ARCTIC MONKEYS『TRANQUILITY BASE HOTEL & CASINO』(2018)
ずいぶん変わった……というよりも、ガラッと変わってしまったな。だけど、嫌いじゃない。むしろ好みかもしれない。それが本作を初めて聴いたときの第一印象でした。
初めてアメリカでもミリオンヒット作となった前作『AM』(2013年)から約4年半ぶりに発表された、ARCTIC MONKEYS通算6枚目のスタジオアルバム。本国イギリスではデビュー以来6作連続1位を記録、アメリカでも前作に続いてトップ10入り(8位)を果たすなど好意的に受け入れられたようです。
2ndアルバム『FAVOURITE WORST NIGHTMARE』(2007年)からすべての作品を手がけるジェームズ・フォード(SIMIAN MOBILE DISCO)がプロデュースに携わった本作は、まさかここまで実験的に、かつ斬新に変化を遂げるとは思ってもみなかったほどに新たなスタイルを築き上げています。
とはいえ、変化の予兆は3rdアルバム『HUMBUG』(2009年)あたりから少しずつ見え隠れしていました。とはいえ、当時はまだその変化がメンバーの中でも明確化されておらず、できることから挑戦していく。そんな印象でした。事実、1stアルバム『WHATEVER PEOPLE SAY I AM, THAT'S WHAT I'M NOT』(2006年)の頃と比較すれば、その後の『SUCK IT AND SEE』(2011年)や『AM』は“変貌を遂げた”と呼ぶにふさわしい内容だったと思います。が、それはあくまで1stアルバムというベースがあって、そこから進化していったものというイメージがあるから。それと比べたら、今回の変貌はむしろ“変身”と言えるものかもしれません。
全体的に穏やかでじっくり聴かせる楽曲ばかりで構成された本作は、実験作とはいえアバンギャルドさは皆無。むしろ、ラウンジミュージックや映画のサウンドトラックのような不思議な世界観が展開されていると表現したくなるもの。そこで歌われているメロディなどは確実にARCTIC MONKEYSのものもなのに、どこか別の世界で鳴らされているような感覚すらある。ある種、アレックス・ターナー(Vo, G)のソロアルバム的要素が強く、彼の別プロジェクトであるTHE LAST SHADOW PUPPETSにも通ずるものがある。思えば、そのバンドのメンバー4人のうち2人(アレックスとジェームズ・フォード)がいるんだもん、そうなったとしても不思議じゃない。
だけど、これをARCTIC MONKEYSでやろうとした、やることを受け入れたほかのメンバーがいるわけで、これは紛れもなくARCTIC MONKEYSの新作なわけです。そこを受け入れるか、受け入れないかで印象も変わるでしょうし、もしかしたら“ARCTIC MONKEYSの新作”と意識しないで聴けばもっとフラットに楽しめる内容かもしれない。
けど、僕はこの挑戦を素直に受け入れたいし、ロックバンドとして“次の10年”をどうサバイヴしていくか、腹を括った上でのこの内容だと思うので、そこを諸手を挙げて支持したい。問題作ではあるけれど、力作なのも間違いない。目下お気に入りの1枚です。
▼ARCTIC MONKEYS『TRANQUILITY BASE HOTEL & CASINO』
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