カテゴリー「Black Label Society」の13件の記事

2023年4月 6日 (木)

LOUD PARK 23@幕張メッセ(2023年3月26日)

Img_67992017年を最後に開催がストップしていたメタルの祭典『LOUD PARK』。2019年からは『DOWNLOAD JAPAN』に形を変えて春開催に仕切り直されたものの、翌2020年以降コロナ禍の影響で実現ままならぬ状態が続きました。そして、2022年夏にかろうじて二度目の『DOWNLOAD JAPAN』が行われたものの、2023年はいろいろな大人の事情で『LOUD PARK』が限定復活。本来なら秋開催だったラウパーも、『DOWNLOAD JAPAN』の通例に倣って3月末に実施されることとなりました。

しかも、当初から決まっていた『KNOTFEST JAPAN』の前週に、1日のみ(大阪/東京の連日開催)。開催決定はうれしかったものの、そのメンツが不安だったことは事実です。しかし、いきなりのPANTERAのヘッドライナーに大興奮。海外に行かないと観れないと思っていただけに、これはどんなことをしてでも会場に足を運ばねばと思い、いろんなスケジュールを調整して会場に向かいました。

ただ、連日の激務&寝不足もあり、開演の11時前に到着することは不可能に。雨がぱらつく中、入場したのはH.E.R.O.の演奏が始まってすぐのことでした。

 

H.E.R.O.
ライブは初見。知らない間にギタリストが脱退しておりトリオ編成に。しかし、小編成とは思えぬほどゴージャスさの伝わるサウンド&バンドアンサンブルに、予想外に惹きつけられました。同期を使用しているとはいえ、この音の厚みと(幕張メッセというラウド系に不向きな会場ながらも)音響の良さ、そして聴きやすい楽曲の数々に心奪われたことは特筆しておきます。クリストファー・スティアネ(Vo, G)の声質もヘヴィな音像に負けることなく、耳に届いてきましたあし。ネームバリュー的にはラウパー向きだけど、音的には『DOWNLOAD JAPAN』なのかな。メタルとは言い難いサウンド/楽曲だけど、フェスの序盤には最適な人選だと納得でした。

セットリスト
01. Gravity
02. Lead The Blind
03. Never Be The Same
04. I Hope This Changes Everything
05. This Means War
06. Made To Be Broken
07. Monster
08. Cynical
09. Dangerous
10. Superpowers
11. Oxygen

 

OUTRAGE
『DOWNLOAD JAPAN』はフロアの前後にステージを配置していましたが、今回のラウパーは例年どおり左右に2つのステージを設置。真正面から観ようとすると、毎回隣の島に移動する必要がありました。H.E.R.O.は比較的後方から眺めていましたが、OUTRAGEは真ん中あたりまで移動。前回のラウパー以来のライブ観覧だったので期待していたのですが……サウンドチェックかと思っていたTHIN LIZZY「Thunder And Lightning」が実は本編1曲目だったという、非常にユルユルしたスタートを切ります。以降も近作からのゴリゴリなハードコアチューン中心に展開。しかも、音がデカいわりに音響劣悪、ボーカル様が酔っているのかマイクをかなり離した状態で歌っていたり、謎の舞踏を交えたパフォーマンスを見せたり……あれ、こんなバンドだったっけ?と困惑。久しぶりに聴いた「In Union With Earth」もメロディラインが完全に別モノになっていましたし……。結局、定番の「My Final Day」「Megalomania」を最後に持ってくることでなんとか最後まで乗り切りましたが、本音を言えばあまり褒められたステージではなかった気がします。本編唯一の日本人枠がこれかあ……と落胆したことは記録として残しておきます。

セットリスト
01. Thunder And Lightning
02. Therritorial Dispute
03. Machete...
04. Hot Rod Immunity
05. You Care? I don't Care
06. In Union With Earth
07. Summer Rain
08. My Final Day
09. Megalomania

 

BLEED FROM WITHIN
OUTRAGEで落胆し、早くも耳が疲れてしまったこともあり、楽しみにしていたBLEED FROM WITHINは後方でまったり観覧することに。同じ爆音でも、こちらはバランスがしっかり取られており、あまり耳が疲れない(かといって音圧が足りない、刺激が足りないということもまったくない)。多弦ギターを使用していることもあってか、あの7弦の周波数が妙に心地よく響き、かつ楽曲も非常に好み。本来なら前方に移動するところを、一度腰を落としてしまったがために……あれ、眠気が……(寝てませんが)。それくらい終始気持ちよく楽しめる音でした。

セットリスト
01. I Am Damnation
02. Into Nothing
03. Pathfinder
04. Stand Down
05. Temple Of Lunacy
06. Sovereign
07. Levitate
08. The End Of All We Know

 

AMARANTHE
2019年の『DOWNLOAD JAPAN』以来のライブ観覧。というか、それ以来の来日になるのか。その間にスクリーム担当ののヘンリック・エングルンド・ヴィルヘルムソンが脱退し、この日は海外ツアー同様ゲストシンガーとしてLOST SOCIETYのサミー・エルバンナが参加していました。体格のよかったヘンリックと比べると、サミーは線が細くどこか病的に映りますが、そんなことお構いなしに激しいスクリームを響かせ存在感をアピール。エリース・リード(Vo)やニルス・モーリン(Vo)に負けず劣らずのボーカルパフォーマンスを発揮していました。披露された楽曲自体もダンサブルなEDMメタル中心で、体調さえよければ終始ダンスしていたんでしょうね。ただ、この日は心境的に心の底から楽しめなかったのが残念。健康って大事ですね。

セットリスト
01. Fearless
02. Viral
03. Digital World
04. Hunger
05. Strong
06. Helix
07. Maximize
08. Amaranthine
09. The Nexus
10. Call Out My Name
11. Archangel
12. That Song
13. Drop Dead Cynical

 

CARCASS
2バンドをまったり観覧したことで、少々体力も回復。フロア真ん中あたりまで移動して、待望のCARCASSを楽しみました。オープニングSEこそ「1985」でしたが、それに続く1曲目は新作からの「Kelly's Meat Emporium」。ライブ向きだ。カッコいいったらありゃしない。ジェフ・ウィーカー(Vo, B)も調子良さそうだし、ビル・スティア(G)のギターも気持ちよく響く。そこから「Buried Dreams」「Incarnated Solvent Abuse」の連発で早くも絶頂へ。「そうそう、これが観たかったんだよ!」眼前のパフォーマンスに体調が回復していくのが手に取るようにわかりました。「This Mortal Coil」あたりでジェフのアンプトラブルでギターの音が出なかったりもしましたが、以降は新曲を交えつつ代表曲を連発。ダン・ウィルディング(Dr)のリズムワークがとにかく心地よく、終始安定しながらも要所要所でカオティックな空気を味わうことができ、最後には「Tools Of The Trade」まで聴けて大満足の50分間でした。そりゃ、終了後に「優勝!」とツイートしたくもなりますわ。

セットリスト
01. 1985 〜 Kelly's Meat Emporium
02. Buried Dreams
03. Incarnated Solvent Abuse
04. Under the Scalpel Blade
05. This Mortal Coil
06. Tomorrow Belongs To Nobody / Death Certificate
07. Dance of Ixtab (Psychopomp & Circumstance March No. 1 On B)
08. Black Star / Keep On Rotting in the Free World
09. The Scythe's Remorseless Swing
10. Corporal Jigsore Quandary
11. Heartwork
12. Tools Of The Trade / Carneous Cacoffiny

 

STRATOVARIUS
ライフが回復したのも束の間のこと、CARCASS終了後はフロアの最後方にまで移動し、腰を下ろすどころは横になってしまう始末。そんな中、STRATOVARIUSが心地よいメロディを奏で続けてくれ……気づいたらラストの「Hunting High And Low」のイントロ。ごめんなさい(苦笑)。

セットリスト
01. Survive
02. Eagleheart
03. Stratosphere
04. Father Time
05. Paradise
06. Bass Solo
07. Frozen In Time
08. Black Diamond
09. World On Fire
10. Unbreakable
11. Hunting High And Low

 

NIGHTWISH
ストラトの流れでまだ横になっていたのですが、それほど詳しくない自分でも知ってる名曲も多く用意されたセトリに、気づいたら体を起こして聴き入っていました。病気の影響で年初に予定されていたジャパンツアーは中止になっていましたが、実はこっちに出演するためのキャンセルだったのでは?と思ってしまうほどにフローア・ヤンセン(Vo)のボーカルは冴え渡っていましたし、サウンド面含めトータルバランスが非常に優れており、初見でも存分に満喫できるステージだったと思います。今回のラウパーにおいて、個人的にもっとも大きな収穫はNIGHTWISHだったかもしれません。

セットリスト
01. Noise
02. Storytime
03. Tribal
04. Élan
05. Dark Chest Of Wonders
06. I Want My Tears Back
07. Nemo
08. Shoemaker
09. Last Ride Of The Day
10. Ghost Love Score

 

KREATOR
フレデリク・ルクレール(B)加入後初の日本公演、というか個人的には初来日の1992〜3年以来となる生KREATORでした。ミレ・ペトロッツァ(Vo, G)のヒステリックなボーカルは健在ですし、それ以上に曲間にちょいちょい挟む煽りのワードチョイスがツボすぎて、首を振るより腹を抱えて笑ってしまった。新作『HATE ÜBER ALLES』(2022年)からの楽曲は2曲ほどで、あとは新旧/緩急に富んだセットリストで観る側をまったく飽きさせない。超初期の名曲「Tormentor」がなかったのは残念ですが、それでも「Flag Of Hate」や「Pleasure To Kill」あたりをしっかり聴けたのはうれしかったな。あと、個人的名盤の前々作『GODS OF VIOLENCE』(2017年)以前の近作楽曲もライブ映えするものばかりだったので、もっと真剣に聴き込もうと思いました。PANTERA前で体力温存する予定が、しっかり暴れさせてもらいました。

セットリスト
01. Hate Über Alles
02. Hail To The Hordes
03. Awakening Of The Gods
04. Enemy Of God
05. Phobia
06. Satan Is Real
07. Hordes Of Chaos (A Necrologue For The Elite)
08. 666 - World Divided
09. Flag Of Hate
10. The Patriarch / Violent Revolution
11. Pleasure To Kill

 

PANTERA
KREATOR後半あたりからフロアの人口密度/圧縮率が急増。そうか、PANTERAだけ目当てのお客さんもそれだけ多いってことなのね。ステージが暗幕で覆われる中、フロアの雰囲気はそれ以前とは異なる異様なものに変わってることに気づき、こちらもテンションがどんどん上がっていく。そして、オープニングムービー&SEを経て、「Mouth For War」からライブがスタート! 海外では「A New Level」始まりでしたが、ここ日本から1、2曲目が入れ替わった結果、最高の幕開けになったのではないでしょうか。

ザック・ワイルド(G)は彼らしさを要所要所に滲ませつつも、基本的にはダイムバッグ・ダレルのプレイに忠実。チャーリー・ベナンテ(Dr)も同様で、変にエゴを見せることなく、あくまでダイム&ヴィニー・ポール(Dr)へのリスペクトを込めたサポートぶりで、各々の役割に徹しているように映りました。それがよかったのか、フィル・アンセルモ(Vo)もレックス・ブラウン(B)も変に気張ることなくライブに集中できていたように思います。

フロアの熱気はこの日一番といいますか、それ以前の演者とか比べものにならないほど異様なもので、「そうそう、90年代のPANETARAってこんな感じだったな」と懐かしく感じたり、一方で新鮮さが伝わってきたりと、終始なんとも言えない不思議な感覚に陥っていました。が、曲が始まるごとにそのイントロに興奮し、拳を上げて一緒に歌い暴れるのは昔と変わらず。歳はとったけど、記憶は一瞬にして過去を呼び戻してくれるんですね。

選曲的には海外公演同様で、キャリア最大のヒット作『VULGAR DISPLAY OF POWER』(1992年)と唯一の全米1位獲得作『FAR BEYOND DRIVEN』(1994年)からの楽曲が中心。ラスト作『REINVENTING THE STEEL』(2000年)からは「Yesterday Don't Mean Shit」のみで、『THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL』(1996年)に至っては完全スルー。まあそれも理解できます。今回はPANTERA“再結成”ではなく、“ダイム&ヴィニーへの敬意を込めてPANTERAナンバーを演奏する”ことがメインなのですから。

フィルの声は比較的出てるほうだったんじゃないかな。ただ、昔の来日公演同様MCでは英語でコミュニケーションを取ろうとするもリアクションが悪く、急に不機嫌さを見せたりする。その都度、日本語が話せるスタッフをステージに呼び込んで通訳させる。これも昔と一緒。ギリギリご機嫌を保てたようで安心です。

ライブは文句なしに最高でした。過去と比べるとかそういう無駄なことをせず、目の前で繰り広げられるステージを邪心なしで楽しむことができた。それで十分だと思います。あくまで1回こっきりのお祭りという認識でいたからこそ、僕自身も無邪気に楽しめたと思いますし。

きっと今年の夏くらいまでこのメンツでフェスなどに出演して、今回のプロジェクトは終了するんじゃないかな。むしろ、そうであってほしい。金儲けも大切だけど、これ以上長く続けたらフィル自身次に進めないような気もしますしね。

セットリスト
01. Mouth For War
02. A New Level
03. Strength Beyond Strength
04. Becoming / Throes Of Rejection (Outro)
05. I'm Broken / By Demons Be Driven (Outro)
06. Use My Third Arm
07. 5 Minutes Alone
08. This Love
09. Yesterday Don't Mean Shit
10. Fucking Hostile
11. Cemetary Gates (Tape Intro) / Planet Caravan
12. Walk
13. Domination / Hollow
14. Cowboys From Hell

 

■最後に
『DOWNLOAD JAPAN』あたりと比較すると、客層がかなり上だった印象。出演者的にそうなるのも致し方ないかな。それこそ、ラウパー、『DOWNLOAD JAPAN』、『KNOTFEST JAPAN』の出演者(日本人アーティスト含む)をミックスして3で割れば、もっとバランス良い客層になる気もします。そうすることが、こういったジャンルの拡大や同フェスの継続にも好影響を及ぼすと思うのですが、いかがでしょう?

2023年3月22日 (水)

BLACK LABEL SOCIETY『THE BLESSED HELLRIDE』(2003)

2003年4月22日にリリースされたBLACK LABEL SOCIETYの4thアルバム。日本盤は同年3月29日発売。

前作『1919 ETERNAL』(2002年)からほぼ1年という、非常に短いスパンで届けられたオリジナルアルバム。アメリカでは売り上げを前作の倍近くに伸ばし、初めてBillboard 200(全米アルバムチャート)入り(最高50位)を記録しました。

前作と何がそんなに違ったのでしょうか。ひとつは、ドラム以外のすべてのパートをザック・ワイルドひとりで担当したこと。ドラムのみ前作から参加したクレイグ・ニューネンマッハー(ex. CROWBAR)がプレイしているのですが、そもそも前作も3曲のみロバート・トゥルヒーヨ(現METALLICA)が参加したのみで、それ以外の曲ではザックがベースも弾いていたので、そこまで大きな変化というわけではない。そもそも、それ以前の『SONIC BREW』(1999年)『STRONGER THAN DEATH』(2000年)の時点でザックはドラム以外のパートをすべてレコーディングしていたので、これに関してはただ原点に戻っただけと言えます。

では、楽曲面が大きく変化したのか。そこに関しても、前作までの延長線上にあるものなので、そこまで変わったとは思えない。ただ、楽曲の質感に関しては一聴して粗暴に思えるものの、実は洗練され始めていることにも気付かされる。ヘヴィすぎるギターリフに圧倒されるかもしれませんが、実はアレンジもかなり手が込んだものが多く、「Suffering Overdue」でのスマートな冴え渡りぶりには驚きを隠せません。どうしても似たようなヘヴィナンバーの連発で1曲1曲の差別化に苦心しそうなジャンルですが、このアルバムにおける各曲の個性の際立ちぶりからは、前作以で得た手応えが非常に大きなものだったことが伺えます。

また、アコースティック色を強めた「The Blessed Hellride」、ダークなパワーバラード調「Blackened Waters」、アーシーでセンチメンタルなピアノバラード「Dead Meadow」といった変化球もしっかり用意。さらに、自身の師匠ともいえるオジー・オズボーンがゲスト参加した「Stillborn」といった話題性の強い楽曲も含まれており、楽曲のバラエティ豊かさや充実度は過去イチかもしれません。特段変わったことや新しいことにトライしたわけではない本作、作品を重ねるごとにバンドの軸がより強靭なものへと確立されていったからこそ、特別なことをしなくても当たり前のような傑作へと昇華させることができたわけですね。それが、売り上げやチャート成績にも反映された。そう考えると、この結果は納得といいますか、ごく当たり前の評価なのでしょう。

とにかく、この時期のザックの創作意欲は尋常じゃないものがあり、翌年春には早くも次作『HANGOVER MUSIC VOL.VI』(2004年)を発表することになります。

 


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2022年10月30日 (日)

OZZY OSBOURNE『PATIENT NUMBER 9』(2022)

2022年9月9日にリリースされたオジー・オズボーンの12thアルバム(スタジオアルバムとしては通算13作目)。

コロナ禍ということもあり、前作『ORDINARY MAN』(2020年)から約2年半という非常に短いスパンで届けられた今作。前作が10年ぶりの新作だったことを考えると、この間隔の短さは異常と思わずにはいられません。

全米3位という過去最高順位を獲得した前作に倣い、今作も引き続きアンドリュー・ワット(ポスト・マローン、ジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラスなど)がプロデュースを担当。ただ、前作がダフ・マッケイガン(B/GUNS N' ROSES)とチャド・スミス(Dr/RED HOT CHILI PEPPERS)、そしてアンドリュー(G)がベースのトラックをレコーディングにしたのに対し、今回はベースにダフ、ロバート・トゥルヒーヨ(METALLICA)、クリス・チェイニー(ex. JANE'S ADDICITIONなど)、ドラムにチャドのほかテイラー・ホーキンス(FOO FIGHTERS/本作が生前最後のレコーディング作品)が参加し、ギターのベーシックトラックもアンドリューに加えザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETY )もプレイしていることから、前作以上に“戻ってきた感”が強まっています。

また、リードギター/ギターソロに関しても曲ごとに豪華なゲストを迎えているのが本作最大の特徴。ザックが4曲でそれらしいプレイを披露しているほか、マイク・マクレディ(PEARL JAM)が1曲、BLACK SABBATH時代の盟友トニー・アイオミが2曲、60年代“3大ギタリスト”のうちの2人……ジェフ・ベックが2曲、エリック・クラプトンが1曲にゲスト参加と、ツアーが行えず固定バンドを持たない今のタイミングならではのバラエティ豊かな布陣が華を添えています。

楽曲の指向自体は『ORDINARY MAN』の延長線上にある、“BLACK SABBATHのいいとこ採り+『NO MORE TEARS』(1991年)以降の王道ハードロック”路線を踏襲した楽曲ばかり。例えば、アイオミ参加の「No Escape From Now」はアレンジ含め完全にサバスを踏襲したものだし、ジェフ・ベックがプレイするタイトルトラックも前作に収録されていても不思議じゃない仕上がり。そんな中、クラプトンがいかにもなプレイを披露する「One Of Those Days」が“サバス meets CREAM”みたいなサイケデリックハードロックで、思わずニヤリとしてしまいます。

かと思えば、ザックが豪快なギタープレイを聴かせてくれる「Parasite」や「Evil Shuffle」はもろにBLACK LABEL SOCIETY経由のオジーサウンドだし、「Mr. Darkness」や「Nothing Feels Right」は良い意味で『NO MORE TEARS』以降を思わせるコラボレーションといった印象。さすが息が合っていると言いますか、痒いところに手が届く仕上がりです。

個人的には、マイク・マクレディ参加の「Immortal」が曲調/メロディ含め『NO REST FOR THE WICKED』(1988年)〜『NO MORE TEARS』期のオジーっぽかったり、終盤に収められた「Dead And Gone」も『THE ULTIMATE SIN』(1986年)期を彷彿とさせたりと好印象。さらに、ラストを飾る2分程度のスローブルース「Darkside Blues」もお遊び以上の魅力があり、非常に気に入っています。

前作に存在したピアノバラードなどスローナンバー皆無、全13曲で60分強と非常にボリューミーな内容で、消化するまでに少々時間を要する作品ですが、個人的には今作って前作『ORDINARY MAN』と対で存在することで成立する1枚なのかなという気がしています。これ1枚だけで評価するとミスリーディングしてしまいそうだけど、『ORDINARY MAN』から地続きの連作として捉えると初めて見えてくるものがある。そんな意味深な良作ではないでしょうか。

 


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2022年7月12日 (火)

DEREK SHERINIAN『VORTEX』(2022)

2022年7月1日にリリースされたデレク・シェリニアンの9thソロアルバム。日本盤は同年6月29日先行発売。

前作『THE PHOENIX』(2020年)から約1年10ヶ月という比較的短いスパンで届けられた今作。その前が『OCEANA』(2011年)から9年と考えると、これもコロナ禍がもたらしたひとつの良い点と言えるかもしれません。

今作では盟友サイモン・フィリップス(Dr)が共同プロデューサー/ソングライターとして全面参加。ベースはトニー・フランクリンやアーネスト・ティブス、ジミー・ジョンソン、リック・フィエラブラッチ、ジェフ・バーリンといったHR/HM、ジャズ、フュージョン界では名の知れた名手たちが担当しています。

恒例となった多彩なゲストギタリストは今回も豪華の一言で、タイトルトラック「The Vortex」にはスティーヴ・スティーヴンスBILLY IDOL)が“いかにも”なハイパーアクティブプレイを披露。続く「Fire Horse」ではヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)が、彼ならではのファンキーなプレイで耳を惹きつけます。3曲目「Scorpion」はリズム隊+ピアノが織りなすジャジーな世界観で空気を一変するも、シームレスに続く「Seven Seas」では再びスティーヴ・スティーヴンスがプログレッシヴかつスペーシーな演奏&フレーズで、聴く者を圧倒させます。随所にジャジーなフレーズも用意されていますが、そんな中でも自分らしさを一切崩さないスティーヴのギターパフォーマンスはただただ圧巻です。

アルバム折り返し一発目は、スティーヴ・ルカサー(TOTO)&ジョー・ボナマッサ(BLACK COUNTRY COMMUNION)をフィーチャーした「Key Lime Blues」から。2人のギタリストによるユニゾンプレイと、その間を埋めるように弾き倒される個々の“らしい”プレイは、さすがの一言です。そこから、シタールやストリングスを導入したオリエンタルテイストの「Die Kobra」ではマイケル・シェンカーMICHAEL SCHENKER GROUPなど)&ザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNEZAKK SABBATH)という、個性派の2人を投入。スリリングさとドラマチックさが同居したこの曲は、派手さという点でも「The Vortex」や「Seven Seas」に次ぐものがあり、アルバム後半のハイライトと言える1曲ではないでしょうか。その2人のプレイを支えるリズム隊がトニー・フランクリン&サイモン・フィリップスというのも、またメタルファンには堪らないものがありますね。

ジャズ/フュージョン界の巨匠マイク・スターンを迎えた「Nomad's Land」で空気が一変すると、アルバムもいよいよ佳境へ突入したことを窺わせます。この曲の味わい深さは本作随一ではないでしょうか。そして、ラストは11分強におよぶ大作「Aurora Australis」。この曲ではSONS OF APOLLOでの盟友ロン“バンブルフット”サールをフィーチャーしており、プログ・ジャズと言わんばかりの独創性の強い仕上がり。ゲストのロン以上にデレクのピアノ/シンセが主軸となっており、まさに彼の主張がもっとも発揮された1曲ではないでしょうか。この曲でアルバムを締めくくるというのも、納得の一言です。

前作『THE PHOENIX』も非常にバラエティに富んだメンツが集まりましたが、今作もそれに匹敵、あるいはそれ以上と言える人選。前作に存在した歌モノは一切ありませんが、それでも十分満足できるのは、インストながらもソングライティングに相当力が入っているからではないでしょうか。プログメタルファンはもちろんのこと、上記のゲストプレイヤーたちに少しでも興味を持っているリスナーなら間違いなく楽しめる1枚だと思います。

 


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2021年11月28日 (日)

BLACK LABEL SOCIETY『DOOM CREW INC.』(2021)

2021年11月26日にリリースされたBLACK LABEL SOCIETYの11thアルバム。

間にセルフカバーアルバム『SONIC BREW (20TH ANNIVERSARY BLEND 5.99 - 5.19)』(2019年)を挟んだものの、オリジナルスタジオアルバムとしては『GRIMMEST HITS』(2018年)以来3年10ヶ月ぶり。期間的に考えると、コロナ禍で一番大変だった時期を外しているように映りますね。

デビュー20周年を経て初めて届けられる今作は、「1998年の結成時からバンドを支えているツアー・クルー、そして世界中のファンに捧げるもの」(リリース文より)とのこと。レコーディングにはザック・ワイルド(Vo, G, Piano)、ジョン・ディサルヴォ(B)、ジェフ・ファブ(Dr)、ダリオ・ロリーナ(G)というここ数年お馴染みのメンバーで実施しています。『GRIMMEST HITS』や『SONIC BREW (20TH ANNIVERSARY BLEND 5.99 - 5.19)』と同じ布陣ですね。ですが、過去2作はレコーディングではギターパートをすべてザックが担当していたため、ダリオはツアーのみ参加という形でした。ところが、今作ではダリオもレコーディングに参加。その影響か、今作ではツインギターバンドであることを強調するようなプレイやフレーズが随所に散りばめられています。

オープニングを飾る「Set You Free」の“これぞオープニング曲”といったドラマチックな曲構成は、正直BLSにしては品が良すぎないか?と最初に感じました。これは全体を通して言えることですが、今作の楽曲は整合性の強い、完成度の高い楽曲が並んでおり、まるでオジー・オズボーンのアルバムみたい……と感じる瞬間も多い。ぶっちゃけ、来たるオジーの新作から弾かれた曲が多く含まれているんじゃないか?とすら疑ったほどです。そういった点も踏まえ、オジーソロっぽいもの、BLACK SABBATHっぽいもの、そしてBLSらしいもの、そのどれかひとつが突出することなくバランス良くミックスされるとこうなるんだ、というよなアルバムとでも言えばいいんでしょうかね。

曲によってザックのボーカルがダブルでレコーディング(同じように歌ったテイクを重ねてレコーディング)されているものもあり、そこまで含めてオジー的。ただ、ギターソロになった途端に荒れ狂うプレイが飛び込んできて「あ、間違いなくBLSだ(笑)」と安心するんですよね。

あと、先に書いた「ツインギターバンドであることを強調するような」という点ですが、ツインリードやハーモニーを強調したギタープレイが随所に用意されており、このへんはレコーディングをギタリスト2人体制で行ったことによる変化であることは間違いないでしょう。こういったプレイはオジーの作品ではまずないでしょうから、BLSならではといったところでしょうか(といっても、BLS的にも新たな試みなんですが)。同じ布陣で複数のアルバムを制作する機会の少なかった彼らですが、こういった変化も同編成で良好な関係が築けている証拠でしょう。

あと、今作をオジーのソロっぽいと称したもうひとつの理由として、バラードタイプの楽曲が多く含まれていることも挙げられます。M-4「Forever And A Day」にM-8「Love Reign Down」、M-12「Farewell Ballad」と本編のみでも3曲。さらに日本盤はCROWDED HOUSEのカバー「Don't Dream It's Over」とEAGLESのカバー「I Can't Tell You Why」もボーナストラックとして追加され、アコースティックバラード2曲が増えたことでその要素がさらに強まっています。正直、この手のカバーはソロ名義の作品でやればいいのに、と思わずにはいられませんが……良い出来なので目を瞑ります(苦笑)。

個人的には中盤の「Ruins」「Forseke」あたりからいつもの空気が漂い始め、初期サバスを彷彿とさせるダウナー&サイケデリックな「Gospel Of Lies」からラストの「Farewell Ballad」にかけた流れがお気に入り。従来のらしさに新しさが加わった、バンドの明るい未来が想像できる楽曲群&構成ではないでしょうか。そういった意味では本作、20周年を経て次の一歩を歩み始めたBLSにおいて過渡期的1枚なのかもしれません。

……なんてことを数回聴いて書いたものの、あれからさらにリピートしてみたら「やっぱり良い! ザック大好き!」という結果に(笑)。そりゃザックヲタクなんだから仕方ないか。これはこれでアリな1枚です。

 


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2021年5月 2日 (日)

BLACK LABEL SOCIETY『1919 ETERNAL』(2002)

2002年3月5日にリリースされたBLACK LABEL SOCIETYの3rdアルバム。日本盤は同年2月27日に先行発売。

前作『STRONGER THAN DEATH』(2000年)からちょうど2年ぶりに発表された本作は、新たなドラマーとしてクレイグ・ニューネンマッハー(ex. CROWBAR)、新ベーシストにロバート・トゥルヒーヨ(当時オジー・オズボーンのツアーメンバー。のちにMETALLICAに加入)を迎えて制作(ロブは「Demise Of Sanity」「Life, Birth, Blood, Doom」のみでプレイし、それ以外はザック・ワイルドがベースも兼務)。楽曲自体はザックがオジーのアルバム『DOWN TO EARTH』(2001年)のために用意したものが多く含まれており(「Bleed For Me」「Demise Of Sanity」「Life, Birth, Blood, Doom」「Bridge To Cross」など)、これらがオジーから「Too BLACK LABEL(BLSすぎる)」との理由で却下されたため今作で流用されることとなりました。

基本的には過去2作の延長線上にあるものの、まとまりの良さというか“とっつきやすさ“が過去作以上なのはそういった理由も大きいのでしょう。のちのBLSにも通ずる作風がここでひとつ確立された感が伝わります。ですが、全体を覆う(精神的にくる)ダークさは過去2作以上のものがあり、このアンバランスさは非常にクセになるものがあります。

というのも、本作はザックの父親に捧げられたものであり、ジャケットからもわかるように戦争を題材のひとつとして選んでいること(アートワークはオランダで親衛隊募集をかけた際のナチスのプロパガンダポスターを題材にしたもの)、アルバム発売の半年前に“9.11”が発生していることなど、ネガティブな要素が多分に制作に影響を与えており、音圧で聴く者を圧倒させてきた過去2作とはそこが異なるんですよね。本作は音質的に若干クリアになった感があり、そういった点が聴きやすさに影響を与えていますが、そう思いながらアルバムに触れ続けているといつの間にか心にズッシリした重荷を抱えていることに気づくという。かつ、アルバムを締め括る1曲が「America The Beautiful」(アメリカ合衆国の愛国歌)のインストゥルメンタル・バージョンというのも、非常に考えさせられるものがあります。そういった意味での「(精神的にくる)ダークさ、ヘヴィさ」は唯一無二と言えるのではないでしょうか。

「Bleed For Me」や「Demise Of Sanity」「Bridge To Cross」「Graveyard Disciples」あたりはバンドの代表曲と読んでも差し支えない完成度を誇り、それ意外にも「Battering Ram」「Lost Heaven」「Mass Murder Machine」あたりもザックらしさが存分に味わえるはず。BLSの入門編としてはさらに楽曲/サウンドの整合感が増した次作『THE BLESSED HELLRIDE』(2003年)をオススメしますが、その次に聴くなら今作なんじゃないかなという気がしています。初期2作はいろんな意味において破天荒すぎますからね(笑)。

ニューメタル全盛の2002年という時代に、こんなにもヘヴィ&ダークなアルバムでシーンと向き合ったザック・ワイルド。その頑張りは、BLS初のBillboard 200入り(最高149位)という数字にも表れている気がします。

 


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2020年5月 8日 (金)

BLACK LABEL SOCIETY『ORDER OF THE BLACK』(2010)

2010年8月に発表されたBLACK LABEL SOCIETYの8thアルバム。

1999年に1stアルバム『SONIC BREW』をリリースしたことを考えると、10年弱で8枚のアルバムを制作するというのはかなりのハイペースのように映ります。が、前作『SHOT TO HELL』(2006年)からこの『ORDER OF THE BLACK』の間には約4年のインターバルがあり、これはこの時点でのBLSのキャリアでは最長。というのも、ザック・ワイルド(Vo, G)はこの間にオジー・オズボーン『BLACK RAIN』(2007年)制作と同作を携えた長期ツアーに帯同したため、長く時間を割かれてしまったわけですね。

と同時に、2009年には重度の血栓症を患い、音楽活動を一切停止。これによりオジーのもとを離れることとなったわけです。一時は生命の危機もあり得たこの血栓症を無事乗り切ったザックは、再びBLSに本腰を入れることに。2005年にバンドに復帰したジョン・ディサルヴォ(B)と、本作のみ参加のウィル・ハント(Dr/EVANESCENCE)という布陣で今作を完成させます。

本作は久しぶりのBLSということもありますが、よい意味で過去数作のマンネリさを感じさせない力作に仕上がっています。ソングライティング面でもザックの才能/個性が良い方向に作用し、従来のBLSらしさ(BLACK SABBATHをモダン化させたヘヴィ感+サザンロックからの影響+エヴァーグリーンなポップ感)のみならずオジーの『BLACK RAIN』で見せたモダンメタル感もよい形で反映されており、1曲1曲の個性や完成度は近作の中でも随一ではないでしょうか。

オープニング2曲(「Crazy Horse」「Overload」)で見せる“2010年版オジー・サバス”的スタイルといい、キャッチーアップチューン「Parade Of The Dead」、BLS流王道ヘヴィネス「Southern Dissolution」、ザックのセンチメンタリズムが強く表れたピアノバラード「Darkest Days」や「Shallow Grave」など、とにかく楽曲が粒揃い。また、大半が3〜4分台ということで比較的コンパクトなのもあり、全13曲で49分というトータルランニングも聴きやすさにつながっているのではないでしょうか。

また、ザックのシンガーとしての表現力もより向上し、曲によってはオジー生き写しに聞こえることがしばしば。オジーが今30〜40代だったとして、ザックと一緒にモダンヘヴィネスと真正面から向き合ったら、きっとこんなアルバムを作っていたんじゃないか……なんてことすら考えてしまうほど、非常によくできた1枚。これをBLSの最高傑作と呼ぶ声も少なくないようです。事実、長く待たされたことも多少影響してか、本作はキャリア最高の全米4位という数字を残しています。セールス的にも前作の倍以上売り上げたようですし、まずは最高のカムバックを果たせたようです。

ちなみに本作、北米盤と日本盤(というかアジア地区のみ)ではジャケットのアートワークがまったく異なります。個人的には日本盤よりも北米盤のほうがすっきりしていて、非常に好みです。再発の際にはぜひ世界共通にしてほしいですね。

 


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2019年8月15日 (木)

BLACK LABEL SOCIETY『STRONGER THAN DEATH』(2000)

2000年4月にリリースされた、ザック・ワイルド(Vo, G)率いるBLACK LABEL SOCIETYの2ndアルバム。前作『SONIC BREW』は日本では1998年10月発売だったので1年半ぶり、海外では1999年4月リリースなのでほぼ1年ぶりという感覚になります。

レコーディングは前作同様、ドラムをフィル・オンディッチが担当し、それ以外のパートをすべてザックひとりでこなしています。もちろん、この頃にはすでに4人編成でライブを行っていましたが、相変わらずレコーディングでは自分の思い通りに、好き放題やっていたと。そういえば、アルバムジャケットにはバンド名のみならずザック・ワイルドと個人名も入っていますし、まあそういうことなんですよね、結局。

サウンド的には低音を効かせまくったヘヴィ路線と、前作の延長線上にあるもの。とはいえ、前作はプロデューサーを立てているのに生々しさ全開!みたいな豪快さが全面に散りばめられていましたが、本作はザックのセルフプロデュースのせいもあるのか、若干整理されているような印象すら受けます(あくまで前作比での話ですが)。実際、ダウンチューニングで低音がバリバリに効いたヘヴィさの中にも、メロディアスさやキャッチーさが垣間見えますし、その後の進化の予兆みたいなものはすでに表出しているのではないでしょうか。

……なんてこと書きましたが、冒頭3曲のミドルヘヴィ路線(「All For You」「Phoney Smiles & Fake Hellos」「13 Years Of Grief」)はただただ爆音で、無心で楽しみたいところ。この低音がビリビリいう感覚、たまらないですね。

そこからの4曲目「Rust」のダークなバラード路線は、どこかグランジバンドっぽさも感じさせます。抑揚のないメロディに相反し、ギターソロでは感情が壊れたようなプレイが楽しめるこの曲、実はザック流のブルースなんですよね。うん、良き良き。

かと思えば、「Superterrorizer」で再び地を這うようなヘヴィ路線へと回帰。「Counterfeit God」や「Ain't Life Grand」は現代的なBLACK SABBATHと言えなくもないし(特に前者のボーカル・パフォーマンスはどこかオジー・オズボーン的ですし)、ピアノをフィーチャーしたバラード「Just Killing Time」ではそれまでの暴虐性から一変、ひたすら美しい世界が展開されていく。この落差こそが、ザック・ワイルドという男の魅力でもあるんですよね。

ラストは“名は体を表す”という言葉がぴったりなタイトルトラック「Stronger Than Death」と、8分にもおよぶヘヴィブルース「Love Reign Down」で締めくくり。全11曲で50分という内容ですが、かなり濃厚な1枚に仕上がっています。

『暴挙王』という邦題がぴったりな内容ではありますが、同時にザック・ワイルドというアーティストの懐の深さも存分に堪能できる良作でもあると。特に、ギタリスト視点でいろんな発見があるだけではなく、シンガー目線でもザックの表現力が徐々に幅を広げつつあることが伝わってくるはずです。

 


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2019年5月26日 (日)

BLACK LABEL SOCIETY『SONIC BREW (20TH ANNIVERSARY BLEND 5.99 - 5.19)』(2019)

2019年5月にリリースされた、BLACK LABEL SOCIETYのセルフカバーアルバム。デビュー20周年を記念して、20年前の1999年5月にアメリカで発売された1stアルバム『SONIC BREW』を現編成で再レコーディングした内容となっています。

オリジナル盤ではザック・ワイルド(Vo, G, B, Pianoなど)とフィル・オンディッチ(Dr/2000年に脱退)の2人でレコーディングを試みたわけですが、今回のセルフカバー盤ではスタジオ音源をザック(Vo, G, Piano)、ジョン・ディサルヴォ(B)、ジェフ・ファブ(Dr)の3人、ライブ音源をこの3人+ダリオ・ロリーナ(G)という最新オリジナルアルバム『GRIMMEST HITS』(2018年)を制作した現在の布陣で再レコーディングしています。ダリオ、スタジオで弾かせてもらえなくてかわいそう……。

再構成とは言いながらも、基本的なアレンジはオリジナルに忠実。ちょっとしたフレーズが変わっている箇所もありますが、それはこの20年のライブ活動を経て進化したものと受け取ることができるはず。

また、サウンド的には歪なまでに低音の鳴りが激しかったオリジナル盤と比べてかなり整理され、バランスの良いサウンドを楽しむことができます。あの異常なまでに重低音がバリバリ響いてくる麻薬のようなサウンドに長年慣れてしまっていたので、最初は物足りなさを感じたのも事実。

しかし、その代わりにメロディがかなり際立って聴こえるのが新鮮なんですよ、このニューバージョン。前のレビューで「ブルースフィーリングの“ノリ”で構築した歌メロ」なんてことを書きましたが、こうやって聴くと意外と“ノリ”だけじゃないことにも気づかされます。やっぱりザック、ギタリストだけじゃなくてソングライターとしても非凡な存在だったのね。恐れ入りました。

この再録盤最大の聴きどころはそういった新たな気づきがたくさんあることはもちろんですが、再発盤に追加収録されたオジー・オズボーンのカバー「No More Tears」がカットされ(再々レコーディングってことになっちゃいますからね)、代わりに「Black Pearl」と「Spoke In The Wheel」のアンプラグドバージョンを追加(ダリオはこの2曲に参加)。オリジナルバージョンをよりレイドバックさせた「Black Pearl」は渋みを増し、ピアノを軸にリアレンジされた「Spoke In The Wheel」は原曲以上に尊い1曲に生まれ変わっています。これ、どっちも最高っすね。20年の積み重ねがあったからこそ生まれた新バージョンだと思います。

オリジナルの良さは何物にも変えがたいものがあるのは事実。だけど、20年経過したからこそ生み出すことができた本作は、そことも違う魅力がしっかり備わっている。どっちが優れていると言い切ることは一概に難しいけど、純粋に楽しめるという意味では間違いなく“買い”の1枚です。

 


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2019年5月25日 (土)

BLACK LABEL SOCIETY『SONIC BREW』(1999)

1999年5月にリリースされた、ザック・ワイルド(Vo, G)率いるBLACK LABEL SOCIETYのデビューアルバム。本作は日本で前年1998年秋に先行リリースされていますが、アメリカではその日本盤に1曲追加した全14曲入りで正式リリース。が、そのジャケットにクレームが付き、現行のジャケットに変更した形で同年秋に再発売されました。その際に、オジー・オズボーン「No More Tears」の(ある意味)セルフカバーが再追加され、全15曲入りで流通されています。

PRIDE & GLORY、ソロと渡り歩き、その合間にはオジーの『OZZMOSIS』(1995年)のソングライティング&レコーディングに参加(ツアーには参加せず)。紆余曲折あり、ようやくたどり着いたのがこのBLACK LABEL SOCIETYであり、現在まで20年にわたり彼のメインバンドとして活動が継続しています。

レコーディングメンバーはザック(Vo, G, B, Pianoなど)とフィル・オンディッチ(Dr)の2名(再追加された「No More Tears」のみ、ALICE IN CHAINSのマイク・アイネズ(B)がプレイ)。その後、ザック&フィルの2人にニック・カタニース(G)とジョン・ディサルヴォ(B)が加わる形で正式にバンド化します。

基本的にはPRIDE & GLORYで展開した“カントリー・メタル”を進化させたスタイルで、『OZZMOSIS』で聴かせた低音重視のヘヴィなギターサウンドと、ソロ名義でのアコースティック作『BOOK OF SHADOWS』(1996年)での繊細さも含む、ザックという男の“豪快さ&強さ”と“繊細さ&優しさ”が混在したメタルアルバムに仕上がっています。とはいえ、本作では比率的に“豪快さ&強さ”のほうが優っており、“繊細さ&優しさ”は味付け程度といった具合。そのへんのバランスは以降、アルバムごとに変化していくことになります。

とにかくギターとベースの音圧が尋常じゃない(笑)。今でこそスピーカーで処理し切れないほどの低音を出すダンスミュージックやヒップホップは多いですが、そういった低音を効かせたサウンドってメタルの十八番だったはずなんです。それを20年前に、オジーのもとで活躍したギタリストが率先してやっていた事実。忘れてはなりません。

正直、全体的にはポップとは言い難い作風です。実際、分厚い楽器隊の音に耳が行きがちなのですが、意外とメロディはしっかり存在する。けれど、どちらかというとブルースフィーリングで構築された“ノリ”一発のメロディといった印象かな。で、「Beneath The Tree」「Black Pearl」「Spoken In The Wheel」のように音の薄い楽曲で、そのメロディがようやくあらわになるという。まあ、この作品にはこういう“ノリ”一発のメロのほうが合っているんですけどね。

まあ、あれです。「No More Tears」のカバーを聴けば、ザックがこのバンドで何をやりたいのかが一耳瞭然かと。オリジナルのサイケデリックさ、皆無ですからね(笑)。

なお、本作は今年でUSリリース20周年ということで、現メンバーで再レコーディングしたアニバーサリー盤『SONIC BREW (20TH ANNIVERSARY BLEND 5.99 - 5.19)』もリリースされたばかり。こちらについても後日、改めて触れてみたいと思います。

 


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