カテゴリー「Backyard Babies」の19件の記事

2024年3月15日 (金)

SAMI YAFFA『SATAN'S HELPERS, WARLAZER EYES & THE MONEY PIG CIRCUS』(2024)

2024年3月8日に配信リリースされたサミ・ヤッファの2ndアルバム。フィジカルは3月15日発売予定、日本盤は現在未発売。

HANOI ROCKSなどでお馴染み、現在は盟友マイケル・モンローのバンドメイトとして活動をともにしているサミ。40年以上におよぶ音楽キャリアにおいて初のソロアルバム『THE INNERMOST JOURNEY TO YOUR OUTERMOST MIND』を2021年9月に発表しましたが、本作はそれに続く2年半ぶりの新作となります。

レコーディングには前作にも携わったヤンネ・ハーヴィスト(Dr)、リンデ・リンドストローム(G/ex. HIM)、バートン(Key/ex. HIM)といった地元スウェーデンの仲間たちが全面参加。さらにHANOI ROCKSのメンバーでもあるナスティ・スーサイド(G)やマイケル・モンロー(Vo, Sax)、BACKYARD BABIESTHE HELLACOPTERSの一員でもあるドレゲン(G)、そしてマイケル・モンローのバンドメンバーでもあるリッチ・ジョーンズ(G)&スティーヴ・コンテ(G)といった気心知れた友人たちもゲスト参加しています。

前作で得た手応えをもとに、フィンランドやスウェーデン、スペインなどで断続的に、数年かけて制作されたという本作。基本路線は前作の延長線上にあるものの、まずはオープニングのタイトルトラックに驚かされるのではないでしょうか。マカロニウェスタンを彷彿とさせるスローブルースでじわじわと熱量を高めていくスタイルは、インパクトに欠けると受け取られてしまう可能性もゼロではありませんが、独特の世界観を提供するための入り口としてはいい味付けになっていると個人的には感じました。

パンキッシュなアップチューン「Silver Or Lead」や「Shitshow」、HANOI ROCKSやマイケル・モンローの楽曲として披露されても何ら違和感のないマイナーキーの「Hurricane Hank」や「Crashing Down」、レゲエテイストを取り入れた「Death Squad」などいかにもな楽曲が多数収録される中、レイドバックしたアコースティックアンバー「Down Home」、ファンキーさが際立つ「Chemical Life」、スカテイストを強めたダウナーな「Far Star」などはアルバムのフックとして良い方向に作用している印象を受けます。ぶっきらぼうながらも大人の色気が漂うサミのボーカルも前作以上に馴染み始めており、昨年9月に還暦(!)を迎えたにも関わらずミュージシャンとしてなおも進化を続けようとする彼の前向きな姿勢にただただ脱帽するばかりです。

アルバムのクロージングナンバー「Faster Than Time」のアットホーム感も相まって、前作以上にリラックスして楽しんでいる様子が伝わる本作。酒をたらふく浴びながらまったり楽しみたい、そんな空気感の1枚ではないでしょうか。せっかくなので、クラブ規模でのライブも観てみたいなあ。

 


▼SAMI YAFFA『SATAN'S HELPERS, WARLAZER EYES & THE MONEY PIG CIRCUS』
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2021年6月 5日 (土)

THUNDERMOTHER『HEAT WAVE』(2020)/『HEAT WAVE (DELUXE EDITION)』(2021)

2020年7月31日にリリースされたTHUNDERMOTHERの4thアルバム。日本盤未発売。

THUNDERMOTHERはスウェーデン出身の4人組女性ロックバンド。AC/DCを思わせるシンプルなハードロックンロールが特徴で、これまでに3枚のアルバムを発表しています。2020年にはAFM Recordsとワールドワイド契約し、この『HEAT WAVE』で活動ベースを一気に広げることになる……予定でした(コロナ禍さえなければ、ね)。

ソロアーティストとしても活動するデンマーク出身のギタリスト、セーレン・アンデルセンをプロデューサーに迎えて制作された本作。一聴すればサウンドやギターリフそのものはAC/DCを彷彿とさせるハイエナジー・ハードロックですが、ハスキーな女性ボーカルが乗ることで新鮮さが伝わります。僕自身はこのアルバムで初めてTHUNDERMOTHERの作品に触れたのですが、うん、これは大好物です。

序盤こそAC/DC直系……というか、まんまな音なのですが、ハードロックバンドのパワーバラードと呼ぶにふさわしい「Sleep」あたりからその様子が変化し始めます。リフそのものはAC/DCそのものな「Free Ourselves」などはあるものの、北欧バンドらしい爆走ロックンロール「Driving In Style」に「Somebody Love Me」、ハードブギー「Mexico」、メロディアスなミディアムナンバー「Purple Sky」といったバラエティに富んだナンバーがアルバムに多彩さを与えています。

女性バンドに求められる繊細さは「Sleep」や「Purple Sky」などから少々感じられるものの、基本的には性別を超越したリアル・ロックンロールを堪能できる1枚。おそらく過去のアルバムをさかのぼっても、(「Sleep」や「Purple Sky」のような曲があるかどうかは別として)全体的な基本路線はさほど変わらない、いや、変わりようのないバンドだと思うので、基本的には最新作から入るのがベストかなと。特に本作は後半の彩り豊かさが印象に残るので、気になる方はぜひ本作から手に取ってみてください。

 


▼THUNDERMOTHER『HEAT WAVE』
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なお、本作は2021年5月21日に10曲入りボーナスディスクを追加&アートワークを一新したデラックス・エディションを、CD&デジタルでリリース。ボーナスディスクにはアルバム未収録の新曲のほか、「Driving In Style」「Dog From Hell」のアコースティックバージョンのほか、D-A-Dのイェスパー・ビンザー(Vo)をフィーチャーした「Sleeps」アコースティックテイク、「Thunderous」「Hellevator」のライブテイク、そしてポンタス・スニッブ(BONAFIDE)、ドレゲンBACKYARD BABIES)がゲスト参加した「Rock'n'Roll Heaven」といったレアトラックを楽しむことができます。特にアルバム未収録のスタジオ音源およびアコースティックバージョンは、アルバム本編同様に必聴の内容なので、もしフィジカルでの購入を計画している方はぜひこちらをご購入いただけると幸いです。僕もこっち買いましたから(ジャケもカッコいいし)。

今年の開催も延期となってしまった世界最大級のメタルフェス『Wacken Open Air』。2022年開催予定の同フェスに、このTHUNDERMOTHERの出演も決定しております。それまでにもう1枚くらいスタジオアルバムが出ていそうな気がしないでもないですが、本作や次のアルバムを通じて一気に名が知れ渡りそうな、そんな北欧ガレージロック/ハードロックファン必聴のバンドです。

 


▼THUNDERMOTHER『HEAT WAVE (DELUXE EDITION)』
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2019年12月31日 (火)

2019年総括:③HR/HM、ラウドロック編

一昨年秋から『リアルサウンド』でスタートした、HR/HMやラウドロックなどエクストリーム・ミュージックの新譜キュレーション記事を連載しているのですが、2019年のまとめ記事となる年間ベスト10紹介エントリー「西廣智一が選ぶ、2019年ラウドロック年間ベスト10 BMTH、Russian Circles、Slipknotなど意欲作が気になる1年に」が12月26日に公開されております。

年明け発売の雑誌『ヘドバン』最新号でも同様の企画にアルバム10選をお送りしているのですが、こちらでは『リアルサウンド』の記事で紹介した10枚に加えて、次点となった10枚とあわせて紹介できたらと思います。

まずは、すでに公開済みの上位10作品について。こちらはあえて記事執筆時と同じままで進めたいと思います。

01. BRING ME THE HORIZON『amo』(レビュー
02. TOOL『FEAR INOCULUM』(レビュー
03. RUSSIAN CIRCLES『BLOOD YEAR』(レビュー
04. LEPROUS『PITFALLS』(レビュー
05. KILLSWITCH ENGAGE『ATONEMENT』(レビュー
06. SLIPKNOT『WE ARE NOT YOUR KIND』(レビュー
07. BARONESS『GOLD & GREY』(レビュー
08. GATECREEPER『DESERTED』(レビュー
09. MAMIFFER『THE BRILLIANT TABERNACLE』(レビュー
10. ALCEST『SPIRITUAL INSTINCT』(レビュー

選出した理由は『リアルサウンド』のエントリーにてご確認を。ちなみに、『ヘドバン』のほうではあるアルバムの代わりにOPETH『IN CAUDA VENENUM』を選出しております(順位は若干の変動あり)。

続いて、選に漏れた次点10作品もご紹介。

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2019年3月 9日 (土)

BACKYARD BABIES『SLIVER & GOLD』(2019)

BACKYARD BABIES待望の8thアルバム。海外では新たにCentury Media Records(ソニー流通)と契約して発表される本作、海外では3月8日にリリース済みですが、ここ日本では4月3日と約1ヶ月遅れての発売となります。日本盤(これまでと変わらずビクターから発売)を待ちきれずに輸入盤を購入してしまったファンも少なくないのではないでしょうか。

今作はプロデューサーにチップ・キースビー(THE HELLACOPTERSMICHAEL MONROEなど)を迎えて制作。さらに、曲作りにはそのTHE HELLACOPTERSやIMPERIAL STATE ELECTRICの一員であるニッケ・アンダーソン(Vo, G)も参加し、「44 Undead」という曲を完成させています。

昨年発表された先行シングル「Shovin' Rocks」でのパーティ感の強いロックンロールにときめき、続くアルバムの完成に今か今かと心踊らせていたファンは自分含めたくさんいたはず。さらに今年に入ってからは、次なるリードトラックとしてアルバムのオープニング曲「Good Morning Midnight」が公開。疾走感に満ち溢れた“らしい”この曲で、次のアルバムも最高に決まってる!……そう実感したのは僕だけではないでしょう。

で、実際に届けられたこのアルバム。前作がリハビリに思えてしまうぐらいに活き活きとした、王道中の王道なBYBらしい1枚に仕上げられています。

前作『FOUR BY FOUR』(2015年)は今でも良作だと思っていますし、非常に“らしい”作品だとも信じています。ですが、こうやって新作を前にすると、前作はニッケ・ボルグ(Vo, G)やドレゲン(G, Vo)のソロアルバムに入ってそうな曲も含まれており、良くも悪くも「様子見感」があったのかなと思えてきます。つまり、今回はそれぐらい従来のBYBらしさが自然な形で戻ってきているのです。

と同時に、やはり2人のフロントマンによるソロ活動の成果もしっかり反映されており、それらが強く主張しすぎることなくBYBというバンドの枠内に絶妙なバランス感で収まっている。そのへんはBYBとしてのツアーを重ねた成果や、ドレゲンがTHE HELLACOPTERS再結成ライブで得た経験によるものも大きいのかなと。

全体的にコンパクトなのは前作同様で、全10曲で35分程度と前作同等なのにはさすがに驚きましたが、ところが通して聴いてみるとそんなこと微塵も感じさせないぐらいに濃厚なんです。無理やり舵を切ってる感がないぶん、自然体でロックンロールを楽しんでいる様子が目に浮かぶし、それがダイレクトに伝わってくる。文句の付けどころがないほど、完璧なまでにBYBしていて、さらに過去を軽々と飛び越えていく。これが結成30周年を迎えたバンドの新作か!と驚くぐらい、エネルギッシュで初期衝動に満ちた1枚です。

日本デラックス盤には、ニッケ&ドレゲンによるアコースティックライブ音源5曲を追加(日本盤はこちらを別ディスクに収めた2枚組仕様)。このリラックスした感じも今の彼ららしくて、非常に好感が持てます。このボーナストラックをプラスして、ようやく51分強(笑)。おまけとしては純分すぎるくらいの内容なので、輸入盤をお持ちの方も改めて日本デラックス盤を購入してみてはどうでしょう。

 


▼BACKYARD BABIES『SLIVER & GOLD』
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2019年2月 7日 (木)

BACKYARD BABIES『DIESEL & POWER』(1994)

1994年にリリースされたBACKYARD BABIESの1stフルアルバム。1987年に前身バンドが結成され、1989年から現在の名前で活動を開始した彼らは、このフルアルバムまでの5年間にいくつかのデモ音源とEP『SOMETHING TO SWALLOW』(1991年)を発表していますが、ちゃんとしたアルバムという形で制作されたのは本作が初めて。バンドの名前が一気に知れ渡るのは続く2ndアルバム『TOTAL 13』(1998年)からのことで、日本でも同作からのイメージが強いのも事実。結果、『TOTAL 13』の成功も手伝って、ここ日本では翌1999年にこの『DIESEL & POWER』が初リリースされることになります。

また、本作は海外でも何度か再リリースを繰り返しており、直近だと2006年にボーナストラック「Lies」を追加した14曲仕様が発売されているようです。現在デジタルおよびストリーミングで聴くことができるのも、この再発バージョンになります。

『TOTAL 13』はパンキッシュかつキャッチーでコンパクトな楽曲がずらりと並ぶ、非常に聴きやすい印象が強いですが、それもこれもドレゲン(G, Vo)が『DIESEL & POWER』以降にTHE HELLACOPTERSに参加したことが大きかったのではないでしょうか。ニッケ・アンダーソン(Vo, G)と絡んだこと、および『SUPERSHITTY TO THE MAX!』(1996年)『PAYIN' THE DUES』(1997年)で学んだことが、『TOTAL 13』には直接的に反映されていると思うのです。

では、“それ以前”となるこの『DIESEL & POWER』はどうかといいますと、良くも悪くも“それまでの影響”がストレートに、色濃く表れた1枚と言えるでしょう。その影響とはGUNS N' ROSESであり、80年代後半のスリージーで埃っぽいブルースベースのハードロック。曲によっては『TOTAL 13』以降の彼らに通ずる部分も見受けられるのですが、『TOTAL 13』と同じスタイルを求めてしまうとちょっと厳しい印象も。曲の出来・不出来の差も見受けられ、60分近い長尺のトータルランニングは聴く人によっては若干厳しいものがあるかもしれません。¥

……と、『TOTAL 13』リリース当時は感じていたのですが、あれから20年近く経った今聴き返してみると、意外と普通に楽しめる自分がいるのもまた事実。それはBYBが一時活動休止した際、ニッケ・ボルグ(Vo, G)やドレゲンがリリースしたソロアルバムに本作の片鱗が感じられたからに他ありません。つまり、このデビューアルバムの時点ではバンドとしての調和よりも、メンバー個々がやりたいこと、表現したい音がそのままど直球に出てしまった。そう捉えると、非常に微笑ましく思えて仕方ありません。

曲によってはサックスやホーンセクション、オルガンなどをフィーチャーしており、このへんは最近の彼らにも通ずるものがある。ただ、表現力が乏しかったせいもあり、こういった味付けが当時はうまくできなかっただけ。結局、やりたいこと、やろうとしてることはこの時点から現在に到るまで何ひとつ変わっていない。ただ、それを表現する上での技術が作品を重ねるごとに上手になった。それだけのことなんでしょうね。

まもなく結成30周年を記念したニューアルバム『SLIVER & GOLD』をリリース予定の彼ら。昨年発表された先行シングル「Shovin' Rocks」ではさらに無駄を削ぎ落とした、シンプルなロックンロールを鳴らしていますが、それすらもこの30年で得た知識と経験がなせる技なのかもしれません。

 


▼BACKYARD BABIES『DIESEL & POWER』
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2018年6月11日 (月)

NICKE BORG HOMELAND『RUINS OF A RIOT』(2013)

無期限活動休止を2010年に発表したBACKYARD BABIESのフロントマン、ニッケ・ボルグ(Vo, G)が同年からスタートさせたソロプロジェクト、NICKE BORG HOMELANDの2ndフルアルバム。最初のEP『CHAPTER 1』(2010年)および1stフルアルバム『CHAPTER 2』(2011年)では、レイドバックしたカントリー寄りのロックサウンドに傾倒しファンを驚かせましたが、続く本作ではより“BYBのニッケ”のイメージに歩み寄ったロックサウンドを響かせています。

もちろん、ここで鳴らされているサウンド、楽曲はBYBのそれとは異なるものであり、と同時に“BYBの一片”であることも間違いない事実。完全にそのままではないのは当たり前ですが、だからといって大きくかけ離れたものでもない。そういう意味では最初に聴いたとき、少々戸惑ったことを覚えています。

全体的にアメリカナイズされたサウンドで、BYBの音を“北欧ガレージハードロック/パンクロック”と例えるならば、ここで取り組んでいるのは“90年代以降のUSパンク/オルタナティヴロックを通過した、アーシーなハードロック”と言えるかもしれません。過去2作で試みた挑戦は本作の中でもしっかり息づいており、その要素が活動休止前および活動再開後のBYBにも存在するカラーなのではないかと思うのですが、いかがでしょう?

全体的にミドルテンポ中心で穏やかな楽曲が多いため、BYBの派手さを求めるリスナーは肩透かしを食らうかもしれません。もしかしたら、本作の数ヶ月後のリリースされたドレゲンのソロアルバムのほうが、よりBYBらしい……そう感じる人もいることでしょう(とはいえ、あれも完全にはBYBのままではありませんが)。

ミック・ジャガースティーヴン・タイラーがソロアルバムを作ったとき、“ストーンズっぽい”、“エアロっぽい”とは感じるもののまんまではなかったことを覚えている方も多いでしょう。これをボーカリストのエゴと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、見方を変えれば「BYB活動再開までの自分にできることは何か?」という現実と向き合ったフロントマンが、アーティストとしての進化や成長を目指して新たな舞台に足を踏み入れた……そう考えれば、この挑戦は非常に納得のいくものだと僕は思っています。

発売当時よりもむしろ、BYBの復活作『FOUR BY FOUR』(2015年)を聴いたあとのほうが本作がより魅力的に聴こえる。そんな1枚ではないでしょうか。事実、あの頃はすぐ聴くのをやめてしまったのに、2015年夏以降徐々に聴く頻度が増えているのがこのアルバムなのですから。



▼NICKE BORG HOMELAND『RUINS OF A RIOT』
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2018年6月10日 (日)

DREGEN『DREGEN』(2013)

BACKYARD BABIESのリードギタリスト兼ボーカリスト、ドレゲンが2013年10月に発表した初のソロアルバム。当時BYBは活動休止中で、どれ元は2011年半ばにMICHAEL MONROEに加入。ちょうど2013年8月にはギタリスト&ソングライターとして参加した2ndアルバム『HORNS AND HALOS』がリリースされたばかりでした。

Universal Music傘下のSpinefarm Recordsと契約して発表された本作は、THE WANNADIESのフロントマンであるパール・ウィクステン(Vo)との共同プロデュースで制作。ニッケー・アンダーソン(THE HELLACOPTERSIMPERIAL STATE ELECTRICENTOMBED)がドラム(3曲のみ)、ベース、リズムギターで、カール・ロックフィスト(MICHAEL MONROE)がドラムで、サミ・ヤッファ(MICHAEL MONROE、ex- HANOI ROCKS)がベースで参加しており、ダンコ・ジョーンズ(DANKO JONES)や女性シンガーのティティヨもゲストボーカルでフィーチャーされています。

ドレゲンというと、キース・リチャーズ系譜のナチュラル・ボーン・ロックンロールギタリストというイメージがありますが(それは間違いではないのですが)、実はソングライターとして非常に器用な人であることが本作で証明されています。その片鱗は、もちろんこれまでのBYBのアルバムでも感じられましたし、直近のMICHAEL MONROEのアルバムでも存分に発揮されていました。

が、本作で聴ける楽曲の幅広さは想像以上のものがあります。BYBを彷彿とさせるメロウなミディアムナンバーが中心ではありますが、例えばTHE HELLACOPTERS〜初期BYBお約束の疾走チューンが皆無なことに、きっと多くのファンが驚くのではないでしょうか(本編ラストの「Mojo's Gone」を疾走ナンバーと捉えれば1曲ある、ということになりますが、これはもっとKISSみたいなアップチューンという認識で、ガレージロックのそれとは異なるイメージ)。

ソングライティングにニッケも加わっているにも関わらず、そういった楽曲がないといのは、おそらくドレゲンもニッケもソングライターとしてあの頃よりも成長/進化しているから、そして今表現したいものがそこにはないから……なんじゃないかなと勝手に想像しています。

じゃなかったら、渋いスローブルース「Flat Tyre On A Muddy Road」や、ドロドロしたファンクチューン「6:10」にまで挑戦しないと思うし。むしろ、THE HELLACOPTERSやBYBにたどり着く前の、もっとガキの頃に愛聴したロックやポップス、ブルースといったルーツミュージックを、今の表現力で形にしたらこうなった、と言ったほうが正しいのかもしれません。

正直、このアルバムを聴いたとき、そしてソロツアーに専念するためにMICHAEL MONROEをすぐに脱退したときには、「ああ、ドレゲンはもうBYBではなくソロでやっていくんだな」……なんて思ったものです。しかし、そこから1年後にはBYBとしてスタジオ入り。2018年中には早くも再始動後2作目となるアルバムもリリースしてくれそうですし、そういった意味ではこのソロアルバムは良い意味での“ガス抜き”だったんでしょうかね。

 


▼DREGEN『DREGEN』
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2018年6月 9日 (土)

MICHAEL MONROE『HORNS AND HALOS』(2013)

2013年8月にリリースされた、マイケル・モンローのバンド名義による2ndアルバム。マイケル個人としては7枚目のソロアルバムになります(JERUSALEM SLIMDEMOLITION 23.も含めると9枚目)。

前作『SENSORY OVERDRIVE』(2011年)リリース後、ツアーを1本終えたところでジンジャー・ワイルドハート(G)が自身の活動に戻るためバンドを脱退(この編成では同年6月にジャパンツアーを実施)。入れ替わるようにMICHAEL MONROEに加入したのが、当時BACKYARD BABIESが活動休止中だったドレゲンでした。ドレゲンが加わった編成で、バンドはツアーを再開。ここ日本にも新編成で同年10月に『V-ROCK FESTIVAL '11』で、早くも再来日を果たしました。

前編成もツアーから始まったMICHAEL MONROEですが、ドレゲンのように華と毒を併せ持つギタリストが加わったことで、彼らのステージはよりアグレッシヴになったように感じました。そんなドレゲンを迎えた編成で、バンドの新作制作に突入。いざ完成したアルバムは、前作の中にあったパンキッシュでストレートなロックンロールのテイストに特化した、1本芯の通った力作に仕上がりました。

もともとマイケルとドレゲンの相性の良さは、BACKYARD BABIES時代に共演した「Rocker」で証明済みでしたが、本作の中にもBYB的な哀愁漂うパンクロックチューンは含まれており、良い味を出しております。

が、本作で特筆すべきはドレゲン以上に、もうひとりのギタリストであるスティーヴ・コンテの作曲能力でしょう。前作でもその才能は開花させていましたが、本作でもリードトラック「Ballad Of The Lower East Side」や「Saturday Night Special」、そして海外盤スペシャルエディション収録の「Don't Block The Sun」をひとりで書き下ろしており、HANOI ROCKS時代やDEMOLITION 23.を彷彿とさせるパンクロックにファンは「これこれ! これぞマイケル・モンロー!」と歓喜しました(少なくとも自分は)。

また、スティーヴはドレゲンとともに「Stained Glass Heart」「Child Of The Revolution」の2曲を曲作。特に後者のグラムロック感はたまらないものがあり、2人の化学反応に思わずガッツポーズを取ったことを今でもよく覚えています。

そのほかにも、レゲエを取り入れたパンクロック「Soul Surrender」や、『NOT FAKIN' IT』(1989年)時代にも通ずるミディアムナンバー「Ritual」、ひたすらテンションが上がるマイナーキーのタイトルトラック「Horns And Halos」など、聴きどころ満載。本作が自国フィンランドのチャートで1位を獲得したのも頷ける、脂の乗った1枚です。



▼MICHAEL MONROE『HORNS AND HALOS』
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2017年7月26日 (水)

BACKYARD BABIES『BACKYARD BABIES』(2008)

2008年8月にリリースされた、BACKYARD BABIES通算6枚目のスタジオアルバム。前作『PEOPLE LIKE PEOPLE LIKE PEOPLE LIKE US』(2006年)でシンプルかつストレートな作風へとシフトチェンジした彼らですが、バンド名を冠した今作では2ndアルバム『TOTAL 13』(1998年)から前作までの集大成と呼べる豪快なハードロックを聴かせてくれます。

「Fuck Off And Die」という強烈なタイトルのオープニングトラックからして“お前、それ売れようと思ってないだろ?”と突っ込みたくなりますが(しかも本作からの1stシングルがこれなんだから)、ドレゲン(G, Vo)がメインボーカルを務める同曲がアルバム冒頭を飾ることにも驚かされます。しかし、この曲以降は通常運転。ニッケ(Vo, G)ボーカル曲が中心で、途中でニッケ&ドレゲンがツインボーカル体制で歌う曲も飛び出します。

『TOTAL 13』や『MAKING ENEMIES IS GOOD』(2001年)あたりの楽曲が好きな人なら一発で気にいる「Come Undone」や「Zoe Is A Weirdo」、ニッケらしさに満ち溢れたアメリカンロック調バラード「Abandon」Saved By The Bell」、GUNS N' ROSESのディジー・リードがピアノでゲスト参加した「Voodoo Love Bow」(ディジーはもう1曲、日本盤ボーナストラック「Saved By The Bell (Piano Version)」にも参加)、ド直球なパンクチューン「The Ship」「Where Were You」、マイナーコードのメロディがいかにも彼ららしい疾走ナンバー「Nomadic」と、BACKYARD BABIESのことが好きなら必ず引っかかりのある曲がずらりと並んでいます。“俺はこの時代が好き!”とこだわりが強いファンも多いでしょうが、そういった人たちを少なからず巻き込むという意味では、正真正銘の集大成アルバムなのかもしれませんね。

しかし、それが原因なのかわかりませんが……リリース当時はもの足りなさを感じたのも事実。どこかひとつ、突き抜けた部分があったら、と不満タラタラで、実はそこまで聴き込んでいなかったんです。でも、久しぶりにこのアルバムと向き合ってみたら、その“もの足りなさ”が逆に“バランス良さ”に感じられるのだから、本当に不思議なものです。きっと、自分は彼らにそれまで“Too Much”なものを求めすぎていたんだなと、そこで再確認したわけです。反省編成。

本作を完成させた彼らは翌2009年に結成20周年を迎えるも、無期限の活動休止に発表。ちょうど休止直前の2010年3月に実施された単独来日公演にも足を運びましたが、そこには悲壮感は一切なく、終始彼ららしいストイックかつ能天気なロックンロールパーティを展開しました。これならすぐに戻ってきてくれるな、と当時は楽観視したものですが、まさかそこから5年近くも間が空くなんてね(しかもニッケもドレゲンもソロアルバムは出すは、ドレゲンに至ってはMICHAEL MONROEのギタリストになるわで、やきもきしたものです)。

 


▼BACKYARD BABIES『BACKYARD BABIES』
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2017年2月28日 (火)

BACKYARD BABIES『FOUR BY FOUR』(2015)

活動停止から5年ぶり、BACKYARD BABIESのオリジナルアルバムとしては前作『BACKYARD BABIES』(2008年)から実に7年ぶりのニューアルバム『FOUR BY FOUR』。メンバーはニッケ・ボルグ(Vo, G)、ドレゲン(G, Vo)、ヨハン・ブロムクウィスト(B)、ペダー・カールソン(Dr)という不動の4人のままで、前作からの空白を一切感じさせないBYB流ロックンロール満載のアルバムに仕上げられています。

これだけ長い期間バンドとして活動していないと、再始動した際バンドとしての感覚を取り戻すためにまずツアーをしたりするケースが多いですが、彼らの場合はいきなりこのアルバムの制作に突入。通常はここでぎこちなさが表出してしまったり気合いのみが空回りしてしまったりするものの、BYBに関しては本当に“しっくり”きたんでしょうか、先に書いたように7年の空白が嘘のような通常営業っぷりなんですよね。

とはいえ、7年前からまったく成長していないのかというとそうではなく、ニッケやドレゲンのソロ活動での成果もしっかり反映されている。スクラッチなどの遊びが入ったオープニングトラック「Th1rt3en Or Nothing」なんて、従来のBYBらしさと今までになかったカラーが絶妙なバランスでミックスされているし、大陸的なバラード「Bloody Tears」あたりは完全にニッケのカラーが反映されたもの(同曲のMVは来日時に東京で撮影されたもの。必見)。かと思えば、7分にもおよぶブルージーかつダークな「Walls」のような新境地ナンバーもある。バンドとしてしっかり成長し、前進していることはこれらの楽曲からも伺えるんじゃないでしょうか。

もちろん、それ以外の楽曲は従来のBYBらしさに満ち溢れたものばかり。「I'm On My Way To Save Your Rock 'n' Roll」の前のめり感、適度な哀愁味を携えた「White Light District」、USパンクからの影響も強い「Never Finish Anythi」といったナンバーのみならず、その他の楽曲も“これぞBYB”と呼べるものばかりです。古くからのファンはもちろんのこと、「BYBってどんなバンド?」と初めて接する人にも優しい内容と言えるでしょう。

ただ、ひとつだけ苦言を呈するならば……7年待たされて、たった9曲で34分という短さはなんなの!?と。古き良き時代のロックンロールアルバムならばこれが正解なんだろうけど、時は2015年。正直物足りなさを感じてしまったのも事実です。まぁやたらめったらと曲数多くて60分超えてたり、ライブで演奏しない曲ばかりの内容になるよりはマシなのかな。彼らなりに「こんな時代だからこそ……」というアンチ精神もあってこの構成だとしたら、それは素直に受け入れることにします。だって、無駄が一切ないんだから。

個人的に残念だったのは、仕事の関係で2015年秋の『LOUD PARK 15』に足を運べなかったこと。さらにその時期、耳の病気を患ってライブにもあまり足を運ぶことができず、無理して地方でのワンマン公演にも行けなかった……本当に悔しい限りです。しかしながら、『FOUR BY FOUR』を携えて行われたツアーから、2016年2月のストックホルム公演を完全収録したライブDVD&Blu-ray『LIVE AT CIRKUS』が3月3日にリリースされるので、こちらの到着を楽しみに待ちたいと思います。

 


▼BACKYARD BABIES『FOUR BY FOUR』
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