BLACK SABBATH『THE ETERNAL IDOL』(1987)
1987年11月23日にリリースされたBLACK SABBATHの13thアルバム。
前作『SEVENTH STAR』を伴う北米/イギリスツアーを終え、1986年後半かられっきとしたサバスの新作制作に取り掛かったトニー・アイオミ(G)。グレン・ヒューズ(Vo)の代役としてツアーをサポートしたレイ・ギラン(Vo/BADLANDS)や、前作のレコーディング&ツアーにも参加したデイヴ・スピッツ(B/ex.WHITE LION、ex.IMPELLITTERIなど)、エリック・シンガー(Dr/KISS、ex.GARY MOORE、ex.ALICE COOPERなど)、そしてお馴染みジェフ・ニコルス(Key)という布陣で楽曲制作に臨もうとするも、デイヴ・スピッツが早々に脱退。代わりにボブ・デイズリー(B/ex.RAINBOW、ex.OZZY OSBOURNEなど)が加わり作業を続けるのですが、今度はレイ・ギランが解雇されてしまいます。結果、レイはサバスに参加しながらも1曲として正式なスタジオ音源を残すことなくバンドを去るのでした。
難航した後任シンガー探しですが、新たにトニー・マーティンという逸材を発掘。しかし、ボブ・デイズリーもレコーディング終了後にバンドを離脱してしまい、最後の最後まで不安定な状態のままアルバムは完成に至ります。
ディオ期のスタイルを再追求しようとしたアイオミですが、それはほぼ成功したと言っても過言ではないでしょう。ディオほどのアクはないものの、声質が彼に近いこともあり、また新人とは思えぬほどの歌唱力と相まって、いかにも“らしい”世界観を構築しています。楽曲自体の出来も良く、仰々しいアレンジのオープニングトラック「The Shining」を筆頭に、アグレッシヴな「Hard Life To Love」や「Lost Forever」、王道サバス的なドラマチックさが際立つタイトルトラック「Eternal Idol」など、ディオ期の2作品(『HEAVEN AND HELL』、『MOB RULES』)を好むリスナーなら文句なしに受け入れられるはず。いや、その延長線でより進化した第2期サバスを存分に楽しめることでしょう。
しかし、そういった完成度とは相反し、チャート的には大失敗。本国イギリスでは初めてTOP30入りを逃し(最高66位)、アメリカでは初めて100位内にも入りませんでした(最高168位)。1987年というとBON JOVI、DEF LEPPARD、WHITESNAKE、GUNS N' ROSESなどHR/HM勢が大ヒットを飛ばした大きな転換期。サバスのようなオリジネーターに注目が集まってもおかしくないはずなのですが、どうやら世間が求めるHR/HMとは違っていたのかもしれません(それ以上に、ほぼ無名のフロントマンが加わったことで注目度が落ちたということもあるのでしょう)。
とはいえ、現在までオジー・オズボーンに次いで在籍期間の長いフロントマンはこのトニー・マーティン。参加作品数もオジーの9枚に次ぐ5枚と、本来ならバンドの顔(のひとり)と断言してもおかしくないのですが、いかんせんオジーとディオの存在感&功績が大きすぎて……。ホント、かわいそうな人だよなあ……。
なお、本作のデラックスエディションにはレイ・ギラン在籍時のデモ音源を収録。インスト曲「Scarlet Pimpernel」以外の全8曲を(デモ音質とはいえ)彼のボーカルで楽しむことができます。これ聴いちゃうと、ボーカリストとしての存在感はトニーよりもレイなんだよなあ……ここでも残念な結果に。いや、トニーが本領発揮するのは次作からですので!
ちなみに、本作のツアーが始まる頃にはエリック・シンガーもバンドを離れ、新たにジョー・バート(B)&テリー・チャイムズ(Dr/ex.THE CLASH、ex.THE HEARTBREAKERSなど)が参加することに。その後、本作のセールス的大失敗を理由に、バンドはデビュー時から在籍してきたVertigo Records(英)およびWarner Bros.(米)との契約を終了こととなります。サバスにとっては、この時期がもっとも暗黒期と言えるかもしれませんね。
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