TOM MORELLO『THE ATLAS UNDERGROUND FLOOD』(2021)
2021年12月3日にデジタルリリースされたトム・モレロの、ソロ名義では3作目のオリジナルアルバム。海外でのフィジカルリリースは2022年1月7日、日本では同年1月26日発売予定。
2021年10月15日に『THE ATLAS UNDERGROUND FIRE』を発表したばかりのトムですが、そこから1ヶ月強で届け届けられた本作は『THE ATLAS UNDERGROUND』(2018年)からスタートした“THE ATLAS UNDERGROUND”シリーズの第3弾。過去2作同様、すべての楽曲に異なるコラボレーターをフィーチャーし、楽曲ごとに異なる世界観/音楽性を展開してたコンピレーションアルバム/プレイリスト風な内容に仕上げられています。
前作『THE ATLAS UNDERGROUND FIRE』ではブルース・スプリングスティーンやエディ・ヴェダー(PEARL JAM)、BRING ME THE HORIZON、デニス・リクセゼン(REFUSED)など比較的派手なロックスターも多数フィーチャーしていたものの、今作はロック度は比較的低め。HR/HM層に引っかかるメンツといえば「I Have Seen The Way」でのアレックス・ライフソン(G/RUSH)、カーク・ハメット(G/METALLICA)程度でしょうか。もちろん、それ以外にもベン・ハーパーを迎えた「Raising Hell」やRODRIGO Y GABRIELA参加のWarrior Spirit」、元SOMETHING CORPORATEのシンガー、アンドリュー・マクマホン(Vo)率いるANDREW McMAHON IN THE WILDERNESSとのコラボ曲「The Maze」、IDLES参加の「The Bachelor」なども用意されているので、幅広くロックを聴くリスナーなら文句なしで楽しめる内容かと思います。
序盤の2曲(「A Radical In The Family」「Human」)ではいわゆるモダンポップに接近した作風で、ロックのロの字も感じられないものの、続く3曲目「Hard Times」では多くのファンがトムに求めるスタイル(いわゆるRAGE AGAINST THE MACHINE的なもの)に近い音/曲調が飛び込んでくるので、少しは安心できるはず。とはいえ、過去2作同様ジャンルレスなアルバムなので、ロックやハードロック的な側面だけを求める層には今作も厳しい内容と言えるかもしれません。そこだけははっきり言っておきます。
筆者的にはこの“音のごった煮感”は非常に楽しめるものなので、過去作同様に文句なしに楽しめるものがあるのですが、前作のレビューでも述べたようにトムはギタリストというよりはソングライターに徹している節があり、彼の変態的ギタープレイはそこまで多くフィーチャーされていません。「I Have Seen The Way」のように世代の異なる名ギタリストたちとのギターバトルが楽しめる曲や「Ride At Dawn」みたいにリフのカッコいい曲もあるにはありますが、「You'll Get Yours」のようにアコギメインの楽曲もあれば、「The Lost Cause」や「Parallels」を筆頭とした歌中心の楽曲もある。要は、ひとつのスタイル/音楽性に固執するリスナーには少々厳しい内容であり、ジャンル問わず“音楽”を楽しめる層にはカラフルに映るバラエティ豊かな1枚である、と。聴き手の立ち位置の違いにより、評価が分かれるアルバムと言えるでしょう。
個人的には、今回も十分に満足できる内容であり、それこそ先に書いたようにプレイリスト感覚で気軽に接することができる良作だと思っています。
さまざまなコラボレーターと共作することで、ソングライターとしての実力/個性に磨きをかけているトムですが、この実験は今後も“THE ATLAS UNDERGROUND”という名の下に続いていくことになるのでしょうか。もちろんHR/HM界隈にこだわる必要はありませんが、今後も若手/ベテラン問わずジャンルレスな面々とのコラボに期待しつつ、時には豪快なギタープレイも披露していただきたいところです。
▼TOM MORELLO『THE ATLAS UNDERGROUND FLOOD』
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