また、〈We can build a different world(俺たちは新しい世界を築くことができるんだ)〉や〈My patience is wearing thin(俺の忍耐力は薄れている)〉といった繰り返されるフレーズ、どこか神話性や神秘性が強い歌詞なども印象的で、いずれリリースされるアルバムを通してどんなことを伝えたいのか、表現したいのかも気になるところです。
気になる内訳のうち、差し替えになったのがM-3「Systematic」。こちらはラウ・レイノルズ(Vo/ENTER SHIKARI)のラップをフィーチャーした新バージョンに変更され、これはこれでカッコいい仕上がり。もともと本作、「Nervous」にはサイモン・ニール(Vo/BIFFY CLYRO)、「No Defeat For The Brave」にはデリック・ウィブリー(Vo/SUM 41)がそれぞれゲスト参加していたので、より豪華さが増しましたね。
また、新たに追加されたトラックのうち「Eye To Eye」「The Enemy Is The Inner Me」「Fakers Plague」「The Long Way Home」の4曲がアルバム未収録だったナンバー。このうち「Fakers Plague」は2019年12月にデジタルリリース済みだった1曲で、前作『SO WHAT?』(2019年)発売後に配信された楽曲なので、マインド的には前作寄りなんじゃないかと思ったら今作側だったんですね。
「Eye To Eye」はこのリパッケージ盤からのリード曲ですが、キャッチーなシンガロングパートを含むアップテンポのモダンメタルチューン。『SLEEPS SOCIETY』オリジナル盤にはなかったタイプで、今作の印象を良い意味で変えてくれる効果を持つ1曲です。一方、「The Enemy Is The Inner Me」は適度なデジタルテイストを含むキャッチーなナンバー。路線的にはアルバムの流れを汲むものですが、方向性的にはさらに一歩踏み込んだ感があるのでは。そして、「The Long Way Home」はヒップホップやエレクトロニカの影響下にあるチルナンバー。アルバムではひとつ前に置かれた「Fakers Plague」が同じくデジタル色の強い方向性だけに、この流れは非常に良いのではないでしょうか。さらにその前に配置されたタイトルトラック「Sleeps Society」からの3連続で、このバンドが新たに放つ強烈さが増幅される結果になっていますしね。
そして、「The Long Way Home」に続くのがもうひとつの新録曲「You Are All You Need (Acoustic)」。M-2に配置された楽曲の別バージョンですが、同じ“静”でもエレクトロニカからアコースティックへと流れる構成は非常に興味深いものがあり、これはかなり良いのではないでしょうか。ハーモニー/コーラスワークを強調したアレンジも好印象ですし。これがあるから、最後の2曲(「Call Of The Void (feat. Sleeps Society)」「DN3 3HT(The End)」がより活きていますし。
2021年に発表したものの、同作を携えたツアーが思うように行うことができず、1年前よりも状況が好転し始めたこのタイミングに新曲を追加してアルバムをもう一度プロモーションしよう、というアイデア自体はいろんなバンドが試みています。WHILE SHE SLEEPSの今作も同様なのですが、彼らの場合バンドが昨年の時点で挑戦した新規軸がちゃんと伝わり切らなかったので、このリパッケージ盤は彼らの変化をよりわかりやすい形で伝えるという意味でも好企画なんじゃないかと思います。全16曲/67分とかなり長尺な作品になってしまいましたが(オリジナル盤は約44分でしたしね)、アルバム自体の印象はより良くなった気がしています。
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前作が“陽”であれば、今作は“陰”。また、前作が“Before”であれば、今作は“After”というように、2枚は表裏一体の関係。当初は前作から漏れた楽曲を完成させるつもりでスタジオに入ったそうですが、セッションを重ねる中でアイデアが膨らんでいき、結果として『A CELEBRATION OF ENDINGS』の“先”にあるものが形となったようですね。
M-1. Enter Sandman [6組] M-2. Sad But True [7組] M-3. Holier Than Thou [6組] M-4. The Unforgiven [6組] M-5. Wherever I May Roam [4組] M-6. Don't Tread On Me [3組/うち1組はM-8との組曲] M-7. Throught The Never [2組] M-8. Nothing Elese Matters [13組/うち1組はM-6との組曲] M-9. Of Wolf And Man [1組] M-10. The God That Failed [2組] M-11. My Friend Of Misery [3組] M-12. The Struggle Within [1組]
「Sad But True」はリズムがシンプルなので、意外といじりがいがあるのかな。サム・フェンダーのピアノバラード風アレンジも良いし、JASON ISBELL AND THE 400 UNITのブルースロック風も良き。MEXICAN INSTITUTE OF SOUNDもラテンアレンジも、ST. VINCENTの70年代中盤ボウイ風もよかった。
……と細々解説していったらキリがないので、以下はお気に入りのカバーのみ挙げていきます。サイケデリックメタル調に再構築したBIFFY CLYROの「Holier Than Thou」、ゴシック風オルタナロックのCAGE THE ELEPHANT「The Unforgiven」、サイケなヒップホップに進化したJ.バルヴィン「Wherever I May Roam」、ドラムンベース調リミックスのTHE NEPTUNES「Wherever I May Roam」、不穏なピアノの音色にゾクゾクするPORTUGAL. THE MAN「Don't Tread On Me」、メロディを独自に解釈し浮遊感の強いクラブミュージックとミックスさせたトミ・オウォ「Through The Never」、エルトン・ジョンやヨーヨー・マ、ロバート・トゥルヒーヨ、チャド・スミスをバックに従えたマイリー・サイラスの正統派パワーバラード「Nothing Else Matters」、悲しみに満ちた鎮魂歌風のデイヴ・ガーン(DEPECHE MODE)「Nothing Else Matters」、逆にメジャーキーに転調したことでパワーポップ風に生まれ変わったMY MORNING JACKET「Nothing Else Matters」、このバージョンで本家にもカバーしてほしいGOODNIGHT, TEXASのオルタナカントリー風「Of Wolf And Man」、スリリングな演奏が心地よいカマシ・ワシントン「My Friend Of Misery」、アコギ2本のみで構築されるインストアレンジがさすがのRODRIGO Y GABRIELA「Struggle Within」……といったところでしょうか。
バンド最大のヒット作となった5thアルバム『ONLY REVOLUTIONS』(2009年)から約3年2ヶ月ぶりに発表された今作は、初のCD2枚組/全20曲(デラックス盤は22曲)というボリューミーな内容。にもかかわらず全英1位を獲得し、「Black Chandelier」(全英14位)、「Biblical」(同70位)、「Opposite」(同49位)、「Victory Over The Sun」(同152位)というヒットシングルを続発させました。シングルはチャート的には小粒ですが、それでもロックが低迷しつつあった2010年代半ばにしては大健闘ではないでしょうか。
各ディスクはそれぞれ『THE SAND AT THE CORE OF OUR BONES』(DISC 1)、『THE LAND AT THE END OF OUR TOES』(DISC 2)と韻を踏んだサブタイトルが付けられており、1枚1枚を独立したアルバムとして楽しむことも可能です。ちなみに本作、2枚のディスクに収録された20曲から厳選した14曲で構成されたCD1枚ものの編集版も用意されているので、購入する際はご注意を。
『THE SAND AT THE CORE OF OUR BONES』はゆらゆらとしたオープニングから一気にギアが入る「Different People」で幕開け。以降は「Black Chandelier」などいかにも彼ららしいポップ&キャッチーなミディアムナンバーで独特の世界観を構築していきます。前作で確立させたBIFFY CLYROらしい個性が見事な形で拡張されており、フォローアップ作としては文句なしと言えるのではないでしょうか。
一方で、DISC 2『THE LAND AT THE END OF OUR TOES』はヘヴィなリフを持つ「Stingin' Belle」から幕開け。オープニングで慄くものの、歌が入ればいつもどおりの彼ららしいポップさ全開なので、ご心配なく。また、このディスクのみならず全編を通して散りばめられたストリングスアレンジは、前作から引き続きデヴィッド・キャンベル(ベックの実父)が担当。特に今回は「Stingin' Belle」でバグパイク、「Spanish Radio」でブラスなどもフィーチャーされており、音的な広がりは前作以上ではないかと思っています。
前作『PUZZLE』(2007年)が初の全英1位を獲得し、名実ともに英国を代表するロックバンドの仲間入りを果たしたBIFFY CLYRO。続く今作は1位こそ逃すものの全英2位まで上昇し、初のダブルプラチナムを達成。現在までバンドの最高売り上げを記録する代表作として知られます。また、本作からは「Mountains」(全英5位)、「That Golden Rules」(同10位)、「The Captain」(同17位)、「Many Of Horror」(同8位)、「Bubbles」(同34位)、「God And Satan」(同36位)と6枚ものヒットシングルが生まれています。
プロデューサーにガース・リチャードソン(RAGE AGAINST THE MACHINE、MELVINS、SKUNK ANANSIEなど)、ミキサーにアンディ・ウォレス(NIRVANA、SLAYER、HELMETなど)という布陣は前作から引き続き。要所要所にストリングスをフィーチャーした豪快さやスリリングさを強要したアレンジが魅力的なのもこれまで同様。ただ、前作と大きく異なるのは1曲1曲の完成度がさらに高まっている点で、それが先に触れた数々のシングルヒットにつながっているし、またアルバムとして通して聴いたときもその1曲1曲の高品質さが相乗効果を起こし、結果アルバムとしてのまとまりの良さに一役買っている。そりゃ売れるわけですよ。
本作ではジュシュア・ホーミー(QUEENS OF THE STONE AGE)が「Bubbles」でギターにてゲスト参加。ストリングスアレンジではかのデヴィッド・キャンベル(かのベックの実父)が主導権を握り、「The Captain」や「Many Of Horror」のような楽曲でダイナミックさを強調しています。この繊細さが備わったアレンジこそ彼らの醍醐味であり、アメリカのFOO FIGHTERSとは一線を画する点ではないでしょうか(フーファイもそういったトライを何度もしていますが、正直ここまで武器にはしていませんし)。
「Booooom, Blast & Ruin」や「Cloud Of Stink」のようなアップチューンも存在しますが、むしろ彼らの魅力は大らかなノリを持つミディアムナンバー。アルバムの冒頭を「The Captain」のような楽曲が飾る時点で、彼らの余裕が伝わるのではないでしょうか(そこも前作『PUZZLE』との大きな違いで、今作で得た自信が今後のスタイルに大きくつながっていくわけですね)。
バンドは昨年からPatreon.comというプラットフォームを通じて、「Sleeps Society」と呼ばれるサブスクリプションサービス型ファンコミュニティを開始。アルバムはこのサービス名と同名で、収録曲「Call Of The Void」にはこのサービスの会員による歌声もフィーチャーしています。さらに、「Nervous」にはサイモン・ニール(Vo/BIFFY CLYRO)、「No Defeat For The Brave」にはデリック・ウィブリー(Vo/SUM 41)がそれぞれゲスト参加。BIFFY CLYROのニール、最近はARCHITECTSの新作『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021年)にも参加していたけど、交友関係広いのね。
さて、先にも書いたように本作は非常にバランス感が絶妙な内容で、冒頭2曲でヘヴィさを強調したかと思えば、ハードテクノのようなデジタルリフが気持ち良い「Systematic」があったり、「Nervous」や「Know Your Worth (Somebody)」などではキャッチーなメロディで親しみやすさを与える。また、「No Defeat For The Brave」ではオーケストレーションも取り入れ壮大さをアピールし、異色のピアノバラード「Division Street」はまるで賛美歌のように聴こえる。UKメタルコアの美味しいとこ採りでバラエティ豊かな内容なんだけど、散漫さは皆無。しっかり芯が存在し、かつ豪快さの中にも適度な甘さが散りばめられており、聴いていてまったく疲れないんですよ。
オリジナルアルバムとしては前作『ELLIPSIS』(2016年)からほぼ4年ぶりとなりますが、その間にアコースティックライブアルバム『MTV UNPLUGGED: LIVE AT ROUNDHOUSE, LONDON』(2018年)、映画のサウンドトラックアルバム『BALANCE, NOT SYMMETRY』(2019年)を立て続けに発表しているので、何気に久しぶりという感覚はないかも。とはいえ、最後に来日したのが『ELLIPSIS』リリース直後の『FUJI ROCK FESTIVAL '16』なので、日本のファン的にはだいぶ長いことご無沙汰しました感があるんですけどね。
4年というスパンも過去最長。そんな「満を辞して」感の強い本作は、前作から引き続きリッチー・コスティー(AT THE DRIVE-IN、MUSE、MY CHEMICAL ROMANCEなど)がプロデュースを担当。以前も書いたように「UK版FOO FIGHTERS」(本当はスコットランド出身)という形容がぴったりなアリーナ/スタジアムロックを展開しており、そのダイナミズムに関しては若干穏やかだった前作以上ではないでしょうか。
それまで名門インディレーベルBeggars Banquetから3作のアルバムを発表してきた彼らですが、チャート的にはTOP50に入るのが精一杯。ところが、Roadrunner Records移籍第1弾アルバムに当たる今作は、全英2位という大成功を収め、「Saturday Superhouse」(全英13位)、「Living Is A Problem Because Everything Dies」(同19位)、「Folding Stars」(同18位)、「Machines」(同29位)、「Who's Got A Match?」(同27位)と計5作ものシングルヒットを生み出すことになります。
プロデューサーにガース・リチャードソン(RAGE AGAINST THE MACHINE、MELVINS、SKUNK ANANSIEなど)、ミキサーにアンディ・ウォレス(NIRVANA、SLAYER、HELMETなど)というアメリカでの売れっ子を起用した本作は、文字通りワールドワイドな活躍を目標として制作された1枚。アートワークなんて、かのストーム・ソーガソンですからね。ポスト・グランジ的手法のハードロックサウンドをベースに、時にエモ、時に古典的ブリティッシュロック、時にプログレ、時に正統派ポップスなど、さまざまな要素を器用に取り入れることで、ひとつの枠に収まりきらない変幻自在なサウンドを繰り出しています。
まあ、このアルバムはオープニングの「Living Is A Problem Because Everything Dies」を聴いた時点で「優勝!」と思わずにはいられないのでは。ストリングスをフィーチャーしたスリリングなイントロといい、オペラ調のコーラスを散りばめたアレンジといい、そのあとに続く疾走感の強いハードロックサウンドといい、キャッチーな歌メロといい、すべてが高品質で緻密に作り込まれているわけです。