HARAKIRI FOR THE SKY『MӔRE』(2021)
2021年2月19日にリリースされたHARAKIRI FOR THE SKYの5thアルバム。現時点で日本盤未発売。
HARAKIRI FOR THE SKYはオーストリアのウィーン&ザルツブルクで結成されたポスト・ブラックメタルバンド。マルチプレイヤーのMS(G, B, Dr)とフロントマンJJ(Vo)の2人組で、ツアーではドラム、ギター、ベースの各プレイヤーが加わるようです。もともとは別名のブラックメタルバンドだったそうですが、現在の名前に変わってからはよりオルタナティヴな方向へとシフト。2012年のデビューアルバム『HARAKIRI FOR THE SKY』以降、コンスタントにアルバムを制作しています。
今作はバンドにとって初のCD2枚組作品。大半の楽曲が7〜8分台で、全10曲/トータル85分という超大作に仕上がっています。この手のバンドにありがちなブラックゲイズ的な方向へ向かうことなく、ブラックメタルをよりポストロック的な手法で浮遊感強めのスタイルへと昇華させた、アグレッシヴだけど耽美さも伝わる媚薬かつ劇薬と言えるのではないでしょうか。
オープニングの「I, Pallbearer」では随所にピアノがフィーチャーされることで、バンドが持つ耽美さが良い形で表現されており、2曲目「Sing For The Damage We've Done」では冒頭で空間系のエフェクトがかかったギターのストロークでその世界観を引き継ぎつつも、途中から破天荒なブラストビートに突入する。この緩急のつけ方がとにかく気持ちよく、ぶっちゃけこの冒頭2曲で彼らがやりたいことはすべて伝わると思います。
このバンドは作品ごとに何か新しいことにチャレンジしたり、革新的なことを追求するというタイプではなく、当初からのポスト・ブラックメタルスタイルをより深化させ、アルバムのたびにバージョンアップさせていくことに意義を見出している気がします。なので、長尺の楽曲内で展開される、激しさと美しさ/優しさが交互に訪れる“飴と鞭”的な作風を、曲ごとに異なるバリエーションで楽しむことが本流なのではないでしょうか。そういう意味では、本作はその本流通りに沿った、現時点でのHARAKIRI FOR THE SKYの最新アップデート版であり、ビギナーにとっても入門盤的役割を果たしてくれることでしょう。
とはいっても、85分というトータルランニングは確かに初心者には敷居の高いものでしょう。しかし、このカオティックなサウンドに浸り続けていると、不思議と気持ちよくなっていくのもまた事実。耽美さを追求した終盤の2曲……「Time Is A Ghost」とPLACEBOのカバー「Song To Say Goodbye」に到達することには、きっと誰もがこのバンドの魅力に夢中になっているのでは……そう信じたいです。
なお、「Sing For The Damage We've Done」にはALCESTのネージュ(Vo)、「Silver Needle // Golden Dawn」にはポルトガルのブラックメタルバンドGAEREAがゲスト参加しています。
初期のMOGWAIあたりが好きなメタル/ラウド系リスナーなら、きっと気にいるであろう本作。日本人にとってインパクト大なそのバンド名含めて、この機会にしっかり触れてみることをオススメします。
▼HARAKIRI FOR THE SKY『MӔRE』
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