BAD MOON RISING『OPIUM FOR THE MASSES』(1995)
1995年4月にリリースされたBAD MOON RISINGの3rdアルバムにしてラスト作。1996年夏には本作で初めてのUSリリースが実現しており、こちらのUS仕様(日本オリジナル盤未収録の3曲含む)も1996年9月に日本発売されています。
カル・スワン(Vo)&ダグ・アルドリッチ(G)、前作がほぼ完成したタイミングで加入したイアン・メイヨー(B)&ジャッキー・レイモス(Dr)が4人揃って初めて本格制作したアルバムであり、ソングライティングもBMR名義で制作されています(そうそう、本作ではバンド名を「B.M.R.」と記号的に表記するケースが増えていました。これはBAD MOON RISINGという“ビッグ・イン・ジャパン”的イメージを払拭するためと、グランジ以降の風潮に合わせたものだったのでしょうかね)。
プロデューサーとして新たにノエル・ゴールデン(TRIUMPH、NIGHT RANGER、ダフ・マッケイガンなど)を迎えた本作は、前作『BLOOD』(1993年)でのアメリカナイズされたダーク&ヘヴィ路線をさらに推し進めたもので、90年代前半のオルタナ・メタルからの影響を強く感じさせる1枚に仕上がっています。もはやデビューアルバム『BAD MOON RISING』(1991年)の頃とはまったく別のバンドです(苦笑)。
そういうこともあり、デビュー当時からのファンおよびLION時代からカル&ダグを応援してきたリスナーにとって本作は許しがたい“裏切りの1枚”だったのかもしれません。が、当時から思っていたことですが……これ、そんなに悪いアルバムでしょうか?
前作『BLOOD』ではカルの歌唱スタイルと乖離していた楽曲の方向性が修正されており、この抑揚の少ないボーカルパフォーマンスに合った楽曲がしっかり用意されている。オープニングを飾る「Belligerent Stance」なんてまさにその好例じゃないかな(どこか末期THIN LIZZY的で、それもカルのボーカルに似合っている)。ハードロック的リフメイカーとしては弱点の目立ったダグのプレイも、本作でのオルタナ・メタル的作風には絶妙にフィットしているし(グランジやオルタナ・メタルではHR/HMほど、かっちりしたアンセミックなギターリフがそこまで必要とされていませんでしたしね)。
以降も『BLOOD』でのスタイルをよりオルタナ側へと寄せることによって、もともと淡白だったカルのボーカルワークを活かすことに成功。ダグもジミ・ヘンドリクス直系のフリーキーなフレージングを活用することにより、90年代半ば前後の空気感を見事に捉えた印象深いプレイを楽しむことができる。「Into The Pit」や「Free」のような楽曲なんて、このタイミングじゃなか生まれなかったであろう異色作ではあるものの、非常にマッチしているんですよね。
『BAD MOON RISING』はLION時代に果たせなかった目的を消化するための「延長戦」であり、『BLOOD』は次のスタートへ向かう上での処女作、そして今作はメンバーが固定されようやく到達できたデビュー作だった。そう考えると、このアルバムがこういう内容になったのも納得いくのではないでしょうか(いや、古くからのファンにはそんなことまったくないかな)。一般的には駄作扱いの本作ですが、今も昔も変わらず愛聴できる「90年代半ばを象徴する」1枚です。
なお、先にも書いたように本作は日本盤とUS盤とで収録内容、曲順がまったく異なります。個人的には日本盤の収録内容および曲順がもっとも馴染む仕上がりではないかなと思っているので、これから購入する方にはぜひこちらをオススメします(残念ながらSpotifyなどストリーミングサービス未配信なので、中古CDショップで探してみてください)。
▼BAD MOON RISING『OPIUM FOR THE MASSES』
(amazon:国内盤CD(オリジナルエディション) / 国内盤CD(USエディション) / 海外盤CD)