BLUE MURDER『NOTHIN' BUT TROUBLE』(1993)
日本先行で1993年9月にリリースされたBLUE MURDERの2ndアルバム。海外では翌1994年2月に発売されたようです。前作『BLUE MURDER』(1989年)から4年ぶりに発表された本作は、その間のすったもんだ(カーマイン・アピス&トニー・フランクリンのリズム隊脱退など)を経て、難産の末に完成した1枚です。
プロデューサーは前作でのボブ・ロックからジョン・サイクス(Vo, G)のセルフプロデュースへと変更。とはいえ、ミックスはマイク・フレイザーというボブ・ロックがらみの人選なので、サウンドの質感的には前作の延長線上にあると言えるでしょう。
肝心の楽曲ですが、前作がWHITESNAKEの“サーペンス・アルバス”に対する執念(と言う名の怨念。笑)が前面に出まくった作風だったのに対し、本作はそこだけに固執せず、ジョン・サイクスというアーティストの全キャリアを総括するような楽曲が揃っています。その“全キャリア”というのはプロのギタリストとしてだけではなく、彼が子供の頃に愛したブリティッシュ・ロックまでを包括するもので、ハードロックというジャンルだけでは括りきれないバラエティ豊かなものと言えます。
例えばオープニングを飾る「We All Fall Down」は完全にジョンが参加した末期THIN LIZZYですし、ボーカルの節回しもフィル・ライノットを彷彿とさせるもの。スリリングなアップチューンで冒頭を飾ると、続くSMALL FACESのカバー「Itchycoo Park」では急に牧歌的な雰囲気に。アコースティックギターがメインのこの曲で早くも和んだ空気を作り上げると、3、4曲目はWHITESNAKE時代に得たソングライティング力をフルで発揮させた「Cry For Love」「Runaway」というエモーショナルな楽曲が続く。しかも、これらで1stアルバムでの力みが完全に抜けきった、伸びやかなボーカル&ギターを聴かせてくれるのですから。
以降、「Dance」のようにポップで豪快なハードロックあり、ジョンの代わりにケリー・キーリングが歌うアップチューン「I'm On Fire」、メジャーキーのエモいバラード「Save My Love」、グルーヴィーな「Love Child」、流麗なメロディが印象的な「Shouldn't Have Let You Go」、ダイナミックな大作「I Need An Angel」、トラッドミュージック風の「She Knows」と、さまざまなタイプの楽曲が並び、改めてジョン・サイクスというソングライターの非凡さが体感できる構成となっています。
そういった意味ではアルバムとしてのまとまりは1stアルバムよりも薄いかもしれません。が、シンガーとしても力量が向上し、またギタリストとしてもより深みを増した本作の楽曲群の出来は、明らかに前作よりも上。何を重視するかで本作の対する評価は異なるかもしれませんが、このアルバムがBLUE MURDER名義では事実上最後のスタジオアルバムになったという現実を目の当たりにすると、ジョンの才能はBLUE MURDERという狭い枠の中には収まりきらなかった……ということなのかもしれません。
つまり、ここでようやくWHITESNAKEに対する“復讐”は終わったんじゃないかなと。以降もデヴィッド・カヴァーデイルに対する不平不満を口にし続けるジョンですが、実はこのアルバムでけじめはつけていた。そんな気がしてなりません。
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