カテゴリー「Architects」の10件の記事

2023年1月 4日 (水)

2022年総括

仕事始めのタイミングになりましたので、例年より数日遅いですが2022年のまとめ記事をアップしておきます。

昨年は「アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、20作品に縛る」形でまとめ、別途「HR/HM、ラウド編」で別エントリーを作っていましたが、今年はもうそういう枠を全部取っ払って(ジャンル分け面倒くさい)ひとつのエントリーに包括し、「ジャンル/アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、30作品に縛る」という形にさせていただきました。これなら一般総括の20作品の中からあえてメタル系を外したり入れたりと悩まなくて済むしね。

というわけで特に順位付けをせずアルファベット→50音順で30作品、掲載していきます。

 

Afterglow『独創収差』(楽曲)

 

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(アルバム/レビュー

 

asmi「PAKU」(楽曲)

 

DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(アルバム/レビュー

 

Foi『HER』(アルバム)

 

GREYHAVEN『THE BRIGHT AND BEAUTIFUL WORLD』(アルバム/レビュー

 

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(アルバム/レビュー

 

Ho99o9『SKIN』(アルバム/レビュー

 

IBARAKI『RASHOMON』(アルバム/レビュー

 

ITHACA『THEY FEAR US』(アルバム/レビュー

 

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2022年12月30日 (金)

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(2022)

2022年10月21日にリリースされたARCHITECTSの10thアルバム。日本盤未発売。

初の全英1位を獲得した前作『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)から1年8ヶ月という短いスパンで届けられた新作スタジオアルバム。その間には『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をストリングス隊と一緒に完全再現したスタジオライブアルバム『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』(2022年)も発表されているので、さらに間隔が短く感じられ「え、もう?」と驚いたことをよく覚えています。

前作同様、ダン・サール(Dr)&ジョシュ・ミドルトン(G)がセルフプロデュースを担当。楽曲の方向性自体は前作の延長線上にあるように思うのですが、制作の取り組み方自体は前作での成功を踏襲することなく、新たな気持ちで取り組んだとのこと。ダン・サールはそこについて、「特に『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をオーケストラと一緒に再録音した後は、ストリングスやその他のものを棚上げしなければならないと感じた。だから、今度のアルバムは違う美学で作りたかった。シンセを使って、今までやったことのないようなことをするのが楽しかったんだ」と述べています。

実際、サウンドメイクに関してはエレクトロニックサウンドやそのアレンジを全面的に導入しており、オープニングを飾る「Deep Fake」や続く「Tear Gas」から伝わる質感は、要所要所でNINE INCH NAILS以降の味付けが伝わりますし、「Liveing Is Killing Us」あたりは“メタルコア版DEPECHE MODE”的なダークさも感じられる。なもんですから、僕自身嫌いになれるわけがない。大好物のてんこ盛りみたいな1枚に仕上がっているのすからね。

サム・カーター(Vo)の適度にアグレッシヴで決してメロウさを崩さないボーカルスタイルにもより拍車がかかり、バンドとしての絶対的個性が完全に確立されたことが伺えます。ミドルテンポ中心の楽曲スタイルは前作から引き続きで、これをキャッチーと受け取るか単調と解釈するかで評価は分かれるかもしれません。が、そんな中にもシャッフルビートを取り入れた「Spit The Bone」、グルーヴィーでアップテンポ気味の「Doomscrolling」、攻撃的ながらもキャッチーさを損なわない「A New Moral Low Ground」、初期のアグレッシヴさが復調した「Be Very Afraid」など変わり種もしっかり用意されており、実は全体的に起伏に富んだ1枚であることに気付かされます。「When We Were Young」などリード曲の印象が強いのでミディアム主体のイメージを持ってしまいがちですが、バラエティ豊かにおいては前作以上ではないでしょうか。

あと、前作まで当たり前だったフィーチャリングアーティストの参加が皆無なのも今作の特徴的なポイントかな。客演なしでもここまでやれるという自信は、間違いなく前作で得た成功がなせるものだ思いますし、そういったゲストが入る余地がないくらいの充実度の高さも実際に聴けば納得できるはずです。

また、前作が全15曲/58分という大作だったのに対し、今作は全11曲/42分とかなりコンパクト。そのへんも前作以上の聴きやすさ、親しみやすさにつながっている気がします。全英1位という快挙がバンドに与えた自信は相当なものがあったと思いますし、同時にプレッシャーも感じていたと思います。ですが、短い期間のうちに気持ちを切り替えられたことが本作を生み出すことにつながった。バンドとしての充実期がそのまま良質な形で反映された、ARCHITECTSの“今”がダイレクトに感じられる決定版的1枚です。

 


▼ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』
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2022年4月 9日 (土)

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』(2022)

2022年3月25日にリリースされたARCHITECTSのライブアルバム。日本盤未発売。

昨年2月末に発表したスタジオアルバム『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)が、キャリア初の全英1位を獲得したARCHITECTS。前々作『HOLY HELL』(2018年/同18位)の時点でWembley Arena公演が実現するなど、すでにイギリスではその人気が確立していた彼らですが、この1枚でついに頂点に達することができました。

そんなヒット作を携え、ARCHITECTSが2021年12月11日にイギリスの名門スタジオ・Abeey Road Studiosで開催したのが、この『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』をまるまる演奏するというストリーミングライブ。しかも、ただアルバムを完全再現するだけではなく、The Parallax Orchestraの指揮者であり英国作曲家賞(BASCA)を三度受賞しているサイモン・ドブソンをが編曲・作曲を担当し、多才なクラシック音楽家で構成されたThe Parallax Orchestraをフィーチャーしたスペシャルな企画でした。

ヘヴィメタルがオーケストラと共演するライブや音源は、これまでにもMETALLICAイングヴェイ・マルムスティーン、それこそ古くはDEEP PURPLEなど、さまざまんアーティストが試みてきました。モダンなメタルコアバンドでも、BRING ME THE HORIZONがすでに実践するなど、その試み自体は手垢の付いたものではありますが、こうしてすでに完成して世に広まっているアルバムをまるまる1枚、オーケストラアレンジで披露したライブ作品はそこまで多くはないのでは(もともとオーケストラをフィーチャーしたアルバムを、ライブで同じ形で再現するケースは多々ありますけどね)。そういった意味でも、本作は非常に興味深い内容と言えます。

ライブアルバムとはいえ、無観客状態で実施されたライブということもあって(かつ、名門Abbey Roadでの録音と相まって)、その仕上がり自体スタジオライブ音源、いや、一発録りのスタジオアルバムと捉えることもできすほどの完成度の高さ。もともとメロディアスさや音のダイナミズムが劇的に強化されたアルバムだっただけに、ストリングスやブラスが加わることでその壮大さは多大に向上し、ARCHITECTSというバンドが持つドラマチックなサウンドの強みを思う存分に味わえる傑作に仕上がっています。いや、これはホントすごいですよ?

ミックスのせいもあってか、ギターよりもオーケストラサウンドを前に出しており、低音が効いたギターサウンドとのバランスも良好。どちらか一方が他方の魅力を打ち消すこともなく、それでいてボーカルをしっかり立てることにも成功している。ブレイクダウンパートでフィーチャーされる生楽器隊のアレンジがとにかく秀逸で、やり方を一歩間違えば笑いの種になってしまいそうなところを、しっかりと原曲の良さを保ちながら、よりカッコよく進化している。個人的にはオリジナル盤よりも本作のほうが曲の良さが映えていると感じられ、確実にスタジオ盤超えしていると思いました。特に「Flight Without Feathers」のようなスローナンバーはその魅力により磨きがかかり、原曲とは別モノとして堪能することができました。

モダンメタルの新たな可能性を打ち出した本作。もし、まだオリジナルの『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』を聴いていない方がいましたら、この機会に2枚を比較しながら聴いてみることをオススメします。と同時に、メタルやラウド系に疎い方でしたら、まずはこのオーケストラ共演盤から触れるのも全然アリですしね。ARCHITECTSというバンドやこのジャンルに対して、いろんなきっかけを作ってくれる良企画でした。素晴らしい!

 


▼ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST AT ABBEY ROAD』
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2021年12月31日 (金)

2021年総括:HR/HM、ラウド編

2017年から2020年まで、「リアルサウンド」にて掲載してきたメタル/ラウド系年間ベストアルバム企画。2021年は同サイトにて同企画を実施されないので、場所をこちらに移して行うことにしました。ただ、無理な順位付けはせず、印象的なアルバム/EP 20枚をアルファベット順に紹介していくことにします。

 

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(Apple Music)(レビュー

 

THE ARMED『ULTRAPOP』(Apple Music)(レビュー

 

CARCASS『TORN ARTERIES』(Apple Music)(レビュー

 

CONVERGE『BLOODMOON: I』(Apple Music)(レビュー

 

DEAFHEAVEN『INFINITE GRANITE』(Apple Music)(レビュー

 

DREAM THEATER『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』(Apple Music)(レビュー

 

EVERY TIME I DIE『RADICAL』(Apple Music)(レビュー

 

EXODUS『PERSONA NON GRATA』(Apple Music)(レビュー

 

GATECREEPER『AN UNEXPECTED REALITY』(Apple Music)(レビュー

 

GOJIRA『FORTITUDE』(Apple Music)(レビュー

 

JINJER『WALLFLOWERS』(Apple Music)(レビュー

 

KHEMMIS『DECEIVER』(Apple Music)(レビュー

 

LEPROUS『APHELION』(Apple Music)(レビュー

 

MASTODON『HUSHED AND GRIM』(Apple Music)(レビュー

 

NEMOPHILA『REVIVE』(Apple Music)(レビュー

 

SeeYouSpaceCowboy『THE ROMANCE OF AFFLICTION』(Apple Music)(レビュー

 

SPIRITBOX『ETERNAL BLUE』(Apple Music)(レビュー

 

TO KILL ACHILLES『SOMETHING TO REMEMBER ME BY』(Apple Music)(レビュー

 

TRIVIUM『IN THE COURT OF THE DRAGON』(Apple Music)(レビュー

 

TURNSTILE『GLOW ON』(Apple Music)(レビュー

 

年明け発売の某雑誌には、この20枚の中から10枚をセレクトして順位を付けて掲載予定です。

2020年初頭から流行拡大しだした新型コロナウイルスは、2021年も引き続き大きな影響を及ぼし続け、ロックダウンによるフィジカル(CD、アナログなど)製造遅延およびそれに伴うリリース順延、さらにはツアーやフェスの翌年以降への順延などが重なります。当然、ここ日本への海外メタル/ラウド勢の来日公演も2年近く実現しておらず(一部、小規模のライブハウス公演は行われたようですが、大規模なジャパンツアーやメジャーアーティストの来日公演に関しては皆無)。この年末にKING CRIMSONのジャパンツアーが行われたのは、奇跡に近いものがありました。

しかし、コロナが及ぼした影響は決して悪いことだけではありません。インターネットを使ったリモート作業が以前よりもやりやすい環境になったこともあり、バンドメンバーがバラバラな場所に住んでいても制作自体は行えるようになり、結果として思いがけずに新作が届けられるなんていうサプライズも多々ありました。今回挙げた20枚の中にも、TRIVIUMのように前作から2年経たずしてニューアルバムが到着するというケースも少なくありません。

日本では夏頃と比べて、若干の落ち着きを見せている昨今ですが、海外ではまだまだ予断を許さない状況。イギリスなどの様子に恐怖を覚える一方で、アメリカでは大規模なライブ/ツアーも再開されている。国によって対策や対応は異なるものの、2020年から続くこの生活はもう少し続くことになりそうです。おそらく2022年も国内での大規模野外フェス開催(特に海外アーティストを多数招聘して実施するケース)は現実的ではないのかもしれません。

僕自身、すべてが元通りに戻るとは思っておらず、むしろ少しずつ元の生活に近づけつつ、新たなスタンダードを確立・浸透させなければ、この文化はどんどん先細りしていくんじゃないかと感じています。送り手も受け手も、この新たなスタンダードを前向きに受け取りつつ、過去の日常生活と並列させていくことでこの文化を維持し、さらに成長・進化させていくはず……僕自身はそう信じています。

さて、明日はジャンル分け隔てなく総括した1年のまとめ記事を公開する予定です。この記事と併せてお楽しみいただけると幸いです。

 

2021年9月22日 (水)

SPIRITBOX『ETERNAL BLUE』(2021)

2021年9月17日にリリースされたSPIRITBOXの1stアルバム。日本盤未発売。

SPIRITBOXはメタルコアバンドiwrestledabearonceの元メンバーであるコートニー・ラプランテ(Vo)&マイク・ストリンガー(G)を中心に結成された、カナダ出身のメタルコア/プログレッシヴメタルバンド。2016年から活動を開始し、2017年に1st EP『SPIRITBOX』をインディーズレーベルPale Chordから発表、翌2018年にはポップパンクバンドLIVING WITH LIONS出身のビル・クルック(B)が加入し、現在はこの3人を基盤に活動を行なっているようです。

2020年末にはPale Chordとのパートナーシップにより、世界的に有名なレーベルRise Recordsと契約。「Circle With Me」「Secret Garden」「Hurt You」といった楽曲がBillboardのHard Rock Digital Song Salesなどで高順位にランクインしました。

メタルコアをベースに、Djentを通過したプログメタルのテイストを散りばめたそのモダンなスタイルは、EVANESCENCEにも通ずるゴシック感もありつつ、全体的にはほかの同ジャンルバンドにも負けないガッツ、そして楽曲の良質さが伝わる高品質さを誇るもの。iwrestledabearonceからそのボーカルワークに定評があった、コートニーの男勝りなグロウルやデスボイスは圧巻の一言で、そんな中要所要所で聴かせる女性的な柔らかさに、その都度ドキッとさせられます。タイトルトラック「Eternal Blue」とか最高じゃないですか。個人的には同曲以降の流れで見せる、この緩急の付け方がたまらんです。

マイクのギタープレイもメタルコア的スタイル、Djent的プレイが混在したもので、非常に現代的。iwrestledabearonce時代に培った才能はここでもしっかり感じることができるものの、iwrestledabearonce時代よりもアグレッシヴさは減退したかな。むしろ、楽曲をいかに引き立てるかを大切にし、それぞれに合ったプレイを充てているといったところでしょうか。

どの曲も平均点以上で終始安心して楽しめる高水準なアルバム。さすが鳴り物入りの大型新人といったところでしょうか。ここにキラーチューンと呼べる、時代を象徴するような1曲が加われば99点レベルのアルバムになっていたと思いますが、そこはデビューアルバムということで次回に期待。それでも軽く90点超えの傑作だと思いますけどね。

なお、本作収録の「Yellowjacket」にはARCHITECTSのサム・カーター(Vo)がゲスト参加。ARCHITECTSを筆頭とするポスト・メタルコア勢にも十分にアピールする1曲なので、ぜひ同バンドやその界隈のリスナーにも届いてほしいところです。

 


▼SPIRITBOX『ETERNAL BLUE』
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2021年3月 1日 (月)

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021)

2021年2月26日にリリースされたARCHITECTSの9thアルバム。現時点で日本盤未発売。

トム・サール(G, Key)の死を経て完成させた前作『HOLLY HELL』(2018年)が全英18位と3作連続でUK TOP20入りしたほか、全米89位と初のBillboard TOP100入りを果たしたARCHITECTS。初のウェンブリー・アリーナ公演も大成功を収めるなど、もはや一介のメタルコアバンドから“次世代を担うUKメタルバンド”へと成長を遂げたと言っても過言ではないでしょう。

そんな彼らが2年3ヶ月というスパンを経て完成させた本作は、前作から引き続きダン・サール(Dr/亡くなったトムの双子の弟)&前作から正式加入のジョシュ・ミドルトン(G/SYLOSIS)がプロデュースを担当。トムへ捧げられた楽曲が多く含まれた前作から一転、今作ではカオティックな要素や悲壮感は若干後退し、ポップさやストレートさが増した印象を受けます。

今作のテーマは「今からでも遅くはない」というポジティブさと「敗北主義」というネガティブさの狭間にある、地球の未来が直面している問題の数々。これらを彼ららしいキャッチーなメロディと硬質なメタルコアサウンドに加え、エレクトロの要素やストリングスなどによるオーケストレーション、クワイアなどをフィーチャーすることで楽曲本来が持つ親しみやすさを、よりわかりやすい形に拡張することに成功しています。

上記のようなアレンジは前作にも見られたものですが、今回の場合は曲によっては絶望感を強調する武器にもなり、またある曲では希望が伝わるような温かみにもつながっている。この変化の付け方に、前作以上に巧みさが感じられ、バンドとして(あるいはダン&ジョシュのプロデュースチームとして)表現力や技術力の成長が大いに感じられるのです。確かに以前のアルバムと比べたら“ヤワになった”ように映るかもしれません。しかし、僕はこの進化を非常に前向きに捉えており、これこそが“次世代を担うUKメタルバンド”としての覚悟の表れなんじゃないかと考えています。

また、本作はフィーチャリングゲストの多彩も魅力のひとつで、「Impermanence」にはPARKWAY DRIVEのウィンストン・マッコール(Vo)、「Little Wonder」にはROYAL BLOODのマイク・カー(Vo)、「Goliath」にはBIFFY CLYROのサイモン・ニール(Vo)がそれぞれ参加。PARKWAY DRIVEは同時代を生きる「メタルコアからアリーナ/スタジアムバンドへと登りつめた稀有な存在」同士だし、ROYAL BLOODやBIFFY CLYROはメタルコアというよりはオルタナティヴロックの範疇に含まれるものの、同じUKを代表するロックバンドとしての絆を感じさせるコラボだし、と何かと話題性も多いのではないでしょうか。

全15曲で約58分と非常にボリューミーな大作ですが、1曲1曲の作り込みが尋常じゃないので全編通して聴いても飽きることはないのでは。少なくともこの数日、本作を何度もリピートしていますが、聴くたびに新たな発見が見つかる。2021年のメタルシーンを象徴する1枚になるのではないか?と、個人的には確信しています。

数字的にもキャリア的にも、ここで一気に化けることが期待できる、“確変”の1枚です。

 


▼ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』
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2020年10月23日 (金)

ARCHITECTS『ALL OUR GODS HAVE ABANDONED US』(2016)

2016年5月27日にリリースされたARCHITECTSの7thアルバム。日本盤未発売。

前作『LOST FOREVER // LOST TOGETHER』(2014年)からEpitaph Recordsへと移籍し、過去最高の全英16位という好記録を残し、アメリカでも初のTOP200入り(最高125位)を果たしたARCHITECTS。そんな大成功を収めた同作から2年2ヶ月というスパンで届けられた今作は、引き続きヘンリック・ウッド&フレドリック・ノルドストロームのコンビがプロでプロデュースを手がけた、前作の延長線上にある1枚に仕上がっています。

ジェントにも通ずる複雑なリフワークやリズムの刻み方は相変わらずですし、適度にフィーチャーされたデジタルテイストも味付けとして良い方向に作用している。さらに、スクリームとメロウなボーカルパートのバランスも絶妙な配分で、オープニングの「Nihilist」からフルスロットルで飛ばしまくっています。かと思えば、「Downfall」のようにエモーショナルさが際立つ楽曲も存在し、カオティックなメタルコアを好むリスナーもメロディアスなテイストを好むリスナーも満足させるだけの完成を誇る内容だと断言できるでしょう。

とにかく、リズムの取り方、刻み方が気持ちよく、ザクザクと細かく切り刻む(ドラムがツーバス踏みまくる)ビートもあれば、壮大なスケール感を持つビッグなビートも含まれている。その組み合わせ方/構築方法のオリジナリティが今作でほぼ確立され、ARCHITECTSというバンドがほかのメタルコアバンドの追随を許さない唯一無二の存在へと成長したことが、この1枚からも伺えます。

ARCHITECTSはアルバムごとに大きなテーマが用意されており、そのテーマをなぞった歌詞が各曲に綴られています。今作の大きなテーマは「世界的な怒りと幻滅」であり、このアルバムこそがARCHITECTSから現代社会に向けたステートメントであると。攻撃的でヘヴィなサウンド&アンサンブル、それと同じくらいの悲しみや失望が伝わるメロディはARCHITECTS史上もっともダークなものと言えるでしょう。しかし、その質感が妙に気持ちよく響くのは、彼らが我々と同じく痛みや悲しみを抱えているから。それがダイレクトに刺さるんだけど、痛みが快楽へと昇華されていく。この感覚、ハマったら抜け出せないものがあり、気づけばARCHITECTSというバンドの虜になっているはずです(かくいう僕も前作で彼らにハマり、現在に至ります)。

本作リリースから3ヶ月後の8月20日、3年以上にわたりガンと戦ってきたトム・サール(G)が逝去。後付けですが、この怒りや痛み、悲しみはトムのものであり、彼を支えるバンドメンバーのものでもあったんだなと……そして、その痛みと苦しみ、悲しみは次作『HOLY HELL』(2018年)でクライマックスを迎えることになります。

 


▼ARCHITECTS『ALL OUR GODS HAVE ABANDONED US』
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2020年9月25日 (金)

BRING ME THE HORIZON『SUICIDE SEASON』(2008)

2008年11月中旬にリリースされたBRING ME THE HORIZONの2ndアルバム。日本盤は翌2009年1月下旬に発売されました。

BRING ME THE HORIZONの名を幅広く知らしめる最初の結果を生み出した、記念すべき1枚。ジャケットのグロさから、知らない人にはデスメタルとかゴアグランドのバンドかと間違えられそうですが(デビュー作を知らなかった僕も、店頭でそう勘違いして手にしたひとりです)、1stアルバム『COUNT YOUR BLESSINGS』(2006年)で提示したデスコアサウンドをさらに一歩推し進めた、モダンなメタルコアサウンドを楽しむことができます。

プロデュースを手がけたのは、北欧メロディックデスメタルシーンで知られるフレドリック・ノルドストローム(ARCH ENEMYDIMMU BORGIRSOILWORKなど)。前作でのアンダーグラウンド感が良い意味で薄れ、鋭角で低音重視ながらも全体的に聴きやすい/聞き取りやすいバランス感でまとめられています。初めて聴いたときは冒頭2曲「The Comedown」「Chelsea Smile」のアグレッションに若干引きつつも、それでも不思議と聴きやすいその作風に違和感を覚えたものです(もちろん、良い意味での違和感なんですけどね)。

緩急の起伏が激しいアレンジ/バンドアンサンブルと、デジタルテイストを随所に散りばめた味付けは、前作での(良くも悪くも)アングラの帝王感から一線を画するものがあり、短期間でメジャー感を強めることに成功。今思えば、次々作『SEMPITERNAL』(2013年)の片鱗と言えなくもないですが、この時点ではあくまで「アグレッシヴなバンドサウンドとの対比」という意味での味付けだったはず。なので、デジタル感をバンドの軸足に起き始めた『SEMPITERNAL』とは直接的な関連性はそこまで考えなくてもいいのかなと。むしろそれよりは、楽曲のプログレッシヴ度が急激に増す次作『THERE IS A HELL BELIEVE ME I'VE SEEN IT. THERE IS A HEAVEN LET'S KEEP IT A SECRET.』(2010年)とのつながりを考えたほうが正しいのかもしれません。

1作目から順に追っていくと、5作目『THAT'S THE SPIRIT』(2015年)までは非常に真っ当で正しい進化の仕方をしているなという事実に、改めて気づかされるはず。とはいっても、前作『COUNT YOUR BLESSINGS』と本作との差は一番大きなものがあり、そういった意味では今作を真のスタート地点と捉えることもできるのかなと。この『SUICIDE SEASON』から『THAT'S THE SPIRIT』までの流れ/成長は非常にわかりやすいものがありますしね。

リリースから12年経った今の耳で聴くと、当時は激しすぎると若干の拒否反応を示した本作も不思議とキャッチーに思えてくる。慣れって恐ろしいですね(笑)。なお、本作中の「Football Season Is Over」にはメルボルンのハードコアバンドDEEZ NUTSからJJ・ピーターズ(Vo)が、「The Sadness Will Never End」ではイギリスのメタルコアバンドARCHITECTSからサム・カーター(Vo)がそれぞれゲスト参加。本作から10数年後、BMTHもARCHITECTSもイギリスと代表するメタル/ラウドバンドにまで成長するとは、この頃には想像もしていませんでしたね。

BMTH初心者が初期の作品に触れる際、本作から入っていくと現在とのあまりの違いに拒否反応を示すかもしれません。そういう意味では次作『THERE IS A HELL BELIEVE ME I'VE SEEN IT. THERE IS A HEAVEN LET'S KEEP IT A SECRET.』のほうが入りやすいのかな? 同作が問題なくいけたら、こちらにさかのぼってみるのがベストかもしれませんよ。

 


▼BRING ME THE HORIZON『SUICIDE SEASON』
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2018年12月26日 (水)

2018年総括(番外編):HR/HM、ラウドロック編

隔月の奇数月に「リアルサウンド」さんにて、HR/HMやラウドロックの新譜キュレーション記事を書いているのですが、2018年のまとめ記事となる年間ベスト10紹介エントリー「西廣智一が選ぶ、2018年ラウドロック年間ベスト10 ネガティブな話題の中にも豊作が揃った1年」が12月25日に公開されました。

基本的には順位を付けるのは苦手なのですが、ここでま毎回思い切って1位から10位まで順番をつけて10枚紹介しています。今年に関しては上位3作品に関しては不動なのですが、4位以降は日によって変動があると思うので、セレクトの際に泣く泣く10枚から落とした準候補10枚を加えた20枚を紹介する意味で、SpotifyとApple Musicに記事と同名のプレイリストを作成しました。

改めて、20枚を紹介しておきますね(基本的には順位は付けていませんが、先のリアルサウンドさんで1〜10位と順位付けしているため、便宜上20までナンバリングしておきます)。


01. DEAFHEAVEN『ORDINARY CORRUPT HUMAN LOVE』(レビュー
02. VOIVOD『THE WAKE』(レビュー
03. ALICE IN CHAINS『RAINIER FOG』(レビュー
04. Crystal Lake『HELIX』
05. AZUSA『HEAVY YOKE』(レビュー
06. IHSAHN『ÁMR』(レビュー
07. JUDAS PRIEST『FIREPOWER』(レビュー
08. SIGH『Heir to Despair』
09. LOVEBITES『CLOCKWORK IMMORTALITY』(レビュー
10. ARCHITECTS『HOLY HELL』(レビュー
11. CORROSION OF CONFORMITY『NO CROSS NO CROWN』(レビュー
12. FEVER 333『MADE AN AMERICA』(レビュー
13. GHOST『PREQUELLE』(レビュー
14. THE STRUTS『YOUNG & DANGEROUS』(レビュー
15. MANTAR『THE MODERN ART OF SETTING ABLAZE』
16. NINE INCH NAILS『BAD WITCH』(レビュー
17. NOTHING『DANCE ON THE BLACKTOP』(レビュー
18. SHINEDOWN『ATTENTION ATTENTION』(レビュー
19. SLEEP『THE SCIENCES』
20. CHTHONIC『BATTLEFIELDS OF ASURA』


最初の10曲が「リアルサウンド」さんで紹介した10枚から。一応順位どおりに楽曲を並べています。で、後半の10曲が選から漏れた10枚から。こちらは基本的には順不同ですが、まあ大体こんな並びかなと。基本的には当サイトで紹介した作品、あるいはキュレーション連載で紹介した作品ばかりですが、個人的にはこういう1年だったのかなとこれを聴いて振り返っているところです。

せっかくなので、この20枚から漏れた「今年よく聴いたHR/HM、ラウドロック系アルバム」も紹介しておきます。こちらはアルファベット順に並べています。


・BEHIMOTH『I LOVED YOU AT YOUR DARKNESS』
・BURN THE PRIEST『LEGION: XX』(レビュー
・COHEED AND CAMBRIA『THE UNHEAVENLY CREATURES』
・Crossfaith『EX_MACHINA』
・DIMMU BORGIR『EONIAN』(レビュー
・DIR EN GREY『The Insulated World』
・Graupel『Bereavement』
・GRETA VAN FLEET『ANTHEM OF THE PEACEFUL ARMY』(レビュー
・HALESTORM『VICIOUS』(レビュー
・HER NAME IN BLOOD『POWER』
・JONATHAN DAVIS『BLACK LABYRINTH』(レビュー
・LOUDNESS『RISE TO GLORY -8118-』(レビュー
・MICHAEL SCHENKER FEST『RESURRECTION』(レビュー
・OBSCURA『DILUVIUM』
・A PERFECT CIRCLE『EAT THE ELEPHANT』
・SAXON『THUNDERBOLT』(レビュー
・SHINNING『X - VARG UTAN FLOCK』
・SKINDRED『BIG TINGS』(レビュー
・SURVIVE『Immortal Warriors』
・THERAPY?『CLEAVE』(レビュー
・U.D.O.『STEELFACTORY』(レビュー
・UNITED『Absurdity』
・VENOM『STORM THE GATES』(レビュー
・陰陽座『覇道明王』

2018年12月12日 (水)

ARCHITECTS『HOLY HELL』(2018)

イギリス・ブライトン出身のメタルコアバンド、ARCHITECTSが2018年11月にリリースした通算8枚目のスタジオアルバム。現在も在籍するEpitaph Recordsに移籍後発表した6thアルバム『LOST FOREVER // LOST TOGETHER』(2014年)で初めて接したバンドでしたが、フレドリック・ノルドストロームをアディショナルプロデューサーに迎えたこともあってか、同作は初の全英トップ20(16位)入りを果たしています。

しかし、前作『ALL OUR GODS HAVE ABANDONED US』(2016年)発表直後にトム・サール(G)が皮膚癌のため死去(享年28歳)。その後サ、ポートメンバーとしてツアーに参加していたSYLOSISのジョシュ・ミドルトンが正式加入し、今作の制作に臨みました。

プロデューサーはメンバーのダン・サール(Dr/トムと双子の兄弟)とジョシュが担当。Facebookのコメントなどでダンが語るように、本作はトムに向けて書かれた楽曲が大半を占めるとのこと。亡くなるまでの3年間を癌で苦しみぬいた彼の悲痛な叫びを激しいサウンドで表現し、病と戦った日々を刻むかのようにヘヴィなビートと鋭角的なギターリフが叩きつけられる。そんなズッシリと心に響く1枚となっています。

ストリングスを効果的に用いたアレンジと、要所要所に打ち込みやエレクトロの要素を挿入し、適度なブレイクを導入することで緩急を自在に操り、ドラマチックさを演出するバンドアンサンブルはひたすら気持ちよく聴けるものばかり。スクリームもクリーンパート同様のメロディアスさが感じられ、とにかく親しみやすい内容となっています。

鼓動を打つようなビートと「死は敗北ではない」というタイトルを持つオープニングトラック「Death Is Not Defeat」から始まり、曲を重ねるごとに感情を叩き続ける本作は、後半に進むに連れ全体を覆うヘヴィさが増していき、「Modern Misery」あたりではそのヘヴィさが悲痛さへと変わっていく。「The Seventh Circle」のバスドラ連打からは怒りすら感じられ、その悲哀に満ちた感情は「Doomsday」で一気に爆発し、ラストの「A Wasted Hymn」はどこか鎮魂歌のようにも聞こえる。

……なんてことを書くと、完全に偏見に満ちていると受け取られてしまうかもしれませんが、それくらいこのアルバムからはトムを失ったダンの悲しみ、バンドのやるせなさがヘヴィでエモーショナルなサウンドの塊となって押し寄せてくるのです。まるで音の壁で密閉され、呼吸できなくなるような……といったら大袈裟でしょうか。

外部プロデューサーの力を借りず、メンバーだけで作り上げたこのアルバム。それだけ深い意味が込められた、今後のARCHITECTSにとって大きなターニングポイントになるのではないでしょうか。気楽に聴けるアルバムではありませんが、気がつくと手を伸ばしている、そんな中毒性のある1枚です。

 


▼ARCHITECTS『HOLY HELL』
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