THE 1975『BEING FUNNY IN A FOREIGN LANGUAGE』(2022)
2022年10月14日にリリースされたTHE 1975の5thアルバム。邦題は『外国語での言葉遊び』。
全英1位、全米4位を記録した前作『NOTE ON A CONDITIONAL FORM』(2020年/邦題は『仮定形に関する注釈』)から2年5ヶ月ぶりの新作。本国イギリスでは5作連続1位を記録したほか、オーストラリアやスコットランド、アイルランドでも1位、アメリカでは最高7位という好成績を残しています。また、ここ日本でも8月開催の『SUMMER SONIC 2022』ヘッドライナー公演後ということもあり、オリコンアルバムチャートで最高12位(合算チャートでも12位)と過去最高記録を達成しました。
前作『NOTE ON A CONDITIONAL FORM』は全22曲/計82分というCDの収録容量記録を大きく塗り替えつつ、時代に即した“プレイリスト”的な作風で好評を博しましたが、続く今作は全11曲/約43分という前作の半分近いボリューム。これを「スケールダウンした」「以前よりも創作欲が落ちたのでは」とマイナス評価する方も少なくないでしょうが、そもそもこの2作は作品集として方向性が真逆だと思うんです。
1曲1曲を取り上げると、今作で展開されているキャッチーな作風はここ数作の延長線上にあると言えます。かつ、本作では“生”感が復調しており、ロックバンドとしの軸足を“進化”ではなく“深化”にシフトさせることで全体の統一感が強まっている。要は、好きなもの詰め合わせだった前作の“プレイリスト”感が減退し、古き良き時代の“アルバム”感を取り戻しているわけです。なもんですから、前作とは受ける印象も異なるわけです。
全英&全米1位を獲得した2作目『I LIKE IT WHEN YOU SLEEP, FOR YOU ARE SO BEAUTIFUL YET SO UNAWARE OF IT』(2016年)以降、ロックバンドとしての革新的側面と実験性を強めていったTHE 1975ですが、その実験性はRADIOHEADあたりが試みたコアなものではなく、あくまで「ポップミュージック」が大前提として存在していた。その大衆性をここまで失うことがなかったから、こういった王道感の強いスタイルにも自然な形で立ち返ることができるわけです。
いろんな経験を積み重ねた結果、本作で制作された楽曲たちはフレッシュさよりもほろ苦さを感じさせるものが多く、デビューからの10年で彼らが得たもの/失ったものがストレートに表現されています。しかし、彼らなりにストレートに表現してはいるものの、聴き手側からしたら意外と入り組んだ構造に映り、時にその印象がプログロック/ポンプロックと重なる瞬間すら見受けられる。世が世なら旧世代的AORと切り捨てられそうなこのスタイルも、シーンが何周もまわった2022〜23年だからこそ新鮮なものとして受け取ることができる。良い時代になったものです。
はたから見たら紛い物の工業製品に映るかもしれないけど、間近で見たら純度100%の手作りだとわかる。最先端なんだけど、実は懐かしさ満載で細かいところにまで手が行き届いていることにも気付かされる。そんなアンバランスさを持つ本作は、“イマドキ”の“ナウ”なロックアルバムではないでしょうか。そりゃ嫌いになれるわけないし、積極的に好きだと言いたくなりますわ。
▼THE 1975『BEING FUNNY IN A FOREIGN LANGUAGE』
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