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2024年5月

2024年5月31日 (金)

2024年5月のお仕事

2024年5月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※5月29日更新)

 

[WEB] 5月29日、「音楽ナタリー」にてインタビュー 内田真礼が田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)と語るアーティストデビュー10周年が公開されました。

[WEB] 5月22日、「リアルサウンド」にてインタビュー 日向坂46、“歴史”を噛みしめて新しい姿へ 河田陽菜&山下葉留花、ワクワクの先で目指す高みが公開されました。

[WEB] 5月13日、乃木坂46『山下美月卒業コンサート』のオフィシャルライブレポートを執筆。日刊エンタメクリップなど複数媒体で公開中です。

[WEB] 5月10日、櫻坂46『8th SG BACKS LIVE!!』のオフィシャルライブレポートを執筆。日刊エンタメクリップなど複数媒体で公開中です。

[紙] 5月10日から公開のアニメ映画 「トラペジウム」にて、劇場で販売されるパンフレットのテキストを執筆。メインキャスト(結川あさき、羊宮妃那、上田麗奈、相川遥花)インタビュー、高山一実ロングインタビュー、高山一実×結川あさき対談などなどを担当しました。

[WEB] 5月7日、「Billboard JAPAN」にてライブレポート りりあ。、等身大の歌で届けた初ワンマン Aru.(ミテイノハナシ)とのデュエットも披露が公開されました。

[WEB] 5月5日、「SPICE」にてライブレポート 今ライブハウスで見ておくべき女性アーティストをレコメンド LustQueen、TRiDENT、西沢幸奏が満員のフロアに見せたケミストリーが公開されました。

[WEB] 5月3日、「リアルサウンド」にてインタビュー East Of Eden、草野華余子により引き出された真骨頂 個性を爆発させながら強固なバンドへが公開されました。

[紙] 5月2日発売 「日経エンタテインメント!」2024年6月号にて、櫻坂46大園玲 連載「ミステリアスな向上心」、日向坂46上村ひなの 連載「ピュアで真っすぐな変化球」の各構成を担当しました。(Amazon

[WEB] 5月1日、「リアルサウンド」にてライブレポート THE YELLOW MONKEYはさらに新たな物語を進んでいく 3年半ぶりの東京ドーム公演で刻み込んだ“今”が公開されました。

 

KERRY KING『FROM HELL I RISE』(2024)

2024年5月17日にリリースされたケリー・キングの初ソロアルバム。

言わずと知れたSLAYERのギタリスト、ケリー・キングがバンドのライブ活動休止(2019年)後に初めて取り組んだソロプロジェクト(本作リリースが解禁されたあとに、SLAYERは今年いくつかのフェスで数本ライブを行うことを発表)。2020年初頭から盟友ポール・ボスタフ(Dr/SLAYER)とともに本プロジェクトにじっくり取り掛かり、DEATH ANGELのマーク・オセグエダ(Vo)、MACHINE HEADやVIO-LENCEなどで名を馳せたフィル・デンメル(G)、HELLYEAHのカイル・サンダース(B)というスラッシュメタル/ヘヴィミュージック界のオールスターメンバーと呼べるような布陣が揃ったところで、2023年に本作を一気に完成させます。

プロデューサーに名手ジョシュ・ウィルバー(GOJIRALAMB OF GODMEGADETHTRIVIUMなど)を迎えた本作(ケリーにとっては初タッグになるのかな?)。首尾一貫して王道かつ正統的なオールドスクール・スラッシュメタルが展開されており、全13曲/約46分まったく息つく間を与えないほどの緊張感と殺傷力を持った、いかにもケリー・キングらしい刺々しいサウンドを楽しむことができます。

期待感を十分に高めてくれるオープニングSE「Diablo」からストロングスタイルの疾走スラッシュナンバー「Where I Reign」へと続く“お約束”的な流れや、緩急に富んだドラマチックなアレンジの「Crucifixation」、ケリーらしい不穏なリフワークを楽しめる「Tension」からメドレーのように続くショートチューン「Everything I Hate About You」など、切れ味鋭いアップチューンと重々しいミドルナンバーがバランスよく配置された構成は、SLAYERファン、いや黄金期のUSスラッシュメタルを愛重してきたリスナーにはたまらないものがあるのではないでしょうか。楽曲の1つひとつの完成度も非常に高く、目新しさこそないものの、ケリー・キングというアーティストに我々が求める要素はすべてここに詰め込まれているだけに、満足度は非常に高いはずです。

また、マーク・オセグエダのボーカルスタイルもどことなくトム・アラヤを彷彿とさせるものがあり(こんなに似てたっけ? 意図的に“寄せてる”のか、それともケリー側のリクエストなのか)、その楽曲スタイルや作風も相まって、「もしSLAYERが『REPENTLESS』(2015年)に続くスタジオアルバムを制作するとしたら……」なんて“Ifの世界”まで楽しめてしまう。SLAYERの“ブレイン”でありスラッシュメタルのオリジネーターのひとりであるケリーが、がそのSLAYERをお題にベイエリア・オールスターズと一緒に「存在するはずのないSLAYERの次作」を作ってしまった。本作はそんな解釈すら可能な1枚ではないでしょうか。

オールドスクールなヘヴィメタル、そしてエクストリームミュージックをとことん愛する者なら間違いなく琴線に触れるはず。局地的には「2024年を代表するような1枚」と呼べる本作を携え、ケリー・キングは現在ツアーを行なっている最中ですが、秋にSLAYERが稼働してしまうことで一時的に活動がストップしてしまいそう。そのあとでもいいので、できればこのメンツでの来日を実現させ、定期的に新作を届けてくれるとありがたいです。

 


▼KERRY KING『FROM HELL I RISE』
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2024年5月30日 (木)

SLASH『ORGY OF THE DAMNED』(2024)

2024年5月17日にリリースされたスラッシュの最新ソロアルバム。日本盤は同年5月22日発売。

近年はGUNS N' ROSESとしてのツアーと並行して、自身のバンド・SLASH FEATURING MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORS名義でのソロ活動を充実させていたスラッシュ。純粋なソロ名義でのアルバムはセルフタイトルの初ソロアルバム『SLASH』(2010年)以来14年ぶり、THE CONSPIRATORSとしてのアルバム『4』(2022年)からは約2年ぶりのスタジオ音源となります。

今作では曲ごとにさまざまなフロントマン(シンガー)をフィーチャーした、『SLASH』に次ぐ内容。ただ、『SLASH』がオリジナル曲で構成されていたのに対し、今作では往年のブルース&ソウルナンバーをカバーしており、スラッシュというミュージシャン/ギタリストの根源にあるものをストレート&ダイレクトに届けるスタイルとなっています。

参加アーティストはクリス・ロビンソン(Vo, Harp/THE BLACK CROWES)、ゲイリー・クラーク・Jr.(Vo, G)、ビリー・F・ギボンズ(Vo, G/ZZ TOP)、クリス・ステイプルトン(Vo)、ドロシー(Vo/DOROTHY)、イギー・ポップ(Vo)、ポール・ロジャース(Vo/ex. FREE、ex. BAD COMPANYなど)、デミ・ロヴァート(Vo)、ブライアン・ジョンソン(Vo/AC/DC)、スティーヴン・タイラー(Harp/AEROSMITH)、タッシュ・ニール(Vo, G)、ベス・ハート(Vo)、ジョニー・グリパリック(B)、マイケル・ジェローム(Dr)、テディ・アンドレアディス(Key)などと、ジャンルの枠を超えた豪華な面々。ポップフィールドにまで幅を利かせているのは、初ソロアルバム『SLASH』同様ですね。その『SLASH』にも重複しての参加はイギー・ポップのみかしら。

選曲はCREAMの名演でお馴染み「Crossroads」をはじめ、「Hoochie Coochie Man」や「Key To The Highway」「Born Under A Bad Sign」「Papa Was A Rolling Stone」など誰もが一度は耳にしたことがある名曲から、FLEETWOOD MACの初期曲「Oh Well」やLED ZEPPELINがパクったことで知られる「Killing Floor」まで、クラシックロックのルーツナンバーが満載。これらの楽曲を原曲の空気感を大切にしつつ、スラッシュがエモーショナルで豪快なギタープレイを思う存分奏でている。また、曲ごとに色の異なるシンガーたちが、地味かつシンプルな原曲の世界に見事に華を添えており、全12曲/約70分と長尺ながらも比較的スルスルと聴き進めることができるはずです。

オープニングを飾るクリス・ロビンソン節炸裂の「The Pusher」を筆頭に、とにかくどの曲もボーカリストのカラーとスラッシュの(時に手癖に頼りつつ、時にはそこから逸脱した)エネルギッシュなギタープレイが印象的。中でも、イギー・ポップをフィーチャーした「Awful Dream」と、こういうオムニバス作品にソロで参加するのは比較的珍しいブライアン・ジョンソン参加の「Killing Floor」(しかもハープはスティーヴン・タイラー)、デミ・ロバートの色香漂うボーカルとスラッシュのマウスワウがスリリングさを醸し出す「Papa Was A Rolling Stone」は個人的にもお気に入りです。

ラスト12曲目には本作で唯一のオリジナル曲「Metal Chestnut」も用意。こちらはインストナンバーなので、アルバム本編の余韻を増幅されるようなエンドロール的役割でもあるのかな。

随所にスリリングさをはらみつつも、全体としてはリラックスモードで楽しめる本作。THE CONSPIRATORSとしてのアルバム『4』で円熟みを増し始めたスラッシュのギタープレイが、ここでさらに深まっていることに気づかされるはずです。

 


▼SLASH『ORGY OF THE DAMNED』
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2024年5月27日 (月)

BRING ME THE HORIZON『POST HUMAN: NeX GEn』(2024)

2024年5月24日にデジタルリリースされたBRING ME THE HORIZONの7thフルアルバム。国内盤含めCDやアナログなどのフィジカルリリースは9月27日を予定。

まとまった新作音源集としては、今作との連続性を感じさせる9曲入りEP『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』(2020年)から3年7ヶ月ぶり、正式なフルアルバムとしては初の全英1位を記録した『amo』(2019年)以来5年4ヶ月ぶりとなります。当初は昨年夏に配信が予定されていた本作ですが、メンバーが納得いく仕上がり基準に達していないということで、発売を翌年に延期。その新作を想定してブッキングされた来日公演および『NEX_FEST 2023』でしたが、ライブのコンセプトも中途半端な形となってしまい、その年末にはブレイクの立役者のひとりであるジョーダン・フィッシュ(Key)が脱退してしまいます。

残されたメンバーはバンドの頭脳であるオリヴァー・サイクス(Vo)を中心に制作を続行。2024年に突入してからは1月に「Koo-Aid」をデジタルリリースしたのみでしたが、5月23日に突如アルバムのデジタルリリースを告知。待望のフルアルバムがついに日の目を見たわけです。

2021年から長期にわたり制作を推し進めてきた結果、先行シングル6曲という異常な状況に陥りましたが、アルバムは全16曲/約55分と非常にボリューミー。初期デスコアの余韻をちょっとだけ残しつつも、最新型のヘヴィロック/メタルを下地にしつつもモダンでポップ、ジャンルの枠を超えて万人受けしそうな内容に仕上がっています。

ここでは『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』同様、全曲解説をじっくりしてみたいと思います。

 

M-1. [ost] dreamseeker

M-2. YOUtopia
20秒に満たないイントロダクションからシームレスで突入するオープニングトラック「YOUtopia」。90年代後半から2000年代前半のニューメタルやメタルコアからの影響が強く感じられる、非常にポジティブな色合いに満ち溢れた1曲です。この壮大さの中には近年の彼らのステージとの共通点も多く見受けられます。クライマックスのブラストビートは初期の片鱗を残していますが、そこを含めつつも“脱メタル”な意欲作と言えるのではないでしょうか。

M-3. Kool-Aid
2024年1月に配信された、本作からのリードトラック(本作から通算6曲目のシングル)。前曲から連続性を持たせた構成もあってか、単曲で聴いたときとはまた違った印象も。新体制として最初の1曲ながらも、それ以前のラウドな側面を多めに残した作風は「変わらずに進むよ」という意思の表れなのかな。とはいえ、全体を覆う質感やアレンジからはメタルの枠には収まりきらない、視野の広さも感じさせます。正直、最初にこの曲を聴いたときはここまで攻めのアルバムになるとは予想もしてなかったよ。

M-4. Top 10 staTues tHat CriEd bloOd
「YOUtopia」の流れを汲む、“2010年代のBMTH meets ポップパンク/イージーコア”な新曲。ポストハードコア的側面も残しつつも、非常に軽やかに、跳ねるように進行するスタイルからはかつてのFACTとの共通点も見受けられます。『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』での経験もしっかり昇華させつつ、ラウドなバンドサウンドとモダンなデジタルサウンドをバランスよくミックスしていて、とにかく気持ちよく響く。間違いなくライブにおける新たなキラーチューンになるはず。

M-5. liMOusIne (feat. AURORA)
BMTH同様、今年の『SUMMER SONIC 2024』での来日も決定しているノルウェー出身のシンガーソングライター、オーロラをフィーチャーした新曲。ダウンチューニングを施したゴリゴリのギターを軸に、引きずるようなスローテンポで展開されるバンドアンサンブルは一時期のDEFTONESと通ずるものもあり、ポストロック経由のニューメタルの進化形と呼べなくもないかな。これまでも随所に散りばめられていた堪能的なテイストが、ここで爆発的に発揮されているのも高ポイント。とにかく好き。これで年内にDEFTONESが新作発表したら、いい流れができそうな気がする。

M-6. DArkSide
2023年10月に配信された、本作から5曲目となるリードトラック。方向性的には『THAT'S THE SPIRIT』(2015年)以降の流れを汲むもので、メロディの質感やアレンジの面で相当ブラッシュアップされた印象。シンガロングできそうなサビなど含め、アンセミックな1曲ではあるものの、この手の楽曲が彼らに複数存在することから披露するタイミングを選びそう。

M-7. a bulleT w- my namE On (feat. UNDERØATH)
アメリカの老舗ポストハードコア/メタルコアバンドUNDERØATHをフィーチャーした新曲。エモーショナルなメロディラインやギターフレーズ、ブレイクダウンパートを取り入れつつもエレクトロニカ的デジタルエフェクトも散りばめたアレンジなど、古き良き時代の開放的メタルコアと密室系デジタルをバランスよくミックスしたそのスタイルは非常に興味深いなと。アルバム中盤におけるひとつの山がこれに当たるのかしら。

M-8. [ost] (spi)ritual
どことなく宗教チックな色合いの、2分弱のインタールードはNINE INCH NAILSからの影響も感じられるんじゃないかな。

M-9. n/A
シリアスな前曲からの、脱力系の歌モノにびっくりするのでは。WEEZER的なユルめのパワーポップのようでもあり、その一方でバンドの味付けは比較的ラウド寄り(グランジっぽくもあるのかな)。特に中盤からのアレンジは刺激的で、バンドとしての新たな可能性を感じさせてくれます。従来のファンはどう思うか知らんけど、本作からBMTHに興味を持ったリスナーには優しい1曲ではないでしょうか。

M-10. LosT
2023年5月に配信された、本作から3曲目のリードトラック。当時は「BMTHがポップパンクに挑戦!?」「エモ/ポップパンク復権か!?」なんて一部で騒がれたけど、今思うとここからすべてが始まっていたんだね。アルバム発売前のライブではこの曲だけ浮きがちだったけど、今作を軸にしたツアーだったら自然な形で馴染むはず。アルバムの流れ的にも前曲からいい形でつながっているし、本当に気持ちいい構成だよね。

M-11. sTraNgeRs
2022年7月に配信された、本作から2曲目のリードトラック。2022年時点では次のアルバムが『THAT'S THE SPIRIT』〜『amo』の流れを汲む方向性からいかに抜け出すか、模索の途中だったのかな。このアルバムに収録された新曲群を目の当たりにしたら、そう感じずにはいられません。けど、こうした曲をしっかり残しているという点では『THAT'S THE SPIRIT』以降ファンになったリスナーに対して誠実でもあるのかな。そういった点では、アルバム全体のバランス取りにも難航したのかもしれませんね。

M-12. R.i.p. (duskCOre RemIx)
比較的従来のスタイルにも寄り添いつつ新規軸を見せるアルバム用新曲。ライブで映えるというよりは、アルバムの中の1曲として輝きを増すタイプのような気がします。そのタイトルと曲終盤のSE含め、続く次曲への序章と受け取ることもできるのかな。

M-13. AmEN! (feat. Lil Uzi Vert and Daryl Palumbo of GLASSJAW)
2023年6月に配信された、本作から4曲目のリードトラック。エモ/ポップパンクな「LosT」から日を置かずに配信されたこちらは、ラッパーのリル・ウージー・ヴァートやUSポストハードコアバンドGLASSJAWのダリル・パルンボ(Vo)をフィーチャーした、本作中もっともヘヴィな1曲。歌メロこそ完全に昨今のBMTHですが、演奏やアレンジ面からは2ndアルバム『SUICIDE SEASON』(2008年)期の味わいも。こういう曲がひとつ含まれると、長尺のアルバムにおける最良のアクセントとして作用している気がします。

M-14. [ost] p.u.s.s.-e
アルバム終盤へ向けたインタールード的インストナンバー。ドラムンベースをベースに、いろんなコラージュをミックスすることで聴き手をカオスな方向へと誘います。

M-15. DiE4u
2021年9月に配信された、本作からの第1弾リードトラック。このアルバムの時点ではアルバムのイメージなんてまったくできていませんでしたよね……。

M-16. DIg It
アルバムの締めくくりに用意されたのは、本作中最長となる7分超の新曲(実質5分で、その後仕掛けあり)。アルバムの終末感の強い作風/曲調はまさにクライマックスに相応しい。アレンジ的にはヒップホップ寄りで、曲が進むにつれてカオティックな装いに。バンドがひとつの場所にとどまることなく、進化や成長を続けていく。その姿の(現時点における)終着点がここなのかなという気がしました。オールドスクールなHR/HMの枠から抜けきれないリスナーにはここまでかなり厳しい内容かもしれません(それはそれで否定しません)が、筆者にとってはここで鳴っている音は現在進行形でリアルに感じられるものばかり。だからこそ、これを数年後に聴いたときにどう響くのかも気になるところです。

 

以上16曲、駆け足で解説してきましたが、いかがでしょうか。多くの楽曲で日本のラウドロックバンドPaleduskのDAIDAI(G)がコライト/アディショナル・プロデューサーでクレジットされている点も、本作は大きな注目ポイントではないでしょうか。個人的には満点に近い内容で、想像以上の仕上がりでした。配信開始後、デジタルで音源も購入しましたが、この週末はずっとこのアルバムばかり聴いていました。というか、しばらくこれしか聴けない体になってしまったのですよ……。

もうこのアルバムを無理してメタルの枠に収めたり、メタルの文脈で語ること、やめません? そういうジャンル分けが彼らの日本での広まりを邪魔するんじゃないかと、このアルバムを聴いて危機感を覚えてしまったもので。単純に「カッコいいロック」で十分。間違いなく、2024年のロックシーンを語る上で(良くも悪くも)避けては通れない傑作/問題作。だからこそ、ジャンルの枠を超えてさまざまな人に聴いてほしいんです。

これらの楽曲がZOZOマリンスタジアムで、爆音で鳴らされるのが今から楽しみでなりません。

 


▼BRING ME THE HORIZON『POST HUMAN: NeX GEn』
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2024年5月26日 (日)

COMPLEX『日本一心』@東京ドーム(2024年5月15日)

Img_8800 2011年7月に同会場で行われた同会場でのライブと同タイトル、前回は東日本大震災チャリティという名目でしたが、今回は今年1月の令和6年能登半島地震の復興支援を目的に13年ぶりに復活。前回のライブは仕事でもプライベートでも行くことができず、あとから発売された映像作品でその模様を確認。ということで、COMPLEXのライブを会場を観るのは1990年11月に東京ドームで実施されたラストライブ以来、34年ぶり(笑)。

その間も吉川晃司布袋寅泰ともにソロ公演は観ていますし、それぞれのライブでCOMPLEXの楽曲を披露してきたものの、やっぱりこの2人が揃ってステージに立つとまったく異なる緊張感が生まれ、“バンドマンとしての吉川晃司”と“フロントマンの横に立ってギタリストに徹する布袋寅泰”というここでしか見られない2人の姿を目撃できる。実は、この要素を楽しみたくて今回足を運んだところもありました。

だって新曲皆無なわけだから、今回のライブだって「1990年の再々放送」になることは想像に難しくないわけで。それでも1万数千円を払ってスタンド席から豆粒大の2人を目撃しようと思えたのは、上記のような理由が大きく。実際、セットリストは最初のアンコールまで1990年、2011年とまったく一緒でした。が、大人になって渋みを増した2人のステージングと、ギタリストとして布袋を凌駕するまでの実力を身に付け、1990年の公演よりもプレイヤーとしての側面がどんどん強まっている吉川の存在感、これらを体感できただけでも今回のチケット代は安いもんだと思っています。

序盤こそ本当に再放送的要素が強かったものの、「BLUE」から始まる中盤のメロウ&ミディアムパートで空気が一変。特にこの曲で見せる吉川の表現の深みが過去の比にならないほどで、グッと引き込まれました。ただ、そういったタイプの曲を数曲続けたおかげで、若干中弛みした感も。正直、「CRY FOR LOVE」あたりで眠気が襲ってきたのも事実。もともとのセトリがこうだったというのもあるし、年齢的にも体力温存パートとして大事なブロックではあるものの、個人的には「BLUE」をピークに少しだけテンションが落ちてしまったかもしれません。

が、奥野真哉(Key)の独壇場とも言えるインスト「ROMANTICA」のアップデートバージョンに続いて「PROPAGANDA」から始まる終盤戦で、バンド側の熱量も、そして観る側のテンションも急上昇。布袋との初コラボとなる湊雅史(Dr)のパワフルなドラミングが楽曲の持つヘヴィさ、プログロック感をさらに強め、「GOOD SAVAGE」では布袋&吉川の豪華なギターバトルが楽しめた。そこから「恋をとめないで」でこの日一番の大合唱が沸き起こり、多幸感に満ちた「MAJESTIC BABY」で本編締めくくり。アンコールは名曲「1990」やライブ感の強い「RAMBLING MAN」と、ここまでは前回、前々回のドーム公演とまったく同じ流れ。でも、ダブルアンコールに過去2回では未披露の「CLOCKWORK RUNNERS」が追加され、それまでの予定調和を一気に崩してくれたんです。1stアルバム『COMPLEX』(1989年)収録曲で唯一ドームで演奏されなかったこの曲が、ついに日の目を見たわけですね。そうか、今年で『COMPLEX』リリース35周年だもんね。大きな節目に同作収録曲をすべて披露したのも、なるほどと頷けるものがありました。

アンコールのMCで布袋の口から「吉川さん、そろそろ新曲作りませんか?」という問いかけがありましたが、これは間に受けずにリップサービスとして受け取っておきます。だって、2024年のCOMPLEXサウンドなんてまったく想像できないですし。COMPLEXって、布袋が『GUITARYTHM』(1988年)というソロ作品で体現した「1980年代半ばから脈々と続くチープなデジロック」サウンドに、同時代のニューウェイヴやニューロマンティックにかぶれていた吉川のセンスが合体することで生まれた奇跡だったわけで、それを今の2人が(テクノロジーが発達した)現代のサウンドで表現しようとしても、うまく作用しないんじゃないかと思うんです。昨今の『GUITARYTHM』シリーズの流れでCOMPLEXをやるのも違うし、だからといって過去2作のアルバムの延長線上にあるサウンドメイクで新曲を作ったとしても、中途半端に古臭いものになってしまいそうで怖いし。だったら、布袋が吉川に楽曲提供して、ギタリストとしてもレコーディングに参加するくらいがちょうどいいんじゃないかと。変に色気を出して過去を上書きするよりも、思い出は思い出のままが一番。そういう意味では、再結成ライブは今回が最後でもいいくらい(そこには、今後彼らが立ちあがろうとしなくてもいいような、安心できる日常が続いてほしいという意味も込められているのですが)。

なお、帰り際BOØWY(布袋)とルースターズ(井上富雄)とニューエストモデル(奥野真哉)とDEAD END(湊雅史)のメンバーが同じバンドにいるなんて、80年代だったら絶対に想像できなかったよな」と思ったのは、ここだけの話。改めて、長生きはするものですね。

<セットリスト>
01. BE MY BABY
02. PRETTY DOLL
03. CRASH COMPLEXION
04. NO MORE LIES
05. 路地裏のVENUS
06. LOVE CHARADE
07. 2人のAnother Twilight
08. MODERN VISION
09. そんな君はほしくない
10. BLUE
11. Can't Stop The Silence
12. CRY FOR LOVE
13. DRAGON CRIME
14. HALF MOON
15. ROMANTICA (2024 Version)
16. PROPAGANDA
17. IMAGINE HEROES
18. GOOD SAVAGE
19. 恋をとめないで
20. MAJESTIC BABY
 アンコール
21. 1990
22. RAMBLING MAN
 ダブルアンコール
23. CLOCKWORK RUNNERS
24. AFTER THE RAIN (朱いChina)

2024年5月 9日 (木)

POISON『CRACK A SMILE... AND MORE!』(2000)

2000年3月14日にリリースされたPOISONの5thアルバム。日本盤は同年6月28日発売。

本作は4thアルバム『NATIVE TONGUE』(1993年)に続くスタジオアルバムとして、脱退したリッチー・コッツェン(G)に代わりブルース・サラセノ(G)を迎え1994〜95年にかけてレコーディングされた『CRACK A SMILE』をベースにした内容。この時期、ブレット・マイケルズ(Vo, G)が交通事故(1994年5月)で重傷を負ったことから制作が長期にわたり、またその間に音楽シーンがグランジやヒップホップ中心に移行したこともあり、当初は1996年のリリースに向けてプロモ盤も制作されたもののレーベル側が難色を示し、最終的にアルバムのリリースは棚上げとなります。

結局、レーベル(Capitol Records)は契約消化作として1996年にベストアルバム『POISON'S GREATEST HITS 1986-1996』(1996年)を発表。そこに5thアルバムセッションで制作された「Sexual Thing」「Lay Your Body Down」の2曲を収録するにとどまります。しかし、1999年にC.C.デヴィル(G)がバンドに復帰し、黄金期のメンバーが復活。その後のツアーが大成功を収めたことを受け、約5年の歳月を経てついに日の目を見ることとなりました。

ジョン・パーデル&デュエイン・バーロン(アリス・クーパーDREAM THEATERL.A. GUNSオジー・オズボーンなど)をプロデューサーに迎え制作された本作は、1996年時点では全12曲入りアルバムとなる予定でした。が、『AND MORE!』という副題が付けられた2000年リリース作にアルバムアルバム本編にアウトテイク3曲(「One More For The Bone」「Set You Free」「Crack A Smile」)、2ndアルバム『OPEN UP AND SAY...AHH!』(1988年)制作時のアウトテイク「Face The Hangman」、さらに1990年の『MTV Unplugged』出演時に録音されたアコースティックライブ音源4曲を加えた、全20曲入りとなっています。

『CRACK A SMILE』本編自体はベスト盤で先行公開されていた「Sexual Thing」や「Lay Your Body Down」で何となく想像できていたように、3rdアルバム『FLESH & BLOOD』(1990年)や前作『NATIVE TONGUE』の延長線上にある、非常に練り込まれよく作り込まれたハードロックアルバムと言えるでしょう。なので、その2作を楽しめる耳をお持ちでしたら難なく受け入れられることでしょう。ブルース・サラセノのギタープレイもバンドのカラーに合わせた、そつないもので収まっているので、彼のソロキャリアと同等のものを期待すると若干肩透かしを喰らうかもしれません。

90年代半ばのシーンを意識してか、ヒップホップ的テイストをほんのりと散りばめた「Shut Up, Make Love」や「No Ring, No Gets」、DR. HOOK & THE MEDICINE SHOWのカバー「Cover Of The Rolling Stone」もスパイスとして存在感を発揮していますし、そのほかのオリジナル楽曲もいかにも彼ららしいものばかり。これが『NATIVE TONGUE』と同時代に1リリースされていたら、それなりのヒットを記録していたことでしょう。しかし、1996年といったらニューメタル全盛期。そりゃあメジャーでこれを大々的に売り出そうとは思わないか……残念ですが。

時代が何周も回った2024年だったら、本作を純粋に良質なハードロックアルバムとして、あるいは歴史の一部として受け入れることもできるでしょう。そういう意味では良い時代になりましたね。

なお、アルバム終盤の5曲(「Face The Hangman」以降)が急に別のギタリスト(C.C.デヴィル)に変わるので、ちょっとした違和感を覚えるかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで(サブスクだと『MTV Unplugged』の4曲は未配信なので、そこまで『CRACK A SMILE』の世界観を崩すことはないですけどね)。

 


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2024年5月 7日 (火)

TESLA『MECHANICAL RESONANCE』(1986)

1986年12月8日にリリースされたTESLAの1stアルバム。日本盤はアナログが翌1987年2月25日、CDが1989年5月10日に発売されています。

80年代初頭にCITY KIDDと名乗っていたカリフォルニア州サクラメントのローカルバンドが、1984年にジェフ・キース(Vo)、フランク・ハノン(G)、トミー・スキーオ(G)、ブライアン・ウィート(B)、トロイ・ルケッタ(Dr/ex. ERIC MARTIN BAND)というメンバーが揃ったことで、バンド名を現在のTESLAへと改名。以降、精力的なライブ活動を展開したのちにGeffen Recordsと契約し、スティーヴ・トンプソン&マイケル・バルビエロ(A-HAGUNS N' ROSESMETALLICAマドンナなど)をプロデューサーに迎えてデビューアルバムを制作します。

当初こそ大きな話題にならなかったものの、地道なツアーと「Little Suzi」(全米91位)のスマッシュヒット、「Modern Day Cowboy」や「Gettin' Better」のMVがMTVでヘヴィローテーションされたこともあり、アルバムはリリースから数ヶ月後に最高32位まで上昇。最終的に100万枚を超えるヒット作となりました。

いわゆるヘアメタルに部類されるバンドではあるものの、その無骨で土着的なサウンドは同時期にデビューしたCINDERELLAとの共通点も見受けられ、ヘアメタル界隈の中では硬派な印象を受けます。ヘアメタルというとグラムロックからの影響(ヴィジュアルのみならずサウンド面でも)が感じられますが、このTESLAに関してはそういった側面はまったく感じられず(MVでは多少メイクはしていますが)、そのへんは同じカリフォルニアでもサクラメントという土地柄の影響かもしれません。

先の「Modern Day Cowboy」や、アルバム冒頭を飾る「EZ Come EZ Go」、ライブのオープニングにふさわしいファストチューン「Comin' Atcha Live」などは正統派ハードロックバンドの印象が強いし(「Modern Day Cowboy」で聴けるドラマチックなアレンジやギターのツインリードはむしろヘヴィメタル的か)、その一方で「Gettin' Better」や「Little Suzi」などアコースティックテイストを適度にはらんだアーシーさは、その後のBON JOVIPOISONなどのヒットとの共通点も見受けられる。また、「We're No Good Together」ではソウルフルな側面を打ち出したパワーバラードが展開されており、1987年以降のHR/HMシーンのひと足先を進んでいるようにも映る。さらに、全12曲/約53分というCDを意識したトータルランニングもアナログ/CD移行期間において先見の明があった、と受け取ることもできる。いろんな意味でシーンの一歩先を読んでいた、実はかなり優れたデビューアルバムだったことを後々理解することになります。

出来過ぎ!ってくらいによく作り込まれた本作でしたが、続く『THE GREAT RADIO CONTROVERSY』(1989年)ではそのスタイルがさらに洗練され、キャリア最大のヒットを記録することになります。

 


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2024年5月 2日 (木)

TESLA『BUST A NUT』(1994)

1994年8月23日にリリースされたTESLAの4thアルバム。日本盤は同年9月21日発売。

全米13位まで上昇し、100万枚以上を売り上げた前作『PSYCHOTIC SUPPER』(1991年)から約3年ぶりの新作。BAD COMPANYやGIANT、3 COLOURS REDなどを手がけたテリー・トーマスを初めてプロデューサーに迎えて制作された、メジャーレーベルGeffen Recordsからの最終作となります。

前々作『THE GREAT RADIO CONTROVERSY』(1989年)からのバラードシングル「Love Song」、およびアコースティックライブアルバム『FIVE MAN ACOUSTICAL JAM』(1990年)の大ヒットの反動からか、前作『PSYCHOTIC SUPPER』は全体を通じてハードな仕上がりでしたが、続く今作も基本的な作風はその延長線上にあると言っていいでしょう。ただ、前作は「Edison's Medicine」といったファストチューンがリードシングルであったりアルバム序盤に配置されていましたが、今回はひたすらヘヴィなミドルテンポで攻めるという潔さ。時代的に80年代後半に登場したヘアメタルバンドが駆逐され、代わりにグランジ勢やPANTERAをはじめとするモダンヘヴィネスが台頭したことも、そうした作風に影響を与えたのかもしれません。

ドラマチックな組曲「The Gate / Invited」、転調からのツインリードソロという王道ヘヴィメタル的アレンジの「Shine Away」など、序盤からかなり熱のこもった楽曲がずらりと並び、「これは軽く前作超えでは?」と掴みもバッチリ。個人的には1stアルバム『MECHANICAL RESONANCE』(1986年)や2ndアルバム『THE GREAT READIO CONTROVERSY』をよりモダンに進化させた、という印象を当時持った記憶があります。

LED ZEPPELIN的なヘヴィグルーヴの「She Wants She Wants」や「Mama's Fool」、彼ららしいクセの強いコード使いが印象的な「Action Talks」や「Earthmover」、正統派ハードロックバンドらしいアップチューン「Cry」、エピカルな側面を強めた「Rubberband」、そして単なるパワーバラードで終わらない「Try So Hard」や「Need Your Lovin'」「Alot To Lose」など、1曲1曲のクオリティは非常に高い。過去3作での経験をより高い純度で昇華させた、充実度の高い楽曲群を前にしたら、本作こそTESLAの最高傑作と言いたくなってしまはずです。

もし、本作に対して難癖を付けるとしたら、全14曲/約70分の大作であること(日本盤はさらにLED ZEPPELIN「The Ocean」カバーを追加)。全14曲中7曲が5〜6分台と長尺で、かつ1曲の密度も高い。前作『PSYCHOTIC SUPPER』も全13曲で約68分と長尺な作品でしたが、今作も同様にすべてを咀嚼するまでに相当の時間を要しました。特に、よりシンプルな方向へとシフトしていた90年代半ばにおいては、時代に反した1枚だったこともあり、セールス的には過去3作には及ばず。全米20位/50万枚と彼らにしては低調で終わり(それでも、この手のバンドにしては当時大健闘だったのですが)、先に述べたようにデビューから在籍したGeffen Recordsとの契約はここで終了してしまい、トミー・スキーオ(G)もバンドを脱退。1996年にはバンド解散を余儀なくされます。

前作のときにも「これ、10曲に絞ったらもっとキュッと絞まったいいアルバムになったのに」と感じましたが、それは今作も同様でした。ただ、今回は前作以上に捨て曲皆無の仕上がりだっただけに、本当にそこだけが残念なんですよね。

 


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