THE TEARS『HERE COME THE TEARS』(2005)
2005年6月6日にリリースされたTHE TEARS唯一のオリジナルアルバム。日本盤は同年7月20日発売。
2003年に活動休止を発表したSUEDEのフロントマン、ブレット・アンダーソン(Vo)が同バンドの初期2作(1stアルバム『SUEDE』、2ndアルバム『DOG MAN STAR』)でギタリスト&ソングライターとして活躍すたバーナード・バトラー(G)と約10年ぶりに和解を果たしたことで、THE TEARSと命名された新バンドを2004年に結成します。ブレットとバーニー以外のメンバーは、バーニーのソロ活動を支えてきた日本人ドラマーのマコト・サカモト(Dr)のほか、ネイサン・フィッシャー(B)、ウィル・フォスター(Key)という布陣。
楽曲制作はブレット&バーニーの2人で行われ、アルバムのプロデュースをバーニーが担当。ブレットもアディショナル・プロデューサーとして名を連ねていますが、2000年代に入りTHE LIBERTINESやTHE CRIBSなどの作品で培ったバーニーのプロデューサーとしての才能が、ここでも遺憾なく発揮されています。
この2人が再タッグを組むと言われたら、誰もがSUEDE初期の2作で展開されたデカダンな世界観&グラマラスなサウンドを想像することでしょう。しかし、実際にここで鳴らされているのはSUEDE後期、特にバーニー脱退後の3rdアルバム『COMING UP』(1996年)以降の音を下地にしたもので、SUEDEとして当時の最終作でもある『A NEW MORNING』(2002年)との共通点も見受けられます。つまり、本作はポップサイドに振り切った1枚ということになります。
しかし、この2人が揃ったんだから単なるポップアルバムで終わらない。本作で2人がイメージしたのは、デヴィッド・ボウイが初期に残した『THE MAN WHO SOLD THE WORLD』(1970年)と『HUNKY DORY』(1971年)という2枚。ボウイが“ジギー・スターダスト”としてグラムロックスターへと君臨する前に残した、ポップでロックでフォーキーなテイスト……つまり、2人にとってのルーツサウンドを今再びここで体現しようと試みたわけです。
確かにSUEDE初期のような危うさは希釈ながらも、90年代前半に彼らがトライした「70年代初期のグラムロックのモダン化」を10年越しに再挑戦したという意思は十分に伝わります。『SUEDE』や『DOG MAN STAR』のあとにこの『HERE COME THE TEARS』を聴いたらつながりは感じられないかもしれませんが、その後のSUEDEが歩んだ道のり、そしてバーニーがMcALMONT AND BUTLERやソロ活動を通じて重ねてきたキャリアを踏まえれば十分に納得できる仕上がりではないでしょうか。
『A NEW MORNING』は悪い意味で「出来上がって」しまっていたブレットのボーカルも、本作ではSUEDE中期までの豪快さが少しだけ復調している。それもそれも、隣で“らしい”ギターを奏でるバーニーの存在が与える影響がかなり大きいはず。オープニングを飾る「Refugees」(全英9位)こそSUEDE末期の延長のようではあるものの、「Lovers」(同24位)や「Two Creatures」などでは2000年代の音で表現されるモダンなグラムロックを存分に楽しむことができるし、「The Ghost Of You」のような繊細さを伴う楽曲では初期SUEDEのシングルカップリング曲で見せた色合いを追体験できる。さらに、アルバム終盤に向けて展開されるディープな世界観も、完全に一緒とないかないものの、どこか初期のSUEDEとイメージが重なる部分がある。当時死滅していたブリットポップやグラムロックをモダンな質感で再構築したという点で、本作が果たした役割は非常に大きなものがありますし、実際に亜洋的にもしっかり作り込まれた良質なロックアルバムだと断言できるはずです。
初期のSUEDEの完全再現を求めていたリスナーには、本作は肩透かしな1枚なのかもしれませんが、ここまでブレットとバーニーそれぞれのたどった道を追ってきた筆者のような人間には、これを否定することはできない。そう考えると、一部のファンにとっては“踏み絵”のような作品なのかもしれませんね。
なお、本作リリース直後の2005年8月には『SUMMER SONIC 05』へ出演するために、ブレット&バーニーは2003年の初来日ツアー以来12年ぶりに揃って来日。本国ではアルバムチャート15位とまずまずの数字を残すものの、同年秋に所属レーベルから解雇されてしまい、以降のツアーはすべて白紙に。2006年にブレットがソロ活動へと移行したのを機に、バンドは1年足らずで活動を終了させたのでした。
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