BELLE & SEBASTIANの約3年半振り通算5作目(サントラ盤を除く)となるアルバム『DEAR CATASTROPHE WAITRESS』は、いろんな意味で注目される1枚となっています。まず、このバンドの顔のひとつであるイザベル・キャンベルの脱退後初のアルバムであること。次に、レーベル移籍(かの「ROUGH TRADE」に移籍。アメリカでも「MATADOR」から「SANCTUARY」へ移籍)後初の作品集であること。最後に、今作のプロデューサーとしてトレヴァー・ホーン(古くはART OF NOISE、最近ではt.A.T.u.で有名)を迎えていること。こういったいろんな要素が複雑に絡まって、多くの人の興味を惹き付けることに成功しています。だってさ俺、今までベルセバって全然聴いてこなかった人なんだもん。いや、数曲は知ってるけど、自分でアルバム買ってまで聴こうとは思わなかったのね。その程度の知識・認識なわけ。
で、そんな人間が聴く「初めてのベルセバ」なわけですが、普通にいいアルバムだと思いました。確かにイザベル嬢の声はここにはありませんが、バンドのブレインであるスチュワート・マードックがそこにいる限り、特に問題はないようです。勿論、欠けたものを埋め合わせるためにいろいろな変化は仕方ないでしょう。むしろそういったマイナス要素を切っ掛けに、変化を遂げるには絶好のチャンスだったのかもしれませんね。そこにレーベル移籍や外部プロデューサー(しかも超大物)起用という別の切っ掛けがあった。バンドとしてステップアップするのに、丁度いい時期にきていたんでしょう。
しかし自分が以前から抱いていたイメージと、それ程大きな違いは感じられないんですよね、このアルバムでのベルセバのサウンド。勿論、ちゃんと聴いてきた人間ではないので、正確には「とんでもない!こんなに変わっちゃったじゃんか!!」って言われる可能性大なんですが、少なくとも自分の中に出来上がっていた「ベルセバ像」を壊してしまうような、駄目な変化はしてないように感じました。むしろ、全体的にメジャー感が増し、ゴージャスになったような気がしますね。何というか、イギリス人による穏やかなパーティーを見てるような、そんなイメージ。アルバムを聴いてるとそんな紳士的な空気がひしひしと伝わってくるようで、聴いてるこっちまで顔がほころんでしまう、そんな作品ですよね。
また、ベルセバというとネオアコ的なイメージも持ち合わせていたと思うんですが、確かにその延長線上にある作風なんですが、今回のアルバムでは曲によって打ち込みを導入していたりして、「おおっ!?」と唸ってしまうアレンジがあったりで、その辺も環境の変化がもたらした意欲から来るものなんでしょうかね。個人的には適度な導入だったこともあって、アルバムの良いアクセントになってると思います。ま、そんな気にする程なものではないと思うので‥‥全体的には生音や歌を重視したバンドサウンドですしね。
トレヴァー・ホーンが手掛けたことによる変化‥‥例えば彼がこれまでに手掛けてきたようなエレクトロニック系サウンドをイメージしてこのアルバムと接すると、意外なまでに彼の「色」が感じられないんですよね。勿論既にスチュワートという中心人物がいるわけですから、トレヴァーは全体の雰囲気作り程度でいいのかもしれません。司令塔はあくまでスチュワートであり、そのお膳立てをしたり最後の仕上げをしたりするのがトレヴァー。そんな関係性だったのかもしれませんね。勿論憶測ですけど。それくらい、過去のトレヴァーの仕事と比べると異色作なんですよ。
多分古くから彼等を知るファンからすると、今回の変化(脱退や大物プロデューサー起用、音楽性の変化等)は非常に大きな影を落としているのかもしれません。が、個人的にはこのアルバムを気に入っているので‥‥そういった人とは意見が違うかもしれませんね。アルバム全体に漂うブリティッシュ臭、ネオアコ臭、ギターポップ臭、等々、どれもが自分的に好みであり、この人間臭さがたまらないんですよね。その割りにそこまで癖が強いわけでもない(多分この辺がトレヴァーによる功績なのかも)。けど癖になる、スルメ的アルバムですな。来年の今頃も、そして数年先もこれを聴いてる自信がありますよ。それくらい普遍的なポップ・アルバム。だから最高傑作とかそういう言い方はしません。普通に受け入れられるべき作品。決して孤高の作品とかではなく、ね。
▼BELLE & SEBASTIAN『DEAR CATASTROPHE WAITRESS』
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