AEROSMITH『GREATEST HITS』(2023)
2023年8月18日にリリースされたAEROSMITHの最新コンピレーションアルバム。
これまで70年代と90年代後半以降の音源がSony / Columbia、80年代半ばから90年代半ばにかけてがGeffen / Universal所有ということで、特に一部のサブスクではベスト盤において歯抜け状態が発生していたAEROSMITHですが、過去のすべてのカタログをCapitol / Universalが買収。かつ、1973年がデビュー50周年という大きな節目ということもあり、まずは移籍第1弾ということで発表されたのがこのオールタイムベストとなります。
基本的にはCD3枚組デラックスエディション(サブスクではこちらを配信)と、さらにそこから厳選されたスタンダードエディション(CD1枚)の2種類。さらに日本盤は独自仕様として、CD1枚モノに内容の異なるライブディスク3種(『LIVE BEST 1977-2016 Vol.1』および『同 Vol.2』、『ROCK FOR THE RISING SUN (LIVE IN JAPAN 2011)』)を同梱した3つの限定エディション、そしてデラックスエデションにこの3種のライブディスクを付属した6枚組の完全版……と国内においては多種多様な仕様が用意されています。
まずはベスト盤本編について触れていきましょう。ここではデラックスエデション基準で記していきます。
オールタイムベストと謳いながらも、本作には『NIGHT IN THE RUTS』(1979年)、『ROCK IN A HARD PLACE』(1982年)といった非オリメン&低迷期、ブルースのカバー曲を基調とした『HONKIN' ON BOBO』(2004年)からの楽曲、『BIG ONES』(1994年)などのコンピ盤のみに収録された一部の非アルバム曲は未収録。さらに、収録された楽曲のうちシングルとして発表されたものの多くがエディットバージョンで収録されており、アルバム版の原曲に慣れ親しんだリスナーにはちょっとだけ「ん?」と思う構成になっています。
具体的には、70年代の「Same Old Song And Dance」や「Kings And Queens」が過去のベスト盤でも使用されたシングルバージョン、80年代以降のヒット曲の多く(「Angel」や「What It Takes」など長尺のバラード曲中心)がラジオ向けの“Single Version”や“CHR Edit(CHR=Contemporary Hit Radioの略)”と題した短縮エディットで収録されているのです。「Angel」なんてドラマチックな頭のギターソロやアウトロがバッサリと短くされてるし、まったく心に響かない(笑)。また、「Rag Doll」に至ってはライブバージョンですからね。これだけ妙に浮いてしまているし。
できるだけ多くの楽曲をCDに詰め込もうとした結果がこれなんだとしたら、せめてサブスク版くらいはオリジナルバージョンで収録してほしかったかな。ただ、すでにほとんどの音源を持っているコアなファンに向けた配慮、そして既発コンピとの差別化としてこうしたレアバージョンを多数用意したのだとしたら、それはそれで意味があると言えるのかな。
選曲に関しては、まあこんなもんかなと。1stアルバム『AEROSMITH』(1973年)からは「Mama Kin」「Dream On」の2曲でとどめられていますが、続く『GET YOUR WINGS』(1974年/5曲)や『TOYS IN THE ATTIC』(1975年/5曲)、『ROCKS』(1976年/5曲)、80年代以降の『PERMANENT VACATION』(1987年/4曲)、『PUMP』(1989年/5曲)、『GET A GRIP』(1993年/6曲)といった主要作品からは4〜6曲とかなり多めにピックアップされています。もちろん、こうした作品にはヒットシングルやライブの定番曲が多数収録されているという理由もあるかと思いますが。そんな中、黒歴史とされなかった『DONE WITH MIRRORS』(1985年)からの「Let The Music Do The Talking」や本格的復活のきっかけとなったRUN D.M.C.とのコラボ版「Walk This Way」もしっかり選ばれている。ファンとしては前者が外されなかったことに喜びを隠せません。
本来なら新曲のひとつくらいは用意してもよかったんじゃないかと思うんですが(本作はリリース直後にスタート予定だったフェアウェルツアーとも関連させていたわけですし)、残念ながらそれは叶いませんでした。そういう意味も込めて……というわけではないでしょうけど、日本盤のみ未発表ライブ音源集が用意されたのは、筆者にとっては救いでした。
『LIVE BEST 1977-2016 Vol.1』および『同 Vol.2』はそのタイトル通り、キャリア50年のうち約40年にわたるライブ活動からて今日まで未発表だったライブテイクをコンパイルしたもの。ただ、40年から満遍なくピックアップというわけではなく、1997年ヒューストン、1989年ランドーバー、1993年ピッツバーグ、2003年デトロイト、2016年メキシコシティの限定された5公演からの音源となります。両ディスクとも10曲入りなのですが、音質的にはブートに毛が生えた程度といいますか。特に1977年の音源はミックスバランスも悪いですしね。資料価値としては高いのかもしれませんが、“ライブアルバム”として接するとC級クラスの代物かと。要はボーナストラックの寄せ集めみたいな仕上がりというわけです。
その一方で、『ROCK FOR THE RISING SUN (LIVE IN JAPAN 2011)』は映像化もされた2011年秋のジャパンツアーでの音源をそのまま使用しているので、音質/ミックスに関しては平均的なライブアルバムに近いものがある(ややハイが強調された感もありますが)。歓声を必要以上に被せた感は否めませんが(苦笑)、それでも東京ドームや大阪ドームのみならず、いしかわ総合スポーツセンターや広島グリーンアリーナ、マリンメッセ福岡、愛知県体育館、札幌ドームと幅広くセレクトされているので、震災後の満を持して行われたツアーに参加した方には思い出深い1枚になるのではないでしょうか。事実、2011年のこのツアーはAEROSMITHにとって最後の本格的なジャパンツアーになってしまったので、そういった意味でも貴重な資料と言えますしね。
先日、スティーヴン・タイラー(Vo)の喉が万全な状態への回復が見込めず、昨年から延期になっていたフェアウェルツアーが中止されること、そしてバンドとしてのツアー引退を正式に発表したAEROSMITH。あくまでライブからの撤退であり、音源制作に関してはジョー・ペリー(G, Vo)は諦めていないようなので、わずかな希望を捨てることなく、正真正銘の“スワンソング”を待ちたいところです(いや、本当はそんな日が来てほしくないんだけどさ……)。
▼AEROSMITH『GREATEST HITS』
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