THE ALMIGHTY『JUST ADD LIFE』(1996)
1996年3月にリリースされたTHE ALMIGHTYの5thアルバム。日本盤は同年3月13日、のちに単品発売されることになるライブアルバム『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』(1996年)を同梱した2枚組仕様で発売されました。
前作『CRANK』(1994年)ではクリス・シェルドン(PIXIES、FOO FIGHTERS、THERAPY?など)をプロデューサーに迎え、3rdアルバム『POWERTRIPPIN'』(1993年)でのスタイルをよりスマートに特化させることに成功したTHE ALMIGHTY。再びクリスをプロデューサーに迎えた今作では、そのスタイルをさらに深化させ、普遍性の強いパンク/ハードロックアルバムを完成させます。
メタリックでモダンなスタイルが印象的だった前作と異なるのは、その質感でしょうか。『CRANK』が実に同時代的であったのに対し、今作ではその本質的な部分をより掘り下げることで音の質感や表現方法が若干レイドバックし。70年代末のオリジナルパンクや80年代初頭のポストパンクの手法も上手に取り入れたことで、鋭角的なメタルサウンドが丸みを帯び、全体に普遍性の強い空気感が強まっている。オープニングを飾る「Ongoing And Total」ひとつとっても、方向性自体は前作の延長線上にあるもののアプローチが異なることで、メタリックさよりもパンク的な側面が強まっているわけです。
そのアプローチのもっともたる好例が、シングルカットもされた「Do You Understand」や「All Sussed Out」でしょうか。前者には当時すでにアメリカでブレイクしていたメロディックパンクとの共通点が見受けられ、後者ではブラスセクションを大々的にフィーチャーすることでTHE CLASHと重なる部分も見つけやすくなった。リリース当時は「脱メタル」だの「寝返った」だのいろいろ言われましたが、時代性含めて自然な変化/深化だったのかなと、リリースから25年経った今ならそう受け取ることができるでしょう。
もちろん、前作までのスタイルも「How Real Is Real For You」や「360」のような楽曲に見出すことができる。けど、今作においてはそういったスタイルの楽曲が新規軸の引き立て役に回っていて、むしろ跳ねたビートのポップパンク「Dead Happy」やオルガンをフィーチャーしたソウルフルなロック「8 Day Depression」、ファンクロック的なアプローチの「Feed The Need」、ハードコアパンク的なショートチューン「Afraid Of Flying」のような楽曲に魅力を見出すことができるのですから、不思議なものです。
こういった変化は当時、もちろん全面的に受け入れられたわけではありません。チャート的には前々作の全英5位、前作の15位よりも劣る最高34位を記録。「All Sussed Out」(同28位)、「Do You Understand」(同38位)のシングルヒットこそあったものの、バンドはアルバム発表直後にメジャーのChrysalisからのサポートをまともに受けられず、レーベル離脱。同年5月に本作をインディーズから再リリースするものの、結局そのまま解散してしまいます。当時、解散の知らせを聞いたときは本当に驚いたし、ヘコんだことをよく覚えています。だって、このアルバムを携えたライブを観ることすら叶わなかったわけですから。本作での変化を好意的に受け止めていた僕としては、非常に大きな損失だったのです。
なお、本作をはじめとするTHE ALMIGHTYのスタジオアルバム全7作(再結成後の2枚含む)は、ここ日本ではデジタルリリースおよびストリーミング配信なし。ですが、『POWERTRIPPIN'』のデラックス盤や『CRANK』以降のスタジオアルバム4枚+ライブ盤『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』+アルバム未収録曲&テイクを収めたCD2枚からなる7枚組ボックスセット『WELCOME TO DEFIANCE: COMPLETE RECORDINGS 1994-2001』が2021年にリリースさればかりなので、これを機に日本でも解放していただきたいものです(『CRANK AND DECEIT: LIVE IN JAPAN』のみ、なぜか最近解禁されましたが)。
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