アルバムにはRASCAL FLATTS、FLORIDA GEORGIA LINE、リアン・ライムス、ジャスティン・ムーア、BIG & RICH、クレア・ボウエン&サム・パラディオ(2人とも俳優で、ドラマ『ナッシュビル カントリーミュージックの聖地』出演)、ELI YOUNG BAND、ローレン・ジェンキンス、THE CADILLAC THREE、THE MAVERICKS、ブラントリー・ギルバート、グレッチェン・ウィルソン、ダリアス・ラッカー(HOOTIE & THE BLOWFISHのフロントマン)と、カントリーに限定せずその周辺で活躍するアーティストが多数集結。また、ポップパンクバンドHEY MONDAYのキャサディー・ポープ(Vo)、ニューメタルバンドSTAINDのアーロン・ルイス(彼はソロではカントリーにチャレンジ)といった変わり種も名を連ねているほか、CHEAP TRICKのロビン・ザンダー(Vo)や、本家からヴィンス・ニールもゲスト参加しています。
アルバムはRASCAL FLATTSによる「Kickstart My Heart」からスタート。「えっ、これカントリー?」って疑問が生じそうサウンドメイクは、モロにハードロック。本家ほどのドギツさこそないものの、ヘアメタルバンドのカバーと言われても通用しそうな仕上がりです。続くFLORIDA GEORGIA LINE「If I Die Tomorrow」もダウンチューニングしたディストーションギターを使用していることから、ハードロック的側面が強く打ち出されている。その一方で、マンドリンのようなアコースティック楽器を取り入れることで、カントリーらしさもしっかり漂わせたアレンジに「なるほど」と納得。この2曲はHR/HMリスナーも入っていきやすいのではないでしょうか。
リアン・ライムス「Smokin' In The Boys Room」は、原曲がもともとカバーということもあって、どうとでも料理しようがありますよね。かなりレイドバックしたアレンジで、ここでようやく本作がカントリーミュージックによるトリビュートだと強く認識し始めます。ジャスティン・ムーア「Home Sweet Home」にはヴィンス・ニールがゲスト参加しており、原曲のダイナミックさを後退させたスモーキー&ソウルフルな仕上がり。キャサディー・ポープ&ロビン・ザンダー「The Animal In Me」はカントリーというよりも、ロック系アーティストによる普通のカバーといった印象かな。
クレア・ボウエン&サム・パラディオという俳優さん2人によるカバー「Without You」は、原曲のイメージを残しつつアーシーにカバー。ELI YOUNG BAND「Don't Go Away Mad (Just Go Away)」は原曲が持っていたロッド・スチュアート(というかFACES)色をさらに枯れさせるとこうなるかな、な印象。ローレン・ジェンキンス「Looks That Kill」は原曲の邪悪さ皆無の、レイドバック感満載の良質なカバー。THE CADILLAC THREE「Live Wire」は原曲の印象的なキメフレーズは残しつつもテンポダウンし、スライドギターを取り入れることで滑らかさが強調されています。THE MAVERICKS「Dr. Feelgood」はチカーノミュージック的テイストを強めることで、原曲とは別の意味でのノリのよさが際立つ仕上がりです。
ブラントリー・ギルバート「Girls, Girls, Girls」は原曲に沿ったアレンジ/サウンドメイクで、1オクターブ下で歌うことで“らしさ”を表現。グレッチェン・ウィルソン「Wild Side」は“もしもZZ TOPがMÖTLEY CRÜEをカバーして、女性ボーカルで表現したら?”というお題で制作されたような、なかなか面白な1曲。ダリアス・ラッカー「Time For Change」は「HOOTIE & THE BLOWFISHにこういう曲、ありそうだよね?」って仕上がりで、全然アリ。
2023年春に、SNS上でこの新ラインナップによるボブ・ロックとのレコーディング風景が公開され、「いよいよ新曲リリースか?」とざわついたことも記憶に新しく、その際の制作した1曲のタイトルが「Dogs Of War」だ、などと噂されたことを覚えている方もいらっしゃることでしょう。同年初夏にロンドン・The Underworldにて実施したシークレットクラブギグではこの“DÖGS OF WAR”という名前でライブも実施され、年内にはリリースされるのかと期待されましたが、結局お披露目までには約1年もの歳月を要してしまいます。
ということで、「The Dirt (est. 1981)」から5年ぶりに届けられた新曲「Dogs Of War」。新たにBig Machine Recordsと契約して発表される、最初の楽曲となります。Big Machine Records自体は10年前、カントリー系アーティストによるMÖTLEY CRÜEのトリビュートアルバム『NASHVILLE OUTLAWS: A TRIBUTE TO MÖTLEY CRÜE』(2014年)を発表しており、近年はかのHYBE America傘下で運営されているとのこと。いろんな縁があってとはいえ、なかなかに興味深い組み合わせです。
楽曲自体は90年代後半以降のヘヴィ路線をベースに、適度にモダンな要素(リフの組み立て方やデジタルサウンドでの味付けなど)を取り入れたミドルヘヴィナンバー。「Shout At The Devil」あたりのズッシリ感を現代的解釈で表現した、といったところでしょうか。また、「The Dirt (est. 1981)」が(映画の舞台にちなんで)80年代の彼らをリフレッシュさせたものだとすると、こちらは『SAINTS OF LOS ANGELES』(2008年)の延長線上にある“現在進行形”と呼べるのかな。個人的には好みのテンポ感&音像で、第一印象も悪くありません。
楽曲クレジットを見ると、ニッキー・シックス(B)とトミー・リー(Dr)、そしてジョン・5の名前を見つけることができます。実はジョン、すでに『THE DIRT SOUNDTRACK』に収録された新曲(「The Dirt (est. 1981)」「Ride With The Devil」「Crash And Burn」)でもコライトで参加済み。あの時点でジョンの功績に対してニッキーが手応えを感じていたことで、彼をバンドに引き込んだのでしょうかね(当初はソングライティングやレコーディングサポートで参加する予定だったところを、ミックと揉めた……とかね)。何にせよ、個人的にはジョンに対して悪い感情もないので、こういういい仕事を続けてくれるなら大歓迎です。
おそらく、ミックとの裁判云々でMÖTLEY CRÜE名義の新曲を思うように発表できなかった&新レーベルとの契約締結までに時間がかかってしまったことが影響し、レコーディングからリリースまでにここまで時間を要してしまったのでしょう。昨年のレコーディングでは3曲制作したとトミーは昨年末のインタビューでコメントしていますし、ヴィンスはそのうちの1曲をライブでも披露済みのBEASTIE BOYS「Fight For Your Right」であることも明かしています。昨年11月のライブでこのカバーを聴いたとき、
「Fight For Your Right」は(手垢がつきまくっているものの)音源化すべきカバーではないかな。アルバム制作は望めなさそうだから、3〜4曲程度のEPくらいは作ってもらいたいものです
4thアルバム『NO CODE』(1996年)以来となる全米No.1を獲得した前作『BACKSPACER』(2009年)から4年ぶりの新作。プロデューサーには気心知れたブレンダン・オブライエンを再度起用し、バンドのデビュー20周年を記念するドキュメンタリー映画『PEARL JAM TWENTY』(2011年)公開やメンバーのサイドプロジェクト(エディ・ヴェダーのソロ活動、マット・キャメロンのSOUNDGARDEN再始動など)を挟みつつ、約2年をかけてじっくり制作に臨みました。
陽の空気感と衝動性を重視した結果、コンパクトな楽曲群で構成されることとなった前作とは対照的に、今作では初期の彼ららしいじっくり聴かせる要素も復調。また、オープニングトラック「Getaway」で聴けるような、怒りに満ちたテイストの楽曲も含まれており、アップチューンが並ぶ冒頭3曲(「Getaway」「Mind Your Manners」「My Father's Son」)は前作を踏襲する構成ながらもまったく別の印象を与えてくれます。
こうした初期のテキストの復調は、先のドキュメンタリー映画『PEARL JAM TWENTY』でバンドの原点を見つめ直したいこと、マットのSOUNDGARDEN再結成&アルバム『KING ANIMAL』(2012年)制作、ストーン・ゴッサードがBRADとしてアルバムを制作したこと、さらにはマイク・マクレディがMAD SEASONとして久しぶりに演奏(2012年)したことなども大きく影響しているのではないでしょうか。各々の出自を再確認しつつ、「PEARL JAMとは何なのか?」という命題と向き合った。もちろん、単なる原点回帰をするだけでなく、新章の門出を華々しく飾った前作『BACKSPACER』での経験を踏まえつつ、グランジという文化が過去のものとなった2010年代に「PEARL JAMであること」を高らかに宣言する。それを効果的に表現できたのが、『LIGHTNING BOLT』と題したこのアルバムなんだと思います。
個人的にはアルバム中盤、「Lightning Bolt」や「infallible」「Pendulum」あたりで見せる深みのある作風の楽曲群が、非常に興味深く響きます。それも、冒頭でのアッパーなショートチューンあってこそ。この対比が際立つ作風は前作にはなかったものなので、より味わい深く感じられるのかもしれません。また、シャッフルビートの「Let The Recrods Play」は、3rdアルバム『VITALOGY』(1994年)における「Spin The Black Circle」のアンサーといいますか、20年後の回答のようにも感じられ、そのへんも“あの頃”と地続きなんだということを実感させられます。
頭3曲(「Gonna See My Friend」「Got Some」「The Fixer」)のストレートなノリの良さに初めて直面したときは、「どうした、PEARL JAM!?」とびっくりしたものです(もちろん良い意味で)。歌詞に関しても非常にポジティブなものが多いのですが、これは2009年1月にアメリカ大統領に就任したバラク・オバマからの影響が強かったと、エディ・ヴェダー(Vo)は当時のインタビューで語っています。また、そうしたポジティブなヴァイブスは作曲面にも影響を及ぼし、大半の楽曲は制作に30分かかっていないとも公言されています。
チャド・ブレイクと初タッグを組んだ前作から一転、今作ではアダム・カスパー(FOO FIGHTERS、QUEENS OF THE STONE AGE、SOUNDGARDENなど)をプロデューサーに迎え制作。ミキシングエンジニアにはこれまで同様、ブレンダン・オブライエンが名を連ねています。
『BINAURAL』発表後に行われたデンマークでのフェス『Roskilde Festival』(2000年6月30日)にて、PEARL JAMのパフォーマンス中に9人の観客が圧死。この事故は彼らに大きな影を落とすことになります。その後、充電期間に突入するのですが、今度は「9.11」(2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ)が発生し、さらに今作完成間近には盟友レイン・ステイリー(ALICE IN CHAINS)の訃報も飛び込んでくる……こうした悲劇を前に、彼らは「死」や「実存主義(Existentialism)」と真正面から向き合い始め、バンドとしても人間としてもひとまわり大きく成長し、新たなステップを踏み出します。
前作『GIGATON』(2020年)から4年ぶりの新作。同作リリース後には北米ツアーを予定していたものの、ちょうどコロナ禍に突入してしまったこともあり、思うような動きが取れなくなってしまいます。2021年9月には約3年ぶりのライブを実施し、ここからサポートメンバーとして元RED HOT CHILI PEPPERSのジョシュ・クリングホッファー(G, Key)が参加するようになります。また、エディ・ヴェダー(Vo)は2021年8月にキャット・パワーやアイルランドの詩人グレン・ハンサードとのコラボレーションによる映画『FLAG DAY』のオリジナル・サウンドトラックを、2022年2月には約10年ぶりのソロアルバム『EARTHLING』(2022年)も発表しています。
ジョシュ・エヴァンスと初タッグを組んだ前作から一転、今作ではエディの『EARTHLING』にも携わっていたアンドリュー・ワット(イギー・ポップ、オジー・オズボーン、THE ROLLING STONESなど)がプロデューサーとして初参加。意外な組み合わせではあるものの、かつてのリック・ルービンのように「クラシックロック再生工場」として重宝されている現在のアンドリューの立ち位置を考えると納得できるところもあります。
わかりやすいストレートなアップチューン「Scared Of Fear」「React, Respond」の2連発で完全に心を鷲掴みにされ、穏やかさと大らかさに伝わるミディアムチューン「Wreckage」、ニューウェイヴ meets ハードロック的な「Dark Matter」、メロウでじっくり聴かせる「Won't Tell」と、前半の流れは完璧。変に小難しいことをしようとしていないし、メロディアスさも初期の彼らに通ずるシンプルさが復調している。このへんがもしかしたらアンドリューの手腕によるものなのかもしれませんね(事実、アンドリューはすべての楽曲のソングライターとしてバンドとともにクレジットされています)。
ムーディーなイントロダクションから始まる後半は、1stアルバムの頃の彼らを彷彿とさせるミディアムナンバー「Upper Hand」を筆頭に、同じく初期の彼らを思わせるダイナミックな「Waiting For Stevie」、パンキッシュなファストチューン「Running」、軽やかなリズムが心地よい「Something Special」、キャッチーさの際立つ「Got To Give」、ここまでのポジティブな空気を引き継く爽やかな「Setting Sun」で締めくくり。先ほど初期3作を例に挙げたものの、内容的にはその頃とも異なりダークさがほとんど感じられない。むしろ、この混迷の時代をひたすら“陽”のエネルギーで突き進もうとする覚悟が全編から伝わり、バンドとして新たな絶頂期を迎えつつあることも想像に難しくありません。
前々作『AFTERBURNER』(1985年)以降の“デジタル”路線を引き継ぎつつも、本作ではそれが主になることなくあくまで味付け程度。楽曲自体はここ数作の延長線上にあるものの、不思議とハードロック色が強いように感じられ、冒頭の「Pincushion」や「World Of Swirl」などは適度なデジタル色が加わることでダイナミックに響く。スローブルース「Breakaway」もこのテイストで聴くと、クールさが際立つ印象があります。あれ、いいじゃんかこのアルバム。
ボックスセットにはリマスタリングされたアルバム本編(CD&アナログ)のほか、2003年11月に発売されたバンド初のライブアルバム『LIVE IN TEXAS』(CD版未収録曲含む)と未発表ライブ音源集『LIVE IN NOTTINGHAM 2003』(ともにアナログ)、過去にファンクラブ経由で発表された『METEORA』期のデモ音源をまとめた『LPU RARITIES 2.0』(CD)、『METEORA』期の貴重なライブ音源をコンパイルした『LIVE RARITIES 2003-2004』(CD)、「Lost」「Fighting Myself」といった未発表曲や本邦初公開となるデモ音源をまとめた『LOST DEMOS』(CD)、そしてアルバム制作ドキュメンタリー映像『THE MAKING OF METEORA』(DVD)やソウルやマイアミなど2003〜4年のライブ映像(DVD)をひとまとめに。
「Fighting Myself」は『METEORA』で描かれている世界観の延長線上にある、ヒップホップマナーの1曲。「Lost」がチェスター・ベニントンのクリーンボーカル中心だとしたら、こっちはマイク・シノダのラップを軸にしたグルーヴィーな仕上がりです。「Resolution」あたりもこの流れにあるのかな。一方、「More The Victim」「Massive」「Healing Foot」はテイスト的に『HYBRID THEORY』寄りで、『METEORA』への通過点的な内容。アルバム本編から漏れるのも仕方ないかな。もちろん、もっとブラッシュアップできたらアルバム本編に含まれていても不思議じゃないんですが、当時はそこまでの魅力が見出せなかったのかもしれませんね。
そのほか、「Faint」や「Lying From You」のデモバージョンも含まれており、ブラッシュアップされる前の原石ぶりを確認することができます。『LPU RARITIES 2.0』に収録されたバージョンとはそれぞれ異なるので、完成版含めた聴き比べもできそうです。
『LIVE RARITIES 2003-2004』
ライブをまるまる1本収めた『LIVE IN TEXAS』や『LIVE IN NOTTINGHAM 2003』とは異なり、こちらは『METEORA』期の象徴的なツアー/フェスのハイライト的内容で、全10曲と非常にコンパクト。自身のツアーのほか、『Reading Festival 2003』や『Rock Am Ring 2004』での記念碑的音源も含まれています。
この中で特筆すべきはラスト3トラックかなと。初期の「Step Up」から「Nobody's Listening」へのメドレー、そこにE-ECUTIONERSの「It's Goin' Down」をミックスしたスペシャルバージョンは、ライブならではの特別感があります。また、NINE INCH NAILS「Wish」のカバーや、KORNのジョナサン・デイヴィスをゲストに迎えた「One Step Closer」もスペシャル感が強く、当時のバンドの勢いがダイレクトに伝わります。どれもシングルやファンクラブ経由では既発音源ですが、こうして手軽に聴けるようになったのはありがたい限りです。
サントラ、コンピ盤など 『TRANSFORMERS: REVENGE OF THE FALLEN - THE ALBUM』(2009年):1曲(New Divide) 『METEORA20』(2023年):1曲(Lost)
となり、ここに『ONE MORE LIGHT』制作時のアウトテイク(未発表曲)「Friendly Fire」が追加されています。いわゆる代表曲はほぼ網羅されている印象があり、特に3rd『MINUTES TO MIDNIGHT』あたりまでのヒットシングル(「New Devide」含む)まではほぼ楽しむことができます。意外だったのは4th『A THOUSAND SUNS』からのヒット曲「The Catalyst」(全米27位)が外されていたこと、6th『THE HUNTING PARTY』からは1曲も選出されていないこと、最終作『ONE MORE LIGHT』からは唯一のヒット曲「Heavy」(全米45位)ではなくタイトル曲が選ばれていることなどでしょうか。20曲収録しても67分程度と、CDでもまだ2〜3曲追加するだけの余白があったものの、あえて20曲と区切りのいいところでまとめているは潔いのかもしれませんね。
本作における注目ポイントは、先に触れた未発表曲「Friendly Fire」、そしてファンクラブ限定で聴くことができた「QWERTY」の存在でしょうか。「QWERTY」は日本でもCDリリースされているので耳にしたことのあるファンは多いことでしょう。こうして久しぶりにサブスクを通じて楽しめるようになったのはありがたい限り。かつ、『ONE MORE LIGHT』の世界線の“続き”である「Friendly Fire」では、あのアルバムの物語はまだ完結していないことを思い出させてくれる(だって、予定されていた日本公演が中止になってしまったわけで、我々日本人は『ONE MORE LIGHT』収録曲をナマで体験していないわけですから)。この曲をアルバムラストに置くことで、不完全な終わり方をしたこのバンドの“If”の世界線を描いているようにも受け取ることができ、なんとも言えない余韻を残してアルバムは終了します。
LINKIN PARKの真の魅力はこの1枚だけでは伝わりきらないと思います。これはまだ彼らに出会えていなかった人たちへの新たな入り口であり、かつて彼らと同じ道を歩んでいた同胞たちと数年ぶりに思い出を共有するため(そして、未発表曲を通して新たな思い出を生み出すため)のアイテムでしかないわけですから。ここを起点に、各オリジナルアルバムに初めて触れたり、あるいは久しぶりに引っ張り出してみたりして、ここにはない名曲にも触れてみる、そのきっかけ作りにほかならない。けど、その「ほかならないきっかけ作り」が実は大切なんですよね。
その一方で「72 Seasons」や「Lux Æterna」「Too Far Gone?」などは、彼らにとって重要なルーツであるNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)時代のバンド群がフラッシュバックしそうな、オールドスクールな作風。そこに80年代後半の彼らと印象が重なる「Shadows Follow」、『LOAD』(1996年)&『RELOAD』(1997年)の空気をはらんだ「Sleepwalk My Life Away」や「Inamorata」、ブラックアルバム路線をモダン化させた「You Must Burn!」や「Chasing Light」と、活動前期=デビューからの18年間を強くイメージさせる楽曲が並ぶことも興味深い。
そういった楽曲群を自身が強く影響を受けた「10代の頃に夢中になったルーツミュージック」のテイストでまとめ上げるのですが、そこには先のNWOBHMのみならずTHIN LIZZYやBLACK SABBATH、あるいはUFO(およびマイケル・シェンカー)など70年代から活躍するバンドたちの色も見え隠れして、どこか10代の少年たちがスタジオに入ってセッションを楽しんでいるようにも映ります。カーク・ハメット(G)のギターワーク(主にメロウなソロ)も、どこか往年のハードロックを彷彿とさせるものがありますしね。あと、バラード調楽曲を排除した姿勢もそうした傾向とつながるかもしれない。そういった意味では、今作って「“Garage Days”の続き」もしくは「Back To “Garage Days”」と受け取ることもできないでしょうか。
メタルを捨てた問題作とか過去の焼き直しとか、否定的に解釈することは簡単です。とはいえMETALLICAは『MASTER OF PUPPETS』以降、常に問題作を提供し続けてきたバンド。作品を重ねるごとにファンベースの広がりやリスナー数の増大などの違いはありますが、この姿勢自体は平常運転なはずなんですよね。ロック低迷と言われるアメリカにおいて、ブラックアルバムからの6作連続1位記録は途絶えてしまいましたが(最高2位。イギリスやドイツなどでは1位獲得)、メジャー感のあるヘヴィなロックにおける基準は本作で更新されたことは間違いないはずです。
オープニングを飾る「We Rock」は、DIOにとってアンセムと呼べるような代表曲。前作でオープナーを務めた「Stand Up And Shout」よりも洗練された感とドラマチックさが増しており、これぞヘヴィメタルと呼びたくなるような仕上がりです。続くタイトルトラック「The Last In Line」はRAINBOW〜BLACK SABBATHから引き継ぐ仰々しいミディアムヘヴィの完成形と言えるもの。ヘヴィメタルファンならこの2曲だけで完全に心を鷲掴みにされるはずです。
その後も緩急に富み、アレンジの練り込まれた楽曲群が並びます。「We Rock」同様のファストチューンながらも荒々しさが際立つ「I Speed At Night」や、キャッチーなミディアムナンバー「One Night In The City」、サバス時代の某曲を再構築したかのような(笑)「Evil Eyes」、ポップテイストがのちの作風に影響を与えることになる「Mystery」、「The Last In Line」にならぶ仰々しい大作「Egypt (The Chains Are On)」など、楽曲の充実度は前作以上。そりゃあ全英4位、全米23位と前作以上のヒットになるのも納得です。
ディオ期のスタイルを再追求しようとしたアイオミですが、それはほぼ成功したと言っても過言ではないでしょう。ディオほどのアクはないものの、声質が彼に近いこともあり、また新人とは思えぬほどの歌唱力と相まって、いかにも“らしい”世界観を構築しています。楽曲自体の出来も良く、仰々しいアレンジのオープニングトラック「The Shining」を筆頭に、アグレッシヴな「Hard Life To Love」や「Lost Forever」、王道サバス的なドラマチックさが際立つタイトルトラック「Eternal Idol」など、ディオ期の2作品(『HEAVEN AND HELL』、『MOB RULES』)を好むリスナーなら文句なしに受け入れられるはず。いや、その延長線でより進化した第2期サバスを存分に楽しめることでしょう。
しかし、そういった完成度とは相反し、チャート的には大失敗。本国イギリスでは初めてTOP30入りを逃し(最高66位)、アメリカでは初めて100位内にも入りませんでした(最高168位)。1987年というとBON JOVI、DEF LEPPARD、WHITESNAKE、GUNS N' ROSESなどHR/HM勢が大ヒットを飛ばした大きな転換期。サバスのようなオリジネーターに注目が集まってもおかしくないはずなのですが、どうやら世間が求めるHR/HMとは違っていたのかもしれません(それ以上に、ほぼ無名のフロントマンが加わったことで注目度が落ちたということもあるのでしょう)。
すべての楽曲をアイオミが執筆するわけですが、そのメロディやサウンドは否が応でもサバスっぽくなるのは致し方ありません。「In For The Kill」や「Turn To Stone」といったファストナンバーはディオ期サバスの延長線上にあるものの、時代の流れに沿ってリズムがよりアップテンポになっていることから、若干USメタルっぽさも感じられます。グレンのボーカルもディオのようにねっとり歌うでもなく、適度なブルージーさで比較的ストレートに歌い上げる。サバス臭を残しつつも80年代半ばという時代性を反映させたスタイルは、ソロ作品としては非常に良いのではないでしょうか。なによりも、エリック・シンガーのドタバタドラム(笑)がカッコいいったらありゃしない。
もちろん、アイオミが得意とするミドルヘヴィナンバーもしっかり用意されています。インタールード的な「Sphinx (The Guardian)」から続くタイトルトラック「Seventh Star」は、間違いなく本作のハイライトと言える仕上がり。アイオミのギタープレイはもちろんのこと、ほかの要素も含めすべてが正しい方向に噛み合った、名曲と呼ぶべき1曲ではないでしょうか。
アルバム後半には比較的ポップめな「Danger Zone」を筆頭に、アイオミがWHITESNAKE的ブルースロックに挑戦したような「Heart Like A Wheel」といった変化球もありますが、前半ほどの緊張感、充実度は感じられず、アルバムの中でも微妙な仕上がりの「Angry Heart」、2分半程度の泣きメロバラード「In Memory」と大きな山なしで終了してしまいます。
アイオミのソロアルバムとしてなら、こういう内容もアリかなと思うのですが、リリース当時もっとも残念だったのは、本作をBLACK SABBATH(正確にはBLACK SABBATH featuring TONY IOMMI)名義で発表してしまったこと。サバスの新作として受け取るなら、確かに微妙な点も多いかもしれません。なにせアメリカンな要素が強まっているし、サバスのアルバムにしては終盤尻すぼみだし(ソロだったならアリっちゃあアリなんだけど)。レーベル側が“売る”ために出した条件だったとはいえ、この施策は間違いだったんじゃないかな。
オープニングのファストチューン「Stampede」こそ彼らにしては若干平均点的な仕上がりですが、続く「Dying Breed」「Dark Side Of My Heart」のキラーチューンぶりには目を見張るものがあり、キャッチーなメロディラインや重厚で男臭いコーラスワーク、パワフルなギターリフとタイトなバンドアンサンブル、ウルフによるクラシカルかつメロウなギターソロといった、このバンドに必要不可欠な要素がすべて揃っている。文句の付けようがありません。
〈Oh Oh〜〉コーラスやロシア民謡的メロディを取り入れたミドルヘヴィ「Fall Of The Empire」、泣きメロパワーメタル「Trail Of Tears」、冒頭のアコギ含め哀愁味漂う「Wanna Be Free」、ギャロップビートが軽快な「200 Years」、ストレートなメタルチューン「Bloodbath Mastermind」など、楽曲のバリエーションも比較的幅広く、似たようなタイプの楽曲で固められることの多いこの手のバンドにしては、最後の最後まで飽きずに楽しめるのも本作の魅力。終盤に用意されたメタルバラード的な「The Curse」や、恒例のなったクラシックからの引用ギターソロ(今回はエドヴァルド・グリーグ『PEER GYNT(ペール・ギュント)』より「Morning Mood(朝)」)をフィーチャーした締めくくりに相応しい疾走ナンバー「Final Journey」までの全11曲、スルッと聴くことができるはずです。
では、本作が完全なる失敗作かと言われると、まったくそうも言えないんですよ。3曲目「The Beast Inside」では前作までの黄金サウンドが復調している。メロディラインや野郎臭いシンガロングなど含め、彼らに必要な要素がすべて揃っているんです。かと思えば、モダン色を強めつつも従来の彼ららしさが感じられるミドルヘヴィ「Dead On!」、軽快なファストチューン「Guns 'R' Us」、80年代にやっていたことをモダン化させたような「Like A Loaded Gun」と佳曲が続く……「意外」と言っては失礼かもしれませんが……「意外と聴き進めることができる」んです、このアルバム。
アルバム後半もグルーヴメタル的リフを用いながらも従来のACCEPTらしさも混在する「What Else」や「Stone Evil」、のちにカウフマンの健康上の理由からツアーに参加することになるステファン・シュヴァルツマン(Dr)が叩いた「Bad Habits Die Hard」や「Prejudice」、個人的には本作で「The Beast Inside」に次いでお気に入りのアップチューン「Bad Religion」、ジム・ステイシー(Vo)期の楽曲をリメイクした「Generation Clash II」、憂に満ちた泣きのバラード「Writing On The Wall」と、バラエティに富んだ楽曲が揃っている。ただ、ここで終わらせておけばよかったものの、ダメ押しで泣きの「Drifting Apart」とエドワード・エルガー「威風堂々」のカバーというインスト2連発をぶち込み、トータル71分強という我慢大会が展開されるわけです(苦笑)。
前作『RESTLESS AND WILD』(1982年)が北米では1983年に、メジャーのPortrait Records(Epic Recordsの姉妹レーベル)から発売されたこと、また当時のUSシーン的にもHR/HMに注目が集まっていたタイミングで、先に同郷のSCORPIONSが成功を収めていたことから、続くACCEPTにも期待が寄せられていました。事実、本作のタイトルトラックはMVも制作され、当時MTVでヘヴィローテーションされたと聞いています。結果、このアルバムは本国で初チャートイン(最高59位)しただけでなく、アメリカでも最高74位まで上昇し、キャリア唯一のゴールドディスク(50万枚以上)を獲得しています。
メタルアンセムと呼ぶに相応しいタイトルトラック「Balls To The Wall」は、スピード感を除くこのバンドの魅力がすべて詰まった究極の1曲。「ACCEPTってどんなバンド?」と質問されたら、この曲を聴かせればいい。それくらい“らしい”1曲と言えるのではないでしょうか。
もちろん、本作はそれ以外にも良曲揃い。「Balls To The Wall」にも匹敵するミドルテンポのメタルアンセム「London Leatherboys」、疾走感に満ち溢れた「Fight It Back」、次作『METAL HEART』(1985年)のタイトルトラックと同じテンポ感/リズム感を持つメロウな「Head Over Heels」、このバンドらしい魅力的なギターリフ&メロディを持つミディアムナンバー「Losing More Than You've Ever Had」と、アルバム前半の充実ぶりは前作以上。トータルでの流れ/テンポも良いのでスルスル聴き進められます。
アルバム後半もその傾向は引き継がれており、軽快なアップチューン「Love Child」を筆頭に、ノリの良いミドルナンバー「Turn Me On」、ザクザクしたリフとスピード感が心地よい「Losers And Winners」、欧州のバンドらしい憂いがにじみ出た「Guardian Of The Night」、彼ら流のメタルバラード「Winter Dreams」で綺麗に締めくくります。
キャッチーさやキラーチューンの多さで言えば次作『METAL HEART』が勝るところでしょう。しかし、ヘヴィメタルアルバムとしてのトータルバランスや全体の空気感、“らしさ”においては本作がベスト。「ACCEPTの代表作は?」と質問されたら、『METAL HEART』よりも本作『BALLS TO THE WALL』を挙げるメタルリスナーが多いのは、そういった理由からかもしれません。
自分は『METAL HEART』からACCEPTに触れた人間なので、思い入れ的には同作のほうが断然上ですが、やはり「ACCEPTのアルバムで最初に聴くなら」と問われたら『BALLS TO THE WALL』をピックアップすると思います。