IBARAKI『RASHOMON』(2022)
2022年5月6日にリリースされたIBARAKIの1stアルバム。
IBARAKIはTRIVIUMのフロントマン、マシュー・キイチ・ヒーフィー(Vo, G)によるブラックメタル主体のソロプロジェクト。このブラックメタルプロジェクト自体は10年ほど前から構想があったそうで、当時はMRITYUというプロジェクト名でノルウェースタイルのブラックメタルを表現しようとしていたんだとか。ところが、ノルウェーブラックメタルの当事者であったイーサーン(EMPEROR)に助言を求めたところ、「ノルウェー人でない君が、ノルウェーのスタイルをやる必要はない」というアドバイスを受けたことで、マシュー自身のルーツでもある日本にスポットを当てた形での創作活動に着手することを決意したんだそうです。
プロジェクト名のIBARAKIは「茨城」や「茨木」ではなく、「茨鬼」を表します。これは平安時代に京都を荒らし回ったとされる鬼の中にいた茨木童子(いばらきどうじ)を指し示し、アルバムタイトルの『RASHOMON』はそのものズバリ「羅生門」を意味するワード。全10曲におよぶ収録曲は、インストの1曲目を除くすべてが英詞で歌われていますが、タイトル自体は「儚き必然」「迦具土」「茨木童子」「地獄太夫」「魂の崩壊」「悪夢」「木漏れ日」「浪人」「須佐之男命」「海賊」とすべて日本語。かつてTRIVIUMとして『SHOGUN(将軍)』(2008年)というアルバムを発表し、その中に「Kirisute Gomen(斬り捨て御免)」という楽曲も含まれていましたが、今回は奇を衒った日本語詞も含まれていないようです。
プロデュースを手がけたのは、先に登場したイーサーン。彼は「Tamashii No Houkai」「Akumu」でコライトを務めたほか、「Tamashii No Houkai」「Rōnin」でリードギター、「Susanoo No Mikoto」ではボーカルも披露しています。また、レコーディングにはコリィ・ビューリュー(G)、パオロ・グレゴリート(B)、アレックス・ベント(Dr)といったTRIVIUMの面々のほか、「Akumu」にはネルガル(Vo/BEHEMOTH)、「Rōnin」にはジェラルド・ウェイ(Vo/MY CHEMICHAL ROMANCE)といった豪華ゲストも参加しています。
アルバム自体は完全なるブラックメタルというよりは、マシューなりにブラックメタルを解釈したダークサイド強調のヘヴィメタルといった印象。随所にブラックメタル的アプローチやブルータルなテイストを楽しむことができますが、それと同じくらいメランコリックなクリーンパートも用意されており、そのバランス感含めさすがTRIVIUMのフロントマンといったところでしょうか。ぶっちゃけ、ブラックメタル度の高さを求めて触れると面食らうかもしれませんが、TRIVIUMのリスナーや幅広くヘヴィメタルを愛聴する方なら安心して楽しめる1枚だと思います。
壮大かつドラマチックなオーケストレーションやプログロック的な曲構成は間違いなくイーサーンによる功績が大きいでしょうし、そこにスリリングな王道メタルの要素と日本的情緒に満ちたメロディが備わっているのは確実にマシューならでは。つまり、どちらか一方だけではダメな、奇跡的なバランスのもとに生まれた1枚と言えるでしょう。そこにネルガルやジェラルド・ウェイといったバラエティ豊かなフィーチャリングゲストが加わることで、ブラックメタル中心に活動しているアーティストには真似できないカラーが生まれている。まさにオリジナティに満ちた傑作メタルアルバムではないでしょうか。
個人的にはこれをブラックメタルと呼ぶのはちょっと違う気もしますし、むしろブラックメタルを下地に新たなエクストリームメタルを完成させたと言ったほうが正しいと思うのですが、いかがでしょう。まあ最終的には、聴いた人が判断すればいいだけの話ですよね。内容自体は完璧すぎるくらいによく出来た1枚なので、メタルやラウドな音楽を愛聴する方々には真っ先に触れていただきたいです。
▼IBARAKI『RASHOMON』
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