたりからは、当時ブレイクしていたTHE STONE ROSES以降の流れを汲むスタイルで、その後の彼らとは多少色が異なるかな。また「Slow Down」を筆頭に、MY BLOODY VALENTINEなどシューゲイザー影響下にあるオルタナ感も1991年という時代ならではか。こういった曲を聴くと、まだまだ彼ららしい個性が掴みきれていなかったんだなと再認識させられます。

その一方で、のちのブリットポップ路線にも通ずる「Fool」や、どこか捻くれた感が伝わる「Repetition」あたりに、その後のBLURの片鱗を感じ取ることができる。そのもっともたる1曲が、のちに映画『トレインスポッティング』を通じて再評価される「Sing」ではないでしょうか。先に記した“らしくない”要素と、その後の“らしさ”が集約されたクロスロードのような1曲でもあるのですが、1991年というブリットポップ“勃発前”にすでにブリットポップ“以降”を彷彿とさせる曲を完成させていた事実に、やはり恐るべしバンドだなと実感させられます。

我々がよく知るBLURは本作リリース直後に発表されたシングル「Popscene」(全英32位/アルバム未収録)からスタートするわけですが、その前夜感がひしひしと伝わる、まさに処女作と呼ぶにふさわしい1枚。デーモン・アルバーン(Vo)やグレアム・コクソン(G)の類い稀なる才能のかけらを、ぜひ感じ取っていただきたいです。

 


▼BLUR『LEISURE』
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2023年2月 3日 (金)

GINGER WiLDHEART『TEETH』(2023)

2023年2月3日に配信リリースされたジンジャー・ワイルドハートの最新アルバム。

本作は今年後半に正式発売が予定されている、ジンジャー書き下ろしのパンクナンバー16曲を収めたアルバム。Bandcampで2月3日の24時間限定で配信リリースされました。日本時間だと4日の午後遅くくらいまでならダウンロード購入可能なのかな。

1曲平均が1〜2分台、アルバム自体も16曲で25分程度という短尺はパンクというよりハードコアのそれに近いですが、楽曲自体はパンクロックの歴史を総括するような内容。適度なメタリックさも残されており、そのあたりがジンジャーらしさに直結している気がします。

歌うというより“がなる”という表現が近いジンジャーの歌唱も、THE WiLDHEARTSなどでのハードコアサイドを彷彿とさせるものがあります。もちろん、随所に彼らしいメロディアスさ(非凡なメロディセンス)も残されており、ポップ&キャッチーなジンジャーが好きという方にも引っかかる要素を少なからず感じ取ることができることでしょう。

彼自身、Twitterで「自分が愛するパンクロックの歴史を網羅したオリジナル曲たち」と表現していますが、確かにその例えにぴったりな内容。無心でモッシュできそうな曲から、拳を上げて一緒にシンガロングしたくなるような曲まで、多くの「THE WiLDHEARTSファンおよびジンジャーファンがイメージするパンクロック」が凝縮された本作は、難しいことを考えずに楽しむのが一番かな。そう、「すべてのパンクファン」へ向けたものというよりも、あくまでジンジャーを通過したパンクロックという事実が大前提ですからね。そこを捉え違えると、「なんだよ、全然パンクじゃねえよ!」と大変なことになりそうですから。

この24時間で果たしてどれだけのファンに届くか不明ですが、ひとまずザッと聴いた感想は以上です。今回聴き逃した方は、今年後半の正式リリースまで指を咥えながら待ち続けてください!

 


▼GINGER WiLDHEART『TEETH』
(Bandcamp:MP3)

THE CURE『WISH』(1992)

1992年4月21日にリリースされたTHE CUREの9thアルバム。日本盤は同年4月22日発売。

全米2位の大ヒットを記録した「Lovesong」を含む前作アルバム『DISINTEGRATION』(1989年)が、全英3位/全米12位(200万枚以上の売り上げ)という好成績を残し、前々作『KISS ME, KISS ME, KISS ME』(1987年)からいい流れを築き上げてきたTHE CURE。その数字的な成績という点で、続く今作では初の全英1位、アメリカでも最高2位と過去最高記録を打ち立てます。

過去2作でゴシックロック路線よりもUSオルタナティヴロック寄りのサウンド/アレンジへとシフトしてきた彼らでしたが、今作ではその振り切り方がより強くなった印象を受けます。それは、世の中的にグランジのようなオルタナロックが受け入れられていたことも大きく作用したのでしょう。「Apart」のような楽曲では従来のゴシックテイストに、グランジ的なダークさが見事な形でミックスされており、いろんな意味でステージがひとつ上がった印象を受けます。

もちろん冒頭を飾る「Open」を筆頭に、「High」(全英8位/全米42位)や「Friday I'm In Love」(全英6位/全米18位)といったヒットシングルなど、キャッチーさも絶妙なバランスで保ち続けている。かつ、「From The Edge Of The Deep Gree Sea」ではダークなドリームポップ的な側面も見え隠れし、「Trust」では耽美さをより強調したスローアレンジが楽しめる。従来のらしさをよりモダンにシフトさせた「A Letter To Elise」、ダンサブルなビートにシューゲイズ的色合いを加えた「Cut」など、どの曲も非常にクセが強いのに親しみやすい。約66分と非常にボリューミーな内容ながらも最後まで飽きずに楽しめる、黄金期にふさわし1枚です。

THE CUREは以降も良質な作品を発表し続けていますが、個人的にもっとも興味を持って触れていた彼らの新譜はここまでかな。80年代後半から90年代初頭の、多感な時期に触れた3作品(『KISS ME, KISS ME, KISS ME』、『DISINTEGRATION』、そして本作)に対する思いは、今でもかなり強いものがあります(もちろん初期の作品も、後期の作品も好きという前提です)。

なお、2022年11月25日には本作のリリース30周年を記念した最新リマスター盤と、未発表音源集を付属した3枚組デラックスエディションが同時発売。2018年にはすでに編集作業は完了していたようですが、非常にクリアで音の分離が素晴らしいリマスター盤は必聴ですし、完成形へと至るまでの苦心が見えるアルバム収録曲のデモ音源や、1993年に発表されたインスト中心の『LOST WISHES EP』収録音源なども、『WISH』という傑作を振り返る上では非常に重要なアイテムと言えるでしょう。まずはリマスタリングされた本編をじっくり楽しんでから、その魅力を補強する形でボーナストラックに触れてみてください。

 


▼THE CURE『WISH』
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2023年2月 2日 (木)

AHAB『THE CORAL TOMBS』(2023)

2023年1月13日にリリースされたAHABの5thアルバム。日本盤未発売。

AHABはドイツ出身の4人組ドゥームメタル/プログメタルバンド。結成は2004年とその歴史はすでに長いものの、メンバーチェンジは2008年にベーシストが交代したのみで、15年にもわたり不動の4人で活動を続けています。今作は2015年発売の4thアルバム『THE BOATS OF THE "GLEN CARRING"』以来、約7年半ぶりの新作。間にライブアルバム『LIVE PREY』(2020年)を挟んでいるものの、だいぶ間が空きましたね。にもかかわらず、アメリカではBillboardチャートでTop New Artist Albumsで9位、Current Hard Music Albumsで14位、Current Digital Albumsで34位となかなかの好成績を残しています。

彼らのサウンドはドゥームメタルの中でも“フューネラル・ドゥームメタル”に分類されるそうで、「非常に遅いテンポで演奏され、空虚感と絶望感を呼び起こすことに重点を置いており、時折キーボードなどを用いて暗いアンビエント要素を演出する」んだとか。実際、本作に収録された7曲すべてがこういったテイストで、スローなうえにプログロック的テイストが添えられているものだから1曲が異常に長い。もっとも短いM-2「Colossus Of The Liquid Graves」でさえ6分半で、それ以外は基本8分以上。アルバム後半の4曲はすべて10分超の大作ばかりです。そりゃあ7曲で67分という長尺作品になるわな。

本作は“SFの父”と呼ばれたフランスの作家、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』がモチーフではないかと言われています。それは、“珊瑚の墓”を意味するアルバムタイトルや、海底で展開されるSFチックなアートワークからも想像に難しくありません。そのダークなサウンドや世界観は、まるで浮力を失い、深い海底へとただひたすら落ちていく絶望感そのもの。通常なら“地を這うような”と表現するべきドゥーミーなサウンドや楽曲アレンジも、ここでは誰も助けに来ない(来られない)海底でひとり助けを求める悲痛な叫びとリンクし、聴き手としても悲しみや絶望を通り越して笑いすら込み上げてきます。

時折訪れるフォーキーさやクリーントーンボーカルに、ほんのちょっとだけ希望を見出すものの、それもほんの束の間の出来事で、すぐに再びものすごいスピードで海底に引き摺り込まれる。そんな感覚が非常に心地よく、長尺さをまったく意識することなく最後まで楽しめました。こういう作品は無心でヘヴィな音像に身を委ねるに限ります。

海底で絶命した結果、珊瑚で作られた墓へと埋葬される。そんな悲壮感が豪快なヘヴィサウンドと異常にスローテンポなバンド演奏、アグレッシヴなグロウルと牧歌的なクリーンボーカルによって、過剰すぎないドラマチックな演出を見せる本作は、なかなかの力作ではないでしょうか。どうせなら、歌詞で表現されている世界観もしっかり理解して、さらに聴き込んでみたいと思います。

 


▼AHAB『THE CORAL TOMBS』
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2023年2月 1日 (水)

SLY『VULCAN WIND』(1998)

1998年6月25日にリリースされたSLYの4thアルバム。

初期2作のモダンヘヴィネスを取り込んだスタイルから一転、前作『KEY』(1996年)ではプログロック的側面を強調させつつ、80年代のジャパメタ的テイストをより強めることで旧来のファンはもちろんのこと、新たなファン層を拡大する可能性を秘めた新たなスタイルを確立させました。そんなSLYが前レーベルのBMGビクターから、新たにワーナーミュージック系列のEast West Japanへと移籍。同レーベルから最初で最後となる1枚を完成させます。

アルバムを重ねるごとに、そのアレンジがよりシンプルでソリッドなものへとシフトしているSLYですが、本作はそのスタイルの究極形といえる仕上がりで、その片鱗は全10曲で40分というコンパクトな作風からも感じ取ることができます。どの曲も3〜4分台でまとめ上げられており、二井原実(Vo)によるメロウなボーカルを軸にしつつ、石原慎一郎(G)、寺沢功一(B)、樋口宗孝(Dr)によるテクニカルなバンドアンサンブルを存分に楽しめる。前作はあからさまにプログロックからの影響が見え隠れしましたが、今作はそのへんのテイストはあくまで味付け程度。むしろ徐々に強まり始めている80'sメタルの色合いが、より濃厚に表出したことで、彼らの作品の中でもっとも聴きやすい1枚に仕上がった印象を受けます。

メンバーが影響を受けた70年代のオーソドックスなハードロックを下地にしつつ、それぞれがプロデビューして以降に表現してきた80'sジャパニーズメタル、そして90年代以降のモダンメタルを咀嚼しつつ、独自の解釈を経て到達した原点回帰的な内容は、1998年というニューメタル全盛の時代においては数周も時代遅れなものだった。しかし、これが彼らにできる最大限の譲歩であり、かつ「譲れないもの」が詰め込まれた作品だった。プログもサイケデリックもポップも飲み込み、モダンヘヴィネス側に振り切ることなく信念を突き通した結果がこれなのですから、もはやこれ以上は望めない。そういった意味でも本作は、SLYという短命に終わったバンドにとっての終着点であり臨界点だったのかもしれません。

初期2作が良くも悪くもガチャガチャしすぎていて、旧来のジャパメタリスナーにはなかなか馴染みにくかったかもしれません。そんな中、突如変化を遂げた前作『KEY』と今作『VULCAN WIND』は年寄り(笑)にも優しい、1998年時点での最新型ジャパメタだった。そりゃあ良いに決まってる。と同時に、本当にそれは1998年という時代に則したものだったのかという疑問もあり、リリース当時は正直「?」と感じたことも付け加えておきます。あれから25年もの歳月を経て、余計な邪念なしに本作と向き合うことができるようになった今、改めてリリースタイミングが悪かった1枚だなと感じています。前作以上にめっちゃ良質なハードロックアルバムですもんね。

前作『KEY』からの流れを汲むだけでなく、ちゃんと1stアルバム『SLY』(1994年)や2ndアルバアルバム『DREAMS OF DUST』(1995年)でのグルーヴメタルの経験も反映されており、「Hypocratic Oaf」のようなファストナンバーもしっかり用意されている。これが受け入れられなかったら、もうあとがない……その結果、バンドは本作を携えた全国ツアー終了後に活動停止。二井原はこの頃、「自分のような歌い手は、今のこの「時代には居場所がないのでは」と考え、引退も意識したそうです。それくらい90年代、特に90年代後半は「メタル冬の時代」だったのです(このへんは、陰陽座の瞬火さんとお話したときにも、ご本人の口から語られていましたし、当の二井原さんとお話したときもそのようなことをおっしゃられていましたしね)。

先日、このアルバムのみサブスクで数ヶ月前に解禁されていたことに気づき、2023年という本作発売から25年経ったタイミングに紹介することにしました。追って『DREAMS OF DUST』と『KEY』についても取り上げる予定です。BMGビクター時代の3作品に関しても、正式にサブスク解禁されることを心待ちにしております。

 


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