THE ATOMIC BITCHWAX『SCORPIO』(2020)
2020年8月28日にリリースされたTHE ATOMIC BITCHWAXの8thアルバム。日本盤未発売。
前作『FORCE FIELD』(2017年)制作時はMONSTER MAGNETのメンバーでもあるクリス・コスニック(Vo, B)とボブ・パンテラ(Dr)、フィン・ライアン(G, Vo)という編成でしたが、今年に入りフィンが脱退。代わりに現MONSTER MAGNETのギャレット・スウィーニーが加入。これでMONSTER MAGNETの5分の3が在籍する、完全なるMONSTER MAGNETのサイドプロジェクトとなるのですが、なんとクリスが約7年在籍したMONSTER MAGNETを脱退してしまいました。や、ややこしい……(笑)。
というわけで、リードギタリストこそ交代になったものの、バンドの音楽性自体はこれまでの延長線上にあるストーナー経由のガレージロック。MONSTER MAGNETの音楽性とはあまり通ずるものは感じられないかもしれませんが、むしろこのバンドの場合は2000年前後に北欧やUSインディシーンで勃発した、KISS経由のガレージロックリバイバルに近いのではないでしょうか。そういった意味では、THE HELLACOPTERSあたりが好きだったというリスナーには問答無用で受け入れてもらえるはずです。
前作ではスピードチューンで攻めまくる構成でしたが、今作はちょっと趣向を凝らした作風で「おっ!?」と唸る瞬間が多々ありました。まず、オープニングトラック「Hope You Die」ではスピードで引っ張るのではなく、バンドのグルーヴ感を前面に打ち出したミディアムテンポのアレンジで聴き手側をウォームアップさせ、そこからスピードチューンを立て続けに演奏していく。ところが、本作が面白いのが「Ninja」などインストゥルメンタルナンバーが3曲も収録されていること。それらの楽曲自体のスピード感は相変わらず飛ばしまくっているのですが、歌がない代わりに楽器隊のうねりを思う存分楽しむことができるわけです。いや、これは意外性があってよかったなあ。
また、アルバム中盤にも「Easy Action」のようなミディアムテンポのロックンロールがあったりと、勢いだけで攻めるのではなく、若干“聴かせる”要素が強まったような印象も受けます。それが先のインスト曲における楽器隊(特に新加入のギャレットのギタープレイ)をフィーチャーしたアレンジにも表れているのかなと。サイドプロジェクトとはいえ、アルバムもすでに8枚目。毎回同じことだけをやるわけにもいかないし、特にこういったライブで力を発揮するバンドの場合は、そのライブでどれだけ輝く曲を生産し続けるかが勝負になるわけで、そういった意味では「Hope You Die」のような楽曲や、「Instant Death」みたいに楽器隊だけで押しまくるインスト曲は良いフックになるのではないでしょうか。個人的には好印象を受けました。
全11曲で38分というトータルランニングは前作より多少長くなっていますが(前作は12曲で34分。どれだけ飛ばしてたんだって話ですが)、それでも聴き始めたらあっという間にエンディングを迎えるっていうぐらい、惹きつけられる内容です。今、問答無用でカッコいいロックンロールを楽しみたければ、本作を爆音で鳴らすことが最適ではないでしょうか。
▼THE ATOMIC BITCHWAX『SCORPIO』
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