THE BLACK CROWES『HAPPINESS BASTARDS』(2024)
2024年3月15日にリリースされたTHE BLACK CROWESの10thアルバム。
2019年にクリス(Vo)&リッチ(G, Vo)のロビンソン兄弟によって再々結成されて以降、カバーEP『1972』(2022年)は発表していたものの、スタジオアルバムとしてはアコスースティックセルフカバー集『CROWEOLOGY』(2010年)から13年7ヶ月ぶり、オリジナルアルバムとしては初のダブルアルバム『BEFORE THE FROST... UNTIL THE FREEZE』(2009年)から14年半ぶりの新作。現在の正式メンバーはクリス&リッチと、90年代後半からバンドに参加するスヴェン・パイピーン(B)の3人のみで、レコーディングには彼らのほかブライアン・グリフィン(Dr/JAMIE McLEAN BAND)、Nico Bereciaua(G)、エリック・ドイツ(Key)など、『1972』や現在のツアーに同行しているメンバーが参加しています。
プロデュースを手がけたのはジェイ・ジョイス(CAGE THE ELEPHANT、COHEED AND CAMBRIA、HALESTORMなど)。土着的ながらも適度なモダンさを持つアメリカンロックアーティストに携わってきた方で、人選は間違いなかったようです。アルバムオープニングを飾る「Bedside Manner」は、イントロの軽快なリズム&ピアノとリッチのスライドギターが鳴り響いた時点で「これぞTHE BLACK CROWES!」と納得も仕上がり。しかし、クリスのボーカルが入ると……やはり加齢による衰えは否めません。以前ほど高めのキーを用いたメロディラインではなく、中音域から上へ抜けきらない、どこかモヤっとしたメロディの運びで曲は進行していきます。しかし、これも慣れればそこまで酷いというものではなく、これはこれで全然アリと思えるものです。
続く「Rats And Clowns」も同じ流れにあるアップテンポのロックチューンで、メロディ的にもそんな感じ。ワイルドなリフと厚みのあるゴスペル調コーラスのおかげもあって、気持ちよく楽しめます。以降もヘヴィブルース「Cross Your Fingers」、ポップで軽快なミドルチューン「Wanting And Waiting」と従来の、というか主に1stアルバム『SHAKE YOUR MONEY MAKER』(1990年)や2ndアルバム『THE SOUTHERN HARMONY AND MUSICAL COMPANION』(1992年)で耳にすることができた「キャッチーだけど適度にレイドバックしていて日本人でも気持ちよく楽しめるアメリカンロック」に回帰している印象を受けます。メロディラインも冒頭2曲は地味さが目立ったけど、「Cross Your Fingers」以降はそこまで気にならないというか、むしろ今のクリスの声域をうまく活かしながら良質なメロディラインを作ることに成功しているんじゃないかと。まあ、頭2曲は勢い一発なところがあるから、これはこれでいいのかもね。
アメリカの若手女性カントリーシンガー、レイニー・ウィルソンをフィーチャーした「Wilted Rose」も、彼女の個性を存分に発揮させつつ、このバンドらしいダークさをにじませたカントリー/ソウルミュージックを確立させているし、豪快でファンキーなハードロック「Dirty Cold Sun」やブルースハープを前面にフィーチャーしたブルースナンバー「Bleed It Dry」、本作でもっともアップテンポのパーティチューン「Flesh Wound」、重心の低いヘヴィサザンロック「Follow The Moon」と緩急に富んだ流れで楽しませ、ラストはジョン・レノン テイストなスローバラード「Kindred Friend」で締めくくる。うん、上出来上出来!
3rdアルバム『AMORICA』(1994年)以降の彼らは初期のキャッチーさを薄め、良くも悪くも玄人好きする難解さを伴い始めますが、本作はそういったテイストも随所に残しつつ、より“外側”に向けて音を届けようとする意思が伝わってくる。ツアーバンド的な側面が強い存在なだけに、そういった姿勢がどこまで意識的かは正直わかりませんが、個人的には非常にポジティブに受け止められる、良質なアメリカンロックアルバムだと思いました。だって、気づいたら何度もリピートしてますからね。ロック低迷と嘆く声が多い現在のUSロックシーンですが、こういう作品が(90年代のように、とは言いませんが)正しい形で届くべきところに届いてほしいと願っています。
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