ALCATRAZZ『V』(2021)
2021年10月15日にリリースされたALCATRAZZの5thアルバム。日本盤は同年11月24日発売。
昨年7月にグラハム・ボネット(Vo)、ゲイリー・シェア(B)やジミー・ウォルドー(Key)のオリジナルメンバーにジョー・スタンプ(G)、マーク・ベンケチェア(Dr)という新たな布陣で、実に34年ぶりの新作『BORN INNOCENT』(2020年)をリリースしたALCATRAZZ。充実した新作と携え、その活動も順調に進むものと思われましたが、同年12月にグラハムが突如バンドを脱退。グラハムはARCH ENEMYのジェフ・ルーミス(G)とともにGRAHAM BONNET'S ALCATRAZZを名乗って新たな活動を始め、残された本家ALCATRAZZは新たなシンガーにドゥギー・ホワイト(MICHAEL SCHENKER FEST、ex. RITCHIE BLACKMORE'S RAINBOW、ex. YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCE、ex. TANKなど)を迎えて早くも次のステップに入ります。
3rdアルバム『DANGEROUS GAMES』(1986年)から『BORN INNOCENT』が34年空いたのに、続く今作までのスパンが1年3ヶ月という短さなのは、もはやギャグとしか思えませんが(笑)、こうして早くも新作を楽しめるのはうれしい限り。バンドの顔=グラハムを失ったALCATRAZZは果たして本当にALCATRZZと言えるのか、早速アルバムを購入して確認してみました(日本ではサブスク未配信なもので)。
基本的な作風、楽曲の方向性は前作の延長線上にあるネオクラシカルスタイルで、その『BORN INNOCENT』での経験を生かしてより磨きをかけた印象が強いかな。『BORN INNOCENT』を好きなリスナーなら間違いなく気に入る内容かと思います。多くの楽曲はジョー・スタンプが中心となって書き下ろされたもので、彼の派手なギタープレイが最良の形で活かされた楽曲ばかり。かと思えば、ドゥギーのカラーが反映された楽曲も含まれており、ドゥギーがTANKのクリフ・エヴァンス(B)と共作したミディアムナンバー「Sword Of Deliverance」はこの布陣ならではと言えるのではないでしょうか。
そんな中、DIOの「We Rock」まんまなギターリフを持つ「Turn Of The Wheel」には、イントロの時点で思わず苦笑してしまいますが。さすがにこれはグラハムがいたらできないよね(笑)。
前作同様、今作にもゲストプレイヤーが複数参加しており、前作から引き続きドン・ヴァン・スタヴァン(B/RIOT、RIOT V)に加え、ナイジェル・グロックラー(Dr/SAXON)、先のクリフ・エヴァンスと今回は渋めの人選。日本のレコード会社の意見が多分に反映されたであろう前作と比べると、今回のほうがバンドのカラーに合っている気がします。
さて、楽曲面ではなんの不満もない本作。気になるのはドゥギーのボーカルでしょう。正直に言いますが、曲には合っているものの、ALCATRAZZという冠には似合わない気がします。というのも、老いてもなおアタックの強いグラハムの存在感と比較すると、ドゥギーの歌は少々ヌルッとしたイメージで、ちょっとだけ物足りなさを感じてしまう。かつ、ピッチもジャストというよりは若干下にズレており、そこが気持ち悪さ、心地悪さにもつながっている。これ、キーの問題とそういった次元ではなく、彼の歌唱スタイルの問題だと思うのです。なもんで、曲は良いんだけど歌を聴いているとなんとも言えない感覚に陥る……如何ともし難いものです。
あと、前作もそうでしたが、とにかく曲数が多い。海外盤は12曲/62分ですが、日本盤はボーナストラック1曲を含む全13曲/66分と非常に長尺。前作もそれくらいの尺があって、確か「絞りに絞って、全10曲くらいのコンパクトな内容だったら、もっと手放しで喜べたんですけどねえ」と書いたはず(ってそのままコピペしてますが)。本作もあと2曲削って50分前後のコンパクトさだったら、さらに良いと思えたんじゃないかな(とはいえ、ドゥギーが歌ってる時点で気持ち悪さは変わらないのですが)。
なんにせよ、こうやってバンドを存続させて新作を発表し続けてくれるのは、古くからのファンとしてありがたい限り。なかなか来日もままならない状況ですが、どうせなら生でドゥギー・ホワイトが歌う「Jet To Jet」や「Hiroshima Mon Amour」「God Blessed Video」「The Witchwood」などを聴いてみたいものです。
▼ALCATRAZZ『V』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD)