MEGADETH JAPAN TOUR 2023@日本武道館(2023年2月27日)
思えば、MEGADETHにとって日本武道館という場所はある種の鬼門でもありました。今から30年前の1993年3月、彼らは全米2位の大ヒット作となった『COUNTDOWN TO EXTINCTION』(1992年)を携えて4度目のジャパンツアーを行う予定でした。僕自身はマーティ・フリードマン(G)、ニック・メンザ(Dr)が加わった編成での初アルバム『RUST IN PEACE』(1990年)を提げた3度目のジャパンツアー(1991年2月)が初のMEGADETH体験だったので、1993年は2回目となる予定でした。
しかも、バンドにとって初の日本武道館公演を含むツアー。当時、METALLICAですら武道館は未経験(その代わり、武道館をすっ飛ばして先に代々木体育館や東京ドームを経験済み。彼らの初武道館は1998年)だったわけで、当時のスラッシュメタル出身バンドにとっては快挙でした。確か当時、僕はアリーナのチケットを確保していたはずで、当初の予定から一回延期になった記憶が。マーティとジュニア(デヴィッド・エレフソン)がプロモーション来日して、武道館の前で撮影した写真も当時の雑誌で目にした記憶があります。
しかし……メンバーの健康問題で来日はキャンセルに。それがデイヴ・ムステインの薬物問題が理由であることを、数ヶ月後に知ることになります(当時は今みたいにネットがないから、情報伝達がだいぶ遅れましたし)。がっかりだったんですよ。武道館で観たかったんですよ。なのに……失望です。アルバムは聴いていたけど、そこまで夢中になることはなく、続く『YOUTHANASIA』(1994年)のツアーも、1997〜98年と2度も実現した『CRYPTIC WRITINGS』(1997年)のツアーも敬遠。結局、再び彼らのステージを目にするのは10数年後の2006年10月、『LOUD PARK』初年度でのことでした。以降も何度かライブを観てきましたが、どこかネガティブな気持ちを抱えたまま向き合っていた気がします。
そんな思いに変化が生じたのが、前回の来日公演(2017年5月)。自分も大人になったからか、ちょっと許せるようになってきたのかな。その後、デイヴの咽頭癌発症(2019年)で活動が滞ったり、ジュニアがスキャンダルでバンドを解雇(2021年)とトラブルが続きましたが、そうした困難を乗り越えて完成させた約6年半ぶりの最新アルバム『THE SICK, THE DYING... AND THE DEAD!』(2022年)の出来が素晴らしかったことも大きく影響し、再びこのバンドに対してポジティブな気持ちで臨めるようになりました。なもんですから、久々の来日、しかも鬼門でもある武道館が30年ぶりに実現すると知った日には、すぐに申し込んでいた気がします。
ライブ開催1〜2ヶ月前、座席の位置が確定。なんとアリーナBブロック中央。ちょうど武道館のアリーナど真ん中くらいでしょうか。良席。しかも、30年前の罪滅ぼしかというくらい、似たような席。ああ、当日はどんな感情で彼らのステージを目撃することになるんだろう。
さらに、ライブ開催数週間前には、ゲストとしてマーティ・フリードマンがステージに立ち、数曲をセッションするとのこと。当然あの曲はやるとして……ああ、ここで30年分の清算を済ますのか。そんな気持ちで当日、武道館へと向かいました。
……以上、ここまでが前置き(笑)。本編は以下になりますよ。
当日は昼から取材があったり、締め切りをいくつか抱えていたので近場のカフェで缶詰になっていたのですが、18時前後に一応終わりが見えたので武道館へ。不思議と音楽を聴くことなく、ゆっくり歩きながら九段下へ向かいました。結果、18時15分には武道館付近に到着してしまった……何を緊張しているんだ、自分。さすがにTシャツを買うあの長蛇の列に加わることはせず、そのまま何も考えずに武道館へ入場。チケットをもぎってもらい、久しぶりにアリーナへ降りる。席はアリーナど真ん中のどセンター。ああ、老眼混じりの視力でも大佐の表情を確認できるな(笑)、なんて思いつつ連れを待つ。この時点で18時30分にもなっていなかったな。
場内にうっすら流れるSCORPIONSやUFOなどのクラシックハードロックを意識しつつ周りを見渡すと、どんどん席が埋まっていく。最終的にはソールドアウトしたようで、集客的にもほぼ8000人。やればできる。
この日はWOWOWでの生中継と、世界中へのネット配信もあり、かなりの気合の入れようが伝わる。要は、バンド側もこの1日を伝説にしたいわけだ。海外ではまだ“BUDOKAN”ブランドの効力、残っているのかな。そういう事情もあってか、ほぼ定刻通りに暗転。オープニングSEは「Prince Of Darkness」で、そのまま勢いよく「Hangar 18」でライブはスタート。LEDスクリーンの配置や冒頭の流れ含め、6年前の来日とほぼ一緒。ただ、会場の規模が大きくなったくらいか。新ベーシストのジェイムズ・ロメンゾは過去に何度もこのバンドの一員として目にしているだけに、特に違和感なし。コーラスもしっかりこなすし、煽りも抜群。キコ・ルーレイロ(G)のギターサウンドがとにかく気持ちよくて、それなりの音量・音圧なのに耳障り抜群。ダーク・ヴェルビューレン(Dr)のドラミングも寸分の狂いも感じさせない正確無比なもので、とにかく気持ちいい。この手のバンドのライブは低音や高音がキツすぎて、終演後に難聴気味(うっすらした幕が1枚かかったような状態の聴力)になることが少なくないですが、この日のエンジニアさんは相当の凄腕なんだなと思いました。かつて、SLAYERのエンジニアさんがまさにこれで、いつも感心していたんだけど、まさか同じ人?と思ってしまったほど抜群でした。
ただ、大佐のボーカルに関してはちょっと聴き取りづらかった。これはダウンチューニングでかなりキーが下がっていること、大佐の現在の声量的な問題などもあり、仕方ないのかもしれませんが。それでも、「Angry Again」や「Sweating Bullets」あたりからはだいぶ聴き取りやすくなりましたが。
選曲的には、先に行われた豊洲PIT公演とほぼ一緒。新作からは「Soldier On!」と「We'll Be Back」のみと、今をアピールするにはちょっと残念なセットリストですが、豊洲にはなかった「A tout le monde」がセットリストに復活していたのはうれしかったかな。あと、個人的にはキコのギターを存分にフィーチャーしたインスト「Conquer Or Die!」から「Dystopia」の流れが抜群に良かったなと。なんだかんだで、結局ここ2作からの楽曲こそが今のMEGADETHを最良の形で見せられるわけだから、本当は新曲をもっと増やしてほしいんだけどねえ。
ライブ後半、ファンが期待していたあの瞬間がついに訪れます。スクリーンには90年代の映像化、マーティがギターをプレイする姿が映し出される。すると、客席からの声援も一際大きくなり、それと同時に意外な1曲「Countdown To Extinction」にてマーティがステージに登場。え、本当に意外。と同時に、「ああ、やっぱり過去を清算したいんだな」という不思議な気持ちになる。マーティはMEGADETH時代を彷彿とさせる赤黒チェックの袖なしシャツを羽織り、あの独特なフォームでギターを弾き倒す。ゲストとしてお邪魔しますというよりは、俺様スタイルを突き通す印象かな。キコとも仲良さそうにプレイしていたし、なによりも大佐とのアイコンタクトが……大佐が笑みを浮かべるわけですよ。その瞬間、すべてのわだかまりがどうでもよくなり、気づいたら拳を突き上げる自分。もう全部許すよ。
その流れから、予想通りの1曲「Tornado Of Souls」が繰り出される。これは想定内だったけど、やっぱりマーティが弾くあのギターソロを前にしたら……1991年ぶりに生で聴くから、32年ぶり(笑)ですか。本当、これですべて帳消しだ。そして最後は「Symphony Of Destruction」。まさか3曲も一緒にコラボするとは想定外でした。大佐が終始笑顔(泣いてたという噂も)だったのが、とにかくすべてを表す象徴だったのではないでしょうか。
この曲終わりで一度メンバーがステージをはけ、暗転。時計に目をやると60分ちょっと過ぎたくらい。う〜ん、やっぱり短い(苦笑)。だけど、ここからが現在のMEGADETHの本領発揮なのでした。
ステージに戻ると、大佐がマーティへ向けてはもちろん、このライブ実現へ向けたいろいろな人たちへの感謝を口にして、現在進行形のMEGADETHを「We'll Be Back」というスピードチューンで、完璧な形で表現してみせる。そこからダーク&ジェイムズが観客を煽り「Peace Sells」へと突入。最後はお約束の「Holy Wars... The Punishment Due」でクライマックスを迎え(曲中、メンバー紹介もあり)、結果的には約90分と前回とほぼ一緒の尺でライブは幕を下ろしました。
マーティのゲスト参加はもちろん楽しかったですが、僕としては今のMEGADETHがどれだけバンドとして充実しているか、その事実を確認できたことが一番の収穫でした。こんな最高なステージを、最良の環境で体験できるなんて。2023年の運、ここで使い果たしてしまったんじゃないかと思うくらい、メタルファンとしても充実した時間を過ごすことができました。ありがとうMEGADETH。これからはもっと素直に応援するよ。
セットリスト
01. Prince Of Darkness (SE)〜 Hangar 18
02. Dread And The Fugitive Mind
03. The Threat Is Real
04. Angry Again
05. Soldier On!
06. Sweating Bullets
07. Trust
08. Conquer Or Die!
09. Dystopia
10. A tout le monde
11. Countdown To Extinction [with Marty Friedman]
12. Tornade Of Sould [with Marty Friedman]
13. Symphony Of Destruction [with Marty Friedman]
<アンコール>
14. We'll Be Back
15. Peace Sells
16. Holy Wars... The Punishment Due
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