Boris『NO』(2020)
2020年7月初頭、Bandcamp限定で配信リリースされたBorisのニューアルバム。2021年8月27日からその他のデジタルリリースおよびストリーミング配信開始。
もはや通算何作目かすらわからないほど、常に多作振りを発揮するBoris。ここ1年を振り返っても、昨年6月に異色のポップネスを発揮したEP『tears e.p』、10月には2年振りのフルアルバム『"LφVE" & "EVφL"』をリリース。さらに年末には2011年に制作されていた未発表アルバム『1985』のアナログ盤限定発売もあり、正直その活動を追いきれないほど(苦笑)。
そんな中届けられた本作は、昨年から今年2月にかけて実施されたツアーを経て、世界的な自粛期間中に完全自主制作にて完成までこぎつけた、ある意味イレギュラーな1枚。アップテンポの楽曲は皆無でドローンやアンビエントと表現するにふさわしかった『DEAR』(2017年)、さらにアンビエント色を強めた実験色の強い『"LφVE" & "EVφL"』を経て、この『NO』という作品ではいろいろな装飾を剥ぎ取った生々しさが際立つ、粗暴でアグレッシヴ&ヘヴィな1枚に仕上がっています。
『DEAR』にあったメタリックさをそのままに、ミディアムテンポよりも疾走感あふれるアッパーさが印象に残る作風は、(このバンドに何を求めるかによって評価は変わるかもしれませんが)個人的にはもっともBorisに求める要素が色濃く表れた内容と言えるでしょう。オープニングの「Genesis」こそドローン・テイストが強いものの、続く「Anti-Gone」以降はオールドスクールな疾走ハードロックが立て続けに配置されており、全11曲40分という彼らにしては「ボリューミーなのに短い」トータルランニング含め非常に充実度の高い1枚に仕上がっています。
ただし、ここで展開されている“ハードロック”は我々HR/HMリスナーが認識するハードロックとはちょっとズレるものなのかな、とも思うわけで。70年代のその手のバンドをルーツにしながらも、90年代のオルタナ/グランジ経由のハード&ヘヴィなバンドを血肉に成長したものが、ここで鳴らされている“ハードロック”なんだろうなと思うのです。そういう意味では、“村外”の方々がイメージするハードロックにもっとも近いサウンドがこれなのかなと。
だからといって、従来のHR/HMリスナーが楽しめない内容ではまったくありませんし、むしろ90年代のオルタナ化したシーンを通過したリスナーなら存分に満足してもらえるはず。逆に、直近のドローン/ドリームポップ的な作風が苦手だった人でも、本作は素直に楽しめるのではないでしょうか。ここ数作も大好きだったけど、これはもっと好きな1枚。ぜひ生で、爆音にて楽しみたい楽曲たちです。
▼Boris『NO』
(bandcamp:MP3)