JERRY CANTRELL『BRIGHTEN』(2021)
2021年10月29日にリリースされたジェリー・カントレルの3rdアルバム。日本盤未発売。
ALICE IN CHAINSのギタリスト兼ボーカリストのジェリーですが、バンド活動が休止していた1998年に初のソロアルバム『BOGGY DEPOT』、2002年に『DEGRADATION TRIP』(同作発売から半年後に未発表のディスク2をつけた『DEGRADATION TRIP VOLUME 1&2』も発表)の2作品を発表。その後は新編成でのALICE IN CHAINSが始動したこともあり、ソロとは無縁でした。
このたび19年ぶりに制作されたソロ3作目は、バンドの状態が良好なこともあり、気心知れた仲間と息抜きのつもりで作った1枚といったところでしょうか。共同プロデューサーにホラー映画のサウンドトラック制作やMARILYN MANSONとの共作でも知られるタイラー・ベイツを迎え、レコーディングはダフ・マッケイガン(B/GUNS N' ROSES)、ギル・シャロン(Dr/STOLEN BABIES、TEAM SLEEP、ex. THE DILLINGER ESCAPE PLANなど)、エイブ・ラボリエルJR.(Dr/ポール・マッカートニー、エリック・クラプトンなど)、グレッグ・プチアート(Cho/KILLER BE KILLED、THE BLACK QUEEN、ex. THE DILLINGER ESCAPE PLANなど)といったメンツで実施されました。
ALICE IN CHAINSが現存していることから、本作ではそちら側のダークなサウンドや不協和音ハーモニーを無理に全面に押し出すこともなく、もっと肩の力の抜けたアーシーなロックが中心。といっても、そこはグランジ畑出身のジェリーらしく、随所にオルタナティヴなテイストが散りばめられており、それによってごく一般的なアメリカンロックに収まることのない、独自性の強い“グランジ以降のUSロック”が展開されています。
例えば、ALICE IN CHAINSでいうところの『SAP』(1992年)や『JAR OF FLIES』(1994年)で試みた、アコースティック色の強い楽曲群。それらをもとにした、3rdアルバム『ALICE IN CHAINS』(1995年)の一部側面。そして、『MTV UNPLUGGED』(1996年)……振り返れば本作への布石は、活動初期から用意されていました。そして、こういったテイストはソロ活動にも引き継がれ、過去2作でもその一部で取り入れられていました。だから、こういったライトな作風になったからといって彼が日和ったわけではないのです。
もちろん、「Siren Song」「Had To Know」のようなALICE IN CHAINSのダークサイドの流れにある楽曲も、あるにはあります。が、バンドではこのテイストがメインなところを、ソロ3作目ではアクセントとして使用している。しかもそこまで重苦しくないから、このアルバムの流れで聴いても違和感なく楽しめる。
アルバムのラストには、2分にも満たないエルトン・ジョンのカバー「Goodbye」を用意。この穏やかさこそ、彼がソロで表現したかったことそのものではないでしょうか。バンドでの先鋭的な刺激や緊張感の強いプレイこそないものの、再結成以降のALICE IN CHAINSを好意的に捉えているリスナーなら問題なく楽しめるはずだし、グランジが本格的に勃発した1991年から30年を経て表現される、“大人になったグランジ”と言えなくもない。そういった意味では、実に2021年らしい1枚かもしれませんね。
▼JERRY CANTRELL『BRIGHTEN』
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