ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』(2022)
2022年3月25日にリリースされたARCHITECTSのライブアルバム。日本盤未発売。
昨年2月末に発表したスタジオアルバム『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)が、キャリア初の全英1位を獲得したARCHITECTS。前々作『HOLY HELL』(2018年/同18位)の時点でWembley Arena公演が実現するなど、すでにイギリスではその人気が確立していた彼らですが、この1枚でついに頂点に達することができました。
そんなヒット作を携え、ARCHITECTSが2021年12月11日にイギリスの名門スタジオ・Abeey Road Studiosで開催したのが、この『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をまるまる演奏するというストリーミングライブ。しかも、ただアルバムを完全再現するだけではなく、The Parallax Orchestraの指揮者であり英国作曲家賞(BASCA)を三度受賞しているサイモン・ドブソンをが編曲・作曲を担当し、多才なクラシック音楽家で構成されたThe Parallax Orchestraをフィーチャーしたスペシャルな企画でした。
ヘヴィメタルがオーケストラと共演するライブや音源は、これまでにもMETALLICAやイングヴェイ・マルムスティーン、それこそ古くはDEEP PURPLEなど、さまざまんアーティストが試みてきました。モダンなメタルコアバンドでも、BRING ME THE HORIZONがすでに実践するなど、その試み自体は手垢の付いたものではありますが、こうしてすでに完成して世に広まっているアルバムをまるまる1枚、オーケストラアレンジで披露したライブ作品はそこまで多くはないのでは(もともとオーケストラをフィーチャーしたアルバムを、ライブで同じ形で再現するケースは多々ありますけどね)。そういった意味でも、本作は非常に興味深い内容と言えます。
ライブアルバムとはいえ、無観客状態で実施されたライブということもあって(かつ、名門Abbey Roadでの録音と相まって)、その仕上がり自体スタジオライブ音源、いや、一発録りのスタジオアルバムと捉えることもできすほどの完成度の高さ。もともとメロディアスさや音のダイナミズムが劇的に強化されたアルバムだっただけに、ストリングスやブラスが加わることでその壮大さは多大に向上し、ARCHITECTSというバンドが持つドラマチックなサウンドの強みを思う存分に味わえる傑作に仕上がっています。いや、これはホントすごいですよ?
ミックスのせいもあってか、ギターよりもオーケストラサウンドを前に出しており、低音が効いたギターサウンドとのバランスも良好。どちらか一方が他方の魅力を打ち消すこともなく、それでいてボーカルをしっかり立てることにも成功している。ブレイクダウンパートでフィーチャーされる生楽器隊のアレンジがとにかく秀逸で、やり方を一歩間違えば笑いの種になってしまいそうなところを、しっかりと原曲の良さを保ちながら、よりカッコよく進化している。個人的にはオリジナル盤よりも本作のほうが曲の良さが映えていると感じられ、確実にスタジオ盤超えしていると思いました。特に「Flight Without Feathers」のようなスローナンバーはその魅力により磨きがかかり、原曲とは別モノとして堪能することができました。
モダンメタルの新たな可能性を打ち出した本作。もし、まだオリジナルの『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』を聴いていない方がいましたら、この機会に2枚を比較しながら聴いてみることをオススメします。と同時に、メタルやラウド系に疎い方でしたら、まずはこのオーケストラ共演盤から触れるのも全然アリですしね。ARCHITECTSというバンドやこのジャンルに対して、いろんなきっかけを作ってくれる良企画でした。素晴らしい!
▼ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』
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