プロデューサーに名手ジョシュ・ウィルバー(GOJIRA、LAMB OF GOD、MEGADETH、TRIVIUMなど)を迎えた本作(ケリーにとっては初タッグになるのかな?)。首尾一貫して王道かつ正統的なオールドスクール・スラッシュメタルが展開されており、全13曲/約46分まったく息つく間を与えないほどの緊張感と殺傷力を持った、いかにもケリー・キングらしい刺々しいサウンドを楽しむことができます。
期待感を十分に高めてくれるオープニングSE「Diablo」からストロングスタイルの疾走スラッシュナンバー「Where I Reign」へと続く“お約束”的な流れや、緩急に富んだドラマチックなアレンジの「Crucifixation」、ケリーらしい不穏なリフワークを楽しめる「Tension」からメドレーのように続くショートチューン「Everything I Hate About You」など、切れ味鋭いアップチューンと重々しいミドルナンバーがバランスよく配置された構成は、SLAYERファン、いや黄金期のUSスラッシュメタルを愛重してきたリスナーにはたまらないものがあるのではないでしょうか。楽曲の1つひとつの完成度も非常に高く、目新しさこそないものの、ケリー・キングというアーティストに我々が求める要素はすべてここに詰め込まれているだけに、満足度は非常に高いはずです。
近年はGUNS N' ROSESとしてのツアーと並行して、自身のバンド・SLASH FEATURING MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS名義でのソロ活動を充実させていたスラッシュ。純粋なソロ名義でのアルバムはセルフタイトルの初ソロアルバム『SLASH』(2010年)以来14年ぶり、THE CONSPIRATORSとしてのアルバム『4』(2022年)からは約2年ぶりのスタジオ音源となります。
参加アーティストはクリス・ロビンソン(Vo, Harp/THE BLACK CROWES)、ゲイリー・クラーク・Jr.(Vo, G)、ビリー・F・ギボンズ(Vo, G/ZZ TOP)、クリス・ステイプルトン(Vo)、ドロシー(Vo/DOROTHY)、イギー・ポップ(Vo)、ポール・ロジャース(Vo/ex. FREE、ex. BAD COMPANYなど)、デミ・ロヴァート(Vo)、ブライアン・ジョンソン(Vo/AC/DC)、スティーヴン・タイラー(Harp/AEROSMITH)、タッシュ・ニール(Vo, G)、ベス・ハート(Vo)、ジョニー・グリパリック(B)、マイケル・ジェローム(Dr)、テディ・アンドレアディス(Key)などと、ジャンルの枠を超えた豪華な面々。ポップフィールドにまで幅を利かせているのは、初ソロアルバム『SLASH』同様ですね。その『SLASH』にも重複しての参加はイギー・ポップのみかしら。
選曲はCREAMの名演でお馴染み「Crossroads」をはじめ、「Hoochie Coochie Man」や「Key To The Highway」「Born Under A Bad Sign」「Papa Was A Rolling Stone」など誰もが一度は耳にしたことがある名曲から、FLEETWOOD MACの初期曲「Oh Well」やLED ZEPPELINがパクったことで知られる「Killing Floor」まで、クラシックロックのルーツナンバーが満載。これらの楽曲を原曲の空気感を大切にしつつ、スラッシュがエモーショナルで豪快なギタープレイを思う存分奏でている。また、曲ごとに色の異なるシンガーたちが、地味かつシンプルな原曲の世界に見事に華を添えており、全12曲/約70分と長尺ながらも比較的スルスルと聴き進めることができるはずです。
オープニングを飾るクリス・ロビンソン節炸裂の「The Pusher」を筆頭に、とにかくどの曲もボーカリストのカラーとスラッシュの(時に手癖に頼りつつ、時にはそこから逸脱した)エネルギッシュなギタープレイが印象的。中でも、イギー・ポップをフィーチャーした「Awful Dream」と、こういうオムニバス作品にソロで参加するのは比較的珍しいブライアン・ジョンソン参加の「Killing Floor」(しかもハープはスティーヴン・タイラー)、デミ・ロバートの色香漂うボーカルとスラッシュのマウスワウがスリリングさを醸し出す「Papa Was A Rolling Stone」は個人的にもお気に入りです。
M-4. Top 10 staTues tHat CriEd bloOd 「YOUtopia」の流れを汲む、“2010年代のBMTH meets ポップパンク/イージーコア”な新曲。ポストハードコア的側面も残しつつも、非常に軽やかに、跳ねるように進行するスタイルからはかつてのFACTとの共通点も見受けられます。『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』での経験もしっかり昇華させつつ、ラウドなバンドサウンドとモダンなデジタルサウンドをバランスよくミックスしていて、とにかく気持ちよく響く。間違いなくライブにおける新たなキラーチューンになるはず。
M-5. liMOusIne (feat. AURORA) BMTH同様、今年の『SUMMER SONIC 2024』での来日も決定しているノルウェー出身のシンガーソングライター、オーロラをフィーチャーした新曲。ダウンチューニングを施したゴリゴリのギターを軸に、引きずるようなスローテンポで展開されるバンドアンサンブルは一時期のDEFTONESと通ずるものもあり、ポストロック経由のニューメタルの進化形と呼べなくもないかな。これまでも随所に散りばめられていた堪能的なテイストが、ここで爆発的に発揮されているのも高ポイント。とにかく好き。これで年内にDEFTONESが新作発表したら、いい流れができそうな気がする。
M-6. DArkSide 2023年10月に配信された、本作から5曲目となるリードトラック。方向性的には『THAT'S THE SPIRIT』(2015年)以降の流れを汲むもので、メロディの質感やアレンジの面で相当ブラッシュアップされた印象。シンガロングできそうなサビなど含め、アンセミックな1曲ではあるものの、この手の楽曲が彼らに複数存在することから披露するタイミングを選びそう。
M-7. a bulleT w- my namE On (feat. UNDERØATH) アメリカの老舗ポストハードコア/メタルコアバンドUNDERØATHをフィーチャーした新曲。エモーショナルなメロディラインやギターフレーズ、ブレイクダウンパートを取り入れつつもエレクトロニカ的デジタルエフェクトも散りばめたアレンジなど、古き良き時代の開放的メタルコアと密室系デジタルをバランスよくミックスしたそのスタイルは非常に興味深いなと。アルバム中盤におけるひとつの山がこれに当たるのかしら。
M-8. [ost] (spi)ritual どことなく宗教チックな色合いの、2分弱のインタールードはNINE INCH NAILSからの影響も感じられるんじゃないかな。
M-10. LosT 2023年5月に配信された、本作から3曲目のリードトラック。当時は「BMTHがポップパンクに挑戦!?」「エモ/ポップパンク復権か!?」なんて一部で騒がれたけど、今思うとここからすべてが始まっていたんだね。アルバム発売前のライブではこの曲だけ浮きがちだったけど、今作を軸にしたツアーだったら自然な形で馴染むはず。アルバムの流れ的にも前曲からいい形でつながっているし、本当に気持ちいい構成だよね。
M-11. sTraNgeRs 2022年7月に配信された、本作から2曲目のリードトラック。2022年時点では次のアルバムが『THAT'S THE SPIRIT』〜『amo』の流れを汲む方向性からいかに抜け出すか、模索の途中だったのかな。このアルバムに収録された新曲群を目の当たりにしたら、そう感じずにはいられません。けど、こうした曲をしっかり残しているという点では『THAT'S THE SPIRIT』以降ファンになったリスナーに対して誠実でもあるのかな。そういった点では、アルバム全体のバランス取りにも難航したのかもしれませんね。
M-13. AmEN! (feat. Lil Uzi Vert and Daryl Palumbo of GLASSJAW) 2023年6月に配信された、本作から4曲目のリードトラック。エモ/ポップパンクな「LosT」から日を置かずに配信されたこちらは、ラッパーのリル・ウージー・ヴァートやUSポストハードコアバンドGLASSJAWのダリル・パルンボ(Vo)をフィーチャーした、本作中もっともヘヴィな1曲。歌メロこそ完全に昨今のBMTHですが、演奏やアレンジ面からは2ndアルバム『SUICIDE SEASON』(2008年)期の味わいも。こういう曲がひとつ含まれると、長尺のアルバムにおける最良のアクセントとして作用している気がします。
M-16. DIg It アルバムの締めくくりに用意されたのは、本作中最長となる7分超の新曲(実質5分で、その後仕掛けあり)。アルバムの終末感の強い作風/曲調はまさにクライマックスに相応しい。アレンジ的にはヒップホップ寄りで、曲が進むにつれてカオティックな装いに。バンドがひとつの場所にとどまることなく、進化や成長を続けていく。その姿の(現時点における)終着点がここなのかなという気がしました。オールドスクールなHR/HMの枠から抜けきれないリスナーにはここまでかなり厳しい内容かもしれません(それはそれで否定しません)が、筆者にとってはここで鳴っている音は現在進行形でリアルに感じられるものばかり。だからこそ、これを数年後に聴いたときにどう響くのかも気になるところです。
序盤こそ本当に再放送的要素が強かったものの、「BLUE」から始まる中盤のメロウ&ミディアムパートで空気が一変。特にこの曲で見せる吉川の表現の深みが過去の比にならないほどで、グッと引き込まれました。ただ、そういったタイプの曲を数曲続けたおかげで、若干中弛みした感も。正直、「CRY FOR LOVE」あたりで眠気が襲ってきたのも事実。もともとのセトリがこうだったというのもあるし、年齢的にも体力温存パートとして大事なブロックではあるものの、個人的には「BLUE」をピークに少しだけテンションが落ちてしまったかもしれません。
本作は4thアルバム『NATIVE TONGUE』(1993年)に続くスタジオアルバムとして、脱退したリッチー・コッツェン(G)に代わりブルース・サラセノ(G)を迎え1994〜95年にかけてレコーディングされた『CRACK A SMILE』をベースにした内容。この時期、ブレット・マイケルズ(Vo, G)が交通事故(1994年5月)で重傷を負ったことから制作が長期にわたり、またその間に音楽シーンがグランジやヒップホップ中心に移行したこともあり、当初は1996年のリリースに向けてプロモ盤も制作されたもののレーベル側が難色を示し、最終的にアルバムのリリースは棚上げとなります。
結局、レーベル(Capitol Records)は契約消化作として1996年にベストアルバム『POISON'S GREATEST HITS 1986-1996』(1996年)を発表。そこに5thアルバムセッションで制作された「Sexual Thing」「Lay Your Body Down」の2曲を収録するにとどまります。しかし、1999年にC.C.デヴィル(G)がバンドに復帰し、黄金期のメンバーが復活。その後のツアーが大成功を収めたことを受け、約5年の歳月を経てついに日の目を見ることとなりました。
ジョン・パーデル&デュエイン・バーロン(アリス・クーパー、DREAM THEATER、L.A. GUNS、オジー・オズボーンなど)をプロデューサーに迎え制作された本作は、1996年時点では全12曲入りアルバムとなる予定でした。が、『AND MORE!』という副題が付けられた2000年リリース作にアルバムアルバム本編にアウトテイク3曲(「One More For The Bone」「Set You Free」「Crack A Smile」)、2ndアルバム『OPEN UP AND SAY...AHH!』(1988年)制作時のアウトテイク「Face The Hangman」、さらに1990年の『MTV Unplugged』出演時に録音されたアコースティックライブ音源4曲を加えた、全20曲入りとなっています。
『CRACK A SMILE』本編自体はベスト盤で先行公開されていた「Sexual Thing」や「Lay Your Body Down」で何となく想像できていたように、3rdアルバム『FLESH & BLOOD』(1990年)や前作『NATIVE TONGUE』の延長線上にある、非常に練り込まれよく作り込まれたハードロックアルバムと言えるでしょう。なので、その2作を楽しめる耳をお持ちでしたら難なく受け入れられることでしょう。ブルース・サラセノのギタープレイもバンドのカラーに合わせた、そつないもので収まっているので、彼のソロキャリアと同等のものを期待すると若干肩透かしを喰らうかもしれません。
90年代半ばのシーンを意識してか、ヒップホップ的テイストをほんのりと散りばめた「Shut Up, Make Love」や「No Ring, No Gets」、DR. HOOK & THE MEDICINE SHOWのカバー「Cover Of The Rolling Stone」もスパイスとして存在感を発揮していますし、そのほかのオリジナル楽曲もいかにも彼ららしいものばかり。これが『NATIVE TONGUE』と同時代に1リリースされていたら、それなりのヒットを記録していたことでしょう。しかし、1996年といったらニューメタル全盛期。そりゃあメジャーでこれを大々的に売り出そうとは思わないか……残念ですが。
なお、アルバム終盤の5曲(「Face The Hangman」以降)が急に別のギタリスト(C.C.デヴィル)に変わるので、ちょっとした違和感を覚えるかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで(サブスクだと『MTV Unplugged』の4曲は未配信なので、そこまで『CRACK A SMILE』の世界観を崩すことはないですけどね)。
▼POISON『CRACK A SMILE... AND MORE!』 (amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3)
80年代初頭にCITY KIDDと名乗っていたカリフォルニア州サクラメントのローカルバンドが、1984年にジェフ・キース(Vo)、フランク・ハノン(G)、トミー・スキーオ(G)、ブライアン・ウィート(B)、トロイ・ルケッタ(Dr/ex. ERIC MARTIN BAND)というメンバーが揃ったことで、バンド名を現在のTESLAへと改名。以降、精力的なライブ活動を展開したのちにGeffen Recordsと契約し、スティーヴ・トンプソン&マイケル・バルビエロ(A-HA、GUNS N' ROSES、METALLICA、マドンナなど)をプロデューサーに迎えてデビューアルバムを制作します。
当初こそ大きな話題にならなかったものの、地道なツアーと「Little Suzi」(全米91位)のスマッシュヒット、「Modern Day Cowboy」や「Gettin' Better」のMVがMTVでヘヴィローテーションされたこともあり、アルバムはリリースから数ヶ月後に最高32位まで上昇。最終的に100万枚を超えるヒット作となりました。
先の「Modern Day Cowboy」や、アルバム冒頭を飾る「EZ Come EZ Go」、ライブのオープニングにふさわしいファストチューン「Comin' Atcha Live」などは正統派ハードロックバンドの印象が強いし(「Modern Day Cowboy」で聴けるドラマチックなアレンジやギターのツインリードはむしろヘヴィメタル的か)、その一方で「Gettin' Better」や「Little Suzi」などアコースティックテイストを適度にはらんだアーシーさは、その後のBON JOVIやPOISONなどのヒットとの共通点も見受けられる。また、「We're No Good Together」ではソウルフルな側面を打ち出したパワーバラードが展開されており、1987年以降のHR/HMシーンのひと足先を進んでいるようにも映る。さらに、全12曲/約53分というCDを意識したトータルランニングもアナログ/CD移行期間において先見の明があった、と受け取ることもできる。いろんな意味でシーンの一歩先を読んでいた、実はかなり優れたデビューアルバムだったことを後々理解することになります。
前々作『THE GREAT RADIO CONTROVERSY』(1989年)からのバラードシングル「Love Song」、およびアコースティックライブアルバム『FIVE MAN ACOUSTICAL JAM』(1990年)の大ヒットの反動からか、前作『PSYCHOTIC SUPPER』は全体を通じてハードな仕上がりでしたが、続く今作も基本的な作風はその延長線上にあると言っていいでしょう。ただ、前作は「Edison's Medicine」といったファストチューンがリードシングルであったりアルバム序盤に配置されていましたが、今回はひたすらヘヴィなミドルテンポで攻めるという潔さ。時代的に80年代後半に登場したヘアメタルバンドが駆逐され、代わりにグランジ勢やPANTERAをはじめとするモダンヘヴィネスが台頭したことも、そうした作風に影響を与えたのかもしれません。
ドラマチックな組曲「The Gate / Invited」、転調からのツインリードソロという王道ヘヴィメタル的アレンジの「Shine Away」など、序盤からかなり熱のこもった楽曲がずらりと並び、「これは軽く前作超えでは?」と掴みもバッチリ。個人的には1stアルバム『MECHANICAL RESONANCE』(1986年)や2ndアルバム『THE GREAT READIO CONTROVERSY』をよりモダンに進化させた、という印象を当時持った記憶があります。
LED ZEPPELIN的なヘヴィグルーヴの「She Wants She Wants」や「Mama's Fool」、彼ららしいクセの強いコード使いが印象的な「Action Talks」や「Earthmover」、正統派ハードロックバンドらしいアップチューン「Cry」、エピカルな側面を強めた「Rubberband」、そして単なるパワーバラードで終わらない「Try So Hard」や「Need Your Lovin'」「Alot To Lose」など、1曲1曲のクオリティは非常に高い。過去3作での経験をより高い純度で昇華させた、充実度の高い楽曲群を前にしたら、本作こそTESLAの最高傑作と言いたくなってしまはずです。