カテゴリー「Alice Cooper」の17件の記事

2024年3月19日 (火)

BERLIN『COUNT THREE & PRAY』(1986)

1986年10月13日にリリースされたBERLINの4thアルバム。テリー・ナン(Vo)を要する布陣での『PLEASURE VICTIM』(1982年)を正式な1作目とカウントするならは、本作は3作目に当たります(当時の日本盤には3rdアルバムとの表記あり)。日本盤は同年11月25日発売。

「No More Words」(米23位)というキャリア最大のヒット曲を生み出した前作『LOVE LIFE』(1984年)から2年半ぶりの新作。同アルバムは50万枚を超えるスマッシュヒットを記録しましたが、その後映画『トップガン』のサウンドトラックに参加したことを機に、その人気は最高潮に達します。同映画サントラからの2ndシングル「Take My Breath Away」は初の全米&全英1位を獲得。そんな高状況の中ドロップされたのが、このオリジナルアルバムとなります。

新たなプロデューサーとしてボブ・エズリン(ALICE COOPERKISSPINK FLOYDなど)を迎えた肝入りの本作。レコーディングはテリー、ジョン・クロフォード(B)、ロブ・ブリル(Dr)の3人にサポートメンバーを加えた形で制作されます。ギタリストとしてはデヴィッド・ギルモア(PINK FLOYD)やケイン・ロバーツ(当時ALICE COOPER BAND)のボブ・エズリン界隈に加え、テッド・ニュージェント(DAMN YANKEESなど)やエリオット・イーストン(THE CARS)などの個性的な面々が参加していますが、アルバムのクレジットには誰がどの曲に参加しているかまでは記されておらず。

ボーカル&リズム隊というアンバランスなメンバーが残ったこともあってか、アルバム冒頭を飾る「Will I Ever Understand You」や「Tras」、リードシングル「Like Flames」(米82位/英47位)はニューウェイヴを通過したハードロック的な、ビートの強い1曲に。特に「Will I Ever Understand You」ではタイトなドラムソロもフィーチャーされており、あくまで“テリー・ナン with リズム隊”ではないことを強くアピールします。

かと思えば、尺八や琴、琵琶といった和楽器がフィーチャーされた浮遊感の強い「You Don't Know」(英39位)、クラシカルなピアノフレーズが耳に残る「When Love Goes To War」などニューウェイヴ側に振った楽曲、前作の流れを汲むダンサブルなシンセポップ「Sex Me, Talk Me」なども含まれている。そんな中に、ジョルジオ・モロダーが手掛けた大ヒット曲「Take My Breath Away」まで収録されているもんだから、アルバムを通してやりたかったであろうハード&タイトな側面がぼんやりしてしまい、全体的にどっちつかずな方向性で終わってしまいます。

1986年後半というと、まもなくBON JOVI「You Give Love A Bad Name」で大ヒットを果たし、翌1987年にはハードロック新世代を迎えようとする過渡期。そんな来たる新世紀を予見したかのようなハードエッジなテイストを導入しつつも、それ以前のシンセポップやニューウェイヴも捨てきれない。さらにレーベル側のゴリ押しであろう「Take My Breath Away」という色の異なる異物まで打ち込む。そりゃ評価も分かれるわけで、大したヒットシングルも生まれず、アルバムは米61位/英32位(実はイギリスでは初のチャートイン)という結果で終わるわけです。

結局、バンドは1987年3月の初来日公演を含むワールドツアー終了後、解散することに。その10年後の1997年にテリー・ナンを中心に再結成を果たし、現在も細々と活動は続いているようです。本作を含むGeffen Records時代のアルバムはサブスクでは聴くことができませんが、MVなどはYouTubeでも視聴可能です。

 


▼BERLIN『COUNT THREE & PRAY』
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2023年1月24日 (火)

HEROES AND MONSTERS『HEROES AND MONSTERS』(2023)

2023年1月20日にリリースされたHEROES AND MONSTERSの1stアルバム。日本盤未発売。

このバンドはSLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORSのベーシストであり、本国カナダでは80年代末から活動を続けるバンドTHE AGE OF ELECTRICの一員でもあるトッド・カーンズ(Vo, B)、Y&TALICE COOPER BANDなどで活躍したステフ・バーンズ(G)、EVANESCENCEの屋台骨を支えるウィル・ハント(Dr)というミュージシャンズ・ミュージシャンたちにより結成されたトリオバンド。Frontiers Recordsと契約し、昨年秋から「Locked And Loaded」や「Raw Power」「Let's Ride It」といった楽曲を配信してきました。

満を持して発表されたデビューアルバムは、バンドのセルフプロデュースにより完成したもの。長期にわたり北米のメジャーシーンで活躍してきた3人ならではの、安定感の強いパワフルな演奏を楽しむことができます。うん、各メンバーのプレイやアレンジに関してはさすがの一言です。

で、気になるのが楽曲ですよね。オープニングを飾る「Locked And Loaded」こそポストグランジ的側面を漂わせるものの、続く「Raw Power」以降はポップなメロディラインとキャッチーなサビを持つ良質なハードロック/パワーポップを聴かせてくれます。「Let's Ride It」なんて、どことなくトッド・カーンズと同郷のHAREM SCAREMあたりを彷彿とさせますよね。

要所要所でダウンチューニングを効かせたポストグランジ的なリフワークやアレンジが登場するので、一瞬ギョッとするかもしれませんが、(それこそこちらもカナダ出身の)NICKELBACKあたりとの共通点も見つけられ、そういった点からも彼らがこのバンドでやりたいことがなんとなく透けて見えてくるのではないでしょうか。こういうスタイルってお国柄によるものが大きいんですかね?

THE AGE OF ELECTRICではボーカルも担当するトッドのボーカルも古き良き時代のハードロックバンド的で、ハイトーンの伸びもよい。豪快なハードロックもパワーポップもお手のものといった印象で、良質な楽曲と相まって最後まで楽しく聴けてしまう。かつ、どの曲も4分程度にまとめられており、全10曲で39分という尺もちょうど良い。ステフ・バーンズのプレイに関しては、ソロはリフほど惹きつけられるものが少なく、そこだけが今後の課題かな。

トッドが在籍するTHE AGE OF ELECTRICをモダンにした印象の本作。SLASH featuring MYLES KENNEDY & THE CONSPIRATORSのファンやY&T、EVANESCENCEのリスナーにアジャストするかどうかは微妙ですが、これはこれで良質な内容なので、深いことを考えずにリラックスしながら楽しみたいと思います。

 


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2021年4月27日 (火)

ALICE COOPER『WELCOME 2 MY NIGHTMARE』(2011)

2011年9月13日にリリースされたアリス・クーパーの26thアルバム(ALICE COOPERバンド名義を除くと19作目)。日本盤は2012年1月18日発売。

スタジオアルバムとしては前作『ALONG CAME A SPIDER』(2008年)から3年ぶりの新作は、1975年に発表された初のソロ名義アルバム『WELCOME TO MY NIGHTMARE』の続編にあたるもの。という話題性もあってか、復活作『TRASH』(1989年)の全米20位に次ぐ最高22位を記録しています。

プロデュースを手がけたのは、『WELCOME TO MY NIGHTMARE』でもタッグを組んだボブ・エズリン(KISSPINK FLOYDHANOI ROCKSなど)。今作での再共演を機に、以降の『PARANORMAL』(2017年)『DETROIT STORIES』(2021年)でもコラボが実現しています。

『THE LAST TEMPTATION』(1994年)でグランジという流行に乗りながら、自身のルーツを再確認することとなりましたが、続く『BRUTAL PLANET』(2000年)以降は良くも悪くも時流に乗ることだけに専念した感が強かったアリス。しかし、名盤の続編ということもあり(また、ボブ・エズリンと久しぶりのコラボというトピックも大きく影響し)、ここで本来の“らしさ”を完全に取り戻せたんじゃないでしょうか。70年代の彼らしい要素/楽曲が満載で、見方によってはセルフパロディになってしまっている箇所もあるものの、全体を通して聴けばそういった点も許せるくらいの、王道ショックロック・アルバムに仕上がっていると思います。

楽曲制作陣にはアリス/ボブに加えデズモンド・チャイルド、初期ALICE COOPER BANDのマイケル・ブルース(G)やデニス・ダナウェイ(B)、ニール・スミス(Dr)、さらにはBUCKCHERRY(当時)のキース・ネルソン(G)など多彩な面々が参加し、そういったオリジネーターやフォロワーたちが「俺たちが思う最強のアリス・クーパー像」をコンセプトに沿って作り上げている。さらに、ヴィンス・ギルやロブ・ゾンビ、ジョン・5、ケシャ(KE$HA)といったフィーチャリングアーティストが華を添えることで、単なる懐古主義で終わらせないモダンさを演出している。この絶妙なバランス感が、本作を現代的な作品として成立させているのではないでしょうか。

それくらいよく作り込まれた1枚だと思いますし、個人的には『THE LAST TEMPTATION』のあとに本作が発表されていたらもっと違った未来があったんじゃないか……と思わずにはいられません。まあ、10年以上におよぶ迷走があったからこそ、ここに再び戻ることができたわけですし、もっと言えばその後のHOLLYWOOD VAMPIRESや『PARANORMAL』以降の活動にもつなげることができたのかな。時間はかかったけど、必要な無駄だったのかもしれませんね(あ、2000年代の作品も決して駄作ではないですよ)。

70年代前半に築き上げたオリジナリティと80年代後半ならではのキャッチーさ、90年代〜ゼロ年代のガレージロックリバイバル感を程よいバランスでブレンドしつつ、2010年代にも通用する質感でまとめ上げた本作は、(あえてこう言わせてもらいますが)後期アリス・クーパー作品におけるひとつの金字塔だと言わせてください。

 


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2021年3月 3日 (水)

ALICE COOPER『DETROIT STORIES』(2021)

2021年2月26日にリリースされたアリス・クーパーの28thアルバム(ALICE COOPER BAND時代含む。ソロ名義では21作目)。

豪華ゲストが多数参加した『PARANORMAL』(2017年)から約3年半ぶりのフルアルバムではありますが、その間にHOLLYWOOD VAMPIREの2ndアルバム『RISE』(2019年)や、今作の前哨戦となるEP『BREADCRUMBS』(2019年)も発表しているので、このご時世にしてはかなり短いスパンで新作を届けてくれたことになります。老いてなおご盛ん、素晴らしいことです。

今作は『BREADCRUMBS』で実践したことの集大成と呼べる内容で、作風的には『PARANORMAL』以降……いや、HOLLYWOOD VAMPIRE以降と言ったほうが正しいでしょうか。とにかく、ここ10年くらいの音楽活動の総決算と呼ぶにふさわしい、アリスの“Back to roots”的な1枚。60年代後半から70年代前半のALICE COOPER BAND時代を思わせる、ポップでパンキッシュ、なのにソウルフルなフィーリングも含まれたゴリゴリのガレージロック満載で、80年代末の“再ブレイク”期以降なら『THE LAST TEMPTATION』(1994年)あたりが好きなリスナーなら一発で気に入る仕上がりです。

プロデュースを手がけたのは、『PARANORMAL』『BREADCRUMBS』と3作連続のボブ・エズリン。レコーディングには『BREADCRUMBS』にも参加したウェイン・クレイマー(G/MC5)やポール・ランドルフ(B, Vo/JAZZANOVA)、ジョニー“ビー”バダニェック(Dr/MITCH RYDER & THE DETROIT WHEELS)に加え、ALICE COOPER BANDのオリジナルメンバーでもあるデニス・ダナウェイ(B)、ニール・スミス(Dr)、マイケル・ブルース(G)、さらにはジョー・ボナマッサ(G)やマーク・ファーナー(G/GRAND FUNK RAILROAD)、スティーヴ・ハンター(G)、ラリー(Dr/U2)など近作にも参加したお馴染みの面々が顔を並べています。豪華さが相変わらずなのは、きっと「アリス・クーパーのアルバムになら参加したい!」という仲間がそれだけ多いってことの表れなんでしょうね。

全15曲の収録曲の中には、『BREADCRUMBS』で既出の4曲や昨年先行リリースされた「Hanging On By A Thread (Don't Give Up)」も含まれていますが、オープニングを飾るTHE VELVET UNDERGROUNDのカバー「Roc & Roll」からラストの「East Side Story」(『BREADCRUMBS』収録のBOB SEGER & THE LAST HEARDカバー)までトータル50分があっという間に感じられるほど心地よく楽しめるんですよね。2〜3分台のシンプルなロックンロールが中心というのも大きいのでしょうけど、狙い過ぎずに自然な形で先祖返りすることをアリス本人が楽しんでいるのも作用しているのかな。それでいてマンネリ化せず、ちゃんと新作としてのクオリティも維持しているのは、さすがの一言です。

もはやアリスに「Poison」や「Hey Stoopid」のような楽曲を求めないけど(ライブではこれらの曲もちゃんと聴けますしね)、「Under My Wheels」や「Shool's Out」みたいな新曲は求めてもいいよね?……そう言いたくなる、“アリス・クーパーがアリス・クーパーであることをしっかり引き受けた”良作です。

 


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2019年12月25日 (水)

PHIL CAMPBELL『OLD LIONS STILL ROAR』(2019)

MOTÖRHEADのギタリスト、フィル・キャンベルが2019年10月下旬にリリースした初のソロアルバム。

MOTÖRHEAD解散後、自身の実子などを加えて結成したPHIL CAMPBELL AND THE BASTARD SONSとして活動していたフィル。同バンドではEP2枚(オリジナル作&ライブ作)とオリジナルアルバム『THE AGE OF ABSURDITY』(2018年)を発表していますが、そこから約2年を経て届けられたのがこの初のソロ作です。

そもそも本作は、MOTÖRHEADが活動していた5年前から制作がスタートしており、レコーディングにはPHIL CAMPBELL AND THE BASTARD SONSにも所属する彼の息子3人も参加しています。

と同時に、MOTÖRHEADの活動を通して出会った多数のミュージシャンたちもゲスト参加。そのメンツは錚々たるもので、ロブ・ハルフォード(Vo / JUDAS PRIEST)、ベン・ワード(Vo / ORANGE BOBLIN)、アリス・クーパー(Vo)、ネヴ・マクドナルド(Vo / SKIN)、ダンコ・ジョーンズ(Vo)、ニック・オリヴェリ(Vo, B / ex. KYUSS、ex. QUEENS OF THE STONE AGE)、レイ・ルジアー(Dr / KORN)、ディー・スナイダー(Vo / ex. TWISTED SISTER)、ミック・マーズ(G / MOTLEY CRUE)、クリス・フェーン(Dr / ex. SLIPKNOT)、ウィットフィールド・クレイン(Vo / UGLY KID JOE)、ベンジー・ウェッブ(Vo / SKINDRED)、マット・ソーラム(Dr / ex. GUNS N' ROSES)、ジョー・サトリアーニ(G)など本当に豪華な布陣。これもMOTÖRHEADでの活動があったからこそですね。

フィル自身が歌ったオープニング「Rocking Chair」こそ緩やかでブルージーなアコースティックナンバーですが、続く「Straight Up」(Vo:ロブ・ハルフォード)は歌うロブに合わせたJUDA PRIEST的な1曲。「Faith In Fire」(Vo:ベン・ワード)や「Walk The Talk」(Vo:ダンコ・ジョーンズ&ニック・オリヴェリ)はストーナーロック的だし、「These Old Boots」(Vo:ディー・スナイダー)は豪快なアメリカンロック調。意外と歌う人に合わせた選曲がなされているようです。

かと思えば、ベンジー・ウェッブにマイナー調のピアノバラード「Dead Roses」を歌わせたり、アリス・クーパーにはモダンな質感のロックンロール「Swing It」を与えていたりと、一筋縄でいかない選曲。うん、面白い。あと、本作で久しぶりにネヴ・マクドナルドの歌声を聴いたけど、やっぱりいいですね。彼が歌う「Left For Dead」もSKIN時代を彷彿とさせるものですし。

そういえば、本作はPHIL CAMPBELL AND THE BASTARD SONSのときほどMOTÖRHEAD色が強くないのが気になりました(もちろん、曲によってはところどころで“らしさ”は感じられるのですが、あくまでそれがメインではない)。結局、あのカラーはレミー自身の個性だったのかなと。そう思うと、レミーおよびMOTÖRHEADって本当に唯一無二の存在だったんですね。そろそろ彼が亡くなってから4年。またあの喪失感と向き合う季節になりましたね……。

 


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2019年12月 2日 (月)

ALICE COOPER『BREADCRUMBS』(2019)

アリス・クーパーが2019年9月に発表した6曲入りEP。海外ではアナログで2000枚限定リリースというレアアイテムでしたが、日本では同年11月末にCDとして発売されました。

今年はHOLLYWOOD VAMPIRESとして6月に新作アルバム『RISE』をリリースしたばかりのアリスですが、ソロ名義の新作は2017年のアルバム『PARANORMAL』以来2年ぶり。とはいえ、今作には純粋な新曲は1曲しか含まれておらず、1曲は『THE EYES OF ALICE COOPER』(2003年)収録曲「Detroit City」のリメイク「Detroit City 2020」、残り4曲はカバー(このうち1曲はメドレーなので、正式には5曲のカバー)というバラエティに富んだ構成となっています。

とはいえ、新録曲のみで構成された本作は、『PARANORMAL』およびHOLLYWOOD VAMPIRESでの経験が昇華された聴き応えのある、ポップでパンキッシュなガレージロック集。ドライブ感の強い「Detroit City 2020」や「Go Man Go」やニューヨークパンクの香りがちらつく「East Side Story」(ボブ・シーガーのカバー)、ファンキーさが際立つ「Your Mama Won’t Like Me」(スージー・クアトロのカバー)、ブルージーかつソウルフルな「Devil With A Blue Dress On」(MITCH RYDER & THE DETROIT WHEELSカバー)と「Chains Of Love」(THE DIRTBOMBSカバー)、初期のアリス・クーパーにも通ずる世界観の「Sister Anne」(MC5カバー)と、たった6曲(実質7曲)で21分と短いながらもボリューミーに感じられる“濃い”仕上がりなのです。

カバーで取り上げたアーティストを見ればわかるように、本作はアリスが自身のルーツであるデトロイトのガレージロック/アーリー・パンクロックに回帰したと受け取れる内容。あえて過去のオリジナル曲「Detroit City」をリメイクしたあたりにも、そのへんの熱い意思が感じ取れます。サウンド的には『PARANORMAL』セッションで試みた初期ALICE COOPER BANDの面々との共演、姿勢としてはHOLLYWOOD VAMPIRESでの経験が良い形で反映されており、良い意味で肩の力が抜けた本作はアリスの本領発揮と言わんばかりの良作ではないでしょうか。

また、そういったアリスの意思に華を添えるのが豪華ゲスト陣。マーク・ファーナー(G / GRAND FUNK RAILROAD)、ウェイン・クレイマー(G / MC5)、ミック・コリンズ(Vo / THE DIRTBOMBS)、ポール・ランドルフ(B, Vo / JAZZANOVA)、ジョニー“ビー”バダニェック(Dr / MITCH RYDER & THE DETROIT WHEELS)というデトロイト周辺のハードロック/ガレージロック/ソウルを代表する面々が顔を揃えています。そんな作品を、『PARANORMAL』から引き続きボブ・エズリンがプロデュースを手掛けているというのが、またたまらないですね。

ライブでは相変わらずショーアップされた“あの”世界観を維持しつつ、音源では好き放題かまし続けるアリス。年齢的にもこの先どれだけの新作を残し続けることができるかは神のみぞ知る状況ですが、ぜひこのスタイルを可能な限り維持し続けてもらいたいところです。

 


▼ALICE COOPER『BREADCRUMBS』
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2019年7月 4日 (木)

ALICE COOPER『HEY STOOPID』(1991)

1991年7月にリリースされた、アリス・クーパー通算19作目のスタジオアルバム。前作『TRASH』(1989年)で収めた成功をフォローアップするために制作された本作は、前作以上に多数のソングライター&ゲストが参加した豪華な内容となっています。

「Poison」(全米7位/全英2位)や「House Of Fire」(全米59位/全英65位)などの好記録もあり、アルバム『TRASH』は全米20位/全英2位という久しぶりのヒット作に。時代的にもギリギリHR/HMがシーンでもてはやされ、また制作時は景気的にもギリギリ不況に陥る前だったこともあり、この『HEY STOOPID』にはかなりの大金が注ぎ込まれたのではないか……そのサウンドプロダクションやゲスト陣を前にすると、改めてそう実感します。

プロデューサーにピーター・コリンズ(RUSHQUEENSRYCHEゲイリー・ムーアなど)を迎えた本作は、『TRASH』以上に産業ロック色の強い、きめ細やかなサウンドを伴う非常に“作り込まれた”1枚。ソングライティングは基本アリスとジャック・ポンティが軸になっていますが、「Dangerous Tonight」では前作での立役者デズモンド・チャイルド、「Feed My Frankenstein」ではゾディアック・ワープマインド、「Die For You」ではニッキー・シックス&ミックマーズ(MOTLEY CRUE)とジム・ヴァランスがそれぞれ関わっています。

で、特筆すべきなのはゲスト陣。タイトルトラック「Hey Stoopid」にはスラッシュ(G/GUNS N' ROSES)&ジョー・サトリアーニ(G)、オジー・オズボーン(Vo)が参加。それぞれ聴けばすぐにわかるくらいの個性を発揮しています。オジーなんてまんまだからね(笑)。

そのほか、「Burning Our Bed」「Little By Little」「Wind-Up Toy」にもジョー・サトリアーニ、「Feed My Frankenstein」にはニッキー・シックス(B)、スティーヴ・ヴァイ(G)、ジョー・サトリアーニ、「Hurricane Years」「Dirty Dreams」にはヴィニー・ムーア(G/彼は本作のツアーにも一部参加しました)、「Die For You」にはミック・マーズ(G)……と、クレジットを羅列するだけで文字数稼げてしまうくらい(笑)。

これだけ豪華なんだもん、出来が悪いわけがない。曲も良い、サウンドも良い、演奏も抜群。個人的には「Might As Well Be On Mars」みたいにドラマチックな曲がお気に入りです。

(そういえば、「Feed My Frankenstein」は映画『ウェインズ・ワールド』でも使用され、アリスも劇中に登場しましたね。懐かしい……)

ですが本作、先に記したように不景気に突入し、それによってウケる音楽の傾向も80年代的ハデなものからダークでシンプルなものへとシフトしていき(そう、1991年ってグランジ元年ですものね)……「Hey Stoopid」(全米78位/全英21位)、「Love's A Loaded Gun」(全英38位)、「Feed My Frankenstein」(同27位)とイギリスでこそまずまずのシングルヒットを残したものの、アルバム自体は全米47位/全英4位止まり。アメリカでの売り上げは前作の半分(50万枚)程度で終了しています。

そういえば、本作発売後にはJUDAS PRIESTMOTORHEAD、DANGEROUS TOYS、METAL CHURCHといったレーベルメイトとともに移動式フェスツアー『OPERATION ROCK & ROLL TOUR』も実施したのですが、不景気の煽りを受け31公演を終えたところで終了したという話も。あの時代を通過していない世代にはわかりにくい話かもしれませんが、結構深刻だったんですよ、あの頃は(と、急にオッサン目線)。

まあ、何はともあれ。あと1年早くリリースされていたら『TRASH』並みのヒット作になったはず。それくらい、力の入った(&お金をつぎ込んだ)隠れた名盤です。

 


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2019年7月 3日 (水)

HOLLYWOOD VAMPIRES『RISE』(2019)

アリス・クーパー(Vo)、俳優のジョニー・デップ(G, Vo)、AEROSMITHジョー・ペリー(G, Vo)を中心に結成されたスーパーバンド、HOLLYWOOD VAMPIRESの2ndアルバム(2019年6月発売)。

前作『HOLLYWOOD VAMPIRES』(2015年)では「70年代の狂騒の果てに死んでいったロック・スターたちを称える」というバンドコンセプトのもと、60〜70年代に活躍し亡くなったアーティストたちの楽曲をカバー。オリジナル曲(歌モノ)はたった2曲と潔さを感じさせる内容でした。

そこから4年を経て届けられた2作目では、カバーとオリジナル曲の比率が逆転。全16曲のうちインタールード4曲を除く12曲が歌モノで、今回カバーは3曲のみ。計9曲が新たに書き下ろされたオリジナル新曲ということになります。

オリジナル曲はアリス・クーパーの新作と言われても違和感がないほど、彼のパブリックイメージにぴったりなものばかり。新鮮さこそ皆無ですが、要所要所にジョー・ペリーらしさも感じられるし、何よりもHOLLYWOOD VAMPIRESが持つ従来のイメージにもリンクした“古き良き時代の、ゴージャスで危うさを伴うロックンロール”が展開されており好感が持てます。ぶっちゃけ、アリスのファンにとっては最新オリジナル作『PARANORMAL』(2017年)に続くニューアルバムと捉えてもらっても満足できる内容だと思います。

また、前作では多彩なゲスト参加も話題になりましたが、今作では「Welcome To Bushwackers」でのジェフ・ベック(G)とジョン・ウォーターズ(Spoken Words)のみ。後者は『ピンク・フラミンゴ』『ヘアスプレー』『シリアル・ママ』などカルト的作品で人気を誇る映画監督。こういった構成からも、バンドとしての個性を確立させたHOLLYWOOD VAMPIRESの自信が感じられるのではないでしょうか。

気になるカバー曲はジョニー・サンダース「You Can't Put Your Arms Around A Memory」、デヴィッド・ボウイ「Heros」、THE JIM CARROLL BAND「People Who Died」という、前作での選曲と比べたら多少マニアックな3曲。そうか、前作が発売された頃はボウイ、存命だったんですね……時の流れの残酷さを感じさせてくれます。なお、「You Can't Put Your Arms Around A Memory」ではジョー・ペリーが、「Heroes」ではジョニー・デップがそれぞれリードボーカルを担当しており、どちらも良い味出しまくり。特に「Heroes」は出色のカバーではないかと思います。

ちなみに、日本盤のみ2枚組ライブCD『HOLLYWOOD VAMPIRES LIVE』が付いた限定仕様も用意。こちらは2016年5月の音源とのことで、1作目に収録されていなかった「20th Century Boy」(T. Rex)、「Pinball Wizard」(THE WHO)、「Come Together」(THE BEATLES)、「Rebel Rebel」「Suffragette City」(ともにデヴィッド・ボウイ)、「Ace Of Spades」(MOTÖRHEAD)なども収録。そうか、2015年末〜2016年明けと続いたんですね、レミーとボウイ。

あ、AEROSMITH「Sweet Emotion」や「Train Kept A Rollin'」、アリス・クーパー「Eighteen」も楽しめるので、4000円ちょっと払ってCDを2タイトル購入するつもりなら、お安いもんじゃないかなと。オリジナルアルバム『RISE』同様、こちらもオススメです。

 


▼HOLLYWOOD VAMPIRES『RISE』
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2019年4月28日 (日)

HOLLYWOOD VAMPIRES『HOLLYWOOD VAMPIRES』(2015)

アリス・クーパー(Vo)、俳優のジョニー・デップ(G)、AEROSMITHジョー・ペリー(G)を中心に結成されたスーパーバンド、HOLLYWOOD VAMPIRESが2015年9月に発表したデビューアルバム。リリース当時、全米43位/全英30位という成績を残しています。

アルバム本編14曲(日本盤やデラックス盤はさらにボーナストラック追加)中、オリジナル曲は3曲のみ、うち1曲は1分半程度のナレーションベースの楽曲なので、純粋なオリジナル曲は2曲と言えるでしょう。しかし、このバンドの魅力はそういったところにあるのではなく、ロッククラシックと呼ばれる過去の名曲群とそれらに参加する豪華なゲスト陣にあると言えるでしょう。

ピックアップされているカバー曲もTHE WHO「My Generation」、LED ZEPPELIN「Whole Lotta Love」、THE DOORS「Break On Through (To The Other Side)」、ジョン・レノン「Cold Turkey」、ジミヘン「Manic Depression」、SMALL FACES「Itchycoo Park」、PINK FLOYD「Another Brick In The Wall (Part 2)」、そしてアリス自身の「School's Out」などロックファンなら誰もが一度は耳にしたことがあるはずの定番曲ばかり。

そういった楽曲をアリスのボーカル、ジョニー&ジョーのギターを軸にブライアン・ジョンソン(Vo/AC/DC)、ペリー・ファレル(Vo/JANE'S ADDICTION)、ポール・マッカートニー(Vo, B, Piano)、オリアンティ(G)、ジョー・ウォルッシュ(G/EAGLES)、スラッシュ(G)、キップ・ウィンガー(B/WINGER)、ザック・スターキー(Dr)、デイヴ・グロール(Dr/FOO FIGHTERS)などそうそうたる面々で華麗に盛り上げているわけです。

軸にあるのは60〜70年代のクラシックロックに対する敬意と愛情なもんですから、アレンジに関しても基本的にはオリジナルに忠実。現代的に味付けするにしても破綻することがない範囲でのリアレンジとなっています。そういう意味も込めてのバンド名(ハリウッドに今も巣食うヴァンパイアたち)なのでしょうね。

ジョー・ペリーが思ったほど暴れまくってないとか、ジョニー・デップのギターテクが意外としっかりしているとか、久しくオリジナル新作を発表していなかったアリス・クーパーのボーカルをたっぷり楽しめるとか、そういった視点もあるものの、基本的には「キャリアのある大御所たちが嬉々としてロッククラシックをカバーして楽しむ様子を、目を細めて微笑ましく眺める」というのが本作を楽しむ上での趣旨なのではないかと。それくらい甘々でいいんじゃないかな。

そんなHOLLYWOOD VAMPIRESも間もなく4年ぶりの新作『RISE』をリリース予定。次作はオリジナル曲が中心で、カバーは3曲程度とのことで、最初のテーマから逆転してしまっていますが、果たしてどうなることやら。

 


▼HOLLYWOOD VAMPIRES『HOLLYWOOD VAMPIRES』
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2018年10月27日 (土)

ALICE COOPER『THE LAST TEMPTATION』(1994)

1994年7月リリースの、アリス・クーパー通算20枚目のスタジオアルバム。モダンな産業ハードロックサウンドによる『TRASH』(1989年)で再ブレイクを果たし、続く同系統の『HEY STOOPID』(1991年)もそれなりの成功を収めましたが、本作は生々しいバンドサウンドを主軸に据えた、時代に呼応した作品となっています。

プロデューサーにはドン・フレミング(SONIC YOUTH、TEENAGE FANCLUBHOLEなど)、デュアン・バロン&ジョン・パーデル(オジー・オズボーンDREAM THEATERKIXなど)、アンディ・ウォレス(SEPULTURAFAITH NO MOREBLIND MELONなど)を迎え制作。曲ごとにプロデューサーが異なり、ドンは「Nothing's Free」「Lost In America」「Bad Place Alone」、デュアン&ジョンは「You're My Temptation」「Lullaby」「It's Me」、それ以外の楽曲をアンディが手がけています。

ドン・フレミングがプロデュースした「Nothing's Free」「Lost In America」あたりは70年代のアリス・クーパーらしさが復活しつつ、90年代前半のシーンを接見したオルタナティヴロック/グランジからの影響も感じさせる生々しいサウンドで、シンプルで刺々しいバンドサウンドの中にしっかりキャッチなーメロディが備わっている。かと思えば、ジャック・ブレイズ(NIGHT RANGER)&トミー・ショウ(STYX)のDAMN YANKEESコンビのペンによる「You're My Temptation」「It's Me」あたりは、前作までの流れを汲みつつもしっかりモダンな色付けが施されているのですから、さすがの一言です。

とはいえ、本作最大の聴きどころは中盤に置かれた「Stolen Prayer」「Unholy War」の2曲ではないでしょうか。前者はアリスとクリス・コーネルSOUNDGARDEN)との共作で、後者はクリス単独による書き下ろし曲。クリスは2曲でボーカル&コーラスでも参加しており、その存在感を示しています。本作発売の数ヶ月前にSOUNDGARDENはアルバム『SUPERUNKNOWN』で初の全米1位を獲得したばかりで、そんなクリスをソングライター&ボーカルでフィーチャーするあたりにアリスの本気度が伺えます。クリスらしいダークな楽曲を歌うアリス、最高です。

また、本作は70年代の名作『WELCOME TO MY NIGHTMARE』(1976年)の主人公であるスティーヴンが登場するコンセプトアルバムでもあります。そのへんも往年のファンには興味深いものがあるのではないでしょうか(当時発売された限定盤には、そのへんのストーリーが描かれたコミックも同梱されていました)。

ここまでやったにも関わらず、残念ながら本作は全米68位止まり。シングルヒットも生まれていません。グランジ世代にはオリジネーターであるアリスも“旧世代側の人”と受け取られてしまったのでしょうか。『TRASH』や『HEY STOOPID』は苦手だけど70年代のヒット作は好きというリスナーもスッと入っていける、隠れた名盤だと思うので、機会があったらチェックしてみてください。



▼ALICE COOPER『THE LAST TEMPTATION』
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