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2024年6月

2024年6月30日 (日)

2024年6月のお仕事

2024年6月に公開されたお仕事の、ほんの一例をご紹介します。(※6月29日更新)

 

[WEB] 6月29日、「リアルサウンド」にてインタビュー 井上梨名&村井優、“櫻坂46らしさ”を広げていく野心 全員で立った東京ドームから得た自信が公開されました。

[WEB] 6月28日、「音楽ナタリー」にてインタビュー FANTASTIC◇CIRCUSインタビュー|“LAST”になるかもしれないツアーへの覚悟が公開されました。

[WEB] 6月27日、「リアルサウンド」にてインタビュー Crossfaith、ニューアルバム『AЯK』を経て第2章開幕へ 現在地と“バンド史上最大のミッション”を語るが公開されました。

[WEB] 6月27日、「リアルサウンド」にてライブレポート 櫻坂46、充実した活動を実らせる“通過点” グループ史上最大動員数を達成した東京ドーム公演が公開されました。

[WEB] 6月24日、「Rolling Stone JAPAN」にてインタビュー otsumamiが語る活動3年目の変化、宮沢賢治の言葉と描いた「大人は忙しい」の真意が公開されました。

[紙] 6月18日発売 日向坂46高本彩花1st写真集「僕の記憶の中で」にて、高本彩花ロングインタビューを担当しました。(Amazon

[WEB] 6月17日、櫻坂46『4th ARENA TOUR 2024 新・櫻前線 -Go on back?- IN 東京ドーム』のオフィシャルライブレポートを執筆。ニッポン放送 NEWS ONLINEなど複数媒体で公開中です。

[WEB] 6月10日、「SPICE」にてライブレポート Tele、全国ツアー初日となった日本武道館公演を自分ならではの“箱庭”と化し観客とひとつの物語を作り上げるが公開されました。

[WEB] 6月10日、乃木坂46『35thSGアンダーライブ』のオフィシャルライブレポートを執筆。ニッポン放送 NEWS ONLINEなど複数媒体で公開中です。

[WEB] 6月7日、「SPICE」にてインタビュー TENSONG、中高生を中心に幅広い年代から注目を集める新世代音楽ユニットのこれまでとここからに迫るが公開されました。

[WEB] 6月5日、「リアルサウンド」にてインタビュー 欅坂46/櫻坂46、NMB48らに楽曲提供 ナスカ、グループや歌詞の魅力を最大限に引き出す作曲術が公開されました。

[WEB] 6月4日、「リアルサウンド」にてコラム THE YELLOW MONKEY、極上のロックンロールで鳴らす10枚目の名盤『Sparkle X』 アルバム全曲解説が公開されました。

[紙] 6月4日発売 「日経エンタテインメント!」2024年7月号にて、櫻坂46大園玲 連載「ミステリアスな向上心」、日向坂46上村ひなの 連載「ピュアで真っすぐな変化球」の各構成を担当しました。(Amazon

 

2024年6月 6日 (木)

THE ROLLING STONES『HACKNEY DIAMONDS』(2023)

2023年10月20日にリリースされたTHE ROLLING STONESの24thアルバム(イギリスにて。アメリカでは26枚目のアルバム)。

スタジオアルバムとしてはブルースカバー集『BLUE & LONESOME』(2016年)から7年ぶり、オリジナルアルバムとしてとなると『A BIGGER BANG』(2005年)以来18年ぶり、というちょっと時空が歪みそうになるくらい久しぶりの新作。とはいえ、ストーンズはその18年の間に新曲を発表しているので、まったく何もしていなかったわけではないんですよね(大々的なツアーもしてたあし)。ただ、作るとなるとそれ相応の理由付けも必要になる、そんなフェーズに入ってしまったのかもしれません。

今回に関して言えば、そのきっかけとなったのがチャーリー・ワッツ(Dr)の死。ネガティブ要素から始まっているとはいえ、2019年から断続的に行なっていたチャーリーとのスタジオセッションを含む新作を形にしないことには、バンドとしても前に進めない……そう感じたかどうかはわかりませんが、ミック・ジャガー(Vo, G)やキース・リチャーズ(G, Vo)の背中を多少なりとも押したのは事実だと思います。

コロナ禍のロックダウン時に突如発表された新曲「Living In A Ghost Town」(2020年/日本盤のみボーナストラックとして収録)の時点ではまだアルバムモードではなかったようですが、本腰を入れて臨んだタイミングにアンドリュー・ワット(イギー・ポップオジー・オズボーンPEARL JAMなど)を新たなプロデューサーに起用。チャーリーが残したドラムトラックは2曲にとどめ、それ以外をチャーリー急逝後のツアーでもプレイしていたスティーヴ・ジョーダン(Dr)が叩き、ベースはアンドリューとキース、ロニー・ウッド(G)が手分けをして担当したほか、チャーリーが参加した「Live By The Sword」にはかつてのオリジナルメンバー、ビル・ワイマン(B)がゲスト参加しています。

本作はそのほかにも豪華ゲストが盛りだくさんで、ポール・マッカートニーは「Bite My Head Off」でベースをプレイしたほか、エルトン・ジョンは「Get Close」「Live By The Sword」でピアノ、スティーヴィー・ワンダーは「Sweet Sounds Of Heaven」でピアノやローズ・ピアノなど、レディ・ガガは「Sweet Sounds Of Heaven」でボーカルで客演。このほかにもベンモント・テンチやマット・クリフォードといった気心知れた面々も名を連ね、ストーンズ18年ぶりのオリジナル新作に華を添えています。

オープニングを飾る「Angry」からして、『TATTOO YOU』(1981年)あたりのストーンズを彷彿とさせる「ルーズながらもタイト」なサウンドを再現。ギターリフワークもあの頃とイメージが重なるものの、メロディライン自体は結構練り込んで作った印象が。おそらくアンドリュー・ワットというプロデューサーは、そのアーティストの一番良かった時代(=自身がファンだった頃)をアーティスト自身に再認識させ、ただ焼き直しをするんじゃなくて現代の感覚で表現させようとする、そういうタイプのプロデューサーなんでしょうね。随所から「懐かしさと安定感」と同じくらい「新しさや新鮮さ」を見つけることができます。

全体的にポップでキャッチーという『TATTOO YOU』期の彼らをイメージさせつつ、「Bite My Head Off」では年齢を感じさせないほど前のめりなパンクロックに挑戦し、「Mess It Up」ではチャーリーの跳ねたビートが気持ちいいダンスチューンを体現。チャーリー&ビルのリズム隊の上で肩の力が抜けた歌とギターを奏でる「Live By The Sword」、キースらしさ全開のいぶし銀ナンバー「Tell Me Straight」でらしさを見せつけたあとに、終盤でのミックとレディ・ガガのボーカルバトルがたまらない7分超の「Sweet Sounds Of Heaven」でクライマックスに到達し、最後はバンド名の由来となったマディ・ウォーターズの「Rolling Stone Blues」をミック&キースがシンプルにカバーして締めくくり。1曲1曲の完成度もさることながら、アルバムとしての流れも完璧で、全12曲/約48分というトータルランニングもちょうどいいから何度もリピートしてしまう。個人的にはストーンズのオリジナルアルバムの中でも上位に入る傑作ではないでしょうか。

チャーリーの不在とビルの1曲のみの復活、18年ぶりのオリジナルアルバムにして傑作、最後にバンドの原点を提示する、などなど……こういった要素から、これがラスト作になったとしても不思議じゃないくらいのドラマ性が封じ込まれた1枚。個人的にも最初に聴き終えたとき、「ここでバンドの看板を降ろしても誰も文句言えないよ」と思ったほどでした。ミックは「もう1枚作る」と息巻いているようですが、年齢的にもこれが最後なんじゃないかな……。

 


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2024年6月 4日 (火)

THE TEARS『HERE COME THE TEARS』(2005)

2005年6月6日にリリースされたTHE TEARS唯一のオリジナルアルバム。日本盤は同年7月20日発売。

2003年に活動休止を発表したSUEDEのフロントマン、ブレット・アンダーソン(Vo)が同バンドの初期2作(1stアルバム『SUEDE』、2ndアルバム『DOG MAN STAR』)でギタリスト&ソングライターとして活躍すたバーナード・バトラー(G)と約10年ぶりに和解を果たしたことで、THE TEARSと命名された新バンドを2004年に結成します。ブレットとバーニー以外のメンバーは、バーニーのソロ活動を支えてきた日本人ドラマーのマコト・サカモト(Dr)のほか、ネイサン・フィッシャー(B)、ウィル・フォスター(Key)という布陣。

楽曲制作はブレット&バーニーの2人で行われ、アルバムのプロデュースをバーニーが担当。ブレットもアディショナル・プロデューサーとして名を連ねていますが、2000年代に入りTHE LIBERTINESTHE CRIBSなどの作品で培ったバーニーのプロデューサーとしての才能が、ここでも遺憾なく発揮されています。

この2人が再タッグを組むと言われたら、誰もがSUEDE初期の2作で展開されたデカダンな世界観&グラマラスなサウンドを想像することでしょう。しかし、実際にここで鳴らされているのはSUEDE後期、特にバーニー脱退後の3rdアルバム『COMING UP』(1996年)以降の音を下地にしたもので、SUEDEとして当時の最終作でもある『A NEW MORNING』(2002年)との共通点も見受けられます。つまり、本作はポップサイドに振り切った1枚ということになります。

しかし、この2人が揃ったんだから単なるポップアルバムで終わらない。本作で2人がイメージしたのは、デヴィッド・ボウイが初期に残した『THE MAN WHO SOLD THE WORLD』(1970年)『HUNKY DORY』(1971年)という2枚。ボウイが“ジギー・スターダスト”としてグラムロックスターへと君臨する前に残した、ポップでロックでフォーキーなテイスト……つまり、2人にとってのルーツサウンドを今再びここで体現しようと試みたわけです。

確かにSUEDE初期のような危うさは希釈ながらも、90年代前半に彼らがトライした「70年代初期のグラムロックのモダン化」を10年越しに再挑戦したという意思は十分に伝わります。『SUEDE』や『DOG MAN STAR』のあとにこの『HERE COME THE TEARS』を聴いたらつながりは感じられないかもしれませんが、その後のSUEDEが歩んだ道のり、そしてバーニーがMcALMONT AND BUTLERやソロ活動を通じて重ねてきたキャリアを踏まえれば十分に納得できる仕上がりではないでしょうか。

『A NEW MORNING』は悪い意味で「出来上がって」しまっていたブレットのボーカルも、本作ではSUEDE中期までの豪快さが少しだけ復調している。それもそれも、隣で“らしい”ギターを奏でるバーニーの存在が与える影響がかなり大きいはず。オープニングを飾る「Refugees」(全英9位)こそSUEDE末期の延長のようではあるものの、「Lovers」(同24位)や「Two Creatures」などでは2000年代の音で表現されるモダンなグラムロックを存分に楽しむことができるし、「The Ghost Of You」のような繊細さを伴う楽曲では初期SUEDEのシングルカップリング曲で見せた色合いを追体験できる。さらに、アルバム終盤に向けて展開されるディープな世界観も、完全に一緒とないかないものの、どこか初期のSUEDEとイメージが重なる部分がある。当時死滅していたブリットポップやグラムロックをモダンな質感で再構築したという点で、本作が果たした役割は非常に大きなものがありますし、実際に亜洋的にもしっかり作り込まれた良質なロックアルバムだと断言できるはずです。

初期のSUEDEの完全再現を求めていたリスナーには、本作は肩透かしな1枚なのかもしれませんが、ここまでブレットとバーニーそれぞれのたどった道を追ってきた筆者のような人間には、これを否定することはできない。そう考えると、一部のファンにとっては“踏み絵”のような作品なのかもしれませんね。

なお、本作リリース直後の2005年8月には『SUMMER SONIC 05』へ出演するために、ブレット&バーニーは2003年の初来日ツアー以来12年ぶりに揃って来日。本国ではアルバムチャート15位とまずまずの数字を残すものの、同年秋に所属レーベルから解雇されてしまい、以降のツアーはすべて白紙に。2006年にブレットがソロ活動へと移行したのを機に、バンドは1年足らずで活動を終了させたのでした。

 


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2024年6月 3日 (月)

JESSIE BUCKLEY & BERNARD BUTLER『FOR ALL OUR DAYS THAT TEAR THE HEART』(2022)

2022年6月17日にリリースされた、ジェシー・バックリーバーナード・バトラーのコラボアルバム。日本盤未発売。

ジェシー・バックリーは2018年公開の映画『ワイルド・ローズ』での主人公ローズ役を務めたほか、2021年公開の映画『ロスト・ドーター』では主人公ラダの若き日を演じアカデミー賞をはじめとする数々の映画賞を受賞したことで知られるアイルランド出身の女優。『ワイルド・ローズ』ではカントリー歌手を夢見るシングルマザーという設定もあり、劇中での歌唱も話題となりました。

一方、バーナード・バトラーはSUEDEの初期メンバーとしてはもちろん、ソロアーティストや音楽プロデューサーとしても名を馳せる名手。互いに接点はないように映りますが、ジェシーはかつてバーニーがプロデュースしたサム・リーのアルバムを聴いていたといい、バーニーも先の『ワイルド・ローズ』でのジェシーの歌唱を耳にしており、互いに高く評価し合っていました。そんな中、ジェシーのマネージャーが2人が対面する機会を設け、同じ精神性を持っていた2人は次第に距離を縮めていき、気づけば音楽的コラボレーションへとつながっていったわけです。

バーニーのプロデュースのもと制作された本作は、深みを強く感じさせるジェシーのボーカルを最良の形で生かした、アコースティックサウンド主体の内容。バーニーはギターのみならず、一部の楽曲ではピアノやドラムまでもを担当し、レコーディングの指揮をとります。また、シンガーでもあるバーニーですが、主役はあくまでジェシーということで彼自身は数曲でコーラスを担当するのみ。コラボ作ではあるものの、彼はあくまでプロデューサー/プレイヤーとしての共作であると認識しているようです。

ダフィー以降、バーニーが手がけてきた「夜の香りがする」アダルトなサウンドアレンジと、アコギやアップライトベース、チェロやバオイリン、トランペットやホルンなどのアコースティック楽器を主体とした音作りは、その後制作されるバーニー自身のソロアルバム『GOOD GRIEF』(2024年)との共通点も多く見つけられます。楽曲自体はそのバーニーの持ち味のひとつであるフォーキーさやジャジーさを強調したものが多く、そうしたテイストがジェシーの歌声にもぴったりハマっている。そのプロデューサーとしてのセンスも、さすがバーニーといったところでしょうか。

これをバーニー自身が歌っていたら、きっとより内省的で地味なアルバムとしてこじんまりとまとまっていたかもしれません。しかし、そうならずに適度なゴージャスさも伝わる上質な歌モノ作品として仕上がったのは、バーニー自身の創作する音楽との「距離」の違いが大きいのかなと。自分のための音楽だったら距離が近すぎて、客観的になるのが難しいところもある。しかし、コラボ作とはいえ主役は別のシンガーがいることで、自身のソロ作よりも客観視できる。いくら名プロデューサーとはいえ、さすがにこの「距離」の違いは大きいのではないでしょうか。

まあそんな邪推は置いておいて。本作は非常にクオリティの高い大人のポップスを、存分に楽しむことができる良質な作品集。アコースティック主体のサウンドながらも、「We've Run The Sistance」のようにダイナミックさが強調された楽曲も用意されているので、全12曲/約50分を退屈することなく楽しめるはず。ジェシーの知名度も大きいとは思いますが、本作が全英23位、スコットランドで8位、アイルランドで35位という好記録を残したのも納得です。

 


▼JESSIE BUCKLEY & BERNARD BUTLER『FOR ALL OUR DAYS THAT TEAR THE HEART』
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2024年6月 2日 (日)

BERNARD BUTLER『GOOD GRIEF』(2024)

2024年5月31日にデジタルリリースされたバーナード・バトラーの3rdアルバム。海外でのフィジカル(CD、アナログ)リリースは同年7月5日を予定、日本盤の発売は現時点で予定なし。

純粋なソロアルバムとしては、前作『FRIENDS AND LOVERS』(1999年)から約25年ぶり。2000年代以降はプロデューサーとしての活躍が目立ったバーニーですが、THE ANCHORESSことキャサリン・アン・デイヴィスとのコラボアルバム『IN MEMORY OF MY FEELINGS』(2020年/制作自体は2014年。同時期にバーニーはTRANSという短命プロジェクトも始動)を発表したのを機に、徐々に創作意欲が高まっていきます。2022年には女優ジェシー・バックリーとのコラボアルバム『FOR ALL OUR DAYS THAT TEAR THE HEART』をリリースし、こちらは全英23位という好記録を残しています。さらにこれと前後して、ソロデビュー作『PEOPLE MOVE ON』(1998年)のリイシューを計画し、オリジナル盤に自身が新たに歌い直したテイク、当時のシングルカップリング曲などをまとめたCD4枚組デラックス盤も発表するなど、自身がフロントマンとして活動する機会が徐々に増えていきました。

こうした活動の中で、自身のための新曲制作にも着手。先に小規模のライブを複数行ったことも、こうしたソロセッションに対する前向きさにつながり、2023年の数ヶ月を通じて本作に収められている9曲を完成させました。

基本的な路線は『FRIENDS AND LOVERS』などでにじませていたディープな歌モノスタイルの延長線上にあります。と同時に、90年代のアレンジとは異なるシンプルさ、生々しさが強まっており、そこが良い意味で現代的と受け取ることもできる。そこに、ギタリストとして大人の表現を手に入れたバーニーが、1音1音の存在感が強いプレイで自分以外の何ものでもない表現を提示しており、派手さは皆無ながらも聴き手をグイグイと音世界へと引き込んでいく。その説得力の強さはさすがの一言です。

また、前作発表時は30歳前後だった彼も現在は50代半ばに差し掛かろうとしており、そういった加齢による歌声の変化/成長も作品にダイレクトに反映されている。これは年相応のものへと深化した、というのが正解なのでしょう。90年代の2作ではシンガーとして最初に一歩を踏み出した時期ということもあり、瑞々しさもしっかり感じられましたが、今作では本来彼が表現しようとしていた音楽を歌うに最適な歌声/声質になったことで、楽曲にもたらす説得力が段違いとなっている。この変化/進化は本作を評価する上でかなり大きな要素と言えるでしょう。

稀代のギタリストの新作というよりは、名ソングライター/プロデューサーが久しぶりに自身と向き合って、自分のためだけの楽曲集を完成させた。本作はそんな1枚ではないかと解釈しております。「Pretty D」や「London Snow」といった楽曲たちは、間違いなく「Stay」や「Not Alone」、あるいは「You Must Go On」などといったヒットシングルに匹敵する完成度を誇る名曲ですしね。

とはいえ、全体のトーンはかなり落ち着いたものであるのは事実。これを地味と受け取るか、あるいは大人の渋みと受け取るかで、本作への印象もだいぶ異なるのではないでしょうか。

 


▼BERNARD BUTLER『GOOD GRIEF』
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2024年6月 1日 (土)

BERNARD BUTLER『FRIENDS AND LOVERS』(1999)

1999年10月25日にリリースされたバーナード・バトラーの2ndアルバム。日本盤は同年10月20日発売。

SUEDE、McALMONT AND BUTLERでの活動を経て届けられた初ソロアルバム『PEOPLE MOVE ON』(1998年)から1年半ぶりと、比較的短いスパンで届けられたソロ2作目。前作からは「Stay」(全英12位)、「Not Alone」(同27位)、「A Change Of Heart」(同45位)とヒットシングルも生まれ、アルバム自体も最高11位という好成績を残しました。また、アルバム発売後には1998年の単独公演、1999年夏にはHOLEの代役で『FUJI ROCK FESTIVAL '99』へ出演するなど来日も複数回実現し、SUEDE時代からのファンには健在ぶりを存分にアピールすることに成功しています。

前作ではドラム以外の楽器をほぼバーニーひとりで担当したほか、ストリングス隊を大々的にフィーチャーすることでゴージャスさ、豪快さを体現することにも成功しましたが、今作では先の『PEOPLE MOVE ON』を携えたツアーでまとまったバンド編成を軸に制作。プロデュースは前作同様にバーニー自身が担当し、ミキシングをアンディ・ウォレスが手がけています。アンディの起用は、バーニーがNIRVANA『NEVERMIND』(1991年)での仕事ぶりを気に入り、ダメ元でオファーしたんだとか。

さて、作風的には前作の延長線上にある、歌ものギターロックやフォーキー&サイケデリックな楽曲を中心に構成。サイケなタイトルトラックからスタートし、SUEDE時代を彷彿とさせる豪快な「I'd Do It Again If I Could」、前作でのシングル曲路線を引き継ぐポップ&キャッチーな「You Must Go On」(全英44位)や「Cocoon」、バーニーの魅力が完璧な形で凝縮された「No Easy Way Out」、20代後半にしてここまで老成するか?と驚かせるジャジーな「Everyone I Know Is Falling Apart」、クライマックスに相応しい8分超の対策「Has Your Mind Got Away?」など、前作を気に入っている方なら間違いなく両手を上げて受け入れられる良曲ばかり。バーニーの歌もだいぶ板に付いてきた感が強く、ソロアーティストとしての方向性、スタイルがここでひとつ固まった感があります。

良く言えば、早くも“極まった”感が強い。ただ、悪く言えば新鮮さに欠ける。もともと斬新さを追求するようなタイプのアーティストではなく、ソングライターとして、ギタリストとして自身の技術や才能を極め続ける職人気質なだけに、このスタイルは一寸たりともブレていない。ただ、リリース当時が“世紀末”という時代の変わり目だったこともあって、前作よりも注目されなかったのはちょっと不幸だったかな。

チャート的には全英43位と前作ほどの成功を収めることができず、また所属レーベルCreation Recordsの閉鎖も重なり、2000年2月の再来日公演を最後にバーニーはしばらくソロ活動から離れることに。2002年にはMcALMONT AND BUTLERの2ndアルバム『BRING IT BACK』を発表し、2004年にはSUEDE時代の盟友ブレット・アンダーソン(Vo)と新プロジェクトTHE TEARSを立ち上げ、セルフタイトルのアルバム(2005年)を1枚制作。と同時に、THE LIBERTINESTHE CRIBS、ダフィーなどとのコラボレーションで、プロデューサーとして実績を積み重ねていくことになるのでした。

 


▼BERNARD BUTLER『FRIENDS AND LOVERS』
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