2003/11/21

Björk『VESPERTINE』(2001)

ビョークが2001年8月にリリースした、通算4作目のオリジナルアルバム(映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』サントラである『SELMA SONGS』は除く)『VESPERTINE』。常に音楽シーンの最先端にいるアーティスト/DJとのコラボレートで作品を生みだしてきた彼女、今回のアルバムでも非常に現代的で先鋭的作風にも関わらず、彼女らしい癒し要素も十分に収めたアルバムになっています。

今回のアルバム、一言で表現すればエレクトロニカでしょう。時代背景的に考えると、ロックシーンからRADIOHEADが2000年秋に『KID A』という異形作品が誕生し、彼等がメディア上でAUTECHRE等といったエレクトロニカ系アーティストの名前を挙げ、シーンの中でもどんどんとその名前が知られるようになっていったジャンル。RADIOHEADの成功から、後続達は段々とそういった新しい音を自身のサウンドに取り込もうと試行錯誤しますが、上手くいった例はあまり見受けられませんでした。完全に借り物か、あるいは別の何か‥‥アンタがそんなことしなくてもいいじゃない?というような代物ばかり。そういった中登場したのがこのアルバムでした。

ただエレクトロニカを導入するのではなく、彼女なりのオリジナリティを存分に味わうことができるという意味で、このアルバムは特別なのではないでしょうか。神経症を引き出しそうな電子的なノイズと共に鳴らされる、温かみを持つストリングス等の生音。内へ、内へと向かっていく、夢か現実か判断がつかなくなる世界観。そういった相反する世界を繋ぐのが、ビョークの歌声。見事に「ひとつの世界」として成立しているのはさすがとしか言いようがありません。勿論それらの成功の影には、新たに彼女を支えるMATOMOSやOPIATEといった新鋭アーティスト達の存在や、これまでも彼女を支えてきたガイ・シグスワークやマーク・スパイク・ステントといった人達の支えがあるわけですが。決して前作の焼き直しにならず、それでいて「流行モノを真似てみました」的なイタイ作品でも終わらず、時代を象徴するような作品を提示できるのは、彼女にもの凄い才能があるか、バックを支える人達に先見の明があるか、そのどちらかでしょうね(そして恐らく、その両方を持ち合わせているのが「Björk」というプロジェクト・チームなのかもしれませんね)。

けどね。正直に白状しておくと俺、このアルバムを最初に聴いた時、ピンとこなかったのね。もっと言えば「あぁ、これまでみたいに愛聴すること、出来ないかも」って、1回聴いて暫く放ったらかしにしてたんですわ。だからアルバムリリース後に彼女が来日した際(1万近くものチケット料金で、どこかの教会みたいな会場でライヴやったんでしたっけ?)にも全然行きたいと思えなくて。何というか、これまでの彼女から感じられたエナジーみたいなもの(例えば『SELMA SONGS』で聴けたような「心の叫び」のような歌声)が殆ど感じられず、終始抑え気味‥‥ぬるま湯のような世界観が約1時間も続くことに、当時の自分は何故か耐えられなかったんですよ。今聴くと「何でそう思った/感じたんだろう?」って思うんですけどねぇ。サウンドとかメッチャ好みなんですけどね。多分聴いた時の自身の精神状態とか体調とか、そういったものも影響してたんでしょうけど、当時の自分には「痛すぎる」作品だったんでしょうね、いろんな意味で。『KID A』っていうのもいろんな意味で「目を背けたくなる」アルバムでしたが、この「VESPERTINE」はもっと違った意味で「痛く」響いたんでしょうね‥‥ま、ここから先は当時自分に何があったかといったような独白モードになってしまいそうなので、その辺は省きますが。

今年のフジロックにて、彼女はようやくこのアルバムを引っ提げた本格的なライヴを披露しました(本来ならアルバムリリース翌年の2002年夏のフジロックに出演予定だったのですが、同年春に妊娠が発覚、出演をキャンセルした経緯があります)。当然俺も最初はビョークを観るつもりでいました。が、改めてこのアルバムを何度か聴いているうちに‥‥これは数万人もの「他者」とは共有したくないサウンドだな、と感じるようになり、結局当日は数曲確認した後に別のライヴを観に行ってしまったのでした。

つまりは、そういうアルバムなんです、俺にとって。非常に表現し難いですが‥‥静かな夜中に、そんなに大きくない音で鳴らされ、部屋でひとりで聴く。それが俺にとっての『VESPERTINE』かな、と。勿論「絶対にそんなことはない!」という人がいるのも判ってますし、誰に同意を求めようとは思いませんが、個人的にはそういう風に響くアルバムです。そして、そんなふうに「人によっていろんな響き方をする」アルバムだからこそ、ビョークは凄いなと改めて思うのです。



Björk『VESPERTINE』
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投稿: 2003 11 21 12:00 午前 [2001年の作品, Björk] | 固定リンク