LOCK UP『THE DREGS OF HADES』(2021)
2021年11月26日にリリースされたLOCK UPの5thアルバム。
4thアルバム『DEMONIZATION』(2017年)から4年8ヶ月ぶりの新作。2ndアルバム『HATE BREEDS SUFFERING』(2002年)から参加したトーマス・リンドバーグ(Vo/AT THE GATES、THE LURKING FEAR)に代わり、元BRUTAL TRUTHのケヴィン・シャープ(Vo)が加わり話題となりました。その後、オリジナルドラマーのニック・パーカーが2020年に脱退。その後釜としてアダム・ジャービス(MISERY INDEX、PIG DESTROYER)が加入したまではよかったのですが、2021年に入ってからトーマスがバンドに復帰したことがアナウンスされました。ケヴィンの脱退などは一切発表されていないことから、今後LOCK UPはトーマス&ケヴィン、シェン・エンバリー(B/NAPALM DEATH)、アントン・レイセネッガー(G/CRIMINAL)、そしてアダムという5人編成/ツインボーカル体制で活動していくことになりました。
新編成で初となる本作は、コロナ禍という特殊な環境下、かつメンバー全員が異なる地域に住んでいることもあり(シェーンはイギリス、ケヴィンは米・アトランタ、アダムは米・バルチモア、トーマスはスウェーデン、アントンがチリ)、すべてリモートでレコーディングされたとのこと。また、プロデューサーには『HATE BREEDS SUFFERING』以降の作品に名を連ねてきたラス・ラッセル(AT THE GATES、THE HAUNTED、NAPALM DEATHなど)が外れ、セバ・プエンテ(NUCLEARのギタリスト)がミックス&マスタリングを含めた作業に携わったそうです。Dropboxにアップされた曲の断片にどんどん肉付けされていった音源をまとめていく作業は、相当苦労したことでしょう。
しかし、完成した作品はまごうことなきLOCK UPの音で、リモートで作ったからといったチグハグさは皆無。冒頭のおどろおどろしいイントロダクション「Death Itself, Brother Of Sleep」にこそ驚かされますが、続く「Hell Will Plague The Ruins」以降の展開は王道のデスメタル/グラインドコアそのものです。ほぼ全編2分前後のショートチューンで構築されており、ブルータルに疾走したかと思えば、重く引きずるようなミドルナンバーも存在する。ブラストビートを多用したアダムのドラミングもさすがですし、何よりトーマス&ケヴィンのツインボーカル……まさかグラインドコアでツインボーカルを楽しめる日が来るとは、誰も想像していなかったのではないでしょうか。
高めの音域中心のトーマスと、低音で豪快な咆哮という印象のケヴィン、それぞれがそれぞれのパートを歌い分けると同時に、同じフレーズをツインで歌う(叫ぶ)パートも多数存在し、その凶悪さなハーモニー(笑)からはなんとも言葉にするのが難しい爽快感が伝わります。M-4「Black Illumination」なんて、冒頭のギター&ベースのノイズからして最高だし、その後のリフワークや2人の叫びの気持ちよさ、アッパーからスローへとテンポチェンジする構成など、ずっと浸っていたいと思わされる要素が満載です。
かと思えば、アルバム本編を締め括るM-14「Crucifixion Of Destorted Existence」は、6分以上におよぶ“冥界(=Hades)からの断末魔”のようで、スピード中心で突っ走ってきた本作を締め括るに最適な抒情詩。全14曲で40分がちょっと欠けるくらいのトータルランニングは、彼らにしては比較的長いほうだと思いますが、最強の5人で臨んだ充実ぶりが伝わるボリューム感ではないでしょうか。
日本盤には、今年6月にアナログ再発されたライブアルバム『PLAY FAST OR DIE: LIVE IN JAPAN』(2005年)に付属されたボーナスEP『INSIDE CTHULHU'S EYE』収録の3曲を、ボーナストラックとして追加。『THE DREGS OF HADES』と同時期に制作された楽曲群のようで、どれも本編に含まれていたとしても違和感のないものばかり。タイミング的にも、アルバム本編への肩慣らしとして録音された3曲かもしれませんね。なお、M-17「Radiation Sickness」はグラインドコアの始祖のひとつ、REPULSIONのカバー。
レコーディングのみならず、トーマスはライブにも参加してケヴィンとのツインボーカル体制を続けていくとのこと。この夏にAT THE GATESで新作『THE NIGHTMARE OF BEING』(2021年)を発表し、本作の1週間前にはTHE LURKING FEARの2ndアルバム『DEATH, MADNESS, HORROR, DECAY』(2021年)もリリースしたばかり。思うようにライブやツアーが行えなかったタイミングとはいえ、ここまで中心バンドの新作(しかもどれも良作)が続くと、2022年以降のツアーが心配になってきます……(苦笑)。
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